戦術人形は電気イタチの夢を見るか 作:缶コーヒー
殺しの為~というセリフに対し、作者はこう言い返したい。
だったらなんで無駄に可愛いんだよ愛でるぞオラァ!
またもや唐突であるが、指揮官は悩んでいた。
日々の業務の合間、基地内を移動するためにエレベーターを待っている間すら、その事が頭から離れなかった。
夜も眠れず昼寝したり、食事が喉を通らず間食で補うという、G36に怒られる生活習慣となりつつあっても、である。
(あの日以来、TMPの5m以内に近寄れたためしが無い……。やっぱり、部屋に送り届けるだけで、寝かせるのは556に任せた方が良かったんじゃなかろうか……)
それは、休憩所で眠りこけていたTMPを部屋に送り届けた、その翌日から始まった。
廊下ですれ違いながら「おはよう」と挨拶したら、「ぉおぉおぉぉはようごじゃいましゅ! ししし失礼しますぅ~!」と、真っ赤な顔で壁に張り付くようにして走り去られる。
仕事中、簡単なお使いを頼もうと近寄って声を掛けたら、「はぇ!? し、指揮官!? なな、なんでございましょう!?」と、凄い勢いで後ずさりされる。
話をしようと食堂で相席を申し出たら、まだ半分以上残っていたチーズバーガーを一気に口へ突っ込み、「も、もう食べ終わりましたので、遠慮なくどうぞーっ!」と逃げられる。
ここまで露骨に避けられるのは、初めての経験だった。
思い当たる原因は昨日の一件しかなく、このままでは業務に支障が出かねない。
どうやって解決すれば良いのかと、G36や一〇〇式、M4A1などに相談もしてみたが、「きっと大丈夫ですよ(優しい目)」「仲が良いんですね(ジト目)」「捕まえますか?(真面目)」との返事。
余計に悪化したらマズいので、M4の意見には断りを入れたけれど、どうしたものやら。
と、考え込んでいる間に、《ポーン》とエレベーターの到着音が鳴った。
ひとまず悩むのを中断、急ぎ足にエレベーターへ乗り込もうとする指揮官だったが……。
「あ」
「あ」
扉が開いた瞬間、すでに乗っていた人物と目が合い、脚が止まる。
一言で言えば、美しい戦術人形だった。
黄色いラインが入った黒のスーツを着こなす、凛とした佇まい。
烏の濡れ羽色……とは少し違うが、ほんのりと赤みを帯びた長い黒髪。赤いリボンで、一房だけを右に結っている。
ワルサーWA2000。
ドイツ製の狙撃銃を己が分身とする彼女は、閉じようとするエレベーターの扉を、無言のまま手で押さえていた。
「乗らないの」
「いや、ああ、乗る、乗るけど」
「……何よ、私と一緒じゃエレベーターも乗りたくないってわけ?」
「そうじゃない! ……そうじゃないから。ありがとう」
「ふん」
一瞬、乗る事を躊躇った指揮官だが、WAに促されて慌てて乗り込む。
目的の階のボタンを押し、今度こそ扉が閉まると、二人は微妙に距離を置いて立つ。
「………………」
「………………」
会話は無い。
チラリ、WAの様子を伺うと、彼女は不機嫌そうに顔を背けている。
正直に言うならば、指揮官は彼女の事が苦手だった。
WAとは以前、とある夜間作戦の支援をした際に知り合い、しばらくのちに指揮官の部隊へと参加したのだが、どうにも言動がつっけんどんで、取り付く島がないのだ。
同じドイツ製の銃という繋がりで、WAをよく知るG36が言うには、ちょっと素直になれないだけ……らしい。
信じたいのは山々だが、現にこうして不機嫌オーラをぶつけられていると、そんな気持ちも些か揺らいでしまう。
指揮官の悩みの種は尽きなかった。
「ねぇ、
「な、なんだ、WA」
