戦術人形は電気イタチの夢を見るか 作:缶コーヒー
if展開ではなく、全ての話が繋がった上で、彼女達が基地にやってきます。
45姉は猫被り可愛い。被ってなくても勿論可愛い。
そして、描き始めた途端にデイリー製造でやってくる45姉と416ちゃん。乱数偏り過ぎやろ。
息を吐き、大きく空気を吸い込んで、また吐き出す。
緊張が伺える深呼吸は、大きめのポットと小包片手に立つ、指揮官の物だった。
通常業務も終わり、皆が夕飯までをくつろいで過ごす頃合いに、とある部屋の前に居る。
周囲に人気はない。基地の中心部から離れた予備宿舎だからである。
硬い表情が、気安い訪問ではない事を物語っていた。
「……よし。いくぞ……」
呼吸を整え、顔の筋肉から力を抜いた指揮官は、スライドドア脇のインターホンを押そうと手を伸ばす。
しかし次の瞬間、ドアが内側から開いた。
「うおっと」
「きゃっ」
出てこようとした人物と衝突しそうになり、指揮官は後ずさり、その人物もたたらを踏む。
暗い色合いの茶髪のサイドアップ。黒いフード付きジャンパー。左眼の傷。
UMP45というSMGを使う、戦術人形だった。
「すまない。ちょうど開くとは思ってなくて」
「ううん、私も不注意だったから。ごめんね、指揮官」
部屋と廊下の境目を挟み、二人は互いに謝る。
指揮官を見る45の眼は、最初こそ驚きで見開かれていたものの、すぐに柔らかさを帯びる。
「それで、どうしたの。私達に何か用事?」
「ああ。今日の仕事で、本物のコーヒー豆が手に入っただろう。君達にも飲んでもらいたくてな」
「え、いいの? 本物って、かなり高価なんじゃ……」
「いいんだ。親睦を深める意味でも、美味しいものを一緒に味わいたい。どうかな」
「断る理由なんかないよ! さ、入って入って♪」
部屋を出ようとしていたはずだろうに、45は満面の笑みを浮かべ、指揮官を部屋に招き入れる。
今日の仕事──指揮官自身が前線に赴いての定期巡回では、彼女が率いる小隊も巡回を行っていた。
その際、補給物資としてコーヒー豆を手に入れた事を指揮官が説明していたのだが、お裾分けがあるとは思っていなかったに違いない。そう感じさせる上機嫌さだった。
申し訳程度の家具が置かれた部屋に足を踏み入れると、まず45と似た風貌の少女──UMP9が指揮官を出迎える。
「あ、指揮官! いらっしゃい!」
「やぁ、ナイン。部屋は気に入ってくれたか」
「もっちろん! 雨漏りしないし、隙間風も入らないし、何より冷暖房完備! 至れり尽くせりで、もう最高!」
「そ、そうか。苦労してきたんだな……。これ、差し入れのクッキーだ。全員分あるぞ」
「私達に? ありがとう、指揮官っ」
小走りに歩み寄るナインへ小包を渡せば、屈託のない笑顔がひときわ輝く。
飼い主からオヤツを貰った子犬みたいだ、と指揮官は思ってしまう。
そんなナインに続いて、部屋の中央にある丸テーブルへと向かうと、スツールに座って文庫本を読んでいたらしい白髪の少女──HK416が顔を上げた。
「あまり間に受けないで下さい、指揮官。ナインは何事も大袈裟に表現しますから」
「そう、なのか。まぁ、喜んでくれているなら、それで良いさ。君はどうだ、416。何か不便を感じたりとか」
「……いいえ。良い環境だと思います。ベッドで寝られますし」
少し考える素振りを見せた後、416はナインを肯定する形で頷いた。
同時に、ナインが語ったこれまでの生活ぶりは誇張ではないと悟り、世知辛い時代を密かに嘆く指揮官である。
流れで部屋の隅のベッドに眼を向けると、二つ並んだ二段ベッドの片方、その下段が埋まっている事が分かる。
小さなシーツの山に隠れているのは、この小隊最後のメンバーだろう。
「G11は……寝てるのか」
「寝坊助さんだからねー、あの子は。起こす?」
「いや、そのままで構わない。彼女の分のクッキーは残しておいてくれるか」
「分かってます。私達だけで食べたりしたら、拗ねて二週間は起きなくなっちゃうもの」
「長っ」
「ふふふ。そう、長ーいの」
指揮官が思わず素で呟くと、テーブルに人数分+1(指揮官の分)のティーカップを置く45が微笑む。
他愛のない冗談? いや、ドローンで見ていた限り、巡回中もほとんど居眠りしていた。冗談ではないのかも知れない。
