戦術人形は電気イタチの夢を見るか   作:缶コーヒー

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 ぬぁぜだぁ……。
 ウロボロスちゃんの下乳はちゃんと拝めたのに、ぬぁぜゲーガーちゃんとアーキテクトちゃんには大破絵が無いのかぁ!!
 裏切ったな! 作者の純粋な下心を、裏切ったなぁぁぁあああっ!!
 という訳で、捕らえたアーキテクトちゃんにイヤらしい尋問する薄い本を希望。
 ただし百合とオネショタと触手(世界観的にケーブル系?)はマジ勘弁な!

 さてさて今回は、416ちゃんやや本気になる、な話。
 ちょい病んでる……というか愛が重い彼女ですけど、個人的にはクーデレ感もあるような気がします。元々は忠犬だったけど、色々あってやさぐれちゃった野良犬みたいな?
 身長に関してですが、絵師さんが設定しているようなのでそれに則っています。早く設定資料集の続報が欲しいっす。


HK416の大いなる野望

 

 

 朝。指揮官の自室。

 来客を告げるインターホンが鳴らされたのは、いつものようにG36に起こされ、食事を摂り、しっかりと身支度を整え終えた時だった。

 

 

「誰だ、こんなに朝早く」

 

「ご主人様、私が」

 

「いや、いいよ。どうせ仕事に出る所だったんだ」

 

「ですが……」

 

「いいからいいから」

 

 

 応対しようとするG36を留め、指揮官がドアへ向かう。

 タッチパネルに触れ、ウィン、とドアがスライドすると、そこには一体の戦術人形が、微動だにせず立っている。

 白い髪にベレー帽。ライトグリーンの瞳。404小隊に属する、HK416だった。

 

 

「416?」

 

「おはようございます、指揮官。お迎えに上がりました」

 

 

 不思議そうに指揮官が名を呼ぶと、416は敬礼をもって返答する。

 迎え。

 何か緊急の事案でも発生したのだろうか。

 特に用事も無いはずだったので、なおさら不思議がる指揮官に、416が説明した。

 

 

「……お忘れですか? 本日の副官は私ですよ」

 

「ああ、そうか。それで、か」

 

「はい」

 

 

 指揮官の仕事を補佐し、有事の際には護衛も兼ねる副官。

 416自身のたっての希望で、今日から数日間、彼女にこの任務を任せたのだった。

 今までは、わざわざ部屋に迎えに来てくれる副官など、一〇〇式かM4A1、スプリングフィールドくらいだったから、すぐに思い至らなかったのだろう。

 余談だが、G36はほぼ毎日部屋に来るので別枠である。

 

 

「準備が整っているようでしたら、執務室へ向かいましょう。もうすぐ職務の開始時刻です」

 

「分かった。じゃあ、G36。先に行くよ」

 

「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」

 

「いってきます」

 

 

 少し416に待ってもらい、G36に軽く手を上げて挨拶する指揮官。

 丁寧な一礼を受けながら部屋を出ると、彼の二歩後ろを歩く416が、質問を投げかけた。

 

 

「彼女は、いつも指揮官と朝を過ごしているんですか」

 

「ん? G36か。まぁ、そうなるな。自分でもだらしないと思うんだが、好意に甘えさせて貰っているよ」

 

「……そうですか」

 

 

 元々が侍従として働ける人形であり、割と早い時期に部隊へ加わったというのもあるが、指揮官の身の回りの世話は、G36が全権を任されている。

 例外として、彼女が任務に赴いている間は、他の適性がある人形──スプリングフィールドや漢陽などが務める事になっていた。

 それを聞いてどう思ったのだろうか。416の表情は動かない。

 

 

「基地にはもう慣れたか?」

 

「はい。構造は把握済みです。緊急用の脱出経路や、防衛機構の配置なども、全てメモリー内に入っています」

 

「そういう意味じゃなかったんだが……いや、職務に熱心なのは良い事だ。いざという時は頼りにしよう」

 

