DFL―フロントエンドオペレーション―   作:油そば大尉

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ディスオダリ・オーダ PHASE2

 民間軍事会社というのは、多種多様な仕事の集合体だ。武器を握り警備などにあたる請負人(コントラクタ)、それを指揮する現場指揮官(オペレート・オフィサ)の他にも機械部門担当(エンジニア)総務管理部門担当(アドミニストレータ)兵站部門担当(ロジ・スタッフ)……外部委託(アウトソーシング)している食堂や医療なども含めれば、100体の戦術人形の運用に、600人近い人間が係わっていることになる。

 

 当然、その中には女性も含まれ、女性のための施設もある程度備わっているわけであり。

 

「ねーねー、Pチャン」

「なんですか、リトさん」

 

 女性向けの施設の一つ、女性用シャワールームから出てきたリトヴァ・アフヴェンラフティは濡れた髪を後ろに束ねながら、自分の副官、P38を呼んだ。女性限定区域(せいいき)のためか、ほぼ下着のみにスリッパという格好である。ちゃんと服を着てからシャワールームを出てくればいいのにと思えども、P38は突っ込まない。

 

「単純な興味なんだけどさ、戦術人形から見て、この戦争ってどう思う?」

「いきなりどうしたんです?」

 

 ロビーの椅子に腰掛けたまま首を傾げるP38。それを見てリトヴァは目を細める。

 

「質問がいきなりすぎたね、ごめん。いやね? 前アルコール入ってたけど、アイドル活動に憧れてるって盛り上がったじゃん?」

「指揮官とC96(クロ)ちゃんと私でユニット組んでみたいなやつですか?」

「そうそうそれそれ。なんか面白そうだからいろいろ考えてたんだけどね」

 

 そう言ってからリトヴァは冷蔵庫からキンキンに冷えた瓶詰めのミネラルウォーターを取り出した。

 

「君達の場合、減価償却が終わるまでここの備品として戦うか、私が買い取るか、戦わなくてもよくなるかしかないわけじゃん?」

「それは……まぁ、そうですけど」

「んで、私の給料じゃ買い取れないから、さくっとこの地域制圧して、次の基地に行く前に広報宣伝部隊(アドバタイジング・ユニット)へ企画書ポイして君達を引き抜けないかなぁと思ったわけだけど」

「いきなり話が大きい気が……」

「大きくても語らなきゃ夢は絵空事のままよ。それでまぁ、私も柄じゃないけどさ、がっつり指揮(プロデュース)しようと思ったんだけどね、君達から見て、この戦いってどう見えてるんだろうなぁって」

 

王冠を弾いて水を口に含みながら、リトヴァはP38の隣に座った。

 

「君達は戦術人形って呼ばれてる」

「それがどうしたんです?」

「戦うための存在って最初から決められているわけじゃん? それって、つらくない?」

 

 椅子の上で小さく体育座りをするように膝を抱え、リトヴァは優しくP38を見た。

 

「つらい……どうでしょう? わからないです。そんなことを考えたことなかったですし、考えるより、戦う方が楽なので……」

「そっか。それもそうだね。うん、悪いこと聞いた」

「……リトさんは、どう思ってるんですか?」

「戦うこと?」

「はい」

 

 そう言われてリトヴァは茶目っ気タップリにウィンクした。

 

 

「――――――――大っ嫌い!」

 

 

 あまりにあっけらかんとした明るいトーンでそう言い放たれ、面食らったのはP38だ。

 

「ど、どうしてグリフォン社に?」

「単に出稼ぎよ? フィンランド、あ、私の故郷ね。そこなんて広域性低放射感染症(ELID)でドロドロだから家も土地もなくてさー。もう極貧生活よ? パパが人形の整備メカニックしてたんだけど、物理的に蒸発したらしくて、死亡届がぺらっときたらあっという間に収入ゼロ。これでも私は天才ちゃんだから、『祖国奪還のための人材を育てる!』とか宣言した北欧国家連合の特別待遇学生だったんだけど、奨学金じゃ家族を養えなくて、泣く泣く大学を中退して奨学金を踏み倒しながらここに来てるってわけ」

 

 まったく、人形遣いになって領地奪還に物理的に貢献するんだから、奨学金返済ぐらい待ってもらってもいいと思うんだけどね。――そんなことを言いながらリトヴァは乾いた笑みを浮かべた。

 

「遊びにしては金が掛かりすぎるし、仕事とするには利回りが悪い。エゴイズムとニヒリズムの塊だよ、戦いなんて非効率さ」

 

