DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

6 / 26
まさかこんな速度で書き上がるとは思ってませんでしたが、できちゃったので公開です。


ア・ザ・ベース PHASE2

「あ、スーツのS.O.さん! おはようございます!」

 

 射撃訓練場の入り口、武装管理セクションで声を掛けられる。春嶺颯太は声を掛けてきたダークブラウンの髪を揺らす少女に笑いかける。

 

「おはようございます。……M14さんでしたね」

「わぁ、覚えて頂けてたんですね! ……指揮官も射撃訓練ですか?」

「えぇ、下手なのを少しでも克服しとかないといけないので」

 

 そう言って肩をすくめるとよこから肘でつつかれた。

 

「ほれ、そんなところで固まってないで、はよ用意せんか」

「ナガンちゃんも訓練?」

「わしはこやつの監督」

 

 人形達の会話を聞きながら、春嶺は持ってきていた小型のトランクを開く。

 

「ほー、ジェリコ941Fか、案外派手な銃を持っておるんじゃの」

「日本のことわざでありましてね、『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』といいまして」

「……装弾数で選んだんじゃな」

 

 呆れたようにそういったナガン。春嶺は手首に巻いた端末から生体データを武装管理コンピュータに転送。9x19mmパラベラム弾を出してもらう。

 

「なんとでも言ってください」

 

 武装をホールドオープン、弾倉を抜き、射撃ブースへ。耳栓とゴーグルを付けてからブースに入る。

 

「さて、今日は当たるかな」

 

 弾倉を差し込み、スライドストップを解除。両腕で真正面に構える。アイソサリーズ・スタンス。左足を軽く引き、腰を軽く落とした射撃姿勢を取る。

 

「構えかただけはいっちょ前じゃのう……」

 

 そんな声を聞きながら春嶺は、10メートル先の金属のターゲットに向け、ゆっくりと引き金を引いた。リコイルが両肩をわずかに押し下げるが、それだけだった。銃の跳ね上がりは最小限に落とし込み、再度引き金を引く。メタルターゲットが甲高い音を立てて、弾が当たったことを知らせる。

 

「へー、指揮官さん上手ですね」

 

 それを後ろからニコニコ見ていたのはM14である。だがナガンはため息をついた。

 

「ソータ」

「なんでしょう」

「速射してみぃ。5秒間に3発。ダブルアクション(DA)ならできるじゃろう」

 

 そう言ってからナガンは腕を組んだ。それを見て、春嶺はもう一度銃を構え直す。

 

 連続して引き金を引く。聞こえた着弾音は二回。一発外した。

 

「……肩が力んでおるからそうなる。そんなにリコイル大きくないんじゃからもっと楽に撃てばええじゃろうに。おぬし、利き腕(ストロングハンド)は右か?」

「えぇ」

 

 ナガンはそう言ってブースに入ってくる。春嶺は台に銃を置いて後退。射線を譲った。

 

「握りしめる意識が強すぎるんじゃろう。フォームはできとるから、もう少し力を抜いて構えても大丈夫」

 

 ジェリコ941を手に取ってそのまま構える。

 

「自然に両腕を伸ばしておけば体でリコイルを吸収できる。保持する意識は強すぎれば射線をぶらすだけじゃからの」

 

 そう言ってから、ナガンが引き金を引いた。春嶺よりも速いペースで三発撃つと、そのどれもが的を揺らした。

 

「……そこまで長距離で撃つことは考えておらんからこの距離なら若干下気味に狙って良いじゃろう。ほれ、やってみぃ」

 

 そう言って銃を置いて下がる時にナガンは眉をしかめて春嶺を見る。

 

「なんじゃ、固まって」

「いえ……想像以上に教えるのが上手だな、と……」

「失礼な。これでも歴戦の兵士じゃぞ。当たり前に決まっとろう」

 

 ナガンはそう言ってため息をついた。

 

「ほら、構えた構えた。見てるだけだと成長せんぞ」

「……そうですね」

 

 春嶺がブースに入る。

 

「一度全力で握りしめてみぃ。そこから力を抜いて、震えが止まったところが基本の力じゃ。まずはその力で銃を持てるように訓練」

「はい」

 

 ナガンの指示通りタスクをこなして行く。

 

 

 

「腰が引けとる! 腰を引くんじゃなくて落とすんじゃ!」

 

 

「頭を合わせるな! 銃を合わせるんじゃ! 銃をコントロールする意識を持て!」

 

