METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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忌まわしい記憶

 豪雨によりぬかるむ地面を数人の人影が走りぬけていく。

 雨水によって土砂が流され、くるぶしの高さまで流れをつくる泥水は夜間ということもあり非情に走りにくいがそこを走る彼女たちは何の支障もなく、一度も躓いたり足をとられることなく走りぬけていく。

 カルテルのボスであるアンヘル・ガルシアの死体を担ぐ役目はPKPが担当し、時折隣を並走するグローザが代わろうかと提案するが、PKPは無言で首を横に振る。

 ぬかるむ傾斜を協力して乗り越え、部隊の合流地点にまで到達する…先行していたカラビーナがそこで待ち構え、傾斜を上がってくる仲間たちの手を取り引き上げていく。

 

 WA2000、9A91、グローザ、PKP、ヴィーフリ…それぞれが合流地点に到達するタイミングはバラバラだが、みな順調に合流を果たしていく。

 後は79式が来るのを待つだけだ。

 だがどれだけ待っても79式は姿を現さない……時間が経つにつれ彼女たちは不安を募らせ、周知させていた時刻より20分が経過した辺りで全員が何かしらトラブルに見舞われたのではと確信する。

 

「カラビーナ、あなた高台から村を見ていたわね? 79式の離脱は見えたの?」

 

「いいえ、マイスター。見ていませんわ」

 

「そう……他のみんなは撤退中に79式を見なかった?」

 

「見ていないわ。ヴィーフリ、あなたが最後でしょう…見なかったの?」

 

「79式どころかみんな見てなかったわ。各自で合流地点を目指したでしょう?」

 

 79式の姿は誰も見ていないということになる。

 道に迷ったことも疑われるがカルテルと遭遇し戦闘になったという線もあり得るのだ。

 WA2000は通信で79式に連絡を取ろうとするが、無線は繋がらなかった。

 グローザらがあれこれ憶測を言いあう中、WA2000は無言でライフルを手に取ると踵を返し来た道を戻ろうとした。

 

「この広大な森を捜し回るの? カルテルの大部隊が接近している、万が一79式が奴らに捕まっていたら助けられる確率は限りなく低い」

 

 グローザの非情とも言える言葉にWA2000は足を止める。

 彼女は一度曇天の空を見上げると、静かに呟いた…。

 

「グローザ、私がなんのために生まれてきたか…あなたは知っている?」

 

「意味が分からないわね、私たちは戦術人形よ…戦いのために生まれたに決まってるじゃない」

 

「違うわ、"私という銃が生まれた"その意味よ」

 

 ASST、自律人形と銃をリンクさせるためのシステム…I.O.Pが開発したこの技術によりその銃の特色にあった人形の素体が選ばれる。

 銃と人形は特別な繋がりを持ち、銃の記憶や感情を反映させる。

 

 それは世界が東西二つの陣営に分かれていた冷戦時代の西ドイツ、オリンピックに沸くミュンヘンでの出来事だ。

 当時イスラエルと対立していたパレスチナの過激派テロリストがイスラエル代表選手たちを人質とする事件が起こった。

 人質救出作戦のために編成された警官隊が当時使用したのは警察向けのアサルトライフル…狙撃用のライフルを持ち合わせていなかった警察はそれを使用したことが、悲劇の一因であったとも言われている。

 その事件の影響を受けて当局は高性能なオートマチック狙撃銃を銃器メーカーに要求し、そして生まれたのがWA2000……当局に採用されたのはまた別な狙撃銃だが、それはまた別な話だ。

 彼女が言いたいのは、自分という銃が生まれたその理由だ。

 

「私もね、最初はあなたと同じでただ殺しのためだけに生まれてきたと思っていたわ。あなたにとって殺しのためは結論かもしれないわね……だけど私はそうじゃないって気がついたの、MSFに身を置くことでね」

 

 彼女は一度グローザから視線を逸らし、9A91を見つめた。

 WA2000を真っ直ぐに見つめ返す彼女は、WA2000がこれから言おうとしていることを既に理解しているようであった。

 

