METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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慟哭

 スモークグレネードで目標を見失ったサヘラントロプスであるが、相変わらずその戦闘能力は鉄血にとって脅威であり続け、煙幕が途切れないよう何度も発煙弾が撃ち込まれる。

 見える範囲の敵を片っ端から薙ぎ倒していたサヘラントロプスであるが、突如として動きが鈍くなり、パワーダウンを起こす。

 

「どうしたんだよサヘラントロプス!?」

 

 先ほどまでの滑らかな動きはなくなり、踏み出す足もぎこちない。

 サヘラントロプスの存在が鉄血の侵攻を送らせている今、そのサヘラントロプスが行動不能になってしまえば苦しい戦いになるだろう。

 期待の兵器とはいえ、まだ未完成の兵器…色々と問題があるのだろう。

 パワーダウンを起こしたサヘラントロプスはゆっくりとした動作で後退していくと、建物の影にしゃがみ込む様な態勢を取るとついに動かなくなってしまった…。

 そこへ、鉄血の部隊が群がってくるのをみたスコーピオンは駆け出し、サヘラントロプスに取りつこうとする鉄血兵に跳びかかる。

 

「この、うちの新兵器に触るなーッ!」

 

 接近して爆薬を仕掛けようとする鉄血兵に跳び蹴りを浴びせ、倒れたところにすかさず銃弾を撃ちこみ仕留める。

 鉄血の兵士たちは煙幕の向こうから次々に姿を現す。

 その中にはMSFとグリフィンの人形たちを悩ませる装甲人形も混じっており、その装甲を貫く装備を持たないスコーピオンには相性の悪い相手であったが…この程度の障害で弱音を吐くほど、MSFのスコーピオンは諦めやすい人形などではない。

 

「何が装甲だ! これでも喰らえ!」

 

 肩に担いだのは対戦車擲弾発射器RPG-7。

 安価で大量に生産できるとして、時代が進んだ今もMSFで愛用されている対戦車用兵器…それを至近距離から容赦なくぶち込み、直撃を受けた装甲人形は付近の兵士を巻き込んで吹き飛ばされた。

 慣れた手つきで弾頭を装填、その間接近してきた敵は愛用のスコップで殴り倒す。

 自分の銃を使うのも忘れて、RPG-7とスコップを手に戦うスコーピオンの元へ、WA2000が駆けつけた。

 

「あんた自分の銃はどうしたのよ?」

 

「こっちの方が使いやすいんだよ!」

 

「呆れた…ま、弾はいくらでもあるからばんばん撃ちなさい。どっかの先読みのいいおバカさんに感謝ね!」

 

 陣地構成時、呆れるほど多く寄越された弾薬類がこの時役に立つとは誰が思っただろうか?

 とにかく、豊富な弾薬のおかげで補給切れに陥ることはなく、何人かの戦術人形はスコーピオンを真似てRPG-7に手を出し始める…だがそこは相手もすぐに対応し、圧倒的物量による戦法から狙撃兵や擲弾兵を多用し、強点を避けて浸透する戦術をとり始めた。

 

「あいつら、戦術の切り替えが早過ぎない!?」

 

「あんたもそう思う? これは、生きて帰ったら色々調査しないとね」

 

「わーちゃん、あんまりそう言う発言してると死んじゃうよ?」

 

「ふん、わたしはまだまだ死ぬつもりはないわよ…待ってスコーピオン、何か来るわ!」

 

 煙幕の向こうから襲撃の気配を感じたWA2000…次の瞬間、赤いレーザーブレードが煙幕の向こうから凄まじい速さで突き抜けてきた。

 咄嗟に上体を逸らしたWA2000、赤い光刃を避けた彼女は即座に体勢を整えると、ボウガンを持った敵へ向けて回し蹴りを放つ。

 

「くっ…!」

 

「奇襲を仕掛けるのに、殺意が強すぎるのよあんた」

 

「ゲーガー、ちょっとそこ退いてー!」

 

 そこへさらに現われたのは、黒髪をサイドテールに結った鉄血のハイエンドモデル。

 仲間への警告もそこそこに、ロケットランチャーを容赦なく撃ちこんできたのにはWA2000とスコーピオンも度肝を抜かれ、咄嗟にその場に伏せる。

 飛んでいったロケット弾は背後で大爆発を起こし、瓦礫の欠片などが降り注ぐ。

 

「アーキテクト、このバカ! 危うく死ぬところだったぞ!」

 

「えー? あたしらダミーだからへーきへーき!」

 

「このバカ!アホ!マヌケ! 聞かれていもいないのにネタ晴らしする奴がいるか! 戦ってるふりして戦線離脱しているのがドリーマーにばれたらどうするつもりだ!?」

 

