戦術人形は電気イタチの夢を見るか   作:缶コーヒー

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シリアス回その三。
神妃を騙るモノ。夜闇に踊る。

あと、本編とは全く関係ありませんが、我、唐突に気付く。
PTRDとM37を並べて編成したら、下半球と上半球が揃い、大きな大きな恥球になると!
……いや。それだけなんですけどね。うん。


First step For the Failed Chapter3

 太陽が地平へと沈み、空は紫色から藍青色、そして漆黒へと変化していた。

 ちょっとした丘の下に停車する装甲車を降り、偵察用ドローンを先行させると、進行方向に鬱蒼とした森林が広がっているのが確認できる。

 元は林業試験場として利用されていたというが、人間の手を離れた後、間伐も行われないままに、ただ森が拡大してしまったらしい。

 

 

「嫌な感じね」

 

「待ち伏せには打ってつけ、か。45姉、気をつけよう」

 

 

 45が眉を寄せながらダミーと共に荷物を降ろし、ナインは追従しつつ、周辺警戒に全霊を注ごうと気を引き締めた。

 森は視線が通らず、足場の悪さで進みが遅くなるだけでなく、上からの奇襲も容易なため、いつも以上に注意する必要があるからだ。

 続いてG11、416とクライアントも車から離れ、それを確認したティスが声を掛ける。

 

 

「では、ティスは秘密兵器なので、誰かに見つからないよう華麗に去ります。目標を達成したら連絡を。迎えに来ます」

 

『ああ、頼む』

 

「……皆さん。気をつけて」

 

 

 そう言い残し、再び装甲車を走らせるティス。

 クライアントが見送る側で、404小隊の面々は降ろした荷物──暗視装置や予備弾薬、外骨格、各種グレネードなどを確認。慣れた手付きで装備していく。

 G11だけは面倒くさがり、416が無理やり暗視ゴーグルなどを被せている有り様だが、そんな中で、彼女はクライアントを見ないまま口を開いた。

 

 

「本当に着いてくるつもり? 監視したいんでしょうけど、守って貰えると思っているなら、それは御門違いよ」

 

『心配は無用だ。T-Petやドローンで実戦のサポートをした事もある。それに、HGタイプの戦術人形が居ない今、情報収集に特化した補助は不可欠なはずだろう?』

 

「……ふん。一理あるわね。言ったからには役に立って頂戴」

 

『勿論だ』

 

 

 戦術人形には、生体部品と機械部品の両方が使用されているが、最初から戦闘を想定して製造された人形でない限り、視覚や聴覚に特別な機能は付与されていない。闇は見通せず、赤外線や紫外線も視認できない。

 そのため、夜間戦闘には暗視ゴーグルやレーザーサイトなどが必要になるし、最も欠かせないのはHGタイプの戦術人形だ。

 使用する事を許された武器が拳銃に限定されている代わりに、彼女達は他の戦術人形よりも多くの携行品を持つ権限があり、この中には広域通信規格……ジーナ・プロトコルを使用する際の信号増幅機器も含まれている。

 これを利用し、より遠くの部隊と連絡を取る事が可能なだけでなく、ごく狭い範囲に限り、周辺に存在する機械の発生させる電磁場を検出。その位置を推測する事で、索敵も可能なのだ。専用の走査機器には劣るが、居ると居ないではまるで違う。

 

 クライアントのT-Petは、そんなHGタイプの代理を務められる性能があり、その必要性を理解しているからこそ、416もそれ以上は言わず、自身の準備を整える。

 やがて、小隊はダミーを含めて完全武装を済ませ、クライアントを肩に乗せた45、ナインを先頭に、G11、416の順で進み始めた。

 腐葉土を踏み締めると、時折、紛れた小枝の折れる音が鳴る。

 細心の注意を払っても、不意に擦れる枝葉がざわめき、緊張を強いた。

 

 

「それで?」

 

『……なんだ、45』

 

「さっきの続き。第二の原因って?」

 

 

 それでもマイペースを崩さない45が、中断されてしまっていた話の続きを求める。

 輸送ヘリが墜落した、もう一つの理由。

 こんな時にする話でもないとクライアントは思ったが、45の声音は思いのほか真剣で、仕方なく話し始めた。

 

