「とってもきれいですよ、ワルサー」
「うーん、そうかな?」
どこか不安というか納得のいかなそうな表情で、WA2000は鏡の前に座り自身の前髪をつまみあげる。
彼女のために化粧と身だしなみのチェックを行ったのはスプリングフィールドで、普段化粧など最低限しかしないWA2000のために、慣れているというスプリングフィールドがメイクを手伝ってくれた。
化粧などしなくても十分美しい顔立ちのWA2000であり、化粧など不必要だというのがスコーピオンの主張である。しかし、この主張はKar98kを筆頭に多くの乙女にブーイングを受けて退けられる…拾い食いしたり泥遊びをしているスコーピオンと、WA2000を比べてはいけない。
そこで付き合いの長いスプリングフィールドが張り切り、あくまでWA2000の素の顔を台無しにすることなく、彼女の美貌を引き立たせるようなナチュラルメイクを施して仕上げて見せた。
彼女の持つ魅力を上手く引き立たせて見せたスプリングフィールドの腕を称賛するとともに、メイクを施されたWA2000の美しさに同性の人形たちも思わず憧れと羨望の眼差しを向ける。
「さ、もうそろそろ時間ですし行きましょうか」
「あ、うん…なんか、初めて戦場に向かった時より緊張するんだけど…」
恥じらうWA2000の姿に、既に人形たちの何人かは発狂しかけている…。
緊張する彼女の手を握り、スプリングフィールドがエスコートする…ただ仕事で町に行くだけだというのに、まるで結婚式か何かの騒ぎのようだ。
外に出てみればどこから噂を聞きつけたのか、MSFスタッフの野郎どもが遠巻きに歓声をあげる。
「まだオセロットさんは来ていないみたいですね」
スプリングフィールドのその言葉に、WA2000はほっと安堵の息をこぼす…まあ、結局は会うことになるのだが。
指定された時間まではまだあと数分はある、それまで時間つぶしをしていると、一頭の白馬がどこからか現れWA2000の傍にそっとすり寄る。
「あら、どうしたの?」
アンダルシアン…美しいその馬は以前この前哨基地近辺で見つけ。WA2000が世話をしている馬である。
この馬はWA2000以外をその背には乗せようとせず、また触れることも好まない。
スコーピオンなどは一度無理矢理乗ろうとして、馬のバックキックを顔面に受けてぶちのめされたりもした。
白馬を撫でていると、一台のSUV車が彼女たちのすぐそばに停車する。
黒塗りの塗装にスモークガラスが貼られたそれは見るからに危険なオーラが漂う、ドアが開かれ、運転席から降り立つオセロットにWA2000は息を飲む。
「待たせたな」
「ううん、そんなに待ってない…あの、オセロット、その格好は?」
「町に馴染むためだ。何か問題でもあるか?」
「いや、そんなことないわよ! ただ、いつもと雰囲気が違うねって…」
普段と違った雰囲気なのはWA2000だけではなく、オセロットも同じだ。
薄いスモークの入ったサングラスをかけ、ワインレッドのYシャツに黒のスーツ、黒のネクタイという服装…本人の顔つきも合わさり威厳とダンディズムが溢れる姿だ。
はたから見ればどこかの筋ものにも見えかねないその格好は、危うげな大人の色気も纏わせる。
冷徹というよりはクール、普段と違う雰囲気の姿にWA2000は胸をときめかせ、じっと彼の姿を見ていた。
「これから向かう町は少々治安が悪い。犯罪に巻き込まれる恐れもあるだろう。ライフルはそのバッグの中か? 一応、拳銃も懐に隠しておくといい」
「………」
「おい、人の話を聞いているのか?」
「え? あ、あぁ…ごめんなさい。その……オセロットのその格好、似合ってるよ…」
