DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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投稿が遅れまして申し訳ありません。


ジャ・クポ PHASE7

20641014T0321Z+0100(0422A)

"H"+0:06:04 of OPERATION-OCTOBER

COO's Office of GRIFON & KRYUGER Co.,Ltd., Casablanca, Kingdom of Morocco

 

 

「失礼します。社長」

 

 結局一睡もできないまま勤務継続か、と一人心の中で嘆いたグリフォン&クルーガー社の統轄業務執行役であるベレゾヴィッチ・クルーガーの耳に秘書の一人の声が届いた。それを認めた彼は入室の許可を与える。

 

「どうした、ファルマン」

 

 万年筆のスクリューキャップを締め、胸ポケットに戻しながらクルーガーはスーツを着込んだ第一秘書のファルマンを見上げる。執務机の前で立ち止まり目礼した彼は、クルーガーに電子ペーパーを差し出した。

 

「アジアS地区での作戦に異変とのことで、ファン・クオンより連絡がはいりました」

「フムン。アジア支社長から直々に連絡とは、ただ事ではないな」

 

 クルーガーは名前が出てきた男を思い出しながら電子ペーパーに目を通す。グリフォン&クルーガー社は今や世界最大規模の民間軍事会社であり、世界各国から地方都市を中心とした治安維持業務の委託を受けている。そのため大きくなりすぎたシステムを分割、地域ごとに子会社を置くことで対応をしているが、今日はその一つであるアジア支社で異変があったらしい。

 

「確か、S地区で核密造問題の告発準備を進めていると報告が上がっていたな」

「はい。その関係で現在、タジク人民共和国内でクルグス共和国陸軍と思われる武装勢力と交戦中とのことです。また、クルグス共和国陸軍の補給基地に突入した部隊が現在基地から脱出中との報告です」

「……ヘリアンか。手柄を急ぎ過ぎるきらいがあるのをそろそろ意識してもらわなければな」

 

 そう言いながらクルーガーは目の前の端末に作戦番号を入力。リアルタイムの戦況報告を呼び出す。表示された戦域図を見てざっと状況を確認する。配置からして広域多方面作戦の展開。力業で扉をこじ開ける作戦だろう。

 

 クルグス共和国方面フェルガナ基地急襲チームは作戦失敗と判断できるぐらいにはズブズブだ。見事に基地の中に引きずり込まれ、天井を落とされた。MP5他、自社運用の人形に多数の被害が出ている。ヘリアントスが死んでいないのが救いだ。

 

 もう一方のタジク方面核濃縮工場急襲チームは作戦の目標自体を達成したものの、そこからの脱出が叶うかどうかという状況に思えた。クルグス共和国陸軍の兵器がここまで大量に出てきた以上、そちらの方向からアプローチできる。強行偵察は成功といえるだろう。

 

「フムン……物的損害はそこまで大きくないが、さて、これをどう政治的に決着させるか、その方針が問題か」

 

 クルーガーは顎に手を当て、しばし考える。

 

 作戦自体は以前聞いていたが、このタイミングで実行とは聞いていなかった。もっとも、アジアの片隅の作戦までいちいちトップが口出しをしていたら現場が崩壊することは、軍属の時に嫌と言うほど味わった。あの辛酸を現場に押しつけていないと考えれば、これもよいと言えるだろう。

 

 しかしながら状況が状況だ。中央アジアは人種と宗教、イデオロギーのるつぼと化している。その最中でタジク人民共和国の領土内でクルグス陸軍の部隊が活躍し、それも核開発を行っていたとなれば、軍事衝突は避けられないだろう。それを防ぐには政治的な幕引きが必要だ。

 

「クオンはなんと?」

「社としてがタジク人民共和国、およびクルグス警察の側に立った行動を続ける、と……」

「私にそれを連絡したのはそういう声明を出せということか」

「おそらくは」

 

 第一秘書の声にクルーガーはわずかに考え込んだ。

 

「……決定打が必要だ」

 

 そう言いながら机の端からキーボードを引き寄せる、デスクの脇の旧式ディスプレイに火が入る。

 

「ファルマン、状況収集を進めろ。必要なら明日にでも記者会見を組め。日程調整は任せる」

「は」

 

 敬礼をした第一秘書が出て行く。残されたクルーガーがキーボードを操作。呼び出したのは会社専用の回線網だ。上層から下りつつ、アジア支社のS07基地の番号を見つけ、コール。

 

『げ』

 

 繋がった瞬間にそんな声が聞こえた。女性の声だ。

 