 そう言ってからリトヴァはP38の髪に触れる。

 

「でも、その虚無の中から君たちが生まれた。非効率を少しでも効率的にするために、ね。……まったく、度し難いよ、人間」

 

 リトヴァはそう言って、強くP38の髪をワシャワシャと強く撫でる。

 

「ちょ、リトさん……!」

「そんな真剣な顔で聞く話じゃないよーまったく。ま、私としてはこんな戦争さくっと終わらせて、君達と平和にアイドル活動したいわ。絶対ソッチの方が稼げるしね。無理強いはしないけどね」

「リトさんが導いてくれるなら……なんか、できそうな気がしますけど」

「ん、努力はするさー」

 

 そう笑い合ったタイミング、リトヴァの手首に巻いた端末が震えた。

 

「おっと、まさかのメールだ」

「お仕事ですか?」

「私を指名でね」

 

 ニカリと笑ってからリトヴァは画面を呼び出す。

 

「……もしかして、S.O.ハルミネですか?」

「あたり。……Pチャン眠くない? ちょっと手伝って欲しいんだけど、とりあえずカリーナちゃん叩き起こしてきて」

「最初から難易度高いんですけど……」

「大丈夫、データルームの端末の使用許可と外部ネットへのアクセス権限を貰えればいいから」

 

 リトヴァはそう言って笑う。

 

「ま、お互いうまいことやりましょか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、ナインティーン。ナガンちゃんがものすごい不機嫌ですけど、なにかあったんですか?」

「えっと、なにもないからああなってるといいますか……」

 

 M1ガーランドに問われ、M1911が苦笑いを浮かべながらそう答える。からからと古いシーリングファンが回るここはホテルの地下、警備役や運転主用の控え室。会議室に毛が生えたような部屋だった。

 

「あれ、帰ってきてからでしたよね?」

 

 控え室の窓の外に広がるのは青白い光に照らされた地下駐車場、そこをずっとイライラした様子のM1895『ナガン』が行ったり来たりしている。ヴェルディエフ中佐に呼ばれた会食から帰ってきてから早1時間半、その間ずっとそうしているのだ。

 

「あのー、ナガンさん」

「どうしたPPSh-41(ペーペーシャ)

 

 声を掛けられたとたんに動きを止めるナガン。声を掛けたPPSh-41はその剣幕に一瞬びくっとしながら続ける。

 

「S.O.のことなら心配しなくても大丈夫だと思いますよ。アルコールもそこまで飲んでいないようですし……」

「だーれがあのアンポンタンの心配なんぞするか」

「えっと……S.O.の護衛役から外れたからそうしてるのかと……」

「ペーペーシャがわしをどう思ってるのかよくわかった、少し走ってくるか?」

 

 赤い目をギロリと向けたナガンの肩をガーランドが叩く。

 

「そんなにイライラしないでくださいね、ナガン。S.O.にも考えがありますし、このホテルは武装の持ち込みが禁止されています。私達戦術人形は存在そのものが武装扱いですから」

 

 ガーランドはそう言って地下駐車場の上を指さす。フェルガナで一番高級なホテルで、ヴェルディエフ中佐が宿舎代わりにと春嶺の分だけ部屋を取ったらしい。春嶺は断ったらしいが押し切られたという。

 

「S.O.さん大丈夫でしょうか? 今も軍の方やヘリアンさんと調整中なんでしょう?」

 

 PPSh-41がそう言った。

 

「大丈夫なわけあるか! ここは完全に危険地帯なんじゃぞ! 軍の高官も使うホテルで、護衛の同行不可! そんなところにあのアンポンタンは一人で『びじねすすいーと』やらに泊まっておる。そんなのただの阿呆じゃろう! 護衛と副官かねておるのになんでわしをねじ込まん!」

 

 相当にお怒りなナガン。PPSh-41は苦笑いだ。

 

「なんでアイツだけ良い部屋にとまって、わしらは仮眠室なんじゃ!」

 

 その言い草に吹き出したのはガーランド。

 

「泊まりたかったんですか?」

「そんなことはないし、あんなアンポンタンはもう知らん。精々ふかふかのベッドでぬくぬくしとるがいいわ」

「泊まりたかったんですね」

「となりの仮眠室、ベッドも毛布も清潔でしたよ?」

「だーっ! もうっ! ガーランドもペーペーシャも黙れっ!」

 

