萌え声クソザコ装者の話【and after】 作:ゆめうつろ
『詩織くん!待て!奴らの狙いは君のエネルギーだ!君を使って「神の力」を呼び出そうとしている!』
「知っています司令、その上で奴らの企みは打ち砕きます」
次々と召喚されるアルカノイズの群れを焼き払いながら詩織は着実に儀式の「祭壇」たる神社へと近づいていく。
既に視界にはアダム・ヴァイスハウプトとサンジェルマン、そしてティキを捉えている。
『だとしても響くん達の到着をッ!』
「私を「生贄」として神の力を呼び出す「扉」を開く計画だろうとは既に聞いています「遮断作戦」は、既に可決されていますでしょう?」
感情の起伏すら感じさせない、淡々とした会話。
そしてシンフォギアを励起させる為の「歌」も、まるで心を感じさせない。
『ギア出力上昇!今すぐ戦闘を離脱してください!あきらかに異常です!』
「私がおかしいのは、いつものことです。問題ありません、戦闘を継続」
藤尭の制止も無視して詩織は全方位から迫るノイズを迎え討つ、放たれた炎の余波による周囲への被害もまるで考えずに。
『馬鹿2号!!なにやってんだよ!』
守る事さえ忘れ、目の前の敵を破壊する事だけを続ける詩織にクリスが呼びかける、だがその声は届かない。
「――守るべきものさえ見失ったのかい、驚いたよ」
既に詩織の意識は目の前に現れたアダムに向いていたからだ。
「あなたがたの計画を破壊しに来ました、命令です」
「おやおや……困るよそれは!」
アダムの帽子は武器だ、回転して飛来するそれはまるで丸鋸の様にあらゆるものを切断する。
防御した詩織の腕のプロテクターに浅くない切れ目が入った。
「排除します」
「人形だよ、まるでッ!!」
まるで動じない詩織にアダムが不快感を感じる、それは彼の生まれと境遇に由来するものだったが。
それよりもアダムでさえ正面から戦えば「火力負け」する程のエネルギーを、「今の加賀美詩織」が秘めている事が彼にはわかってしまったからだ。
「させてもらうよ!大人しくね!」
戻ってきた帽子を再び投げるが、これではいつまで経っても目的は達せられない。
「予備プラン」の為にも「魔力」を使う事も出来れば避けたい。
故に持ってきたのだ、他にも武器を。
錬金術によって作られた「剣」を。
それは刺したものを「呪い」により身動きできなくさせるものだった、だが。
「排除手順「丙」を実行」
詩織の体が太陽の如く高熱を発する、アダム自身は問題なく耐えられたが「剣」はそうではなかった。
「使えないじゃないか!これじゃあ!」
見事に溶融して蒸発する剣を投げ捨て、アダムは悪態をつきながら詩織の頬を強く殴る。
しかし、少し怯むだけで詩織はまるで動じない。
それどころかアダムの右腕を掴み、焼き払わんと放熱を続けている。
「熱い女だよ!まったくもってね!」
「局長!」
流石に接触してのそれは堪えた、白い服が段々と燃えてきたがサンジェルマンの銃撃により詩織が大きく怯んだ隙にアダムは拘束を解く。
「後少しで焼かれるところだった、助かったよサンジェルマン」
「まさかあなたを圧す程の化け物になるとは、どうするのですか」
「やるしかないさ、もう「術式」の用意はできたのだろう?」
「……はい、しかし……」
「無駄にはしないさ、犠牲も費やしてきた信念も」
光の柱が天と地を繋ぐ、その間にティキが浮かぶ。
最初からアダムが出張ったのはこれが理由だった。
今の加賀美詩織を叩きのめして生贄にするにはあまりに手がかかりすぎる。
そんな時間と余裕はない、故に強引にでも儀式を行ってエネルギーを奪う。
サンジェルマンがその為の術式を用意する時間が必要だったのだ。
「……わかっています……!神の力で人類を支配から解き放つ、それが私の使命!」
天と地、鏡写しのオリオン座が呼応してレイポイントが光を放つ。
「起動」だけはサンジェルマン自身の命を多少消費しなければならない。
「行くとしよう!神の力を取りに!」
状況を判断する為に浮いていた詩織向けてアダムが攻勢をかける。
武器に頼らない純粋な「力」によるぶつかり合い、そこでは腐っても「完璧」だったアダムが制した。
詩織の体を掴み、祭壇となる神社の石畳に詩織をたたきつけ、押さえつけた。