ともあれ、既にカップは並べられている。クッキーも既に皿の上で、小さなミルクポットと角砂糖も準備万端。
最初から座っている416と、45、ナインが席に着いたのを見計らい、指揮官はコーヒーを注ぎ始めた。
「ん~、いい香り~。いつも飲んでるのとは全然違うね、45姉」
「なかなか本物は手に入らないもの、仕方ないわ。指揮官に感謝しなきゃ」
「どういたしまして。だが、一人二杯までだぞ? それ以上は持ってきてない」
「そっか。じゃあ味わって飲まなきゃ!」
「ふふ、そうね、ナイン」
「このコーヒー、指揮官が淹れたんですか?」
「ああ。スプリングフィールドに、正しい淹れ方を教わった。豆の挽き方から、お湯の注ぎ方、蒸らし時間まで。厳しい先生だったよ」
かつての主要な原産国が汚染されてしまってから、コーヒー豆などの嗜好品の値は恐ろしく高騰している。
おかげで代用食品の研究は進み、多くの人々の舌を満足させてきた訳だが、しかし本物への欲求……憧れのようなものは無くならなかった。
人形でもその辺りは同じらしく、徐々に満たされていくカップを見つめるナインは真剣そのものだ。
期待されているのが分かりやすく伝わり、微笑ましい。
一方で、416は単に興味があるだけなのか、あまり表情に変化は見られない。
けれども、いざ目の前にカップを置かれると、その芳しい香りに呼吸が深くなっていた。
違いはしっかりと感じ取っているようだ。
「それぞれに好みがあるだろうから、砂糖とミルクは自由に使ってくれ」
「はぁーい。ところで、指揮官の好みは?」
「そうだな……。普段は砂糖を二つ、ミルクをスプーンに一杯入れるんだけど、本物だからな。砂糖は一つ、ミルクは二~三滴……ってところか」
「なるほど~。じゃ、真似してみよっかな」
「45姉が真似するなら、私も!」
「ははは、そうか。416はどうする?」
「私は……ブラックで、いいです」
「ほほう。通なんだな」
「……いえ」
この飲み方がオススメ、というつもりではなかった指揮官だが、真似して貰えるのは妙にくすぐったい。
勿論、416の飲み方も、コーヒー本来の味わいを楽しむには良い選択であり、指揮官は素直に感心するが、なぜか彼女はスッと視線を逸らす。
その間にUMP姉妹は砂糖とミルクを入れ終えたらしく、「頂きます」とカップに口をつけていた。
「どうだ? 代用コーヒーより香りが強くて、苦味だけじゃなく、ちゃんと酸味や深味もあって、美味しいと思うんだが」
「指揮官、コーヒー好きなのね。まぁ、確かに美味しいけど……♪」
「う……。45姉、私やっぱり、お砂糖もうちょっと入れる……」
「はいはい。無理しなくても良かったのに。416は平気?」
「問題ないわ」
うっとり、コーヒーの香りに酔いしれる45。
思っていたより苦かったのか、砂糖を一つ追加するナイン。
澄まし顔でカップを小さく傾ける416。
仕事終わりのコーヒーを優雅に楽しむ少女達の姿は、心得のない指揮官でも、思わず写真に収めたくなる団欒の光景だった。
「せっかくだ、クッキーも食べてくれ。こっちはG36のお手製だから、味も保証する」
「へぇー、じゃあ絶対に美味しいね! あむっ。ん〜、やっぱり甘くて美味しい~。コーヒーに合う~」
「ナインったら、はしゃぎ過ぎよ? ……うん、美味しい。苦いコーヒーに甘いクッキー、最高の組み合わせよね、416」
「……ええ。幸せだわ……」
クッキーを勧めてみると、今度は年頃の少女らしい笑顔が華を添える。
心なしか、416の頬も緩んだような……。もしかすると、ブラックを選んだのは見栄を張りたかっただけなのかも知れない。
その証拠に、416はさっそく二枚目のクッキーを口へ運び──その途中で指ごと食べられてしまった。
音もなく、のそのそとやって来たG11が犯人だ。
「あっ。ちょっと、G11! 私の指まで食べないで! っていうか、いつ起きたのよ!?」
「
「全くもう……。コーヒーは? 飲むの?」
「甘くして。じゃないと飲めない」
「指揮官、お願いします」
「了解した」
指をハンカチで拭きつつ、416は追加のコーヒーを頼む。
言動は素っ気なく見えるけれど、世話焼きな性分がそこかしこに見受けられ、これまた微笑ましく思う指揮官である。
