戦術人形は電気イタチの夢を見るか   作:缶コーヒー

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 SOP子ちゃんは狂犬に見せ掛けた忠犬、という話。You素直になっちゃいなYo!
 うちでは0-2アタッカーとして活躍してもらっております。スキル使用時の高笑い、超好き。


基地内シャワールーム、湯けむり密室監禁事件~某メイド戦術人形は見た。指揮官とSOP Ⅱ、禁断の密会~

「はぁ……。今日も疲れた」

 

 

 夜半過ぎ。

 一人自室に戻った指揮官は、誰にともなく愚痴を零す。

 首や肩がズッシリと重く、倦怠感が体に付き纏っていた。

 

 

「なんだか最近、うちが訳あり戦術人形の駆け込み寺になっている気がしてきた……」

 

 

 PMCの仕事は激務だが、ここ最近、それが加速しているように感じられる。

 しかも原因は他でもない、共に働く戦術人形達である。

 先日の布面積に問題がある面々だけでなく、様々な個性を持った戦術人形が、その個性を遺憾なく発揮するせいで、ちょっとしたシワ寄せが来るのだ。

 そういった事を如何に適切に処理するかが、戦術指揮官としての腕の見せ所だろうが、にしても疲れた。

 

 

「さっさとシャワーを浴びて、サッパリして寝よう」

 

 

 疲れを癒すには、熱い湯で一日の汗を流し、G36が丁寧に整えてくれたベッドで眠るに限る。

 指揮官は洗面所兼脱衣所で制服を脱ぎ去り、勢いよくシャワーの蛇口を捻った。

 そして……。

 

 

「──っっっぬぉおおぉぉお゛お゛っ!? 」

 

 

 本日最大の悲劇が、容赦なく頭上から降り注ぐのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シャワーが壊れた、ですか?」

 

 

 青い顔でブランケットに包まり、ガタガタ震える指揮官の姿を見て、カリーナは思わず目を丸くした。

 

 

「ばばばば、バスタブの方もも、みみみ水しか出なくてて、とと、止めようにも、中々とと止まらなくっててててて」

 

「それは一大事ですわ! でも、今から業者を呼ぶにしても、直るのは明日になりますし……」

 

 

 ようやっと残業を終えようとしていた所へ、泡を食って彼が駆け込んできた時も驚いたけれど、何やら急を要する事態である模様。

 仕方なくカリーナは、意識を仕事モードに切り替える。

 

 

「しょうがないです。緊急事態ですし、戦術人形達が使っている方のシャワールームを借りましょう。よいしょっと」

 

 

 2062年でも現役の筆記用具、ホワイトボードに「指揮官様入浴中!」と書いた彼女は、それを小脇に抱え、指揮官と連れ立って共用シャワールームへと向かう。

 途中で酒保にも立ち寄って、手早く最低限の着替えも確保(当然、代金は指揮官に付ける)。

 程なく目的地に辿り着くと、シャワールームへ続く自動ドア脇の壁に、ホワイトボードを掛けた。

 

 

「とりあえずこれで、と。指揮官様、早くシャワーを浴びて暖まって下さい。私は本部の施工業者に連絡してきますので」

 

「たたた、頼む……っ」

 

 

 忙しなく走っていくカリーナを見送りつつ、指揮官もシャワールームに駆け込む。

 そうして廊下からは人気が無くなったのだが、ほんの数秒後、物影の低い位置からピョコンと黒い猫耳が飛び出てくる。

 

 

「にっひひひひ~。絶好のイタズラチャンス、はっけ~ん!」

 

 

 現れたのは、黒い修道服に身を包む戦術人形、P7だった。

 一見すると敬虔なシスターに見えなくもないが、薄紫の瞳には悪戯心が見え隠れし、フードから溢れる白い髪と、腰の付け根にある尻尾が、とても楽しげに揺れている。

 清貧、貞潔、服従を誓っているようには決して見えなかった。

 余談だが、彼女の地毛は白で統一されており、猫耳が黒く見えるのは、フードが猫耳の形に合わせた特注品だからである。やはり清貧からは程遠い。

 

 

「ホワイトボードは片付けてー、ドアには細工を施しましてー、後は誰かが来るのを待つだけ……よしっ!」

 

 