恥じらいながら頬を掻きつつ、か細い声で言って見せるWA2000の仕草に、何人かの戦術人形及びMSFスタッフが卒倒する。
滅多に見せない乙女顔にそこら中で被害者が続出、地面は鼻血で真っ赤に染まる。
そんな、周囲の阿鼻叫喚の流血沙汰には目もくれず、オセロットが気を引かれたのはWA2000のすぐそばで控えている白馬だ。
「アンダルシアン…ザ・ボスの愛馬。ワルサー、こいつをどこで見つけたんだ?」
「ここの基地のすぐそばで見つけたの。私以外には懐かないみたいで…って、ちょっと!?」
忠告する間もなく、白馬に手を伸ばしたオセロットに焦るWA2000であったが、意外なことに白馬はオセロットに触れられることを許したではないか。
誰も背に乗せることはもちろん、触れることも許さなかったあの白馬が穏やかな表情で、むしろ自分からオセロットの手に首を擦り付ける。
「いい馬だ、大切に扱え。さて、そろそろ行くか。乗れ」
踵を返し、乗って来た車へとオセロットは乗り込む。
アンダルシアンが触れることを許した二人の存在、もう誰がどう見ても結ばれているとしか思えない演出にほとんどの戦術人形が悶死した…無数の亡骸を放っておいて出かけるのは気が引けたが、オセロットに呼ばれWA2000は急いで車へと乗り込むのであった。
車を走らせてから十数時間、途中野宿で一夜を過ごし、寄り道をしたりなどもしたがようやくオセロットの言っていた町へと到着する。
町はそれなりの規模で、そこそこ賑わっているようだが、町の外には拳銃を持った自警団が徘徊したりと物々しい雰囲気があった…車を町の空いている駐車場へと停めると、オセロットはサングラスをかけ外に出る。
「ここが目的地だ、まずは町の情報を探る…と言いたいところだが、堂々と行動するわけにはいかない。町の空気に溶け込むことが大切だ…ワルサー、お前はオレと行動するうえで普段と違う別な人間を演じなければならない。できるか?」
「ええ、やって見せるわ」
一日を過ごし、少し落ち着きを取り戻していたWA2000は頷き応える。
ここまではオセロットにも事前に聞かされていたこと、動揺する理由もないのだが…。
「ではお前がどんな役を演じるかだ。お前はオレにとってのなんなのか? お前が決めろ、諜報には不慣れだろうからな」
そんなことを言われ、WA2000は急に言い渡された指示に慌てふためく。
普通に想像すれば師弟の関係にあるといえるが、町に溶け込み情報を集めるのであればその関係を前面に押し出すのは不自然である。
ビジネスパートナ、兄妹、友人などいろいろな関係が頭に浮かぶのであったが、ふと町を歩く若い男女のカップルが目に留まる。
「恋人……とか?」
無意識に出たその言葉にハッとして、WA2000はおもわず赤面する。
おそるおそる伺ったオセロットはいつも通りの様子で、どこか納得した様に頷く。
「いいだろう、それでいこう」
「ええ、そうね…」
返事を返したWA2000であったが、不意にオセロットの手が腰へとまわり抱き寄せられる。
突然の出来事に目を見開き、声にならない声を漏らす…見上げたオセロットはいつもの仏頂面ではなく、口角を曲げて柔和な表情を見せていた……山猫の"演技"が始まっていた。
「それじゃあ行こうか? 少し、町を見てまわろうか」
いつもの肩っ苦しい口調もなりをひそめ、軽い口ぶりでWA2000を抱き寄せつつ町へと進む。
オセロットの唐突な豹変ぶりにWA2000はついて行けず、終始顔を俯かせ、押し寄せる様々な思いに頭はパンク寸前であった。
羞恥心から何も出来ないでいるWA2000に対し、オセロットはさらに演技を光らせる…WA2000の今の様子でさえも違和感ないよう言葉を紡ぎ、恋人役を演じて見せるのだ。
(な、なによこれ…! 破壊力が強すぎるわ…!)
