戦術人形は電気イタチの夢を見るか 作:缶コーヒー
ゲーム内ではキューブ作戦以降じゃないと配属されないZ-62ちゃんですが、この作品中ではそれより前に配属されていたという設定でございます。
幸い、メインストーリーに深く関係する子でもありませんし。こうしないと色々な面で成り立たないので勘弁してつかぁさい。
あと、一〇〇式ちゃんのカフェスキンはいつ実装ですか?(鼻息フンフン)
VR空間の空は、絵の具でも塗りたくったような、一面の青だった。
地面はそこにあるかも怪しくなるほど白く、配置された廃ビルも同様。一目で偽物と分かる作りになっている。
当然、その中には生き物なんて存在しないはずなのだが、しかし、真っ白な瓦礫の中を直走る一団があった。
紫のバイザーを着けた戦術人形──SMGを持つリッパーと、灰色のヘッドギアを被る戦術人形──ARを構えるヴェスピッド。
仮想敵として設定された、鉄血人形の集団である。その数、およそ20。リッパーが8、ヴェスピッドが12だ。
恐らくステータスはサーチ&デストロイ。
元は50体ずつに設定された部隊が壊滅し、フラッグシップ機も喪失した今、闇雲に索敵を実行している状態だった。
そして、そんな鉄血人形を廃ビルの上階から観察する影が一つ。
サイレンサー付きARのオプティカルスコープを覗く、ST AR-15である。
(状況はこちらに有利。いつも通り、慎重に)
物影に潜み、近づいてくる鉄血人形を待つ彼女は、一人でこの模擬訓練を行っているが、単独で行動している訳ではない。
敵の進路上の瓦礫と、既に通り過ぎた瓦礫の影に隠れる、AR-15と全く同じ容姿と装備を持つ人形──ダミーリンクが二体、文字通りの三位一体となって動いている。
完璧な
(……よし、今!)
射線が被らないよう鉄血人形の進行を待ち、然る後に、物影から飛び出しての一斉射撃が始まる。
前方。上。斜め後方。
三方向からの銃撃に、鉄血人形は手も足も出ないまま倒れていく。
どうにか瓦礫の山へ退避した個体も、上からの銃弾に倒れ、または側面に回り込まれ、結局は倒れる。
およそ七倍近い数を相手取る戦闘は、ものの十数秒で終了した。
《 戦闘終了 判定:Sランク:完全殲滅 》
三体のAR-15がマガジンを交換し終えた所で、中空に味気ない文字が浮かび上がる。
模擬訓練終了を告げるアナウンスだ。
程なく、意識が遠のくような……体から“何か”が抜け出るような感覚が。
実際にはその逆──現実の体に意識が収まっていく過程──なのだが、ともあれ仮想現実は閉じ、AR-15は現実世界へと戻っていく。
「……あ」
気がついた時には、サイドにコンソールが置かれた、コネクターベッドの上で横たわっていた。
同じようなベッドが20ほど並ぶ部屋には、中央に大型の演算装置が据えられていて、つい先程まで、それが構築する空間に居たという事になる。
手足の感覚を確認すると、AR-15はコンソールから首筋のインターフェース・ジャックに繋がるコードを引き抜く。
一瞬、全身にピリッと微弱な痺れを感じるが、いつもの事であり、特に影響はない。
ひとまず、朝の日課である模擬訓練は終了した。
今日は任務の予定もないし、これからどうしようか。
そんな事を考えつつ、ベッドを下りながら軽く伸びを。
「ふぅ……」
『お見事。毎度の事だが、圧倒的だな。スター』
「指揮官。見ていたんですか」
不意に、スピーカー越しの声が聞こえてくる。指揮官の声だ。
おそらく、模擬訓練をモニターできる隣の部屋に居るのだろう。
少し驚いたけれど、褒められて悪い気はしない。
AR-15はベッドから離れ、その部屋への扉を開ける。
すると、予想通り指揮官がモニター前で立っており……その隣に、見覚えのない少女が立っていた。
ベレー帽を乗せた、癖のない金髪のロングストレートに、青い瞳と眼鏡。白いシャツに紺色のプリーツスカートという出で立ちが、女学生を思わせる。
「彼女は?」
「新しく配属された戦術人形、Z-62だ。挨拶がてら、施設を案内していた」
