DFL―フロントエンドオペレーション― 作:油そば大尉
20641014T0315Z+0600(0915F)
"H"+0:00:31 of OPERATION-OCTOBER
Kyrgyztani Army Fergana Logistics Depot, Republic Kyrgyz
「フン、警察はなにもわかっておらん」
どっかりと執務席に腰掛けたルスラン・ヴェルディエフ陸軍中佐はぼやいた。すがすがしいほどの快晴、今日は車列が工場に到達する日であるため何らかのアクションがあるのは想定済みだが、そのシナリオ通りになるというのは、不満の一つも言いたくなる。
「我が国は強くならねばならん。たとえ他人を傷つけたとしてもだ。その最前線で命を張り続け、クルグスを存続させ続けたのは我らが国軍だ。国内のアンドロイドの暴走の一つ片付けられない警察がそれに楯突くなど言語道断。あいつらに何ができるというのだ!」
「恐れ多くも申し上げます、中佐殿!」
補佐役としてついている男がヴェルディエフ中佐の前、直立不動の姿勢のまま、口を開く。
「どうした少尉」
「警察による強制捜査プロシージャの発動という横暴に対して、我が基地は機関銃分隊を増強した二個増強小隊による警戒を実施しておりますが、本当にここまでしてよろしいのでしょうか。国軍が警察組織と銃撃戦を行ったとなれば、市民からの反発が少なからずあるのではと小官は愚考いたします」
「腰抜けの警察共が銃を突きつけられてもそのハリボテの正義を叫べるか疑問だ。……それに捜査なら軍警察がすると法務の方からも言っている。それを覆せるほどあいつらは仕事はしていない。人民も味方につくだろう、軍が警察業務に介入してから実際に暴動は鎮圧された」
ヴェルディエフはそう言って葉巻を取り出した。それに火をつけたタイミングで、司令官室の扉がノックされた。返事を待たずに焦った顔をした通信担当の士官が入ってくる。
「報告します! 気象測量軍団より急報です! 民間機が二機、急速に指定ルートを外れ、フェルガナへと接近中!」
「航空機の逸脱などよくあることだろう。民間機の管制は交通省の仕事だ」
ヴェルディエフは眉をしかめながらそういうものの、その通信士官は引き下がらない。
「お言葉ですが中佐! 交通省はその指定ルート変更を追認! 本輸送基地に真っ直ぐ突っ込んできます! 我が軍へのインフォメーション、確認できません!」
「どこの機体だ!?」
副官が叫ぶように問う。
「トランスポンダーの情報はCN-GKB……登録が正しければグリフォン&クルーガー社の、輸送用ヘリです……!」
「な……っ!」
「……基地との距離は?」
驚いた顔で硬直する副官を無視してヴェルディエフが聞く。
「速度維持ならばあと3分もありません!」
「……グリフォン社め、節操なく尻尾を振りおって」
「警察からの強制捜査プロシージャ開始時刻と同時に進路変更……これは……」
「裏切りおったな、ヘリアントス……!」
葉巻がヴェルディエフの怒りに震える手の中で握りつぶされた。
「ここは危険です! どうぞ地下のオペレートルームへ!」
ヴェルディエフは少尉の声に立ち上がる。それでも遅いと思ったのか。少尉がその横にきて、椅子を引いた。
――――――――その刹那、だった。
バシッという硬質な音と同時に、2人が背にしていた窓ガラスの一枚が真っ白に曇った。少尉の頭蓋骨が砕け、執務机にばらまかれる。
「なっ……! 狙撃!?」
執務室の窓は防弾ガラスだったはずだ。それを難なく貫通した。首から上が綺麗さっぱり吹っ飛んださっきまで少尉だったものがどさりと机に上半身を投げ出した。執務室は異様な静かさに包まれる。
「アンチマテリアルライフルによる、狙撃……だと……!」
こんなふざけた威力のある兵器など、警察には装備されていない。