新たにG11の分のコーヒー(砂糖3・ミルクたっぷり)が用意され、丸いテーブルは五人の椅子で埋まった。
指揮官の右から、45、ナイン、416、G11の順番である。
「そういえば、まだお礼言ってなかったよね。ありがとう、指揮官」
「ん? 急にどうした、45」
「いきなり押しかけただけの私達に、こんな風に部屋を用意してくれたり、他にも色々含めて」
「その件か……。出来れば事前に連絡をして欲しかったが、これも仕事のうちさ」
少々申し訳なさそうな45だったが、指揮官が笑い返すと、安心したのか彼女も眼を緩く細める。
そもそもの発端は、なんの前触れもなく、45の率いる小隊が、ダミーリンクごと基地にふらっと現れた事だ。
最初に対応したのはカリーナで、「見知らぬ人形がお仕事くださいって来てますけど……?」と言われた時など、本当に驚いたものである。
グリフィン所属の戦術人形である事を確認した後は、戸惑いつつも割り振れる仕事を探し、追加の補給物資やこの部屋を使う手配などを済まし、あれよあれよと今に至る。
予定外だったけれど、個性的な戦術人形に囲まれるのが常の指揮官にとっては、想定の内でもあった。
「やっぱり基地は安心できるよ~。今までは、キチンと休める場所って本部くらいしかなかったし。
いつでも温かいご飯を食べられて、飲み物のベンダーは壊されてなくて、シャワーも浴び放題! 天国だよね~!」
「言われてみれば、そうなんだよな。すっかり慣れて忘れがちだけど、こんな風に日々を過ごせるのは、幸せな事なんだ」
「……なんだか、随分と実感がこもっているように聞こえますね」
「ん、まぁ、色々とな。気にしないでくれ、416」
大きく伸びをするナインに同意し、深く頷く指揮官。
PMCが管轄する地域……主に富裕層の住む環境と、この基地における住環境は、ほぼ変わらない。
第三次大戦以降、貧富の差が埋め切れないほど広がっている昨今、最初から恵まれた環境に居る人物が、ナインや指揮官と同じ意見を持つ事は少ないだろう。
加えて、指揮官の口振りは上辺だけでなく、経験に則っての発言だと感じさせる重みがあった。
それが気になって416は尋ねるのだが、指揮官は苦笑いで誤魔化し、追及される前に自分から話を振る。
「この小隊のリーダーは45だったな。一つ確認しておきたい事があるんだが、いいだろうか」
「いいけど……。なに?」
「この基地に常駐するつもりなのか、それとも単に立ち寄っただけなのか、だ。
前者なら、この部屋は君達の物として正式に割り振って、生活面での細かいサポートも受けられるようにする。
ただ、同時に仕事も受け持ってもらう事になるし、その際の指揮権は……」
「私から指揮官に移るんでしょ。その為の戦術指揮官なんだから、当たり前じゃない。みんなもそれで良いわよね?」
多くの経験を積んだ戦術人形であれば、人間の指揮官に頼らず、自律して作戦を遂行するだけの能力を持つ。
AR小隊を始め、FAL率いるFN小隊、MG同期型戦術人形──ネゲヴ率いるネゲヴ小隊、HG同期型戦術人形──マカロフ率いるチーム・マカロフなどが有名であり、45の小隊もこれらに匹敵する……とまでは行かないまでも、それなりに仕事はこなせるというのが、彼女達の“一般的”な評判だ。
しかしながら、与えられた権限から判断すると、戦術人形よりも戦術指揮官の指揮権が優先される。
既に一度、巡回任務に就いているとはいえ、これまでUMP45というリーダーの元で働いてきた三名が、本格的に別人の指揮下へ入るのだから、少なからず不満があるのではないか。
普通の戦術指揮官ならば全く気にしない事が、彼には気掛かりだったのである。
……けれども。
「私は45姉の言う事に従うし、45姉が従うと決めた人の指示になら従うよ」
「指揮官の噂は前から聞いていました。信用できると思います。……G11、あんたは?」
「え……? んん……お休み、貰える?」
「うちは完全週休二日制だ。緊急事態以外でなら、普通に有給も取って貰って構わない」
「じゃあ、頑張る」
「はぁ……。ったく、仕事があるだけ有り難いと思いなさいよ」
そんな気掛かりを、笑顔のナイン、未だに寝惚け眼なG11と、彼女を窘めるような416が否定する。
本人を前に建前を崩していないだけ?
