DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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フォ・ゴ・ワ PHASE3

 

 

 

 やまびこのように、銃声が反響して、それがいくつも重なっていく。出所がつかめない。距離はかなり近いだろう。だがそれでも方向を特定するにはあまりに情報不足だ。

 

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 

 簡単な警備だと聞いていた。銃声はドンドン近づいてくるように聞こえる。戦いが近づいてきているのだ。なぜだ、なぜこうなった。人形もついてくれるのではなかったのか。こんな高地での戦闘なんてまず起こらないのではなかったのか。

 

 もし人形がこのコンボイに接近してきたら、ひとたまりもあるまい。酸素が薄かろうと極低温の状況だろうと、人形には関係無い。どんな状況でも対応できる完璧な兵士として運用するために、人形は存在するはずなのだ。

 

「息が荒いようですが、大丈夫ですか?」

 

 片耳にヘッドセットを下げた男、ソータ・ハルミネと名乗った傭兵で人形遣い(クコラヴォト)は涼しい顔でそういった。訛りの混じるロシア語だ。横には白い少女のような人形を連れている。

 

「大丈夫だ、民間人に心配される必要は無い」

 

 なんとかそう答える。防寒用の目出し帽を被っておいてよかった。この男の前で情けない表情を見せるわけにはいかなかった。

 

「無理なさらないでくださいね。軍の皆さんは最後の防衛線です。うちの子達の万が一の時にお願いしなければなりませんから」

 

 人形遣いはそう言って笑った。この状況で笑っていられるのか。狂ってやがる。

 

「……アインはよくやってくれているようですが、保険を打っておいた方がいいですかね。ナガン」

 

 横の白い人形が腕を組んで考え込むような仕草をする。

 

「そうさな……わしが応援に行った方が良さそうじゃ」

「なんとかできそうですか?」

「上手くやるさな。護衛は……選択肢が他にないか。M1911」

「はぁい! ダーリンのナインティーンはここですよー!」

 

右手をあげてとことこやってきたそこそこ巨乳の金髪女が寄ってくる。

 

「ソータを見張っておれ」

「護れじゃなくて見張れですか」

「なんじゃ、文句あるのかソータ」

「いえ、特に」

 

 銃声飛び交う戦場を前にしているとは思えない言動が繰り広げられている。だから民間人は嫌いなんだ。一瞬で死ぬ状況にあるとわかってない。

 

「それじゃ、少し出てくるぞ」

「お気をつけて、ナガン」

「心配には及ばん。ちょーっと散歩するだけじゃ」

 

白い人形が稜線伝いに消えていく。

 

「よう、クコラヴォト」

人形遣い(Кукловод)ですか。なるほど、何でしょう、えっと、少尉さんですね」

 

 人当たりの良い笑顔でそう言う人形遣い。まるで市場で風船でも配ってそうな善人じみた笑みだ。

 

「あんた、今どういう状況かわかってるんだろうな」

「どういう意味でしょう?」

「この山の奥で滅ぼされかけているってことだよ」

「おや、そこまで追い詰められているわけではないと思いますよ。我々はチームで動いています。一人で戦っているならまだしも、チームで動けばどうということはないレベルです」

 

 人形遣いは至極落ち着いた様子でそう言う。

 

「よく言うぜ。人形と人形の戦いに巻き込まれたらこっちの命が足りなくなる」

「それは言えているかもしれませんね」

 

 ところで、といって人形遣いが右手を差し出してくる。

 

「少尉さん。カビリ大尉に無線を繋げますか?」

「何をする気だ?」

「少し状況の確認を」

 

 無線機を取り出せば、人形遣いがその横から無線を覗き込む。

 

「……チャンネルが異なるようですが?」

「何を言っている。このチャンネルで」

「ナインティーン」

 

 人形が銃口を向けてきた。どこかいたずらでもしているような表情だが、その右人差し指は引き金に乗っていた。

 

「どういうつもりだ! 俺はコンボイの輸送班だぞ!」

「わかっていますよ。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 直後、視界が回った。痛みで息が詰まる。頬が詰めたい。雪の地面に叩き付けられる。後ろにひねりあげられた右の腕から嫌な音がした。力が入らず、雪の地面にだらりと落ちる。肩を外された。

 

