DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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今回は短めです。


ロゴン PHASE3

「みんな聞いてくれ、養成所(ファーム)卒業直後の子羊……というよりはソータの方はマトンか、まあいいや、新人S.O.ソータ・ハルミネ君と、リトヴァ・アフヴェンラフティ君だ。マハマと私のチームに入ってもらう。皆、よくしてやってくれ」

 

 オフィサ用の食堂でビール片手に紹介される。目の前にはフライドポテトにフライドチキンにフライドオニオンと揚げ物の嵐。歓迎会は例に漏れず胃に優しくない。食堂の奥の方にはデザートコーナーがあり、何人か小さな影がそちらに飛びついている。

 

「それじゃ、一言ずつ。レディファーストでリトから」

 

 そう言われたリトヴァが長い金髪を揺らして前に出て、軽く手を振った。

 

「リトヴァ・アフヴェンラフティです。リトと呼んでください。紹介の通り、新しくこちらに配属になりました。サウナと可愛いものが好きです。声の大きさと疲れ知らずが特徴とよく言われます。よろしくお願いします」

 

 拍手が起きる。指笛まで聞こえたあたり、歓迎されているようだ。

 

「それじゃ、歓迎会の席なのに、かっちりネクタイにスーツと場違いなマトンにバトンタッチ」

「とても悪意ある紹介にあずかりました、春嶺颯太といいます。しばらくコールサインがマトンになりはしないかと戦々恐々としてますので、ほかに呼び名を付けて頂けると有り難く思います。よろしくお願いいたします」

 

 ぺこりと頭を下げると暖かな拍手。無難にまとめたのでヨシとしよう。

 

「新入りとはこの後友好を深めるとして、とりあえずの報告だ。うちの管轄にちょこちょこ斥候が来ていたのは、皆知っての通りだ。敵の攻撃対象は不明だが、本日、S792が敵斥候部隊の結集場面に遭遇、報告を受けた本部直轄隊グリフォン203が撃破した」

 

 誰かが口笛を吹いた。そのタイミングでガタンと物音がしてちらりと横を見る。

 

「ペーシャ、主賓が逃げるな」

「ううう……」

 

 アイクが笑いながらつまみ上げたのはPPSh-41。部屋を離脱しようとしたところをアイクに見つかったらしい。赤い星が入った革の帽子から伸びる色の淡い金髪がどこか恥ずかしげに揺れる。大柄なアイクに捕まると、白いタータンチェックのタイツに包まれた足が宙に浮いてしまう。

 

「甘いものばかりだと太るぞ」

「これは修復中のP7ちゃんの分です! 私が食べるわけではありません!」

 

 そういってPPSh-41は抗議するがアイクの笑い声が返ってくるだけだ。

 

「本当か? 前持ち上げた時より大分腕がきついんだが」

「そんな重たくないですよぉ! それにそんなこと言ったらFNCちゃんなんてどうなるんですか!」

「ふぇっ!?」

 

 後ろのデザートコーナーでチョコレートケーキを口に運んだ姿勢で止まった影がひとつ。明るい茶色がかったグレーのスカートに赤いベレー帽を被ったその影を見てアイクが苦笑いを浮かべた。

 

「まだ乾杯前なんだが……」

「だってぇ……いただきますが遅いんだもん」

 

 抗議の声を聞いて肩をすくめるアイク。主賓を物理的に持ち上げて口を開く。

 

「じゃぁ手短に、ペーペーシャは今回被弾したP7を無事連れて帰ってきた立役者だ。偵察としての役目を完遂し、全員が生きて帰ってきたことだけでも賞賛に値する。ソレを称え、皆で拍手を送りたい」

 

 暖かな拍手が起きて「拍手送られるのに宙ぶらりんってどうなんですか……?」という至極最もなPPSh-41の疑問はどこにも届かずに消える。

 

「それじゃぁ、飲んでくれ! 今日は経費で落とす! 乾杯!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソータは日本人(ニッポーズ)?」

 

