DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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超絶見切り発車で参ります。不定期更新となりますのでよろしくお願いします。


ロゴン ―LOG_ON―
ロゴン PHASE1


 バタバタとうるさいローターの風切り音と不快な揺れの中、ヘリコプターの上から見えたS-07基地は、話に聞いていた以上に大きかった。周囲の草原を無理矢理踏み潰して作った未舗装の滑走路が痛々しく、その脇の基地の建物も、不自然なほどに白いセラミックの塊が太陽の光を反射して眩しい。乾期の強い日差しを受けると、その反射光だけでも十分に兵器だ。

 

 こんな目立つものを設置するのはいかがなものかと思うが、今更言っても仕方が無い。

 

「高々戦術単位Cを運用するのにこれだけ必要なのか……」

 

 そこらの武装軽トラック(テクニカル)から剥いで来たのかと疑いたくなる程に細いハーネスを気にしながら、春嶺(ハルミネ)颯太(ソウタ)はそんなことを呟いた。ヘッドセット兼用のイヤーマフにノイズが入る。

 

『そりゃぁ戦術単位Cだよ? 人形だって100体近く居るんだから大きくなるのは当然じゃない。ソータ』

 

 コロコロと笑う声はかなり甲高く、イヤーマフを通して聴くとキンキンと頭に響く。春嶺は窓の外から機内に視界を戻す。トークスイッチを押し込んで会話に加わる。

 

「話には聞いてたが、想像以上に大きいなと思っただけだ」

『ま、ここが私達の初陣の地というわけだね』

 

 そう言ってハイテンションに笑う同期に苦笑いを返す。

 

「といっても俺たちは指揮室で座っての指揮になるだけだが」

『ソータ、そっちの方が向いてるでしょ。養成所(ファーム)では私より成績上だしー、指揮訓練でもハイスコアだったしー』

「なにむくれてんだ、リト」

『別にー?』

「むくれたところで成績は上がらないぞ」

「あ! ソータひどい!」

 

 最後はインカムを使わなくても聞こえるくらいに大声だった。同期のリトヴァが手足をジタバタさせながら喚く。感情の発露がわかりやすいのは良いことかもしれないが、これから部下を持って戦うというのに、このお転婆さは大丈夫なのかと不安になる。

 

 春嶺が横の北欧女子にため息をつく間にもヘリコプターは勢いよく高度を下げていった。草地を剥いだことで砂が舞うようになっていたのだろう。埃と砂で汚れたヘリパッドが近づいてきていた。

 

(戦場、か――――)

 

 春嶺はヘリパッドの脇で帽子を必死に押さえている少女が二人いるのを見つけて、小さく目をそらした。それを気取られないように、ネクタイを整え、ジャケットを気にしながら、ハーネスのロックを外す。

 

「さぁ、お仕事の時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぬしらが新しく派遣されたオフィサか?」

 

 積み荷(ふたり)を下ろしてさっさと上昇していくヘリコプターを見送って目の前の少女――嵩のある帽子を含めても春嶺の胸元あたりまでしか背丈がないから本当に少女にしか見えない――が小さく敬礼をしてきた。かなり古風な格調高い英語に一瞬耳を疑う。

 

「S07基地へようこそ、おぬしらの着任を、戦闘請負人(コントラクタ)一同を代表して心より歓迎しよう」

 

 格好からして会社が運用している戦闘用の人形(ドール)であることは間違いあるまい。白い帽子に白いシャツ、肩に引っかけている(くるぶし)まであるような大きな上着も白。全身白い服は草原メインのこの戦場では目立つだろう。そんなことを思いながらも口にせず、答礼を返す。

 

「本日付でS07基地所属となります、セカンダリ・オフィサ、春嶺颯太です」

「同じくセカンダリ・オフィサ、リトヴァ・アフヴェンラフティ、到着しました!」

 

 リトヴァが敬礼をしながら、小声で「ちっちゃ! かわいい!」と放ったのを見て春嶺は一瞬だけ目をそらした。目の前の白の少女の額に青筋が立つのから目をそらすためだ。白の少女の数歩後ろに立っている少女――こちらは打って変わって黒い格好だ――が苦笑いを浮かべたのが見えたのでこの対応は間違っていまい。

 

S(エス).O(オー).アフヴェンラフティ、わしの身長がそんなに気になるか?」

 