 誰にも見られていないのを確認してから、ホワイトボードを床に降ろし、どこからともなくイタズラ七つ道具の一つ、マイナスドライバーを取り出すP7。

 次いで、おもむろにドア脇の手動操作パネルと壁の隙間に突き立ててバキッ。配線を露出させ、ちょちょいのちょい。

 何事も無かったように元通りにしてから、「いい仕事したわぁ」的な表情を浮かべる。

 

 

「感謝してよね、指揮官? 嬉し恥ずかし混浴タイムだよー? にはははは!」

 

 

 そのまま、P7はホワイトボードを抱えて走り去った。

 今度こそ人気は無くなるかと思いきや、入れ違いにまた新たな人影が。

 P7と同じ白髪だが、赤いメッシュが入り、黒いジャケットを着る彼女は、AR小隊の末っ子、M4 SOPMOD Ⅱである。

 

 

「うー、コレクションの整理をしてたらこんな時間になっちゃったー。早くシャワー浴びちゃわないと」

 

 

 悪質なトラップが仕掛けられているとは露にも思わないSOP Ⅱは、なんのためらいもなく自動ドアをくぐり、それが閉まった直後、配線がスパークした事にも、もちろん気付かない。

 部屋の内部は、中扉の奥に簡易ロッカーが並び、更に左手の、磨りガラス風強化アクリルの引き戸を奥へ進むと、シャワールームに入れる構造となっている。

 ジャケットのジッパーを下ろそうとするSOP Ⅱの耳に、小さく水音が届いていた。

 

 

「あ、先に誰か使ってるみたい。……まぁいいや、シャワーシャワー♪」

 

 

 一瞬、誰が使っているのか気になったSOP Ⅱだったが、この時間帯にシャワーを使う戦術人形も少なくない。

 そんな事より早くサッパリしたいと考えた彼女は、乱雑に服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿で引き戸を開け放つ。

 

 

「おっじゃまっしまぁーす! 使ってるの誰ー?」

 

「んえっ!?」

 

「へぁ?」

 

 

 二対の瞳が重なり合い、シャワールームの時間が凍りついた。

 よくある、シャワー毎に仕切りのついたブースで、シャンプー中の指揮官が、驚愕の表情で入り口を振り返っている。白い板に隠され、大事な所は見えていない。

 対するSOP Ⅱは、何も隠れていなかった。

 諸事情により詳しく描写する事は叶わず、濃厚な湯気が立ち込め、どこからか謎の光まで差し込んでいるのだが、とにかく隠している様子がなかった。

 シャワーから流れ出るお湯の音だけが響くこと、約5秒。

 病的なまでに白い肌を羞恥に染め、SOP Ⅱが胸を隠してしゃがみ込んだ。

 

 

「ひゃああっ! な、なんで指揮官が居るのぉ!? ここ、戦術人形用のシャワールームだよぉ!?」

 

「こ、こっちのセリフだ、なんでSOP Ⅱがっ!? 使ってるって注意書きがあっただろうっ!」

 

「無かった、無かったよそんなのー!」

 

 

 途端、大声で言い合いを始める二人。

 進退窮まったか、涙目で髪を振り乱すSOP Ⅱに、指揮官もひどく動揺しながら、しかし懸命に視線を逸らしている。

 

 

「本当だ、信じてくれ! 部屋のシャワーが壊れて、仕方なくこっちのを使ってたんだ! ホワイトボードを掛けたのはカリーナだし、後で確認してくれて構わない!」

 

「ほ、ホワイトボード? そう言えば……それっぽい物を抱えて走ってく、猫耳シスターの後ろ姿を見かけたような」

 

「……ぴぃぃぃせぶぅぅぅぅんっ!!」

 

 

 この状況を作り出した犯人が、「大成功!」というプラカード付きで笑っている姿が脳裏に浮かび、指揮官が怨嗟の声を上げた。

 P7もまた、彼の頭を悩ませる戦術人形の一体なのだ。

 主に他者への悪戯を行い、恥ずかしい思いをさせたり、ちょっと困らせるのが被害の大半で、地味に面倒臭いのである。

 今までは戦術人形達から被害報告を受け、それを慰めるだけで済んでいたが、よもや、こんな形で実害を被るとは予測していなかった。

 

 

「とにかく、指揮官はあっち向いてて! こっち見たら目潰しだからね!」

 

「わ、分かった」

 

 

