METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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マザーベース:全てはあなたのために…

 マザーベース、研究開発班。

 一介のPMCが持つにはあまりにも高い技術力を持っていることで知られるMSFの研究開発班では、日々武器・装備の開発研究を行っており、また戦術人形向けのAI調整や装備開発にも熱心に取り組む。

  

"関係者以外立ち入り禁止"

 

 研究開発班の棟の入り口には、大きな警告文がある。

 ここはMSFの技術の全てがここに集約されていると言ってもよく、それと同時にマザーベースで最も警備が厳重な施設である。

 ここには24時間、常に厳戒態勢が敷かれ多くの警備兵と監視カメラが配置され、極めつけは眠ることを知らない試作型月光を筆頭に数機の月光が休むことなく周囲を警備している。

 ここにはMSFのスタッフといえど足を踏み入れることができず、スネークやミラーなどトップの人間だけが中に入ることができる。

 まあ、そんな徹底された秘密主義からか内部のスタッフは思いつきで様々な珍兵器や変態兵器が生まれるのだが。

 今はサヘラントロプスの開発も合わさり、徹底した情報統制がなされているので、本来はもう少々警備も緩いが…。

 

 さてそんな厳重警備が敷かれている研究開発プラットフォームだが、例外として修復や定期検査対象の戦術人形は一部エリアへの立ち入りが許可されている。

 今日のところは、先日中東でWA2000と狙撃対決を行った末に彼女に敗北し、同時に忠誠を誓い仲間となったKar98kが同プラットフォーム内の修復施設に入っていた。

 

 

 対決の末に受けた銃創以外に、長く正規の整備を受けなかったことによる生体パーツの損傷や関節部の不具合、AIの修正などなど…Kar98kが受けるべき修復は複数カ所あり、これにはストレンジラブも張り切って彼女の修復作業に取り掛かるのであった。

 大がかりな修復作業は三日かけて行われ、修復完了の連絡を受けたWA2000は施設の外で待っていた。

 その隣には、WA2000と対決をしたKar98kのことが気になってしょうがないスコーピオンとなぜかUMP45がいる。

 

「いやー、それにしてもわーちゃんをてこずらせたスナイパーか。どんな奴?」

 

Kar98k(カラビーナ)? まあ、落ち着いたような奴だったけど…というかUMP45、わたしについて来ても中には入れないわよ?」

 

「あはは、やっぱり? 個人的に中が気になってしょうがないんだよね…MSFの技術の塊、凄い気になるんだけどね」

 

「好奇心は猫を殺すって言うけど…隠密行動に自信があるなら挑戦してみなさい」

 

「遠慮しておくわ。今もこわーい月光が睨んでるし…」

 

 中でも要注意人物とされているUMP45などは特に警戒され、誤って施設内に入ろうものなら…冗談では済まされない事態にはなるだろう。

 まあ、UMP45としても命をかけてまで試してみたいほどではないので無茶な行動は起こさない。

 それでも興味は絶えないようだが…。

 

 

「あ、出てきたよ」

 

 

 スコーピオンの声に、二人は研究開発棟の扉へと目を向ける。

 そこにはボロボロだった身体を綺麗に修復し、真新しい衣服を与えられたKar98kがいた。

 身体のほとんどに手を加えられたためか、手を握り固めたり開いたりと身体の動作を確認している。

 

「待たせたな。生体パーツの組成に手間取ったが、各部の異常個所の修復は完了した。後は少しのリハビリで、以前と同じように動けるようになるはずだ」

 

「わぁ、やっぱり腕だけは確かなんだねストレンジラブ」

 

「腕だけはとか、余計なことを言うんじゃない」

 

 一緒に付いてきたストレンジラブは、相変わらずの様子に見えるが、三日に及んだ修復作業で疲労が蓄積しているのか少々やつれているようだ。

 

「流石はMSF、AI担当のストレンジラブ博士ね。ちょっとお願いがあるんだけど、うちの装甲人形どものAIを少し弄ってもらいたいんだけど?」

 

「ふむ。UMP45、いくら君の頼みとはいえそれは無理だ」

 

「どうして?」

 

「あんなむさくるしい男人形のAIなど覗きたくもない」

 

「自分で言っているよこの変態博士」

 

 

 相変わらずのレズビアン気質に若干引きつつ、スコーピオンはもうお前に用はないと言わんばかりにストレンジラブを追い払う…若干涙目で研究所に帰っていくストレンジラブだが、哀しいことに日頃の行いのせいか誰も同情してくれない。