「よ、よろしくお願いしますっ! さっきの模擬訓練、見ていて凄く勉強になりました!」
「……どうも」
背筋を伸ばし、Z-62が敬礼する。真面目な性格をしているようだ。
挨拶されたからには、こちらも挨拶を返さないと。
「コルトAR-15よ。まぁ、正式な型番はST AR-15だけれど、AR-15で良いわ。よろしく」
「は、はい。あれ? でも今、指揮官は……」
「スターというのは、指揮官がつけたあだ名みたいな物なのよ。指揮官しかそう呼んでないから、あまり気にしないで」
「……ダメかな? 君のイメージに合ってる気がするんだけど」
「本当にそうなら、みんなからもスターと呼ばれているはずでは?」
「うっ」
指揮官だけが使うAR-15の呼び名……スターが気になったらしく、Z-62は首を傾げていた。
単に型番のアルファベットを繋げただけの、安直な呼び名ではあるが、本当に指揮官しか使っていない物だ。
そう呼ばれるのは嫌いではないけれど、まだ華々しい結果を残してもいないのに“スター”と呼ばれるのは、生真面目なAIに引っかかる。
だから少々反抗的な言葉で返してしまう訳だが、そんなAR-15と渋い顔の指揮官を、Z-62は静かに見つめて。
「いいなぁ……」
「え? ……どうしたの、いきなり」
独り言のように呟かれたそれは、明らかにAR-15へと向けられていた。
問いかけると、Z-62が苦笑いを浮かべて説明する。
「あ、すみません。あたし、使っている銃のブランド名がスターっていうんです。
なので、あたしもそう呼ばれておかしくないかも、とか……。
でも、よくよく考えたら、あたしはAR-15さんみたいに垢抜けてないし、似合わないだろうなぁ、って」
「……そんな事、ないと思うけれど」
イベリア半島某国のボニファシオ・エチェベリア社が、戦後になって開発したSMG。それがスターZ-62である。
ASST ── Advance Statistic Session Tool という技術によって、銃との同位性を確立された戦術人形は、基本的にその銃の名前で呼ばれる事になっているため、スターはZ-62の別名であるとも言える。
一方、AR-15のスターは語呂合わせであり、正確にはコルト社製でもないので、本来ならば製造元であるSpike's Tactical社から取るべきなのだろう。
だと言うのに、Z-62は謙って。なんだか、据わりが悪かった。
(……やっぱり、今の私には、まだ……)
ほんの短い時間だけれど、気まずく感じる沈黙。
それがAR-15の背中を押し、指揮官へと向き直させる。
「指揮官。今から私をスターと呼ぶのは禁止です」
「え。な、なんでだ?」
「これからは、彼女の事をスターと呼んであげて下さい」
「えぇっ!? そ、そんな、悪いですよっ!」
「私には単なるあだ名だけど、貴方は正式なブランド名なんでしょう。なら、そう呼ばれる権利はあるわ」
「そう、かも知れませんけど……でも……」
予想だにしない提案だったのか、Z-62は慌てふためいている。
AR-15が重ねて言っても、表情は戸惑ったまま。
そして、指揮官の声にも同じような色が乗っていた。
「……君は、それで良いのか?」
「はい。構いません」
「そうか……」
躊躇いなくAR-15は頷く。
対する指揮官は、少し残念そうな……落ち込んでいるようにも見える顔付きで俯いた。
しかし、再び顔を上げた時には、それが見間違いだったかと思うほど、いつも通りの彼だった。
「分かった。Z-62が嫌でないのなら、そうしよう。どうだろうか」
「いえ、その、嫌ではないですけど、恐れ多いと言いますか、分不相応と言いますか……」
「そう思うのなら、今以上に訓練を積んで、相応しい自分になれば良いだけの話よ。お互い、頑張りましょう。スター」
「……っは、はい! 一所懸命に、頑張ります!」
最後まで遠慮していたZ-62だったが、指揮官とAR-15の二人から推されて、ようやく首を縦に振る。
やる気で満ちた瞳を見るに、押し付けられたから仕方なくではなく、本気でスターという名に相応しい自分になろうという、強い意気込みが見て取れた。