「いいえ、指揮官」

 

 

 今度は指揮官が質問をし、416が真面目過ぎる答えで返す。

 少々型にはまった、機械的な対応とも思えるけれど、彼女は最後に指揮官の隣へと並び。

 

 

「いざという時だけではなく、いつでも頼って下さい。私は貴方の助けになる為に、ここに居るんですから」

 

 

 どこまでも大真面目に、献身的な姿勢を示すのだった。

 

 

 

 

 

 数日前の、基地内データルームにて。

 照明も点けず、ディスプレイからの逆光に照らされながら、416はある情報に注視していた。

 

 

(これが、あの指揮官の……)

 

 

 表示される文字列が表すのは、つい最近、404小隊が加わる事になった部隊の、指揮官の戦歴。

 当然だがアクセス制限が掛けられており、クラッキングせずに閲覧可能なのはグリフィンに属してからのデータだけだけれど、今はこれでも十分だった。

 基本的に、負けが無い。

 戦闘で負ける……撤退する場合はあるものの、その後必ず、戦術的に勝利して終えるのだ。

 でなければ戦術指揮官として採用されるはずもないのだが、416には気に入らない点が一つあった。それは。

 

 

「随分とヤツらを重用してるじゃない」

 

 

 ある時期から傘下に加わった小隊──AR小隊が、以降の戦果に絶対と言っていいほど関わっている事だった。

 その前からも、一〇〇式機関短銃というテストベッド的人形を重用していたようだが、とある一件においてM4A1を救出してからは、そこに小隊メンバーが加わっていった形である。

 以降も続々と、あらゆる方面から戦術人形を迎え入れ、戦力を拡大。今やグリフィン内外を問わず注目を浴びているようだ。

 この時代に珍しく、輝かしい出世街道をひた走っている。

 

 

(確か45が、彼は“あの二人”のお気に入りだって言ってたわね……)

 

 

 ふと、UMP45の呟いた言葉が思い出された。

 彼女が言うには、AR小隊のリーダーであるM4A1と、メンバーの長姉に当たるM16A1は、かなり指揮官とは親しい間柄らしい。

 親しい間柄。

 ヤツと。ヤツらと。指揮官が。

 カアァと胃の奥が熱くなるような、不快な反応を擬似感情モジュールが生み出す。

 しかし、それを無理やりに飲み込んで、416はある方策を考え出した。

 

 

「だったら、私が彼のお気に入りになれば」

 

 

 あの二人が、指揮官に相応の感情を抱いているとして、そこに割り込んだら。

 あの二人に向けられるはずの指揮官の気持ちを、自分に向けさせたなら。

 一体、どんな顔をするだろう。

 悲しむ? 怒る? 悔しがる? 無関心を装う?

 なんであろうとも、想像するだけで胸が躍った。

 後ろ暗い喜びに笑みを隠さず、416は呟く。

 

 

「せいぜい間抜けな吠え面をかく事ね。私は完璧な戦術人形。私に落とせない男なんて居ないんだから」

 

 

 自信満々に、416は誓う。

 男性経験なんて全く無いにも関わらず、自分なら絶対に可能だと、まるでそう言い聞かせるように。

 

 

 

 

 

 時を戻し、場所は変わって執務室。

 指揮官はいつものように木目調の机に着き、庶務をこなしていたのだが……。

 

 

「ううむ。午前中いっぱいと見込んでいた仕事が、昼前に片付いてしまった」

 

 

 今日に限って仕事がやたら捗り、三~四時間を予定していたものが二時間半で終わってしまったのだ。

 様々な契約書の申請、物資配給の手配、後方支援任務の受注と配備、模擬訓練用戦闘データの確認など、多岐にわたるのだが、全てが終わっている。

 そして、その立役者はもちろん、事前にあらゆるデータを用意し、必要に応じて提示した416だった。

 

 

「仕事を早く終えられるのは、良い事だと思いますが」

 