 何はともあれ、SOP Ⅱはそそくさと手近なブースに駆け込み、指揮官は彼女に背を向ける形で従う。

 間には二つのブースがあり、互いの体を丁度いい具合いに隠していた。

 SOP Ⅱは膝辺りから下と首から上、指揮官は胸から上が見えている状態だ。

 

 

「その、なんだ。すまなかった……」

 

「本当だよ、もうー! すっごく恥ずかしかったんだから!」

 

「申し訳ない。……しかしまぁ、少し安心したよ。キチンとそういう感覚があるみたいで」

 

「当たり前でしょー、戦術人形だってオンナノコなんだから。指揮官、ワタシの事なんだと思ってたのー?」

 

 

 狂犬。

 と、反射的に口に出そうとして、必死に飲み込む指揮官。

 拳を軽く振り上げ、愛らしくプンプンと頬を膨らませているSOP Ⅱだが、彼女には一つの悪癖がある。

 戦いの最中、敵に対して異様な程の残虐性を発揮してしまうのだ。

 物理的に痛めつけるのはもちろん、コレクションと称して敵の体の一部を奪う事もある。

 時には重傷を負い、防護服の大部分を失って肌が露出しても、戦う事を止めようとしない場合まであった。

 味方に対しては無意味な暴力を絶対振るわず、姉妹に位置付けられるAR小隊の姉達には、よく甘えている姿が目撃されている。けれども、グリフィンの戦術人形の間で悪名が轟くほど、その残虐性は凄まじかった。

 

 

「すぐに出て行きたい所なんだが、見ての通り、まだ色々と途中なんだ。少し我慢してもらえるか?」

 

「む~……。我慢する……。っていうか、ビックリしただけだから。ゴメンね、大きな声出しちゃって」

 

「いや、当然の反応だ」

 

「……うん。ワタシも、シャワー浴びちゃうね」

 

 

 きっと、SOP Ⅱと対面した事がなく、悪名だけを知る人物だったら、信じられない事だろう。

 恥ずかしがってムクれたり、素直に謝ったりする彼女が、“人形虐待者”と同一人物だとは。

 この極端な二面性こそが、SOP Ⅱの個性であった。

 

 しばらくの間、二人分のシャワーの音だけが続く。

 SOP Ⅱも指揮官も、お互いの存在を意識せざるを得ないのか、どこか動きがぎこちない。

 やがて、沈黙に耐えきれなくなった指揮官が、全力で視線を背けながら世間話を振った。

 

 

「い、いつも、このくらいの時間にシャワーを浴びるのか?」

 

「ん~。いつもはもっと早いかなー。だいたいM4と一緒。今日は、コレクションの整理してたから」

 

「コレクション……ああ、戦利品のか」

 

「うん。たまーに片付けないと、臭っちゃうのもあるし」

 

 

 液体シャンプーを手に取り、頭をワシャワシャと泡立てながら、SOP Ⅱが事も無げに言う。

 現状、彼女が戦う相手は鉄血製の人形である。

 体の多くが機械部品で構成される鉄血人形だが、しかし、I.O.P.製の人形のように生体部品も多少は使用されている。

 そういった部分がコレクションに加わった場合、保管にも手間が掛かるという事なのだろう。

 

 

「やっぱり指揮官も、趣味が悪いって思う?」

 

「戦利品集めを、か」

 

「うん。どうなのかな、って」

 

 

 今度はSOP Ⅱから質問が飛び、指揮官は考える。

 シャンプーしながらの何気ない問い掛け。

 いや。そう見せかけて、とても重要な事を聞こうとしている。少なくとも、SOP Ⅱにとって重要な事を。

 間を置かないよう、指揮官は率直に答えた。

 

 

「別に、パーツそれ自体を見るのは問題ない。元はどうあれ、外したならただのパーツだ。何かの役に立つ事もあるだろう」

 

「へぇ~。なんだか意外~。じゃあじゃあ、今度部屋に見に来る? 珍しいパーツもあるんだよ!」

 

「……時間があったらな」

 

「約束だからね!」

 

 

 無邪気に笑顔を輝かせ、仕切りを飛び越えそうな勢いで喜ぶSOP Ⅱ。

 そう、彼女は幼く、無邪気なのだ。

 人間と違い、肉体が成熟した状態で生まれる戦術人形であるが、精神は別である。

 どれだけ事前に情報を詰め込まれても、それは体験を伴わない記録に過ぎない。

 銃を撃つ事しか知らない少年兵が、その結果、もしくは過程に楽しみを見つけるのは必定で、SOP Ⅱもある意味それに近い。単に他の楽しみを知らないだけ。

 