指揮官が無意識に溜め息をつこうとした、まさにその時、意外にもWAの方から声を掛けられた。
驚きつつも平静を装って振り向くと、何故だか黙り込んでしまう彼女。
また、沈黙。
段々と息苦しさすら感じ始める程だったが、やがてWAは何か言おうと口を開き──ズドンッ。
「うおっ」
「きゃっ」
唐突な衝撃に、二人揃ってバランスを崩す。
照明がチラつき、一瞬だけ視界は暗闇に閉ざされるが、幸いにもすぐ復旧した。
「故障、か?」
「分からないけど、多分……」
指揮官はWAを支えるように背中を支え、WAも指揮官へしがみ付くようにして、何が起きたのかと周囲を確認している。
二人共、戦場を経験しているからか、取り乱す事はない。
が、互いの距離が近い事に気付いた途端、瞬く間に冷静さは失われてしまう。
「ちょっと!? どさくさに紛れて触らないでっ!?」
「ち、違う、なんとなく支える形になっただけで、触りたくて触った訳じゃない!」
「はぁ!? 何よその言い方っ、まるで必要がなければ触りたくもないって言ってるように聞こえるんだけど!」
「そ、そんな事は……あ~……」
指揮官の腕から逃れ、真っ赤になりつつ警戒心を露わにするWAへ、他意はないのだと説明しようとする指揮官だけれど、何を言っても墓穴を掘るだけだと気付き、大きく溜め息。
そのまま深呼吸へと繋げて、気持ちを落ち着かせてから、次の行動を決める。
「言い争っていても仕方ない。とにかく外部と連絡を取ろう」
「……そうね。それには賛成だわ。こんな狭いエレベーターにアンタと二人っきりとか、冗談じゃないもの」
吐き捨てるような……いや、本気で吐き捨てているようにしか聞こえない、WAの物言い。
流石の指揮官もカチンと来るが、口元をわずかに引きつらせるだけで、何も言い返さず操作パネルの非常通話ボタンに近づく。
その背中を見つめるWAは、先程からフル稼働する擬似感情モジュールを抑え込もうと必死だった。
(ホント、冗談じゃないわ。こんな、心の準備も無しに二人っきりとか、なに話したらいいのよ……っ)
強い言葉と硬い態度で誤魔化しているが、実際のところ彼女は、酷く焦り続けている。
それもこれも、思わぬ形で彼と……指揮官と二人っきりになってしまったから。
G36の見立ては正しく、WAの擬似感情モジュールは、思うように本音を言い出せない、気持ちとは裏腹の行動を取ってしまう思春期の少女を、適確に再現していたのだ。
身も蓋もない表現をするなら、WAはツンデレなのである。
妙にキツい言動は相手を嫌っているからではなく、むしろ興味の現れ。つまり、指揮官の事が気になっているのであろう。異性としてか、人間としてかはさて置き。
だがしかし、ツンデレとは「デレ」があってこそ「ツン」を楽しめるのであり、未だ「ツン」しか味わっていない指揮官からすると、苦手意識を持ってしまうのは仕方ない事でもあった。
だからという訳ではないが、彼は早急にこの密室から脱出しようと、通話ボタンの向こうに居る誰かへ呼び掛ける。
「もしもし、誰か聞いてますか? もしもーし!」
『……はいはい、こちら司令室のカリーナでーす。何かありましたかー?』
「ああ、カリーナか。助かった」
『あら、もしかして指揮官様? どうしてエレベーターの非常通話を?』
返事はすぐにあり、聞き慣れた同僚の声が安心感を与えてくれる。
指揮官は事情を説明した。
「どうもこうもない、急にエレベーターが止まったんだ。原因は分からないか? 早めに復旧させて欲しいんだが」
『分かりました、ちょおっとお待ちくださいませ……。ええと、施設管理プログラム、異常信号は……』
