DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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ジャ・クポ PHASE6

 

 

 

20641014T0323Z+0500(0823E)

"H"+0:08:02 of OPERATION-OCTOBER

Helicopter Pad Control Room: Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

「忌々しい傭兵共め、まだ片付かんのか」

 

 ヴェルディエフ中佐の苛ついた声が響く。暗いこの小部屋の外では暖気済みのチルトウィング機が待機している。それでも彼はまだここを離れる訳にはいかなかった。

 

「まったく、無事にフェルガナ基地を吹き飛ばしたというのに、お前らの不手際のせいでこのザマだ」

「は、申し訳ありません。中佐殿」

 

 横に控えた男がそう頭を下げるが、中佐のいらだちは止まらない。無理もない。この部屋はもともとヘリポート管理のための管制室。窓を目張りし狙撃手対策としているだけであり、部隊の指揮に使えるような部屋ではない。ましてや指揮官であるヴェルディエフが指揮できる機材もなく、彼はただここで待機するしかない状況なのだ。

 

 なんとか()()()フェルガナ基地を吹き飛ばしたおかげで、グリフォン&クルーガー社に泥を塗ることができたのだ。奇跡の生還を果たしたヴェルディエフにより、核開発を行っているグリフォン&クルーガー社を血祭りに上げるという大義名分がこれでなりたつ。自らの模擬人格を積んだ身代わりの義体を操作する都合上、秘匿された有線回線があるこの基地に姿を隠さざるを得なかったのは必要なリスクだ。それもこの基地を襲っている()()()()()()()()()()()()()()()()を排除すれば済むこと。

 

「ええい、まだなのか」

 

 そのはずだったのだが、排除が完了しない。それどころか、先ほど電力がダウンした。内部発電まで落とされたということは電力管制室か工程管制室が制圧されたということだ。管理棟に突入したのは二種類の人形系10体。それが5分もせずに管理棟を制圧したということだ。

 

 人形を狩るように態々チルトウィング機まで使ってザバーニャを輸送していたというのにいいように足止めされてしまっている。

 

「デタラメに行動する人形相手ですと、駆除までにかなりの時間が……」

「デタラメだぁ? これは計画的かつ効率的な攻撃だ。必ずあのハルミネとかいう指揮官が近くにいる」

「しかしトラックの車列には確認できず……」

「通信データ出せ」

 

 ヴェルディエフは苛ついたようにその男のタブレット端末をひったくった。

 

「アレの用意はできているんだろうな。こういう時は相手の射程外から頭を叩き潰すに決まってるだろう」

 

 そのタブレット端末に表示した仮想キーボードをタイプするヴェルディエフ。どうやら近隣を飛び交う電波を片端からサーチしているらしい。

 

「乗員はシステムを整え待機しておりますが……しかし……乗員の負荷が大きいと……」

「構わん。来世ではまた徳を積めるだろう」

「……了解いたしました」

 

 部下が下がる。その間にもヴェルディエフはサーチをかけ続け、目当てのものを探しながらため息をつく。

 

「使えん奴らだ。通信があるに決まっているだろうが」

 

 ヴェルディエフは、グリフォン&クルーガー社が油断ならない相手であることを理解していた。フェルガナ基地とこの工場を結ぶ秘匿回線を掘り当てて、即時介入してくるような力尽くのパワープレイができるだけの情報処理能力。機関砲を相手に十二分に立ち回る人形の能力の高さを彼は正当に評価している。

 

「だが、だからこそ人形は脆いのだ。少しばかり教育してやらねばな」

 

 ヴェルディエフがタブレットの入力を止める。

 

「これを見ろ」

 

 部下にタブレットを投げ渡しながらヴェルディエフは笑みを浮かべる。

 

「通信の内容はわからずとも、通信量自体は計測可能だ。特に無線ならその強度から位置を特定できる。……出所不明な全ての通信が1カ所を経由している。西側斜面のど真ん中だ」

「これは……」

「指揮官が持つ端末だ。わかったらさっさとアレで潰してこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0324Z+0500(0824E)

"H"+0:09:00 of OPERATION-OCTOBER

"Point-K", Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

「けほっ、けほっ……結構当ててきますね。なんですかこの火力……戦車砲?」

 

 一発で吹き飛んだ装甲車の残骸を地面に伏せた姿勢のまま首だけ回して振り返りつつ、春嶺は咳き込みながらそういった。

 

