戦術人形は電気イタチの夢を見るか 作:缶コーヒー
元ネタのCMを学生時代に見ていた人は、作者と同年代かも。
時の流れって残酷や……。
コツリ、コツリ、と。
優雅かつ軽やかな編上げ靴の足音が、廊下に響く。
青いジャケットを身に纏い、背筋をピンと伸ばし、綺麗に切り揃えられた茶色のロングヘアと、白いロングスカートを靡かせる彼女は、とあるRFと結びつけられた戦術人形だった。
名をスプリングフィールド。
その生まれが、横髪をハーフアップにする星条旗柄のリボンが示されている
足音は、とある自動ドアの前で立ち止まった。
すぐ横の壁にインターホンが設置されており、スプリングフィールドがそのスイッチを押しながら口を開く。
「指揮官。スプリングフィールドです。少々お時間をよろしいでしょうか?」
『構わない。入ってくれ』
「失礼致します」
自動ドアが滑らかに滑り、スプリングフィールドが入室すると、まず、質素ながらも格調高い、木目調の執務机が眼に入る。
机に着くのはもちろん、この基地を統括する若き指揮官である。
彼の第一の仕事場が指令室なら、第二の仕事場はここ、執務室だ。
グリフィンの戦術指揮官としてのデスクワークや、戦術人形達のスケジュール管理など、いわゆる裏方の仕事が執務室で行われる。
本人の嗜好を反映してか、置かれている家具は戦前の物を模したデザインだった。
「おはようございます、指揮官。先日の合同訓練について、詳細を纏めました。お目通し頂けますか」
「ありがとう。助かるよ」
一礼し、執務机へと歩み寄ったスプリングフィールドは、一枚のフロッピーディスクを差し出す。
古臭い見た目に反比例して大容量の記憶媒体には、数日前、他の戦術指揮官の部隊と行われた、実戦形式の訓練の全てが記録されている。
結果的には五分五分で終えたその訓練だが、内容を精査し、改善するべき点などを見つけて今後に活かすのも、とても大切な仕事なのだ。
指揮官はフロッピーを受け取り、スプリングフィールドに礼を言うのだが、しかし彼女は首を傾げてしまう。
何故だか指揮官は、しきりに耳を触っているのだ。
「どうか、なさったのですか?」
「え? 何がだ?」
「先程から、耳を気になさっているようでしたので」
「ああ、すまない。ちょっと耳の中がムズ痒くて……。最近、ろくに耳掃除もしてなくてな」
聞いてみれば、理由は単純だった。
戦術人形だけでも数十体、基地運営に関わる普通の自律人形や、人間の職員も含めると、余裕で三桁を超えるだけの人員をまとめ、運営方針を定めたり、PMC業務に従事しつつ、人形達のケアまで……。
専門の職員やカリーナのサポートがあっても、かなりの激務である事は想像に難くない。
身の回りの事が疎かになってしまうのも仕方ないだろう。
「そういう事ですか。でしたら、報告に眼を通す前に……」
仕方ないだろうが、そのままではいけない。
スプリングフィールドは柔らかく微笑み、執務机から少し離れた革張りのソファへ腰を下ろす。
そして、ウェストポーチから小さな耳かきを取り出し、自らの膝をポンポンと叩いた。
「指揮官。こちらへ」
「……え?」
片手に耳かきを構えながら、ニコニコと微笑み、膝をポンポン。
その行動の意味するところは、よほど捻じくれた精神の持ち主でない限り、一つしか思いつかないだろう。
即ち、「耳掃除をしますから膝へどうぞ」、だ。
「いや、スプリングフィールド? それは……」
どうにも気恥ずかしく、指揮官は遠慮がちに苦笑いを浮かべるのだが、スプリングフィールドは「なんでしょう?」とでも言いたげに、笑顔のまま小首を傾げる。
数秒、無言の対決が続いたけれど、最後には指揮官が根負けし、席を立つ。
あの笑顔には、勝てる気がしなかった。
「あ~、その、し、失礼します」
「うふふ。はい、どうぞ」
一旦、ソファの右隣に腰を下ろして、何故だか畏まった挨拶を。
スプリングフィールドの笑い声に、また気恥ずかしさを感じつつも、靴を脱いで横向きに寝そべる。
慎重に……と言うよりかは、本当に良いのか悩んでいるような、非常にゆっくりとした速度で、頭を彼女の膝の上に。
柔らかかった。
暖かく、ほんのりと、砂糖に似た甘い匂いがした。
「いつも持ち歩いてるのか?」
「ええ。いつ必要になるか分かりませんから、ちょっとした小物は。現に今、役立っていますし」
「……用意が良いな。流石だ」
「光栄です」
自分の気を紛らわそうと、指揮官は他愛のない疑問をぶつけ、それにスプリングフィールドが答える。
戦闘においては百発百中の狙撃技術を持ち、多くの仲間から信頼されている彼女は、日常生活でも隙がないようだった。
「痛かったりしたら、遠慮なく言って下さいね」
「あ、ああ。頼む……っ」