 ナガンが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 

「市場で尾行されたり、銃向けられてもヘラヘラしとるような危機意識も欠片もない奴を護衛もナシに一人にできるかっ!」

「押しかけ女房が思いっきり心配してるし……」

 

 呆れたようにぼそっと聞こえた声に、ナガンが体ごと振り返った。スコーピオンが口笛を吹きながらそっぽを向く。

 

「まったく、ソータはもう少し前線に居ることをきっちり意識に刻み込んでもらわないとならん。会食でもわしが口をつける前にあっさりシャンパンを口に含むし。毒が入ってたらどうするつもりなんじゃ」

「そんな状況なんですか、今回のクライアント」

 

 目を細めて聞くM1ガーランド。その声にナガンは声のトーンを落とした。

 

「わざわざ古い地図を用意しているあたり、どうも、な」

 

 そう言ってからナガンは、耳の後ろをトントンと叩いた。ソレを見た面々が一瞬目を閉じた。

 

《誰に聞かれるかわからんからの、表では世間話でもしとこうか。M1911、表の会話でとりあえず窘めといてくれ》

「だめですよ、ナガンちゃん。雇い主なんだから信じないと」

 

 即座にM1911が口を開く。その間にも、その場にいる面々との通信回線がオンラインに切り替わっていく。

 

「そりゃぁそうじゃが、気になるものは気になるからのぉ」

「もしかしてあれ? ハルちゃんS.O.を取られてヤキモチ?」

「P7、ランニングがお好みか?」

 

 そのやりとりを見て、周りはケラケラと笑っている。それでも彼女たちの意識は別の次元、電子通信レイヤーに集まっていた。周囲の警戒に入っている面々にもコール。参加している全戦術人形が電子的に繋がった。

 

 ツェナー通信プロトコル。衛星やホストサーバに依存しない戦術人形に特化した専用情報網(イントラネット)だ。

 

《どうしたの?》

《せっかくチョコ食べてたのにー》

《警備中にレーションをつまむなFNC、ちゃんと警備しとるんだろうな?》

《ホテルの裏手は異常ないよー? 暇だから食べてもいいでしょ? あ、ナガンちゃんもほしい? おいしいよ? ねー?》

《うん!》

《FNC、G41をチョコで買収するな。そしていらん》

 

 ナガンはため息をつきそうになって、なんとか思いとどまる。この通信は外に漏れていない。気取られるのはまずい。

 

《状況が更新されておる。どうやらソータの阿呆は説明する気がないようじゃからわしから説明する》

《S.O.ハルミネに相談してから開示した方がいいのでは?》

 

 すぐさま疑問を差し挟むのはMP40だ。今は輸送機で一緒に持ってきた装甲車の警備についているはずだ。

 

《かまわん。状況が切迫してからだと説明の余裕がない》

《ナガンちゃんが言うならそうでしょうね。とりあえず聞きましょう》

 

 リアル空間では、からかいすぎたP7をお説教しながら、ガーランドがそう言う。

 

《今回の依頼主、ルスラン・ヴェルディエフ陸軍中佐じゃが、わしらをよく思っておらんらしいのは共有されとると思う。わしとソータは、この中佐が輸送成功率を意図的に下げとると踏んでおる》

《……つまり、襲撃側と繋がっている?》

 

 会話をかいつまんで整理していくガーランド。リアル空間では怒られたP7が涙ぐんでいるので、PPSh-41がフォロー。P7をからかいながら、裏の通信で発言したのは、騒ぎを聞いて駐車場に顔を出したように装ったブレン・テンだ。

 

《その可能性がある。実際、依頼主はヴェルディエフ中佐じゃが、周囲から護衛をもっとつけろと圧力をかけられてのものらしい。これについては今回の輸送隊(コンボイ)を指揮するカビリ大尉に確認を取っとる》

《……向こうが狙う落としどころは?》

 

 質問を投げかけたのはM14。ホテル屋上で周辺警戒中のはずだ。

 

《わしらの護衛失敗によって支払い額を引き下げつつ、息の掛かった陸軍の正規部隊にシフトするといったところじゃろうな》

《そんなの飲めるはずありませんね》

 

 ガーランドは苦笑いが滲む無線を返す。

 

《社の信用問題に関わるからの。……襲撃側とつながっているなら、何らかの物資を秘密裏に運び込んでいる、もしくは運び出している可能性が高い。それをグリフォン社に知られるのは好ましくないじゃろう。……会食中に、ソータに袖の下を渡そうとタイミングを探っていたようじゃ。受け取らなかったがの》