「そこまでするか……グリフォン&クルーガー!」
部屋から待避しつつ、ヴェルディエフは叫んだ。
「基地防備隊に達する! 接近してくるヘリコプターを叩き落とせ!」
20641014T0315Z+0600(0915F)
"H"+0:00:03 of OPERATION-OCTOBER
Pochtovoye Otdeleniye Bld., Аlisher Navoi ko'chasi St., Fergana City, Republic Kyrgyz
時間は一分ほど巻き戻る。
「えいっ!」
飛行するヘリからラペイリング用ファストロープもパラシュートもなしで飛び降りるなんてどういう無茶だと思うが、作戦なのだから仕方が無いと割り切ってM99は降下目標の青いバッテン印の書かれたシーツがあるビル目掛けてヘリのスキッドを蹴った。銃は戦車に轢かれても大丈夫とメーカー太鼓判のハードケースに突っ込んでしっかり背負った。
「とととっ! ヘリアンさん作戦タイト過ぎです……」
こういうときだけは義体の強度に感謝だ。相対速度120キロオーバーから安全に数メートルで減速できる。ビルの屋上に思いっきりひび割れを作ったのはコラテラルダメージとして目を瞑ってもらうしかない。
「こんにちは! G&Kです! 警察の方ですよね?」
「……お嬢ちゃんが応援の狙撃手?」
「はい! お手伝いに来ました」
そう言い、ケースのロックを外し、ライフルを取り出しつつそういった。私服姿に狙撃銃を持った二人組が目を白黒させている。
「だ、大丈夫なのか……こんな子が……」
「M99は大丈夫ですよ? 任務ですから」
そう笑いながらM99はケースをちょこんと寝かせ、椅子代わりにしつつ、ビルの壁に
「えと、あの基地の建物までの距離ってわかりますか?」
そう言いながら背負ってきていたウサギの顔をモチーフにしていたバッグから弾倉を取り出す、数は二つ。識別のためにボックスマガジンにはテープが貼ってある。先に装填するのは黒テープを貼った徹甲弾だ。
「三階の執務室まで850メートルです。基地外郭までならおおよそ600メートル」
「ってことは……最長で930ヤードですね。ビルの高さが……6階建てだから……よしよし」
M99が肩に銃をあてがった。左手はストックの下の
「
M99の声に反応するように、リボンと一緒に髪を飾っていたウサギのぬいぐるみの耳が跳ねた。そのままM99の頭の上に立つ。
「これもロボットなのか……」
「この子は
えっへんと頭の上で胸をはるぬいぐるみに警察の狙撃チームはなんとも言えない表情をしているが、M99はスコープを覗き込んだので、それに気づかなかった。
「シクラメンよりホテルケベック、位置につきました」
無線用のコールサインでヘリアントスを呼び出しながら、そう告げる。
『執務室の様子は見えるか』
「はい。……防弾ガラス越しになるので当たるかは保証できませんけど」
『ヴェルディエフ中佐は外せ。他の奴なら撃ち殺して構わん』
「了解」
蕈霸が頭の上で照準支援を始める。
「ゼロインからして、3クリック上の……2クリック左……か。攻撃用意良し、許可を」
『ホテルケベックよりシクラメン、攻撃を許可する』
「許可確認。攻撃開始します」
直後に撃鉄が落ちる。強烈な反動がM99を叩くが、それに難なく耐える彼女。髪が風で揺れているだけだ。右目で覗いたスコープの先では弾丸の底を捕らえ続けている。ゆっくり一秒数えたタイミングで窓ガラスが曇った。
「すっげぇ……この距離かつ防弾ガラス越しで、初弾を当てやがった……」
双眼鏡をラフに構えた警察がそう言う。ひび割れたガラスの向こうでどうと倒れたのが見えた。
『やったか?』
「部屋にいた1人、たぶん中佐さんの副官さんをキルです」
『よくやった。これでメッセージは伝わっただろう。あとは狙えるだけ対空砲火を潰してくれ』