 そんなストレンジラブは放っておくとして、WA2000らは改めて綺麗に生まれ変わったKar98kを出迎える。

 

 

「綺麗になったわね、Kar98k(カラビーナ)……これで正真正銘、貴女は生まれ変わったわけね」

 

「感謝します、我が主(マイスター)

 

 Kar98kは優雅にお辞儀をすると、何を思ったのかWA2000の前で片膝をつき恭しく目を伏せる。

 まるで主君に忠誠の意思を示す騎士のようでもある姿勢に、WA2000はおろかスコーピオンも驚いて見せる。

 

我が主(マイスター)…このKar98k(カラビーナ)、貴女様の忠実なる騎士として力を尽くすことをここに誓います。貴女様の道を遮る全てのものを排除し、全ての敵を撃滅して見せましょう…全ては御身のために。貴女様の為ならこの身朽ち果てる事も本望、地獄への旅路も喜んで引き受けましょう…我が主(マイスター)、いと高き我が主よ、御命令を」

 

 最後にWA2000の手を取ったかと思えば、その手の甲に軽くキスをする…。

 騎士道華やかなり…まるでおとぎ話の古き良き騎士の姿を再現して見せる彼女に、WA2000も、見ているスコーピオンとUMP45も恥ずかしさに顔を真っ赤にさせる。

 だが本人はいたって真面目であり、周囲のそんな反応など気にも留めない。

 

 

「まあ、なんというか…これまた拗らせた人形が来たね」

 

「いや、拗らせすぎでしょ。ワルサー、一体どんな調教したの?」

 

「知らないわよ! あんたも、恥ずかしいから止めてちょうだい!」

 

「これは失礼、この熱き昂りを抑えることが出来ませんでした。しかし今言ったことに嘘偽りはありません…我が主(マイスター)、貴女様に永遠の忠誠を…」

 

「あー、とりあえずその辺にしとこうか。ひとまず…歓迎会だ!」

 

 そのまま放っておくとKar98kの騎士道に基づく行動がいつまでも終わりそうにないため、かねてから予定していた歓迎会のためにその場はスコーピオンが纏める。

 ここ最近は新規加入の戦術人形もいなかったためにしばらくやっていなかった人形たちの宴、Kar98kの加入を聞きつけたスコーピオンが早速奔走し、周囲の人形たちに予定を聞いて回りベストな日付をセッティングしたのだ。

 

 

 

 

 

「――――と、いうわけで新たな仲間Kar98kの加入を祝いまして、乾杯!」

 

 居住エリアの談話室、以前にも何度か飲み会の席としてセッティングされたおなじみの部屋にMSF所属の戦術人形が集まり、賑やかに騒ぎ立てる。

 ここ最近の忙しさのせいか、何人かの人形は戦場にいるため参加はできないが、マザーベースにいる人形たちは全員参加をしてくれていた。

 歓迎会の挨拶と乾杯の音頭をスコーピオンが執り行えば、後は無礼講…人形たちは料理をつまんだり酒を飲んだり、普段話すことのできない人形との会話を楽しむのであった。

 

 開幕すぐに出来上がったFALはというと、先日初めて戦車部隊を率いた時の苦労話と愚痴をよりによってエグゼに絡んで話しかけている…。FALの絡みに鬱陶しそうにしているが、一応部下のケアとして真摯に話を聞いていたようだったが……そのうち泣き上戸になったあたりで面倒になったようで、FALの面倒をVectorに押し付けスコーピオンらのところへやって来た。

 

「連隊長も大変だねエグゼ」

 

「FALのやつしつこいったらありゃしねーぜ。戦車は暑いだの稼働音がうるさいだの…ったく。おいなんか美味い酒ないか?」

 

「エグゼはお酒の味なんて分からないでしょ? これでも飲みなよ」

 

「ふざけんな、これスピリタスだろうが! もっとまともな酒はないのかよ!?」

 

 スコーピオンから渡される定番のスピリタスをはねのけ、そばにあった箱を覗きこむが、ウォッカやテキーラ、ウィスキーなどといった潰す気満々のアルコールしかないことに絶望する。

 その後、スコーピオンに煽られた結果闘争本能に火がついたエグゼは躊躇することなくそんな酒に手を出すのだが…。

 

「くそ、胃が灼ける…」

 

「まあ、今日のところはゆっくり飲もうか」

 