かつてないほどにオセロットの存在を身近に感じている状況に、錯乱しかけている。
オセロットが肩に回す手も、かけられる言葉も、一切強引さはなくむしろ優しさすら感じる……それと同時に感じるのが、今まで手の届かなかったオセロットを最も身近に感じることができる幸福感。
これが演技だとしても、WA2000にとっては夢のような出来事……何度かの深呼吸を繰り返し、WA2000もそっとオセロットの身体に手を伸ばして抱きしめる。
「あ、あの…こんなこと、誰にでもするわけじゃないんだからね…! あなたとだから、こうしてるわけで…」
「ああ分かってるさ。でも安心したよ、君の口からそう聞けてね。オレも、こんなことは君以外にしないさ」
「はぅあっ!?」
再度、崩れかけるWA2000を抱きとめるオセロット。
その後は何度か意識を失いそうになるも少しづつオセロットの演技にも慣れ、心に余裕のできてきたWA2000も精いっぱいの恋人役を演じて見せる。
大通りの雑踏の中を二人は練り歩き、町の要所なるような建物を見てまわる…とはいってもWA2000が見ているのはオセロットただ一人で、他は眼中にない様子。対するオセロットも一見、WA2000演じる恋人と仲睦まじくしているようにしか見えないが、時折鋭い目で町の様子を伺っていた。
しかしそんな姿も、今のWA2000には些細なこと。
今ではこれが仕事の一環であることも忘れ、今まで感じられなかったオセロットの温もりに身を寄せ、精一杯彼に甘えていた。
町を歩き、喫茶店で軽い食事を済ませ、町の店を見てまわる。
オセロットの弟子としての立場を受け入れつつも、心のどこかで願っていた他愛のない日常…意外な形でかなったその願い、まさに夢のような人時にWA2000は幸せと安らぎを感じていた。
夕暮れ時、昼と夜の境界に差し掛かるその頃になると町の喧騒も少しなりをひそめるが、それはこの町が夜の姿へと移り変わる前のほんの短い間に過ぎない。
あたりが薄暗くなる頃に、二人は宿泊先のホテルへチェックインする。
昼間の幸せな時間に酔いしれるWA2000は終始上機嫌で、少々みすぼらしいホテルも気にならなかった。
「こんな風に自由気ままに行動したのは本当に久しぶり。オセロット、今日はありがとうね」
「そうか、それは何よりだ。ワルサー、少し静かにしていろ」
ホテルの部屋へと入るなりオセロットはそう指示を出すと、部屋を見回す。
昼間見せていた親しみのある表情は消え去り、いつもの仏頂面へと変わっていた…。
WA2000がオセロットに言われたまま静かに佇んでいると、彼はやがて部屋を物色し始め、テーブルの裏や引き出しの中、しまいにはコンセントの蓋も開き何かを調べてまわる…それが30分近くも続き、ようやく満足したのかオセロットは物色を止める。
「もう話してもいいぞ。盗聴器の類はない」
冷たさすら感じるその声を聞くころには、WA2000が先ほどまで感じていた楽しい気持ちはすっかり萎えてしまっていた。
二人きりでいる以上、他の何かを演じる必要はなくなった。
仕事でこの町に来ていることは理解しているつもりだったが、それまでの行為がやはり演技に過ぎなかったのだと実感し、WA2000はもの哀しさを感じる。
「それで、あの…この町にはどんな意味があってきたの?」
「町、というよりはエリアだな。以前MSFに某国より都市運営の依頼があった。地方都市の行政もままならなくなった国家が、その行政をPMCに任せることはお前もよく知っているだろう。通常、入札で各PMCがその権利を獲得するのだが、今回MSFに対し名指しで依頼があった」
「まあ、MSFの名声は今や世界が知るところだものね。不公平な指名でも、より確実かつ強大な軍事力を持つところに任せた方がいいものね。でも、どうしてそれでこんな風に密かに調査をするの?」
「MSFに依頼されたエリア内にはこの町の他、工場地帯や肥沃な穀倉地帯もある。軍事的にも経済的にも重要なエリアだが…それを狙うある勢力が、すぐそばまで領域を拡大しつつある」
「鉄血工造…」
「そうだ。某国は鉄血と自国領にMSFを挟むことで防波堤とする魂胆だろうな。鉄血がMSFに敵対することは積極的じゃないということは、ある程度知れ渡っているところ。MSFの存在を緩衝材にすれば、鉄血の侵略も防げるということだ」
「なるほどね。でもMSFを利用するなんて気に入らないわね。この依頼は拒否するの?」
「それを決めるのはオレではない。ボスとミラーが決めることだ」
だが地方都市といえど、その行政を握り運営することは安定的かつ大きな利益をMSFに対して与えることだろう。