「ジャズグル軍曹、挙動不審な少尉を確保しました。プリセットと違う周波数で通信していたようです。このまま確保させてもらいますので、カビリ大尉に報告を。ナインティーン、無線機を。チャンネルを変えずにコール。私に回して」

 

 左肩も器用に外される。小銃は人形遣いに取られた。まともに動けない。

 

「おそらく想定と違う攻撃が入ったのでしょう。たしか、指揮車の機関銃をロバのキャラバンに叩き込んだのもあなたでしたね、少尉。焦りは禁物ですよ。この商売は」

 

 人形から渡された無線機を手に、人形遣いが笑う。

 

「こんにちは、テロリストさん。ご機嫌いかが(ハゥドゥーディードゥー)?」

 

 おどけた様子でそう言う人形遣い。

 

「私はPMC G&Kの指揮官、春嶺颯太といいます。交渉をしましょう。きっと良い条件が出せる」

 

 その笑みはぞっとするほど完璧な笑みだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちぃっ!」

 

 肩を掠った弾丸に片方の目を閉じるGr-G41。

 

「あたら、ないっ!」

「貴女は確かに強いです。ですが、義体の性能差や銃火器の威力だけが絶対の強さとはならない」

 

 一〇〇式はマガジンを取り替える。その間に飛び込んでくる弾丸は彼女の髪を数本切り裂いただけだった。

 

「大丈夫です、私は貴女を壊しません。戦闘プログラム通りの動きをする敵なんて、壊す意味も無い」

「うる、さいっ!」

 

 G41が急加速。引きがねが引かれる。3点バーストで飛んでくる弾は怒りにまかせたものなのか、かすりもせずに消えていく。

 

「人形としては優秀なのかもしれませんね、それでも、完全にオフラインで戦うには弱すぎる」

「だまれっ!」

 

 グンと加速して飛び込んでくるG41、21フィートを切っている。肉弾戦に持ち込まれれば、確かに、不利。

 

「仕方ないですね」

 

 機関短銃を真上に放り投げ両腕を開ける一〇〇式。突っ込んでくるG41の銃を迎えに行く。勢いよく突っ込んでくる彼女の銃をそのまま捉え、背負い投げの要領でぶん投げる。

 

「せいっ!」

 

 空中を飛んだG41は空中で綺麗にくるりと回ると、積もった雪を削り取るように滑ってこちらを見る。大きな耳は確かに獣を想起させる。身体能力もそれをイメージしたのかもしれない。

 

 ちょうど落ちてきた機関短銃を手に取り、リロード。

 

「さて、そろそろ引いて貰えると助かります。指揮官にも伝えなさい。そのトラックは貴方たちが守る程の価値はありません」

 

 私はできれば指揮官と直接話したいんですが、と付け加えると、目の前のG41の顔が歪んだ。

 

「ごしゅじんさまになんて、ちかづかせないから」

「なるほど、では突破するまで」

 

 再度G41が急加速。その勢いも乗せて銃を構え、引き金を引いた。その弾丸が、一〇〇式の目の前に迫る。

 

「甘い」

 

 銃把を握り込むと同時に手首を返す。順手(サーベルグリップ)で握り込まれたその短銃の銃口が跳ね上がる。左手で前床を支えると同時、衝撃。明後日の方向に銃弾が飛んでいく。

 

「たまをきった!?」

「弾道を逸らしただけですよ」

 

 その衝撃に耐えるために力を入れたまま、コンパクトに銃口を前に戻す。勢いよく飛び込んで来ていたGr-G41の首元に銃剣の切っ先が迫る。

 

「っ!」

 

 G41が羽織っていたトレンチコートに当たって、その凶刃が止まる。

 

(防刃ジャケット……!)

「ごしゅじんさまの、ふくに……!」

 

 G41の目の色がチカチカと光った。これまで青かった右目も赤に変わった。両目とも、赤だ。

 

「165-2348-23435880-3358700-253465678241」

(プログラムファイル、何かインポートした?)

 

 とっさに真後ろに跳ぶ。目の前をナニカが通過した。

 

「にがさない」

 

 飛び退いたはずなのに、同じ距離にG41がいた。G41が右足を振り上げる。

 

「っ!」

 

 とっさに銃床でその蹴りを受けると同時、蹴られた側と反対側に自ら飛んで衝撃を吸収。それでも銃床に大きな傷がついた。木製銃床に蹴っただけではできないはずの鋭利な傷がついた。

 

(この子、仕込み義足!)