「ゲーガーも肝心なこと口走ってるじゃん」

 

「チッ、バカがうつったか…」

 

 スコーピオンとWA2000をそっちのけで騒ぎ立てるハイエンドモデル二人。

 まるで昔の二人そっくりなやり取りに思うことがあるのか、スコーピオンはニヤリと笑い、WA2000は不愉快そうに眉をひそめるのだった。

 

「まあまあ落ち着いてゲーガー……さてとMSFの人形くん、このあたしこそが鉄血最強の戦術人形アーキテクトちゃんだよ! んでこっちがあたしのワトソン君なのだ!」

 

「誰がワトソンだ。ゲーガーだ…MSF、まずはお前たちの戦いぶりに敬意を示したい。今はもう部隊を指揮できる権限はないが、一人の武人としてあなた方を尊敬するよ」

 

「へぇ、鉄血に残ってるハイエンドモデルなんてみんな冷酷マシーンだと思ってたけど、アンタらみたいなのもいるんだね」

 

「そういうの、嫌いじゃないわ。だけどおしゃべりに来たわけじゃないでしょう、アンタらがダミーならとっとと始末するだけよ」

 

「ふっふっふ、ダミーといえどこのあたしは…って、わわ!?」

 

 悠長な態度でいるうちに、スコーピオンが駆け出す。

 予想外のスコーピオンの速さにアーキテクトはあからさまに動揺していたが、すぐに迎撃の構えをとると、突っ込んできたスコーピオンの攻撃を防ぐ。

 

「自称鉄血最強の名は伊達じゃないってことだね…」

 

「自称ってなにさ自称って!?」

 

「あたしもね、自称MSF最強の戦術人形スコーピオンさまだよッ!」

 

 組みあった体勢で、スコーピオンは得意の頭突きをアーキテクトの顔面に叩き込む。

 鼻のあたりを抑えて悶絶するアーキテクトを蹴り離すと、背中に背負っていたRPG-7を担ぐ。

 

「あ、やば」

 

 それがアーキテクトのダミーが放った最後の言葉だった。

 至近距離からRPG-7の直撃をくらったアーキテクトは爆風に吹き飛ばされ、その残骸は煙幕の向こうへと消えていった。

 

「ちっ、あのバカ…!」

 

「わたしを前にして、よそ見なんてずいぶん余裕じゃない」

 

 その言葉に咄嗟に振り返ったゲーガーであったが、すぐ目の前まで接近していたWA2000に焦るあまり、咄嗟にボウガンを振りかぶる。

 振られたゲーガーのボウガンを躱したWA2000、武器を捨てて殴りかかってきたゲーガーのみぞおちに肘鉄を叩き込み、怯むゲーガーの腕を掴み投げ飛ばす。

 

「くっ、強い…!」

 

「ダミー使って粋がってんじゃないわよ」

 

「おかしなことを言うな、お前も戦術人形だろう。MSFはダミーリンクもまともに扱えないようだな!」

 

 素早く起き上がったゲーガーは武器のボウガンを拾い、先ほどと同じようにレーザーブレードを展開させると、勢いよく地面を蹴りWA2000に襲い掛かる。

 奇襲でかけた時よりも素早い一撃…だが寸前まで動きを見極めていたWA2000は、その突進を容易く躱すと、すり抜けざまにゲーガーの後頭部に蹴りを叩き込んだ。

 前のめりに転がりこんだゲーガーは急いで起き上がるが、目の前にはWA2000の銃口がつきつけられていた…。

 

 

「わたしたちはダミーもバックアップもなく戦い続けてるのよ。一度死んだらそこで終わり…何度でもデータから復活するあんたらと違って、命の重みが違うのよ」

 

「フッ……イラつく奴だなお前は、だが完敗だ……またどこかで会おう、その時は私がお前を殺してみせる」

 

「ハンティングはFOXHOUNDの十八番よ、逆に狩られないよう気を付けることね」

 

 引き金を引き、ゲーガーのダミーを破壊する。

 力尽きたダミーはその場に倒れて動かなくなるが、本体とほぼ同じ性能のダミーが何体もやって来たらさすがにやられてしまう。

 

「二人とも無事か?」

 

「エイハヴ、サヘラントロプスはどうしたんさ!?」

 

「エネルギー切れだ、電磁装甲とレールガンの使用に、あれだけの巨体を動かすんだ。まだろくに動かせる状態じゃなかったようだ……それより住民の避難はほとんど完了した、これで心置きなく戦えるだろう」

 

「分かった、エグゼのことを捜しに行かないとね!」

 

