METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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因縁の間柄

「それにしても、酷い構図だな…」

 

 無人地帯に残された廃墟の物陰から、M16は自分たちを挟み込むようにして防御陣地を構えている両陣営の様子を伺っていた。本来なら銃のアタッチメントとして取りつけるスコープを取り外し、光の反射を抑えるようにレンズに影を作る。

 M16たちがこの無人地帯に不時着してはや一週間近くが経とうとしている。

 その間、MSF側は探りを入れようとするが目立つ動きはせずに傍観、鉄血陣営は時たまAR小隊をあぶりだそうとするかのように廃墟へ砲弾を撃ちこんでくるのだ。その度にMSF側も警戒していたようだったが、最近では鉄血側の砲撃にも動じず静観を決め込んでいるのだった。

 

 偵察している今、両陣営とも動きはない。

 ただ塹壕から狙撃手が常に目を光らせていることは察している。

 積極的に狙ってこないMSFはともかくとして、鉄血陣営は明確な敵意をもって狙撃と砲撃をしてくるので注意しなければならない。M16がMSF陣営の塹壕を偵察していると、正反対の方角から砲撃音が鳴り響き、次の瞬間には廃墟の家屋に砲弾が命中し瓦礫が四散する。

 砲撃は一発のみ、狙いもあてずっぽうだがだからこそ予測がつかず恐ろしいものだ。

 M16はスコープをしまい、匍匐の体勢でその場を這って移動する。

 

 慎重に物陰を進みつつM16が向かった先は、石造りの倉庫である。

 天井部は砲撃で吹き飛ばされて青空が見えるが、この倉庫には地下の貯蔵庫があり、不意の砲弾から身を守ることが出来る。そのため、ここを見つけたM16によって部隊の隠れ家として使われているのだ。

 地下室への梯子を下り、貯蔵庫の奥へと進む。

 樽が並ぶ倉庫の奥には簡単な造りのベッドが二つと、そこに寝かされている人形が一人、そしてその傍らに膝を抱いて座る黒髪の少女がいた。

 そっと近寄るM16に、その黒髪の少女は気がつき顔をあげた。

 

「M16姉さん、外の様子はどうでしたか…?」

 

「いつも通り、変化はないな。それより二人とも、怪我の具合はどうだ?」

 

「私は平気…SOPⅡは、どう?」

 

「わたしも平気だよ! いまからでも歩ける…って、いたたたた…」

 

「無理はするなSOPⅡ、今はケガの治療を優先するんだ」

 

「うぅ…ごめんねみんな、足をひっぱっちゃって」

 

 ベッドの上で横たわるSOPⅡは申し訳なさそうにしている…彼女の足は包帯で覆われ、血が滲んでいた。

 そんな彼女を労わるようにM16は優しく髪を撫でる…気持ちよさそうに微笑むSOPⅡにつられて微笑むM16、そんな時、M4が小声でM16を呼ぶ。

 名残惜しそうに撫でるのを止めたM16は、M4に誘われて貯蔵庫の物陰へと足を運んだ。

 

「どうしたんだM4こんなところに呼んで?」

 

「SOPⅡには、あの子には聞かせたくなかったから……姉さん、もうすぐ食糧が尽きそうなんです…」

 

 ぽつりとつぶやくようにM4は言う。

 不時着したヘリからは緊急事態であったためにまともに物資は運べず、そのヘリも鉄血の砲撃で木端微塵に吹き飛んでしまった。各人が持っていた少ない食糧と、廃墟で見つけた缶詰などをM4が管理して配っていたのだが、それももうすぐ尽きる。

 造られた存在の戦術人形であるが、生体パーツの維持に食事は不可欠だ。

 人間よりも長く持つとはいえ、生体パーツが必要な栄養素を得られなければ訪れるのは機能不全による緩慢なる死だ。

 うなだれるM4の肩にそっと手を置いてM16は勇気づけようとするが、今この場でかけるべき言葉が浮かんでこない。

 

「お前はよくやっている。そう気負うことは無い…大丈夫だ、私たちならこのピンチも乗り越えられるさ」

 

「ダメ…ダメなんです! 今のままじゃ、それにこんな窮地に陥ったのは私の責任…! リーダーの私がもっとしっかりしないといけないのに……みんなを危険に晒してしまう、AR-15のことも…私がしっかりしていれば…!」