エレベーター内のスピーカーから、何やらタッチパネルを操作する音が。
施設全体の保全・管理を行うシステムにアクセスし、機能の確認を行っているのだろう。
程なくそれは終了したようなのだが、カリーナの声はどことなく申し訳なさそうで。
『すみません、指揮官様……。ケーブルの巻き上げ機が故障しているようでして、修理には結構な時間が掛かりそうです』
「……なぁ、カリーナ。実はこの基地、老朽化が進んでないか? この間もシャワーが壊れて酷い目に遭ったし」
『あっはははは……どうなんでしょう……。と、とにかく、すぐに救助を向かわせますので!』
「いや、そこまではしなくていい。みんなの仕事の邪魔になる。非常用の脱出口があるだろうし、そこから出るさ」
『そうですか? では、端末の方に基地の詳細な見取り図を送っておきますね』
「頼む」
通話を終えれば、間を置かずに指揮官が持つ携帯端末へと着信がある。
送られて来たのがカリーナの言う見取り図である事を確かめると、彼はWAに向き直った。
「そういう訳で、自力で脱出しなくちゃいけなくなった。手を貸してくれるか、WA」
「勝手に話を進めて、そのうえ手を貸してくれって、随分と虫のいい話ね」
「すまない。だが、救助を待って時間を無駄にするよりは、自ら動いた方が早いし、建設的だと思ったんだ。頼む」
「……分かったわ」
やけに不服そうなWAだったが、指揮官が真っ直ぐに見つめながら頼み込むと、やや顔を背けつつ頷く。
話が決まった所で、指揮官は拡大表示した見取り図を精査。
お決まりではあるけれど、点検口から出てダクトを通るのが脱出への近道だと判断した。
「じゃあ、君を持ち上げるから、まず天井の点検口を開けてくれ」
「……また、どさくさ紛れに変なとこ触るつもりじゃないでしょうね」
「非常事態だ、ある程度は我慢して欲しい。後で埋め合わせしよう。チョコアイスで良いか?」
「え? ぉ、覚えてたんだ」
「忘れるわけないじゃないか」
「……ふ、ふん……。まぁ、いいけど」
身を庇うようにして、また鋭い視線を投げ掛けるWA。
しかし、指揮官が好物の名前を出すと、仕方ない、といった風に肩をすくめ、背を向けた。
彼には見えないけれど、顔からは笑顔が零れている。
普段の「ツン」だらけな態度と打って変わり、じんわりと胸を温かくさせてくれるような微笑みが。嬉しくて仕方なかったのだ。
ところが、また指揮官の方を向いた時には消えていて、気難しい顔付きに戻ってしまっている。
当然、微笑みに気付かれる事もなく、彼はWAを持ち上げるために黙ってしゃがみ込む。
その右肩に腰を下ろすと、指揮官の手が膝と足首の辺りを押さえた。
ぴくり。WAの肩が震える。変な声が出そうだった。
「じゃ、立つぞ」
「ゆっくりとだからね! バランスを崩したら危ないし」
「分かってる……よっ」
一言断ってから、指揮官がゆっくりと立ち上がる。
さほど大きなエレベーターでないのが幸いし、十分に天井へと手が届きそうだ。
それは良いのだが、WAにはもっと他に気になる事があり……。
「平気、なの」
「何がだ」
「見た目は人間そっくりでも、中身は機械だから。お、重いんじゃないかと、思って」
線の細い少女に見えても、WAは戦術人形。
機械部品は確かに使われていて、その分、人間の女性より重い。
場合によっては、成人男性より重くなる事もあるはずなのに、指揮官は涼しい顔で返す。
「いいや。むしろ軽くて心配になるな。それより、天井は開けられそうか?」
「……ちょっと待って。今調べるから」
