MSF司令部、普段は副司令のミラーと97式、そして蘭々がいるだけの部屋なのだがその日は司令官のスネークの他にエグゼ、スコーピオン、オセロットなどのMSFの主だったメンバーに加えて404小隊のみんなも顔を出していた。
議題は、先日ジョニーが傍受したアメリカの第1機甲師団による招集命令についてだ。
取集命令を出したのはおそらく以前スコーピオン達がアメリカに渡った際、色々とお世話になった旧軍の生き残りである"南部連合"の軍用人形たちであろう。
招集をかけられた場所は、ネバダ州とアリゾナ州の州境を流れるコロラド川をせき止めるフーバダムだった。
南部連合の兵士たちがフーバーダムのある場所まで勢力圏を広げたということ以外に、これは予想するしかないのだが、荒廃したアメリカ本土の復興を目指している彼らがフーバーダムを利用して電力を生み出そうとしているのかもしれない。
南部連合の兵士と接触したことのある人形たちは、彼らについて好意的な反応を示す。
アルケミストとデストロイヤーも、同じく救われた形であるので特に敵対心はない。
ここまでは別にたまたまジョニーが招集命令を傍受しただけだと結論付けるのだが、この通信を他の勢力も傍受し動き始めたという情報がオセロットよりもたらされたことにより、この動きが世界を巻き込む重大な案件なのだと予測するのだった。
以前エグゼたちがアフリカのウロボロスに会いに行った際、米国の特殊部隊に遭遇しデストロイヤーが襲われた。
そして先日のデストロイヤーが口にしたダムの話……ジョニーが傍受した場所もフーバーダム、単なる偶然と片付けるわけにはいかなかった。
「おい45、お前……なんかアメリカで色々探ってたよな? 知ってることがあるならスネークにも言えよ」
そもそもここに集まった理由は、UMP45がエグゼに呼びかけたことによるもの。
情報収集能力についてはオセロットも認めるほど、以前アメリカに渡った時南部連合兵士の監視を潜り抜けて色々探り回っていたことを知るエグゼは、彼女が知る情報をみんなに教えるようお願いした。
「はっきり言って、ほとんど憶測だってことだけ言っておくわね。私がアメリカに行ったとき探っていたのは基地の通信記録、南部連合は部隊間の通信は出来るけどより上位の通信にはアクセスできないって言ってた……だけど調べた基地には頻繁に通信がやり取りされている記録があったわ」
「南部連合の兵士が嘘を付いてないって保障はあるのか?」
「それは保障するわ。それを調べるために
エグゼの疑問に対し、UMP45は理由を交えて応えて見せた。
ジョニー…南部連合の人形を連れ帰ってきたのは単なる酔狂だと思っていたエグゼやスコーピオンもこのことには驚きを見せる、実際彼女の狙いを知っていたのは妹のUMP9だけであった。
「すると…オレや姉貴がアフリカで遭遇した特殊部隊は、南部連合とは違う勢力の奴ってことか? どうもあいつら人外じみた連中だったが…」
「そいつらについては私も知らないけれど、オセロットは前にアメリカの諜報機関と接触しかけたのよね?」
「そうだ。正規軍の晩餐会の中にいた……ボス、これについてはオレも予測するしかないが、おそらく奴らの諜報員は大戦以前から正規軍に潜伏しているのかもしれん」
「10年以上も、スパイ活動を続けていると? 信じられないことだが…」
大戦が勃発し、10年以上が経過する現在。
今日に至るまでアメリカは核戦争によって完全に滅びたと思われていたが、オセロットはかの国の諜報員と遭遇し戦闘になった……そしてオセロットは、米国の諜報員が10年以上の歳月をかけて正規軍の中枢にまでその根を張り巡らせているだろうと予測している。
だがこのことをいまいち信じきれないスコーピオンは、やや困惑した様子で意見を言う。
「ありえないよ、自分の祖国が滅んだかどうかも分からないのに10年以上も諜報を続けるなんて! 万が一それが本当だったとして、正規軍は行動を起こす前に情報が洩れちゃうってことだよね?」
「その通りだ。仮に正規軍があの国と戦争を起こした時、常に正規軍は情報戦において遅れを取ることになるだろうな」