完璧な立ち振る舞いの、淑女の鑑とでも言うべき彼女に、わざわざ膝枕をしてもらい、耳掃除までさせている。
なんなんだこの状況? と思う指揮官ではあったが、囁くような声音に身を硬くした。
それを察知したのだろう。スプリングフィールドはまず、指揮官の頭を撫でるようにして支える。
「もしかして、緊張なさってます?」
「す、少し。定期検診で、医者に掃除されたりとかは経験あるんだが、女性に膝枕されながらっていうのは、初めてなんだ」
「そうなのですか……」
指揮官の返答に、スプリングフィールドは少し疑問を抱く。
普通なら、幼少期に母親などがそうしたりするものだろう。
単に忘れているのか、身内を女性として数えていないのか。それとも、本当に経験がないのか。
彼の過去を知る者は少ない。経歴の話になった時、従軍経験があるという説明はされたが、それだけで黙して語らない。
気になる。
気になるけれど、無理な詮索をしたくなかったスプリングフィールドは、耳掃除に集中する。
「では、始めますね」
「い、いつでも」
身をかがめ、指揮官との距離が狭まると、彼はまた体を硬く。
耳に手を添えるだけでビクッと反応する辺り、本当に慣れていないようだった。
思わずクスリと笑ってしまうが、とにかく今は耳掃除。
耳かきの先端を、ゆっくり耳の穴へと挿し入れる。
「……うっ……」
「あ、痛かったでしょうか?」
「いや、違う。やっぱり、自分でするのとは感じが違うから。なんか、背筋がムズムズするような……」
呻き声に、一旦は手を止めるスプリングフィールドだったが、痛みからではないと分かり、本格的に掃除を始める。
「本当にお忙しかったんですね、こんなに垢がこびり付いて。いけませんよ? 適度にお掃除しないと」
「……申し訳ない。ぅ……っ……」
「あ、もう、動いちゃ駄目です! 危ないですから、力を抜いて下さい。ね」
耳の内側がなぞられる度、体をモゾモゾさせる指揮官。
スプリングフィールドが言い聞かせると、彼は唇をへの字にして我慢していた。
が、しばらくすると慣れてきたのか、徐々に体の強張りが解けていく。
「君は……」
「はい?」
「……いや。上手だなと思って。慣れてるのか?」
やがて、完全に身を任せた彼は、眼を閉じ、寝ぼけたような声で尋ねる。
スプリングフィールドは手を止めないまま、躊躇いがちに答えた。
「実は、私も初めてなんです」
「本当に?」
「本当に、です。信じられませんか」
「そういう訳じゃないが」
スプリングフィールドの手付きは、決して彼に痛みを与えず、かと言って、耳掃除にならないほど弱くもなく、絶妙な力加減と心地良さだった。
てっきり、よく誰かに耳掃除をするのだと思っていた指揮官の呟きは、言葉と裏腹に意外そうな響きだ。
一方で、スプリングフィールドは静かに続ける。
「変に思われるかも知れませんが、想像だけはしていたんです。
いつか、大切に想い合える殿方が現れたら、こんな風にしてあげたいな、って。
この耳かきを使う日が来るなんて、自分でも驚いています」
驚いているという割に、その声は楽しそうにも聞こえた。
しかし、指揮官は考えさせられてしまう。
大切に想い合える男性と、こんな事をしたいと想像していた。
なら、現に今そうしている自分は、スプリングフィールドにとってどういう存在なのか。
そんな時、唐突に彼女の気配が近づき……。
「ふ~」
「うっふいっ」
暖かい息が、耳に優しく吹きかけられる。
細かい耳垢を飛ばすためなのだろうが、予想していなかった指揮官は変な声を出してしまい、スプリングフィールドがまたクスクスと笑う。
「はい、お終いです。綺麗になりましたよ、指揮官」
「ぁ、ありがとう。スッキリした、気がする」
「うふふ、良かった。じゃあ、今度は反対側ですね」
「え」
「片方を綺麗にしたんですから、当然もう片方も綺麗にしないと」
終わりなら、と身を起こそうとした指揮官だが、言われてみれば当たり前。
片方だけを掃除するのでは中途半端だし、もう膝枕への気恥ずかしさにも慣れた。
指揮官は好意に甘える事にした。
「……それも、そうだな。この際だ、最後まで頼むか」
「喜んで。では、そのまま顔をこちらにお願いします」
「ん? いやいや、起きて位置を変えれば……」
「せっかく寛いでいらっしゃるのに、わざわざ起きて頂くのも申し訳ありませんから。さぁ」
ところが、今度こそ立ち上がろうとした指揮官を、スプリングフィールドの手が留める。
今までは体の向きを同じくしていたけれど、逆サイドで膝枕をし直すのでなければ、彼女のお腹を見つめながらになってしまう。
それはどうなのだろうか、と指揮官は思うのだが、優しく肩を叩かれて促される。
仕方なく寝返りを打つようにして向きを変えると、「始めますね」と耳掃除が再開された。