「私が生まれた理由はMSFで見つけたわ。私が殺しを行うのは仲間の命を守るため、大切な家族を守るためよ。79式とはまだ知り合って間もないけれど、一緒に過ごした時間の長さなんて関係ない…あの子は私の期待の教え子であり、愛すべき妹のような存在なの。だからあの子が助けを求めているのなら、例え密林の奥深くだろうが、地獄の底だろうが私は助けに行く! 見込みとか確立とか、そんなもので私の信念は揺らがない、それがMSFから私が受け継いだものなのよ」

 

 WA2000の強い口調と想いに、グローザだけでなくスペツナズの他の二人も圧倒されていた。

 すぐそばにいたカラビーナは改めて彼女に敬服する…にこやかに微笑む彼女は彼女の側へまわり、79式の救助に向かう意思を示すのであった。

 

「オセロットさんはとても優秀な教え子に恵まれたみたいですね。あの人があなたを本気で鍛えていた理由、今なら分かります」

 

「これとオセロットは関係ないわ、私がこうしたいからそうしているだけ」

 

 9A91もまたこの救出作戦に乗り気…というより最初から行く気満々であったようで、どうやらWA2000の意思を仲間たちに見せつける意味合いもあって沈黙していたらしい。

 救助に異を唱えたグローザはさぞ居心地の悪そうにしているかと思いきや、なんと彼女は不敵に笑って見せるではないか。

 

「ハハハハハ! 感服したわワルサーさん、どうやらあなたの噂は本当だったようね……さすがは"伝説の狙撃手"ね」

 

「伝説の狙撃手…?」

 

「あら、知らない? あなた戦場に身を置く者たちからはそう呼ばれてるのよ?」

 

「伝説に興味なんてないわ、あるのは現実だけよ」

 

 謙遜などではなく、本当に興味がなさそうに彼女は言う。

 今最も重要なのは大切な後輩を救うことなのだ。

 

「隊長さん、私もこの救出任務に混ぜてもらえないかしら? 成り行きで入ってみたMSFだけれど、もっと傍で見て見たくなったわ」

 

「ええ、勿論ですよ。ですがガルシアの遺体をそのままにもできません、PKPとヴィーフリは遺体を回収地点に運びそのまま離脱してください」

 

「待ってくれ隊長、私の力はいらないのか?」

 

「必要ですが、遺体を運ぶことも重要な任務です。期待してますよ、PKP」

 

「そ、そうか…なら仕方がないな」

 

 ヴィーフリとPKPには生憎だがガルシアの遺体を運んでもらう、これを達成できなければ任務が完了したとは言えないのだ…彼女なりに9A91に心酔するPKPは残念そうにしながらも、彼女の期待に応えるべくこの任務をヴィーフリと共に引き受けるのであった。

 各自の役割も決まったことでいざ救出に向かおうとする際に、WA2000は鋭い目で暗い森の奥を睨みつける。

 

「いつまでそこに隠れてるつもり? 出てきなさい」

 

 暗闇が広がる森の奥へ呼びかける…そこからゆっくりと姿を現したのは市街地で散々追いかけてきたリベルタドールであった。

 損傷したボディーを修復しているが体表の生体パーツまでは手を付けず、代わりに黒地の擦り切れた布で銀色の骨格を覆っている。

 

「しぶとい奴ね…だけど今はあんたに構ってる場合じゃないわ。やるって言うなら、速攻でアンタを破壊する」

 

 強がりなどではなく、確実に殺す…ゾッとするような冷たい言葉を吐き捨てたWA2000をリベルタドールは何も言わず、ただじっと見つめている。

 ふと、リベルタドールは視線を外すと、PKPの足元で横たわるアンヘル・ガルシアの遺体を見つめた。

 血の気が失せて青ざめた彼の遺体にゆっくりと近付き、リベルタドールはそのそばにしゃがみ込むと指を首に押しあてる……生死を確認したリベルタドールは立ち上がると、何も言わずにその場を立ち去っていく。