「おそらくそうじゃろうな。口径だけで100ミリはあったぞ。まったく、わしが気づかなかったらどうなっていたことか」

 

 その彼を光学迷彩用のスクリーンを破る勢いで投げ飛ばしたのがM1895ナガンリボルバーである。出所不明の砲撃音を聞いてとっさに周囲を見回せば、装甲車のほぼ真上から砲弾が落ちてくるところだったので、これはさすがに致し方ない。春嶺は腰を痛そうにさすっているが、その身体に穴が空いていないだけマシであろう。ナガンは背の高い白いロシア帽(ウシャンカ)を直しながら嘆く。

 

「少しは感謝せい」

「それはもう。次は歯を『食いしばれ』なり何なり注意を入れて貰えるとさらに助かります」

 

 そのタイミングで無線に入感。ナガンが一瞬そのノイズに一瞬眉を顰めた。

 

『指揮官、大丈夫ですか!?』

「その声は一〇〇式ですね。無事ですよ。そちらは?」

『無事です。SuperSASSも無事ですよ』

「重畳。ではそのまま警戒をお願いします」

 

 春嶺は管制装置の調子が悪いのか、再起動をかけながら周囲を見回す。

 

「で、なんでバレたんじゃ?」

通信量(トラフィック)をスキャニングされたんでしょう。おかげで装甲車の中に置いてた中継機はもう使えません」

「さっきの無線のノイズはそれか」

「盗聴されているでしょうね、さっきから警告がうるさいですし」

 

 ウズベク共和国のS07基地との高規格通信を確保するための通信中継機は今ので吹き飛んだ。既にホログの通信基地はリトヴァによって制圧(ドミネート)されているため、その回線を最優先で回せば通信自体は行えるものの、その通信速度(スループット)は低下する。

 そして、その通信のセキュリティを割ろうとしている誰かがいるということもわかった。まだ内容の改変までは始まっていない。暗号が平文(ひらぶん)まで解析される可能性は低いが警戒はしておかねばならない。

 

「でもまあ、なんとかなるでしょう。それで、どう思います?」

「なにがじゃ」

「アレですよ」

 

 頭上を衝撃波が飛び抜ける。とっさに耳を守った春嶺の背後、装甲車の後ろ半分が吹き飛ぶ。工場の外壁をぶち抜いた後、直接照準で狙ってきているらしい。距離は650メートル強。高低差は45メートル近くある。よく狙い撃ちにするものだ。

 

 ごろごろと斜面を転がるようにして位置を変える春嶺。器用にジャケットを脱ぎ頭を隠す。その横にナガンが転がってくる。右手前方、工場の外壁が崩れる土煙の向こうにこの攻撃の犯人が見えてくる。

 

「あの四本足の多脚戦車。何に見えます?」

「どう見てもマンティコアじゃろうて」

 

 ナガンはわかりきったことを聞くなと不満そう。その手には彼女の名前と同じ回転式拳銃があった。

 

「……蝶事件(バタフライ・ケース)のかなり前に作られたんでしょうね、旧式のAIからバージョンアップしてないと見えますが……後ろに付いてる不格好なポッドはコックピットでしょうか」

 

 グリフォン社のデータベースにあるマンティコアのデータと照合すると、高く上がった尾のようなセンサ一マストの後ろに繭のような流線型を描くポッドが追加されているのがわかる。

 

「有人操作? 手を焼きそうじゃの。で、どうする気じゃ?」

「なぶり殺されましょうって言ったらどうします?」

「おぬしをぶん殴ってからアレを倒しに行くが?」

「痛いのは嫌いです。サクッと倒しに行きましょう。A1、M1911取れますか?」

 

 地下に突入した部隊に無線を掛けながら、春嶺は自分の腰に差していた拳銃を取り出す。

 

『M1911です』

「管制支援が止まります。マンティコアに酷似した思考戦車(シンク)指揮分隊(HQ)を直接狙ってきました」

『はえっ!? それ大丈夫なんですか!?』

「大丈夫なら管制支援を続行してますよ。以降、A1はジャズグル軍曹の指揮に従うように。アイクも支援に入ります」

『おい、俺に許可を取らずに支援を決めるな』

 

 無線に割り込んだアイクの声に笑みを浮かべる春嶺。ちゃんと聞いていてくれていて助かった。

 