「前線で敵を足止めしていた部隊の救援にもいかなきゃならないわ!」

 

「ああ分かってる。ユーゴ空軍が敵無人機を引きつけている間に、前線に救援のためのヘリを飛ばす。オレとワルサーでそっちに向かう、スコーピオンお前はここの部隊を指揮しつつエグゼを捜しだすんだ!」

 

「オッケー任せてよ! わーちゃん、MG5たちをよろしくね!」

 

「ええ、あんたも気を付けなさい!」

 

 スコーピオンは二人に手を振ると、さっさと煙幕の中に消えていってしまった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……ちくしょうが…!」

 

 煙幕の中で、エグゼは苦しそうな表情で息を乱していた。

 対して、エグゼと相対するアルケミストは涼し気な表情で腕を組みたたずんでいる…汗と泥まみれのエグゼとは大違いだ。

 ブレードを肩に担ぎ、地面を強烈に踏み込む得意の一撃は、アルケミストに難なく躱される……地面を蹴りつけてさらに連撃を仕掛けるが、そのすべてをいなし、大振りの一撃を叩き込もうとした瞬間、アルケミストの姿が忽然と目の前から消える。

 同時に大振りに振ったブレードが虚しく空を切り、今度は背後に出現したアルケミストの上段蹴りを後頭部にもらい前のめりに転倒した。

 

「どうした処刑人、そんなんじゃあたしは殺せないぞ?」

 

 アルケミストは武器をしまい、素手で戦っている。

 今の彼女は殺意もなく、エグゼに対し追い打ちやだまし討ちなどの手法すらも用いない…誰がどう見ても正々堂々と戦っている。

 対してエグゼはブレードも拳銃も持っているというのに、銃弾は当たらず斬撃も容易く避けられてしまう。

 

「頑張れよ処刑人、こんなんじゃ卒業試験は合格できないぞ? あたし一人殺せないで、この先どうやって生きていけるんだ?」

 

 飄々としているが、これが本来のアルケミストの強さだということをエグゼは知っていた。

 鉄血にいた頃、憧れの存在としていつもその背を追いかけていた…その強さも、人格も、何もかもを尊敬していた。

 だからこそなのか、彼女が自分に殺されることを望んでいるのを知ってから、エグゼはアルケミストに本気でぶつかることが出来ない。

 それは、アルケミストもうすうす感付いているようだ…。

 

「本気にならないとあたしは殺せない。お前は優しい子だからね、あたしを殺すのも難しいか……でもな処刑人、ここであたしを殺さなければお前はこの先後悔するよ」

 

「何言ってんだテメェ、オレが一体、何を後悔するってんだよ…!」

 

「あたしをこの場で殺せないなら、明日からもあたしは憎しみの下に破壊を続けるさ……手始めにやっぱりお前の今のお仲間を嬲り殺してやろうか? 97式はまだ元気か? あたしがあいつの姉にしたように、凄惨な拷問をかけた末に殺してやるよ…あのムカつくUMP45もだ、あの余裕ぶった顔が恐怖に歪むところを見て見たい」

 

「やめろ…それ以上言うんじゃねえ…!」

 

「それからスコーピオンだったか? お前のお友達の…あいつは元気な印象だな、そうだ両手足を斬り落として虫共の餌にしてやろう、全身を喰いちぎられてくさまは壮観だろうなぁ……親友のハンターも同罪だ、あたしらを裏切ったのはあいつも同じ…地獄の責め苦で苦しませてやる」

 

「黙れ黙れ黙れッ! それ以上言ったら、姉貴…あんたでも絶対に許さねえ!」

 

「お前から怒りを感じるぞ、いい傾向だ……何よりもあたしが許せないのは、お前をあたしから奪った男…スネークだ。奴は必ず殺してやる…奴が死ぬのをお前に見せつけてやる……そうなっても後悔しないか? あたしが憎くないか!? お前が今日あたしをここで殺さなければ、お前が大切にしている全てを抹殺してやる! それがいやならここであたしを殺していけッ!!」

 

 アルケミストの言葉はエグゼの怒りを呼び起こす。

 その目に怒りを宿したエグゼは、唸り声をあげるとともに、ブレードを手に走りだす。

 まるでスネークと出会った頃を彷彿とさせるような、闘争心を剥き出しにした姿だ…日々の鍛錬に裏付けられた身体能力も合わさり、その当時とは比べ物にならない動きだ。

 

「アルケミスト、お前はどこまで…!」

 

「怒れよ処刑人、もっと怒れ! それこそが強さの源だ! 人を強くさせるのは慈悲や博愛などではない、相手を徹底的に破壊するという原始の本能だ!」

 

