DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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ジャ・クポ PHASE4

 

 

20641014T0317Z+0500(0817E)

"H"+0:02:14 of OPERATION-OCTOBER

Khidorjiv, Roshtqal'a District, Badakhshanskaya Autonomous Region, The People's Republic of Tadzhik

 

 

「あの男に何を言われたの?」

 

 416に問われ、UMP45は歩みを止めないまま振り向く。この丘を越えればタジク軽金属工業、TaLMIの工場――秘密裏に核開発を行っている工場がみえるはずだ。作戦開始予定時刻から既に二分ほど、遠くで発砲音が聞こえ始めたあたり、丘の向こうは愉快な鉄火場になっているらしい。

 

「うん?」

「あのハルミネっていう指揮官のこと」

「あぁ、昨日の? おいしいケーキをごちそうしますからデートしようって誘われた、って言ったら信じる?」

「まさか」

「でしょうね」

 

 周囲は草の背も低く、不可視の小隊(404)を覆い隠してくれるものはない。G11は戦場にこんなにも近いのに歩きながら電脳を半分スリーブにしているらしく、416が半分引きずるようにして歩いてゆく。

 

「大丈夫よ、私達の仕事は変わらない」

「あのチビの人形に電脳に侵入されるのが?」

「……訂正するなら()()()()計画通りよ」

 

 そう言って肩を竦めるUMP45。最後尾で(ハナブサ)(アラタ)の護衛をしつつUMP9が笑った。

 

「まぁ、そこは信じてるけどね。でも、45姉、ちょっと変だよ。あのソータって指揮官に会ってから」

 

 そう言われUMP9は微笑んだ。

 

「そうかもね。でも大丈夫」

「大丈夫かどうかじゃなくて、何を言われたのかって聞いてるの」

 

 イライラを隠すこと無く問う416。しばらく考え込むような間を開けてから、口を開いた。

 

「マクベスのアクト1、シーン1」

「え?」

「416、シェイクスピアを読んだことはあるかしら」

「ないわ。数世紀前のコメディをインプットする余裕があるなら、タクティカルローディングの練習をするもの」

 

 割り切った答えに声を上げて笑うUMP45。

 

「人形としては正しいありかたかもね。でも知識として持っておいても損はないわよ。マクベスの第一幕第一場ではマクベスに予言を授ける三人の魔女の会話のシーン。有名なセリフがあるの」

「―――きれいはきたない(Fair is foul,)きたないはきれい( and foul is fair)、か」

「あら、ハナブサは読んだことがあるのね」

 

 英の声に頷いてみせるUMP45。

 

「私達がやっていることは『善い事(フェア)』か『悪し事(ファウル)』か。それを考える事がある」

「どうでもいいわ。そんなの私達の仕事じゃない。そんなくだらない事を考え続けて支障が出るなら指揮役を降りなさい」

「本当に? 私達人形は経験を資本としてアップデートを繰り返すのに? その経験の質を、私達の記憶の意味を問い直すことをせずに闘えるなら、416が羨ましいわ」

 

 そう言ったUMP45はどこか寂しそうに笑った。

 

「あの男は『君が誰かの道具ではないという記憶を私が与えてやる』……そう言ったわ」

「くだらん」

 

 英はそう吐き捨てた。

 

「そんなことで君達を自由にどうこう出来るという思い込みだ。傲慢そのものだ」

「えぇ、とても傲慢で、とても残酷。でも私はそれを切り捨てられない。ハナブサがナガンや一〇〇式を切り捨てられなかったように、ね」

 

 もう目の前まで丘の稜線が迫っていた。

 

「私達の仕事に変わりは無い。あの工場を襲って、核濃縮施設を破壊する。それだけよ」

 

 稜線のそば、光学迷彩を起動し、足音を消すようにしてゆっくりと進む。

 

「それでも、一度ぐらい期待してみてもいいんじゃないかしらね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0321Z+0500(0821E)

"H"+0:06:08 of OPERATION-OCTOBER

"Point-K", Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

「ガーランド、陣地転換をお願いします。PPsh-41だけでパワードスーツを相手取るのは相当に厳しい」

 

 春嶺は指揮管制装置(プロンプター)のちりちりとした神経を焼く痛みに耐えながら、リンクを維持し続けていた。装甲車を上手く使って光学迷彩用のメッシュスクリーンを張ったその小さなスペースの中から状況を見下ろし続ける。

 

「FNC、取れますか」

『はーい、なんでしょう?』

「ポイントN23へ二分で到着を。ルート上の監視カメラは生きていますが、陽動も兼ねて盛大に移動を。M14はFNCをバックアップ」

『むぅ、帰ったらお昼おごってくださいね?』

『私もご一緒させてくださいね!』

「わかりました。覚えておきましょう」

 

 そんなことを言う間にもだらりと下ろした左手の中にあるコントローラーはものすごい勢いで操作され続ける。

 

「のう、わしらも出た方がいいんじゃないか?」

 

 ナガンが春嶺の隣で控えたままそういった。

 