「ではアイク、お願いします」

『ヘリアンめ、帰ったら酒の一つぐらい奢らせてやる』

 

 その一言でまだフェルガナ基地の面々が活動可能な事を知る。悪態をつきつつも、支援に入ってくれるアイクに感謝する。

 

『ソータ、ペーシャとガーランドの指揮戻すわよ』

 

 更に割り込むのはリトヴァの声。ザバーニャの処理をかなり急いでくれたらしい。心の中でリトヴァに感謝しつつ、無線を切り替える。

 

「受け取った。ガーランド、破壊されたダミー3は破棄して戦闘を続行してください。PPSh-41は残弾も少ないためガーランドの観測手を。二人ともナガンと一〇〇式、SuperSASSの支援に入ってください。ヴェルディエフ中佐、とんでもないものを隠してましたよ」

 

 そう言いながらカメラの画像を共有。改めて確認すればマンティコアは凶暴な形をしている。胴体の真下に懸架されている主兵装は旧ロシア連邦の傑作車載砲であるD-81T 125ミリ滑空砲。しかし懸架しているのが中央胴体真下という都合上、正面から撃ち合うことさえ避ければ、倒せるかどうかは別として、生き残ることは難しくない。

 

 問題はそれを避けられるかどうか不明なほどにこのマンティコアの機動性が高いことだ。あの重量で飛んだり跳ねたりできるのだからつくづく鉄血の技術とは恐ろしい。

 

「対戦車地雷とか持ってくればよかったですかね」

「ないものねだりをしても仕方ないじゃろうし、今から埋設するんか」

「冗談ですよ。……そろそろ装甲車の火災の熱で隠れるのも限界ですね。仕掛けますか」

「じゃな。それじゃあ、行ってくるぞ」

 

 伏せたまま左手を差し出してくるナガン。その拳に春嶺は右手を握りこつんとぶつけた。

 

「はい、お気をつけて、こちらの指示に注意してください」

「信じるぞ」

 

 ナガンが一気に飛びだしてゆく。同時に春嶺は頭を下げた。真上を主砲弾が通過した。再装填まで最速で三秒。油断できる状況では無い。身体を起こさずに匍匐前進で場所をじわりと変えにかかる。指揮管制装置(プロンプター)越しにSuperSASSの視線を呼び出し、発砲指示を出しつつ、音声回線を開く。

 

「一〇〇式、ナガンを頼みます」

「血路開きます!」

 

 一〇〇式がナガンの前に出る。同時にマンティコアに7.62×51 mm NATO弾が着弾。これまでグリフォン社が倒してきたマンティコアの残骸から、その個体のどこにセンサがあるかは判明している。正面の照準用のセンサ一群がメインだが、脚部に積載されている赤外線センサで全周をカバーしているはずだ。接近するほか撃破方法が無い以上、赤外線センサ破壊を急がなければ不利だ。

 

『左前足側、センサ破損を確認!』

「そのまま後方を狙ってください。そろそろ向こうも()()ますよ」

 

 SuperSASSに告げた春嶺の言葉の通り、マンティコアが上にバクンと跳ねた。一気に向きを変える。狙うのはナガン達だ。

 

「ガーランド」

 

 右前足の赤外線センサが弾け飛ぶ。ガーランドのダミー4が射撃可能地点に間に合った。外壁を走りながら安定した射撃ができるのは、この斜面に集まっている人形全員の視界や感覚をもとに正確な位置や風速などをはじき出せるためだ。ガーランドの本体やPPSh-41はまだ配置につけない。

 

「ガーランド、ダミー4の射撃続行。工場側には砲撃を向け難いはずです。そのままセンサを潰せるだけ潰してください」

『了解っ!』

 

 その間にもマンティコアの砲門がわずかに上下に揺れた。発砲、それを左右に飛び込むことで回避するナガンと一〇〇式。ナガンが右に走り、斜面を横切る方向に足を向けつつ速度維持。一方、左に避けた一〇〇式は斜面を駆け下りることで速度を増しながら手にした小銃のトリガーに指を掛ける。狙うは増設されたパイロットが乗っているであろうポッドだ。

 軽いハイサイクルの射撃音が響く。装甲を抜くには至らないがそのタンカラーの塗装に傷をつけるくらいはできる。そしてその衝撃音は間違い無く登場者に届く。

 一〇〇式の方に向けて足を動かし旋回するマンティコア。砲身で一〇〇式を薙ぎ払うようにして吹き飛ばした。

 