 

『裏切られたんだ』

 

 

 T-Petから聞こえる青年の声が、月明かりの届かない暗い森で、やけに響く。

 

 

『輸送ヘリを操縦していた戦術人形は、対立する側に雇われた二重スパイで、輸送物の奪取を本来の目的としていた。抵抗した戦術人形が、ギリギリまでログを送信してくれたから判明した』

 

「……なるほど。監視を付けたがるわけね」

 

 

 416が眼を細め、口元に皮肉めいた笑みを浮かべる。

 擬似感情モジュールによって人間のように振る舞う自律人形は、しかしやはり人形であり、基本的に人間からの命令には逆らえない。

 歌えと言われれば歌い、踊れと言われれば踊り、潜入工作を行えと言われれば、能力の及ぶ限り行う。それが自律人形。ひいては戦術人形なのだ。

 軍部で繰り広げられた策謀である事を考えると、その戦術人形は高性能な戦闘用──SSD-62G型の可能性が高いだろう。

 その処理能力を用いて巧みに周囲を欺き、目的を達成するため、最高最悪のタイミングで裏切る。その人形の擬似感情モジュールが、どのような反応を示していようとも。

 

 

「という事は、その裏切り者が輸送物を守っている可能性もあるの?」

 

『いいや。きっと墜落の衝撃で死──破壊されている。機能を保っていたとしても、障害にはならないだろう』

 

「そっか」

 

 

 ナインからの問いに、クライアントは一度言葉に詰まるものの、以降は淀みなく答える。

 裏切った戦術人形がもう機能停止しているなら、横槍が入る可能性は少なく、いい事であるはずなのだが、素っ気なく結ばれた言葉尻は、どこか寂しげな雰囲気を漂わせる。

 裏切りを強いられた戦術人形への憐憫か、戦術人形を死んだと言おうとして訂正した、人の良過ぎるクライアントへの同情か。きっと彼女自身、分かっていない。

 対して、416とG11は特に気にしていないらしく、これから出会うであろう敵を警戒している。

 

 

「出てくるとしたらヘリを墜とした鉄血か、その裏切り者を潜り込ませた陣営か、でしょうね。見つからないに越した事はないわ」

 

「だね。もし見つかったら戦わなきゃいけないから、面倒だし」

 

 

 それきり会話は途切れ、404小隊は無言で進む。

 木の影に隠れたり、藪を見通すためにクライアントが枝を登ったり、互いの死角をカバーし合いつつ、大まかな予想墜落地点へと近づいて行く。

 が、30分ほど経過した頃、不意にクライアントが樹上から皆を呼び止めた。

 

 

『待て』

 

「何か見つけた?」

 

『銃声だ、消音器を使用している。10時の方向、距離350』

 

「よく分かるね、そんな距離で」

 

『見た目は三毛猫だが、ハイエンドモデルだからな』

 

 

 問い返す45の傍らへ飛び降りると、ナインは感心した様子で言う。

 消音器を使用した銃声を、木が乱立して音を阻む中で聞きつけるのは、流石に戦術人形でも難しいのだ。

 音のしている方向は目的の方角と一致している。

 戦闘が発生していると判断した45は、まず偵察をするべきだと判断。周辺の手頃な高台を指差す。

 

 

「あの高台へ向かうわ。G11、一緒に来て」

 

「えぇ……なんでぇ……」

 

「なんでも何も、貴方はスナイパーでしょ。クライアントさんは来る?」

 

『行こう。こいつの眼は観測機にもなる』

 

 

 愚図るG11だったが、渋々と45の指示に従う。

 416とナインは近辺に隠れ、二体(正確にはダミーも含めて四体)と一匹が足音を忍ばせて高台を登る。

 程なく頂上に辿り着き、匍匐でその突端まで移動。ゴーグルを外し、暗視機能付きの双眼鏡で覗く。

 すると、クライアントの言った通り、遠方の木の間で蠢く人影が辛うじて見えた。

 かなり派手に銃撃戦を繰り広げているようで、爆発音や閃光まで届き始めている。416やナインにも聞こえているだろう。

 

 

「ねぇ、あれって」

 