 が、彼女は一旦立ち止まると振り返り、WA2000らを誘うように手招きする。

 リベルタドールの真意が分からず立ち尽くす一向に、カラビーナは彼女の意思を代弁するのであった…。

 

「ガルシアが死んだことで、彼女とカルテルの主従関係が解かれたようですわね。マイスター、あのハイエンドモデルはもう敵ではありませんよ」

 

「それでも味方ではないわ。少しでも怪しい動きをするなら、撃つだけよ。それにしてもあなたずいぶんあいつの肩を持つじゃない」

 

「フフ、だってあの人形は私と似てますもの。あの人形もまた、伝説の狙撃手さんに惚れてしまいましたのよ?」

 

「また面倒な輩が増えそう……って、こうしてる場合じゃないわ、早く79式を助けに行かないと!」

 

 79式を助けるために、一行はすぐさま来た道を引き返す。

 斜面を汚れるのもいとわず滑り降りた彼女たちは、暗く豪雨が降り注ぐ森の中を走りぬけていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 森の中にひっそりとたたずむ山小屋の中に逃げ込んだ79式。

 雨に濡れることで赤ん坊の体温が下がることを危惧したため、逃走の最中に見かけたこの山小屋へ入り込んだのだ。

 

「あなたは強い子、大丈夫だからね…?」

 

 腕の中で抱きしめられる赤ん坊は笑顔を浮かべながらはしゃいでいる。

 小さな手を伸ばし79式の頬を触れる…小さな命のぬくもりを肌で感じる79式もまた、一切の邪念を忘れ目の前の尊い命に心の安らぎを感じていた。

 だがそんな一時も長くは続かない…。

 雨の音に混じって、男たちの怒鳴り声が小屋の外から聞こえてきた。

 赤ん坊をしっかりと抱きしめながらそっと窓の外を伺うと、見える範囲で8人のカルテルの戦闘員を目にすることが出来た。

 彼らは真っ直ぐにこの山小屋へと近付いてきている。

 

「大丈夫、大丈夫だからね…?」

 

 79式は赤ん坊を抱きかかえながらその場を移動し、戸棚の中へと身体を滑り込ませる。

 そうしていると小屋の扉が乱暴に開かれる音と、何人かが小屋の中へと入ってくる足音が響く。

 赤ん坊が声を出さないように注意をしつつ、79式は神経をとがらせていた。

 あちこち捜索する様子に冷や冷やしつつ息をひそめていると、やがて足音は小屋の外へと出ていった……ホッと安堵した瞬間、赤ん坊が声を出してしまった。

 慌てて赤ん坊を強く抱きしめ銃を手に取り警戒する…が、そのまましばらく待ってもカルテルは中に入ってこず、気付かれなかったことに一安心するのであった。

 念のため少し時間を置いて外に出た79式は、赤ん坊をベッドの上に寝かせると、その頭を優しく撫でる。

 

「もう少し頑張るんだよ、もう少しで助けが来るから…ね?」

 

 赤ん坊に微笑むと、その子も微笑み返してくれる。

 それがたまらなく愛おしくて、彼女は自分の肌を赤ん坊に擦り付けるのであった…。

 

 微笑ましい光景の裏で、79式の脳裏にはある光景が映し出される……煙があがる町で叫び声をあげる群衆、それに対峙する警官隊、その中に自分もいる…。

 それは自分の知らない記憶、だが確かに自分の記憶なのだ。

 必死に命乞いをする老夫婦を壁際に追い詰め銃口を向ける、自分以外にもたくさんの同僚が並び同じように市民に銃口を向けている……。

 

「知らないよ、こんなの私じゃない…だって私は…」

 

 不可解な記憶を否定するように79式は呟く…。

 これは何かメンタルモデルの異変なのだ、そうに違いない、帰ったらストレンジラブ博士に診てもらおう…。

 