 ならば、教えていくしかない。

 他にも楽しい事や嬉しい事が沢山あり、SOP Ⅱがまだ、世界の一部分しか知らないのだという事を。

 そうする事によって、過剰なまでの残虐性を抑えられるよう成長して貰えるなら、それは指揮官にとっても喜ばしい事だった。

 何より、このまま暴虐の限りを尽くすようになってしまえば、いずれ彼女自身に行いが返ってくるかも知れない。

 無邪気で、甘えん坊な笑顔を知る人間の一人として、それだけは絶対に避けたかった。

 

 

「さて、じゃあそろそろ出ようか……あ」

 

「どうしたの?」

 

「いや。出口、そっちだったなーと」

 

 

 話も終わり、シャワールームから出ようとする指揮官だったが、ふと気付く。

 このまま出口へ向かおうとすると、SOP Ⅱの後ろを通る事になると。

 各ブースに仕切りはあるが、扉はない。見ようと思えば、すれ違い様に見えてしまう。

 彼が何を考えているのかを悟ったらしく、SOP Ⅱは身を庇うようにして縮こまった。

 

 

「……見ちゃダメだからね」

 

「わ、分かってるとも。大丈夫、目を閉じても迷わない距離だからな」

 

 

 若干うろたえつつ、指揮官は腰にタオルを巻き、目を閉じたままブースを出る。

 しかし、やはり慌てていたのだろう。

 進む方向は出口から斜めにずれ、彼は反対側のブースへと一直線に進み……。

 

 

《ゴスッ》

 

「うぉぐっ!?」

 

「指揮官? だ、大丈夫?」

 

 

 思いっきりブースの仕切りに突っ込んだ。

 かなりの速度で体の中心線を抉られ、流石の指揮官も悶絶している。大事な所にも掠ったかも知れない。

 けれど、ここで立ち止まる訳にはいかない。せっかく温まったのに冷や汗を流し、指揮官は気丈に振る舞った。

 

 

「~~~っ、も、問題ない、平気、だから。ははは……」

 

「……んもう。仕方ないなぁ」

 

 

 必死に指揮官が笑みを浮かべていると、不意にSOP Ⅱは溜め息をつく。

 ペタペタペタ、と素足が近づいてくる音。

 遠かった気配が、間近に感じられた。

 

 

「絶対に眼は開けないでね。信じてるからねっ」

 

「あ、ああ……?」

 

 

 強めの口調で言われ、なんの事か分からないまま、とりあえず頷く指揮官。

 すると、細く柔らかい指が手に絡み、先導するようにして引っ張り始めた。転ばないよう、非常にゆっくりとしたペースで。

 目を閉じているせいだろうか。

 繋がれた手の感触をいつも以上にハッキリと感じ、ダメだと分かっていながら、手を引いてくれるSOP Ⅱの裸体まで想像してしまう。

 きっと、こちらを向いてはいない。

 見ても、バレは……。

 

 

(いやいやいや、何を考えてる!? SOP Ⅱは信じてくれてるんだ、裏切るような事だけは……!)

 

 

 辛うじて誘惑を跳ね除けた指揮官は、歯を食いしばって、まぶたを開かないよう努力する。

 長くは保たない事を自覚していたが、幸か不幸か、出口までの距離は短く、10秒もしない内に辿り着く。

 

 

「はい、ここが出口。本当に平気? 内臓にダメージ行ったりしてない?」

 

「痛みが増しそうな例えは止めてくれ……。そこまでひどくはない、ありがとう」

 

「うん。あ、まだダメだよっ」

 

 

 目を開けないよう念を押してすぐに、SOP Ⅱの気配が背後へ回る。

 引き戸の動く音が聞こえ、「もういいよ」という声も。

 そこでやっと目を開ける指揮官だが、まだ危機的状況を脱していないので、後ろは振り向かない。

 次にするべきは……服を着てシャワールーム出る?