「ええ。人間の部隊ね。G&K以外のPMCか、あるいは……」

 

 

 武装と背格好から、45は彼等が戦術人形ではないと断定する。

 種類までは判別できないが、ほとんどが同じ形状のARを使用し、体格的に男性であると思われたからだ。

 I.O.P.社が製造する人形は基本的に女性型に限られ、G&Kではそんな戦術人形で部隊を編成するが、他のPMCでは未だ人間が“主力商品”であり、多くは男性である。

 故に他社PMCであると考えられるのだが……そうでない場合、輸送を計画した軍部が送り込んだ軍人という、面倒な可能性も出てくる。

 

 

「何かと交戦してる? でも一体、何と……?」

 

「トンでもない奴だっていう事だけは分かるわね」

 

 

 ひとまず観察を続けるが、彼等は尋常ではない火力で“何か”に応戦していた。

 ARはもちろん、グレネードランチャー、対物RF、手榴弾まで使っているらしい。爆発音と閃光はこれが原因か。

 相手が鉄血だとしたら、最低でもフラッグシップ機。最悪の場合、未知のハイエンドモデルと戦っているのかも知れない。

 それ程の必死さを感じさせる戦いぶりだ。

 

 

「さて。クライアントさん、どうする?」

 

『……? なぜ聞く。この小隊の指揮官は君だろう』

 

「まぁ、そうなんだけど。クライアントさんだったら、こういう場合どうするのかなって」

 

 

 周辺の警戒をダミーで行いながら、45は世間話のような気楽さで問い掛ける。

 クライアントにも、同じ光景が見えているはず。彼と同じ人間が、生き延びようと懸命に戦っている姿が。

 

 

『何もしない。見捨てる。彼等を助けても、何一つメリットは無いからな』

 

 

 しかし、クライアントは非情にも思える答えを返した。

 所属の不確かな、重武装の人間を助けた所で、感謝されながら背中を撃たれるという事態も起こりかねないのだ。リスクを考えれば当然の選択だった。

 45も同じ選択を選ぼうとしていたのか、彼の意見に素直に頷く。

 

 

「妥当な判断ね。それより、敵の正体を見極めましょう」

 

「……うん。どんな武器を使ってるか位は分かるはず」

 

 

 意見を一致させた二体と一匹は、彼等の戦いを見守る。

 しばらくは人間側の苛烈な攻撃が続き、その相手は見る事が叶わなかったが、ややあって、手榴弾の爆発とは違う、青白い発光現象が起こる。人間達とは離れた場所だ。

 直後、金切り声のような轟音が響き、人間が、遮蔽物として使っていた太い木ごと吹き飛んだ。

 

 

「冗談、だよね。人が木の葉みたく飛んでくんだけど?」

 

「あの発光……。普通の光学兵器とは違うわ。恐らく、電磁加速銃(レールガン)の類いね」

 

「け、携行型レールガンってこと? そんなの持ってるヤツ相手にできないよぅ!」

 

 

 45の冷静な分析に、G11がひどく狼狽えた。

 現代において、銃火器の規制レベルはとても厳しくなっており、光学兵器などの先進技術を使用した武器──レーザーライフルや粒子兵装は、軍部に属する者しか所持を許されない。

 レールガンもこれに含まれ、通常は超大型の車載兵器として運用される。

 近代兵器としては比較的ありふれていて、わざわざヘリで秘密裏に輸送するとは考え辛いが、携行武器サイズまでダウンサイジングした新型だとすれば、納得がいく。

 そして、それを何者かが先に奪取。人間達に対して使用している?