 そんな風に思っていた時、突然小屋の扉が蹴破られ、数人の男が小屋の中へと入り込んできた。

 

 咄嗟に銃を手に応戦しようとした79式の腹を、先頭に入ってきた男が抉るように蹴り飛ばす。

 蹴られた衝撃で79式は壁に叩き付けられ、戸棚にあった食器が落下し叩き割られた…突然の騒動に赤ん坊は泣きわめきだす。

 79式を蹴り飛ばした男はそのままおおいかぶさるようにして、79式の首をめいいっぱい絞めつける。

 だが戦術人形である79式は強引に男を振りほどくと、腰のホルスターから拳銃を抜き至近距離から発砲。

 射殺した男を蹴り飛ばし、小屋に入ってきた別な男に向けて引き金を引いた。

 二人目を射殺したところで三人目が小屋の外に退避し、外から銃弾が撃ち込まれる…79式は自身の武器を拾い上げると、ベッドの上に寝かせていた赤ん坊を抱きかかえると、銃弾が避けられるよう小屋の床を壊しそこに赤ん坊を隠すのであった。

 

「あぐっ…!」

 

 壁を撃ち抜いてきた弾丸が79式の肩に命中し、激痛に彼女は転倒した…。

 床に伏せたままの姿勢で開いた扉から見える敵に撃ち返す…雨と暗闇で当たっているか判別できなかったが、それでも撃つしかなかった。

 銃声と男たちの怒号に混じり、赤ん坊の泣き叫ぶ声が混じる…。

 その音に傷によらないとつぜんの頭痛に見舞われた79式は、あまりの痛みに銃を手放し頭を抱え込んだ…。

 

 さっきまではただ知らない記憶の光景が浮かぶだけだったが、79式の耳には子供や女性の悲痛な叫び声が聞こえていた……命乞いの声、泣き叫ぶ声、自分に向けられる怒りの声や憎しみの声………様々な声が折り重なるように79式に押し寄せる。

 どれだけ耳を塞ごうと聞こえてくるその声に79式も叫び声をあげるが、それでも自身を責める声は消えてくれなかった……そして最後に79式に浮かんできた光景は、青ざめて動かなくなった赤ん坊と、自分を取り囲む男たちの残忍な顔であった。

 

 目を見開き、冷や汗を流す79式…声はいつの間にか消えていた。

 憔悴しきった彼女は再び小屋の中に入ってきた男たちにまともに抵抗することもできず、蹴りつけられ、何度も何度も馬乗りで殴られる。

 

「このクソ女め、よくも仲間を殺しやがったな!」

 

「待て、こいつは戦術人形じゃないか? クソッたれの政府がこんなのを送り込みやがったか」

 

 無抵抗の79式を散々痛めつけた後、彼らは79式の髪を鷲掴みにして無理矢理引き立たせる。

 残忍な笑みを浮かべる男たちを睨みつけた79式は、男の腕に噛みつくと、蹴り離す…それからナイフを抜き取って男に掴みかかるが…。

 

「そこまでだ、このガキをぶち殺されたくなかったら抵抗を止めろ!」

 

「なっ…!」

 

 赤ん坊に銃口をつきつける男の姿を見て、79式はついに観念する……まだ79式が動ける状態にあると知ったカルテルはさらに79式に対し暴力を振るう…常人なら命の危険すら危ぶまれる暴力であるが、人形である79式は不幸にも耐えてしまうのだ。

 それでもそれ以上まともに動けなくなるほどに痛めつけられた79式は、力なく床に倒れ伏した。

 

「てこずらせやがって……どうだ戦争の犬め、上手く仕事を果たしたつもりでいるんだろうがそうはいくかよ。例えお前らがガルシアを殺したとしても、別な奴がボスになるだけさ。カルテルを潰そうと、別なカルテルが組織される。世の中そう言うもんさ…コカを必要とするマヌケがいる限り、オレたちみたいなのは何度でも復活するんだよ」