「なにそれ、怖いな……でもなんで今まで連中は静かにしてたのかな? 通信は…まあ電磁パルスで壊れてたとしてもさ、海を渡って祖国の状態を確かめることくらいはできそうだよね?」
「それについては、スネークがアラスカで聞いた話が関わってくると思うわ。スネーク、話してもらってもいい?」
UMP45より依頼を受けて、スネークは…アラスカの空軍基地の通信施設で聞いた会話をみんなに聞かせる。
あの時はちょうど鉄血とぶつかり敗北を喫して間もなかったために、みんなに周知させることが出来なかったことであったが、情報を求めるオセロットとUMP45にだけ教えていたことだった。
「奴ら…おそらく地下に潜伏していた米軍関係者は、オレに人が歩ける環境になったかと聞いてきた。それに対しオレは、いまだ放射能汚染が酷いがいくつかの土地は落ち着いていると答えたんだ」
「まあ確かにアメリカは放射能汚染が酷かったけどよ。でもそれがなんだってんだ?」
「エグゼ、あとデストロイヤーとアルケミストにも聞くんだけどさ……アメリカの土地は確かに放射能汚染が酷かったと思うけど、コーラップス液の汚染はどうだった?」
「あぁ? それはお前……」
エグゼは、言葉を濁し同席するデストロイヤーがアルケミストに意見を求める。
正直に言うと他の事に気にする余裕がなかったせいで、コーラップスの汚染がどうのこうのは気付かなかったのだろう……しかし単独でアメリカに潜入したデストロイヤーがアルケミストは心当たりがあるようだ。
「そう言えば、コーラップスの汚染は酷くなかったし……感染者の姿も見てなかったかも」
「核でアメリカの崩壊液を研究する施設も破壊されたはずだ。だとしたら、全土が汚染されてもおかしくはないと思ったが…」
「これではっきりしたわね。奴らが待っていたのはこの時…E.L.I.Dによる汚染が沈静化するタイミングだったのよ」
「汚染の鎮静化……あっ!」
「どうしたスコーピオン?」
「そういえばこの間イリーナが言ってたんだ! アメリカは核戦争が起こる寸前に、E.L.I.Dを浄化する方法を開発してたんだって!」
「今じゃほとんど知られていない奇跡の発明、それが核戦争で無駄になってしまった。だけどアメリカは何らかの方法でその技術を用いて本土を浄化した…10年以上の歳月をかけてね。でも自然に浄化される期間と比べ遥かに短い期間よ……ここまで全部予想なんだけど、もし本当ならあの国がどれだけヤバい存在か分かるわ。各国が大戦勃発直後に滅ぼそうとした理由も分かるわね」
コーラップス液による汚染の浄化など、今や世界中が欲しがる技術だ。
いくつもの研究機関が挑み、そして挫折したもの……果たしてアメリカはいかにしてそれにたどり着いたというのだろうか、それについては予想することもできなかった。
「話をまとめよう。アメリカが待っていたのは放射能汚染ではなく、E.L.I.Dの浄化……だが電磁パルスで連絡手段を失った国内外の生き残りたちは浄化の進捗を知ることが出来なかった。そんな時、たまたまアラスカに来ていたオレが奴らに教えてしまったことにより、米軍は動きだしたということか………オレの責任は重大だな」
「不可抗力だよスネーク! しょうがねえだろ、そんなもんよ……それで、オレたちは今後どうするんだ? それが最終的に決めなきゃならないことだろう?」
「だね。ぶっちゃけ放置しとくのが一番だと思うんだけど…」
「どう転ぶにせよ、大戦が再び起これば……オレたちも無関係ではいられない。オレたちだけじゃない、世界が巻き込まれることになる」
MSFとしてこの件に対しどうするべきか。
スコーピオンの傍観も一応一つの案となるが、オセロットの言うように戦場で戦い続けるMSFは大戦が起これば無関係ではいられない。
介入するにしても一体誰と組めばよいのか、アメリカと戦う必要があるのか、接触を避けてきた正規軍との関わり方、考えなければならないことが多すぎる……答えが見いだせない中、一人の人物が手を挙げた、デストロイヤーだ。