 違う。その前に、口止めをしておかなければ。

 

 

「じゃあ、早めに出て行くとするよ。それと、今日の事は秘密にして貰えないか」

 

「秘密? ……ワタシと、指揮官だけの?」

 

「ああ」

 

 

 本来は指揮官が立ち入らないシャワールームで、うっかり裸のSOP Ⅱと鉢合わせした……などという事実が広まったら、基地が色んな意味で騒がしくなってしまう。

 からかわれるだけで済めば御の字。最悪、一部の戦術人形に迫られたりするやも知れないし、そうなったら何時まで理性が保つか。

 更なる危機を招かないためにも、無かった事にする──秘密にしてもらうのが一番なのだ。

 

 

「ぅ、うん。分かった。二人だけの秘密、だね」

 

「ありがとう。助かる」

 

「……えっへへ……」

 

 

 色良い返事を貰え、指揮官は安堵する一方、SOP Ⅱの妙に嬉しそうな様子には気付かない。

 そのままSOP Ⅱは奥へ戻ってしまい、指揮官が彼女の胸の内を察する機会は失われてしまった。

 そして、カリーナの用意してくれた服に袖を通し、意気揚々とシャワールームを出て行こうとするのだが。

 

 

「………………あれ」

 

 

 ここで、P7の置き土産が発覚する。

 自動ドアの前に指揮官が立つのだが、開かない。

 センサーが鈍っているのかと、その場で手を振ったり、カニ歩きしてみたりするけれど、開かない。

 徐々に指揮官の顔から表情が消えていき、恐る恐る、手動操作パネルにタッチするが、やはり反応はない。二度、三度と繰り返しても、全く。

 

 

「あ、あれ? 開かな、開かないっ! クソ、なんでだっ!?」

 

「んもー、また指揮官騒いでるー。今度はどうしたのー?」

 

「ドアが開かないんだ! 全く反応がない!」

 

「……えええっ!?」

 

 

 ドアにへばり付く指揮官の声を聞き、ひょっこり顔を覗かせたSOP Ⅱも驚きを隠せない。

 慌てて飛び出て行こうとし、はたと気付いてバスタオルを体に巻いてから、彼の横へ。

 

 

「ちょっと、SOP Ⅱ、その格好は……っ」

 

「うわ、ホントだ開かないよっ? どうしよう指揮官、これじゃ出られないよう!」

 

「ど、どうしようか……」

 

 

 ガンガン、ドンドン、ゲシゲシ。

 どうにかドアを開けようと、殴ったり蹴ったりするSOP Ⅱの横で、指揮官は顔を手で覆っている。

 途方に暮れているのではなく、短めのバスタオルから伸びる、SOP Ⅱの濡れた手脚を見ないようにする為である。が、チラチラと指の間から見てしまう辺り、彼も男なのであった。

 

 

「まずは、そうだな。SOP Ⅱ、服を着て、髪を乾かそうか。体が冷えてしまう」

 

「あ、うん。そうだね。でも、服の前に髪を乾かさないと。その前に着たら、乾かしてる間にびしょ濡れになっちゃうから」

 

「なるほど……。髪が長いと面倒なんだな」

 

「そーなの。いつもはM4かAR-15と、お互いに手伝ってるんだ、一人じゃ大変だからって。まぁ、AR-15はワタシに髪をイジらせてくれないけど」

 

 

 とりあえずSOP Ⅱに背を向け、服を着るよう言ってみるのだが、何やら正しい手順があるらしい。

 そんなものかと納得しつつ、互いの髪をセットするAR小隊の姿を想像して、指揮官は微笑ましく思う。

 全くの蛇足だが、普段着でそうしている姿を想像しただけで、風呂上がりの姿を想像した訳ではない。決して。

 それはさておき、優先して考えるべきは、このシャワールームからの脱出方法。

 誰かに連絡を取るか、物理的にドアを破壊するか、あるいは……。

 

 

「そうだ! せっかくだし指揮官、手伝って?」

 

「……ん? 髪を乾かすのを、か」

 

「そ。こういうのを覚えておけば、将来お嫁さんを貰った時に役に立つかもよ」

 

 

 腕を組んで考える指揮官の前に、バスタオル姿のSOP Ⅱが回り込む。

 その振る舞いがあまりに自然で、指揮官も平然と対応してしまっていた。

 下手に意識するより、自然に接した方が気にせずに済むかも知れない。

 そう判断した指揮官は、少し年の離れた妹にでもするような、苦笑いを浮かべて返す。

 