「クルーガーだ。状況を報告したまえ」

 

 司令部のリアルタイム映像が表示された。一段高いところにある統轄席に就いている男と管制C卓でキーボードを叩いている女は見覚えがあった。S07基地の指揮を預けたアイザックと後方支援担当スタッフとして活躍しているカリーナだ。その右隣のR卓で嫌そうな顔をしている――目元は情報処理用のヘッドセットで見えないのにそう見えるのだから相当だ――金髪の女が先ほどの『げ』か。L卓に就く黒人風の男がR卓の女を睨んでいた。

 

『プライマリのアイザック・サネットです。報告します。現在核開発拠点を襲撃中ですが、マンティコアに酷似した鉄血製と思しき多脚戦車と交戦になっています。また、地下の秘密工場に警察とともに人形が潜入。現在その管理施設の制圧中です。重要人物と思しき人物の確保に移っています』

「フェルガナの方は損害大だそうだな」

『はい』

 

 怖じけずにすぐに返ってきた答えにクルーガーは内心笑った。状況をごまかさずに伝えられる人物は貴重だ。

 

「ここから先は政治的な話になるだろうが、君達はその戦闘に勝てるか」

『勝ちますよー。そのうえで社長さんに一つだけお願いが』

『リト!?』

 

 アイザックが目を剥く。中央R卓の女が高度情報処理用の高規格ケーブルが伸びるヘッドセットのゴーグルを跳ね上げた。青白い管制室の灯りの中で強調された青く光る丸い瞳がカメラを見据えた。

 

「君は?」

『セカンダリ・オフィサのリトヴァ・アフヴェンラフティです』

「ではリトヴァ。お願いとはなんだね?」

 

 クルーガーが問えば、人懐っこい笑みを浮かべる女――リトヴァが口を開いた。

 

『ヘカトンケイレスへのアクセス権をください』

「何に使う気だ?」

 

 ヘカトンケイレス――I.O.P.社が提供している高度演算処理用スーパーコンピュータだ。I.O.P.の技術が惜しげも無く使われ、人形のマインドマップのデバッグ作業などの高出力処理が必要な情報処理に使われている。決してそれは戦闘中に扱えるような情報量ではない。

 

『社長さんがこちらに無線を掛けた理由はなんとなく想像が付きます。決定打が必要なんでしょう? 理由は一つ、このままではただ武力をふるって暴れただけのPMCということで正義がついてこない。手段は二つ。一つ目、我が社の潔白を証明する、二つ目、その潔白かどうかなんて消し飛ばせるほど大きなスキャンダルの発掘』

「……それがどう関係する」

 

 正確に言い当ててくるあたり、このリトヴァというオフィサはバカではない。警戒しつつ口を開く。

 

『本当なら欧州の空いてるダミーを軒並み並列化する予定でしたが、ヘカトンケイレスが使えるなら話が変わります。ホログの核濃縮工場付近の通信は軒並み掌握し(ドミネっ)てます。それを使って絶対に覆らないように状況を作ります。社長さんなら意味分かるでしょう?』

『リト!』

 

 アイザックが止めにかかるがリトヴァは笑っていた。アイザックに笑ってみせるリトヴァ。

 

『新入社員に『傭兵に倫理は問うても人格は問わない』と言ってのけるような社長の肝っ玉がそんなに小さいはずがないでしょう?』

「ふ、肝の大きさ勝負だと君に負けそうだな。……いいだろう、リトヴァ。特例でアクセスを認める。社員番号を」

『PMOSAAS09274957AW』

 

 言われた記号を社員データベースに打ち込めば、リトヴァの経歴が表示された。アクセス権限編集、ヘカトンケイレスへのアクセス許可を選択する。

 

「アクセス期限は?」

『1時間ください。その間に片をつけますし、その先はソータがなんとかします』

「ソータ……秘密工場側の指揮官か?」

『優秀ですよ。私なんかよりずっと』

 

 リトヴァはそう言ってヘッドセットを戻す。

 

「リトヴァ・アフヴェンラフティ。貴下にヘカトンケイレス一番機コットスへのアクセス権を限定付与。現時刻より1時間の間に限り全領域の使用を許可する」

『恩に着ます、社長さん』

「義務への献身を期待する」

 

 通信を切る。これ以上は現場の邪魔だろう。上官は現場を信頼してなんぼだ。社長から連絡があっただけでも十分なアピールになっているはずだ。

 

「アフヴェンラフティ……か、使えるな」

 

