戦術人形は電気イタチの夢を見るか   作:缶コーヒー

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シリアス回その四。最終話。
名も無き戦術人形への手向け。


First step For the Failed Chapter4

 トリディーヴィーとの戦いが終わって数時間後。

 404小隊は再び装甲車に揺られていた。

 

 

「それで、このT-Petは大丈夫なの?」

 

「安心して下さい。ちゃんとした機材で再起動を掛ければ、元通りになります。そうしたら、頑張ったご褒美に電気マタタビをあげます」

 

「……そう」

 

「良かったぁ……」

 

 

 変わらず運転手を務めるティスが、416の膝に居るタツノコの状態を説明し、それを聞いたナインからも安堵の息が漏れる。

 巻かれていた首輪には、過電流を防止する、いわゆるアース機能のようなものがあり、T-PetとしてのAIを致命的なダメージから守ったらしい。備えは万全だったようだ。

 ナインは最初からだが、416も抵抗感はなくなったのか、眠っているようなタツノコを優しく撫でていた。

 奥の座席はダミー達と惰眠を貪るG11が占領しているし、416とナインはタツノコと戯れているしで、とても平和な車内であったが、助手席で黙々とPDAを操作していた45は、画面を見つめたままティスに問い掛ける。

 

 

「ねぇ。今回の依頼、軍からの依頼だって話だったけど」

 

「そうなんですか。私は何も聞いてませんでしたから、初耳です」

 

「ふうん。ま、それならそれで良いから、聞いてちょうだい」

 

 

 ……いや。それは問い掛けというより、独白に近い呟きだった。

 

 

「本当の目的は、回収じゃなくて横取りだったんでしょ」

 

 

 和やかだった雰囲気を、その呟きが冷ます。

 ナイン達も無反応ではいられず、発言の真意を問う。

 

 

「45姉? それって……」

 

「トリディーヴィーに殲滅されたのが本物の回収部隊。

 私達は、裏切ったとされる戦術人形の側に与した。

 成果を奪うため。ネタにして強請るため。台無しにするため。なんの為かは分からないけど。

 そうでなければ、あれを起動する事は難しかったはずよ」

 

「つまり、わたし達は最初から騙されていたわけ?」

 

 

 どのような経緯で開発されたにしろ、あの外装骨格は軍部が製造したもの。

 然るべき安全装置は備えているはずであり、キチンと起動させなければ、乗り込んでも指先一つ動かせない鉄の塊だ。

 しかし、事実としてトリディーヴィーは起動して、PMCと思しき部隊と404小隊を襲った。

 という事は、先に接触したPMCが起動キーを持っていたか、輸送中に起動した事になる。人形に起動キーを預けるとは考えにくいので、必然的に前者であろう。

 

 説明された依頼内容は、トリディーヴィーの所在の特定。

 騙してはいないのだろうが、クライアントの発言は明らかにミスリードを誘うものであり、416の反応も致し方ない。

 更に言うなら、回収部隊がなぜトリディーヴィーと戦闘になったのか、という疑問も残っている。

 一瞬にして緊迫する車内だったけれど、あえてなのか元々の性格なのか、ティスは他人事のように素知らぬ顔で返す。

 

 

「仮にそうだったとしても、私には何も言えません。本当に知りませんでしたから」

 

「でしょうね。あ、勘違いしないでね? 別に責めるつもりじゃないの。私的に確かめたかった情報は、あのメモリーに入ってたもの」

 

 

 Need to Know ──必要な事だけを知らされ、他の事に関する情報は持たない。

 軍人にとって当たり前の情報統制は、PMCでもごく普通に行われる事である。

 故にティスを責めても意味が無く、むしろ貧乏クジを引かされて可哀相でもあった。

 なにより、きっと彼女はこの任務を終えた後、404小隊の事を忘れてしまう。

 任務自体の記憶はあったとしても、誰と出会ったかは完全に抹消される。404小隊と任務で接触したグリフィンの人形は、記憶処理を受けなければならない裏の規程があるのだから。

 もし次に会った時、ティスとはまた初対面の挨拶を交わす事になり、そして、それを疑問にも思わない。そうでなければ、404(not found)であるべき彼女達の意義が失われる。

 

