MSFと鉄血がS03地区の境界で睨みあうようになってから半月が過ぎようとしている。
この間にも、MSFと鉄血は共に相手を牽制する意味合いも兼ねて防御陣地の強化と延長を際限なく行い、今やどちらが先に根をあげるかという意地の張り合いにもなりつつある。
最近は陣地構築のための資材が安定して入るようになってきたが、それでも伸び続ける防御線の構築に対しその資材は不足気味である。この過剰な資材の消費も見直さなければ、MSFの財源にも限りがある以上いつかは破綻してしまう。
無駄な作業ではないが、惜しめば万が一鉄血の攻勢があった場合、より大きな損害を被ることになるのだ。
防御陣地より後方に位置する町では、この軍事的緊張感が高まったことである異変が起きていた。
というのも、この町は多少治安が悪いところから目を背ければ、多くの店が並び人々も行きかう経済的に賑わいのある町であった。
だがそれも今は閑散としていて、町の大通りはまばらに車両が行きかい、客のいない暇そうなタクシー運転手が路肩に車を止めて昼寝をしている。
そんな町の風景を、以前この町にオセロットと共に調査をしたWA2000は道端に止めたハンヴィーにもたれかかりながら眺めていた。
しばらくそうしていると、背後の建物から喚き声が聞こえ、MSFの兵士に両腕を拘束された男が一人建物から引きずり出されてきた。何ごとか喚く男を横目で見ていたWA2000であったが、搬送車にぶち込まれたところで興味を失い目を逸らす。
「火事場泥棒ってのはまさにこのことだな。今日も検挙率ナンバーワンだ」
「どうでもいいわよ。どうせ盗む物もほとんどなかったでしょうし」
「おいおい、秩序の維持ってのは人間社会で最も重要な要素だ。人間を人間たらしめてるのは、秩序があるからと言ってもいい」
ちんけな犯罪者を留置所へ送り飛ばしたキッドがやって来てそんなことを言った。
後からやって来た9A91とネゲヴもそこへ加わると、建物内で起こった犯罪の様子を、外で待機していたWA2000に報告する。
まあ、大したことではなく、貧乏な泥棒が空き巣に入ろうとしただけの本当に小さな犯罪だ。
だがこんな小さな犯罪は今や町のあちこちで起こっている。
町の行政を任されたMSFであるが、その中には秩序の維持も存在する。
厄介なのは鉄血の脅威を感じ取ったために、住人が戦火から逃れようと避難することで多くの市民が外部へと流出、その中には本来法の番人として秩序を維持させる警察組織の人間も数多くいたのだった。
おかげで人数の減ってしまった元々の警察力だけでは犯罪に対処しきれず、こうしてMSFの兵士が町を巡回し秩序を維持しているわけだ。
ちなみに、WA2000、9A91、マシンガン・キッドのFOXHOUNDメンバーが勢ぞろいしているのは、地元警察から凶悪犯罪発生という情報を聞いて駆けつけたためだ…結果はご存知、凶悪犯罪でもなくちんけな空き巣だった。
「FOXHOUNDのお仕事を見れるかなと思ってついてきたのに、つまんないの」
「何言ってんだネゲヴ、大したことなくて良かったじゃないか。こう毎日巡回してて、凶悪犯罪を未然に防げなかったとなったら、むしろオレはへこむぞ?」
「流石はキッドさんですね。そういう考え方が大事だと思います…ネゲヴ、お巡りさんの本当の存在意義は犯罪の抑止力なんですよ」
「分かってるわよ。別にドンパチやりたくてそう言ったわけじゃないし…」
9A91に諭しかけられ、バツの悪そうにそっぽを向くネゲヴ。
それはさておいて、近々この町の秩序の維持に傘下PMCのレイブン・ソードが参入するというので、今よりは犯罪率も下がることだろう。
「しかし…すっかり寂れちまったな。オレたち信用ないのか?」
「グリーンカラーでもなければ、MSFなんて名前だけ知っている程度の知名度でしょうね。確実に自分の命を守る方法はさっさとこの町から逃げること、間違った判断じゃないわ。とは言っても逃げたのは逃げるための金も場所もある富裕層だけ、残ったのは逃げる力のない貧困層よ。誰も残りたくてこの町に残ってるわけじゃない」