 背もたれに体重を預け、画面を見る。リトヴァ・アフヴェンラフティのプロフィールを呼び出した。

 

「フィンランド系スイス人の23歳。スイス国籍は五年前……スイス連邦工科大学ローザンヌ校に入る時に取得。カーネギーメロン・ハインツ大学院大学の情報マネジメントスクール修士課程中退……専門は情報セキュリティ保全のための暗号化……? ペルシカが興味を示しそうだな。フムン」

 

 そう言いながらもう一度キーボードを操作。別の人材の情報を呼び出した。ソータと呼ばれていた人物が関わっているらしい。すぐに当たりが付いた。

 

「ソータ・ハルミネ……これか」

 

 コーラップスの影響から逃れるために日本からアメリカに脱出した日本難民の一人。米国アマースト大学在学中、大学OBであった米国の上院議員より米国陸軍士官学校への入学特別推薦を受けるも、米国籍保持の要件を満たさないことを理由に辞退。アマースト大学卒業後、広告代理店JWパブリシズに入社。イェール大学大学院の社会学専攻課程に社費で入学、社会広報研究室に所属し、博士号を取得。

 

「あぁ……あの彼か」

 

 経歴と一緒に表示された顔写真になんとなく見覚えがあった。404作戦のオブザーバーだったはずだ。グリフォン社に入ったとはどこかで聞いていたが、すでに実務投入されていたか。

 

「……読めてきた」

 

 リトヴァがヘカトンケイレスへのアクセスを要求した理由、工場周辺の通信を全てドミネーションした理由、そして、彼。

 

 机の内線を取り上げ、相手が出ると同時に告げる。

 

「ファルマン、今すぐ広報官を呼べ。今すぐだ。……あぁそうだ。緊急招集だ。JWパブリシズの担当者にも一報入れる。明日のニュース、良くも悪くも我が社がトップだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0324Z+0500(0824E)

"H"+0:09:02 of OPERATION-OCTOBER

Operate Room, S07-Station of GRIFON & KRYUGER, Bekobod, Tashkent Region, O'zbekiston Respublikasi

 

 その頃、リトヴァ・アフヴェンラフティは猛烈な勢いでキーボードをタイプしていた。横に控えていたP38も唖然としている。

 

「おいおいリト……横暴が過ぎないか」

 

 アイクがそう言って咎めるが、当人はどこ吹く風だ。

 

「社長が来たなら話は早いです。実際ヘカトンケイレスなんて使えるとは思ってなかったんで、かなり処理能力にはおつりが来ました。……あとは回線の速度だけですが、まぁなんとかなるでしょう」

 

 リトヴァはそう言いながら操作をする。

 

「必要なのは決定打です。ですがそれは絶対的な証拠という意味じゃないわけですよね。ニアリーイコールではあるかもしれませんが」

 

 R卓の個人液晶だけでは表示領域が足りないのか、正面の大型スクリーンもフル活用して処理を割り当てていく。

 

「つまり、グリフォンが正義の味方であると示せれば、事実はどうであれ勝ちということです。……まぁ、このあたりはソータの受け売りですけどね」

 

 ヘカトンケイレスへ元データと自らのアバターを送り込む。AIのサポートは受けられるとは聞いているが、今回はそこまで使わなくてもいいだろう。

 

「汚い手ですけど、ヘリアンさんもヤバい感じですから四の五の言っていられません。さっさと決めます。敵側が増援を出してくる前にカタをつけなきゃ本当に全滅するわけですし、ね」

 

 ヘカトンケイレスの用意を整えたタイミングで、無線でコールをかけるリトヴァ

 

「ナインティーン、取れる? こちらリトヴァ」

『M1911です。リトヴァさんどうぞ』

 

 呼び出したのは地下の区画に入り込んだM1911だ。

 

「まだ通路だね? 誰かや何かに接触は?」

『まだです。P7ちゃんが先頭引いてるので見つかったら報告させます』

「ん、了解。視界と音声、こちらに送っていてね。それ物証だけど、放射線もあるからそもそも現物を持ち出せないと思うから、こちらで情報のバックアップ取りつつ色々利用する。一応ガイガーカウンターのデータも合わせて送っておいて」

『M1911了解……話をすればなんとやら、です。P7接触』

 

 リトヴァはそれを聞いて笑った。

 

「P7、M1911、リアルタイムで映像と音声送り続けて」

 

 通信を切り替える。

 

「ソータ、応答はいらない。ヘカトンケイレスが使える。一気に回線を引き抜く」

 

 それへの応答はすぐにカリッという無線のノイズだけで返ってきた。それだけで十分だ。向こうはそれを了承した。

 

「さて、善良な市民様のご登場です」

 

 エンターキーを押し込む。リトヴァの意識はヘカトンケイレス上に構成された電子空間に置換(フリップ)された。

 

 状況が、動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0325Z+0500(0825E)

"H"+0:10:20 of OPERATION-OCTOBER

"Point-K", Roshtqal'a-Khidorjiv Plant of TaLMI: Tadzhik Light Metal Industry Co., Ltd.