 無理やり忘れさせられるティスと、誰にも記憶されない404小隊。

 どちらがより哀れな存在なのか、他人が判断するのはおこがましいこと。

 だから416は、せめてその責任の所在を確かめておこうと、溜め息混じりにボヤく。

 

 

「結局、本当の依頼人は誰だったのよ。開発元と敵対する勢力? 善意の第三者な訳はないでしょうし……」

 

「どうかしら。案外そうかもよ」

 

「……え?」

 

 

 綺麗に整えられた416の眉が歪む。

 この御時世に、善意の第三者。

 まだ痴話喧嘩の末だとか、勝手にコーヒーを飲まれたからだとか、下らない理由の方が納得できる発言内容だったが、45は訝しむ声が聞こえていないように、言葉を並べ続ける。

 

 

「存在し得ないもの。あり得ざる確率。オカルティックな現象。

 全く意味のない事かも知れないのに、人間は往々にして何かを投影する。

 願望。過去。……あるいは、罪悪感からの行動なのかもね」

 

「何を言いたいのか、まるで理解できないんだけど」

 

「奇遇ね。私もよ」

 

「何よそれ」

 

 

 抽象的な物言いは45の得意分野(いつもの手)で、それ以上は何も聞けないのだろうと、416は早々に諦める。

 果たして、彼女が胸の内を明かす日が来るのだろうかと、諦観の内に考えながら。

 

 

「とにかく、何も問題はないんだよね。いつも通り、45姉の持ってきたお仕事を達成して、ちょっと休んで、またお仕事。でしょ?」

 

「そういう事。でも、今回は額が額だから、いつもより贅沢しましょうか♪」

 

「……それには賛成ね」

 

 

 不穏な空気を吹き飛ばそうとしてか、ナインは殊更に明るい笑顔で話題を変え、45と、416もそれにならう。

 そう。いつも通り。

 今回の任務も、彼女達にとってはいつも通りの、これからも続く、変わり映えしない日常の一部に過ぎなかった。

 

 

「ん……。まだ、食べたりない……よ……。んへへ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官。現場に到着しました」

 

 

 少女が呼び掛けたのは、座席に丸まって眼を閉じる、赤い首輪を着けた犬型T-Pet──シベリアンハスキーだった。

 “彼”がおもむろに顔を上げると、その声の主……長く艶やかな銀髪を、青いラインの入ったリボンで飾るHGタイプ戦術人形、トカレフが微笑んでいる。

 頷くように首を動かした後、“彼”は軽やかに装甲車から降り、彼女も白いワンピースのスカートを翻して続く。

 満月が空に浮かんでいた。

 付近には、立ち往生でもしたかのように動かない外装骨格……トリディーヴィーが。

 

 

「既に部隊は展開しています。周辺に鉄血、並びに不審な反応はありませんでした」

 

『ご苦労。ペーペーシャ!』

 

「はい、ただちに」

 

 

 報告を受けた“彼”が呼び掛けると、赤い星の入ったウシャンカから溢れる金髪が美しい、青い瞳のSMG、PPSh-41がとある大型輸送車へ駆けていく。

 その輸送車は、他の戦術人形が護衛していた。

 赤いベレー帽に赤いマフラー。緑地迷彩のブラトップと黒革の短パンという、少々寒そうな格好をしている、金髪碧眼のAR、AK-47。

 ベレー帽とマフラーまでは同じだが、青い衣装の前が開き、薄手のスリップ越しに黒いショーツが見えてしまっているAR、9A-91。

 他にも、PPS-43、M1895、モシン・ナガン、SVD、SKSなど、東欧某国で開発された銃器で武装した戦術人形達が勢揃いしている。

 そんな中、部隊のリーダーを務める9A-91が、“彼”へと歩み寄る。後ろで結われた銀髪は、その心情を現すように風に揺れていた。

 

 

「指揮官……。本当にやるつもりなんですか?」

 

『当たり前だろう。ここで止めたら、なんの為に危ない橋を渡ったのか分からなくなる』

 

「それはそうなんですが……。指揮官が妙な連中に眼を付けられでもしたら、心配で」

 

 

 9A-91の懸念は、事が上手く運んだせいで発生するであろう、遺恨についてだった。

 シベリアンハスキーを操作している“彼”と、404小隊を補佐した猫──タツノコを操作していたクライアントは同一人物であり、9A-91率いるこの部隊は、404小隊と別方向から、ほぼ同時に作戦行動を開始した。