《面倒な相手ですね》

 

 MP40の声に苦笑いが無線に乗る。笑い声を流したのはPPSh-41だ。

 

《S.O.さんはそのあたり上手そうですよね、あしらうの》

《ちゃっかりホテルで買収されとるから信用ならん。……それでもフロントエンドオペレータ(FEO)が必要なのも納得じゃ。ここまで状況が流動的な状況じゃ、営業だけじゃどうにもならん。……問題はここからじゃ、M1911》

《説明は私からですか?》

《データ見たのはおぬしじゃろう》

 

 M1911がデータを送信した。それぞれの電脳に叩き込まれた情報が一瞬表情を曇らせた。

 

《今日グリフォン社に……というより、ハルミネさんにですけど、クルグス警察からコンタクトがありました。仕事の依頼です》

《中央アジア共和国連合陸軍の武器密輸問題……、これ、本当に私達に頼んできたんですか? 請負人(コントラクタ)保険調査員(オペラティブ)じゃないんですよ》

 

 ガーランドが信じられないといった様子で聞き返す。

 

《これの輸送の実行犯がヴェルディエフ中佐だといわれておるらしい。それを確かめて、報告して欲しいそうじゃ。割に合わんのぅ》

《今回護衛するコンボイの最終目的地のホログはタジク人民共和国内のバダフシャーン山岳自治州の州都です。バタフシャーン山岳自治州は自治州から国への格上げを中央アジア共和国連合に要求しています。連合はこれを拒否しています》

 

 そういったM1911は積載物管理表(ローディングリスト)を改めて共有。

 

《積み荷についてですけど、往路は軽量なものが多いですが、復路はアルミを積むためにトラックの数自体は多くてですね、当然のことながら、往路だと空荷のトラックが出るはずなんですけど、ないみたいなんです。どう考えても行きの物量がリストより多いんですよね》

《もう決まりでしょ。明日から私達で守る積み荷は、密輸用の武器。いいじゃん、勝手にやってれば?って感じなんだけど。それに私達は警備で、なにを積んで運んでても、それに口出しするのって御法度でしょ? 無視でいいじゃん》

 

 身も蓋もないことを言うスコーピオン。苦笑いしながらそれに答えるのはM1911だ。

 

《私達としてはそうなんですけど、グリフォン社としてはそうもいきません。犯罪の片棒担いで警察に睨まれては、グリフォン社の中央アジアでの活動に制限が入ります。S地区の物流はクルグス共和国内に物流拠点(ハブ)があるので止められたら一気に基地の備蓄が干上がります》

《それは嫌だなー。ただでさえカツカツなんですよ、基地運営》

 

 ブレン・テンがそう言う。ともかくじゃ、とナガンが仕切り直す。

 

《グリフォン社は警察の依頼を受けるようにとソータに指示した。したがって、今回の契約(コントラクト)は、依頼主(クライアント)の要求に応えつつ、最後に裏切るという、忠義もへったくれもないものになる。それにソータはフロントエンドオペレータ(FEO)としては初任務じゃ、しっかりと支え――――》

 

 その会話は途中で切れる。通信に警報が流れ込む。直後にズンと揺れた。

 

《南西方向、距離170、訂正、距離180、爆炎確認。黒煙が上がっているのが見えます》

 

 屋上のM14が状況を報告、同時に飛び込んで来たのは彼女の視界だ。暗闇の中で赤い炎が揺れている。

 

 

 ナガンが口を開いた。目元が座っていた。一気に少女らしい表情が()()()

 

 

「副官権限で前進待機を命ずる。地上警戒中のものはそのまま待機、自己防衛戦闘のみを許可。ソータを叩き起こす。M1911、P7、武装集団がホテルに入ってきたら、わしらでソータを回収、PPSh-41、ブレン・テンで脱出口の確保、ガーランドはMP40と足を確保、かかれ!」

 

 

 状況は急変した。つべこべ言っている余裕はなさそうだった。

 

 




さて、戦いの匂いがしてきたぞー。

途中で出てきた『ツェナー通信プロトコル』ですが、ゲームで出てきてるらしい(wiki調べ)『齊納協議』をソレっぽく訳した感じです。間違ってたらごめんなさい。きっとツェナーさんって誰だよ状態ですが……きっとペルシカ博士の相方なんでしょう……。

さて、警備始まる前に戦闘勃発です。大丈夫でしょうか……。

どうぞよろしくお願いします。

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