 直撃すれば確実に即死……いや、掠っただけで腕を捥ぎ取られる事だってあるだろう。

 G11の泣き言も仕方ない最悪の事態だが、クライアントは少々違った理由から焦っていた。

 

 

『まさか……起動させたのかっ!? ナイン達の所へ戻ろう、このままでは危険だ!』

 

「クライアントさん?」

 

『説明はするっ、とにかく急げ!』

 

 

 腑に落ちない部分もあったが、彼の声は切羽詰まったものであり、45とG11はとりあえず従う。

 大急ぎで高台を降りると、ナイン達も不穏な気配を感じ取っているようだった。

 

 

「あ、戻って来た!」

 

「ちょっと45、あの音はなんなの? だんだん近づいて来てるわよっ」

 

『それより隠れろ! そこの大木の裏だ!』

 

「なんで貴方が命令してるのよ!」

 

「416。良いから従って」

 

 

 周辺にある中でも、特に幹の太い木へと皆が隠れる。

 その間ですら奇妙な金切り声は続いており、次第に人間の悲鳴まで聞こえてきた。

 

 

「それで、クライアントさん。情報持ってる?」

 

『G11の言った通り、携行型レールガンだ。アルミ製の弾丸を撃ち出し、鉄筋にすら穴を開けられる』

 

「嘘……。じ、じゃあ、ヘリが運んでいた物って?」

 

『いいやナイン、違う。あれは“ヤツ”の固有兵装の一つに過ぎない』

 

「固有兵装? “ヤツ”? 一体、何を隠してるの? 言いなさい!」

 

『すぐに知る事になる』

 

 

 クライアントへと詰め寄る416だったが、彼女もすぐに気付く。あの金切り声が止んでいると。

 木を回りこみ、恐る恐る様子を伺えば、“何か”が木々を薙ぎ倒しつつ、近づいてくるのが分かった。

 すでにこちらの存在を把握しているらしい。

 

 

『あれが、自律戦闘が可能な支援AIと人工筋肉を有する、全環境型・対人戦闘用強化外装骨格』

 

 

 黒い装甲。三対の腕。逆関節の脚。

 青白く帯電するその大きな影の名を、416の傍らに座るクライアントが呼ぶ。

 

 

『開発コードネーム、トリディーヴィーだ』

 

 

 トリディーヴィー。

 ヒンドゥー教の主神とされるブラフマー、ヴィシュヌ、シヴァの三神を、一柱の存在の側面であるとする教義がトリムールティーと呼ばれ、この三神の妻とされるサラスヴァティー、ラクシュミー、パールヴァティーを、同様にトリディーヴィーと呼ぶ場合がある。これが由来だろう。

 人間を二周り大きくしたようなその外装骨格は、人間の形からは逸脱していた。

 六つのカメラレンズがある頭部は縦に細長く、背中に中型のコンテナを背負い、通常の腕の他にも、やや細めのマニピュレーターアームらしき物が二対。脚先の逆関節部は、垂直に5~6mもの跳躍を可能とする機構だ。

 右腕には何やらゴテゴテとした筒状の武器を構え、左腕には近接用武器の槍を持っている。恐らく、右腕の物がレールガンか。

 

 まだ404小隊の正確な居場所までは判明していないようで、やや開けた場所で立ち止まり、月明かりの中、異常を検知しようとカメラが明滅している。

 が、だからと言って安心など出来るはずもない。416が思わず小声で毒づく。

 

 

「対人戦闘用ですって……!? 軍部の連中は何を考えてるのっ!」

 

『次の戦争の事だろうさ。どうあっても人間は、他の人間を殺したくて仕方ないんだ』

 

「黄昏てる場合じゃないよっ、私達の武器じゃ絶対に倒せないよ!?」

 

「かか、帰ろう? あれが輸送してた物なら、もう場所はマークしたんだし、帰って大丈夫でしょ? でしょ?」

 

「逃がしてくれれば、ね」

 

「う、うぅう……っ」

 

 

 クライアントに突っ込むナインの横で、G11が撤退を進言した。

 しかし45は無情な現実を突きつけ、その顔を引きつらせる。今にも泣き出しそうだ。

 

 

「クライアントさん。何か方策は?」

 

『ある。トリディーヴィーのスペックが仕様通りなら、つけ入る隙はある』

 

「聞かせて」

 

 

 現状の打開策を求め、45がクライアントへ話を振ると、どうやら現状も想定の範囲内ではあるらしく、すぐに返答があった。

 

 

『第一に、ヤツの名前は三女神から取ったもので、三機の同時運用を前提に作られている。

 一機でも相当な戦力だが、万能ではない。搭乗可能な人間も限定されているし、現在は無人だ。

 搭載された支援AIは、自身が孤立している状態なのを理解しているだろう。

 補給が望めない今、戦闘行動は省エネルギーモードで行うはず。

 つまり、敵勢力の脅威度が低い場合はレールガンは使わず、通常兵器での攻撃が主体となる』

 

