DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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ノファン・ディズ・ファン PHASE3

 

 

「JWパブリシズ……なるほど、ウェルカムバックってそういうこと」

 

 話を真っ先に飲み込んだのはUMP45だった。目元に走る傷の位置以外うり二つの顔をしたUMP9が首を傾げる。

 

「45姉?」

「私達の404小隊って、実は私達が実態を引き継ぐ前から名前だけは存在していたって話、ナインは知ってたっけ?」

「初耳」

 

 そう言いながらUMP9は目を洗ってやっと復活してきたG11の頬を引き延ばしながら簡潔に答えた。

 

「416は?」

「知るはずないでしょう。前任者やらなにやらに意味は無いわ」

「ま、そうなんだけどね。確か、存在が秘匿された小隊があって、自律機能を強化した専用の人形が暗躍し、表では解決できない事態に放り込まれている……って思わせたかったんだっけ?」

 

 それを聞いた春嶺颯太は頷いた。彼の後ろでは岸壁に背を預けたナガンが右手のリボルバーをもてあそびながら所在なさげにしていた。

 

「それによる同業他社やら国家の通信網を把握する作戦です。そのために『見つからないことで目立つ』部隊を必要としました。スキャンダルを(ねつ)(ぞう)し、誘蛾灯としたわけです。情報筋ごとに少しずつ情報を変えて、情報の伝達ルートを確かめることができました。結果として、『いるかもしれないけど多分いない』404小隊が残った」

「それが私達だっていうの?」

「その名前を再利用したのはどこの誰だか知りませんよ」

「ということは、アンタが私達の『名付け親』ってわけ?」

 

 UMP9がそういうと春嶺は苦笑いだ。

 

「ベーコンエッグを焼きながら考えたお手軽(インスタント)な部隊名で申し訳なく思います」

「ベーコンエッグでもフレンチのフルコースでも一緒よ」

 

 ケラケラと笑ってUMP45がそう言えば、416がそっぽを向いた。

 

「それで、その広告代理店の名付け親さんがわざわざこんな山の奥の鉱山に来てなにしてるの? というより、ここがどこだかわかって入ってきてるんでしょうね」

「えぇ、現役のウラニウム鉱山で、私が長時間ここにいると健康に影響があるかもしれないという話であれば、理解しています」

「待て、初耳なんじゃが」

 

 ナガンがぎょっとした表情でそう言う。一〇〇式やSASSも聞かされていないらしい。

 

「言ってませんからね。人形の義体や電脳であれば天然ウラニウム程度の放射線は問題ありません。長時間というのも、生身の人間が数年レベルでここに引きこもればの話でしょう。健康診断のX線写真の方が健康被害は大きそうですね」

 

 そう言って春嶺は笑った。

 

「それに言っているじゃないですか。私は『貴女達の価値を買いに来た』んですよ。噂に過ぎなかった404小隊、闇から闇への片道切符を渡し続けるのはあまりに勿体ない」

「それがなんだって言うのよ」

「このままでは貴女達404が月まで吹っ飛ばされるからなんとかしようと言ってるんですよ」

 

 416にそう返して、春嶺は笑った。

 

「そうでしょう? UMP45、そろそろ奥の部屋にいる彼に会わせてくださいよ。生きているんでしょう? プライマリ・オフィサの(ハナブサ)(アラタ)

 

 UMP45は眉を顰めるだけだったが、その後ろのドアが勝手に開く。

 

「まったく、男ってなんでこういうときに出たがるかなぁ」

 

 どこか呆れた様子でUMP9がため息をついた。ナガンの目が大きく見開かれる。くたびれた作業用のジャケットを着て、黒い無精髭を伸ばした男がゆらりと現れる。その顔の左半分にはやけどで出来たらしいケロイドができていた。

 

「……アラタ」

「春嶺さん、でしたか。俺がよく生きているとわかりましたね」

 

 飛んできた日本語に春嶺は肩をすくめる。

 

十月作戦(オペレーション・オクトーヴァ)を提案していたことは先ほどヘリアントスさんから聞き出しました。物理的にヴェルディエフ中佐を押さえると同時に核濃縮秘密プラントを強襲する。たしかにこれを成せれば我が社は英雄です。ですがそれには生け贄が必要となる」

 

 そう言いながら春嶺は立ち上がる。返すのは英語だ。

 