「了解しました。攻撃続行します」
M99がそう言いながら次の狙いをつけた。
20641014T0316Z+0600(0916F)
"H"+0:01:52 of OPERATION-OCTOBER
CN-GKB flying over Fergana Logistics Depot, Republic Kyrgyz
「さすが徹甲弾……ペラい装甲やら土嚢じゃ意味ないな……」
操縦席からそんな声がする。どうやらM99は対空配備された重機関銃の銃撃手を正確に撃破しているらしい。攻撃らしい攻撃は無いままだ。いくら軍でも自国の市街地に向けての発砲は慎重になるらしい。ヘリアントスがそっと目を開いた。
「グリズリー、MP5、スオミ」
「了解。降下用意に入る」
「はい! 行ってきますね!」
「やっと降りられますぅ」
開放されたスライドドアの枠の外を高速で背の低いビルが駆け抜けていく。ローターの先がそのビルをかすめるような低空飛行でヘリは飛び込んでいく。窓ガラスに反射した日光がキラキラと光り、銃架に固定されたM2機関銃とそのオペレータを影絵のように型抜く。オペレータのM2HBはヘリのスキッドに足をかけ半分身を乗り出すようにした姿勢で正面を睨む。
「で、ヘリアン?」
「なんだ」
「本当にいいのね?」
「私もここで死にたくない。そうしてくれないと困る」
「久々ね……こんな許可なんて」
M2はそう言って、単純な照準器をのぞき見る。その口の端が歪んだ。
「やっと対空砲火が来そうだけど……。もう遅いのよね」
セーフティを解除。
「基地境界の防壁を越えたタイミングで右に首を振りつつ5秒ほどホバリングする。そのタイミングで降下班は降下しろ。M2、9A-91、OTs-12で火力支援を行う。ドアガンナーのまねごとだ。楽勝だろう」
「前もやったわ。……そういえばそのときもハルミネがらみだったわね」
そう笑いながらM2HBはハンドルをしっかり握り、ボタン型のトリガーに指を乗せた。
「ま、今は集中しないとね」
ヘリが塀をスレスレに跳び越えた。驚く男共の顔を見下ろしながら、ヘリは急激にテールを回し、騎兵の到来を告げる。
「ハァイ、
50口径の雨が降る。やっとのことで取り出したらしい
「こりゃ対空砲火より
操縦席から呆れた声がするが、M2HBやOTs-12たちが制圧射撃を行っている反対側のスライドドアが開く音でかき消された。三つの影がヘリから飛び降りる。MP5とグリズリー、そしてスオミだ。熱で燻され鈍く光る12.7x99mm NATO弾の空薬莢よりも早く地面に向かう。精々15メートル。ビルの五階ほどの高さだ。強化義体であればなんら問題無い。
装着したGSG UX外骨格で衝撃を吸収しつつ軟着陸したMP5が、抱えていたH&K MP5A3のセレクタをセーフティからシングルへと弾いて変更する。その横にすたんと降りてきたのはグリズリー。ハイレディポジションからコンパクトに腕を回し、教科書にそのまま使えそうなほど綺麗なアイソセレススタンスでL.A.R.社製GrizzlyWinMag自動拳銃6-1/2バレルモデルを構えた。
「ふぅ、これで野蛮な空気を吸わずに済みます」
味方相手に結構とんでもないことを言いながら、ワンテンポ遅れて降りてきたのはスオミだ。白いコートが風をはらんで揺れ、空色のジャケットがみえた。その様子に人知れずため息をつくグリズリー。
「行って、ポイントマン。支援はしてあげる。被弾が一番多かった人が全員分のお昼ご飯奢りね」
「それってわたしとスオミさんのハードルが異様に高いですよねっ!?」
そう叫びながら爆発的な加速で飛びだしたMP5。その彼女に攻撃が集中するが、小柄な彼女はその体躯を活かし、相手の懐にあっという間に飛び込んでいく。
「私達で戦場を掻き回す。相手の連係を崩させながら駆け回るよ」
「手柄を同志に捧げるんですか?