「なるほど。あの部隊ならいざ知らず、私達なら瞬殺される可能性は低いという訳ね。でも、それだけじゃ生き延びられないわよ」

 

『ああ。鍵はヤツのAIと、支給したグレネードだ。今からプランを話す』

 

 

 レールガンで撃たれて燃える木の音も、風に揺れる葉の騒めきも、いつまでトリディーヴィーを誤魔化してくれるか分からない。

 クライアントは簡潔にスペックと行動プランを話し、皆が顔を見合わせる。

 

 

「45姉、これなら」

 

「ええ。行けるかもね」

 

「逃げちゃダメなのぉ……? あたし、怖いぃ……」

 

「しっかりしなさい、G11。ここを切り抜けなきゃ、もうラムレーズンアイスも食べられなくなるわよ」

 

 

 どうやら彼のプランに活路を見出したらしく、各々が武器を確かめ、励まし合い、戦いに備える。

 だがそんな時、45のブーツにトンと軽い感触が。

 クライアントの小さな肉球付きの手が乗せられていた。

 

 

「なに、クライアントさん」

 

『首輪の後ろを探ってくれるか』

 

 

 なんだろうと思いはしたけれど、言われるがまま首輪の内側へ指を滑らせる。

 すると、指の爪ほどの、小さなメモリーカードが見つかった。

 

 

「……これは?」

 

『後で内容を確認してくれ。必要になるかも知れない』

 

 

 それきり彼は何も言わず、45も懐にカードを仕舞い込む。

 しかして、数秒後。

 彼女の投げた発煙手榴弾を皮切りに、戦闘が始まった。

 

 トリディーヴィーは即座に反応し、マニピュレーターアームでコンテナからヘビーマシンガン(HMG)を取り出す。

 レールガンと持ち替え、アームにはバッテリーと思しき物を交換させ、コンテナへと収納させている。

 目標を見つけられず、撃ちあぐねいているトリディーヴィーだったが、不意にその斜め前方で雷光が弾ける。416の放った5.56mm弾が、不可視の壁に阻まれたのだ。

 

 

「ちっ、本当に電磁力場障壁(フォースシールド)持ちなのね。面倒だわ」

 

 

 移動し、別の木に隠れながら、また毒づく416。

 アブソーブシールドと同系列の防御機構で、攻撃を受け止めるのではなく、指向性の障壁で逸らす事を主眼としている。

 大質量体をぶつけるなど、非常に強力な攻撃であれば、逸らさせずに貫く事も可能だが、そんな火力を持つ武器は持ち合わせていない。ハンドガードのアタッチメント──HK GLMから発射する榴弾も逸らされるだろう。

 

 トリディーヴィーは、416の隠れた木へ向けてHMGを乱射する。

 見る間に木の皮が剥がれ、幹が削がれていくも、今度は背中側から、脚部に向けて.45ACP弾と9mm弾が集中した。

 恐らく装甲が完全ではなかったか、人間達の攻撃で破損していたのだろう。関節部からスパークが発生し、トリディーヴィーは膝をつく。

 けれど、コンテナからアームが二丁目のHMGを取り出して、そのまま乱射。45とナインは咄嗟に木の裏へ隠れる。

 

 

「レールガンよりはマシだけど、当たったら終わりって意味では変わらないじゃない。クライアントさんの嘘つき」

 

「この木も保たなそう。次へ行こ、45姉」

 

 

 45は弾倉を取り替えながら軽口を叩き、ナインが閃光手榴弾を投擲。

 一瞬の目眩しにしかならないけれど、装着したT型外骨格の機動力のおかげで、新しい木への移動は容易だった。

 だが、しばらくするとトリディーヴィーはHMGをアームに任せて、両手で槍を構え、赤熱したそれで木々を薙ぎ払う。

 

 

「ヒートスピアを使い始めた……。弾を使うのも勿体ないって事かしら?」

 

「ひいぃ……。あああ、あんなのに当たったら、一瞬で溶けちゃうぅ……」

 