 彼女達の戦果を確保するという事を第一目標とし、更にもう一つ。ヘリの墜落地点に向かって移動している鉄血の小規模部隊を発見した場合、事前に排除するというのが、第二目標だ。

 

 もっとも、移動を始めて早々に鉄血と遭遇してしまい、“彼”が404小隊に随行している間に、第二目標を達成してしまったのだが。

 その間、9A-91は代理として見事に部隊を統率し、“彼”の期待に応えた訳だが、いざ第一目標達成を前にすると、不安が勝った。軍部の闇と関わって、無事に人生を終えられる者は少ないのだから。

 けれども、サブリーダーを務めたAK-47は、彼女の隣に立ってその不安を笑い飛ばす。

 

 

「なーに、大丈夫だって! 変な事を企んでた連中から、秘密兵器を奪ったってだけだろ?

 休日出勤で人助けしたようなモンなんだし、それでなんか言ってくるヤツなんざ、むしろブッ飛ばした方が世のためってもんさ!」

 

「そんな簡単に行くのなら、世界は今の形になってないんですよ、この脳筋。私は指揮官の身の安全を第一に考えたいんです。指揮官に何かあったら、私は……」

 

『……ありがとう、9A-91。だが心配するな。今頃ヤツ等は、責任の擦りつけ合いに忙しいだろう。手早く済ませれば、誰にも気付かれずに済ませられる』

 

 

 豪快に金色のロングヘアを揺らすAK-47だが、9A-91は冷静に切って捨てる。

 日常面では露出過多な暴走気味少女でも、戦場では優秀な兵士に他ならない。

 加えて、隣で膝をつき、眼に涙を浮かべ、心の底から身を案じるその姿は、清らかな乙女そのものだった。

 彼女の下半身を視界に入れないよう努めながら、安心させるために“彼”は言い聞かせる。

 全ては気休め。希望的観測による、都合の良い解釈だったが。

 ややあって、ズシン、ズシン、と重く騒々しい足音が、大型輸送車から響いてくる。

 後部ドアから現れたのは、赤く塗装された工作用ロボットが3機。ペーペーシャとそのダミーが操縦していた。

 

 

「準備が整いました、指揮官」

 

『よし。始めてくれ』

 

 

 “彼”の声を受け、ペーペーシャはロボットをトリディーヴィーへと向かわせる。

 今ならまだ止められる。始まってしまえば、もう後戻りは出来ない。

 だが“彼”は何も言わず、ただ事の推移を見守った。

 すると、ダミーを周辺の哨戒に向かわせたPPS-43の本体(メインフレーム)が、姉の動かすロボットを眺めながら問い掛ける。

 

 

「ねぇ、同志。一つ聞いてもいい?」

 

『なんだ』

 

「どうして引き受けたの? 正式な依頼じゃなかったのなら、断って良かったと思うんだけど」

 

 

 紺色のタイトなワンピースと、丸耳がついた同じ色の帽子を合わせる彼女は、やけに細いシルエットのSMGを油断なく構えていた。一本の長い三つ編みにした赤毛が、尻尾のように振れる。

 45達には断れない依頼だと嘘をついたが、実際には、断ろうと思えば断れる依頼だった。

 そもそもが「依頼」ではなく「お願い」だった事もあるけれど、これから先の安泰を望むなら、聞かなかった事にする方が賢明だろうと思われた。

 

 

『確かに、放置した方が身のためだっただろう。首を突っ込んだ所で、妙な連中に目を付けられるだけだ。9A-91の言った通りにな』

 

「じゃあ、何故?」

 

 

 “彼”の真意を聞きたくて、PPS-43は続きをせがむ。

 本当は話してやりたいが、話してしまえば、いざという時に逃がしてやれない。

 “彼”はシベリアンハスキーの姿で溜め息をつき、眼差しを遠くへ。

 

 

「絶対に、受け取れないはずのメッセージだったそうだ」

 

 

 思い出すのは、不意に鳴った秘匿回線での着信。

 いつも通りの気怠げな表情と、いつになく真剣な声。

 

 

「何かの罠だという可能性はあったが、それでもあの人は応えた。ある意味では、全第二世代戦術人形の、親みたいなものだから。……要するに、手伝っただけなんだよ」

 

 

