DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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ジャ・クポ PHASE2

20641014T0315Z+0500(0815E)

"H"+0:00:03 of OPERATION-OCTOBER

PCC:Power Control Center, Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI:Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

 タジク軽金属工業株式会社、ロシュトカリア-クィジョフトル製錬工場、管理部棟。

 

「マジかよ」

 

 電力管制室のLED照明がパッと消え、その男は一瞬上を見上げたあと、管制室のコンソールの端にあるスイッチカバーを開ける。非常用発電機をスタート、四十五秒後には復旧できるだけの電力出力がでるはずだ。

 

 面倒なタイミングでこの停電だ。あと30分もしないうちに電力管理主任が威張った顔でやってくる。夜勤の彼にとってはよくあるトラブルなだけにもう辟易していた。

 

「TaLMIの贅沢なインフラに頭が下がると思わないか、兄弟?」

 

 管制主任席でそういう夜勤時の責任者が『万事問題なし』とフライングで書き始めていた報告書を破り捨てながら声を掛けてくる。

 

「まったくだ。グン川に発電所をつくってこれでホログも潤うかと思ったらアルミのための専用電源、それも三日に一回は切れると来ている。貧しい貧しいタジク人が羨んではいけないからとわざとこうしてるんじゃないのか?」

「工場だけが24時間電気が使いたい放題だと暴動が起きるからか? あり得そうで笑えねぇよ」

 

 無停電電源装置は旧式も旧式な弾み車(フライホイル)バッテリー。モーターと弾み車を直結し、電力が切れたり電圧が落ちても、弾み車が回ることで発電機として最低限の発電をカバーする仕組み。この機構の特性のためにすぐに電圧が落ちてくる。

 

「そろそろお怒りの無線が来るぞ。……ほら来た」

 

 責任者の腰に下がった無線機が入電を告げる。

 

「こちらPCC」

『こちら工程管制室(OCC)! さっさと電力を回復させろ! 電圧がおちて電気炉が止まったぞ!』

「全力で回復措置を行っております。すぐに復旧させますのでお待ちください」

 

 それだけ言って無線を切る。冷めてまずくなったコーヒーに口をつけた責任者はぼやきを上げる。

 

「そんなわけないだろうにさ。電圧的に一号炉から三号炉まで動かせるだけの電圧は確保してるっての」

「フライホイルの整備が悪いとか?」

「だとしたらそれは日勤の本社組の仕事だ。俺たちの給料には入ってない。そうだろう、兄弟?」

「違いない」

 

 クツクツと笑っている間、どんどん電圧が落ちていく。男は電流計を見て、一瞬眉をしかめた。

 

「……おい、兄弟。おかしくないか?」

「どうした?」

「発電所からの電力が回復しない。いつもはもう予備回線に切り替わるだろう。40秒はたったぞ」

「……発電所自体が止まったか?」

「だろうな。内部の発電機だけじゃ炉の運転出力確保は無理だ。これじゃどやされるかもな」

「勘弁してくれよ。今日は娘の誕生日なんだぞ」

「お前は独身だろうが。デタラメを言うなよ……ま、本社組が他の電力会社から電力もってくるだろうさ」

 

 この2人は気がつかなかった。

 

 停電の三秒前に、監視カメラの一つが、高圧送電線を巻き込むようにして、ピアノ線を垂らしたドローンが高速で突っ込んで予備回線ごとショートさせていたのをディスプレイに投影していた。強烈な火花を上げたのを大写しにしていたのに気がつかなかった。

 

 彼らの頭の中にはあと45分で夜勤が終わることしか頭になかったのだ。

 

 そして他の電力会社も送電できないことなど知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0315Z+0500(0815E)

"H"+0:00:32 of OPERATION-OCTOBER

Truck Yard, Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

「電力部の奴ら、整備をサボりおって、おい。積み荷を開けろ。欠品があるかもしれん。これぐらいのトラブルは日常茶飯事だろうが! サボるな!」

 

 班長のダミ声がトラックヤードにこだまする。コンテナが下ろされ、中から出てくるのはなにかのキャニスターの山。

 

「班長、これ結局なんなんですか? 時々このケースみたいなのありますけど」

「儂らが知る必要がないものだ」

 

 とりつく島もなくそう言われながら、まだ少年と言っていいぐらいのオペレーターがフォークリフトを使ってそのキャニスターを取り出していく。その様子を見た班長がホイッスルを吹いた。フォークリフト急停止。

 