「当たらなければどうって事ないわ。射程範囲に入らなければ良いだけよ」

 

 

 416と合流したG11が、万が一を想像して身を竦ませる。意志を持たないはずのダミーすら、とても情けない表情を浮かべていた。

 対人戦闘用という事もあり、見た目にも厳つい近接武器を装備しているのだろうが、確かに一定の効果はあるようだ。

 そんな彼女達をカバーしようと、ここでナインが木の影から躍り出る。

 

 

「ほら! こっちに来い木偶の坊!」

 

 

 ダミーと共に弾をバラ撒きつつ、注意を引こうと叫ぶナイン。

 トリディーヴィーは、片脚を引きずりながらも驚異的な跳躍力で追い縋り、森の切れ目、切り立った岩壁の下で槍の範囲に捉える。

 脚を切り落とそうとする穂先を、ナインとダミーもまた人間離れした跳躍で回避し、ついでとばかりに手榴弾を放り投げた。

 また閃光手榴弾だと判断したトリディーヴィーのAIは、カメラレンズを遮光モードにするだけで済ませようとした──が、炸裂した瞬間、その躯体は硬直。微動だにしなくなる。

 ナインが投擲したのは閃光手榴弾ではなく、クライアントが用意した電磁手榴弾、パルスグレネードだった。

 距離を取っていなければ、ナインも強制シャットダウンしてしまっていたほど強力な物だ。

 

 

「今よっ」

 

 

 ナインの合図で、416とそのダミーが飛び出し、事前に榴弾が装填されたGLMを、トリディーヴィーに向けて構え──

 

 

「喰らいなさい……!」

 

 

 発射した。

 けれど、榴弾はトリディーヴィーの遥か頭上、岩壁の突端に向けて飛び、炸裂する。

 岩肌に大きなヒビが入ったが、ダメ押しにもう一度。

 GLMの砲身を左へスリングアウトさせ、榴弾を再装填してまた発射すると、自重に耐え切れなくなった岩の大塊が剥がれ、雪崩落ちる。

 重い地響き。

 巻き上がった土煙が収まるれば、頭部やら肩やら、様々な箇所の装甲を歪ませるトリディーヴィーが、下半身を岩に埋もれさせているのが見えた。

 

 

「G11、頭っ!」

 

「分かってる」

 

 

 間髪入れず、G11がその歪んだ頭部装甲を狙い、バースト射撃を行う。

 凄まじい速度で殺到する銃弾が、装甲を更に歪ませ、軋ませ、ついには部分的に剥ぎ取った。

 しかし、そこでトリディーヴィーのカメラに光が灯る。ダウンしていたAIが再起動したのだ。

 全身から金属の悲鳴を上げ、岩を押しのけようと──

 

 

『そうはさせない!』

 

 

 トリディーヴィーの頭上から、遅れて降る影。

 岩壁から十数mも飛び降り、軽やかにその肩へ降り立った影──クライアントは、折れ曲がっていた尻尾を伸ばし、先端に隠されていたジャックインプラグを、装甲の剥がれた部分へと突き刺す。

 途端、トリディーヴィーは躯体を痙攣させ、もがき苦しむようにジタバタした後、ゆっくりと動きを止めた。

 数秒の間を置き、45とナインが銃を降ろしつつ歩み寄る。

 

 

「どうやら、上手くいったみたいね」

 

「うん! クライアントさんの作戦、バッチリだったね!」

 

『相手の能力を把握できていたからな。それに、君達の連携も完璧だった。ある意味、勝てて当然──っ!?』

 

 

 しかし、安心したのも束の間。停止したはずのトリディーヴィーが、再び痙攣し始めた。

 潰れて数の減ったカメラレンズが不規則に明滅し、死に抗おうとでもするかの様に、激しくのたうち回る。

 

 

「ちょっと、また再起動しようとしてるわよ!?」

 

「ど、どうするの? あたし達だけで抑えるなんて無理なんじゃ!?」

 

 