 

「……よろしく頼みますよ」

 

 春嶺は伏せたまま用事を済ませ、個人の通信機器を切った。作戦中に個人通信を使うのは御法度らしいが致し方ない。相手はどうやら電波をスキャニングしているのだ。軍用回線や高規格通信を行えば一発で場所を特定される。致し方ないと信じたい。

 

「これで()()の方は大丈夫なはずですが……いかんせん戦闘が苦しいですね」

 

 目の前ではM1895ナガンリボルバーを中心に上手いことマンティコアをあしらっている。だが、お互いに決定打に欠けた膠着状態に陥ろうとしていた。

 

 相手は光学機器や赤外線センサを潰され、目隠し状態になっている。おそらく電波観測機が生きているようで、ある程度は砲を動かしてくるが、ナガン達の動きに追従できていない。春嶺たちは単純に火力不足のせいで決定打が撃てずにいる。互いに攻め手を欠いていた。

 

「えぇい、ちょこまかと!」

 

 ナガンが斜面を蹴り、相手の背に乗るが、すぐに振り落とされる。射線に一瞬身をさらすことになったナガンをサポートする形で、SuperSASSの狙撃がマンティコアのパイロットポッドに突き刺さる。貫通こそしないが、パイロットにとっては無視できまい。理論上安全と知っていても、頭のすぐ後ろ10数センチで弾丸が弾ける音を聞いてまともに動ける人間はいまい。実際一瞬だがマンティコアの動きが鈍った。ナガンが再度地面を蹴って再加速。主砲の投射域から抜け出る。しかしすぐにそれを視界に入れんと、マンティコアが真上に跳ねた。

 

 マンティコアの脅威は火力よりも不整地踏破能力に物を言わせた機動力にある。高い機動力で地の利を得、滑空砲の高火力で相手を封殺するという設計思想であることはその戦闘様式から理解できた。

 

 この状況は非常にまずい。相手にはまだチルトウィング機がある。連係されれば厄介であるし、疲れ知らずの戦術人形といえども長期戦になり弾薬が尽きれば本当に狩られるだけになってしまう。

 

「M1ガーランド、とれますか?」

『こちらガーランド』

 

 無線にすぐに対応が来る。直後にマンティコアが急旋回。春嶺を指向する。ローVHF帯無線までリアルタイムスキャンされている。春嶺は坂を下るように走りながら無線をかける。

 

「埒が明きません。M7の使用を許可します」

 

 それだけ叩き返し、無線を切りつつ、坂の下に向けてダイブ。滑空砲の衝撃波に弾き飛ばされる。右耳に違和感。鼓膜をおそらく抜かれた。大学時代イヤイヤながら覚えた柔道の受け身がこんな所で役立った。

 

「おぉ……なんとか生きてますね」

「何しとるか馬鹿者っ!」

 

 ナガンの地声がここまで響く。かなり本気で怒鳴られている。それに春嶺は右手を挙げることで答える。

 

「……さて、頃合いですかね」

『ソータ、応答はいらない。ヘカトンケイレスが使える。一気に回線を引き抜く』

 

 リトヴァからの通信を受信した。返事できない状況であることは向こうも承知だ。ヘカトンケイレスという言葉に耳を疑う。まさか使用許可が出るとは思わなかった。しかしありがたい。

 

『さて、善良な市民様のご登場です』

 

 リトヴァがそう言った。

 

 状況が、動いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

20641014T0325Z

"H"+0:10:46 OPERATION-OCTOBER is OPERATED

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




……大変お待たせしました。投稿再開いたします。

いよいよ作戦も大詰めです。

これからもどうぞよろしくお願いします。

この小説の中で読んでみたい短編はありますか?

  • ヘリアン&グリズリーの夜のパーティー
  • アラタとナガンの過去話
  • 忠犬Gr G41とご主人ソータ
  • リトヴァとP38のアイドル活動記
  • ドキッ♂ 野郎だらけの水着回
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