「この野郎」

 

 結局飲む酒はビールへと変わり、二人は瓶を軽くぶつけあい一気に飲み干す。

 周りを見渡せばみなまったりとしたペースで飲んでいる…この日は周囲に合わせ飲むことを決めたようだ。

 

「なあ、中東での実戦はどうだった? なんか足りないこととかあったか?」

 

 酒を飲みながら、エグゼはMG5やスプリングフィールドなどの大隊長の面子に、実戦での様子を聞いて回る。

 連隊長としての立場もあることと、やはり自分が育て上げた部隊の活躍が気になっている様子だ…概ね、良好な反応に気を良くして酒も進むというもの。

 FALもひとまずそつなくこなしたというMG5の言葉を聞き、とりあえずは安心する。

 

「エグゼさん、あたしはいつ出撃するのかな?」

 

「んー? お前の砲兵大隊は連隊と一緒に動くことが多そうだからな…未定だな。でも訓練はやってんだろ、どんな感じだ?」

 

「うーん、弾道計算とか難しいけど今のところ大丈夫かな…?」

 

 珍しいSAAとエグゼの組み合わせ、こんな珍しい組み合わせもこのような場でこそ成立したりもする。

 

 さて、主役のKar98kはというと、大人しくWA2000の傍に座り周囲の戦術人形たちを観察したり話し声に耳を傾けている様子。

 緊張しているのかと心配されたりもするが、そんなことはなく、周囲を観察することでMSFの空気に馴染めるようにしようと考えているらしい。

 

 

「ところでわーちゃん、最近オセロット見ないけどどこに行ってんの?」

 

 

 それまで周囲を観察していたKar98kであったが、なにやら面白そうな話題の予感を感じたのか二人の会話に興味を示す。

 

 

「オセロット? 諜報の仕事で出かけてるみたいだけど、どこに行ってるかは知らないわ」

 

「あらら。わーちゃん相変わらず片想いだなぁ…」

 

「ちょっと、なによそれ!? 聞き捨てならないわね、アンタだってスネークが今どこに居るか知らないでしょ!?」

 

「スネーク? スネークは今南米でエイハヴと一緒に仕事してるよ。わーちゃん、オセロットのこと大好きな癖にどこにいるか知らないんだね……それにしてもオセロットもひどいな、こんな麗しい乙女を放ってさ」

 

「くっ…オセロットのお仕事は諜報だから、例え親しい間でも秘密が多いのよ…!」

 

 あくまでオセロットを擁護するWA2000に、スコーピオンは面白がってからかうのだ。

 そんな二人の会話を眺めていたKar98kは、オセロットという人物に会ったことがないため困惑する…WA2000の口ぶりと表情から、とても大切な人であることは察しているようだが…。

 気になって問いかけたKar98kに、スコーピオンは愉快そうに笑いながらオセロットについて語る。

 

「えっとね、オセロットっていうのはこの基地のめっちゃおっかない人でね」

「怖くないわよ、良い人よ! 勘違いしちゃダメよKar98k!」

 

「え?あぁ、はい」

 

「無愛想で冷たくて、ユーモアの欠片もない奴でさ」

「仕事柄そうしてるだけよ! オセロットはみんなのために汚れ役を引き受けてるの!」

 

「な、なるほど…」

 

「こんな可愛い子に慕われてるのに、当の本人はSAAが愛銃みたいで」

「うっ…その話題は止めてよ…」

 

「はぁ…」

 

「まあ、でもわーちゃんをここまで育てたのはオセロットだし、今のMSFがあるのもオセロットの力が大きいと思うんだよね。諜報では誰も敵わないし、ここにいる人形のほとんどがあいつに世話になったと思う」

「そう、大事なことは全部あの人から教わったわ。あの人のおかげで、今のわたしがいるのよ」

 

「なるほど……要するに、そのオセロットという方は我が主(マイスター)が恋してやまない方なんですね?」

 

「そういうこと」

「ちょっ! あんた何を…わ、わたしはオセロットの事は一人の兵士として尊敬しているだけで、そんなこと…! 好きとか、恋してるとか…そういうわけじゃないんだから…」

 

「控えめに言いまして、かわいいです」

 

 

 その手の話題になると、WA2000は頬を赤らめて途端にしおらしくなる。

 そんな姿を見れば誰がどう見ても惚れているというもの…新参のKar98kでさえも一瞬で察する反応だ。

 ふむふむと、Kar98kは頷き主君のWA2000周りの相関図を頭に思い描き分析する…その結果、その想い人であるオセロットとWA2000の仲を取り持ってあげることが何よりの忠義ではと思い始めるのだ。