 セカンダリ(S)オフィサ(O)の階級付名字呼びで最大限威圧しながらリトヴァを呼びつけた白の少女。彼女は見るからに『不機嫌です』アピールしながら前に出る。勇ましく歩幅を広くとり、リトヴァに向かって詰め寄ると、白の少女はリトヴァを下から睨むようにして声を張る。

 

「わしはM1895! こう見えても、人形の中では歴戦の古参組じゃ! そんな子どもに与えるような賞賛は必要ない!」

 

 リトヴァに詰め寄った白の少女――M1895と言うらしい。両手を腰に当てて威嚇するM1895に睨まれ、リトヴァがぷるぷると震え出す。

 

「か……」

 

「か?」

 

 そのまま幾ばくかの時間が過ぎて。

 

 

 

「――――か、かわいすぎぃ! 何この子! のじゃろり枠!? きゃー!」

 

 

 

「こ、こら! S.O.アフヴェンラ……、やめんか! 抱きつくな! 暑い! なにが、のじ……、やめんか! へんなところ触るなぁ!」

「なんかこの子良い匂いするんだけど! ミルクの香り? ソータも抱きつかせてもらったら!?」

「遠慮する」

 

 端的に拒否してから目の前の変態指揮官(リトヴァ)を見る。これで席次が10番以内というのだからとんでもない。確かに「傭兵の指揮官に倫理は問うても人格は問わない」と言い放ったグリフォン&クルーガー社だ。これでも試験をパスできるのか。

 

「おい! そこのS.O.! 助けておくれー!」

 

 どこか現実逃避をしているとM1895から救援要請が飛んでくる。ため息をついてから目の前の背の高いリトヴァの肩を叩いた。

 

「そんなにもみくちゃにするのはどうなんだ、リト。嫌われてもいいのか?」

「それはヤダ!」

 

 ぱっと手を離したリトヴァ。抱きつかれていたせいで足が浮いていたM1895がどさりと足下に落ちる。跳ね起きた彼女が春嶺の背中に隠れた。

 

「うおっ!」

「動くな! そこから動くな!」

 

 いきなり盾にされ、春嶺がたたらを踏む。さすが戦闘用の人形(ドール)。ドールに体を捕まれたら下手に動くなと、養成所で叩き込まれた行動原理で反射的に突き放そうとした動きを押さえ込む。

 

 それを見てショックを受けたような表情をするのはリトヴァだ。

 

「おーい、のじゃっ子ー。そんなに怖くないよー。おいでー」

「誰が行くか! 絶対おぬしの副官にはならんぞ! わしはM1895! 決して……の、のじゃっこ? などという代物ではないっ!」

「あのー、M1895さん?」

「なんじゃ!」

 

 白い帽子がガバリと上を向く。お前も変態の仲間かと言いたげな様子の彼女に、春嶺は苦笑いを浮かべた。だれもこの変態に加担したりしないだろうと思うが、彼女は不安で仕方が無いらしい。腰回りにしがみつかれたせいで、下手に腕を下ろせない。

 

「とりあえず、ここで喧々してても仕方が無いので、司令室に着任の挨拶ぐらいしておきたいんですけど、案内してもらえません?」

「そうじゃな……! つ、ついてこい! P38!」

「はいっ!」

 

 ずっと蚊帳の外にされていた黒い服の少女が肩と落ち着いた茶色の髪を跳ね上げて返事をする。紫色がちの赤い瞳が揺れる。

 

「女の方のS.O.を見張っておれ! 要警戒! 鉄血の斥候(スカウト)だと思え!」

「えぇ……敵役扱い……」

 

 あまりに激烈な嫌われようにどんよりとした表情のリトヴァ。

 

「自業自得だ」

 

 先陣を切ってずかずかと歩いて行くM1895を追いかける。その後ろを黒の少女が固めた。

 

「あの、S.O.ハルミネ。ありがとうございました」

「えっと、P38……でしたか」

「はい、さっきは本当に助かりました」

 

 黒の少女が耳打ちするように小さな声で声をかけてくる。

 

「助かったというと、M1895のこと……」

「はい。身長がコンプレックスなんです。銃を抜かずに済んだのは久しぶりです」

「そこまで……?」

「はい。そこまでです」

 

 クスクスと笑いながらP38がそう言う。M1895のマゼンダにも見える赤い瞳がギロリと後ろを向いた。

 

「P38? 聞こえておるぞー」

「ご、ごめんなさい……」

「……フン」

 

 不満げに鼻を鳴らしたM1895が案内を再開。ヘリパッドから真っ白なセラミックの塊である建物に入っていく。ヘリパッドから伸びる通路の扉をくぐれば、冷房が効いたホールになっていた。