WAにとっては気になる事でも、指揮官には違ったらしく、点検口の調査を催促された。
嬉しいような、寂しいような。複雑な気持ちを抱きつつ、WAは天井の隅にある四角いハッチを調べる。
ロックを外し、下から押し上げれば問題なさそうだった。
「なんとか開きそう。このまま上にあがるから、ジッとしててよね」
「了解した」
「ちなみに、上を見たら蹴るから。全力で」
「いいから早く上がってくれ。実はさっきのは痩せ我慢で、結構キツいんだ」
「この……っ、失礼な男ね!」
下着を覗かれたくなくて忠告するWAに、軽口で返す指揮官。
本当か嘘かは分からないが、少なくともWAをイラッとさせる事には成功し、彼女は指揮官の肩を遠慮なく足蹴にして飛び上がる。
エレベーターの上に出ると、暗闇が出迎える。
点検口から漏れる光で、辛うじて周囲が確認できる程度だ。文字通りの狙撃戦用戦術人形であるWAには問題ないが、指揮官はどうだろうか。
そう考えている内に、彼は一人で点検口へと飛び上がって来ていた。壁を使って三角飛びでもしたのだろう。意外と身体能力は高いようである。
「で、ここから先は?」
「メンテナンス用のダクトを通って行くのが良さそうだ。後に続いてくれ」
「はぁ? なんで私がアンタの後ろなのよ」
「別に前を行っても良いが、ダクトは狭くて、四つん這いにならないと進めないぞ」
「………………アンタが先に行って」
指揮官の後ろにつくのが嫌なのではなく、戦術人形である自分が前に出るべき。
そう考えて意見するWAだけれど、四つん這い、というのを聞いて思い留まった。
男性にお尻を突きつけて、恥ずかしがる位の羞恥心はあるのだろう。
隊列を決めると、指揮官は携帯端末のライトでダクトを探し出す。
運良く手の届く高さにあり、入り口を覆うシャッターは、見取り図と一緒に送られたアクセスコードで開いた。
大人だと中腰で動けなくなり、四つん這いなら然程狭くもない、といった具合いの大きさだ。
「じゃあ、急ごう」
「……ええ」
言うが早いか、指揮官は入り口によじ登り、ダクト内部へ姿を消す。
WAが後に続くと、少し先で彼は待っていて、WAの姿を確認してから進み始める。
以降は特に会話もせず、左右に曲がったり、緩やかに上下したりが繰り返された。
迷いなく進む姿に、WAは少しだけ頼もしさを感じ、同時に不安も抱いてしまう。
もしかして、指揮官は……。
「ねぇ」
「なんだ」
「どうしてそんなに……急いでるの」
「それは……」
私と一緒に居るのが、嫌なの?
そう問い質そうとして、途中で言い換えるWA。
仕事が残っているから。約束があるから。トイレに行きたいから。
なんでも理由を思いつけるのに、どうしてあんな風に考えてしまうのか。自分で自分が嫌になる。
しかも、指揮官からの返答は、それを助長するようなものだった。
「君が、不機嫌そうだから」
「私が?」
「……ああ。エレベーターの時から、ずっと顔をしかめている。だから、よっぽど一緒に居るのが嫌なんだろうと、思って」
彼の表情は分からないが、しっかりとニュアンスは伝わってくる。
隔意。文字通り、隔たりのある気持ちが。
嫌っていると思われた。いや、思われていた。本当は違うのに。
自分の態度が良くないのは自覚していたけれど、それを直接に言われた事が少なからずWAを動揺させ、「なんでこんな時までバカ正直なのよ!」と声を荒らげたくなってしまう。
そんな自分自身が尚更腹立たしく、必死に言葉を飲み込みながら、しかし、感情は隠しきれないで言い返す。
「悪かったわね、愛想が無くて!