「そうだな。これも416のおかげだ。ありがとう」

 

「副官ですから、当然です」

 

「いやいや、そんな事はない。イタズラした罰としてP7を副官にした時なんか、酷かったからなぁ」

 

「……そうですか」

 

 

 澄まし顔の416を、指揮官は笑顔で褒めそやす。

 素っ気ない返しをしてしまうけれど、内心で「掴みはバッチリね」とドヤっていたりする416である。

 事実、秘書官として使われるタイプの人形にも負けない、完璧なサポートをしてみせたのだから、ある意味では当然だが。

 ともあれ、片付けるべき仕事は終わった。

 指揮官が背伸びしながら席を立ち、仕事用のPCを待機状態へと移行させる。

 

 

「さて、せっかく早めに終わったんだ。少し早いが昼食にしよう。416、一緒にどうだ」

 

「はい。お供します」

 

 

 指揮官からの誘いを快諾する416は、またも内心で「計算通り」とほくそ笑む。

 先人曰く、誰かと親身になりたいなら食事は欠かせない、らしい。

 彼がどんな食事を好むのかを知っておけば、胃袋から心を掴む事も可能だ。

 問題は、416自身に料理の経験が殆ど無い事だが、そこは戦術人形。データさえ集めればどうとでもなるだろう。多分。きっと。おそらく。

 そんなこんなで二人は食堂へと到着し、人影もまばらな中、前時代的な黒板にチョークで書かれたオススメを確認する。

 

 

「ええっと、今日のオススメは……。ハンバーグセットにオムライスセット、か。どっちにするか……」

 

 

 顎に手を当て、仕事中にも勝る真剣さで悩む指揮官。

 416からすると、「子供っぽいメニューね」と思わざるを得なかったが、これまた先人曰く、ハンバーグとカレーとラーメンが嫌いな男は極めて少ない、とのこと。

 ここは助け舟を出しつつ、自分の株を上げるチャンスと判断し、416は彼に提案を。

 

 

「指揮官、ハンバーグセットを頼んで下さい。私がオムライスセットを頼みますから」

 

「それって……シェアするって事か? いいのか、416」

 

「はい。私も、両方の味が気になりますし」

 

「はは、意外と食に貪欲だな、君も。よし、ならそうしよう」

 

 

 食に貪欲。

 食いしん坊扱いされたようで、ちょっと納得できない416だったが、機嫌は良さそうなので、特に何も返さない。

 カウンターに並ぶと、一般の自律人形が流れるような動きで配膳。全く待つ事なく、出来立てのハンバーグセットとオムライスセットが提供された。

 トレイを手に、手近なテーブルで対面に腰掛けた二人は、さっそく食事を始める。

 

 

「頂きます」

 

「いただきます」

 

 

 指揮官の前には、焼けた鉄板の上でジュージューと音を立てる大きなハンバーグと、新鮮な野菜を使ったサラダ、コンソメスープ、ロールパンが二つ並んでいる。

 対する416は、半熟卵の上から濃厚なデミグラスソースのかかったオムライスに、オニオンスープと焼いたバゲット、付け合わせにピクルスといった内容だ。

 言わずもがな、“外”ではお目に掛かれないレベルである。

 テーブルマナーはしっかり身につけているらしく、指揮官は上品な手付きでハンバーグを切り分け、口へ運ぶ。そして416も。

 

 

「うん、うまい。オススメされてるだけあるな。そっちはどうだ?」

 

「………………」

 

「416?」

 

「はっ。す、すみません。想像していたより、ずっと美味しかったので……」

 

「はははは。そうかそうか」

 

 