「そりゃあMP40側はわしが今管制しておるが、無事にオペレートルームは押さえられそうじゃ。……それより物理的に手が足りてないじゃろう」

「チルトウィング機のあたりが慌ただしくなっています。その対応が必要なので動かせません。耐えてください。SuperSASSが狙撃の体制を整えているとはいえ、戦力をこれ以上分散させたくはありません」

 

 春嶺は視線を目の前から動かさずにそういった。目元を覆うクリアーのサングラス型のスクリーンには戦域の情報がめまぐるしい勢いで動き続けている。オートメーションで動かしていたG41の最後のダミーがダウンした。だが、それでも成果はあったようだ。

 

「A1警戒。その先150メートル、Y(ヤンキー)34-E(エコー)の隔壁の閉鎖が遅れています。G41のダミー1がその手前でダウン。光学迷彩を纏った特殊兵がいる可能性が高いです。閃光手榴弾(フラッシュパン)を積極的に使用してください」

『A1了解!』

 

 M1911の声を聞きつつポイントをマーク。その様子をデータ上で確認しながらナガンは内心驚いていた。

 

 春嶺は現状4つの戦場を俯瞰しながら同時に管制を行っている。建物の中に飛び込んだA分隊第一班、『ザバーニャ』と交戦中のPPSh-41。B分隊は、PPSh-41の支援に向けて移動中のガーランド、陽動を行いつつチルトウィング方面を視程にいれつつあるFNCとM14。これを同時に管制を行いつつ、チルトウィングや警備の動きを監視しているのだ。

 本部棟を制圧中のA分隊第二班こそナガンが管制しているものの、春嶺の脳への負荷は計り知れない。

 

「……さて、そろそろ初動の衝撃が終わったくらいですね。相手が動きますよ」

 

 春嶺はそう言って笑って、チャンネルを開放。

 

「リト」

『はいはい、状況内の通信基地の制圧(ドミネ)完了してますよ。通信データは一通りぶち抜いてるけど、本当に止めなくていいのね?』

盗聴回線(えだ)がついてると向こうにわかるだけで十分です。それに……ほかの回線では仕事をしてもらわないといけませんから」

 

 作戦のオペレートルームにいるらしいリトヴァはその言い分に一瞬「う」と声を漏らした。

 

『本当にやるの?』

「できませんか?」

『まさか、天才リトヴァちゃんの手にかかればそれぐらい楽勝だけどさ、とんでもないスループット要求されるんだけど。G&Kのサーバー、欧州分まで占有して平行分散処理かけるけど、この通信回線保つ?』

「楽勝なんでしょう? それを保たせるのが貴女の仕事です」

『これだからブラック広告代理店上がりは!』

 

 泣き言は聞かないと、通信回線を切る。

 

「……ほんとうにええんか?」

 

 ナガンがどこか不安そうに春嶺を見上げる。彼は笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

 

「リトヴァなら出来ますよ。アレはとんでもない逸材です。……私にできて彼女にできないはずがない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0322Z+0500(0822E)

"H"+0:07:26 of OPERATION-OCTOBER

Operate Room, S07-Station of GRIFON & KRYUGER, Bekobod, Tashkent Region, O'zbekiston Respublikasi

 

 

「――――とか言ってくれちゃってまぁ、後で山ほどスイーツを奢らせてやる」

 

 リトヴァ・アフヴェンラフティはそう言いながら腕まくった。ナガンの聴覚情報をちゃっかり盗聴しているのにきっと春嶺は気がついて言っていたのだろう。本当にやってくれる。それを聞いた副官のP38は苦笑いだ。

 

 大量の情報が流れ続けるS07基地の戦術司令室。主任管制席にはアイザック・サネット一等管制官(プライマリ・オフィサ)が就き、その指示の下で戦闘の後方支援が行われている。リトヴァは右端の管制R卓を占有し、状況の確認を行っている。

 

「信頼されているんだな」

 

 アイクは笑いながらそういった。管制室はコンピュータの冷却ファンの音が低く響き、静かとは言い難い。カリーナはそれを気にしながらアイクの横に控えている。

 

「まぁ私とソータはなんだかんだ言って腐れ縁ですしね。訓練からずっとバディ組んでましたから」

 

 そう返してから、リトヴァは足下に置いていたアルミニウムのトランクを開け、中から取り出したヘッドセットをつける。首もとに掛けた指揮管制装置(プロンプター)と同期させつつ、口を開く。

 

「アイク、大モニターの右半分、もらっていいですか?」

「好きにしろ。マハマがペーシャ(PPSh-41)のバックアップに入っているからその画面は潰すなよ」

「了解です!」

 

 個人画面だけでは処理しきれないと、目の前の画面で用意していた資料を壁面いっぱいに作られたディスプレイモニターに()()()。現れるのは通信データの山。

 

「カリンちゃん、ちょい手伝って」

「えっと……何をすれば」

 

 カリーナがリトヴァの横にやってくる。ヘッドホンを手渡しながらリトヴァは笑った。

 

「今から作戦地域の全ての通信に特定のワードを検出するフィルターをかけて、特定のワードが含まれる通信をピックアップするから、そのなかで気になるとかヤバそうなものがあったらその通信をマークして欲しいんです」