戦術人形なんだから、仕方ないでしょ。
……愛想なんか、無くたって良いじゃない。
私は、殺しの為だけに生まれてきたんだから」
ダクトの中を進みながらも、段々と下がっていくトーンは、自己嫌悪の現れだった。
戦術人形である
戦術人形でしかない
もっと器用な人形だったら、愛想笑いの一つでも浮かべて、会話を楽しんだり、自分の気持ちを誤解される事もないのに。
誰かを撃つ──殺す事ばかり得意で、他はろくに出来やしない。
こんな事なら、擬似感情モジュールなんて無ければ。喜びも、悲しみも、感じなければ。
「ダイナマイトは当初、炭鉱夫の過労死を防ぐために作られたんだそうだ」
「……は? 何よ、いきなり」
深く沈んで行こうとしていたWAの思考を、唐突な話題転換が混乱させる。
彼もまたダクトを進み続けながら、全く関係の見えない話をした。
「だが実際には、ダイナマイトは戦場で使われた。あまりにも多くの命が失われ、アルフレッド・ノーベルは深い罪の意識に苛まれたらしい」
「……何が言いたいの」
「生み出された経緯と、生み出された後に為す事は、必ずしも一致しないって事さ。そこに、物も人間も、人形も関係はない」
相変わらず顔は見えないものの、指揮官の語り口はまるで、自嘲しているようにも聞こえた。
だが、次に発せられた言葉は、それとは全く逆の……誇らしさすらを滲ませる。
「戦術人形として生まれたから、戦う事しか出来ないなんて事はない。
自分を決めつけるな、WA。
戦術人形である事実は変えられないが、戦う以外の事をしたって良いんだ。
君は基本性能が高いんだし、心の底から望むなら、きっと何にだってなれる。保証するよ」
あ。今、笑った。
WAは直感した。指揮官が今、自分に向けて笑っていると。
もちろん、体勢的には不可能に決まっているけれど、彼の気持ちは確かに、WAに向けられている。
どうやら励まそうとしているらしい。
(本当に、こんな時ばっかり鋭いんだから)
自然と、WAも笑っていた。
彼に見られる心配がないからか、屈託のない、年頃の少女らしい可憐な笑顔だった。
これを素直に見せられたなら、きっと指揮官もWAの真意を──本当に言いたい事を誤解したりしないだろうに。
けれど、年頃の少女としては、男性側からのアプローチを期待したい訳で。
やっぱり本音を言い出せないWAは、お礼の代わりに尖った言葉を返してしまう。
「お尻向けてそんなこと言われても、全然説得力がないんだけど?」
「うっ。し、仕方ないじゃないか、こんな場所なんだから!」
「それに、私は戦術人形でいる事を嫌がってないわ。戦うための存在である事に誇りだってある。余計なお世話よ」
「……そう、か」
今度は指揮官の声のトーンが下がり、ダクト内には再び沈黙が広がる。
無言で前を進む姿は、どこか落ち込んでいるようにも見え、WAの罪悪感を刺激する。
どうしよう、言い過ぎた。
謝るなら早めに謝らないと。
でもどうやって? なんて言ったら元気になってくれる?
素直に「ありがとう」って言えばいいじゃない。
それが出来れば誰もこんな苦労しないのよ!
「出口が見えたぞ」
「えっ。……そ、そう」
時間が経てば経つほど言い出しにくくなるのに、WAは一人で悶々と考え続け、けっきょく何も言えないまま、出口に辿り着いてしまった。
内心、酷く焦るWAを他所に、指揮官は手早くダクトのシャッターを開けて、その先にある空間──とあるベンダー前の休憩所に降りる。
つい先日、TMPが眠りこけていたあの休憩所だ。何やら妙に縁があるようである。
「ふぅ……。やっと出られたな」
「やれやれだわ、全く」
大きく背伸びをし、一足先に開放感を味わう指揮官と、ダクトから顔を覗かせ、また不機嫌そうな顔をするWA。
今度は、「結局、謝れなかった……。私の馬鹿、意気地なし、間抜け……」という自罰的な思考からの不機嫌さだった。
しかし、そんな気持ちを指揮官が知る由もなく、彼は無言のまま、WAに向けて両手を差し出す。
「……何よ、この手」
「何って、捕まらないと危ない。ほら」
「………………」
こいつは何を言ってるんだろうか。
WAは思わず呆気に取られた。
だって、危ないはずがない。
指揮官は人間だろうが、こちらは戦術人形であり、人間より身体能力が高く、運動性能という意味でなら確実に上回っている。
よっぽどトロい戦術人形でもない限り、怪我をするはずがないのだ。
けれど、彼がそうした理由は、すぐに察しがついた。
気遣っているから。
戦術人形だとか人間だとかは関係なく、「WA2000」という個人を。
(全く、どこまでお人好しなのよ)
つっけんどんな態度ばかりで、優しい言葉へ皮肉でしか返せない、どうしようもない戦術人形なのに。
そんな事どうでもいいと言わんばかりに、お構いなしに手を差し伸べてくる。
躊躇いがちにその手を取ると、何故だか体が軽くなった気がした。
今までに経験した事のない、奇妙な浮遊感。
その感覚に任せて、WAは自然と口を開いていた。
さっきまでは言い出せそうになかった、本当に言いたい言葉を伝えようと。
「あ、あのさ。さっきの話、だけど」
「さっきの話?」
「だ、だからっ。……ぁぁあ、あり、が──ん?」
ところが、肝心なところでまたしても妙な感覚を覚えた。
くん……と腰の辺りを引っ張られている。
嫌な予感。
恐る恐る後ろを確かめると、スーツのスカート部分が、シャッターの端っこに引っ掛かっていた。
いや、もう何をどうしたのか、スカートだけでなく両脚を包む黒いストッキングまでもが引っ掛かり、今にも破れそうだ。
このままでは、下着姿を晒してしまう……!