疑り深いと自分でも思う指揮官だったけれど、ものはついでと、更に質問を重ねてみる。
「だが45、どういう心境の変化なんだ?」
「心境の変化って? より良い仕事環境があるなら、人形にだってそれを選ぶ権利はあると思うけど」
「勿論。けど君達は、今まで特定の基地に身を置く事なく、方々を歩き回って、時折り仕事をするだけだったそうじゃないか。
どうして今更、この基地に常駐する気になったのか。どうにも気になってな」
そもそも、能力は決して低くないにも関わらず、45達が上記のような評価を受けているのは、あまり仕事をしないからである。
公の記録に残る作戦に殆ど参加しないで、時たまフラッと戦場へと現れ、勝手に仕事を手伝っていく場合もあった。
根無し草。風来坊。自由人。
こう言えば聞こえは良いけれど、要は半分遊んでいると思われているのだ。事実、指揮官もそう“思っていた”。
が、現に彼女達は退屈な巡回任務を果たし、これからもキチンと仕事をするつもりでいる……らしい。
遊び人が真人間(人形だが)になった理由。
それは一体、なんなのか。
「それはね……」
「……それは?」
問い質す指揮官の眼を見つめ、45は勿体振る。
部屋には沈黙が広がり、ナイン、416も釣られて黙り込む。
ところが、今の今までぼうっとしていたはずのG11が、急に声を上げた。
「ねぇ、待って。何か……聞こえない?」
「どうしたの? G11」
「まだ寝ぼけてるんでしょう、きっと」
「ううん、確かに聞こえる。カリカリって、ドアの方から」
ナインと416は訝しげだが、いつになく真剣な顔付きで言うG11。
そこまで言うなら……と、全員で耳を澄ませてみれば、確かに微かな物音が聞こえてくる。
カリカリ、カリカリ。
鋼鉄製のドアを、何かが引っ掻いているような。
いの一番に指揮官が立ち上がり、スライドドアの開閉スイッチの前へ。
これが臨時司令部なら警戒するが、ここは基地内。襲撃される可能性はない。
一応、部屋の主である45達に視線で尋ね、彼女達が頷いたのを確認してから、指揮官はスイッチを押した。
すると。
「あら。猫ちゃん?」
「猫ちゃんだ!」
「……猫」
「にゃんこ……」
大きく開いたドアから、小さな影がスルリと部屋に入って来た。
赤い首輪を着けた、鍵尻尾の三毛猫だった。といっても本物ではなく、ペットロボットなのだが。
拍子抜けした皆が見守る中、その三毛猫は一直線に416の元へ向かい、膝の上に飛び乗ってしまう。
「え、ちょ、ちょっと、なんで私の所にっ!?」
「あー! 416ズルいーっ、いつの間に仲良くなったのっ?」
「知らないわよ! ぉ、降りなさい、降りて……こら、なんで丸まっ……もう!」
勝手にお座りされて、416は怒る素振りを見せるものの、猫に動じる気配は全くなかった。
それどころか膝の上で丸まり、完全にくつろぎモードである。
嫌なら無理やり退かせばいいのに、されるがままの416。
彼女の人の良さというか、心根の優しさを見た気がした指揮官は、部屋の入り口に寄りかかりながら笑う。
「どうやら気に入られたらしいな、416。猫は嫌いか?」
「……別に。好きでも嫌いでも、ないです」
「なら、しばらく甘えさせてあげてくれ。きっと喜ぶ」
「それは……命令ですか」
「さぁ。君はどう判断する?」
「………………」
少々意地悪な言い方をすると、416は仏頂面で沈黙。しかし、やはり猫を退かそうとは。
周囲にナインとG11も集まって、遠目に45と指揮官が見守り、なんとも和やかな空気に包まれていた。自然と笑みは深まる。
そんな時である。
指揮官の背後から、小走りの足音が。
目を向けてみると、赤いベレー帽に、揺れる二本のお下げ髪が近づいて来ていた。