 指揮官の声でフリーズから立ち直り、416は慌てて取り繕う。

 本当に、予想外の美味しさだったのである。これまで食べてきたオムライスと比べ物にならない。

 チキンライスの控えめな甘辛さ。存在を主張しながら、他を邪魔しない玉ねぎやマッシュルーム。そして、全てを包み込んで渾然一体とするフワフワトロトロの半熟卵。

 こんな美味しいものを、日常的に食べてきたこの基地の戦術人形達に、恨み言すら言いたくなる程だ。

 が、それよりも、おかしそうに笑う指揮官の笑顔の方が妙に気恥ずかしく、416は“作戦”を前倒しに開始した。

 

 

「指揮官も食べてみれば分かります。はい、どうぞ」

 

「え? ……え?」

 

 

 オムライスをスプーンですくって差し出すと、指揮官は目を白黒させて戸惑っている。

 これぞ、416が彼を落とすために立案した第一の作戦。

 衆人環視の中ではいアーン♪ ついでに間接キッスでドキドキさせちゃえ! 作戦である。

 ちなみにこの作戦名、416が参考にした非デジタルの古い書物──男を落とす為に実行すべき108の作戦(Min-Mei書房)から丸っと流用した物なので、勘違いしないであげて欲しい。

 

 

「い、いいのか?」

 

「何がです。早く食べて下さい」

 

「ああ、うん、分かっ、た……」

 

 

 416が催促するも、未だ戸惑い続ける指揮官。

 それもそのはず、遠くカウンター内の一般自律人形達が、仕事を忘れて二人をガン見しているからだ。わーきゃーと盛り上がっている。

 よくG11にしている行為なのに、不思議と416自身にも、擬似感情モジュールによる若干の羞恥心が湧き上がっている。けれど必死に堪えていた。

 やがて諦めがついたのか、指揮官は差し出されたスプーンに口をつける。

 視線が、恥ずかしげにそっぽを向いていた。

 

 

「どうですか、指揮官」

 

「……美味しい。うん、確かに美味しかった」

 

「なら良かったです。じゃあ、次は私の番ですね」

 

「そうだな。ほら、好きに食べてくれ。こっちも美味しいぞ」

 

 

 オムライスの美味しさで一心地ついたのだろう、いつもの調子に戻り、ハンバーグの乗ったプレートを寄せる指揮官。

 しかし、416は動かない。

 

 

「……? どうした。食べないのか、416」

 

「………………」

 

「よ、416……さん?」

 

 

 じー。

 指揮官を見つめ、416は言外に訴えかける。

 これぞ第二の作戦。アーンしてくれなきゃイジけちゃうぞ? 作戦だった。

 先程も言ったが、これはあくまで書物に載っていた作戦名であり、決して416が思いついた名前ではない事を、重ねて申し上げたい。きっと著者の脳内には花畑が広がっていたのだと思われる。

 閑話休題。

 416の言わんとする所を察せないほど指揮官も鈍くはなく、無言の要求に口元をヒクつかせている。

 彼の性格を考えれば、すでに自分はアーンしてもらったのだから、自分も同じようにするべき、という方程式が出来上がっているはず。

 観察眼に自信を持つ416は、しばらくしてハンバーグを切り分け始めた指揮官を見て、それを更に深めるのだった。

 

 

「416、口を開けて」

 

「……はい」

 

 

 フォークが差し出され、香ばしい匂いがより近く感じられる。

 すると、今度は416自身に戸惑いが生じた。

 よく考えたら、誰かにアーンするのは慣れていたが、アーンされるのはこれが初めて。

 どのタイミングで食べに行けば。あんまり大口を開けない方が。というか、男性との間接キスも初めてじゃ。

 

 色々と無駄な思考ばかり巡らせてしまうが、やはり戦術人形。

 長考しているようでいて、現実には一秒も経過しておらず、肉汁がテーブルへ滴る前に、416はハンバーグを食べた。

 その瞬間、またしても大きな多幸感が口から全身に広がっていく。

 噛み応えのある、密度の高い挽肉が解れると、凝縮された旨味がこれでもかと迸る。

 かと言って硬い訳ではなく、噛めば噛むほど幸せな食感は溶けてしまう。

 

 