 

 79式の髪を掴みあげ、男は吐き捨てるように言った。

 それから男は品定めするように79式を見つめると、残忍な笑みを浮かべた。

 

「知ってるか人形? 欧州じゃどうか知らねえが、ここらじゃ人間よりも人形の娼婦の方が多い…なんでか分かるか? 多少乱暴に扱っても壊れやしないからな。お前見たところI.O.Pの人形だな? I.O.Pの人形は希少だ、なかなか回って来ない……いい値がつきそうだぜお前?」

 

「う、るさい……殺してやる……殺してやるッ!」

 

「口の悪い人形だぜ、おいこのかわいい口を塞いでやれ」

 

 別な男が79式のそばにやってくると、79式を後ろから拘束し布で口元を覆い隠す。

 それから彼女のジャケットをナイフで引き裂き、その下のボディースーツにも手をかけた……79式も抵抗しようとするが、痛めつけられた身体を数人の男に押さえつけられて身動きが取れないでいた。

 そしてついにスーツまでもが割かれ、79式の素肌が晒される……それまで笑みを浮かべていた男たちであったが、79式の背に刻みつけられていたものを見て笑みを消した。

 

 

「こいつは、驚いた…ウスタシャの焼き印か……お前、ユーゴで捕虜になったんだな?」

 

 

 79式の背に焼き印として刻まれているのは"U"の字だ。

 クロアチアの過激派民族主義団体ウスタシャの頭文字を示すその文字が、痛々しい傷として彼女の背に刻み込まれていた…。

 

「こんな焼き印を押すのはセルビア人しかいない。スルプスカの民兵か? それともセルビア警察か? まあなんだっていい、あそこじゃオレたちが想像もできない事がされてたんだろうからな……そうなるとお前は、クロアチア側か」

 

 男は自分が持っている知識から推測をしていく…。

 

「民族浄化……恐ろしいもんだ、人間が一つの民族を完全に抹殺する行為。いくら残虐非道なオレたちでも、そこまではしない。人形のお前がここまで惨い仕打ちを受けるってことは……お前も加担者ってわけだな?」

 

「違いない、オレの知り合いにセルビアの奴がいたが、そいつが言っていた憎悪は半端じゃなかったぜ」

 

「まあそんなことはどうでもいい。こんなキズモノじゃ高値で売れもしない……ならオレたちで可愛がってやるだけさ」

 

 男は下品な笑い声をあげると、79式の頭を掴み床に顔を押し付ける。

 そのまま下腹部のスーツにまで手を伸ばす……。

 

「なに怖がってんだ? レイプされるのは初めてじゃないんだろ? セルビアの男に無理矢理犯されまくったんだろ?」

 

「ちょっと待て、こいつ泣いてるぜ? 布とってみろよ」

 

 別な男の指示で79式の口を覆う布が取り払われる…。

 そして再び髪を掴みあげられて顔をあげた彼女は涙で顔を濡らしていた…。

 

「嫌……やめ、やめて……ください……もう、やめてください…」

 

 先ほどまでの強気な態度はもうそこになく、ただ怯えた様子で震えなく弱々しい姿があった…。

 79式の怯える姿に男たちは同情心を持ち合わせず、女を屈服させた征服感に酔いしれる。

 下卑た笑い声をあげながら男たちは79式を罵倒する言葉を吐き捨てる……彼女は晒された素肌を隠すことも許されず、身体を乱暴にまさぐられていた。

 

「へへ、オレが先にやらせてもらおう。おい、正面を向かせろよ…こいつの汚い傷をいつまでも見たくはねえ」

 

「さっさと済ませろよ」

 

 79式を仰向けに寝かせる…男たちを真正面から見る形となった79式は目を見開き恐怖に怯える、そんな姿も男たちの情欲を引き立たせるだけであった。

 男たちの笑い声と赤ん坊の泣き叫ぶ声…フラッシュバックでみたのと同じ光景を前にする79式は、声を出すこともできず抵抗もすることが出来ない。

 封印していたはずの記憶を無理矢理こじ開けられ、おぞましい記憶と感情が一気に押し寄せる…。

 