これで彼女の士気は上がり、今後の関係性も良好になるはず。良いこと尽くめだ。
AR-15は、確かにこの時、そう思っていたのである。
「ねえ、ねえっ、AR-15ってば! 聞いてるのー?」
「え? 何、SOP Ⅱ」
「んもう、さっきからずっと上の空なんだからー!」
「……ごめんなさい」
プンスカと湯気を出すSOP Ⅱに、AR-15が頭を下げる。
どうやら、ずっと無視してしまっていたらしい。
半分以上残っているボルシチも、すっかり温くなっていた。
いつぞやと違って、食堂は賑わっている。
たまたま時間が合い、二人で一緒に昼食を摂ろうとやって来た時には、席を探すのに苦労した程だ。
だからこそ、必要以上に口数の少ないAR-15が気になるのだろう。SOP Ⅱが心配そうに顔を覗き込む。
「何かあったの? ここ二~三日ずっとこうだよ。……もしかして、誰かに意地悪されてるとか!? だったら私が仕返ししてあげるよ!」
「違うから止めて。ほら、なんの関係もない通りすがりのIDWが怯えてるじゃない」
「に゛ゃに゛ゃあ~………。もうくすぐりの刑は堪忍だにゃあ~………」
「えー!? アレはお互い楽しんでたでしょー!」
「楽しんでないにゃー! 笑い死ぬかと思ったにゃーっ!!」
相変わらずな発言内容の物騒さで、本当に通り過がっただけのIDWが涙目に。
といっても、SOP Ⅱの嗜虐性は敵にのみ発揮されるため、仲間内には微笑ましいイタズラに収まっている。対象になったIDWは、肩を怒らせつつ逃げて行くが。本気で辛かったようだ。
それはともかく、SOP Ⅱの気掛かりはAR-15だ。
「で、本当にどうしたの? M4ならともかく、AR-15がボーッとしてるなんて、滅多にないし。気になるよ」
「……特に、何かあった訳じゃ……」
ボルシチへ目を落とし、SOP Ⅱの言葉を否定するAR-15だったが、その様子は明らかに覇気がない。
常に背筋を伸ばし、目的意識の高い彼女とは思えない姿だった。
と、そんな時である。
AR-15は、不意にある方向を注視する。
釣られてSOP Ⅱが目線を動かすと、バーガーカウンターに並ぶ男性の後ろ姿が。指揮官だ。
加えて、そこに駆け寄っていく少女も。
「指揮官! 頼まれていた資料、ご用意できました!」
「ああ。ありがとう、スター。早かったな。ちょうど昼飯も買い終えたし、このままデータルームまで頼めるか」
「了解です」
ぴくり。
Z-62がスターと呼ばれた瞬間、AR-15の体が反応する。
普段から一緒に居るSOP Ⅱなど、AR小隊のメンバーでしか気付かないほど小さな反応だが、間違いなく。
指揮官とZ-62……スターのやり取りを、ぼうっと見つめていた。
「じぃ~」
「あ、ごめんなさい。また……」
また自分が上の空になっていると気付き、AR-15は謝る。
SOP Ⅱがわざと擬音を口にしなければ、きっと気付きもしなかったのだろう。
そして、誰が見ても明らかな、こんな風になっている原因にも。
しょうがないお姉ちゃんだなぁ。
小さく苦笑いし、SOP Ⅱは空になった皿へとスプーンを置く。
「あのね。私達は確かに戦術人形だけど、戦いから離れてる時くらい、もっと自分勝手でも良いんじゃない?」
「……SOP Ⅱ? どういう意味……」
「この部隊に来てから、そう思うようになったんだよね。という訳でぇ……しきかーん! こないだの後方支援のご褒美、まだ貰ってないよー!」
「あ」
困惑するAR-15を置いて、指揮官に向かって走るSOP Ⅱ。
そのまま背中へ飛び乗ると、甘えるように顔を擦り寄せた。
いきなり背負う事になった指揮官は、驚きつつも落とさないよう手を回す。
「こらSOP Ⅱ、後ろから飛び乗ったら危ないだろう」
「だってぇー。抱っこしてーって言っても全然してくれないんだもん。だから勝手におぶさるのー」
「全く、仕方ないな……」
「あはは。仲が良いんですね、指揮官とSOP Ⅱさんは」
文句を言いつつ、SOP Ⅱを背負って歩く指揮官。
まるで兄弟ような二人を、Z-62が微笑ましく見守っている。