 

「ほー、中はかなり明るいのか」

「天井近くの採光窓が効いてるおかげじゃ。もっとも下の階からだとまともに外は見えないんじゃがの。横から撃たれることが多いから致し方なしじゃ」

 

 春嶺の疑問に解説を加えてくれたのは意外にもM1895だった。

 

「基地の案内はプライマリ(P)オフィサ(O)に挨拶をしてからになるじゃろう。まずは挨拶じゃな」

 

 そう言いながらM1895は地階を目指して階段を下りていく。.79戦術司令室と書かれた扉をくぐるとM1895が声を張る。

 

「アイク! 新任S.O.を連れてきたぞ!」

「おう、お疲れ、ナターシャ」

 

 薄暗い部屋の中から響いたのは低いバリトンの声だった。ナターシャ、と呼んだのはM1895のことだろうか。

 

 戦術司令室は目に悪そうな青白い光に包まれていた。正面の大規模なモニタに映るのは戦略図、現在展開中の人形(ドール)の位置がプロットされている。その光が大男の輪郭を浮かび上がらせた。長袖の襟付きシャツの胸元には、銀の十字架と識別票(ドッグタグ)。U字形の管制装置を首に掛けた彼は豪快に笑って見せた。セットに時間をかけていそうな丁寧になでつけられた顎髭はもみあげとつながり、剛毅ながらも紳士的な風貌を彩っていた。横に細長い眼鏡が青白い光を反射している。

 

「着任歓迎する。S07基地主任運用管理官、プライマリ・オフィサのアイザック・サネットだ。周りからはアイクと呼ばれている、そう呼んでくれ。よろしく新米S.O.諸君」

 

 アイクと名乗った男性は指揮管制用のマイクロフォンに繋がったケーブルを揺らして立ち上がる。ずいぶんと体が大きい。敬礼を送ると崩れた答礼が返ってきた。

 

「貴官の指揮下に入ります、S.O.の春嶺颯太です」

「同じくS.O.のリトヴァ・アフヴェンラフティです!」

「礼儀正しくて結構。しかし、ここは養成所(ファーム)ではないし、ましてや軍隊ではない。堅苦しい礼儀もいらん。ソータと言ったか、スーツも堅苦しければ脱いで良いぞ」

 

 アイクはそう言って春嶺の肩を叩いた。肩が抜けそうな程痛い。

 

「了解しました、えっと……アイクさん」

「ソータ、『さん(Mr.)』はいらない。呼び捨てたまえ」

「……了解しました。アイク」

 

 アイクは春嶺の反応に満足したのか、笑って戦術司令室を見回した。

 

「見ての通りの人不足だ。君達の前任が無断欠勤(だっそう)してしまってね、私と先任S.O.のマハマがいるだけだ。トイレ交代要員として君達が必要だった。早速で悪いがこのまま2時間ほど上番してほしい」

 

 そう言われて面食らう。それぞれの荷物はほとんど輸送便で送っているためほぼ手ぶらではあるが、基地の案内も終わる前にいきなり指揮に上番とはなかなかにハードである。

 

「……了解しました。指揮上番します」

「助かる。ソータはL卓、リトヴァはR卓だ。なに、養成所(ファーム)と勝手は一緒だ、戸惑うことはあるまい。ペトラ、ナターシャ」

「はいっ!」

「うむ」

 

 アイクの声に、P38とM1895がほぼ同時に返事をする。どうやらアイクは人形にそれぞれあだ名を付けるタイプらしい。

 

「ペトラはリトヴァの、ナターシャはソータのサポートに入れ。頼んだぞチューター」

 

 アイクはそう言って正面モニタを一望できる主任管制席に戻る。春嶺はスーツのジャケットを脱ぐとそれを椅子の背もたれに掛け、指定された管制卓に座る。その後ろにM1895が駆け寄ってきた。

 

「S.O.ハルミネ、困ったことがあったら何でも聞くが良いぞ。このあたりの地図はちゃーんと頭にはいっとるからな!」

「そのときはよろしくお願いします」

 

 両手を腰に胸を張るM1895、赤い瞳がモニタの光を反射してキラリと光った。

 

「一応聞くが、おぬし、人形の指揮の経験は?」

「シミュレータでは320回ほど」

「つまり実戦の指揮は初めてじゃな?」

「えぇ」

 

 U字形の機械を肩に掛け、首の後ろに電極を貼り付けながら春嶺が答えると、M1895が笑った。

 