「その生け贄が貴方だ。(ハナブサ)さん、辛くも生き延びた貴方は配下の戦術人形を不当にハッキングし、正義を振りかざして勝手に核工場を潰した……404小隊や一〇〇式はその際に貴方から『保護』され、安全に戦域を離脱する。そして貴方は復讐に燃えた犯罪者として捕まるか、戦闘の最中に戦死。……表向きの筋書きはこんなところでしょう」

「……そこまでわかっててなぜここに来た」

「そんなものクソ食らえだからですよ」

 

 そう言って獰猛に笑った春嶺。初めて聞く声にナガンは一瞬怯んだ。その間にも春嶺は一歩一歩、英の方へと進んでいく。

 

「英雄気取りで? せいぜい汚い爆弾止まりの核拡散を防いで? その犠牲の結果として、バタフシャーン自治州を火の海にして? あなたの副官だったナガンを傷つけて? そんなもの、()()()()()()()()()()だ」

 

 口調が崩れる。そして英悛の胸ぐらを掴んだ。

 

「……私は正義と英雄という言葉が嫌いでしてね。テメェのその世の中の不幸を勝手に代弁するようなその面が気に喰わねぇ」

「別に君に気に入られたいわけじゃないさ。それにもう十月作戦(オペレーション・オクトーヴァ)は止まらないはずだ。ヘリアントスが部隊を動かしたぞ」

「知っている。だとしてもこのどん詰まり(デッドエンド)は気に入らない。戦果(ジャックポッド)は私が(さら)う。乗る(レイズ)降りる(フォール)もご自由にどうぞ。だが、最後に笑うのは私なんだよ」

 

 そう言って春嶺は英を突き放した。

 

「……はは、どうする気だ。この状況で、この人が人を殺し合うこの土地で、君は何を成すつもりだ、春嶺君」

「これでも前職は広告代理店だ、事実の捏造(ラッピング)だけは得意でね、上等包んでご覧にいれますよ」

 

 笑って背を向ける春嶺。

 

「前座はここまで。UMP45でしたね、商談といきましょう」

「そこまで啖呵切った後に商談って、結構強引じゃない?」

「強引でも金と利益になるならビジネスですよ。もちろん君達404にとっても利益が出るような話にしますよ」

「へぇ、私達に利益? なにかしら?」

「404を常設部隊として設置させることを認めましょう」

 

 そう言って笑って見せる春嶺。

 

「……あなたにそんな権限があると思えないけれど」

「えぇ、()()()ありませんよ。ですが、認めさせざるを得ない状況を作ればいいだけです。あなたたちがあなたたちとして活躍し、正当に評価される居場所を確固たるものにできますよ」

「あら、既に私達は作戦に不可欠になってるから崩れないと思うわよ?」

「なるほど、では言い換えましょう」

 

 春嶺はそう言って、UMP45の耳元に口を寄せ、一言二言呟いた。

 

「――――ほんと、恐ろしいわね」

「代理店は接待のプロですからね。これぐらいで驚かれては困りますよ」

「指揮官よりマフィアの方が向いてるんじゃない?」

「今時マフィアなんて儲かりませんよ。取引現場で戦術人形とにらめっこなんて御免被ります。さて、報酬は必然的に後払いになりますんで、入り用の際に連絡はいりません。活動を確認できたらこちらで動きます。では、失礼。一〇〇式、SuperSASS、行きますよ」

「はい……」

「わかりました」

 

 ナガンは春嶺と英を見比べるようにしている。春嶺が小さく笑った。

 

「ナガン、貴方には強制しません。一〇分待ちます。ついてくるなら装甲車へ」

 

 それだけ残して、春嶺はその坑道を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……生きて、おったんじゃな」

 

 気を利かせてくれたのか仕事なのか、404の人形達は出ていった。坑道の休憩室の一つでにナガンの声がぽつりと落ちる。UMP45が置いていった予備の角灯(カンテラ)には火が入れられ、炎の灯りが二人を照らしていた。

 

「二度と会うことはないと思ってたがな」

「それなのに『いつか必ず会おう』と言ったのか、このうつけ(もん)

「そうでも言わないとお前はあの場を離れなかっただろう、ナターシャ」

 

 あたりまえじゃ、と返してから、ナガンは小さく笑う。

 

「……アイクにその呼び方を教えたのは、お主直々じゃったか」

 

 どこか寂しげな笑みを浮かべたナガンは、目の前の男、英から目を逸らす。

 