この依頼を請けるかどうかの判断材料を手に入れるのが、今回のオセロットの仕事というわけだ。
「境界や工場地帯、穀倉地帯も調査が必要だがまだこの町を調べなければいけないからな」
「それは私も…」
「いや、お前の今日の役目は終わりだ。ここからは一人の方が都合がいい」
突き放されるような彼の言葉にWA2000は胸を締め付けられた…。
「夕食代だ、これで足りるだろう。それと、あまり外を出歩くな、厄介ごとに巻き込まれるかもしれないからな。明日は町の外を調査する、それに備えて休んでおけ」
オセロットは紙幣を何枚かクリップで留めたものをテーブルの上に置き、外出のためのコートを羽織る。
それはいつもの彼の姿だ。
深い感情は込めずに淡々と、時に冷たさすら感じる彼の言葉はもう聞き慣れているはずなのに、この時のWA2000にはとても辛いものであった。
「オセロット…!」
部屋を出ていこうとするオセロットを呼び止めたものの、かける言葉は出てこない…。
いや、言いたい言葉ははっきりしているのに、喉の辺りで止まってしまうのだ。
「気を…付けてね。いってらっしゃい…」
「あぁ」
結局、作り笑いを浮かべ、あたり触りの無い言葉でオセロットを見送るしか出来なかった。
扉の向こうにオセロットの姿が消えた時、WA2000は笑みを消すとベッドの上に腰掛ける…。
"一人の方が都合がいい"
先ほどオセロットが言った言葉がWA2000の頭に何度も浮かぶ。
それはいいかえれば、自分の存在が邪魔だということではないか…彼のためを思い、彼の役に立とうとこれまで厳しい訓練も努力も惜しまなかったWA2000のメンタルを、その言葉はどんな言葉よりも深くえぐる。
オセロットのためになれない自分の不甲斐なさと、突き放されたような寂しさに、悲しみがこみ上げる。
「なに、泣いてんのよ私……バカみたいじゃない…」
鏡に映る自分の姿から目を背け、彼女はベッドの上に身体を横たえ虚しさと寂しさから涙をこぼす。
いつも通り、いつも通りの彼のはずだというのに、どうしてこんなにも悲しみが溢れるのか?
殺しのために生まれたはずの自分が何故、この程度のことで感情が揺れ動くのか?
WA2000には、理解できなかった。
どれくらい経ったことだろうか?
ベッドからむくりと起き上がったWA2000は顔を手で覆いうなだれる…。
「お腹…空いた」
ぽつりと小さな声でつぶやき、テーブルの上に置かれたお金を手に取った。
それをしばらくぼうっと見ていた彼女であったが、やがて気だるそうに立ち上がると重い足取りで部屋を出ていった。
ホテルの外に出てみると辺りはすっかり暗くなり、気温も下がりパラパラと雨が降っていた。傘も持っていないWA2000は空を忌々しく見上げ、ため息を一つこぼす…どうせ小雨だからと、少し濡れるのも構わずそのまま外を歩く。
時刻は既に8時をまわり、大通りの飲食店は店を閉めるかラストオーダーを過ぎていた。
結局、WA2000が立ち寄ったのは通りの隅にあったちっぽけな屋台。
そこで売っているメニューの、というより一品しかないフィッシュ・アンドチップスを購入し、近くの適当なベンチに腰掛ける。
白身魚フライを一口かじったところでWA2000は顔をしかめる。
鮮度が悪いのか、そこらの川で吊り上げた魚を使っているのか妙に泥臭くて不味い…ポテトの方もギトギトの油でしなびとてもじゃないが食えたものではない、すっかり食欲の無くなったWA2000は食べ半端のそれを紙に包んでゴミ箱へと放り投げる。
ホテルに帰ったところですることもなく、しばらくWA2000はベンチに座ったまま通りを眺めるのだが、こういう時に限って通りを歩く多くの男女のカップルに機嫌を悪くする。
「バカバカしい…」
うんざりした気持ちでその場を立ち去る。
あてもなく夜の街をふらふらと練り歩き、やがてWA2000は一つの店の前でその足を止める。
店内の客もすっかりいなくなり、店じまいの準備をしている宝石店…ショーウインドーに飾られた綺麗な指輪をWA2000はじっと見つめていた。
ずっと前にグリフィンにいた頃、何人かの人形が指揮官からの指輪に大喜びしていたのを思いだす。
当時はバカバカしいと思っていたことだったが、誓約の指輪を贈られる意味を知れば人形たちが大喜びしていた理由も分かる。
「誓約の指輪か…今の私には、不必要よね…」
自虐するように微笑み、ショーウインドーから離れる。