「くぅ……っ!」

 

 一〇〇式の顔が歪む。叩かれた右腕が歪んだ。銃こそ持てるものの、照準の補正は厳しいか。そんなことを考えながらも一〇〇式は電脳の詰まった頭を守りつつ受け身を取り、着地。

 

「先輩っ!」

 

 マンティコアの真上に白い影が飛び込む。中央の照準用センサをその銃で極至近距離から撃つ。パンパンと破裂音が響くと同時に黒い傷がセンサ一周辺に付く。通常の拳銃弾ならば付くはずの無い傷だ。

 

 そのまま一度ナガンは谷側、すなわち一〇〇式のそばに逃げる。

 

「とと、これでまともには狙えないはずじゃが……」

「今のは?」

「1発目は十二号散弾(ラットショット)、2発目でフランジブル弾。金属粉をすり込んでやったわ」

 

 ナガンは一〇〇式に答えつつ、にやりと笑った。 1.27 mmという極小の散弾を詰め込んだ拳銃向けの散弾と、スズを焼き固め、砕け散らせることでその細かい破片で照準に使うためのセンサを曇らせたらしい。

 

「精度は下がるだろうが、脅威なのは脅威じゃ。一〇〇式(モモ)、やれるか?」

「先輩には負けませんよ」

「は! 言うようになったのう」

 

 ナガンは笑って声を上げる。

 

「来いっ! 帝国時代の老兵の実力! 思い知るがいい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0325Z+0500(0825E)

"H"+0:10:24 of OPERATION-OCTOBER

Underground, Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

 

 静かだった。旧式な蛍光灯がちらつく音がその沈黙を埋めていく。足音を殺し、M1911はダミーを散開させながらその通路を進む。

 

『なんだか妙に涼しくない?』

 

 ダミーネットワークを通じて会話を振ってきたのはP7だ。通路を先行しているP7が通路の角の安全確認をしているのが見える。基本通りの綺麗な確認手順(カッティングパイ)だ。

 

『地下にかなり降りてきてるし、そのせいっていうのと……崩壊熱対策、かなぁ』

 

 M1911は後方の警戒をしてそう答えたタイミング、P7が全隊止まれの合図を出した。人形に護衛されているジャズグル軍曹がツバを飲む音がやけに大きく響いた。

 

「隠れてないで出ておいで。お客さんは久々だ」

 

 聞こえてくるのは大きな肉声。男の声だ。

 

『お呼ばれだけど、どうする?』

 

 P7の視界を共有すると、通路のすぐ向こうは大きな空間に繋がっているらしい。その奥で白衣を着ているらしい男の影が見える。骨格をデータベースと照合しつつジャズグルを見るM1911。

 

「虎穴に入らずんば虎児を得ず、ね。行きましょうか」

「了解です。今の指揮官は貴女ですから」

 

 M1911ガバメントをハイレディポジションで構え直しながら、ゆっくりとコーナーを曲がる。廊下壁にぴったりと張り付きつつしゃがんで射線を確保したP7の横をジャズグルはゆっくりと進む。

 

「おや、久しいじゃないか」

「……アレクセーエヴィチ・トロンベコフ・ジュマグロフ」

「トロンベコフ……っ!?」

 

 聞いたことがある響きにM1911は目を見開いた。この隣に立っている女性の名前は……。

 

「テルミベトゥワ・ジャズグル・()()()()()()()……我が名を分けた娘よ。やっと来てくれたね」

「勘違いしないで。私は貴様を逮捕しに来たのよ、トロンベコフ。貴様を指定危険物密造罪及び国家動乱準備罪の現行犯として逮捕する」

 

 手に持ったライフルを向けながら、ジャズグルはそう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0325Z

"H"+0:10:46 OPERATION-OCTOBER is OPERATED

 




さて、戦闘もいよいよ終盤となってきました。地下の部隊も波乱の様相です。

まだまだ続くよ戦闘回。
これからもよろしくお願いします。

この小説の中で読んでみたい短編はありますか?

  • ヘリアン&グリズリーの夜のパーティー
  • アラタとナガンの過去話
  • 忠犬Gr G41とご主人ソータ
  • リトヴァとP38のアイドル活動記
  • ドキッ♂ 野郎だらけの水着回
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