「通信全部……って、ホログの通信基地局を経由する通信全部ですか!?」

「そうそう、IoT機器から電話まで全部。Pチャン、プロンプターに有線してくれる? バックアップで休眠中のダミーを集めて処理を底上げする。今E地区は真夜中のはずだから、ソッチの人形軒並み並列化するから」

「は、はいっ!」

 

 P38が自分の耳の後ろから引き出したコードをリトヴァの首もとを戒めている機械に直結する。

 

「さぁ、そろそろこっちもいくよ」

 

 腕まくりしたリトヴァは自らの腕を見下ろす。手元には今では珍しい機械式のキーボード。その上に手をかざし、彼女は自らの手を()()()

 

「いっ!?」

 

 目を見開いたのはカリーナだ。無理もない。リトヴァの手がメカニカルな音を立てて、指の一本一本が裂けるように細かく割れたのだ。クロムメッキされた細いフレームが液晶の青白い光を反射する。

 

「……特殊、義手」

「あれ? カリンちゃんに見せたことはなかったか。ごめんごめん。驚かせたね」

 

 そう言いつつ、102本に分かれた指をピタリとキーに合わせる。ヘッドセットがリトヴァの目元に白い光を投影し始めた。どうやら目の視線の動きでカーソルを動かすための入力装置らしい。

 

「記憶は無いんだけどさ、よちよち歩きの頃にコーラップスに汚染された湖に落ちかけたらしくてね、肘から先が無いんだ。おかげでこんなクールな義手をつけられたから、問題無いし私としてはラッキーよ。人形技術サマサマね」

「私も初めて見たとき驚きました……」

 

 P38が苦笑いを隠さずにそういった。

 

「ま、おかげでこんな仕事もできる。……ソータ。いくよ」

 

 後半は無線に呼びかけている。返事はすぐに来た。

 

『ドミネート』

「ラジャー、ドミネート。音声直接入力(VDI)を並列使用する。以降復唱は必要なし」

 

 同時に彼女の指が稼働する。キーそれぞれにそれぞれ固定の指が置かれ、彼女のイメージを遅延(レイテンシ)なしで打ち出していく。キー一つ一つの音を聞き分けることはできず、水が流れる音のように連なり管制室に響き出す。

 

「フィルター対象設定、テキスト及び音声『クルグス』『陸軍』『グリフォン』『クルーガー』『人形』『核』、画像データ、グリフォン社の人形が映っているデータ全般」

 

 とんでもない分量のテキストが流れ始める。正面の大モニターには通信に乗っているらしい画像、映像データが流れ出した。ほとんどは手ぶれの激しい動画のようなものだ。

 

「通信に位置情報タグが添付されているものをマッピング。クィジョフトルから二キロ圏外のものを除外」

「すご……」

 

 カリーナはその光景に圧倒され、思わず呟く。何枚かの画像が赤枠で表示された。

 

「これって……戦闘の動画?」

「工場の職員の端末のようです。おそらく逃げ込んだビルの窓から様子を撮っているようですね。あ、FNCだ」

 

 カリーナのつぶやきを拾ったのはP38。表示された動画の一枚に銃を撃ちながら走っているFNCの絵が映った。

 

「追っているのは……部隊章こそ外してるけどクルグス陸軍の戦闘服ですね」

 

 P38の声に頷いたカリーナ。それには目もくれずリトヴァは情報を処理していく。

 

「……面白いのが出たよ。一回線だけやたらとデータが大きいのが動いてる。なんだこれ」

 

 リトヴァが画面を整理し、大モニターにもう一つウィンドウを立ち上げた。なにかを映した動画のようなものだ。いくつものモニタを俯瞰しているのがみえ、万年筆が苛立ったようにコツコツと紙を叩いていた。

 

「……どこかの、オペレーションルーム? これキリル文字? ロシア語……じゃないですね。タジク語でしょうか?」

 

 P38がそんなことを言う。それを見たアイクが叫んだ。

 

 

 

「――――――その通信を切れ!!」

 

 

 

 アイクが慌てて通信を開く。

 

 

 

 

「ヘリアン! 緊急離脱(Eバック)、脱出しろ! そこはフェイクだ! ヴェルディエフの野郎はそこにいない!」

 

 

 

 

 その直後――――――――アイクの鼓膜を破らんばかりの破滅的な騒音が無線から響いた。

 

 

 

 

「……くそ」

 

 アイクの感情を限界まで抑え込んだ声がぽつりと落ちる。

 

 作戦はまだ、終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0323Z

"H"+0:08:13 OPERATION-OCTOBER is OPERATED

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短編アンケートで思ったより野郎水着回に票が入ってて驚いてる作者です。

……思ったより短くまとまってしまったのですが、キリがいいので投稿。

今回は人間のターンでした。次回からまた人形のターンに戻ります。

次回もよろしくお願いします。

この小説の中で読んでみたい短編はありますか?

  • ヘリアン&グリズリーの夜のパーティー
  • アラタとナガンの過去話
  • 忠犬Gr G41とご主人ソータ
  • リトヴァとP38のアイドル活動記
  • ドキッ♂ 野郎だらけの水着回
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