「美味しい……。指揮官、もう一口」

 

「だ、ダメだ。また今度、自分で頼みなさい」

 

「……残念です」

 

 

 うっとりとハンバーグを堪能した416は、思わずはしたない催促をしてしまうが、指揮官に断られ、割と本気で残念がった。

 けれども、416が口をつけたフォークでハンバーグを食べようとし、一瞬、恥ずかしそうに躊躇う彼の姿を見て、作戦の成果を実感する。

 416の指揮官攻略は、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 午後になると、指揮官の仕事場は司令部へと移り、416もそれに付き従う。

 行うのは、午前中に確認したデータなどを使用した模擬訓練、並びに、各戦術人形の固有機構使用時におけるリソースの効率化。

 端的に表すなら、VR空間内での特訓だ。

 コネクターベッドは全てが埋まっており、演算装置の中では今、MAX・LINK──ダミーを四体使用した、累計100人以上という大規模バトルロイヤルが繰り広げられている。

 誰を撃ち、誰と組むかは彼女達の自由。mobとして鉄血人形も配置され、メインフレームである人形本来の数が規定数以下になるまで戦いは続く。

 指揮官はそれを観戦しつつ、時にサプライドロップを落としたり、逆にボス級の鉄血人形を沸かしたりする、ゲームマスター的役割である。

 

 

「指揮官。コーヒーです」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 416には、そんな指揮官を側で観察しながら、飲み物を差し入れる程度しか仕事は無かった。

 手持ち無沙汰だったけれど、モニターに映る訓練の推移は中々に興味深い。

 AR小隊は彼のお気に入りだったはずだが、訓練内では妙に貧乏クジを引かせるのだ。

 開始地点をmobのド真ん中にしたり、せっかく開けられたサプライドロップの中身を弾薬のみにしたり。ワザと嫌がらせをしているかのようである。

 今もまた、上手く建物の影に隠れている所へサプライドロップを落とし、周囲に居る戦術人形達の視線を集めさせた。SOP Ⅱが「指揮官のバカー! 後で覚えてろーっ!」と、集中砲火を逃れながら叫んでいた。

 

 非常に個人的な理由から、AR小隊に鬱屈した思いを抱いている416にとって、彼女達が苦労する姿を見るのは愉悦の極みだが、何故こんな事をするのだろう。

 どうにも理解できず、ジッと指揮官の後姿を見つめ続けるが、コーヒーを口にした途端、彼も不思議そうに小首を傾げた。

 

 

「あれ?」

 

「どうかしましたか、指揮官」

 

「代用コーヒーの好みは、まだ君に教えてなかったと思うんだが……」

 

 

 指揮官の問いに、416は内心で「よし」ガッツポーズをとる。

 以前、404小隊の部屋に彼が持ち込んだ天然物のコーヒーと、今回淹れた代用コーヒーは、基本的に別物であり、味の好みも分かれる。

 そこで過去の監視カメラの映像を確認した所、一〇〇式という戦術人形がよく差し入れしているのを突き止め、それを真似したのだ。

 が、監視カメラで調べたと正直に言ったらドン引き間違いなしなので、416は嘘をつく事にした。

 

 

「聞き込み調査しました。副官として、知っておくべき事だと判断しましたので」

 

「いや、お茶汲みは副官の仕事じゃ……ないとは言い切れないけど。本当に真面目なんだな」

 

「当然です。私は完璧ですから。いずれ、私以外の人形は必要ないと思って頂けるかと」

 

 

 背筋を伸ばし気味に、胸を張る416。

 自分こそが最高の戦術人形であり、他に勝る者など存在しない。

 常日頃からそう信じ、そうであろうとし続けるのが416であり、だからこその発言だったが……。

 

 

「その言い方からすると、君の言う完璧っていうのは、君だけが完璧であれば良いという感じか?」

 

「はい。なんでもこなしてみせます」

 

「確かに、それも一つの理想像だろう。しかし、その完璧さは脆いぞ」

 