 目の前でKar98kがお節介を計画しているとは知らずに、すっかりしおらしくなってしまったWA2000は憂いを帯びた表情でグラスワインに口をつける。

 

「もう、元気出しなってわーちゃん。そのうちオセロットも帰ってくるって!」

 

「うん…でも、もう何週間も会ってない…」

 

 お酒の効果も入って、ここ最近会えていない寂しさをしみじみと痛感し、もの悲し気に佇む。

 これは早急に二人をくっつけなければならない、そんな使命感にKar98kは燃える。

 

 そんな時だった。

 部屋の扉がノックされ、はいはいとスコーピオンが扉を開く……そこにいたのはなんと話の渦中のオセロットではないか。

 予想外の人物の登場に、賑わっていた場が一気に静まり返り、最近彼の訓練を受けていた人形などはすぐさま直立姿勢をとる。

 

「なにかご用? 歓迎会をやってたんだけど…」

 

「邪魔をして悪かったな。ワルサーはいるか?」

 

 オセロットがそう言うと、人形たちの視線は一気にWA2000のもとへと注がれる。

 人形たちの視線をたどりWA2000を見つけると、オセロットは彼女を手招く…さっきまでの会話もあってか、急なことに焦っているようだが、すぐに気持ちを切り替えオセロットの前に来る頃には顔の赤らみも消えて完全に仕事モードへと入る。

 切り替えの速さに感心するとともに、関係が進まないのはそういうとこだぞ…とスコーピオンは思う。

 

「久しぶりねオセロット、仕事の話かしら?」

 

「一応な。明日の予定は無かったと思うが、空いているか?」

 

「ええ、今のところは。今度の任務は何かしら?」

 

「向かうのは戦場じゃない、ある町に向かう。明日、前哨基地で待ち合わせをしよう…いつもの格好は目立つ、普段着で来い。町には何日か滞在する予定だ。それと、金の心配はするな。食費や宿泊費はオレが出す。忘れるなよ…では、パーティーを楽しめ」

 

 それだけを言うと、オセロットはさっさとその場を立ち去っていく。

 急な来訪と、急な退散に一同ポカーンとするなか、スコーピオンは相変わらずのオセロットの態度に苦笑する。

 こんな風に自分勝手なところがあるから色々問題がある、そうKar98kに説明しようとしたところで固まりビクともしないWA2000を見て怯む。

 

「あー……わーちゃん?」

 

 微動だにせず、先ほどまでオセロットが立っていたところを凝視している。

 まさかメンタルでも損傷したのか?

 スコーピオンの予想はある意味的中している……WA2000は少しずつ意識を取り戻すとともに、先ほどのオセロットとの会話を思いだし、紅潮する顔をおさえて身を震わせる。

 

「うそ、今のって……まさか、まさか…! いえ、オセロットに限ってそんなことって…!」

 

「落ち着こうかわーちゃん、一回落ち着こう、ね?」

 

「町に、普段着で行くって…! ねせ、スコーピオン! これって、あれよね!? その、デ…デート…よね?」

 

「あー、うん。そう聞こうと思えばそうだけど、オセロットのやつ仕事って言ってたしどうなんだろ?」

 

「いえ、これは紛れもないデートですわ我が主(マイスター)!!」

 

「カラビーナ!?」

 

 なにやら張り切った様子のKar98kに一同呆気にとられる。

 

「不肖ながらこのKar98k(カラビーナ)! 我が主君の応援をさせていただきます!今のお方が主君の未来の旦那様になるべきお方ですね!? 分かりました、尽力させていただきます!」

 

「お前も一回落ち着けっ!あーもう、あたしはツッコミ役じゃないってば! ボケるのはあたしの専売特許でしょーが!」

 

 収拾のつかなくなった宴は、その後WA2000の恋話へと移行し、本人を差し置いて好き勝手デートプランを話しあったりと、色々な意味で熱気を帯びる。

 果たしてどうなるやら…珍しくツッコミ役に回されたスコーピオンはため息を一つこぼし、恋愛に関してポンコツなWA2000に不安を覚えるのであった。




この間はかっこいいわーちゃんだったから、かわいいわーちゃんを描け…そんな神の声を聞いた。

たぶん、オセロットはブレないと思いますけどw

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