OTs-12。通称ティスだ。
「失礼します。指揮官、タツノコを見てない? 今日はまだ一度も見てなくて……」
「ああ、ティスか。タツノコなら中に居る。ついでに挨拶するといい」
「挨拶? ……あ」
たまたま見かけたから話しかけてみたのだろう、あまり期待していない様子のティスだったが、挨拶するように促され、小首を傾げる。
横目に覗いて、そこが“例の新入り”の部屋だった事に気付いたらしく、キリリと表情を引き締めた。
「初めまして。秘密兵器ティス、以後お見知り置きを。でも、秘密兵器なので出会った事は秘密でよろしくです」
右手を上げ敬礼。“初対面”の相手に、先輩としての威厳を印象付けようとするティス。
あまりに秘密なのを強調しているせいで効果は微妙だけれど、挨拶されて無視する礼儀知らずはこの場に居ないようで、小隊メンバーが次々に声を返す。
「UMP45よ。よろしくー♪」
「UMP9! よろしくね!」
「G11、です。どもー」
「……HK416。よろし──」
「あっ!?」
「──えっ」
……ところが、416が自己紹介した所で、ティスは大きく目を剥いて驚く。416の方まで驚いてしまう勢いだ。
その視線は、416本人ではなく膝の上……彼女がタツノコと呼んだ猫に向けられていた。
「なぜ……なぜ貴方はタツノコを膝に乗せているですか……? 私は、私は懐いてくれるまで一カ月もかかったのに……!」
「いや、あの、そんなこと言われても、私が望んだわけじゃ。この子が勝手に」
「勝手にぃ!? なんたる、なんたる余裕綽々な上から目線の発言……。この……この猫こましぃ……っ」
「猫こましって何よ」
眼に涙を浮かべ、拳をワナワナと震わせて、ティスが慟哭する。
この程度で泣く? という感じな416との温度差は酷い。間違いなく風邪をひくレベルである。
だがしかし。ティスにとっては非常に悲しい事であるらしく、彼女は一人、昼ドラのヒロインを演じる。
「いいです。今は甘んじて寝取られましょう。しかし、私は必ずタツノコを取り戻してみせます! 覚えてなさい、秘密特訓して見返してやるんだから……! うううっ」
空中に涙の煌めきを残しながら、全力疾走で走り去るティス。
誰もがその背中を呆然と見送り、やがて、全員が順繰りに口を開く。
「なんだか、個性的な子ね……」
「うん……。あんな子だったんだな、ティスは。初めて知った」
「なんで怒ってたんだろうね? ただ仲良くしてただけなのに。ねー猫ちゃーん」
「分かんない……。でも、別にいいんじゃない? 目の敵にされてるの、416だけっぽいし。もふもふもふ」
「ちょっと待ちなさい。良くないわよ。なんで私だけいきなり目の敵にされなくちゃならないのよ」
45と指揮官は肩をすくめ、ナインとG11は猫を愛でるのに忙しく、416だけが不条理なライバル宣言にゲンナリしていた。
四人の中では比較的常識人っぽい立ち位置だからか、やはり厄介事は彼女目掛けて突っ込んでくるようである。そんな一幕も、戦いの合間の貴重な日常には違いない。
その一部であったはずの指揮官は、思い出したように「さて」と呟く。
「すっかり長居してしまったな。邪魔になるといけないし、そろそろ失礼するよ」
「えっ、もう行っちゃうの指揮官!? もっと話したかったのにー!」
「そう言ってくれるのは有り難いけど、知り合って間もない男が部屋に居たんじゃ、君達の気が休まらないだろう」
「そんな事ない! この世界には凄い数の戦術人形と戦術指揮官が居て、その中で色んな偶然が重なって、こうして同じ部隊に配属された。
だから私達は、とっても強い“何か”で結ばれてるの! もう家族みたいなものだよ!」
「……家族、か」
部屋を出ようとする指揮官を、ナインは熱の入った言葉で引き止める。