 

 男たちが無抵抗の79式を犯そうとしたその時、小屋の扉が開かれる…。

 新手の敵かと身構えるカルテルであったが、そこにいたのはリベルタドール…見覚えのあるシカリオに男たちは安堵していたが、次に飛び込んできたWA2000を見て動きを止めた。

 

 小屋に飛び込んだWA2000は裸にされた79式と取り囲む男たち、そして赤ん坊に銃口をつきつける男を見て瞬時に状況を把握すると、いまだかつて誰も見たことのないような怒りを示す。

 手にしていた拳銃を真っ先に赤ん坊を狙う男に向け躊躇することなく引き金を引いた。

 次に79式を襲う男たちに向けて銃弾を撃ちこむ。

 

「やろう、返り討ちに…!」

 

 弾切れを起こした拳銃の銃床でおもいきり男の側頭部を殴りつける。

 素早くマガジンを交換し、慌てふためく男たちを次々に撃ち殺す…。

 ズボンをあげて逃げようとした男の後頭部を掴んだWA2000は顔面を窓ガラスに叩き付けて割り、窓枠に残るガラス片に男の首を突き刺し殺す…。

 あっという間に男たちを片付けた彼女は、腰を抜かした最後の男を睨みつける。

 

 

「ま、待て! オレは関係ない、何もしていない!オレは仲間を止めたんだ、止めろって! ほら」

 

「邪魔だ、どけッ!」

 

 命乞いする男を思い切り蹴り飛ばし、WA2000は裸にされて恐怖に震える79式に駆け寄った…目を見開いたまま、彼女はとめどなく涙をあふれさせ震えていた。

 

「79式、私よ、分かる?」

 

 怯える彼女の肩を抱きしめると、ゆっくりと彼女はWA2000に向き直る。

 

「センパイ…?」

 

「そう、私よ……助けに来たわ、遅れてごめんね?」

 

 79式は震えたままWA2000にしがみつく…恐怖に怯える彼女は一言も発さず、ただ彼女にすり寄る。

 そんな彼女を優しく抱きしめる、今はどんな言葉も無意味だと知っていたため、安心させるためだけに彼女を包み込むのだ。

 

「マイスター、79式はこの赤ちゃんを助けようとしてたかもしれませんね」

 

「そうね…優しい子だもの、その子は無事なの?」

 

「ええ…」

 

 後からやって来たカラビーナの腕には赤ん坊が抱かれている。

 赤ん坊の無事を確かめたWA2000は自身の上着を79式に着させ、そっと肩を抱きながら立ち上がらせた。

 

「帰りましょう、79式……」

 

 79式は何も言わず、頷くこともなかった…WA2000の手に支えられながらゆっくりと歩を進めていく。

 小屋の外で待っていた9A91もそこに加わり、途中で手に入れた車に彼女を乗せる。

 赤ん坊を抱くカラビーナは小屋を出る前に立ち止まると、沈黙を続けるリベルタドールに向き直る。

 

「あなたこれからどうしますの?」

 

「…………」

 

「一緒に来たいのですか?」

 

 その問いかけに、彼女は一度だけ頷いた。

 

「では足手纏いにならないようにしなさいな…」

 

 リベルタドールはカラビーナの後に続き、別な車の荷台にしがみつく…一行を乗せた二台の車は豪雨の中、帰り道につくのであった…。




はい………。


前回までのアンケート協力ありがとうございました、今後に反映させたいと思いますね……。

いや、大事なのはそこじゃないのは分かっている……今後のアフターケアが大事だね…。


ここまでやっちゃうと、79式の過去話を書く度胸が無いよ…。
重すぎるし救いがなさすぎるし……。
どうしよう…。

79式のユーゴにまつわる過去話を

  • 書け
  • もうライフはゼロよ!(書かない)

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