「ヘリアンも乗ってるヘリをさらっと燃やさないでよ。……ならこう考えよう。餌を私達で用意してやるんだ。感謝の一つは言われるんじゃない?」
そう笑いながらグリズリーは発砲。ケプラー製のヘルメットごと兵士を一人冥土へと送り届け走り出す。
「そんな感謝なんて必要無いんですけどね!」
フルオートでKP/-31を振り回し、相手の頭を下げさせる。動きさえ封じられればそれでいい。
同時にダミーが管制圏内に入った通知が届き、一瞬だけスオミは視線を上に向ける。ドローンが投下したダミーキャニスターがパラシュートで減速しながら降りてくるところだった。クラスター爆弾かなにかと勘違いしたのか、対空兵器はこぞってそれを落としに掛かる。まぁ二体か三体は残ってくれるだろうと、スオミはダミーの起動準備を指示しながらドラムマガジンを交換する。
ヘリはゆっくりと基地の周りを周回しながら、地上降下組があぶり出した人員を上から叩き潰していく。M2HBの
「散開! 散開しろ! 固まってたら全滅するぞ!」
「ふざけんな! この銃撃の中をランニングしろって言うのかよっ?」
そんな言い合いをしている兵士のいざこざを解決してあげるMP5。天国で仲直りできるといいなと願いつつ、飛んできた手榴弾を空中で蹴り返す。弾丸が来る前に、外骨格の爆発的な出力に任せて後ろに飛び退きつつ射撃を加えると、その射撃もすぐに止んだ。
「……地味に数が多いですねっ!」
地面に転がった兵士を踏まないように気をつけながら、MP5はアイアンサイトを覗き込む。単発のまま撃ち続ける。弾は有限だ。
MP5の特徴は短機関銃の中では破格の集弾性を誇ることにある。機構の複雑さと引き替えに得た精度の高い高速射撃。それを活かした近距離での制圧戦闘こそMP5の真骨頂。
「さすがに数が多すぎる気がしますけど、厳しい戦いはこれで終わりです」
安全高度まで降りてきたダミーを積んだキャニスターが弾け飛ぶ。事故ではなく通常の動作だ。キャニスターケースの蓋を火薬が弾き飛ばし、中から人形が飛びだしてくる。
相手から見ればこれほど絶望的なことはないだろう。ここまで一方的に蹂躙した相手の数が数倍に跳ね上がるのだ。
「活動可能は3体ですか。1体落とされちゃいました」
MP5の似姿が3体飛び出してくる。そのうちの1体が放り投げた弾倉をキャッチし、リロード。その間のカバーを残りの2体が行い、安全に弾倉を交換する。
ここまでくれば押し返されることはない。そういう緩みが無かったと言えばきっとウソになる。
「……この腐れ人形がぁ!」
「っ!?」
撃ち殺したはずの兵がMP5の足首を掴んだ。直後に目の端で何かが動いた。ダミーがすぐに対応しようと銃を持ち上げ――――それより早く、ライフルを構えた敵兵の頭が吹き飛んだ。足首を掴んできた敵兵の頭も数テンポ遅れて吹き飛ぶ。その直前に自分の腕を何かが掠って肩が跳ねる。右の太ももに持っていたバトルナイフを反射的に引き抜く。
「な、何するんですか!?」
「なにって……援護だけど」
どうやらグリズリーがかなりきわどい位置からMP5をかすめるようにしてクリアリングを行ったらしい。
「危ないじゃないですか! それにこんなの一人で十分ですっ!」
「だったらちゃんときっちり詰めなさいよね」
そう言って笑ったグリズリー。そのタイミングで耳障りなノイズが周囲に響いた。
「陸軍は攻撃を中止しなさい。我々の任務は輸送隊副司令ルスラン・ヴェルディエフ中佐の逮捕であり、諸君の殲滅ではない」
拡声器から響くのはヘリアントスの声。それを聞きながらため息をつくグリズリー。
「ま。これで準備運動は終わりだね。本番いくよ。建物の中だとMP5と私が主力になるからね」
「わかってますよ。ちゃんとヘリアン様をお守りします!」
ヘリが降りてくる。垂らしたロープを滑り降りてくるヘリアントスを見ながら、グリズリーはわずかに笑みを浮かべた。
「じゃ、エントリーといこう」
20641014T0319Z
"H"+0:04:48 OPERATION-OCTOBER is OPERATED
……PHASE2の作戦時間軸にすら追いつけずに字数が尽きました。フェルガナも五分経ってないです。ヤバい。
スオミちゃんのかわいいところをしっかり書きたいのですが、戦闘中かつ人選のためにただのアンチソビエトユニオンになってしまっています……ほんとすいません。かわいいところはいつか必ず……!
そして我が部隊では、スオミちゃんの着任をお待ちしています……。早く来てくれないとコアが尽きます。こちらもヤバイです。
ドール戦って描くの本当に難しいです。キャラクター名と同じ名前の銃を振り回すキャラクター×5を複数同時展開させるってどうすればいいんじゃあ……。
そんなこんなで次回はまた秘密工場に戻ることになります。
これからもよろしくお願いします。
(アンケートをちゃっかりとってみます。見たいのがあればご投票ください)
この小説の中で読んでみたい短編はありますか?
-
ヘリアン&グリズリーの夜のパーティー
-
アラタとナガンの過去話
-
忠犬Gr G41とご主人ソータ
-
リトヴァとP38のアイドル活動記
-
ドキッ♂ 野郎だらけの水着回