 彼女は語った。

 不可解な電子メールと、書かれていた情報の事を。

 それが事実だとして、何かをする義理も義務もない事を。

 思えば、背中を押したのは“彼”だったのかも知れない。

 どうするべきかを悩んで彼女は連絡し、“彼”の一言で心を決めた。

 そうして、ごく限られた人間しか実態を知りえない404小隊に、依頼を持ちかける事になったのだ。

 

 

「なんだかオカルトめいてるわね」

 

『信じられないか』

 

「……よく分からない。ただ……」

 

 

 はぐらかすような言い回しでも、PPS-43は“彼”が言わんとする事を察したようだった。

 本来入手し得ない情報を元に、厄介事へ首を突っ込んだ。それも、使い捨てにされたであろう戦術人形のために。

 通常では考えられない行動だ。特に、実利主義に傾倒しがちなPMCでは。

 

 

「どんな形であれ、その子は自分の使命を完遂できて──同志に引き継いで貰えて、良かったなと思うわ」

 

『……そうか』

 

 

 寂しげに伏せられた眼は、顔も名前も知らない戦術人形へと、黙祷を捧げているように見えた。

 そして、再び開けられた時には決意が満ちている。

 与えられた役割を果たそうという、強固な決意が。

 “彼”はそれを見てしばらく沈黙し、やがて静かに頷く。

 

 

『やり遂げよう。いつか来るかも知れない、その時のために』

 

 

 機械仕掛けの黒い瞳の中で、ペーペーシャとロボットが作業を始める。

 全ては選択肢を得るために。

 正解を引き当てるか、致命的に間違ってしまうかまでは分からない。

 けれども、為す術なく立ち竦む事だけは、決して許されないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警告音。浮遊感。腹部の貫通瘡。迫る地面。

 もう立て直せない。

 わたしはここで、与えられた任務を達成できずに終わる。

 悔しい。悲しい。怖い。

 

 神様なんて、きっと居ない。

 かつて居たとしても、今はもう何処にも居ない。

 だからこの声は、誰にも届かない。

 この気持ち(いのり)は誰にも知られずに、消えるだけ。

 だからこそ、わたしは願ってしまう。

 

 お願いします。

 せめて、わたしが生まれてきた意味を。

 わたしに与えられた責務を、果たさせて下さい。

 

 

 

 




 最近の悩み。
 0-2周回は実入りが良いけど時間が掛かる。睡眠時間削るのも厳しいし、回数減らそ……。
 あと、このタイミングでロリスキンとか卑怯過ぎる。こんなの……こんなの……ロリーエンかロリネゲヴ引くまで回すしかないじゃないかっ!!(血走った眼)
 それはさて置き、今回でシリアス回は終了です。
 遠回しな書き方で分かり辛かったと思いますので、またもや補足をば。

 本当の依頼主は、なんでか頭に猫耳っぽい物を着けてる白衣の人です。
 ある日、発信元すら定かでない不可解な電子メールを受け取った彼女は、その内容を訝しみ、疑い、けれど添付データを無視も出来ず、指揮官に連絡を取りました。
 結果、送り主であろう戦術人形の最後の願いを叶えようと、404小隊に引き合わせます。報酬も、あの人にとっては大した額ではないでしょう。
 ちなみに、指揮官側のロシア銃部隊は、任務に動員されたのではなく、“ピクニック”に行ったという事になっております。
 依頼主を偽ったのは、あの人の立場を考えての事です。もし事が露見した場合、矢面に立つのは“彼”です。
 あくまで彼女は個人的な援助(という形の資金提供)をしただけであり、それを流用して依頼したのは指揮官であるという建前の元、双方の合意が成立しています。
 指揮官がトリディーヴィーをどう扱うのかはまだ描きませんが、少なくとも、軍の第二陣が墜落現場へ到着した時、現場からは全ての痕跡が消されていました。
 ヘリ、トリディーヴィー、工作ロボットの足跡、輸送車のタイヤ痕、裏切り者である戦術人形すらも。

 ゲーム本編がロジカルで救われない話ばっかりなので、オカルト的な要素を事の発端にしてみましたが、どうなんすかね、世界観的に。
 ……WAちゃんのハロウィンスキン? なんの事だか分かりかねますWAー。
 次回からはまたゆるーい話に戻ります。というか、やっぱシリアスは面倒だったのでもう書かないかも。そんでも良ければお付き合い下さい。
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