「うわ、さすがワルサー…相変わらずドライな意見ね」
「それが事実でしょう? もう行きましょう」
しょうもない理由で呼び出されたWA2000の不機嫌な様子に一同苦笑いを浮かべつつ、停車していたハンヴィーに乗り込む。
車内ではキッドがお気に入りという英国のロックバンドの音楽が流され、9A91は無表情、ネゲヴは苦笑い、WA2000は目を閉じて無視という微妙な空気が流れるが、キッドはお構いなしにへたくそな歌を口ずさむ。
町を出て境界を守る陣地へと向かう最中、防御線より後方に設けられた砲兵陣地を見つけ止まる。
「よおSAA、調子はどうだ?」
コーラ片手に砲兵隊に指示を出していたSAAは、一行を見かけると勢いよく走り寄って来た。
「みんな久しぶり! あ、ワルサー教官もいたんだね?」
「教官はもう止めなさい。訓練は終わったし、あなたも立派な砲兵大隊の大隊長でしょ?」
「うーん、でもワルサーさんはあたしの教官だし…」
「まあ、別にどう呼ぼうがあなたの勝手だけどね。それで、こっちの方は順調なの?」
見渡す限りでは、砲兵に必要な陣地の構成は上手くやっているようだ。
間違えて大量に発注した砲弾等も、仮設倉庫を建てて保管し、それも一か所に保管せず誘爆を避けて複数カ所に保管されている。
砲兵大隊に組み込まれた自走砲部隊も、いつ戦闘命令が下されてもいいように準備は万端だ。
FALと同様、砲兵隊の指揮は未経験であったSAAもまだまだ学ぶことは多いとはいえ、上手くやっている…教え子のそんな姿にWA2000も、先ほどまでの機嫌の悪さも治っているようだった。
そのまま他愛のない会話をしている時のことだった…遠くから複数の爆発音が鳴り響く。
「…なに、今の爆発音は?」
「あたしの砲兵部隊じゃないよ!?」
「分かってるわ、防御陣地の方角からよ!」
音が響いてきたのは鉄血との境界線の方角。
SAAは砲兵部隊の指揮のために残し、一同車に乗り込みすぐさま防御陣地へと向かう…舗装されていない道路を近道に利用し、砂塵をまきあげて猛スピードで進む。
見えてきた防御陣地では、爆発音の異常を聞いてか兵士たちがあわただしく動き回っている。
車を急停車させると、WA2000はライフルを手に車を飛び降り、"
塹壕内も兵士たちがあわただしく動き回っており、兵士たちの間をすり抜けるようにしてWA2000は塹壕内を進み、その中で第二大隊の大隊長MG5を見つけると彼女に並んで塹壕からそっと顔を覗かせた。
「MG5、何が起こったの?」
「ワルサーか…
「味方のヘリじゃないでしょうね?」
「いや、MSFではない。だがどこの所属か分からないんだ…少なくとも鉄血側でもなさそうだが」
「一体誰なの?」
無人地帯に墜落したヘリは原型をとどめていたが、ローターが破損し壊れている…そんなヘリから飛び出していく複数人の人影を見たWA2000は直ぐに双眼鏡を構えて、その正体を探ろうと試みるが、突如鉄血側の火砲が火を吹きあげ、無人地帯に砲弾の雨を降らせる。
鉄血の砲撃は明らかに、ヘリから脱出した者へ向けられている。
そんな時、鉄血の砲弾がMSFの防御陣地のすぐそばにまで着弾すると、臨戦態勢を取っていたMSFもまた砲撃を撃ち返すのだった。
「砲撃中止! 砲撃中止だ! おい何があったんだ、状況を説明しろ!」
そこへ、連隊長のエグゼが駆けつけすぐさま砲撃中止の命令を出す。
混乱する部下から双眼鏡をひったくり、エグゼは《無人地帯》を見下ろす。
既に鉄血の砲撃で不時着したヘリは木端微塵に吹き飛ばされ、脱出した者たちは付近の廃墟に逃げ込んだのか姿は見えない。
「誰か、ヘリから脱出した奴の姿を捉えた者は?」
エグゼの問いかけに、その場にいた者は全員首を横に振る。
廃墟に逃げ込んだところまでは見かけたものの、距離があったことと鉄血側の砲撃が邪魔をしたことで詳細な外見を見ることは出来なかったようだ。