 

「止せM4、自分を責めるんじゃない…あの事は仕方がなかったんだ」

 

 拳を握り固めて叫ぶM4をなんとか落ち着かせるが、この極限の中で彼女のメンタルは脆く壊れてしまいそうであった。リーダーとしての責任感、仲間を守りたいのにそれができていない自分への苛立ち…そして失った仲間のことが彼女のメンタルを苛んでいる。

 些細な事で壊れてしまいそうな、儚い彼女を包み込む様に抱きしめる…M4の震える肩を抱いている中で、M16は今まで黙っていた考えを口にするべきが迷っていた。

 だが、隊の命運と天秤にかけた彼女は意を決してM4に伝えるのだ。

 

「M4、もうここらが潮時なのかもしれない……MSFに、私たちの素性を明かし救援を求めよう…」

 

 M16が口にした言葉に、M4は目を見開き彼女の顔を見上げた。

 

「M4…お前とMSFとの確執は私も知っている。だが、本部と連絡が取れない以上、全員が助かる方法はこれしかない……分かってくれるか?」

 

「だけど……」

 

「MSFとの交渉は私がやる…お前を不利にさせるような約束もしない。だから、私に任せてくれないか?」

 

 その問いかけに、M4は答えずにうつむくのみであった。

 しばらく反応を待っていた末に、M4は何も言わず、小さく首を縦に振るのであった。最後に一度最愛の妹を優しく抱きしめ、M16は早速MSF側との通信連絡を図る。

 MSFが使用している通信回線は不明であったが、I.O.P製戦術人形と同じ規格で使用できる共通の回線を使用した通信だ。MSF側にもI.O.P製戦術人形がいるらしいので、誰かしらは通信に応えてくれるはずだ。

 

 何度かの通信を試みると、M16の目論見通り相手側との通信を接続することに成功する。

 

『はいはーい。こちらM1919、どこの誰かな?』

 

「こちらAR小隊のM16、まずは通信に応えてくれたことに感謝する。君はMSF所属の戦術人形で間違いはないか?」

 

『うん、MSFの人形だけど…ちょっと待って、今AR小隊って言ったの?』

 

「そうだ。私たちは今、あなた方と鉄血との境界に閉じ込められているんだ。我々はあなた方に対する敵意はない、どうか警戒を解除して我々を助けて欲しいんだ」

 

『AR小隊…ちょ、ちょっと待っててね! 私じゃ決められないから、責任者に通信を代わるから! また同じ回線で連絡するから!』

 

 ぶつっと通信が切られ、貯蔵庫に沈黙が訪れる。

 もう後には退くことは出来ない、うなだれるM4を横目に見ながら待つこと数分…M16に通信がかけられる。

 

「こちらM16、MSFか?」

 

『………お前ら、本当にAR小隊か?』

 

「そうだ、私M16とSOPⅡ、そしてM4の三人だ。貴官の名は?」

 

『M4…! そうか……おいお前、この通信をM4にも聞こえるようにしろ』

 

 通信相手の意図を読み切れないM16は困惑していたが、M4に相手方の要求を伝え、言われた通りM4にもこの通信を傍受するよう伝える。

 

「こちらM16、言われた通りにした。M4もこの通信を聞いている…」

 

 相手側からは、応答がない…ただ音に風を切る音や微かな物音が紛れ込んでいるのが聞こえるため、まだ通信が切られていないことは分かる。

 こちら側の出方を伺っているようにも思える様子に、M4はM16の目を見つめた。

 そっと頷いてみせるM16に、M4は意を決する…。

 

 

「こちら…M4、聞こえますか…?」

 

『……あぁ…聞こえてるぜ…忘れもしない、テメェの耳障りな声だ……おい腐れ人形、オレが誰か、分かるか?』

 

「……処刑人…!」

 

『そうだ、忘れたとは言わせねえ…! そうかそうか、無人地帯に閉じ込められてるのはテメェだったか。ハハハハハ、いいざまだなクズ人形が。どうだ、意地汚くドブネズミみたいに這い回ってる気分はよ? お前らみたいなカスどもにはお似合いの状況だな!』

 

 それはM4にとって、忘れもしない相手の声だった。

 鉄血ハイエンドモデル"処刑人"、初めて彼女と対峙した時と二度目に対峙した時のことは今でも鮮明に覚えている…。

 処刑人…エグゼの侮辱に、M4の表情が一変したのに気付いたM16は彼女を下がらせ、通信の主導権を握る。

 

