DFL―フロントエンドオペレーション― 作:油そば大尉
マハマさんから指揮管制を引き継いだS.O.さんはどうやら新人の方みたいです。
「新米って、大丈夫なのかしら」
そんなことを言ったのは左目を覆う眼帯を付けたスコーピオンさん。乾期のせいでかなり黄色くなった草原の中で二つ縛りにした金髪が揺れています。
「まー、前のS.O.よりは保つといいよねー。あんまりイジる前に居なく成っちゃったからなー」
最後方で後ろを警戒しながらそう言ったのはP7さん。周囲がお空を除いて黄色一色なので、彼女の修道服をモチーフにした服はよく目立ちます。
「ねー、ペーペーシャ」
「はい、なんですか?」
私、PPSh-41を呼んだのはブレン・テンさん。左翼を警戒しながらずっとすすんでいます。
「S.O.の指示なんでしょ、ほかの戦術単位Sよりも間隔詰めてるの」
「ですよー。ブレンさん」
「なんだか、面白い指揮をする人ねー」
「基本は離散状態を取らせるのに、ですか?」
ブレン・テンさんに聞き返すとコクコクと頷いた。
「マシンガンを斉射されたらヤバそうだよねー。いくら私達が安いっていっても、5体分も体が壊れたら破産しちゃうよ? ただでさえS-07基地は予算少ないって話なんだし」
「少ない予算でも運用できるというのが優秀な基地の証拠ですよ」
そうは言ってもブレン・テンさんはなかなか納得しない様子。
「索敵ももう少しで終わりますから、そしたら帰って休憩しましょう」
「そうですね、それがいいでしょう」
そう淡々といったのはMP40さん。とても仕事に実直でドライな対応でとてもありがたいのですが、時々私と張り合ってくるので、MP40さんは少し苦手です。でも今回は同意してくれたようです。
「さぁ、気を引き締めて……、あれ?」
なにかちらりと目の端に映った気がして、全体止まれの合図を出しました。
その瞬間、でした。―――――――P7さんがいきなり地面に叩き付けられたのです。
「S792、全員伏せてください。そのまま待機」
春嶺はそう言いながら手元のキーボードを打ち込む。
「アイク、S792が接敵しました。マップコード23654、3エコー、ウィスキー地点、目視確認、スカウト型数3、ライフルa型数6、距離380±20」
「本部直轄隊へ連絡する。目標地点を指示しろ。リトヴァ、現在指揮をしているS796はマハマに
「アイク、本部直轄隊にMGは?」
「配備されていると聞いている」
「ヘリ内部からの射撃戦闘を想定するよう連絡をお願いします。前線ギリギリまで寄せます」
「任せる」
アイクの指示を聞きながら春嶺はキーボードを叩き続ける。管制地点は後方1キロにセット。これでもヘリを降りてから10分は掛かるだろう。
「S.O.、なぜすぐ反撃せんのだ!」
横でお怒りになっている、M1895が肩を叩いてきた。春嶺は
「現状はSMGが2にHGが3の高速編制、アサルトライフル持ちのあの1つ目を6体、むやみに飛びだしても殲滅できません。このままS792は後退、誘引を行い、敵の位置をコントロールします」
手早く説明しながら後ろのアイクを見る。親指を立てたということは本部直轄隊が動き始めたということだろう。間髪入れず通知音。正面のモニタにアイコンが現れる。飛翔体を示すアイコン、IFFは
「そんな悠長な余裕があるか! スカウト型は増援を呼ぶかも知れないんじゃぞ!」
「向こうが撃ってきた段階でとっくに呼ばれてますよ」
少し黙ってくれと願いながら、無線をオープン。
「S.O.よりS792、後退可能ですか?」
『S792、できません!』
返ってきた答えはかなり幼い声。出力ラインを見るとS792の第一通信チャンネルで入感している。リーダーを担っている戦術人形、PPSh-41だろう。パニックになっていないかと意識してゆっくりと問いかける。
「S792、可能になるまでの時間はわかりますか?」
『そ、そんなこと言われても……、P7ちゃんが被弾してて、応急手当が終わるまでは動かせません!』
