DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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ディスオダリ・オーダ PHASE4

 

 非常階段の扉を開けて何階か下ったタイミング、爆発音がした。上の方だ。爆風などはない。遠くで火災報知器が鳴っている。

 

「やはり部屋もバレてましたね」

 

 春嶺はそう言って肩をすくめながら、非常階段をカンカンと音を立てて下る。

 

「なんでプラスチック爆薬(コンポジション-4)なんて持ってるのかしら。セキュリティチェックは?」

「そんな驚かなくても。爆発物マーカー(エチレングリコールジニトラート)しか確認してないでしょう」

「国際条約違反じゃないのそれ」

「第三次大戦の時に作られたものの残り物らしいですね。よく知らないですけど。それにあの分量だとドアを軽く吹き飛ばすぐらいしかできませんよ。下手したら雷管とかのセットの方が重たい」

「違法は違法よ」

「そうだったんですか。知りませんでした」

 

 嘘つけ、と言われるが現状これでうまいこと驚いてくれたならそれでいい。

 

「まぁ、これでとっくにこちらが対策済なことは伝わったでしょう」

 

 そう言いながら先頭を引くナガンを見る。

 

「とりあえず今回の作戦ですが、チェシャ猫作戦とでも呼びましょうか。下準備をして華麗に脱出してみせましょう」

「なんじゃ、作戦名など気にするタイプか」

「作戦の名前は必ず意味を持つ、それだけですよ」

 

 ため息をついたナガンは春嶺を振り返ること無く言葉を繋ぐ

 

()()()()()()()()()()()()()、が、どうするか指示をくれ。とりあえず敵の配置は」

「おそらく下から2人ほどくるでしょう。気をつけて」

「上からは?」

 

 M1911の声に笑う。

 

「くるでしょうね。わざわざ派手にお迎えしたので激高して撃ち下ろしてくるかもしれません。そうなればコトですね」

 

 そう言いながら春嶺は通信機のスイッチを入れる。準備不足だが仕方が無い。しっかりとナガンが情報集約をしてくれていることを信じる。餅は餅屋だ。戦術人形の動きは戦術人形がよく知っている。

 

「MP40、装甲車の用意できてますか?」

『確保できてます』

「では東エントランスに回しますから徒歩で護衛しつつ進んでください」

『運転主はどうするんですか……? 私が運転しますか?』

「いいえ、その必要はありません。S07の司令部からリモートでコントロールします」

『よろしいのですか? かなり目立ってしまいますが』

 

 そう言ったのはガーランド、MP40と一緒に足の確保に動いて貰っていたはずだ。

 

「目立つのが目的です。対戦車ミサイルが来るかもしれません。そのときは素直に撤退でかまいません。リト、聞いてましたね」

『いきなり仕事が増えて不満だけどね。後で覚えときなさいよ』

 

 データルームでサポートスタッフを任せているリトヴァ・アフヴェンラフティが不満げに声を出す。

 

「ゲームのコントローラで楽しいドライブを。埋め合わせと言ってはなんですが、いつかお茶でもしましょう。ナガンを連れてきますよ」

『ほんとっ!? リトヴァちゃん頑張っちゃうよー!』

「わしをダシにするんじゃない!」

「ナガン、前」

 

 とっさに振り返ったナガンに声を掛けて無理矢理前を向かせる。踊り場にスーツ姿の男が飛びだしてきたところだった。相手が懐に手が伸びる。春嶺の横を影が飛び越えた。

 

「遅いわよっ!」

 

 男がその手を懐から抜ききる前に、P7が階段を飛び越えて蹴り掛かった。相手の胸板を腕ごと蹴りつけるような形なり、相手がものすごい勢いで壁に叩き付けられた。その懐からこぼれ落ちた拳銃をP7は明後日の方向に蹴り飛ばす。

 

「クリア」

「お見事です、P7」

「フフーン。会話に気を取られるオバさん(ナガン)とは違うんだから」

「なんじゃとぉ!」

「はいはい、喧嘩しないでください。ただでさえ危険地帯ですからね、ここ」

 

 春嶺はそう窘めながら、気絶している男を軽く検分する。

 

「運が良いことに爆薬持ってますね。とりあえず私を爆殺しようとした形にしておきましょう。物騒ですね」

「物騒なのは貴方もでしょう? 戦争屋さん」

「その物騒なのに仕事を頼んだのはあなたですよ」

 