そんな三人をジッと見つめるAR-15は、何故だか……置いてけぼりを食らったようで。
(自分勝手って……。私に、そんな資格……)
冷め切ったボルシチを、もそもそ食べ続けながら考える。
戦術人形とは、戦闘用に調整された自律人形である。
そして自律人形は、生存可能領域を限定された人間に代わる、労働力として生み出された存在。
指揮官の下に配属される戦術人形は、特に民生用の自律人形だった個体が多く、ASSTを施されても様々な個性を維持していた。
しかし、AR-15は──厳密に言うならAR小隊は違う。
最初から戦術人形として生まれ、戦う事を主眼としたエリートなのだ。
その他の事柄は、機能として行う事は可能であるというだけの、言わばオマケ。全ては戦闘と、勝利から名誉を得る為に必要なだけ。
ところが、SOP Ⅱはそのオマケこそを大事だと。
“自分”を押し出し、勝手に振る舞えと。
……分からない。
彼女は、自由過ぎる。
「あのぉ……AR-15さん……?」
「え?」
不意に声を掛けられ、ハッとするAR-15。
なんだか今日はこればっかりだ。皿が空になっているのにも、今更気づく。
ぼうっとしていたのを誤魔化すよう、居住まいを正しつつ顔を上げると、そこには指揮官に着いていったはずのZ-62が立っていた。
「どうしたの、Z-62……じゃないわね。スター。指揮官を手伝っていたんじゃ?」
「そうだったんですけど、SOP Ⅱさんがどうしても指揮官を手伝いたいと……。それで指揮官が、こっちは二人で充分だから休憩しててくれ、って」
「要するに、追い出されたのね……。ごめんなさい、あの子は我儘な所があるから」
「いえ、大丈夫です」
手元を見れば、追加で買ったと思われるドリンクがある。
恐らく食事を摂りながら、午後の仕事に必要な資料をまとめていたのだろう。
Z-62は「失礼します」と断ってから、AR-15の正面に座り、ストローに口をつけた。
「何か話があるんじゃないの」
「へっ。な、なんで分かったんですか?」
「誰でも分かるわ、そのくらい。それで?」
ややあって、AR-15がZ-62に話を促す。
周囲を見回せばそれも納得だ。何せ、人影もまばらになってきた食堂で、わざわざ合い席してきたのだから。何か話があるに決まっている。
そう考えると、AR-15はどれだけ長い間考え込んでいたのか、という事にもなるが、彼女はそこに触れず。
「す、すみませんでしたっ!」
いきなり、テーブルに額を着けそうな勢いで、頭を下げた。
「唐突に謝られても、こっちが困るわ」
「あ、えっとですね。SOP Ⅱさんから聞いたんです。最近、AR-15さんが落ち込んでるって。
ひょっとして、あたしが『スター』って呼ばれ方を取っちゃったからじゃないかな、と」
「あの子は、もう……」
申し訳なさそうに、肩身を狭くするZ-62。
SOP Ⅱの事だから、良かれと思って要らぬ事を吹き込んだのだろうが……。
自由過ぎる妹分にも困ってしまう。
「安心して。私は別に落ち込んだりしていないから。SOP Ⅱが勘違いしているだけ」
「そう、なんですか……?」
「そうよ」
澄まし顔で断言するAR-15だが、Z-62は尚も顔色を伺っている。イマイチ信じ切れていないようである。
本当に、落ち込んでなどいないのに。
ぼうっとしているように見えようとも、それはきっと、オマケの機能が過剰に働いてしまっているだけ。たまたま不調なだけで、すぐに回復するはず。
少なくとも、AR-15にはこれが真実だった。
……そうでなくては、困る。
「でもやっぱり、スターという呼ばれ方はまだ早いというか、見合わないというか。だからあたし、Z-62に戻ります」
「戻る? ……私に遠慮しているなら、気を遣う必要は」
「違います。あたし自身が、その方が良いと思うんです。
指揮官にはもう話してありますから。
それじゃあ、そろそろ戻ります。改めまして、これからよろしくお願いします!」
「え、ええ。よろしく……」
だがしかし、AR-15の事情などお構いなしに、Z-62は話を切り上げ、ついでにSOP Ⅱが片付けなかった皿を持って行ってしまう。