その声を聞いて、損耗度合いのデータを呼び出す。
「脚を狙われたか。わざとか偶然か、判断がつかない、か」
「切り捨てて、下げる?」
横のマハマが聞いてきた。それを見たM1895が拳を作って空に振り上げた。
「そんなことより目の前の敵をサクッと崩してから落ち着いて手当すればよいではないか!」
M1895の熱弁を一度頭の中で反芻。答えはすぐに出る。
「S.O.よりS792、上体を晒さないように注意。伏せたまま手当を続行してください。残りの面々は前方のスカウト型とライフルa型の警戒を続行」
『感謝します! S.O.』
嬉しそうな声を残してPPSh-41の声が切れる。無線を閉じたのだ。
「どうしてわしの言うことが聞けんのだ!」
「部隊を預かっているのは私だからです。そしてP7を庇いながら戦闘を続行して短期決戦で仕上げるには彼我の火力差がありすぎます。時間を掛けていればこちらが損耗する」
ぐぬぬ、と言いたげな赤い瞳が春嶺を射貫く。
「ナターシャ、ソータの言うことももっともだ。今私はソータに指揮を預けている。それにしても、どうするつもりだ、ソータ」
むくれたようにぷいとそっぽを向いたM1895。それを笑いながらアイクが聞いてくる。ヘリの到着まで、後23分。
「敵は聡明です。こちらが伏せてから、撃ってきていません。確実に仕留められるタイミングをおそらく狙っています」
アサルトライフルにとって380という距離は狙って当てられる距離を超えているのだ。そして、撃てば撃つほど自らの位置を晒すことになる。慎重にならざるを得ないのは理解できる。
だが、それはおかしい。なぜ狙って当てられる距離まで発砲を待たなかったのだ。
「では最初になぜP7が撃たれた」
間髪おかずにアイクが放った問いがそれに追い打ちをかける。当てられないはずの距離で、当ててきた事実がある。
「おそらくスナイプ型がどこかに潜伏しています。現状、草のおかげで伏せていれば致命傷を受けるような狙撃は受けないでしょう。伏せたまま離脱できれば御の字ですがおそらくそれを向こうも許さない」
周囲を警戒しているブレン・テンの視界を呼び出す。リアルタイムで複数の人形の視界を統合し、表示させる。
草の影の奥、何かがチラチラと動いている。そして、それが光った。その後、頭を下げたブレン・テンの視界が揺れて土が視界を覆った。ほかの視界も似たようなものだろう。
『っ!』
「S.O.よりS792、全員そのまま待機。その攻撃は陽動です。相手にスナイプ型がいます。その射線にあぶり出させるつもりでしょう、挑発にのらないように」
淡々と指示を出す。再度無線をクローズ。
「向こうも増援を呼んでいるでしょうが、こちらにも増援があります。そして向こうもそれを警戒していることでしょう。だとしたら、敵にとっての一番の危険はS792部隊にヘリコプターのランディングゾーンを鼻先に確保されることでしょう」
だから相手は、狙いやすかった相手を負傷させることで足止めをした。おそらくこの先すぐに本隊がなだれ込む算段だろう。
「おそらく向こうのライフル持ちはしばらくはこのまま様子見でしょう。ですが時間がたつにつれて、しびれを切らしてくる。増援を警戒しながら、我慢比べです」
PPSh-41の視界を呼び出す。映っているのはP7の義体だ。膝関節部分が正確に壊されている。自力での逃走は不可能だ。
「ですが状況は向こうが有利です。おそらく、こちらがこの位置に着くことを敵は待っていた可能性が高いかもしれません」
「なおさら早めに後退しないといかんか」
顎髭をなでつけるアイクの姿が
しばらくの膠着状態が続く。これをどう打開するか、互いに決定打が無いのだろう。友軍が先に来た方が勝ち、そういう状況だ。
「P7を初期化、義体を処理して後退するという手はどうだ」
「有効性は認めます。認めますが……」
「ですが、なにかね?」
ギロリとアイクが春嶺を見た。
「推奨手順だろう?