嘘偽りとは感じさせない、彼女なりの信念を表す口振りだった。
だが、“家族”というフレーズを耳にした瞬間、指揮官の眼が暗さを宿す。
ほんの一瞬。注視していなければ見逃してしまう程の一瞬で、指揮官はそれを苦笑いで誤魔化した。
「ナインがそう思ってくれてるのは、覚えておくよ。ただ、本当に戻らないといけないんだ。実は仕事が残ってて……」
「……つまり、サボりに来てたんですね」
「言わないでくれ、416。丁寧な仕事をするには、適度な息抜きも必要なのさ」
「あ、それはよく分かる。お昼寝とか必須ですよね、指揮官に親近感が湧きました」
「
親睦を深めるという名目でサボっていた。
ちょっと褒められない事実に、416がジト目を向けるも、指揮官はどこ吹く風。
G11の妙な賛同もあり、416は溜め息ばかりである。
そのまま部屋を出ようとする指揮官だったが、今度は45が「あ、いけない」と手を打つ。
「私も用があったんだった。指揮官が来たから忘れちゃってた」
「そういえば、入り口で鉢合わせしたんだったか」
「うん。ついでだし、指揮官のお見送りしよっかな。いいでしょ?」
「気を遣わなくて構わないんだが……まぁ、ついでなら」
言うが早いか、45は隣に並び、上目遣いに微笑んでいる。
断る理由もなく、「また来てねー!」と手を振るナインへ手を振り返し、指揮官は45と二人で廊下を歩く。
「ねぇ、指揮官。さっきの続きだけど」
「続き?」
「ほら。どうして私がこの基地に常駐する気になったのか、って話」
「……ああ」
しばらくすると、45が小走りに前へ。指揮官の方を振り返り、後ろ歩きしながら言う。
言われてみれば、まだ答えを聞いていない。ティスの乱入ですっかり忘れていた。
45はまたクルリと前を向き、後手に指を組みつつ、隣へ並び直して続ける。
「実は私、指揮官に一目惚れしちゃったの。嘘だけど」
「一目──って嘘かいっ! バラすの早くないか!?」
「あはは。いい反応、思った通り」
絶妙な肩透かしを喰らい、つんのめりながら突っ込む指揮官。
一方の45は柔らかい笑みを浮かべ、けれど、どこか声音に真剣さを滲ませる。
「一目惚れは嘘だけど……気になったのは本当よ。理由は聞かないでね? だって私達は、数日前に出会ったばかりなんだから」
「……ああ。そうだな」
「安心して。指揮官を傷つけるつもりなんて無いから。もっとも、指揮官は自分の事なんてどうでも良さげだよね」
指揮官を覗き込むその眼には、確信があるように見えた。
もっと他に、大切にするって決めてるモノがあるんでしょ。
まるでそう言っているかのような。
見透かされているようで背筋に怖気が走るが、それを無理やり押さえ込み、指揮官は質問で返す。
「そう言う君が大切にしてるモノは、君の小隊か? それとも……」
「さぁ? まだ秘密。私の事が知りたいなら、もっと仲良くならなくちゃ。それじゃ、またね♪」
そこまで言うと、45はまた小走りに前を行き、先程と違って、そのまま少し先の曲がり角へ消えてしまう。
取り残された指揮官が角に辿り着く頃には、もう後ろ姿すら見えなかった。
脚が止まる。
既に正規の宿舎近くまで戻っており、遠くから、人形達の生活音が聞こえる。
「仲良くなるだけで、済めばいいがな」
鋭い眼つきで発せられた呟きは、誰に聞かれる事もなく、壁に反響する。
それが消えると、指揮官は再び歩き出す。
必ず誰かが迎えてくれるであろう、仲間達の所へ向けて。
指揮官と別れた45は、当て所もなく彷徨うようにして、基地内の格納庫へと向かっていた。
格納庫で何かをするという訳ではない。
そこならば、必ず“彼女”が接触してくるであろうと、予想しての行動だった。