 

「……とか言って、一人でやるのが面倒なだけじゃないのか?」

 

「そんな事ないもーん。ほらほら、風邪ひいちゃうから早くぅ!」

 

「はいはい」

 

 

 SOP Ⅱに手を引かれ、入り口と反対側の壁に据えられた、鏡台へと歩く指揮官。

 そもそも戦術人形は風邪をひかない。体が冷えると指揮官が言ったのは建前で、ウィルスプログラムに感染する事はあっても、人間が罹患するような病にはほぼ耐性がある。

 だが、この状況でそれを指摘するほど野暮ではなく、純粋に甘えられるのが嬉しくもあり、言われるがままに従う。

 SOP Ⅱは鏡台の前のスツールに腰掛けると、「オッホン」と大げさに咳払い。

 ピンと背筋を伸ばして指示を出し始めた。

 

 

「では最初に、タオルで優しく挟むようにして、髪の水気をとって下さい」

 

「了解しました」

 

「えっへへー。なんかワタシが指揮官みたい」

 

「そうだな」

 

 

 普段はSOP Ⅱが指揮官の指示に従うけれど、今は逆転している。それが面白いのだろう、SOP Ⅱは上機嫌だった。

 

 

「ある程度の水気を取ったら、次はドライヤーで乾かしながら櫛を掛けます。あ、毛先の方からちょっとずつ、ゆっくりだからね? でないと絡まって毛玉になっちゃう」

 

「ふむ、なるほどなるほど。ただ乾かすだけでも、キチンとした手順があるんだな」

 

「そうなのですっ」

 

 

 褒められた訳でもないのに、得意げに胸を張るSOP Ⅱ。

 キツめに巻かれていたバスタオルは緩まないが、そのせいで却って胸元は窮屈そうである。

 ところが、意外な事に指揮官は髪を乾かす作業に夢中で、強調されまくっている胸の谷間も目に入らない。

 自然とそうさせる程、彼女の髪は美しいのだ。

 

 

「綺麗な髪だな」

 

「えっ? ど、どうしたの急に」

 

「いや、純粋にそう思って。

 なんていうのか……。紡ぎたての絹糸みたいな。

 まぁ、本物の絹糸なんて触った事ないんだが、そんな気がする。

 SOP Ⅱの髪、綺麗だ」

 

「うう……。何度も言わなくていいよ、なんか、恥ずかしくなる……」

 

 

 指揮官に他意はなく、ただ思った事を口にしているようだった。

 むしろそのせいで、真正面から褒められているという事実を実感させられ、SOP Ⅱの頬が上気する。

 ドライヤーが静寂を誤魔化してくれなければ、恥ずかしさに逃げ出していたかも知れない。と言っても、ドアは開かないので逃げられなかっただろうが。

 

 髪は長い分だけ乾かすのに時間が掛かり、根元に着くまで10分を要した。

 その後、「最後に根元から髪を梳かして?」と言われた指揮官は、出来る限り優しく、ゆっくりと櫛を掛けていく。

 時折、思い出したように手櫛も混ぜるのだが、髪が指に絡みつく事はなく、SOP Ⅱも目をトロンとさせ始めていた。

 

 

「指揮官、上手だね。気持ち良くて、眠たくなってきちゃう……」

 

「こら。服も着ないで寝ちゃダメだろう。というかだな、まだドアが開かないという大問題が残ってるんだぞ?」

 

「あ。そうでした……。う~ん、どうしよー?」

 

「蹴破るのは物理的に不可能だし、ハッキングは機材がないから無理。外部に救助を頼もうにも、通信端末を部屋に置いてきてしまった」

 

「じゃあ、ワタシが連絡しよっか? ここ、別に電波を遮断する構造にはなってないはずだから、戦術人形なら通信できるよ。M4とかを呼べば……」

 

「待て待て待て! M4はマズい! 変に誤解されて拗れたら困る! 同じ理由で一〇〇式とかもダメだ!」

 

「えー。変なのー」

 

 

 髪を梳かしながら慌てる指揮官を、SOP Ⅱは不思議そうな顔で、鏡越しに見ている。

 確かに彼女の言う通り、戦術人形であれば、相手が閉鎖モードにでもしていない限りは通信できるだろう。

 しかし、この場にもしM4を呼び寄せたりしたら。一〇〇式を呼び寄せたりしたら。

 ハイライトの消えた瞳で、「なんでシャワールームに二人でいるんですか……?」と、小首を傾げ問われる未来が容易に想像できた。下手をしたらダブルで来る可能性だってある。