鉄血とMSFの拮抗状態に変化をもたらす、そんな招かれざる者たちに向けてエグゼは舌打ちする。
「全員監視を怠るな、無人地帯起こる事は全て報告しろ。厄介だな、チクショウ…」
「砲撃止め! 砲撃止めだ!」
「あはははは! 開戦だー! 全砲門開け、一斉斉射ーッ!」
「砲撃止めと言ってるだろこのバカ!」
「痛いっ!!」
MSF側より撃たれてくる砲撃に、ゲーガーは急ぎ砲撃中止の命令を下し、それに従わないアーキテクトの脳天に一発げんこつを叩き込んで黙らせる。
砲撃を止めてから間もなくして、MSF側からの砲撃も収まる。
「被害状況を報告せよ」
「はい。MSF側の砲弾はいずれも塹壕前方の空白地帯に着弾、部隊への損害はありません」
「そうか…それで、奴らはどこへ? 廃墟に逃げ込んだのか?」
「はい、その通りであります」
「そうか…下がっていい」
報告を終えた部下を下がらせ、ゲーガーは塹壕からそっと無人地帯を伺う。
不時着したヘリは破壊され、平野には出来立てのクレーターが煙をあげて燻っている…双眼鏡を手に取って廃墟を伺うが、遮蔽物が多く目標を捉えることは出来ない。
そうしていると、げんこつを貰って悶絶していたアーキテクトが目に涙を溜めてゲーガーへ抗議するが、そのすべてを無視する。
「コラー! 無視するな! あたしはあんたの上司なんだぞ、えらいんだぞ!」
「やかましい…おい、MSFは我々に砲撃を仕掛けてきたがどうも私たちと交戦する意思は無いように思える。MSFとあいつらは繋がりがあるのか…どう思う?」
「うーん…MSFの陣地に行って聞いてこようか?」
「お前に聞いたのがそもそもの間違いだったな。奴らは仕留めそこなったが、無人地帯に閉じ込めることには成功した。ここには新兵器のテストに来ただけだったが、思わぬ収穫だ。アーキテクト、お前のおかげで私たちの評価も上がるかもしれないぞ」
「そうなの!? やったー! 適当に目障りなヘリを撃ち落としただけだったけど、いい判断だったんだね!?」
その場でピョンピョン飛んで喜ぶアーキテクトの姿にゲーガーは呆れつつも微笑む。
再度無人地帯へと目を向けたゲーガーは、廃墟とMSF側の様子をじっと観察すると、今後の作戦計画を頭に描いて見せる。
「よし、陣地の拡張は一先ず止めだ。全部隊無人地帯の監視を行え…間もなく夜になる、夜の合間に逃げられないようにサーチライトを用意しろ。アーキテクト、今のが下すべき命令だ」
「え!? あたしが命令していいの!?」
「いいもなにも、一応お前がここのボスだろう」
「やったー! 今日はなんだかゲーガー優しいね! そんじゃあ早速命令を下すよ! 全軍、戦闘態勢を整えて突撃ーッ!」
「人の話を聞いていたのかこのバカがッ!」
「痛いっ!!??」
再びげんこつを叩き込んでアーキテクトを黙らせる。
まったく、代理人は何故こんな奴に指揮権限を譲渡したのかはなはだ謎である…そんな悩みを抱くゲーガーは悶絶するアーキテクトの顔に、下す命令を書き込んだ紙を貼りつけてやる。
すぐにでも指揮権限をふんだくりたいが、そうもいかない…結局、このバカと付き合ってやらなければならないのだ。
ため息を一つこぼし、ゲーガーは廃墟を見据え目を細める。
「今はまだうかつに手を出せないが、それもいつまでも続かん……逃がさないぞ、"AR小隊"め」
第二章ぶり、AR小隊の登場…AR小隊の不時着の理由は、だいたい本編通りです。
ここでMSF、鉄血陣営の今回の場面の認識を捕捉
MSF側⇒まだAR小隊を認知していない、鉄血の味方ではないことは察している、気にはなるが積極的に助けようという気にはならない
鉄血⇒AR小隊を認知、グリフィンとMSFが繋がっているのでは?という疑念を持っている、MSFと真正面からぶつかり合うことは望んでいないので積極的行動には移れない、判断待ち或いは独断で動くか思案中
さあ、役者が出そろいましたね…。
次回、AR小隊視点よりお送りします