 咄嗟に距離を取り、また銃を向ける皆だったが、再起動を果たしたとすると、トリディーヴィーに有効打を与える選択肢は少ない。

 やるなら今、416が榴弾をあるだけ撃ち込む事だけれど、彼女はその肩にしがみつく存在に、一瞬躊躇ってしまった。

 その間にトリディーヴィーは瓦礫の中から這い出し、最も近い攻撃対象、416へ飛び掛かろうと脚部の人工筋肉を収縮させ……肩に居るクライアントの体がスパークした瞬間、また動かなくなる。

 10秒、20秒、30秒。

 それだけの時間が経って、ようやく完全に停止したと確信できた。

 

 

「今度こそ、停止したかしら」

 

「はあぁ……。心臓に悪いよ……」

 

「全くだわ」

 

「終わった……? 終わったんだよね? もう気を抜いていい? っていうか帰っていい?」

 

「ダメよ」「ダメだよ」「ダメに決まってるでしょ」

 

「ひぃん……」

 

 

 45、ナイン、416から総ダメ出しされ、G11が眼に涙を浮かべて銃を構え続けた。

 どうにか作戦行動は勝利で終わったが、勝って兜の緒を締めよ、である。

 

 クライアントの立てたプランは以下の通りだ。

 まずは木を盾にしながら攻撃を仕掛け、こちらの火力レベルを認識させる。

 可能であれば機動力を削ぎ、トリディーヴィーを高台から続く岩壁沿いへと誘いこむ。

 前もって閃光手榴弾を使用して対応策を擦り込ませ、タイミングを見計らい、対自動機械用の電磁手榴弾を使用。動きを完全に止め、岩壁を崩落させて物理ダメージを狙う。

 行動不能に出来ればよし。出来ずとも確実に損傷しているはずなので、損傷箇所を集中攻撃し、戦闘力を減らす。

 岩の大きさは予測できないが、多少小さくても、フォースシールドを張られたとしても、過負荷を掛ければ一時的に使用不可にさせられるため、畳み掛けられる。

 その後、隙を見て中枢回路に通じる配線を露出させ、クライアントが支援AIをジャック、焼き切る。失敗した場合でも、超至近距離でパルスグレネードを炸裂させられたなら、相応のダメージが与えられる。

 

 多少のトラブルはあったが、概ねクライアントの想定通りに事が運んだという訳である。

 トリディーヴィーの肩で伸びている彼を労おうと、45が声を掛けた。

 

 

「ご苦労様、クライアントさん。無事に終わって何よりね。……クライアントさん?」

 

 

 が、返事はない。

 触れてみても、全く反応がない。眼を閉じ、グッタリとしていた。

 まるで死んでしまったように。

 

 

「45姉? クライアントさん、どうかしたの?」

 

「……動かない。機能停止したみたいね」

 

「えっ」

 

「タツノコ、死んじゃったの……?」

 

 

 45の言葉に、周辺警戒をダミーに任せ、皆が駆け寄る。

 見た目で分かる損傷がなく、眠っているようにも見えるが、四肢に力はなく、やはり死んでいる……動力を失っているのは確かだった。

 

 

「多分、AIを焼き切るためのパルスをオーバーロードさせたのね。単に電池が切れた可能性もあるけど……」

 

 

 外装骨格の支援AIとはいえ、軍が製造した物。然るべき保安プログラムはあって当然だ。

 推察するに、一旦は破壊された支援AIが復帰プログラムで再起動し、それを強引に焼き切るため、自らを危険に晒すレベルのパルスを放出せざるを得なかった……という所か。

 巻かれていた首輪が焦げ付いているのが気になるけれど、それよりも重要な懸念に416が気付く。

 

 

「ちょっと待って。じゃあ、わたし達の回収はどうなるの? あの子──ティスに連絡をつけられるのは彼だけじゃ……」

 

「それなら、大丈夫だと思うわよ」

 

 

 帰りの脚を用意したのはクライアント。その彼が行動できなくなったのでは、いつ追っ手が掛かるかも分からないのに立ち往生させられてしまう。

 だが、45は特に困った様子も見せず、彼から渡されたメモリーカードをPDAに読み込ませた。

 すると、画面にはとある地図情報が表示され、一つの連絡先も追加される。

 

 

「やっぱり」

 

「これ、座標? もしかして回収ポイント?」

 