 ムスリムだから飲酒をしないと言ったマハマがオレンジジュースを傾けながら尋ねてきたので、春嶺は頷く。

 

「えぇ、マハマは?」

「ンゴジャ族」

「ンゴジャ?」

「父親はガーナに居た、ンゴジャ族。逃げてこっち来た」

 

 ガーナと言えば西アフリカ地域だ。ここからはかなり遠い。広域性低放射感染症(E L I D)の影響も大きかったエリアだったはずだ。

 

「なるほど、大変でしたね」

「そうでもない。グリフォンはいい、S.O.でいられれるうちは、安全。ムスリムも安心」

「なるほど」

 

 どこか人懐っこい笑みを浮かべたマハマの横をすり抜けるようにどこか上機嫌な白い服の少女がやってくる。

 

「おい、新入りS.O.! おぬししっかり飲んでるのかぁ!」

 

 そういってビール瓶をかざすのはM1895。そそくさとマハマが下がる。転進が早い。やられた。

 

「飲んでますよ。それよりもM1895、あなたこそ酔っ払ってませんか?」

「わしがそんな簡単に酔うわけがなかろう、戦術人形は常在戦場! 何かあったらわしが守ってやるからの、おぬしはちゃんと飲め! ほら!」

「はぁ……」

 

 コップにビールをついで、それを無理矢理押しつけてくるM1895。よく見ると目がとろんとしている。

 

「絶対酔ってますね」

「酔っとらんといっとろうが」

 

 そう言って膨れるM1895。

 

「それに少しは副官を信頼せい」

「副官?」

「なんじゃ、聞いとらんのか。オフィサには戦術人形(タクティカル・ドール)から副官役が一体付与されることになっておる。おぬしも例外じゃない」

「いや、確かに戦闘請負人(コントラクタ)から一人抜擢されることは知ってましたが……」

 

 企業によって呼び方は異なるが、民間軍事請負会社(P M S C s)にとって現場の指揮をとることができる指揮官、オフィサは価値の高い人材と言われる。軍人上がりや前線からのたたき上げ、莫大な予算を投じて育て上げられた人材など、そう簡単に死なれては困る人間である。だからこそ、護衛役と戦術人形の特性をその身で熟知したアドバイザとして戦術人形を副官役を置くことが通例だ。

 

「妖精を見るには、妖精の目がいる、でしたか」

「古い惹句(じゃっく)じゃな」

 

 そう言ってM1895はクスリと笑った。

 

「でもそういうことさな。腕の良い悪いだけでは埋められないものもある、戦術人形の見る世界を真に知ることは人間には難しかろう。また、わしら戦術人形がおぬしら人間を知るのもまた然り。じゃから、副官がいる。その認識をすりあわせるために、じゃ」

 

 彼女の上着が揺れる。アルコールの匂いとどこか甘い香りがふわりと広がった。

 

「まぁ、おぬしは初陣にしてはかなりよい戦いじゃと思ったぞ。勇猛果敢に攻める方が容易いが、それに引きずられんかった、まあもっとも、あの程度の敵ならMP40もおったし、なんとかなったと思うがの」

 

 どうやら戦闘中に攻めるように進言したことを少しだが引きずっているらしい。

 

「と、いうわけでしばらくの付き合いになるわけじゃが……おぬしは、わしじゃ不満か?」

 

 どこか自信なさそうな色が浮かんで、少し面食らう。それでも肩をすくめて答えた。

 

「まさか」

「ならいいが。わしもおぬしに拒否されると行く手がないのでな」

「副官に抜擢されるほどの腕なら、引く手あまたでしょうに」

「本当にさっきの指揮室の様子を見て言っておるか?」

 

 そう言ってビール瓶を直接煽るM1895。混じった自虐の棘がちくりと刺さる。その様子を見たのか、M1895はどこか寂しそうな瞳の色を隠すように大声で笑った。

 

「古いというのは経験で差をつけられる反面、融通がきかんのでの。安心せい、元は基地の護衛役じゃ。ガンガン攻めるより、守る方が性に合う。護衛役としてはわしほど適任はおるまい」