「待て、我々はMSFと争うつもりはないんだ。AR小隊とあなた方との確執は承知しているが、我々は少なくとも敵ではない!」

 

『だが味方でもねえだろ? M16と言ったな、オレはお前の顔も知らないしお前個人への怨みはない…が、お前もAR小隊なら同類だ』

 

「何度も言うが、お互いの確執を知った上で私はあなた方と交渉している。あなたのこちらへの敵意も承知している…その上で、救援を求めたいんだ。それから互いの遺恨を清算する場を設けたいんだ!」

 

『AR-15はどうした? AR小隊には、あいつもいただろう?』

 

 エグゼははなからM16の持ちかける話など興味も無く、ただ報復相手の欠員を気にかける。

 言うべきか迷ったM16だったが、正直に事実を伝えることを決める。

 

「AR-15は……もういない」

 

『…ほう?』

 

「あいつは、先日の作戦で…S08地区の作戦で死んだ…」

 

『そうか……それは何よりだ』

 

 仲間の死を喜ぶようなエグゼの言葉に、M16は一瞬怒りを覚えるがすぐに冷静さを取り戻す。

 今は隊の仲間を守らなければならない以上、苛立つ言葉にも耐えなければならない…唇を噛み締め堪えるがエグゼの嘲笑が通信越しに二人へと届く。

 

『死んだか、そうか死んだか! いいざまだ! アイツにつけられた傷も痛みは今でも思いだせる…その度にオレは憎しみに苛まれてきた! 今日ほどめでたい日はない! ハハハ、いい気分だぜまったく…AR小隊のアバズレだ、死んで当然だぜ!』

 

 それはM16、そしてAR小隊にとって最大の侮蔑であった。

 先ほどよりも大きな怒りを感じるM16は再び冷静さを取り戻そうとした矢先、それまで黙っていたM4が怒りと憎しみを露わにする。

 

「黙れ鉄血のクズめ! 私の仲間を侮辱するな!」

 

『事実を言ったまでだ虫けら以下の腐れ小隊が! いいかM4、お前がオレに与えた痛みをテメエにも味わわせてやる! お前の仲間を一人ずつ嬲り殺してやる! お前はただじゃ殺さねえ、泣いて死を懇願するまで拷問にかけてやる!』

 

「黙れ…黙れ、黙れッ黙れッっ! 私の仲間に指一本触れてみろ! 私はお前を許さない! 絶対に殺してやる!」

 

『フハハハ…! テメェも堕ちるとこまで堕ちたってわけか。上等だ…だが、手は出さないから心配するな。お前はそこの無人地帯に永遠に嵌まってろ! いずれ食糧が尽きて、飢餓に苦しみ緩慢に死んでいくんだ……オレはそれを傍観することにする、酒でものんでリラックスしながらな! お前らの死骸が野犬やカラスに食い荒らされる姿は、最高にオレを楽しませてくれるだろうさ!』

 

「化物め…! お前の思い通りになると思うな、お前は多くの罪を犯した! いつか報いを受けるんだ!」

 

『バカが、オレはとっくの昔に地獄の住人さ。楽園がお望みなら今すぐにでもぶち殺してやる、AR-15と同じあの世に送り届けてやるさ! いいか覚えとけ、お前らが無人地帯の川を渡河して一歩でもこっちに足を踏み入れてみろ…無数の砲撃で死体も残らねえほどに吹き飛ばしてやる! あばよ腐れ人形ども、せいぜい長く苦しみ抜きな!』

 

 嘲り笑う声が響くと同時に、通信が遮断された。

 今まで見たこともない妹の怒りの姿に、自分が覚えた怒りはすっかり萎えてしまったM16。

 

「処刑人…! 鉄血のクズ…!」

 

 いまだ怒りが晴れないM4は力任せに付近の樽を殴りつける。

 殴りつけた樽からは赤い液体が割れ目から零れ落ち、殴って出来た傷から出た血と混じる。

 

 

「姉さん…私は、あんな奴に助けられたくない…! 私の仲間を殺した鉄血の同類に助けられたくなんかない!」

 

「M4…」

 