そして、45の予想は的中する。
「早速ちょっかい出してるみたいだな」
「あら、M16。この基地に居たのね、知らなかったわ。元気にしてた?」
「はっ。相変わらず白々しいな、UMP45」
「酷い言い草。本当に知らなかったのに……♪」
装甲車やジープの間をすり抜けていると、上から声が降ってきた。
顔を上げれば、装甲車の天井で寝そべっていたらしい人影──M16A1が、腕を組んで45を見下ろしていた。
互いを見る眼には、様々な感情が織り交ぜられている。
顔見知りである事を示す会話と裏腹に、その中で最も多くを占めるのは……警戒心、であろう。
「聞かないの?」
「何を」
「何が目的なんだ、とか。指揮官も本当は聞きたそうにしてたわ。煙に巻いちゃったけど」
「答えるつもりの無い奴に質問する事ほど、虚しい事はないだろう」
「そんな事ないかもよ? ひょっとしたら答えるかも知れないじゃない」
「悪いが、どうでもいい。一つ言っておきたい事があっただけだしな」
車の上から飛び降りたM16は、重々しいブーツの足音を立て、45へ近づく。
身長差ゆえか、まだ見下ろす形になるその左眼が、ギラついていた。
「あの指揮官はM4のお気に入りなんだ。妙な事は……してくれるなよ」
もはや微塵も隠すつもりのない、明らかな警告。
歴戦の勇士であるM16の凄みは、並みの戦術人形ならば凍りついてしまう程の気迫で満ちている。
にも関わらず、45の余裕にはヒビ一つ入らない。
「怖い顔。妙な事なんてしないわ。今にも撃たれそう」
「ならいいさ。私にとっても良い飲み仲間なんでな、失くしたくない」
「とか言っておいて、“あの子”と天秤に掛けられたら、迷わず選べるんでしょ」
「当たり前だ。でなきゃ戦術人形なんてやってられないだろ、お互いに」
「……そうかもね……♪」
にやり、と不敵に笑うM16。
同じく45も笑顔ではあるが、指揮官の前で見せていたものとは違う、含みのある笑みを浮かべる。
張り詰めた空気。
とても作り物──擬似感情モジュールが生み出した産物とは思えない。
彼女達の抱え込んだ業が、そうさせるのだろう。
けれど、瞬き程の間に緊迫感は露と消え、M16がおもむろに右手を差し出した。
「ま、いろいろ言ったが、戦力が増えるのは純粋に有り難い。仲良くやっていこうじゃないか? 表向きは」
「そうね。仲良くやりましょう? 表向き♪」
握り返す45の顔には、変わらず笑顔が張り付いている。
皮肉にも、あまりに綺麗過ぎるその笑顔こそが、この場で最も不出来な作り物に見えた。
そして、M16は近く思い知る事になる。
一番厄介なのは45だが、一番面倒なのは他に居たのだ、という事を。
新タイトル絵の一〇〇式ちゃんとVALちゃんの扱いェ……。
しっかし、一〇〇式ちゃんの初スキンが巫女さんとは分かっとりますな!
パックの値段控えめだといいなぁ。六四式自ちゃんのはカードで交換します。乙π! 乙π!
……ガチャ回すのかって? 破産したくないので、今後欲しいのが来たら闇鍋コレクション行きを待ちますわ。
まず引けないだろうし、ダブる可能性はドンドン増えるけど、ブラックカード化の確率も増えますし。
当座の目標は、一周年記念で実装されるはずの416ちゃんのスキン。それまでは我慢してコイン貯めます。
今回から404小隊が本登場しましたけど、微妙にシリアスチックになってしまうのは、45姉のキャラのせいなのか……。そこが良さでもあるのが難しい。
まぁ、指揮官の前では猫被ってもらうんですが。
新年一発目はティスちゃんがメイン(?)な話。某けも耳戦術人形も出る予定です。
今年一年……つーても四ヶ月ちょっとですが、拙作をお読み頂きありがとうございました。来年もよろしくどうぞ。