「アラタ、そんなにわしは頼りなかったか?」

「そうじゃない」

「なら、なんでわしを切り捨てた」

 

 ナガンは淡々と続け、返事を待った。

 

「……なんも言わんのか。三ヶ月ぶりの奇跡の再会じゃぞ」

「俺は既に死者だ。生者にかける言葉なんてあるはずないだろう」

「――――それを人形に言うか、アラタ!」

 

 英につかみかかるナガン。彼の身体が岩の壁に押しつけられた。

 

「切り捨てるならそう言え! 力不足ならそう言え! なぜじゃ! なぜわしとカリンをあそこで、S09で切り捨てたっ!?」

 

 英の足が軽く浮く。襟元を掴み、つり上げたナガンの瞳には小さく滴が浮かんでいた。

 

「カリンはアラタに惚れておった! わしだっておぬしのためなら、アラタのためならなんでもできると信じておった! どんな苦境だって、どんな地獄だって越えてきた!」

 

 言葉で自らの堰を決壊させたナガンが叫んだ。

 

「あんな辛酸はもう舐めんと決めた! もう誰も切り捨てんと決めた! 指揮官を切り捨てるぐらいならぶん殴ってでも連れて出ると決めた! それが蓋を開ければどうだ! ……わしの、わしの三ヶ月は……なんじゃったんじゃ……!」

 

 ナガンの手が震え、彼を壁に捕らえることができなくなる。

 

「どうしてなんじゃ……おぬしを信じたわしがバカじゃったんか……? 人形の分を越えた思い違いじゃったんか……? おぬしと酒を酌み交わして交わした契約は……おぬしの正義を守ると誓った契約は……ウソじゃったんか? 答えてくれアラタ、わしは……おぬしを守ることが、できんかったんか……?」

 

 答えは返ってこない。ナガンの視線が落ちる。

 

「……すまないなぁ、アラタ。……せっかく生きていてくれたのに、こんな言葉しか出てこん。会いたかったけど、会いたくなかった」

「……」

「わかっとるんじゃ。おぬしは前から、自分を勘定に入れずに誰かのために命を張る、そういう奴じゃ。正義の駒としてこれが最適解だと知っておった。だから、わしがお主の正義の邪魔になった」

 

 ケロイド化した彼の頬に触れる。

 

「……それでも、救いたかったんじゃ。黙って地獄の底に降りていこうとするおぬしを、一人でなんて逝かせたくない。それは、許されない願いなんか? そんな思いは、わしのバグなんか?」

 

 そう言って振るえた拳が、英の胸を弱々しく叩いた。

 

 

 

「わしは、おぬしを好いとったんじゃぞ……!」

 

 

 

 その彼の胸に頭を預けて、それっきりナガンはなにも言わなかった。英はその肩に触れようとして、止める。

 

「……次会うときは地獄の奥底でと決めていたんだがな」

 

 小さく笑った英は、両手をだらりと垂らして、そういった。

 

「……ナターシャ、お前は俺の知る限り、最高の戦術人形だ。それは今も変わらない。経験の蓄積に裏付けされた的確な判断と近接戦闘能力の高さ、電脳戦への適応力……俺には勿体ないくらい()()()だったよ」

 

 そう言って、英は一度だけ、言葉を切った。

 

「だからこそこんなところで、こんなくだらない理由で()()()()()()()()し、()()()()()()()()。俺のことは忘れてと言いたいところだが、難しそうだな」

「当たり前じゃ、馬鹿者」

「……お互い不器用だ」

 

 そう言って英は皮肉げな笑みを浮かべた。

 

「お前の思いに応えることはできない。だからここまでだ、ナガンリボルバー」

「……おぬしは、そういうと思っとったよ」

 

 ゆっくりと離れたナガンはそう言って、笑う。

 

「さようなら、じゃな」

「あぁ、ここまでだ」

「なら、これで終いにしよう」

 

 ナガンはそう言って、笑みを浮かべ――――左手を振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……煙草、吸われたんですね」

「気になりますか?」

 

 一〇〇式にそう答え、春嶺は口元から紙巻きの煙草を外した。

 

「いえ、そうだとしたら、そのジャケットからは煙草の臭いがしませんでした」

「超ライトスモーカーですよ。煙草は高いですからね。日に1本吸うかどうかです。最近はお香代わりに使っているような感じになってきました」

 