「もちろん。運用規定集第三集『業務遂行時における備品破棄に関する規定』第二十五項でしたね」
MP40の視界が敵ライフル隊の射線を捉えていた。当たりそうもないほどに射撃間隔が広い。そのなかでもぞりと共有していた視界の一つが動いた。
「S.O.よりS792、スコーピオンへ、応射は許可しません。トリガーから指を離しなさい」
そう声をかけてから時計を見る、ヘリコプター到着まで、後12分。
『どうして! 向こういつまで経ってもこっちに来ないじゃないの! このままだとなぶり殺しよ!』
その声は激情に揺れている。無理もあるまい。仲間が撃たれ、敵にいいように撃たれながら、それでもただ伏せていろと命ぜられているのだ。
「頭上を取られている状況です。今応射して位置がバレた場合、戦術単位Sごと全損壊となります。今はこらえてください」
『臆病者! アンタの腰抜けの指示なんて……』
「――――腰抜けだとしても、君達を死なせるわけにはいかないのです」
言い切り、後方の主任管制席を見ながら続ける。
「私は
深い翡翠のような色のアイクの目が春嶺を射貫く。
「まだ君達は決死の吶喊や味方を切り捨てなければならないほど追い詰められていません。まだ、帰れる道がある。信じろとは言いません。ですが今は従ってください。私が、貴女達を死なせない」
そのアイクの目はどこかぞっとするような獰猛さで笑っていた。
『――だったらなんとかしてよ! なにもせずに終わるなんて嫌よ!』
「もちろんあなたたちにも戦って貰います。そのために、今は耐えてください」
『あんまり待たせたら承知しない』
「できるかぎり急ぎましょう」
そう言って無線を切る。
「セカンダリ・オフィサとして、私が隊を預かります。よろしいですか」
それを聞いたアイクが笑った。
「君は
「ありがとうございます。ではS792以外の戦術単位Sは進行を停止、S792接敵中の部隊が陽動である可能性を警戒し全周警戒を」
「マハマ、聞いてたな。指示実行せよ」
春嶺の隣のコンソールで手を上げて答えたマハマが全隊の状況の停止を指示。マップ上での動きが停止した。
『こちらS792! なんとか、P7の応急手当完了しました! 戦闘は不能ですが、私が背負ってなら動かせます!』
待っていた答えが返ってきて春嶺はわずかに笑みを浮かべた。予想より早い。
「S.O.よりS792、了解しました。後退用意に入ります。現在地の風向を教えてください」
『へっ!? も、もう一度お願いします』
『S.O.よりS792、復唱します。現在の風向を教えてください』
そう問いかけながら春嶺は天気図を呼び出す。スポット天気予報では風は南東からとなっている。
「風は南東から風速1ノットから2ノットです」
敵の風上を取っている。これなら、いける。
「S.O.よりMP40、応答してください」
『MP40、S.O.どうぞ』
間髪おかずに返ってきた答えは緊張した様子だった。意識して明るく声を掛ける。
「焼夷手榴弾を持っていますね。用意してください。それをPPSh-41やブレン・テン、スコーピオンにも一つずつ渡せますか? 一斉に投擲願います。距離はなくてかまいません、伏せたまま投擲できる距離までで大丈夫です、PPSh-41南西方向、残りの面々は敵ライフル隊の方向に向けて投擲を」
『でも届くほど距離があるわけでは……、それにスナイプ型相手だと絶対に届きませんが、それでも宜しいんですね?』
確認の声はMP40。
「敵機の破壊が目的ではありません。指示を待って投擲を」
そういって、時計を見る。ヘリコプター到着まで、あと、8分。