「え、あれ、ちょっ、ちょっと待って! ふ、服が引っかかって……!」
「は? あ、ああ、どうすればいいんだ。引っ張ったら、ダメだよな、えっと?」
「ううう動かないで! ただでさえバランスが悪いんだからっ、落ち──!」
どんがらがっしゃん、びりびりびり。
状況を確認するため覗き込もうとする指揮官を、ストッキング越しにも下着を見せたくないWAが身をよじって止めようとし、結果、二人は勢いよく床へと倒れ込んだ。
勢い余ってシャッターも壊れてしまったらしく、残骸が枠ごとベンダーの前まで転がる。
そして勿論、シャッターに引っ掛かっていた物も破けてしまい。
「痛た……っ、だ、大丈夫か、WA……あ」
上体を起こす指揮官が見たのは、真っ白なショーツに包まれた、形の良いお尻だった。
スカート後ろの部分とストッキングが丸っと破け、隠そうにも両手を塞がれてしまっていたWAは、真っ赤に頬を染め、目尻に涙を溜めて、指揮官を睨みつける。
「……見るんじゃないわよっ、このヘンタイっ!」
「ご、ごめん、ごめん! すまない、悪かった!」
「謝って済む問題じゃないわよっ! 動かないでって言ったのにっ!? ヘンタイ、ヘンタイっ、ヘンタイーっっっ!」
「痛、痛い、痛いって、謝る、謝るから叩かないでくれっ!」
ペシペシペシ、と涙ながらに叩かれ、指揮官は耐え続ける。
本気で叩かれたら昏倒必至なので、流石に加減してくれているのだろうが、だからこそ抵抗する訳にもいかず、ただひたすらに。
数分後。
自分のジャケットをWAの腰に巻き、「見られた、見られた、見られた」と涙目の彼女を部屋までエスコートしつつ、彼は苦悩したという。
見てもいいパンツと見ちゃだめなパンツの区別は、一体どうやってつければいいのだろうか、と。
切実に苦悩していた。
経験値ボーナス期間の0-2周回が美味過ぎる……! みんなあっという間にレベル上がるわぁ。ありがたや。
そして地味に減っていくバッテリー。今4500枚くらいあるけど、報告書って何千枚あれば安心なんだろ。
今回はテンプレ・オブ・ザ・ツンデレなWAちゃんがメインでした。
本文中でデレがあってこそ楽しめるとは言いましたけど、簡単にデレられてもつまらない&有り難みがないと思います。
なので、この作品のWAちゃんはまだしばらくツン多め。デレるのはもうちょい色々あってから。
他の子と絡めてこそ活きるキャラでしょうし、色んな子と張り合わせたいですな。
さてさて、間近に迫る第二の大型イベント、低体温症。ボス二人がエロ可愛くて早く剥きたい待ち切れない。
はよう鹵獲というか拿捕というか捕虜というか、とにかくそういう類のをこっちでも実装してくれんかのう。デストロイヤーちゃんハイエースしたい(オイ