「待て。そのケース、開封の跡が無いか?」

「あれ、本当だ。ぶつかってシールが外れたんですかね、電子錠のあたりは弄った跡がないですけど」

「……それを他のキャニスターと分けて下ろせ。確認する」

「はい」

 

 フォークリフトがトラックヤードに怪しいキャニスタを置く。上面のハッチは閉じられているものの、その両脇に張ってあるはずのシールが剥がれていた。

 

「運び屋がこれの中身を開けたんですかね」

 

 少年がそう言って、ハッチを叩いたとたん、そのハッチが吹き飛んだ。

 

「……え?」

 

 中から飛びだしてきたのは、人……のように見えた。まるで下着のような薄いベビードール。長い金髪がゆるりとその肩にかかっており、その金髪の間から、大きな犬耳のようなものが流れている。少年は地面に尻餅をついた姿勢のままそれを呆然と見上げている。

 

「女の……子……?」

 

 その目が開かれる。両目が赤い。

 

「……抵抗せず、投降しなさい。これより中央アジア共和国連邦警察令第000000285号に基づき強制捜査プロシージャを開始します」

「! 伏せろ!」

 

 班長が少年を弾き飛ばす。女の子のような物に見えたモノの手に大きなアサルトライフルが現れた。

 

「くそっ! 警備へ連絡! 侵入者! 侵入者だ!」

「警告、警告。抵抗せず道をあけなさい。これより強制捜査プロシージャを開始します」

 

 爆発的な加速でその女の子のようなものが班長を飛び越え、あり得ない程の力でトラックヤードの扉を蹴り破り、中に突入した。同時に他のキャニスターのハッチが吹き飛んだ、数は三つ。今の女の子のようなモノと瓜二つな恰好のそれが後を追うように工場の中に飛び込んでいく。

 

「警備センター! こちら第一トラックヤード! 侵入者だ! 冗談なわけあるか! 物騒な人形(ねーちゃん)がトラックヤードの扉を突き破って工場に入った! あぁ!? 止めろ!? ライフル相手に撃ち合えって!? 馬鹿野郎! それはお前らの仕事だろうが殺す気かっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0316Z+0500(0816E)

"H"+0:01:08 of OPERATION-OCTOBER

Main Gate, Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

「そう、冗談じゃ無くて本当に侵入者なんですよね」

 

 なんでもないようにそう言ってPPSh-41はロシア帽を直しながら上を見上げる。5メートルはあろうかという手がかりのない垂直な壁、その上には有刺鉄線が張り巡らされたこの工場の防壁は確かに有効だ。しかしそれは人間相手ならばという前提が含まれている。

 

 トン、と軽く蹴り込んで身体を持ち上げるPPSh-41、次の瞬間にはその塀を蹴り、上昇角を調整しつつ左手が有刺鉄線を掴む。人形が有刺鉄線程度で止まることはない。そこを支点にくるりとコンパクトに身体を回す。そのまま真下にすとん、と降りると同時にセーフティをオフ。そのまま壁沿いに走り出す。

 

「A分隊、エントリー完了です」

『A分隊を二隊に分けます。A1はPPSh-41主導で物証をおさえてください、A2はMP40中心に工場の管理棟を制圧してください』

「了解しました」

 

 作戦の指示は単純明快だった。作戦開始から1分半、そろそろ最初の衝撃から抜け出す頃のタイミングだろうか。

 

「電力復旧までどれぐらいですか?」

『あぁ、復旧なんてしませんよ』

 

 通信の向こうの春嶺はさらっととんでもないことを言った。笑っているような声色だ。

 

『自社発電所の予備回線復旧には最短でも1時間以上掛かるでしょうし、その作業を担うホログ周辺の電力会社は、昨日の夜中にいきなりTaLMIへの電力保守契約の解約通知を出したそうですよ。電力完全民営化で生き残りにどこも必死です。恐ろしいですね』

「……それは恐ろしいですね」

 

 これがグリフォン社の支援なのか、春嶺の古巣であるJWパブリシズの支援なのかはわからない――おそらくは後者だろうとPPSh-41は踏んでいる――が、とんでもない無茶が裏で動いているらしい。

 

『工場内にある主発電機は全てが炉頂圧型(TRT)、要は製錬に使う炉の排気ガスで発電するタイプです。炉が停止すれば出力を維持できません。瞬断対策の予備発電機が止まればそこまでです』

 