 

「マスターアイばかりに頼るんじゃあない! 両目でちゃんと狙え!」

 

 

 しばらくナガンの檄が飛び、彼女が首を縦に振るまでに、春嶺は弾倉4つ分を消費する羽目になった。

 

「ま。こんなもんじゃろう」

「ありがとうございます。餅は餅屋、銃はやはり皆さんに聞くに限りますね」

「ふん」

 

 鼻を鳴らすナガンの横でずっとニコニコしていたのはM14である。手にしていたのは彼女の名が示すとおりの、M14ライフルだ。

 

「指揮官さん、せっかくですからライフルも試してみませんか?」

「……時間はまだありますね。ですが、ライフルはまったくの素人ですよ」

「ハンドガンよりは簡単ですよ。仮託すれば力もいりませんし、全身で支えることができるので、ハンドガンより当てやすいですから」

「M14よ、もしかしてそのためにずっと後ろで待ってたのか?」

 

 胡乱な目をM14に向けるナガン。

 

「だって、射撃場にまで来てくれる指揮官って少ないじゃないですか」

「そりゃそうじゃろうけど」

「だからはりきっちゃいますよ! なかなか指揮官と話せる機会はないですし」

 

 そう言って仮託するための砂袋をブースに積んでいくM14。

 

「今日は私のを貸しますから。それでですね……」

 

 

 このとき、春嶺は知らなかった。

 

 

 

 構える姿勢の指導という名目でやたらと一部分を押しつけてくるM14とそれに怒ったナガンの間を取り持つのにかなりの時間を要することと、そのせいで上番時間ギリギリに指揮管制室に駆け込むことを、まだ知らなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイ、マトン、お楽しみだったわね」

「げ」

 

 お昼過ぎの食堂、8時から12時の“スウィング・シフト”を終えた春嶺に声を掛けたのはリトヴァ・アフヴェンラフティだった。春嶺が危惧したとおり、彼のコールサインは『マトン』で定着してしまい、不満たらたらである。彼女の登場で、ナガンは臨戦態勢をとる。

 

「リト、なんの話だ」

「え? ナガンちゃんを部屋に連れ込んだんじゃないの?」

 

 返ってきた答えがあまりに予想通り過ぎて、春嶺はため息をついた。

 

「……だから言ったでしょう、ナガン。勝手に部屋にくるとこうなるんですよ」

 

 頭を抱えた春嶺だが、それ以上に真っ青になっているのは押しかけたナガンその人である。

 

「いやぁ、エンジニアチームとかからは殺意丸出しの視線を送られてたよねー、ソータ。ナガンちゃんあれ自分からソータの部屋に飛び込んだの? 大胆だねー」

 

 そう言われ、やっとことの重大さに気がついたらしいナガン。これはしばらく火消しに時間が掛かりそうだった。

 

「ま、そのあたりの話、是非聞かせてよぅ」

 

 そう言って席を取るリトヴァ。ナガンの隣に腰を下ろすと、ナガンがものすごい勢いで距離を取った。その結果、春嶺の隣にリトヴァが座る形となった。春嶺の正面にナガンが、遅れてやってきたP38がナガンの隣に座る。

 

「話すことなんぞなにもないわい!」

「えー、リトヴァちゃんさびしーなー。今度女子会しましょ? 麗しのナガンちゃんがお熱のソータくんに つ い て 」

 

 ハートマークでも飛ばしてそうな甘ったるい声でそう言うリトヴァ。

 

「あまりからかってくれるな、リト。羞恥心というのが少しばかり目覚めたばかりなんだ。そんなからかいはウブなナガンには刺激が強すぎる」

「ななななにを言っておるか! そんなことの意味くらいオトナなわしが知らないわけが……!」

「そうやって墓穴を掘るんですから黙っていてください」

 

 そういわれてバンとテーブルを叩いて立ち上がるナガン。ビシリ、と春嶺を指さして大声を出した。

 

「そんなことを言うなら、ソータだって射撃場でM14相手にお熱だったではないか!」

「なになにそれリトヴァちゃんしらないっ!」

「一番ヤバいやつ相手に最悪のタイミングでばらしてくれましたね……」

 

 ナガンの放り込んだ爆弾に周りがざわつく。頭痛が痛いとか言いかけたあたり、本当に頭が回っていない。

 