 そんな修羅場を経験したくなかった指揮官は、必死で代案を考え続けたけれど、結果として誰かを呼ぶ以外に解決策を見つけられず、ならばせめて人選は慎重に行おうと、諦め気味な溜め息をつく。

 

 

「仕方ない。こうなったら伝家の宝刀(G36)に頼もう。この時間なら後方支援任務から帰ってきてるはずだし、彼女ならどうにかしてくれる。きっと」

 

「G36って、あのメイドさん? そんなに凄いの?」

 

「ああ。色んな意味で頼りになる。連絡してみてくれるか」

 

「……はぁい」

 

「あ、その前にSOP Ⅱ、服を……」

 

「分かってるってば! あっち向いてよエッチ!」

 

「す、すまない」

 

 

 髪もすっかり乾いているし、服を着るよう促す指揮官だったが、G36の名前を出した途端、機嫌を悪くしたSOP Ⅱに背を向けつつ、頭も悩ませる。

 G36の事が苦手? それとも、流石に平然と振る舞い過ぎて、女性としての自信を傷つけた?

 本当はとても簡単な事なのだが、この時の指揮官には全く思いつかず、首をひねるばかりだった。

 

 程なくSOP Ⅱは着替えを終え、指揮官の目の前で、目を閉じて何やらブツブツと。

 やがて、「すぐに来るって」と言うのだが、やはり態度が素っ気ない。そして無言。

 これはどうしたものだろうか。

 指揮官はやや表情を硬くしつつ思考するけれど、答えが導き出されるより先に、外側から自動ドアが開いた。

 

 

「お待たせ致しました、ご主人様。SOP Ⅱさん」

 

「ああ、助かったよ、G36。君が居なければどうなっていたか」

 

「いいえ。ご主人様の要望に応えるのは、私の務めですから。……推測ですが、これはP7さんの仕業でしょうか?」

 

「よく分かるな。SOP Ⅱが後ろ姿を見ただけだが、間違いないだろう」

 

「やっぱり……。彼女はいつもこうですから。またお仕置きを考えませんと」

 

 

 いつも通りの、楚々とした立ち振る舞いのG36に、指揮官がホッと胸を撫で下ろす。

 仕事帰りだというのに文句も言わず、然も当然と面倒事を解決してくれる。

 これこそ戦術人形──自律人形の在り方なのだろうが、それでも非常に有り難かった。これで危機的状況から脱出できる。

 指揮官は今度こそ意気揚々とシャワールームを出て行き……ふと、SOP Ⅱが入り口で立ち止まっているのに気付く。

 

 

「SOP Ⅱ? どうした?」

 

「……なんでもない。ワタシ、部屋に戻るね。おやすみ」

 

「ああ。おやすみ……」

 

 

 問い掛けてみるものの、彼女は指揮官の横を通り過ぎ、そのまま小走りで廊下を駆けていく。

 と思いきや、少し進んだ先でクルッと振り返り……。

 

 

「いーっだ!」

 

 

 子供のように大きく歯を見せてから、また振り返って走り去った。

 唐突な行動に、残された二人は……いや、指揮官だけが目を白黒させている。

 

 

「どうしたんだ、SOP Ⅱは……?」

 

「ご主人様が罪な御方というだけです。それより、一つ確認したい事があります」

 

 

 G36であれば、そして女性であれば簡単に見抜ける感情──嫉妬を、しかし他ならぬSOP Ⅱのために秘して、G36は指揮官に向き直る。

 何も、嫉妬心は彼女の専売特許ではないのだから。

 

 

「SOP Ⅱさんと、御一緒にシャワーを浴びられたのですか?」

 

「……え……?」

 

 

 そんな、感情の赴くままに発せられた質問をされて、またしても指揮官の顔が強張る。

 真実はYes。済し崩しではあったが、一緒にシャワーを浴びた。

 が、それを言うのは倫理的に憚られる。

 G36なら言いふらすなんて事はしないだろうけれど、どうにもやましい事をしてしまった感が拭えず、指揮官は嘘をつく。

 

 