「黙りやがれッッ!!」

 

 鋭い斬撃を避けるのも難しくなりつつあるアルケミストは、先ほどと同じように姿を忽然と消した。

 だがエグゼは、まるで次にアルケミストがどこに現われるのか察しているかのように振り返ると、ブレードの刃をつきたてる。

 ブレードの鋭い切っ先は、出現したアルケミストの胴体を深々と突き刺す……。

 

 

 

「フフ……やればできるじゃないか、処刑人…」

 

「うっ……く、くそが……なんでだよ……なんで…」

 

 ブレードを握るエグゼの手は震えていた。

 アルケミストの胴体を貫き、流れる血が刃を伝いエグゼの手を濡らす。

 嗚咽を漏らすエグゼの前で哀しげに笑ったアルケミストはそっと、エグゼの身体を抱きしめる…。

 

「恐怖は怒りに、怒りは憎しみに変わる……だけどな処刑人、愛があるからこその憎しみなんだよ…。愛なくして、憎しみは生まれない……あの時マスターが残してくれたもの、それは確かに愛だった。あたしはそれがなんなのか分からなくて、バカみたいに人を恨んで憎んで逃げ出して、いつの間にか大切な物を失くしていた……今日やっと、取り戻せた気がするんだ」

 

「もう終わりみたいなこと言ってんじゃねえよ……人のこと散々煽っといて、自分の望みが叶えばそれでおさらばかよ…!」

 

「ずっと、こんな結末をどこかで望んでいたんだ。生きることに疲れて、明日に希望を見出せなくなったあたしは…いつからか人の笑顔を見るのが嫌になっていた、あたしがこんなに苦しんでる中で幸せそうに笑う人たちが許せなかった……笑顔を見るたびに、あたしが失ったものを思いだす……処刑人、あたしはもう疲れたんだよ…」

 

「無責任なこと言ってんなよ…! あんたはそれで良くても、オレは、オレたちは……! それに、お前の帰りを待ってる奴だっているんだろ!?」

 

「……あぁ、そうだな……デストロイヤー、待っているのはあの子だけだがな…」

 

「姉貴……アンタは、あいつに同じ想いをさせるつもりなのか? サクヤさんを失ったのと同じ苦しみを、あいつに残してくつもりなのか!? あいつに同じ道を歩ませるつもりかよ…!」

 

「……それは……そんな風に考えたことは無かった……」

 

「あんたはまだ全部失っちゃいないだろ! 確かにサクヤさんはもういない…だけど、あの人はデストロイヤーをあんたに託したんじゃないのか!? 面倒を見てくれって、あの人はそういう人だ…自分の幸せよりも姉貴やデストロイヤーの幸せを願う人だったはずだぞ! あんたが一番、それを知ってるはずだろ! 一番近くでそれをみていたあんたが、どうして同じことができないんだよ!」

 

「……そうだな、その通りだ……お前が正しい、あたしが間違っていたようだ…」

 

 エグゼから離れたアルケミストはそのまま数歩後退し、胴体を貫くブレードに手をかけると、ゆっくりと引き抜いていく。

 おびただしい血が地面に流れていく…尋常ではない量の血だ。

 駆け寄ろうとするエグゼを、アルケミストは制する。

 その顔に笑みを浮かべ、傷口を抑えるがあまり効果は無いように見える…。

 

「ずっと死ぬことを望んでいたこのあたしが…今になって、死ぬのが怖くなってきたぞ……どうしてくれるんだ処刑人?」

 

「姉貴…! バカ野郎が、やせ我慢してんじゃねえ…今更かっこつけたって、最高にださいんだよバカ…」

 

「バカがうつったようだよ……悪い処刑人、ちょっと医者を呼んできてくれないか…?」

 

「ああ、そこまで担いでいってやるよ」

 

 エグゼは涙でくしゃくしゃになった顔に笑顔を浮かべ、正気を取り戻したアルケミストに手をさし伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声が鳴る。

 絶えず砲声や轟音が鳴り響く最中に、その銃声がいやにはっきりと聞こえた。

 

 アルケミストに歩み寄ろうとしたエグゼは、胴体を襲った衝撃と焼け付く様な熱さに、自分が狙撃されたことを悟る。

 揺れる視界の端にアルケミストの悲痛な表情を見たエグゼは、力なくその場に崩れ落ちる。

 

 

 

「フフフ、最高のタイミングね……ありがとうアルケミスト、おかげで裏切り者の処刑人をついに仕留められたわ」

 

「ドリーマー、お前…なんてことを…!」

 