 

 膝から下を覆う黒い機械義足。爆発的な加速に用いるための強化義足であることは予測していたが、それだけではなかったらしい。膝の頭からつま先まで脛と平行に刃がついた板が飛びだしていた。

 

「その蹴りの重さで潰し切るように使う……なるほど、仕込み斧というやつですね。指揮官が貴女を重用するわけです」

 

 苦笑いが出る。この義体の身体能力と、この武装。遠距離では銃の火力で、接近してきたらその仕込みの斧で対応する。I.O.P社もよく考える。この細身の義体によく仕込んだものだ。

 

「でも、貴女は私に勝てない」

 

 それでも、一〇〇式の顔には笑みが浮かんだ。

 

「来なさい、Gr-G41。本当の接近戦を教えてあげます」

 

飛び込んで来たG41の蹴りを姿勢を低くして躱す。躱す動きで溜めたバネを爆発させ一〇〇式はほぼ真上に伸び上がる。そして一瞬、G41の持つアサルトライフルに飛び乗った。

 

「!?」

 

 G41の目が驚きに見開かれる。いくら戦術人形が強力といえども、物理的法則には逆らえない。人間一人の重さがその腕に不意に掛かったとしても、機械の腕はその程度で折れなどしない。それでも、崩れた重心はリカバリできないのだ。人型である以上、その両足の間に重心がなければ倒れてしまう。

 

「重心の高い回し蹴りなんてするからですよ」

 

 重心が崩れ、背中から地面に叩き付けられるG41。一〇〇式機関短銃が一瞬宙を舞い、持ち変えられた。銃口は大きく弧を描き、順手(サーベルグリップ)から逆手(リバースグリップ)へ。空いた左手が、銃床に添えられた。通常のライフルなら用いられるはずのない、銃床と一体型となった銃把を逆手で握るという行為。

 

 それが意味するのは、足下に伏した敵に、最速かつ最大出力で銃剣を叩き込むための姿勢ということ。

 

 一〇〇式の銃剣がその頭蓋目掛けて突き出される。辛くもソレを首を捻って逃げた。地面に深く刺さった銃剣を切り離した一〇〇式が引き金を引く。

 

「あぶない、なぁっ!」

 

 G41が吠える。こめかみのあたりにちょうど弾丸がヒットしたらしい。血色よく見せるために態々赤く着色された駆動油を後に残して、G41が再度飛び込んでくる。

 

(義体相手に小口径拳銃弾はストッピングパワーに欠けますね、当たってるのに止まらない!)

 

 致し方、ないか。

 

「――――――――桜、逆像!」

 

 一〇〇式の周りに淡く赤みを帯びた光が現れる。三角形をいくつも並べたようなフィールドを自己の周囲に展開する。カウントダウン開始。あと、五秒。

 

「はあああああああっ!」

 

 フィールドに弾丸が吸い込まれて、はじけ飛ぶ。あと四秒。G41が一瞬驚いた顔をした。

 

「それでもっ!」

 

 一カ所に固め撃ちをしてくるG41、あと、三秒。一〇〇式はまだ数発残っている弾倉を弾き出した。新しい弾倉を差し込む、あと二秒。

 

「こわれろ――――――――っ!」

 

 あと、一秒。

 

「っ!」

 

 

 

 その影がはじけ飛ぶと同時に――――一〇〇式の姿が、消えた。

 

 

 

「!?」

 

 驚いたのはG41である。そのフィールドが消えると同時、当たるはずの弾丸がその影をすり抜けたのだ。あまりに、早すぎる。

 

「どこ!?」

「ここですよ」

「な、――――――――――――あ」

 

 耳の後ろに違和感を覚える。体に力が入らない。

 

「私の桜逆像には出力制限がありますが、発動用のカートリッジに蓄積した電力は、必ず放出しなければなりません。たとえ、途中で壊されたり、シールドを途中で畳んだとしても、そのカートリッジのエネルギーは放出しなければならない」

 

 後ろから差し込まれる声、G41の視界はエラーで埋まろうとしていた。

 

「だから、そのエネルギーを義体の出力制限を解除して駆動させることで放出するなんてことをしないといけないわけです。今回はかなり長くシールドが保ったので、こんな短時間で決着をつけなければならなくなりましたが」