心なんて読めないのだから仕方ないけれど、またもや置いてかれた感が酷い。
しばらく、去って行く背中を呆然と見つめ。
やっとAR-15が席を立ったのは、すっかり食堂から人気が無くなってからだった。
(今日は、変な一日だったわね)
時計の針が頂点で重なる少し前。
共同シャワールームから自室へ戻りつつ、AR-15は一日を振り返っていた。
いつものように起き、日課の模擬訓練を済ませ、SOP Ⅱと昼食を摂り……おかしくなったのはここからか。
心配されて、誤解されて、勝手に名前を返されて。
全く繋がりの見えない単語だけれど、これ等が実際に連続して起きた。なんとも奇妙だ。
奇妙だが、“彼”の指揮下に入ってからは、さして珍しくない気もする。慣れとは怖い。
話は変わるが、今のAR-15は普段着でなく、パジャマ姿である。
まだ少し湿り気が残る髪をポニーテールに、薄桃色をした長袖のシャツとハーフパンツを着ていた。
手にはシャワー前に着ていた普段着が入った小さいバッグがあり、いかにも湯上り乙女な格好だ。
(……流石に無防備過ぎるかしら。基地への攻撃の可能性は低いけど、絶対に無いとは言い切れないし。でも、適度な休息は必要で……)
思えば、こんな風にリラックスした格好で基地内を歩くようになったのも、ごく最近のこと。
それ以前は常在戦場の気構えを緩めず、M4達が背中を守っている時くらいしか……。
いや、逆だ。M4達の背中を守っている時こそ、一番に集中できて、ある意味では安心できていたかも知れない。
(私は、ここに来て変わった……? 気が緩んでいる? そうよ、だからSOP Ⅱにも変な気遣いをされたんだわ。……きっと、そう)
変わり映えのしない、のっぺりとした床を眺め、AR-15は一人、そう結論付ける。
今までずっと四人でやって来たのに、急に仲間が増えて、M4の優柔不断な指揮をフォローする事も無くなった。
悪い事ではないのだろうが、このままでは戦闘に影響が出る可能性も捨て切れない。
もっと気を引き締めて、以前の自分に戻らなければ。
そのためにも、まずは明日、模擬訓練の量を倍にしよう。
VR空間の中と言えど、戦ってさえいれば、余計な事を考えずに──ぽすっ。
「きゃっ」
「うおっと」
軽い衝撃。
曲がり角で何か……“誰か”とぶつかり、バランスを崩す。
幸い転ぶ程ではなかったけれど、その“誰か”──指揮官はAR-15を支えようと手を伸ばし、肩を掴まれて、必然的に距離が詰まった。
気まずい沈黙。
見上げるAR-15と、見下ろす指揮官の視線が絡まる。
「あー、こ、こんばんは」
「……こんばんは」
何故だろう。
いつもなら、「すみません」とか「ありがとうございます」とか、適当な言葉を並べられるはずなのに、普通に挨拶なんかしている。
指揮官もどこか、ドギマギしているような素振りだ。
片手にPDAを持っている事から考えると、この時間まで仕事をしていたのだろうか。
というか、完全に油断していた。
ついさっきまで気を引き締めようと思っていたのに、先が思いやられる。
「……あ、そうだ。Z-62から、話は聞いてるか?」
「はい。一応」
「そうか」
しておくべき話を思い出したのか、指揮官はそれとなくAR-15から一歩離れながら問いかける。
この場合、「スター」という呼び名の所在についてだろう。
AR-15が頷くと、彼は自分の後ろ髪を触りながら続けた。
「まぁ、そういう事らしいから。呼び方を元に戻そうと思うんだが……」
「……何か?」
ところが、妙に歯切れが悪い。
思わずAR-15は小首を傾げ、待つこと数秒。
深呼吸をした指揮官が、やっと本題を切り出した。
「嫌じゃ、ないか」
「……はい?」
「ほら、なんの気無しに、愛称みたいな感じで呼んでいたつもりだったけど、いつも訂正されていたし。
本気で嫌がっているのに、それを無視して、嫌な呼ばれ方を押し付けていたんじゃないのかな、と思って……さ」
バツが悪いらしく、指揮官はAR-15から目を逸らす。