「それに、MSFもだ…! あいつらのまやかしの理想も大嫌いだ! あいつらは犯罪者やテロリストにさえも力を貸す…! あいつらは戦争の犬だ…戦争そのものだ! お金さえ渡されれば、あいつらは鉄血とだって手を組むだろうさ! 私は奴らとは違う、一度たりとも戦いを楽しんだり戦場に生を見出したことなんてない! 私は…奴らとは違う、あんな奴らに助けられたくなんかない…!」

 

「もういい、十分だ…M4。お前まで憎しみに囚われる必要はない…」

 

 荒むM4の身体を抱き寄せると、彼女は肩を震わせ、声を押し殺すように泣いた…。

 妹があそこまで感情を露わにして激怒したのを、M16は初めて目にした…今にも壊れてしまいそうなM4を支えなければならない、そしてそれは姉である自分の役目…そうM16は思うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――っはぁ、退屈すぎるっぴ」

 

「うるさいぞ。文句を言ってる暇があるなら、ジュピターのメンテナンスでもしてこい」

 

「この間もやったばかりだっぴ。まだ当分はやなくていいよね…っぴ」

 

「その話し方止めろ、癪に障る」

 

「え~可愛いと思うっぴよ?」

 

「何が可愛いんだアホ、耳障りなだけだ黙れ」

 

「もう、ゲーガーちゃん堅過ぎるっぴ。もっとリラックスぅ!」

 

「黙れと言っているだろうがバカ!」

 

「痛いッッ!!?? うえ~ん! ゲーガーが苛めるッ!」

 

 鉄血側の塹壕で繰り広げられる珍騒動。

 今日も退屈しのぎにアーキテクトがちょっかいをかけて、ゲーガーに叱られるというほのぼのとした空気が繰り広げられている。

 場を和ませようとしたアーキテクトも悪気があるわけではないのだが、進展のない状況にイライラしていたゲーガーに見事叱られる。

 

「えーん!痛いよ、痛いよー!!」

 

「やかましいいい大人が泣きわめくなバカ」

 

 まともに相手をするのも疲れるだけなので、ゲーガーは無視して塹壕から無人地帯を偵察するのだった。

 

 

 

「おいおい、仲間は大切にするもんだぞゲーガー? 失ってからその大切さに気付くべきじゃないと思うがな」

 

 

 

 その声に振り返ったゲーガーは、硬直する。

 そこにいたのはアルケミスト…いるはずのない存在に思考が停止し、ただ目を見開く。

 

「ほら泣くんじゃないよアーキテクト、痛いの痛いの飛んでけ~…ってな。まだ痛いなら、他の痛みで紛らわすしかないけど?」

 

「うぇ!? 痛くない、痛くないですよ!? というかアルケミスト、どうしてここに!?」

 

「アルケミストだけじゃないのよ? 久しぶりね二人とも…」

 

「ドリーマー…! 何故だ、何故お前らがここに!?」

 

「ふん、頭の足りないお前らじゃ手に負えないと思ってね。手を貸してやるよ、ゲーガー?」

 

 アルケミストは正座するアーキテクトの頭を撫でつつにこりと微笑んで見せるが、撫でられているアーキテクトは震えっぱなしでゲーガーは眉間にしわを寄せて二人を射抜くように見据えている。

 

「さーて、処刑人のアホの様子は? ま、予想通り動いてないと思うけどな…状況はどうだゲーガー?」

 

「AR小隊は未だ廃墟に潜伏…奴らをそこにとどめている」

 

「上出来だな、いい時間稼ぎが出来たじゃないか。ほら、お前もこっちに来なよ、頭撫でてやる」

 

「余計なお世話だ…」

 

「つれないね…まあいいさ。お前らは普段通り指揮してるといい、あたしとドリーマーは独自に動く」

 

「了解した…」

 

「結構……さて、ようやく見つけたぞAR小隊。残らず全員、あの世でAR-15と再会させてやるからな?」

 

 にこりと笑う表情とは対照的に、アルケミストの瞳はまるで猛禽類のように無人地帯の廃墟を見据えていた…。




憎悪が連鎖していったところで、今作最大級の憎悪を抱えているアルケミスト参戦、ドリーマーも付いてきて難易度跳ね上がり。
実際のゲームだったらゲーガー、アーキテクト、アルケミスト、ドリーマーが同ステージにいるクソゲー状態(白目)
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