 

 そう言って笑ったM1895の笑みはどこか乾いているように見えた。ソレを潤そうとしたのか、彼女はまた麦酒で喉を湿す。つられるように春嶺もグラスに口をつけた。

 

「それに、あの変態女の副官になるよりは、おぬしの方が数十倍マシじゃ」

「あー、リトのことはすいませんでした」

「あれは本当になんなのだ」

 

 そう言って指さしたM1895の先に居たのはP38を抱き枕にしながらアルコールを飲み耽るリトヴァの姿があった。P38が逃れようとジタバタしているが、がっちりと押さえ込んでご満悦だ。

 

「あれでいて天才ですから、指揮の腕は良いと思いますよ」

「それでもあの抱きつき癖はなんとかしてもらわねば困る、おちおち警護もできん」

「それに関しては同意します」

 

 笑ってから春嶺は横をチラリと見た。

 

「思っていたよりもなんとかうまくやっていけそうです」

「そりゃあ僥倖じゃ。うまいこと慣れてくれぃ」

「はい、よろしくお願いします、副官殿」

「バカにしとるじゃろ」

「まさか」

 

 そんな会話を交わしていると、いつの間にか周囲の会話が止んでいた。

 

「――――失礼するぞ」

 

 そう言って部屋に入ってきた服を見て、皆が直立不動の姿勢を取った。

 

「こちらにアイクと今日の指揮官がいると聞いている。邪魔させてもらうが楽にして良い」

 

 赤と黒の制服を来た上級代行官(コントラクト・マネジャー)の前で楽にできる方がどうかしているとは誰も突っ込めない。

 

「おや」

「おぬし、C.M.ヘリアンと知り合いか?」

 

 横のM1895が小声で聞いてきた。その顔にはどこか緊張が見える。

 

「前職で少しだけ」

「む、君は……」

 

 その制服姿の女性がつかつかと歩いてくる。手に持っていたグラスをM1895に預け、春嶺も前に出て右手を差し出す。

 

「お久しぶりです、ミス・ヘリアントス。3年ほどになりますか」

「……やはりそうか。君は確かJWパブリシズにいたはずでは」

「えぇ、その節はお世話になりました。ですが今は貴女の部下ですよ、ミス・ヘリアントス。いえ、ヘリアントス・エリアマネジャー」

 

 握手を交わして、営業用の笑みを浮かべる春嶺。

 

「あの恵まれた立ち位置を捨てて直接戦う側になったか。君はもの好きだな」

「言われ慣れました」

「あら、ソッチの彼、今日の偵察組の指揮官よね」

 

 ヘリアントスを半ば押し避けるようにして会話に割り込んできたのはカーキ色の軍服上着を腰に巻き付けた女だった。胸元の膨らみをわざと強調するように腕を寄せてやってくる。

 

「はぁい指揮官、グリフォン203のM2HBよ。今日はありがとう、最高にクールな体験になったわ」

「S07基地S.O.春嶺颯太です。本日の即応、感謝いたします」

 

 差し出された右手を握り返してから笑って見せる。

 

「あら、笑顔もチャーミングね」

「ありがとうございます。綺麗な女性に褒められることほど嬉しいことはありませんね。ヘリからのダウンウォッシュが来る中であれだけの制圧率。大変助かりました」

「まぁ、嬉しいわ」

「気をつけろM2HB、この男に丸め込まれて我が社の事務経費が数万ドル単位で今も吹き飛んでいる」

 

 苦い顔をしてヘリアントスが言う。受けた春嶺も苦笑いだ。

 

「わお、可愛い顔して極悪人?」

「法人契約を私が丸め込んだとは人聞きが悪いですよ、ミス・ヘリアントス。私は会社の端末ですよ。それに、JWパブリシズはそれだけの価値を提供させていただいていたと自信を持っております」

「営業トークになっているぞ、S.O.」

「これは失礼しました。前職の話題がでるとどうしても、体に染みついて抜けないのです」

 