「あなた、ゆうせん、ジャック、を……」

 

 耳の後ろにある、電脳への直接アクセスに使用するジャックにケーブルが突き立っていた。一〇〇式の袖にそのケーブルは吸い込まれている。

 

「戦闘プログラム、強制解除」

 

 G41の目の色が青く戻る。彼女の体が、痙攣を起こしたように震える。

 

「安心してください。貴女を壊すつもりはありません。ただ、貴女のご主人様とのお話が終わるまで、そこで寝ていてください」

「ごしゅじんさま、ごめん、な、さ……」

 

 ケーブルを引き抜いた直後、G41の体がドサリと倒れた。

 

「ごめんなさい。でも、私には、これしかない」

『本当にそうかのぅ。一〇〇式よ』

 

 新手の気配に一〇〇式はとっさに顔を向ける。

 

「M1895……」

「久しいな、一〇〇式(モモ)、昔のように『ナガン』や『先輩』と呼んでくれんのか?」

 

 ナガンはそう言って肩をすくめた。

 

「S-09基地以来じゃな。G41を落とすとは、腕は錆びておらんか。接近戦闘と火力でこいつは虎の子じゃが、おぬしに掛かれば形無しか、モモ」

 

 どこか寂しそうな顔をしたナガンの手にはその名と同じ銃が握られていた。

 

「貴女が、指揮官の副官ですか?」

「そうさな。わしの指揮官に用があるんじゃろう? 通してやってもよいが……」

 

 ナガンはそう言ってから笑った。

 

「力尽くで通る方が都合がよかろう。おぬしにも契約があるはずさね」

「……M1895らしくない言い草ですね」

「人が成長するように、人形もまた心が伸びる、それだけじゃ。……話は急ごうか。お互い体力は無いわけじゃしの」

「本当にいいんですね?」

「なんじゃ? このロートルにダンスをしろとでも言うつもりか?」

 

 ナガンはそう言って笑って見せた。

 

「なれ合いは互いのためにならん。ここでおぬしと話せるのは昔の()()()じゃ。指揮官もそこまで甘くない。そしてそちらの雇用主もそうじゃろう?」

 

 ウィンクをしてから、ナガンは銃を構えた。

 

「構えろ、一〇〇式」

 

 促されるように一〇〇式が銃を構える。照準の先で、ナガンが笑っていた。

 

「先に言っておくが、一〇〇式はわしに勝てんよ」

「なぜです?」

「迷いがあるからさね、とらわれておるからさね」

 

 ナガンはそう言って撃鉄をこれ見よがしに起こした。

 

 

 

 

「そして、本当にG41が倒れたと思い込んでおるからさね」

「!」

 

 

 

 後ろからなにかに体当たりされた。地面に叩き付けられた。銃が目の前を滑る。青い目と目が合った。

 

「そんな、まさか、なんで……」

『目を盗まれた経験はなかったじゃろう? 本当はわしが使う予定じゃったが、G41が戦闘プログラムをロード要請してきたから併せて流し込んでおいた。おぬしが有線でハッキングするかもと思ったが、まさかのまさかじゃったな』

 

 G41の口とナガンの声がリンクする。ナガンが居たはずのところには、足跡すらなかった。

 

『態々わしらにわかるように盗聴ラインをつけたのは、止めて欲しかったんじゃろう? モモ、《これしかない》なんて、おぬしが言うべき言葉じゃない』

「そんなこと……」

『少しだまっておれ。後はわしらの指揮官に話すとよい。わしもそこにおる。そろそろG41に体を返さないとならん。それに、狙撃手のほうも片付けねばならんしの。G41、指揮官から五体満足で連れてこいとの命令じゃ。私的制裁は許可せんぞ』

 

 そういったとたん、押さえる手の力が強くなった。

 

「ごしゅじんさま、に、かんしゃするのね」

 

 いきなり言葉足らずな発音になるG41。

 

「わかりました。素直についていきます」

 

 冷たい風が吹き抜けていく。一〇〇式の胸の内に冷たい何かを運んできたようだった。




お前ら銃撃戦しろよ(真顔)

というわけで戦闘回でした。

次回も続くよ戦闘回。戦いはまだ終わらない。まだまともに撃ち合ってないのに終えられない!

というわけで次回もよろしくお願いします。
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