 男を結束バンドで階段の手すりに括り付けておく。携帯電話は回収。爆薬を持っていたということはこの電話はどこかの爆弾に繋がるかもしれない。それはさすがに面白くない。

 

「よくそんなおどけていられるわね」

 

 ドレスの女がそう言って春嶺を睨むが睨まれたところでどうにもならない。そんなに嫌な顔をするならこんなところに来なければいいのに、と思う。指摘しても喧嘩になるだけだろうが。

 

《ねぇソータ》

「なんでしょう」

 

 半笑いのリトヴァの声に少しトーンを落として答える。思ったよりもハイになっているらしい。いけないいけない。落ち着かなければ。

 

《どうやら奴さん武装とんでもないんだけど》

「詳しく」

《対戦車ミサイルらしいものが見えるけど本当に出していいのね?》

「撃破されてもかまいません。被害についてはクルグス警察に実費請求することで了承を得ていますよ」

 

 それを聞いたドレスの女の顔が青ざめるがそんなことを気にして居られる余裕はなさそうだ。上から非常扉が開く音がした。

 

「敵でしょうか?」

 

 M1911が上にぴたりと拳銃を向けながらそう聞く。

 

「撃ってきたら考えましょう。足音高らかに駆け下りてみましょう」

 

 そう言って春嶺が先陣切って飛びだしていく。慌てたのはナガンだ。

 

「走るのは苦手だと言っとろうが! 指揮めちゃくちゃじゃぞ! 大丈夫なんか!」

「相手はしっかり訓練されています。ホテルの外からの奇襲。向こうはこちらに下がる余裕を与えました。おそらく向こうは私たちにホテルの外に出て欲しくないんです」

 

 そう言う春嶺にナガンは一瞬ムッとした。

 

「すぐに部屋に突入してきたじゃろうが! わしらが間に合ったからよかったものの!」

「向こうはそれを狙っているんですよ。襲撃をしてこちらをコントロールしているつもりでしょう。そして、向こうは我々と戦いたがっている、対人形戦闘に覚えがあるのかも知れません。……そう言う輩には、戦果を与えてやれば良い」

 

 階表示は既に二ケタを割ろうとしていた。大分下りてきた計算になる。

 

「狙っているのは私か、巡査(パトロルマン)さんでしょう。もしくはナガン達部下ということになります。適度に向こうに被害を与えつつ、適度に戦果を与え、ニュースを騒がせてあげればそれでいい」

『きたきたきた! ソータ! ロケラン来たよ!』

「ガーランド、MP40、伏せて」

 

 非常階段には窓がない。遅れて小さく腹に響くような音が聞こえた。

 

『ガーランドさん! MP40さん!』

 

 そう叫んだ声はPPSh-41。ナガンによればエントランス周辺の脱出口を確保しているはずだ。そうか、見える位置にいるのか。

 

「ガーランド、MP40、動けますか?」

『二人とも無事です』

『装甲車半分吹っ飛んじゃいましたけど』

 

 慌てているPPSh-41とは対照的に冷静なMP-40とガーランドの声。とりあえずは一安心か。

 

「ガーランドとMP40は装甲車の残骸を盾に後退してください。必要ならPPSh-41とスコーピオンで援護を。M14、今どこにいますか?」

『とりあえず5階の屋根まで下りてきました。ここからならエントランスを撃ち下ろせます』

「なるほど、いい位置を見つけましたね。では一人でいいので適当に敵の後衛を砕いてください。可能なら警察に引き出したいので、足か腕を。夜なので無理そうなら確実に当たるところを撃ってかまいません」

『了解っ! 舐めないでよ! 膝を砕いてあげる!』

 

 そういった後無線に射撃音が乗る。無線は切って頂けると助かるのですがとは言わない。彼女にとってはただのノイズだろう。

 

『ヒット、後退します』

「上出来です。少なくとも、向こうは損壊が出たことになります。撤退の理由は作りました。さぁ、指揮官が優秀であることを願いましょうか」

 

 春嶺はそう言って非常扉の出口を開ける。階は三階。吹き抜けの向こうに燃えた装甲車が見える。ソレをちらりと確認したあと、足音を隠して一回まで下りる。ナガンがハンドサイン、配置はどうやら整ったらしい。春嶺は頷いてから声を出し続ける。