「……どういう意味でしょう」

 

 

 指揮官は416を見もしないまま、こう反論した。

 軽い苛立ちを覚えたけれど、呼吸一つで飲み込み、真意を問い質す。

 すると彼は端末を操作。使われていなかった大型モニターに、訓練の映像が映し出される。

 どうにか窮地を脱し、逆襲を試みるAR小隊の姿が。

 

 

「416。君は間違いなく優秀だ。戦闘能力だけでなく、日常生活での気遣いも出来るし、勤勉なのも好ましい。

 だが、君は君しか居ない。ダミーを含めても5人分にしかならない。物理的な限界はどうしようもないだろう?」

 

「それは……そうですが……」

 

 

 モニターの中のAR小隊は、ダミーの数を減らしつつも、互いが互いをカバーし合い、驚くような粘りを見せていた。

 先陣を切るM16A1。火力で敵を押し退けるM4 SOPMOD Ⅱ。二人を支援しながら適切な移動経路を見い出すM4A1。背後を狙われないよう周囲に目を光らせるST AR-15。

 誰か一人が欠けただけで成立しない、綱渡りのような……しかし見事な連携だ。

 一方で、彼女達を狙う側は功を焦る者が突出。それを的確に各個撃破されて、戦線は崩れ始めている。

 しかも、ここに来てAR小隊を援護する部隊まで現れ、ついに形勢は逆転した。

 人形の数が規定数以下になり、訓練が終了すると、その部隊を率いていたらしい一〇〇式とM4が顔を合わせ、最初は複雑そうな表情を、次に砕けた笑顔で、どちらからともなく握手を交わす。

 

 

「だから、たった一人の完璧な誰かよりも、誰かと一緒に作り上げる完璧さの方が、頼もしいと感じるな。

 もちろん、それはそれで難しい事だし、場合によっては一人で居るよりも不完全になってしまう。

 けど、ずっと一人で気を張り詰めているより、背中を預けられる誰かが居てくれた方が、高いポテンシャルを発揮できる場合だってある。

 404小隊として活動して来た君なら、分かるはずだ」

 

 

 ここでようやく、指揮官は416へと振り返る。

 その顔は誇らしげで、同時に賞賛しているようでもあった。

 誰に向けての? 決まっている、“ヤツら”にだ。

 結局の所、嫌がらせに近い仕打ちは、信頼の裏返しだったのだろう。

 この程度の困難なんて、乗り越えられて当然だと。

 

 悔しい。憎らしい。腹立たしい。

 性能は決して負けていないはずなのに、どんなに手を伸ばしても届かない。

 並ぶ事すら出来ず、ただ追いかけるだけ。

 ……どうして。

 

 

「君の在り方を否定したい訳じゃないんだが、こういう考え方もあるんだと、心に留めておいて欲しい。

 416の上昇志向は見習うべきものだし、皆に良い影響を与えられるだろう。これからも宜しく頼むよ」

 

「………………」

 

 

 顔を伏せ、黙り込む416をどう思ったのだろう。

 指揮官は励ますようにして言葉を結ぶ。

 けれど、416は落ち込んでいる訳ではなかった。

 確かに彼の言う事は一理ある。

 物理的な限界はどうしても付きまとうし、チームとして行動した方が戦果を出しやすい場合もある。

 だが、違う。重要なのは、416の価値を認めさせること。

 どんな状況にあっても、416こそが最高の戦術人形であると、世界に証明すること。

 今はまだ認められなくとも、いつか必ず、ヤツらに取って代わる。

 その為ならば、多少の屈辱なんて耐えてみせる。

 

 

「はい。これからも、指揮官の一番になれるよう、一層努力します」

 

「……え?」

 

 

 途方もない反骨心を瞳の奥に隠し、416は、指揮官に表向きの恭順を示す。

 が、その言葉を聞いて、彼は目を丸くした。

 別段、妙な言葉選びをした覚えはなかったのだけれど、理由は彼自身が説明してくれる。

 