『用意完了しました。いつでもいけます』
「了解しました。セフティバーを抜いてください。投擲――――今!」
数瞬の間を置いて、爆裂音をマイクロフォンが拾った。
「後退します。南、方位190度方面へ向けて転進。PPSh-41、P7をつれて後退。邪魔なら武装は投棄してかまいません。ブレンテン、敵スナイプ型を警戒。おそらくPPSh-41に投げて貰った方向に居ます。適当にばらまきながら撤退支援を。スコーピオン、MP40は殿、適度に弾をばらまきつつライフル型を牽制してください。当てなくて結構です」
早口で指示を出しながら状況を改めて確認する。
「リト」
「なにっ!」
部屋の反対側から素っ頓狂な声がする。
「狼煙を上げた。そこから方位190方向に向けて後退させる。ヘリに連絡してくれ」
「了解っ!」
リトが英語でヘリ相手にまくし立てるのを聞きながら、春嶺は状況を睨む。
「なるほど、枯れ草ごと焼き払うつもりか」
「もっとも、これで三分もたせられば御の字です。ただの目くらましですよ」
戦域マップに飛翔体のマークが飛び込んで来た。味方のヘリコプターが目視可能なエリアに入る。
「それでも、3分あれば、ヘリコプターが突入できる」
『やっほー、S-7の指揮官聞こえてるー?』
アイクからお前が出ろとジェスチャーされた春嶺が無線を取る。
「S-7、お呼びの局どうぞ」
『本部直轄隊、グリフォン203、M2HBよ。ヘリの上から掃射命令ってとっても面白そうな指示ありがとう。このまま相手をガンガン撃ってけばいいのね?』
「グリフォン203へ。その通りです、危険度が高いかも知れませんがよろしくお願いします」
『大丈夫よー。ヘリのパイロットちゃんたちも危険手当がたんまりもらえるってやる気だから。このままうちの隊が動くわ。このヘリでそのままそっちのチビ達回収しなさい。あと指揮官のヒト、いい声ね。今度お姉さんと一杯いきましょう?』
「お気遣い感謝します。機会があれば」
『機会はつくるものよ、通信終わり』
「通信終わり」
無線が切れる。やっと炎を乗り越えた敵の部隊が上空からの掃射に潰されていくのがスコーピオンの視界から確認できた。高度を落としたヘリからロープが落とされた。
「うわ、あそこからラペイリングで敵前降下とか、本部直轄隊、やることが派手……」
呆れたようなリトヴァの声が響く。確かにまともな神経ならできないだろうが難の危なげも無く下りてきた部隊があっという間に敵を殲滅していく。
「S792、
春嶺が問いかけると無線がすぐに反応する。
『PPSh-41、P7、無事です。弾が髪を掠って焦っちゃいました』
『ブレンテン、異常なしです。ごめんなさい、スナイプ型見つけたんですけど弾届きませんでした』
『MP40、異常ありません』
『スコーピオン、無事です』
無事に4つの無線が返ってきた、とりあえずそれに安堵する。
「S.O.了解。協力に感謝します。スナイプ型も含めて、直轄隊に任せましょう。S792は全員、直轄隊を運んできたヘリで後送しますので、そのまま待機してください」
「よくやった。初陣としては立派だったろう」
アイクが春嶺の肩を叩いた。それに力なく笑う。
「かなりの賭けになってしまいました」
「それでも勝った。それでいいだろう。ご苦労だった。今晩は君達の歓迎会と帰還パーティーをしないとな」
アイクの声に春嶺は肩をすくめるのだった。
「お手柔らかにお願いします」
初陣とはいえほとんど戦わずに終わりました。どうしてこうなった。戦闘って描くの難しいですね……。
次回はパーティー……になるのでしょうか。
更新がんばりますのでよろしくお願いします。