気温もさらに下がり、雨で身体もすっかり冷えてしまった…これ以上町をうろつく気分も無くなり、ホテルへと引き返そうと踵を返した時、通りを歩いてきた男女のグループにぶつかってしまった。
「いたた……ちょっと、どこ見て歩いてんのよ!」
「よそ見してたのはお前の方だろ! おっと、いい女じゃんか…なぁ!」
ぶつかったWA2000を舐め回すような目で見る男たち。
一緒にいた他の女たちはそれが面白くなかったようで口論となるが、男たちは元いた女たちを追い払うと、馴れ馴れしくWA2000の肩に手を回す。
「なあ、おねーさん一人? 良かったら一緒に遊ばない?」
「気安く触らないで。そこらの安い女と一緒にしないでちょうだい」
男の手を振りはらい、さっさとその場を立ち去ろうとするが彼らはしつこく付きまとう。
しまいには行く手を阻む様に塞ぐと、強引にWA2000の手を掴む。
オセロットの言いつけで騒ぎを起こさないよう気をつけていたが、もう我慢の限界であった…懐の拳銃に手が伸びそうにもなったが、それは自制し、素手で返り討ちにしようしたときだ。
「おい、何をしている?」
聞き覚えのある声に咄嗟に振り返る。
そこにいたのはオセロットだ…傘をさした彼はじっと、WA2000の腕を掴む男たちを見据えている。
「なんだおじさん、この子の保護者か何かか?」
「オレの女だ。怪我しないうちに消えろ」
「おじさんさ、オレたちの邪魔をしちゃいけないな。それに、あんたよそ者だろ? ここらのルールを教えてやらねえとな!」
相手が一人だと油断しているのだろう。
男の一人がオセロットに殴りかかっていったが…オセロットは傘を放り投げて男の視界を塞ぐと、一気に詰め寄り、男の顎を拳で撃ち抜き一撃で失神させる。
さらに殴りかかってきた二人目の男の腕を容易くとらえると、容赦なくへし折る。
痛みに喚く男を放り捨て、残った三人目に目を向けるが戦意を喪失しているようだ。
「腕が折れただけだ、そう騒ぐな。ほら、これで医者にでも診てもらえ」
ポケットからとりだした紙幣を何枚か数え、悶絶する男に放り投げる。
「けがはないか? もう行くぞ」
「う、うん…」
いまだ激痛に苦しむ男たちを流し見つつ、WA2000はオセロットの傍に駆け寄る。
そのままホテルへ向けて歩いていくが、気まずい沈黙にWA2000はうつむく…何度かオセロットの顔を見上げるが、彼は真っ直ぐ前を向いたままだ。オセロットがさす傘に入っているため必然的に距離が近くなるが、昼間のような楽しい気分にはなることができない。
気まずい空気に耐えかねて、勇気を出して話しかける。
「あのさ、さっきは…ありがと。助けてくれて……別に、助けは必要じゃなかったんだけど」
「だろうな」
まただ…素直になれない自分にWA2000は苛立つ。
普通にありがとうと言えばそれでいいはずなのに、つい強がりを言ってしまう。
そこから再び沈黙が続く。
小雨はいつの間にか雪へと変わり、道路にはうっすらと雪が積もる。
WA2000は雨に濡れて冷えた身体を抱きしめる…そんな仕草がオセロットの目に留まると、彼は立ち止まりコートを脱ぐと、そっとWA2000の肩にかける。
「オセロット…?」
「身体冷え切っているな。体温の低下は健康に悪い…」
「ありがとう…でも私みたいな人形は……きゃっ!」
不意に、オセロットに手を引っ張られそのまま抱き留められる。
そのすぐ後に、道路をはみ出た車が通り抜けていったが、危うく轢かれそうになるところであった…。
「周りを見て注意するんだ。いいな?」
「う、うん…」
身体が冷えていることでいっそう彼の体温を明確に感じ、抱き留められたままWA2000は身動きが取れないでいた。
「ワルサー、もう車は行ったぞ」
「うん、分かってるわ……だけどお願い、もう少し……このままでいさせて? 今、この時だけでも…」
「……あぁ」
そっと、オセロットの背中に手を回し顔をうずめる。
昼間に感じていたような喜びの感情ではなく、ただそうしているだけで満たされていくような感覚…ただそれだけでいい。
雪降る夜、誰も二人のそんな姿に目を留める者はいない。
だが、確かに二人はそこにいる…。
ずっと…ずっと、こうしていたい……オセロット、今の姿も演じているだけなの?
このやさしさもぬくもりも、あなたの演技なの?
オセロット…あなたを知ろうとすればするほど、あなたが分からなくなる…。
あなたの本当の姿を知りたい…。
ヌッッッッ!!!???(悶死)
オセロットのキャラを崩さずラブコメやろうとした結果…こーなった。
オセロットがわーちゃんをどう思っているかは皆さんのご想像次第…。
ワイか? ワイには分からん