 

「あ~……416。その心意気は嬉しいんだが、男の前でそういう言い方は、止めた方が」

 

「どうしてですか?」

 

「……男というのは、その、とても単純な反応をしてしまう事が多々あって……妙な勘違いをする場合も、な。誰かの一番とかは、特に……」

 

 

 照れ臭そうに頬を掻き、視線を逸らす指揮官。

 全くもって想定外だが、いい意味での想定外だ。

 ここは追撃すべきと判断し、416は彼の顔を覗き込むようにして、少し身を屈める。

 

 

「勘違い、してくれないんですか」

 

「へ」

 

 

 じぃー。

 瞳を見つめ続けると、彼は一瞬、能面のように表情をなくし、かと思えば唇をわななかせ、慌ててコーヒーを飲んでは「熱っ!?」と悲鳴を上げ。

 自分の言葉一つで、大の男がこうも慌てふためく。

 その姿を目の当たりにし、416は実感した。

 男を誑かすのって、面白いかも……と。

 

 

 

 

 

 数日後。

 その日も副官とそての業務を終え、自室へと戻ろうとする416に、背後から声が掛けられた。

 

 

「HK416、さんですよね。こんばんは」

 

 

 どこか自信無さげにも聞こえる、しかし凛とした響きの声の主は、M4A1。

 胸に何やら、古めかしい書物を抱えていた。

 

 

「………何か?」

 

 

 知らず、冷たい声音で向ける416だったが、彼女はクッと唇を噛み締め、一歩前へ。

 戦術人形としては比較的背の高い……170cm程ある416を、見上げるように睨みつけ──

 

 

「私、負けませんから」

 

 

 真っ向からの宣戦布告をし、返事を待たず、そのまま横を走り抜ける。

 どうやら、ここ最近の416の動向を掴んだらしい。

 でなければ、こんな宣戦布告などしない。

 女を磨く為に実行するべき108のレッスン(またしてもMin-Mei書房)なんて古書を、抱えているはずもない。

 意外……でもなかった。

 むしろ、こうでなくては困る。

 

 

「……ふん。望む所よ。少しは張り合ってくれなくちゃ、落とし甲斐がないもの」

 

 

 長い髪をかき上げ、左右非対称の不敵な笑みをこぼし、416は止まっていた脚を動かす。

 これから先、少なくとも退屈だけはせずに済みそうだ。

 確信めいた予感に、足取りは楽しげにも見えたのだった。

 

 




 第二の大型イベント、低体温症。作者は無事に攻略を終え、エリート勲章をゲットしました。が、一言物申したい。

 紅包回収の周回が面倒くさ過ぎる!

 もうね、そのマップをクリアしたら、ジュピター最初から機銃モードにしといてくれても良かったんじゃないっすかね?
 いちいち包囲すると時間かかるから、HG3RF2で強行突破しなきゃやってられませんわー。
 ストーリー自体は面白かったし、攻略情報縛って、久々にドルフロで頭を使って攻略したのも楽しかったんですけどね。
 というか、MG5さんを五拡してなかったらクリアすら危うかったかも。難易度めっちゃ高かった。
 限定泥は二人とも救助したし、二人目の☆3ログインボーナス人形達も軒並み拾ったので、後はデイリーE1-2周回で二人目の5-7ちゃんが出ればめっけもんかな、的な感じっすわ。
 紅包? おかげでスオミんはコア消費無しで五拡できそうですぜ。デイリー製造でもポロポロ来るし、地味に倉庫がキツい。ホントにレアなのかこの子は……。それとも、そろそろ出せって催促されてる? ううむ、悩ましい。

 二月三月は欲しかったゲームが満を持して発売されるので、次の更新はかなり遅れるやも知れません。ご了承下さい。
 あああ、早くDMC5と隻狼とルルアもやりたい……。時間が足りないいいい……。
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