「向こうがあそこまでプライベートゾーンが狭いと思わなかったんですよ、ライフルの構え方を教えるって聞かなかったせいです」

「おぬしが鼻の下伸ばしておるからじゃ。じゃからM14が調子に乗る」

 

 そうぼやいたナガン。彼女の前には軽食としてハンバーガーが運ばれてきた。彼女はあんまり好きではないと言っていたが、昼のメニューは手早く食べれるものでというのが基本らしいので仕方が無い。他の面々にも同じ物が置かれる。

 

「おかげで私の腰が死にそうなんですけどね、そのスカートでハイキックを繰り出すとは思いませんでしたよ。貴女は恥じらいをもう少し持った方が良い、ナガン」

「あっはっはー、その噂本当だったんだ。マトンが幼女にケツ蹴られて悦んでるドMって」

「リト、その噂を流した馬鹿野郎を後で教えてくれ」

「アイクよ」

「あの筋肉バカP.O.……どっから情報仕入れやがった」

 

 春嶺が毒づけばそれに吹き出すリトヴァ。

 

「あの筋肉に殺されないようにね。それで、ソータ次の上番は何時だっけ?」

「翌0時から4時のミッドナイトです。眠くなくても少しは寝ておかないと体が持ちませんよ」

「そうだねー。ま、私はいつでも寝られるからいいんだけどさ」

 

 思いっきりハンバーガーにかぶりついて、リトヴァは笑った。

 

「でも私達が配属になって一週間かー。なんだかんだ言って暇だよね。居住エリアからかなり離れてるからかもしれないけど」

「一週間前に襲撃があったから気を抜いてはいられないけどな」

 

 あっという間に自分の分のバーガーを食べきった春嶺はそう言う。

 

「そう言えばソータ、この変態女に対しては口調が崩れるんじゃな」

「ナガンちゃん、そろそろ私のこと名前で呼んでほしんだけどなー」

 

 リトヴァがナガンに対してそう言うがナガンはソレには答えずにそっぽを向いた。その横でP38は苦笑いだ。

 

「でもまぁ、養成所(ファーム)ではバディ組んでたからね。この基地の中では一番親しいと思ってるよ。ねぇ我が友ソータ!」

「友と思ったことはありませんがね」

「ひどっ!」

 

 あっという間に手のひらを返されてショックを受けたような顔をするリトヴァ。大げさにテーブルに突っ伏したせいで、ゴン、という大きな音がした。

 

「うー、Pチャン、ソータが虐めるー」

「あはは、どんまい、です?」

「なんで疑問形……」

 

 なんだかんだでP38とリトヴァのコンビもうまく回っているようだ。それを確認してから春嶺は席を立つ。

 

「あ、そうだソータ」

「どうした?」

「アイクから伝言、1345にP.O.執務室に出頭だって」

「私だけか?」

「みたいだよー」

「わかった、ありがとう」

 

 どうやら、次の仕事の話があるらしい。

 

「ナガン」

「どうした?」

「資料集めを頼みます、トルキスタン周辺に影響力を持つ有力企業の一覧と有力PMCの動向、あと集まれば周囲の犯罪組織の動向を」

「そりゃぁ……頼まれればするが、なんでじゃ?」

「お仕事で使うからですよ。後で連絡を入れますので、よろしくお願いします」

 

 春嶺はそう言ってジャケットの襟を正すと、アイクが待つ部屋に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に呼び出して悪かった。だが、君のフロントエンドオペレータ(FEO)としての初仕事の話が舞い込んだからな、早めに伝えておこうと思ってね。……ナターシャは外か?」

 

 そういって笑うこの部隊の統轄役、アイザック・サネット――――アイクはナガンの居場所を聞いてきた。その後ろに待機しているカリーナがニコニコ顔なのを見て予想が当たったことを悟る。

 

「いえ、少々調べ物を頼んでいます。……トルキスタン方面の輸送コンボイ襲撃対策と思いましたが」

「鼻がいいな。……カリーナに聞いたか?」

「いえ、私はなにも?」

「よく言いますよ。あんなにわかりやすくヒントを出してきたのはカリーナさんじゃないですか」

「やだなーハルミネさん。そんな機密情報、簡単に流すわけないじゃないですかぁ」

「ソータ、カリーナ、頼むから白々しいイニシアティブ争いは止めてくれよ。話がいつまでたっても進まない」

 

 アイクはそう言って鼻を鳴らした。春嶺は机を滑ってきたファイルを受け取ってそれをパラパラと開く。

 