 管制装置の向こうの指示を聞きながらPPSh-41が走る。その後ろに控えるのはブレン・テン、MP40、P7の3人とそれぞれのダミーだ。かなりの大所帯での活動になるが、電力のロストと、オートメーションで暴れるだけ暴れるよう設定したGr-G41の義体が真っ先に工場に侵入したためか工場はすでに大混乱。組織だった反撃はまだきていない。

 

『核プラントは電力停止が許されません。臨界まで反応させないにしても崩壊熱の問題があるので冷却が必要です。ですので非公開の電源がどこかにあるはずです。……最後まで電力が残っている場所がアタリですよ』

 

 P7の弾丸が監視カメラを物理破壊(ハードキル)。彼女の武器はP7M8SD、P7の中でも発砲音抑制器(サウンドサプレッサ)の装着が可能なタイプだ。高音域をカットされた銃声がわずかに漏れ出た直後に、カメラのガラス片が地面に落ちる。

 

『まもなく曹長とナインティーンが合流します。法執行の必要がある際は曹長の指示に従ってください』

「了解しました」

 

 通信が切れた直後、左手の小道から人影が出てくる。反射的にポインティングした銃口をすぐに逸らす。

 

「お待たせー!」

「ナインティーン、早いですね」

「曹長さんが上手いこと正門を抜けてくれたので!」

 

 ジャズグル曹長を護衛しながら現れたのはローレディの位置で拳銃を構えたM1911だ。

 

「うちのトラックドライバーの回収って言い張って抜けてきた」

「流石です。曹長は私達と現場に向かうんでいいんですよね」

「えぇ、お雇いの警備員や日雇いに用はないけど、現物は拝まないと先に進めないのよ」

 

 PPSh-41に向けそういった彼女の手にあるのはAK-12。換えのマガジンも二つほど携帯しているようだ。少しは戦力として期待してもいいだろうかと値踏みしながら足を現場に向ける。

 

「それにしても良かったの? アインちゃんって子の義体、ほぼ間違い無く破壊されるわよ」

「彼女の電脳とコアはすでに回収しているので、問題ありません。今暴れてるのはいわば彼女の抜け殻です。彼女は死にません。そのためのダミーですから。ダミーオンリーでの自律行動だと連携もなにもないような精度ですが、囮としてなら充分動きます」

 

 本体はすでに別の場所に隠したそうですよとPPSh-41は説明しつつ、前を見据えた。丁字路が迫っていた。左に行けば管理用の建物、右が工場の正面玄関のはずだ。

 

「MP40、ブレン・テン管理棟の制圧と遠心分離機系統の停止および詳細な内部MAPの更新と共有をお願いします。M1911とP7、わたしで曹長さんを護衛しながら工場の内部へ、物証を抑えます」

「了解、気をつけてくださいね」

「そう簡単にわたしは落ちませんよ」

 

 MP40にそう返してから、PPSh-41は敷地中央の工場棟へと向かう。ちょうど昼夜の勤務交代に向けた時間らしく、外を歩いている工員の姿もあった。その出口に向けて疾走。いかにも警備員といった服装の男性が真っ青な顔をして銃を構えた。PPSh-41の電脳はライブラリの中からアーセナルJSカンパニー製シプカ短機関銃のデータを引き出した。

 

「と、止まれ! 止まらんと撃つぞ!」

「抵抗しなければ攻撃しません、道を空けてください!」

 

 どっちがどっちのセリフかわからないなと内心苦笑いを浮かべるPPSh-41。結局鉛玉は飛んでくることがなく、その警備員が組みついて来る。この見た目の人形を撃てなかったのだろう。きっと優しい人だ。それでもその男をPPSh-41は乱雑に足下に組み伏せた。

 

「そのまま走って!」

「了解っ!」

 

 P7がそう返しながら正面玄関のガラスをたたき割った。その音で周囲の作業員が耳障りな叫び声と共に逃げ惑う。逃げない奴は警備員か軍人かテロリストと相場が決まっている。今回逃げずに懐に手を突っ込んだのは5人。拳銃やらサブマシンガンが飛び出す前に、P7がクリアリング。ダミーも行すれば1.5秒も掛からずカタがつく。

 

「クリアッ!」

「そのまま先行! 押さえたら追いつきます」

「クソッ、こんな子どもがなんで……」

 

 ダミーが全周警戒をしつつ距離を詰める。まったく同じ顔の少女が何人もいるその異様な光景に警備員は目を見開いた。

 

「ここはあなたが守る程の価値はありません。そのまま気絶した振りをしてください」

 

 うめく警備員に対して口を動かさずにそう発声するPPSh-41。それで警備員も人形が相手だと気がついたらしい。その直後、一瞬の違和感に気がついた。

 