「いや、一緒には浴びてない、ぞ。別々に浴びた」

 

「そうですか。まぁ、真偽の程はどうでもいいのです。その代わり……」

 

 

 いいのかよ! と脳内で突っ込む指揮官を他所に、G36は一旦言葉を区切る。

 軽く深呼吸。

 少し気恥ずかしそうに眼を伏せた後、上目遣いに彼女は続けた。

 

 

「私に、ご主人様のお背中を流させて頂きたいのです。今回の褒美、として考えて下されば幸いです」

 

「せ、背中を? それは前に断った……」

 

「……SOP Ⅱさんとは、一緒にシャワーを浴びたのに?」

 

「いやだから、浴びてない……んだよ、本当だ。本当、なんだ……」

 

 

 真っ直ぐに見つめてくる碧い瞳。

 指揮官は段々としどろもどろになり、顔は完全に硬直。戦闘中でもないのに能面となる。

 じー。

 睨めっこが続く事およそ30秒。

 誤魔化しきれないと判断した指揮官が、力なく項垂れた。

 

 

「分かりました……お願いします……」

 

「ありがとうございます、ご主人様。明日は精一杯、ご奉仕させて頂きますね」

 

 

 にっこり。G36は、とても満足そうに微笑む。

 その微笑みたるや、この世の幸せを独り占めにしたような、そんな風にも見える笑みだった。

 指揮官は、そんな笑みを向けられながら思う。

 ただ背中を流してもらうだけのはずなのに、何故、メイドさんがご奉仕と言うだけで、隠微な雰囲気が漂ってしまうのだろうか、と。

 そして、とりあえず明日の朝一で水着を通販しよう、とも。

 

 羨ましくも悩ましい、彼の受難の日々は続く……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとカリーナさん! あたしの口座から勝手になんか引き落としされてるんだけど!?」

 

「ああ、その事でしたら、指揮官様からのご指示ですわ。壊した自動ドアの修繕費と、その他必要経費だそうです。

 それと、今日から毎日、交通管制の後方支援に出てもらうそうです。頑張って下さいね?」

 

「そんなぁ!? あ、あたしがやったっていう証拠でもあるのっ?」

 

「私は指示されただけですので……。でも、そんな風にP7さんが怒鳴り込んできた時のために、G36さんが用意したらしい特製トマトジュースが……」

 

「ひいぃ!? ななな、なんでもないですゴメンナサイ勘違いでしたぁーっ! 全力で交通管制してきますーっ!」

 

「P7さん? あーあ、勿体無いですね~。

 お仕事を追加されても頑張れるようにって、甘くて美味しいトマトジュースを用意してくれてたのに。

 ……消費期限が短いって言ってましたし、私が飲んじゃおーっと。ん~、美味し~♪」

 

 

 

 

 




 前回のあとがきでキャリコさんが出ないと愚痴りましたが、更新して数時間後のデイリー製造でお迎えしました。ビックリしました。
 翌日には二人目が出ました。超ビックリしました。見た目ギャルっぽいのに真面目で素直で堪らんですたい。
 にしても、書けば出るのは実践してましたけど、あとがきでも効果があるとか逆に怖いわー。マジ怖いわー。
 あー、怖いからG36Cとか97式とかKarとかRFBとかカルカノ姉妹とかPKPとか来ないといいなー!(チラッ
 今来られたらまた代用コアが一桁にまで減っちゃうもんなー!(チラッチラッ

 さてさて、ただいまウサギ狩り作戦の真っ只中ですが、第3ステージまでは余裕でした。二軍どころか三軍の育成ついでに攻略できる程ぬるかった。んが、第4ステージがキツかったっすわ……。
 最初は様子見で、でも負けるの嫌だったからレベルMAXのG11、M4A1、416と、90代のvectorに一〇〇式で向かったんですが、ボッコボコにされつつB勝利でした。
 コントロールすればS勝利も余裕でしたけど、あれ、エルフェルトさん目当てで始めた新人指揮官さんはクリア出来るんですかねぇ……? 正直、作者もG11ちゃんが居なかったらS勝利出来てたかどうか。
 あ、限定スキンはスルーします。クリスマスにスオミお勧めのメタルを掛けるためにも、節約せねばならんとです。

 次回は某猫耳科学者さんが登場予定。M4一〇〇式コンビもガッツリ出します。お楽しみに。
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