「きっとね」

 

 

 ナインが肩越しに覗き込み、45は画面を確認しながら頷く。

 やはり内容に間違いはなく、任務完遂後の回収ポイントと、それをティスに知らせるための暗号通信アドレスだった。

 これで一安心……と行きたいのだが、416はこんな時こそ用心深さを発揮する。

 

 

「本当に大丈夫なの? 罠という可能性だってあるわ。用済みなったら処分、なんてザラにある事でしょう」

 

「ん~……。今回に限っては、無いかもね」

 

「根拠は?」

 

「か・ん♪」

 

「……誤魔化すなら、もっとそれらしい理由を付けて欲しいわね」

 

 

 にこやかな微笑みを浮かべる45と、頭痛を我慢しているような顰めっ面の416。

 何か話したくない事がある時、彼女はこうやって煙に巻いたり、逆に断片的な情報で混乱させたりする。

 いつもの事ではあるし、きっとそうする事情があるのだろうが、本当に困ったものだ。

 

 

「一応、彼も連れて行きましょうか」

 

「だね。このままじゃ、ちょっと可哀想だし。じゃあ45姉、私が……」

 

「という訳だから、416。抱っこしてあげて? はい」

 

「え? あっとと、な、なんでわたしがっ」

 

「そうだよ、なんで私じゃダメなの!?」

 

「だって、この中で416だけがクライアントさんを触ってないじゃない。仲間外れも可哀想かなーと思って」

 

「あ、それもそっか……。じゃあ仕方ないね。416? 落とさないように、しっかり抱っこしてあげなきゃダメだよ?」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい! わたしは抱っこしたいなんて一言も……聞きなさい、こら!」

 

 

 そんな天邪鬼リーダーは、抱き上げたクライアント──否、タツノコを416に押し付け、トリディーヴィーの現在地をマークしてから、回収ポイント目指して歩き出した。

 ナインがその後に続き、416も慌てて走り出す。

 ああだこうだ言いつつ、決してタツノコを落とさないよう、しっかりと抱きかかえながら。

 なお、すっかり静かになったG11だが、立ったまま半分眠り、なおかつ皆の後を追うという、器用過ぎる芸当を密かに披露していたのであった。




 やってしまった……。誘惑に負けてハロウィンガチャを回してしまった……。自分の意志の弱さが憎い……。
 早めにカーミラを引けたので正気に戻れましたが、まぁエロい。あんなエロい格好で無邪気に「だーいすきっ!」とか言われたらもうね。副官にせざるを得ません。背後に誰も立たせないよう気をつけねば。
 そして、TMPちゃんとかART556ちゃんとか、ほぼ確実にお迎えできる子もやたら可愛いのが嬉しいっすな。耳とか尻尾を弄くり回したい。

 戦闘中の描写についてですが、少女前線2のPVで416ちゃんがグレネードを発射してる場面ありましたけど、あれどう見ても使ってるのM203ですよね。仕様上は装着できないはずの。
 ちょっくら改造でもすれば着けられるんでしょうけど、とりあえず本作では実銃に沿ってGLMから発射しています。スリングアウトって響き、カッコ良し。M203の「ジャコッ」って感じも好き。
 トリディーヴィーの見た目は、攻殻機動隊SACのパワードスーツとか、Anthemのジャベリンみたいなのを想像して貰えれば近いかと。
 開発者が元中東諸国の家系で、この名前となりました。今回撃破された躯体にはパールヴァティーという識別名がついています。
 3機のうち1機がレールガンなどでの射撃、もう1機がフォースシールドでの護衛、最後の1機が死角をカバー、といった感じで運用されるはずでした。

 以上、補足終わり。
 最近はカボチャ狩りをしつつデイリーで0-2周回してますが、凄いですね、防弾チョッキ着たM16姉さん。カッチカチやぞ。
 おかげで毎日のコア入手量が格段に増えて、五拡HGを複数作れたしで万々歳。
 ROさんも日々の自律作戦で順調に育ってますし、次のコラボイベントが待ち遠しいっす。

 次といえば、次回はFFFのChapter4。最終話にして種明かし編です。
 短めになると思いますが、今しばらくお待ち下さい。
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