 

「……FNC、G41、現在地を知らせてください」

『裏口を確保してますクリア済ですよー』

『よくできたでしょ?』

 

 どこか楽しそうな声にため息が出そうになるが、そんなことを嘆く余裕はない。戦争だから真面目にやれというのも間違っているだろう。

 

「よくできました。正面はもう良いでしょう。装甲車は破棄。合図をしたら撃ち方止め。ホテル内を突っ切って裏口から脱出します。チェシャ猫よろしく、闇夜に消えることとしましょう。車はないでしょうが、まぁ大丈夫でしょう。ナガン、しっかりついてくるように、作戦開始です」

「なんでわしだけ名指しなんじゃ」

「走るの苦手なんでしょう?」

 

 そう言って一階の非常階段出口で足を止める。

 

「3、2、1、今」

 

 そして銃声が止んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェシャ猫作戦とはよく言うわい。結局はわしら頼み、情けないのぅ」

 

 ナガンがぶつくさ言いながら横を歩く春嶺を覗く。

 

「仕方がないじゃないですか。わざわざイントラネットがあるのに活用しないのは勿体ない」

「その結果が、コレか」

 

 ナガンが親指を後ろに向ける。そこに居たのはP7とM1911に拳銃を向けられ、頭の後ろで手を組まされた、男が二人。ホテル内部に撤退した残りの面々も合流、全部隊が()()()()()()に集合していた。

 

「チェシャ猫は嘘つき猫。わしが『不思議の国のアリス』を知らなかったらどうするつもりじゃったんじゃ?」

「そのときは部隊の指揮をリトに投げましたよ。あそこからなら戦術人形にアクセスし放題ですからね」

 

 そう言えばナガンは大きくため息をついた。

 

「盗聴やら盗み聞きされてるの前提で、あべこべな指示。それに踊らされて裏口に回った阿呆はG41とFNCが捕獲。わしらについてきたこの阿呆二人は物の見事に捕虜にされた訳か。博打が好きじゃな、おぬし」

「博打とは失礼な。うまくいく可能性が高いと思ったから指示を出してますよ。……それにですね」

 

 春嶺は足をとめ、振り返る。その冷え冷えとした目が男達を射貫く。

 

「言ったでしょう、()()()()()()()()()()()退()()()って。態々依頼主への言い訳も被害も戦果も全てお膳立てしたんですよ。優秀な指揮官であってくれとお願いもしたのに。貴方たちも私も矛を収めることができる妥協点だと思ったのですが……」

 

 春嶺はそう言って、後ろの二人を見る。

 

「それでも引けない理由があったということですかね。警察を追ってきたか、はたまたグリフォン社に身代金でも請求するつもりだったのか。まだ懸賞金リストに載った覚えがないので警察さんの方がメインですか?」

「……悪魔め」

「良いですね、悪魔。正義を名乗るよりよっぽど建設的だ」

 

 そう嘯いてから春嶺は腰に手を当てて二人を見る。

 

「さて、襲撃者の方を武装解除した以上脅威レベルは低い状況ですが、無罪放免であっち行けとも言えないでしょう。この状況から私刑に走る趣味も私にはありませんが、最低限の自衛は必要だとも思っています」

 

 そう言ってから春嶺はすっと目を細めた。

 

「そこで一つ提案です。雇い主を教えていただければ私は見逃しましょう。あとは警察にお金を積むなり、全力疾走で逃げるなり好きにしなさい」

 

 口がなくなったかのようにだんまりを決める影二人。周囲は春嶺の部下が抱えているため逃げ道はない。

 

「……まあ、尋問官ではありませんし、聞けるとも思ってませんけど。そこはプロにお任せすることとしましょう。疑わしきは被告人の利益に、です。その判定は司法にお願いしましょう。ちょうど、警察に関係ある人がいらっしゃるわけですし」

 

 そう言ってドレスの女をちらりと見る。

 

「こちらとしても自衛はある程度したいわけです。情報提供、期待しますよ」

「そう簡単に民間に教えるわけにはいきませんけどね。報復でもされたらたまりませんし」

「それもそうですね。まぁ、正義に則った対応を求めます」

 