「これは年長者としての意見じゃが、迷ったら引く、それだけは忘れんでくれ。人形は安いが、数に限りがあるのでな」

「肝に銘じましょう」

 

 そう言いながら電極の端を背もたれに伸びるジャックに接続。用意を進めていく。

 

「マハマ。ボトウェ・アマダ・マハマ。S.O.。よろしく」

 

 中央の管制卓で指揮をしていた浅黒い肌をした男性が右手を伸ばしてきた。髪をまるっと刈り上げた彼と一度握手を交わす。

 

「よろしくお願いします、マハマ。春嶺颯太です」

「よろしく、ハルミェ。ハル……?」

「……ソータで良いですよ」

「OK、ソータ。よろしく」

 

 マハマはあまり英語が堪能ではないらしい。どこか人懐っこい笑みを浮かべてから管制卓に向き直った。それを目の端で見ながら、春嶺は首元の機械からコードを延ばし、個人用のヘッドセッドに接続。左耳に引っかけてから電源を入れる。

 

「プロンプターは……さすがに練習しとるか」

 

 M1895の声を聞いて肩をすくめてみせる。

 

「一通り使い方は習ってきています」

 

 Private Remote Operation Management Physical-contact-type Terminal Equipments and Recoder――個人用身体接続式遠隔指揮管制記録端末群(P R O M P T E R)。通信や戦闘情報のリアルタイム更新、それらの情報の統合と、指揮管制の即時反映、それらを一手に引き受けるこのシステムがなければ、人形の指揮はままならない。人間よりも遙かに優れるというドールの戦闘に着いていくためには、人間はこれを用いることが求められる。

 

「プロンプターの正常起動を確認しました。情報連結、正常ロードを確認。指揮管制用意、完了しました」

 

 そのまま主任管制席を見る。アイクが真面目な顔で頷いた。

 

「状況は見ての通りだ。任務は索敵。鉄血の斥候が数日前から何体か目撃されている状況だ。非常によろしくない。我々の仕事はその斥候の発見だ。叩くのは本部直轄隊が動くそうだ。Sブロック地方基地の仕事は斥候の発見、可能なら撃破。今回は撤退も許されている。恐れず撤退しろ」

 

 アイクの指示は明確だった。正面モニタのエリア全域の地図を見る。

 

 部隊は散開して動いている。5人で一つのユニットを形成する戦術単位Sが4つ。今回出撃しているのは人形20体ということになるからかなりの数を投入した作戦だ。

 

「やたらと間隔が広いな」

「撤退していいと言われとるなら妥当じゃろう。あたりは草原じゃ、いきなりばったり鉢合わせはそうない。戦術単位Sで対応できるはずじゃ」

 

 独り言に反応して笑ったM1895。

 

「安心してよいぞ。わしらの部隊は優秀じゃからな!」

 

 春嶺はM1895の声に少しだけ笑った。

 

「ソータ、最西翼の戦術単位Sを預ける。呼びかけコードはS792」

「了解しました。S792の指揮管制を受け取ります」

 

 そう返してから、一度深呼吸をして、通信チャンネルを開く。

 

「S792、こちらS.O.、感度いかが?」

 

 春嶺颯太の初陣が、幕を開ける。

 

 

 




はじめまして。ドルフロを始めたら可愛いのじゃろり系のM1895に心撃ち抜かれましてスタートしました。

オリキャラや設定を含め、初会からいろいろと固有名詞を増やしすぎた感じがありますね。


……読まなくても言い解説だけを少し。


【戦術単位】:部隊規模のイメージです。
戦術単位C=中隊(ドールが100人くらい)
戦術単位P=小隊(ドールが20人くらい)
戦術単位S=分隊(ドール5人ぐらい)
……のイメージです。ゲームの部隊は戦術単位S=部隊一つのイメージです。このワードについてはマージナル・オペレーションを参考にしました。

【指揮官の階級】
プライマリ・オフィサ(P.O.)=戦術単位Cレベルの指揮官、偉い人
セカンダリ・オフィサ(S.O.)=戦術単位P以下を指揮する指揮官
……なイメージです。私服で勤務してるのがこの人たち、ゲームで出てくる制服着ているヘリアン女史はこのさらに上のマネジャー職だと勝手に思ってます。




こんな感じでオリジナル設定を多めに継ぎ足しながら戦闘も可愛いところも描いていければと思います。


これからどうぞよろしくお願いいたします。

次回更新は早めに頑張ります。よろしくお願いします。
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