「あら? 処刑人を殺すって言ったのはあなたでしょう? あなたのお望みどおり、しっかりと始末してあげたわ」

 

「ふざけるな、お前…よくも…!」

 

「勘違いしちゃダメよアルケミスト。私はここに来る前に言ったわよね? 今作戦はあなたが主導し、私は部下の立場に甘んじるって。その上であなたのあんな発言だもの…これは部下として期待に応えてあげないといけないわよね。つまり分かるでしょう、処刑人を直接撃ったのは私だけど……処刑人を殺す意思を決めたのは、あなたなのよ? 違う?」

 

「あ…あたしが、処刑人を……?」

 

 

「姉貴…そいつの、話を聞くんじゃねぇ…!」

 

 

 よろよろと立ち上がってみせたエグゼは、撃たれた胸部から血を流し、苦悶に満ちた顔でドリーマーを睨みつける。

 

 

「しぶといわね。じゃあ、もっと威力のあるやつで確実に殺した方がいいわね…ジュピター、照準合わせて」

 

「おい、やめろドリーマー…! やめろッ!」

 

 

 アルケミストの叫びもむなしく、無情にも振り下ろされるドリーマーの手。

 次の瞬間、二人の目の前にジュピターの強力な砲撃が命中し、爆風が周囲にあったものをことごとく吹き飛ばした。

 

 

「処刑人……? 処刑人、お前……あ、あぁ…!」

 

「あははははは! 念願かなったわねアルケミスト、裏切り者がくたばったわ…おめでとうアルケミスト、これであなたも戻れない道を歩けるわね…」

 

「違う、あたしは…やってない…あたしは…! マスター…! あたしは、みんなを守るって……約束したはずなのに、それすらも破って……!」

 

「あらら…メンタルモデルが完全に壊れちゃったねこれ…。フフ、でも心配しないで…ちゃんと私が後の面倒をみてあげるから、ね?」

 

 茫然自失となり、うわごとのように何かを呟き続けるアルケミストをドリーマーは微笑みながら見つめていた。

 

「あなたにも黙ってた事だけど、この戦場にいるハイエンドモデルは私を含めて4人じゃないのよね。今回の戦いはあなたがせっせと考えてくれた縦深戦術のデモンストレーションの意味もあるけど、本当の目的はね……ハイエンドモデル"シーカー(探究者)"のデータ収集が目的だったの。おかげでいいデータが取れたわ……さてシーカー(探究者)、聞こえてるでしょう? もう戦略目標は達成したわ。面倒な奴らは放っておいて、エリアの占領を進めましょう――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エグゼ? エグゼー! どこにいるんだメスゴリラー!」

 

 煙幕に包まれる戦場をあてもなく捜し回っているのはハンターである。

 急に退いていった鉄血の軍勢に不穏な気配を感じつつ、部下と共にエグゼを捜す。

 言うと怒るセリフをわざと言ってみるが、反応はない…。

 

「どこに行ったんだあのバカ? 連隊長の癖に連隊とはぐれるって、何を考えているんだか…」

 

 ため息をこぼしながら歩きまわっていると、煙幕が徐々に晴れていく。

 鉄血の部隊が撤退していったことにより、新たな煙幕がはられなくなったからだ。

 そんな時、ハンターは地面が黒く焼け焦げていることに気付く……ジュピターの強力な砲撃を受けた後特有のものだが、そんなものはこの戦場のあちこちにある。

 だが嫌な予感を感じたハンターはその周囲を重点的に捜し回ると、遠くに横たわる人影を発見しすぐさま駆け寄る。

 

「エグゼ! ここにいた…の…か……!」

 

 そばに駆け寄ったハンターは、見つけた親友の姿に絶句する。

 

「エグゼ…? お、おい……エグゼ…?」

 

 目を覆いたくなるような状態に、ハンターはそれが本当に親友の身体なのかと疑った。

 だが、その焼け焦げて、骨格が剥き出しになっている腕に握られているブレードは確かに親友のものであった…。

 

「そんな…嘘だ……嘘だッ!」

 

「ハンター! どうしたの!?」

 

 そこへ、後から駆けつけてきたスコーピオンも加わるが、横たわるエグゼの姿を見ると小さな悲鳴をあげた。

 親友の変わり果てた姿にどうしていいか分からず憔悴する二人であったが、エグゼの腕が微かに動いたのを見る。

 

「エグゼ…! エグゼは、まだ死んでない……! ヘリを、ヘリを呼ぶんだ…早く!」

 

「早くしろ!それからエイハヴとスプリングフィールドを呼んできて! エグゼ、エグゼ…!? あたしの声が聞こえるか!? エグゼーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 







次回  5章終結……

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