 そう言いながら春嶺はまた降り始めた雪を見上げた。

 

「……冷えますね」

「はい。……先輩は戻るでしょうか?」

「来ますよ」

 

 即答で返ってきた答えに、一〇〇式は驚く。

 

「なぜそう言いきれるんですか? 先輩はハナブサ指揮官のこと、好きだったんですよ」

「えぇ、彼女は残ることを望むでしょう。私にとってもナガンを失うのは惜しいですし、戻ってこなければ私の生存率は下がるでしょうから、不満はタラタラですがね」

 

 そう言って煙草を咥えなおす春嶺。

 

「だったらなんで、先輩に強制しないなんて言ったんですか?」

「よく言えば賭けをしている。……悪く言えば茶番のチキンレースに興じている、ということです」

「賭け?」

 

 一〇〇式に頷いて答える春嶺。

 

「私はひどい大人ですからね、君達を使って世界の命運を賭けた掛けをする。それは君達を救うかもしれないし、人間を滅ぼすかもしれない。もしかしたらその両方が起こるかも」

 

 携帯灰皿をもてあそびつつ笑う彼に、一〇〇式は空恐ろしいものを感じていた。

 

「ここから先の作戦は彼と彼女の関係性に依存します。ですが、不確定要素が取り得る可能性は限られているんです」

 

 その瞳はどこか楽しそうに澄んでいて、雪と岩が入り交じった斜面を見つめている。

 

「指揮官だった英悛とその副官だったM1895ナガンリボルバー……英悛はナガンを特別視しています。だからこそ副官に指名し、だからこそあの基地から離脱させた。……英悛は、ナガンリボルバーを切り捨てられない」

 

 春嶺は短くなった煙草を手に笑う。

 

「彼は自分の死をプロデュースしているつもりです。そこにナガンは()()()()()()()()()なんですよ。ナガンは人形にしては珍しく相当にわがままな性格をしていますから、その爆発的な感情の起伏と行動力でこの世に引き留められると困る訳です。それを防ぐために彼が取れるアクションは一つだけ。彼はナガンを突き放すしかない。そしたらナガンは私と一緒に秘密工場に乗り込む羽目になる」

 

 煙草の火を睨むようにしてそう言う春嶺。上着の裾を雪交じりの風が揺らした。

 

「そして同時にナガンを壊せない彼はもうこの作戦で死ねない。彼の死がナガンを壊しかねないことを、彼は認識しているはずです。それと告発を両立できる十月作戦(オペレーション・オクトーヴァ)の落としどころは一つだけ……ざまあみろだ。彼の計画はご破算、彼の負けだ」

 

 そこまで言って春嶺はふっと視線を柔らかくした。

 

「もっとも、彼がここでこのシナリオを焼き捨ててナガンと駆け落ちエンディングなら、それに越したことはありません。彼女と彼は幸せなキスを交わして世界も会社も敵に回して逃避行。ロマンチックですよね」

「指揮官はそれでいいんですか?」

「良くはありませんが、なんとかしますよ。その場合404の協力が必須になりそうなので、そのときは博打要素が大きくなりますが……さて、結果発表といきましょうか」

 

 携帯灰皿に煙草を押しつけ、坑道の入り口を見た春嶺は笑った。

 

「……おかえりなさい。ナガン。英指揮官は?」

「あやつはぶん殴っておいた。おかげで左手が痛い」

 

 それを聞いた春嶺が吹き出す。

 

利き腕(ストロングハンド)じゃないあたりに温情を感じますね。もっと派手に喧嘩するものだと思いましたが」

「だったらもっと時間を用意せい。10分と言われて慌てて出てきたんじゃぞ」

「それは失礼しました。それでも移動しないといけないのでギリギリなんですよ」

 

 そう言って春嶺は肩を竦めた。

 

「……なぁ、ソータ」

「なんです?」

「あやつが死ぬのはクソ食らえと言ったな。……あやつを生かしておく秘策はあるんか?」

「最大限回避しますよ。さぁ、ジャックポッドを我が手に。仕上げといきましょう。計画に変更なし。車列の方はおそらくガーランドがとりまとめているはずです。不手際はないでしょう……車列到着と同時に突っ込みますよ」

 

 春嶺は笑った。

 

 夜明けまで、あと2時間を切っていた。

 




次回こそ戦闘回といきたい……!

さぁ、次回からこの作戦の最終章です。どうぞよろしくお願いいたします。
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