「今回のクライアントは中央アジア共和国連合だ。窓口はルスラン・ヴェルディエフ連合陸軍中佐、第三輸送連隊の副官で連隊長代理だ」

「おや、内部依頼じゃないんですね」

「内部だと金にならないしな」

「確かに道理です。……こちらからトルキスタンに吹っかけた形でしょうか?」

「知らん、エリアマネジャーのヘリアンに聞くなり営業に聞いてくれ」

 

 この段階でヘリアントスまでは話が上がっていることが確認できた。上層部がNOと言っていないということは、グリフォン社にとっても()()()()()()話なのだろう。

 

「当該の輸送ルートはクルグス共和国のフェルガナを生活物資と補給物資を積んで出発し、ハイウェイM41でアライ山脈、外アライ山脈のクルグス-オズベク国境を越え、ムルガブ、ホログまで至る定期輸送便だ。途中の村に生活物資等を配給しながらの鈍足移動となる。帰りはホログから岩塩や石膏、精錬済みアルミニウム等を積載し、ルートを逆走しフェルガナまで戻る」

 

 ざっと頭の中で地図を引っ張り出す。何度も峠を越えるルートだ。それも3,000メートル超の高地での護衛戦を想定せねばならない。

 

「厄介ですね。襲われそうなポイントの枚挙に暇が無い」

「あぁ、だが、その沿線は人類にとっては広域性低放射感染症(ELID)の影響が少なかった数少ない楽園でもある。偏西風様々だな」

「パミール高原が楽園とは、なかなか聞けない表現ですね」

 

 春嶺がそう言えばアイクは「全くだ」と言って笑った。

 

「だが、こんな山地まで我々人類が追い詰められているという証左でもある。我々S-07基地の補給路からは外れているが、人員がひねり出せる余裕がある基地が近隣で他になかった。――――S.O.ハルミネ、貴官にフロントエンドオペレータ(FEO)として現地指揮を執ってもらいたい」

 

 ファイルを閉じる。

 

「かしこまりました。……それで、部下はどれぐらい裂いて貰えますかね?」

「この基地からは戦術単位Sを二個までなら自由に編成して引き抜いていい。ただ、山岳地で護衛戦という状況だ。小回りがきく方が良いだろう」

「了解しました。ナガンと戦術単位Sを二個臨時編成で連れて行かせて貰います。出発は?」

「明朝0530発のタシュケント行きの航空輸送便がある、途中でフェルガナ飛行場に立ち寄って貰えるそうだ。高機動車一台とドライバーも用意するから連れて行け」

「助かります。引き抜きリストは今日の1800までに連絡します」

「それでいいだろう。退出していい」

「では、これで」

 

 春嶺は踵を返す。

 

「ソータ」

 

 アイクの緊張した声が後ろから飛んできて、春嶺は足を止めた。

 

「場所が場所だ。一つだけ忠告しておく」

「なんでしょう」

 

 アイクはどこかためらうような間を空けてから、ゆっくりと言葉を選んで口を開く。

 

「……人間の敵は何時だって人間だ。鉄血が跳梁跋扈し、我が社がその盾になると決めたとしても、それでも我が社が相対してきたのはいつでも、どんなときだって、人間だった」

「……どういう意味でしょう」

 

 ゆっくりと振り返れば、アイクが席から立ち上がり、こちらをみて……軍隊式の敬礼をしていた。

 

 

 

「その引き金が鈍らないことを、願っている。君はまだ、死んではいけない」

 

 

 

「……失礼します」

 

 それに答礼を返してから、春嶺は部屋を出た。

 

「引き金が鈍らないことを、か……」

 

 彼の目には何も映っていなかった。




安西先生……戦術人形を……書きたいです……!(二回目


……さて、大体の状況が見えてきたと思います。

今回の部隊のS-07基地ですがイメージはウズベキスタンのあたりのイメージです。青の都サマルカンドの西側に展開しているような感じでしょうか。ここから東側にあるフェルガナ盆地は中央アジア地域における最大規模の農耕地になります。ここに絶対に侵入される訳にはいきません。S-07基地の戦いは続きます。

……といっても、ナガン達の戦いはそこから一気に南下した輸送ルートなんですけど。

さて、次回はいよいよ戦場へ向けて飛び立つことになりそうです。

次回更新は少し遅くなりそうです、すいませんがよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。