 肩をすくめていると、サイレンの音高らかに警察のパトカーが入ってきた。

 

「当事者ということで事情聴取くらい付き合ってくれるんでしょうね?」

「嫌だといったら許してくれます?」

「許すわけないでしょう?」

「でしょうね」

 

 春嶺は肩をすくめてから、春嶺はパトカーに乗る。

 

「無事に脱出できたわけです。ヨシとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まったく、なかなか危ない橋を渡るんだから、もう」

「見てるとハラハラしちゃいました」

 

 P38の声に、リトヴァ・アフヴェンラフティは伸びをした。

 

「それでも意外でした。S.O.ハルミネ、あんなことするんですね」

「あんなことって? ああ、敵の前にノコノコ飛び出したりするってやつ?」

「チェシャ猫作戦なら、わざわざ囮になりながら一階まで下りる必要無かったんじゃ」

「まぁ、そうだけど、ソータは相手がそんなに本気で殺しに来ないって思ってたみたいだよ」

「そうなんですか?」

 

 リトヴァは外部通信用の端末をシャットダウンさせながら頷く。

 

「今回の話、なんだかんだでグリフォン社に撤退されたら困るのは陸軍なんだよ。正確にはルスラン・ヴェルディエフ中佐かな。輸送線の戦力が足りてないのは事実だし、ソータの話を信じるなら、バタフシャーン山岳自治州関連で内乱が発生した時に人形というのは大きな戦力になる。味方ではいて欲しいのさ」

 

 横に置いてた炭酸ドリンクで喉を湿してからリトヴァは続ける。

 

「でも本当に欲しいのは『言うことを聞いてくれる人形』であって、グリフォン社ではない。安いと言っても、単体で戦況をひっくり返せる訳じゃない。だから、軍事行動をさせようと考えたら、それなりの数をそろえなきゃいけないわけだね。うちはI.O.Pと業務提携してるからこそコストを削減できるけど、初期導入やランニングコストを考えれば、弱体化した国家にそんなの揃えられるはずがないのさ」

 

 アフヴェンラフティはブラックアウトしたタッチパネルと機械式のキーボードを撫でながら続けた。

 

「だから陸軍は我々を切り捨てられない。陸軍にとってはソータは入力端末にすぎないけれど、その端末は意思をもつ。陸軍はソータが陸軍に頭が上がらない状況が必要だった。ついでに警察は味方にならないと示したかった。警察と接触してるの間違い無くバレてるしね」

 

 そういうとP38は難しい顔。

 

「つまり……陸軍はS.O.ハルミネをさらってから助けたかった?」

「そういうことじゃない? 『武装勢力にさらわれた馬鹿な男を助けてやった感謝しろ』とか言ったら気持ちいいんだろうさ」

 

 ま、証拠はないし、あっても出てこないだろうけどね。そう言ってどこか小馬鹿にした笑みを浮かべたリトヴァ。

 

「お金で動かない男を恩で動かそうとしたとかそんなとこだと思うよ。……人形が10体もいる相手に何やってんだかだけどさ。君達を甘く見すぎだよ、相手は」

 

 そんなことを言ってからリトヴァは副官の頭を撫でた。

 

「ま、ソータはうまいことやるよきっと」

「リトさんは、S.O.ハルミネを信じてるんですか?」

「まぁねー。だって面白いんだもん、彼」

 

 無茶もいろいろするしさせるけどさ。といってから席を立つ。

 

「さぁ、寝よう寝よう。どうせ明日も仕事なんだ。あとはソータがなんとかするよ」

 

 あくびをかみ殺してそういったリトヴァが部屋を出る。その後についていこうとしたP38が一瞬足を止めた。

 

「ん? どしたのPチャン」

「いえ! 何でもないです。私も少し疲れたみたいです」

「だよねー。あーやだやだ。ソータも人使い荒いしなぁ……あれが上司にならない事を祈るよ本当に」

 

 そんな会話を交わしている中、機器のアクセスランプだけがチカチカと瞬いていた。

 

 

 




……戦闘シーン(階段下りただけ)。


ちゃんとした戦闘はコンボイ輸送が始まってからね!

というわけで次回やっと出発です。人間関係や土地の整理に時間を掛けすぎました。これからサクッと行きます。……いきますよ?

というわけでこれからもよろしくお願いします。
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