スターと呼ばれ、一度それを訂正し、以降は何事もなかったように振る舞う。
これが二人の間にあったお決まりで、謝るなんて随分と今更な感もあるが、これはAR-15にも責任がある。
呼び名を訂正はしても、一度も拒否をしていなかったのだから。
止めて下さい。嫌です。困ります。
こんな風に拒否する事もなく、ズルズルと同じやり取りを繰り返し、いつの間にか、当たり前になっていた。
(……ああ、そうか。私はもう)
唐突に、AR-15は理解する。
当たり前になっていたという事は、受け入れていたという事だ。
“彼”からスターと呼ばれる事を。
どうして嫌ではないのだろう。
どうして煩わしいと思わなかったのだろう。
それはまだ理解できないけれど、少なくとも、二つだけハッキリしている。
指揮官は、スターと呼ぶ事を望んでいて。
AR-15は、決して拒否しない。
でも、それを素直に認めるのも、なんだかつまらないから。
自分らしくないと思いつつ、仕方ないといった風を装って答える。
「もう慣れました。本気で嫌だったら、もっと強く拒絶しています」
「……そうか。じゃあ……」
承諾を得ると、指揮官は「ゴホン」と咳払いを一つ。
AR-15を真っ直ぐに見据え。
「スター」
「はい。指揮官」
名前を呼ぶ。
ただそれだけなのに、背筋が伸びる感覚を覚えた。
自然と気が引き締まるような、不思議であると同時に、慣れ親しんだ感覚。
奇妙だけれど、何故だか、しっくり来る。
「どうしてだろう、改まって呼ぶと少し照れるような……」
「指揮官から始めた事ですよ。それに、照れるのは本来、呼ばれた私の側だと思いますが」
「それもそうか。とにかく、もう夜も遅い。君も早めに休んでくれ」
「はい。お休みなさい、指揮官」
「お休み、スター」
就寝の挨拶を交わして、二人は廊下をすれ違う。
急ぎ足の背中を見送るAR-15の表情に、曇りはない。
きっとこれなら、SOP Ⅱにも心配されずに済むだろう。
もっとも、代わりに今度は、何があったのかを根掘り葉掘り聞かれそうだが、その事にはまだ気付いていなかったりする。
「いけない。早く寝ないと」
指揮官の背中が見えなくなってから、AR-15は部屋へ戻る。
自律人形は夢を見ない。
人間のように、眠っている間に記憶を整理する必要など無いから。
眠っているように見える姿すら、省エネの為の休止状態に過ぎない。
だが、それを踏まえた上でも、今日は特別に、穏やかな眠りにつけるような気がした。
404小隊ピックアップが終了し、数多くの指揮官が大爆死してしまった今日この頃、皆様は如何お過ごしでしょうか。
作者も相当量の資源を持っていかれましたが、17日に辛うじてG11ちゃんをお迎えできました。ええ。
なんでか白い衣装を着て黒髪ロングストレートで乙πプルンプルンなお姉さんに見えなくもありませんが、この子はG11ちゃんなんです。G11と言ったらG11なんです!
……ピックアップなんて嘘だっ!!(セーラー服な9A-91ちゃんの叫び)
という訳で大爆死です。
☆4ARは一通り全部出て、その他の新規はコーラちゃん(自律作戦でポロッと)、ライフル持ってるメイドさん(ヤケになって闇鍋レシピ)、赤軍ロボの使い手(むしろなぜ今まで居なかったのか)、ブレンさんとLWMMGちゃんとATTちゃん(デイリー5-2eで救出)位ですか。
416ちゃんは五拡分を確保しても余るくらい来てくれたんですけどねぇ……。せめて97式ちゃんも来てくれればセットで話を描けたのに……。仮名C。
よくネット界隈では描けば出るって言いますけど、ホントっすか?
何気に出難いはずのメイドさんが三人も来てるし、本当だったら404小隊メインの話を描くのでデイリー闇鍋レシピで来て下さいお願いします。お願いします。
ところで、最近はLWMMGちゃんを副官にして、毎日ちっちゃなリボンを眺めているんですが、控えめに言って天使。
誓約ボイスに撃ち抜かれましたわ。キスする寸前みたいで滾る。近い内に彼女の話も描きたいなぁ。
ああもう! 可愛い子と育てたい子と欲しい子が多過ぎるんじゃーい!