『PPSh-41即応せよ(プリパレーション)!』

 

 春嶺の声が頭に響いた。とっさに飛び退くと同時、警備員の頭が爆ぜた。アスファルト舗装の破片と一緒に反動で跳ね上がった彼のトルソーが赤い霧を振りまきながら木っ端微塵になっていく。その攻撃はいまだ継続中だ。

 

 この高威力、毎分3,000発を超えているであろうハイサイクル射撃。それでもPPSh-41の目は弾丸の姿を捉えている。何が起こったのかをPPSh-41は一瞬で理解した。自分のダミーの襟首を掴んで目の前に投げ込む。

 

(25×137mmNATO弾! GAU-12 イコライザー!?)

 

 自分の似姿がくしゃくしゃになるのを見ながらPPSh-41はとっさに地面に伏せる。背後の工場にも容赦なく砲弾が突き刺さった。工場の外壁やガラス張りの玄関など遮蔽物にもならない。薄い装甲なら平気で食い破る機関砲とはそういうものだ。

 

 射撃が止んだ。P7からの通信がオンラインになっていることに気がつく。

 

『ペーシャ!?』

「無事ですよ。ダミー1,3,4ダウン。ロシア帽(ウシャンカ)が飛ばされちゃいました。そちらは?」

『P7ちゃんも曹長さんもわたしも無事ですよー。私のダミー2を盾にしたおかげで曹長さんが腰抜かしてます』

 

 これだけの攻撃でM1911のダミーが一体吹き飛んだだけで済んだのはラッキーだ。PPSh-41の方は一度に三体ものダミーを失ったが、遮蔽物のない空間でのことだ、致し方あるまい。

 

 発射点を見上げると、三階建ての管理棟の屋上で空が揺れていた。その揺れの中心、虚空から白い白煙が漂っている。

 

「光学迷彩……」

 

 目が合ったことに相手も気がついたのだろう。迷彩は無意味と思ったのか、空間が滲んで砂漠迷彩を意図したであろうタンカラーの人影が現れる。

 

『なんてこと……ザバーニャがなんでここに』

 

 左腕にマウントされているのは先ほどのガトリング。右手に持っているのは大型榴弾を投射するランチャーか。そんなことを思いながらPPSh-41は口を動かす。

 

「曹長さんは知ってるんですか?」

クルグス陸軍(こっち)のパワードスーツよ。機材更新でスクラップになったって聞いてたんだけど、こんなところに来ていたなんて……』

 

 呆然としたような声色のジャズグル。どうやら輸送隊には知らされていないらしい。その『ザバーニャ』の全長は3メートル程度。胴体からちょうど人間の腕と足が収まりそうな可動式の筒が不格好に張り出しているのを見る限り、操作方式は操縦者の動きをパワードスーツが再現するマスタースレイヴ方式。操縦者の胴体は厚い装甲で守られているらしい。この短機関銃で抜ける程度の装甲ではなかろう。

 

「……M1911、A1の指揮を移譲、曹長さんと奥へ。アタリは地下です。あれだけの武装を遠慮無く使えるなら地下しかありません」

『ペーシャ1人でアレを相手にする気!? 無茶だって!』

 

 P7の慌てた声。身体を起こす。自分達が高々非装甲(ソフトターゲット)用の武装であることは百も承知。

 

「無茶でもなんとかします。それに1人じゃないですから」

 

 そう言って槓桿(こうかん)を引く。別の通信が入る。大分聞き慣れた男性の声が電脳に滑り込んだ。

 

『PPSh-41、行動を承認します。三分です。三分稼いでください』

「了解しました。遅滞戦闘に入ります」

『――――あー、もうっ! 電脳だけは守りなさいよ! 後で回収したげるから!』

「そのときはよろしくお願いしますね、P7ちゃん」

 

 PPSh-41はそれに振り返らずに答えてから、ストックを右肩にあてがった。『ザバーニャ』のカメラが笑ったように見えた。多分気のせいだ。

 

「さて、始めましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0320Z

"H"+0:05:42 OPERATION-OCTOBER is OPERATED

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いよいよ戦闘開始です。

……これだけ字数を使って、作戦時間で5分しか経っていない上に、同時進行のフェルガナやB分隊の動きを書けていないので、字数がどこまで膨らむのか想像がつきません。ヤバい&ヤバい。

次回フェルガナ編!

これからもよろしくお願いします!

この小説の中で読んでみたい短編はありますか?

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