 さららと言葉を並べていると横でスーツの袖が振られた。

 

「のう、S.O.そのJWパブなんちゃらとはなんなのじゃ」

 

 春嶺颯太が口を開く前にヘリアントスがそれに答えた。

 

「JWパブリシズ、広告代理店だ、M1895。我が社のブランドのコーディネートや広報戦略などの契約をしていた会社で、春嶺颯太はそのコーディネートチームの一人だった。本部異動になっていたときいていたんだが……」

「あのあとすぐに退社しまして、請負人(コントラクタ)の道に入りました。どうやらこちらの方が水が合いそうですので。年収は少し下がってしまいましたがね」

「あら、ビッグな商売してたのね。うちの給料、かなりいいはずだけど。ぜひお近づきになりたいわ」

 

 そういったM2HBは春嶺の左腕を抱き込むようにして部屋から連れ出そうとする。

 

「お、本部直轄隊からのご指名か? あんまり羽目を外すなよ」

 

 大笑いしているアイクから暗黙の許可が出てしまえば誰も止められない。背後でM1895がため息をつく音がした。

 

「どこへ行くS.O.、あんまり羽目を外すなよ、おぬしの歓迎会とはいえ主賓がおらんわけにいかんじゃろう」

「あら、焼き餅かしらおチビちゃん」

「あ」

 

 春嶺が止める前にNGワードが飛びだした。周りがすっと静かになる。一足先に距離を取ったのはS-7基地所属の戦術人形(ドール)たちだった。その直後にアイクやマハマが伏せた。

 

 

「 だ れ が 」

 

 

 つかつかと床を叩く靴の音。彼女の右手が腰に回り、ホルスタのスナップボタンを親指が弾いた。

 

 

「チビじゃバカタレ―――――――――ッ!」

 

 

 目の前に突きつけられたのは仄暗く沈み込んだ、M1895ナガンリボルバーの銃口。とっさに避けようにも左腕を捕まれていてあまり動けない。申し訳ないが、左に体当たりをかけてM2HBに尻餅をつかせた直後、耳の横を何かが超音速で通過した。

 

「いっ、落ち着け、撃つな撃つな!」

「だれが! こんな! やつに! 焼き餅なんぞ! 焼くか!」

「俺を撃つな頼むから!」

「無駄にでかい胸ばっかり見てたくせに!」

「言いがかりだ!」

 

 言葉遣いが乱暴になるがそんなことにかまっている余裕はない。黙れといいたげな銃弾が後ろに飛び抜けた。言葉に力が入る度にためらいなく撃鉄が落ちている状況で侮辱的なF(エフワード)を口にしなかっただけ十分制御できていると信じたい。

 

 これで七発、M1895ナガンリボルバーの装填弾数は七発、ローディングゲートからの装填を求められるこの銃ではスピードローディングは不可能だ。

 

 春嶺の右足がM1895の足下まで伸びる。わざと脅かす様に靴底を彼女のつま先のすぐ近くに叩き付けた。バンッという大きな音でM1895の右腕が跳ね上がった。その右手首に春嶺の左手が引っかかる。そのまま彼女の左腕を外に倒すようにねじりあげ、そのまま地面に転がした。

 

「ふぅ……」

 

 彼女の手からリボルバーをもぎ取り、自分のベルトに挟んだ。

 

「M1895、やり過ぎです」

「おぬし、今……うちを投げ飛ばしたか?」

「もうさせないでくださいね、こんなこと。わかりましたか?」

「なんでおぬし」

「わかりましたかと聞きました」

「……はい」

「よろしい」

 

 これが今から副官かと思うと、思うところがないと言えば嘘になりそうだが、致し方あるまい。

 

「えっと……」

 

 まずは周囲の白い目と壁の銃痕をどうするかを考えなければならなかった。

 

 

 




主人公のスキルがぶっ壊れの気配を帯びてきました。風呂敷をたためる気がしません。

まだまだ続くよ歓迎会。

次回も今週中には投稿したいです……更新がんばります。
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