(ただ目の前に、スプリングフィールドのお腹があるっていうだけなのに、どうしてこんな……居た堪れないんだろうか)
すっかり耳掃除に慣れてしまったせいで、指揮官は、また別の緊張を強いられていた。
スプリングフィールドが呼吸する度、目の前で彼女のお腹が動いている。自分の息が当たって跳ね返り、あの甘い匂いがより強く感じられる。
香水。服に染み付いた匂い。スプリングフィールド自身から放たれている香り。
原因はどれでも構わないが、問題なのは、嗅いでいると思わず顔を埋めたくなってしまう事だった。
実行すれば大問題なので、必死に我慢しているけれども。
しかし、そんな風に本能を理性で押さえ込んでいたところ、ある事に気付く。
手慣れた様子だったスプリングフィールドの耳かき捌きが、妙にぎこちないのだ。
「スプリングフィールド? どうかしたか?」
「い、いえ。大した事ではないんですが」
不思議に思い尋ねてみると、何やら戸惑ったような声が返された。
そして、続く言葉が更に指揮官の緊張を煽る。
「服越しなのに、指揮官の息遣いがくすぐったいような、ムズムズ、するような。……変な感じ、です……」
普段通りの、優しさに満ちた声へと混じり込む、ほんの少しの艶めき。
心臓が大きく跳ね、スプリングフィールドがどんな表情をしているのか確認しようとして、また指揮官は気付いた。
この状態から上を見ようとすると、彼女の胸を見上げる形になってしまい、視界が塞がれてしまうのだ。胸で。
視覚。聴覚。嗅覚。触覚さえもスプリングフィールドで一杯で、何が何やら分からない。
とりあえず、彼女が困っている原因の呼吸をどうにかしなければ。
「すまない。出来る限り息を止めておく。すぅ……っ」
「そ、そこまでして頂かなくとも大丈夫ですからっ! とにかく、続けますね?」
大きく息を吸い込み、片手で口と鼻を覆う指揮官。
絶対に息が続かないだろうし、流石のスプリングフィールドも焦って止める。
結局、指揮官は口を覆ったまま、スプリングフィールドは何事もなかったかのように、耳掃除が進む。
その間、二人は完全に無言だった。
「はい、終わりましたよ」
「………………」
「指揮官?」
「あ、ああ。うん。ありがとう」
「どういたしまして」
ややあって、緊張感漂う時間は終了した。
また耳に「ふ〜」もあったが、今度は変な声を我慢できた指揮官である。
揃ってソファから立ち上がると、耳垢をゴミ箱に捨てたスプリングフィールドは、優雅に一礼した。
「それでは、私はこれで失礼致します」
「そうか。変な事をさせてしまって、すまなかった」
「謝らないで下さい。好きでやった事ですから。では」
ドアに向かう背中を、指揮官は黙って見守る。
しかし、ふと気になって、その背中を呼び止めた。
「スプリングフィールド」
「……はい? なんでしょう」
「君が、耳掃除を申し出てくれたのは」
大切だと想ってくれているから、なのか。
そう聞こうとして、言葉に出来ないまま、口を噤む。
だが、スプリングフィールドは過不足なくそれを悟り、脚を止める。
「ご想像にお任せします。でも……」
「でも?」
短い沈黙。
もどかしいような時間を、彼女は思わせぶりに長引かせ──
「誰にでも同じ事をするだなんて、思わないで下さいね」
振り向きながら、悪戯っ子のように人差し指を唇へ当て、ウィンクまでして見せた。
指揮官が呆気に取られている間に、そのまま執務室を出て行くスプリングフィールド。
誰にでも、同じ事はしない。
断言はしていないが、否定もされていない。非常に曖昧で、不確かな答え。
けれど、今はまだ、これが正しい選択肢なのかも知れない。
「……仕事しよう」
一つ溜め息をつき、指揮官は執務机に戻る。
フロッピーディスクの内容を確認する作業は、驚くほど快調に進むのだった。
綺麗なお姉さんに膝枕してもらい、耳掃除からの「ふ〜」。これぞラブコメの王道なり!
はい。単にやって欲しいってだけです。春田さん可愛い。
個人的にお姉さん属性のキャラ全般が苦手なんですが、春田さんは年上感と可愛らしさが絶妙なバランスで配合されていて、すんなり受け入れられました。ブラックカードが貯まったら水着スキンを交換したい。
そろそろレベリングの日々にも飽きたし、コラボイベントの詳細が欲しいっすな。
こういうイベントは基本的に難易度低めなはずだから、今度は余裕でクリア出来るはず……。
限定装備泥率UPイベ? 白い悪魔チップ欲しいけど、4-4nすら修理しまくってゴリ押しクリアが限界だったのに、5-4nとか絶対無理っす。
そしてイベント前なのに何故か出るナショナルマッチ徹甲弾二つ目。確かに春田さん出したけど、こっちで運を使いたくなかった……。