「――――」
起動した術式が詩織からエネルギーを奪い、レイラインを繋げて「門」を開く。
「この手に!神の力を!」
そしてその真上で天地を繋ぐ柱のティキに光が流れ込んで――
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その光景はS.O.N.G.本部からも見えていた。
既に「プレラーティ」と共に4人の装者達が向かっていたが、間に合わないと作戦を決行するための鍵を弦十郎と八紘が手にした。
「レイライン遮断作――」
同タイミングで「決議」を行う為の宣言をして、鍵を回す。
だが、それに待ったが掛けられた。
『何故ここで否決!?』
「どういうことだ兄貴!?」
パヴァリア光明結社およびアダム・ヴァイスハウプトの野望を打ち砕く為の切り札は、突然に叩き落とされた。
『――どうもこうもあるものか、せっかくの神の力……我々が手にせねば勿体無い』
鎌倉からの通信、それは訃堂の手引きであった。
「既に儀式は行われ――」
『そう、行われておる。だが「神代」はあの人形ではない』
モニターに映るのは天と地を繋ぐ光に流れ込むレイラインのエネルギー、そして力の寄り代となる。
加賀美詩織の姿だった。
「詩織くん……だとォッ!?」
『見るがよい、最強の「国防兵器」の誕生を!!』
訃堂が狂気を孕んだ笑いを浮かべた。
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「こんなことが……こんなことがあるというのか!?」
光はティキではなく、生贄であるはずの詩織に降り注いだ。
「なりえない!ありえないッ!!原罪を持たぬ人間などいない筈だ!!」
サンジェルマンとアダムが驚愕の表情を浮かべる、神の寄り代となるのはティキのはずだった。
それは間違えようのない事実だった。
だがそうではなかった。
「違う!原罪ではない!あの「術式」だ!加賀美詩織の体の術式……あれだ!」
サンジェルマンが気付いたのは光を纏いながらも輝く黒い闇で詩織の体に描かれた模様。
「風鳴訃堂……!嘗めていたよ!正直にね!」
アダムは何度目かわからない悪態をつき、天を目指す。
「予備プラン」だ。
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「月読神社に伝わる神の門の伝承、それはつまりかつて誰かが「開こうとした」ということ。それが道理であろう?」
『だとしてッ!何故彼女を寄り代と!?それにあの様子は普通ではッ!?」
「ふん、お前達が不甲斐無いから奴が背負う。それだけのことよ」
弦十郎との通信を切り、訃堂は「神の光臨」へと視線を移す。
全てはそういう計画であった。
神の力の横取り、アダム・ヴァイスハウプトの計画の背乗り。
卑怯といわれようと最後に勝てばそれでよい。
その為に加賀美詩織に神代としての刻印を刻み、「洗脳」を施した。
全ては国防の為、この日本という国を守る為。
「さあ、いよいよ現れるぞ。神が」
訃堂は年甲斐もなく、昂ぶる気持ちを抑え切れなかった。
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「局長……!これはどういう!」
「手段は問わない、僕も払うべきものを払うのさ」
天に輝く「オリオン座」を門とし、もう一度ティキに向けて神の力を降ろす。
黄金練成以上の魔力を消費し、アダムは力ずくで門を開いた。
大地から得たエネルギーで「神」へと至ろうとする詩織に対抗するにはもはや、ティキに神の力を宿すしかない。
「ならばこれまでの私達のしてきた事は!」
「無駄ではなかった!無駄には僕もしたくはないさ!力はあるだけいい、だから天地の門両方から得たかったが!ないのさ!他の方法は!」
二つの光の柱、詩織とティキが同時に輝きを放つ。
「勝負といこうじゃないか!どちらの神が強いか!」
世界を塗りつぶす程の光が収まったそこには、赤と紫の二体の巨人が居た。
赤は加賀美詩織だったもの「ロード・フェニックス」
紫はティキだったもの「ディバイン・ウェポン」
二体の神が地に降りた。
生き残るのは……