「ひとまずさ、今は南部連合の兵士たちが助けを求めてるんだよね? 私、あの人たちに助けてもらったから…出来れば手助けしたいな、なんて」
「お前にしちゃずいぶん積極的な意見だな。どうしたんだ?」
「いや、なんとなく…そうしなきゃダメかなって? 別に、変なことはいってないよね?」
「まああいつらにはオレも助けてもらったわけだけど……どうだろうスネーク、何かするわけじゃなくても、一回調査しに行くっていうのは?」
「そうだな……考えるだけ考えてみよう。みんな、このことは少し考えさせてくれ。そう遅くないうちに答えを出す…以上だ」
スネークの言葉にうなずき、司令部に集まったみんなが部屋を出ていった。
後に残ったのはスネークとオセロット、そしてミラーだ。
「…実際どうするんだスネーク? はっきり言って、この件はオレたちの手に余る……コスタリカでピースウォーカーを止めた時とはまるで違う」
「ボス…おそらく、オレたちが手を出さなくても世界は動く。MSFの戦力は規模が小さいとはいえ無視できない存在だ、必ず大戦に巻き込まれる。オレの意見を言わせてもらうならば、巻き込まれる形で大戦に関わるなら、自発的に動くべきだ」
「どうあっても大戦は避けられないか…」
「ボス、この世界は一度核戦争を起こしていることを忘れるな。オレたちと、ここの人間とでは核兵器へのとらえ方が大きく違う…ユーゴでも見たはずだ」
MSFが元いた世界でもデイビー・クロケットという携行可能な戦術核兵器が存在していたが、この世界においては戦術核兵器の開発は進んでおり、ユーゴ内戦の最中にも使用された。
戦術核兵器が当たり前のように使用されるこの世界……自身もビキニ環礁での水爆で被ばくした経験のあるスネーク、彼の脳裏に同じく被ばくした恩師の姿がよぎる…。
「オレたちは兵士だ、戦場で戦い続ける運命にある……オレは銃を捨てることは無い。カズ……今もう一度考えなければならない。MSFは単なるビジネスなのか……それとも、生きざまなのかをな」
「ボス…?」
「カズ、アメリカに渡る準備を進めるんだ。何が起こるにせよ、オレたちは見届けなければならない……それが、この世界に関わってしまったオレたちの宿命なんだ」
ゆったりとした、スローテンポの音色が灰色の壁に覆われた部屋に響く。
無機質なコンクリートの壁に覆われた部屋、家具も壁紙もなく、殺風景なその部屋の中央には黒いグランドピアノだけが置かれている。
楽譜を立てかけ、ぎこちなく指を動かしピアノを奏でる……。
一人演奏中の彼女を微笑ましく見守るのは、イントゥルーダーである。
部屋の入り口に寄りかかって演奏者を見つめていると、そこへドリーマーがやってくる……今日のところは不機嫌そうには見えないが、呑気にピアノを奏でているシーカーの姿に呆れてため息をこぼす。
「あらドリーマー、あなたもシーカーの演奏を聴きに?」
「そんなわけないでしょ。あいつに呼び出されて来たのに……まったく、のんびりピアノの演奏なんてのんきなものね」
「ドリーマーに聴いてほしかったんじゃないかしら?」
「お断りね」
そう言いつつも、イントゥルーダーと並んで壁に寄りかかりシーカーの演奏に耳を傾ける。
相変わらず音を外したり、演奏を間違えたりしているが…。
(少しは上手くなった?)
初期にはまともに楽譜も読めない癖に演奏する者だから、新手の拷問と思えるほど酷い演奏であったが、ここ最近毎日欠かさず練習をしているおかげで一応聞ける演奏にはなってきていた。
「シーカーちゃんも頑張り屋さんね」
「あいつ戦闘関連以外のスキル全くないのにね、ある意味大したものだわ…」
「フフ、シーカーちゃんはドリーマーの事がお気に入りだからね。二人で話していると、ずっとあなたのことを話してるのよ?」
「お節介焼きのめんどくさい奴よ」
そう言っていると、シーカーは演奏の手を止めて妙に清々しく身体を伸ばす。
プロの演奏者に比べればまだまだ素人同然なのだが…。
「音楽というのは素晴らしい。思うに音楽とは一種の言葉だ、時代や文化を越えて人々の心に素晴らしい感動を与えてくれる……音楽を享受するのに、国家も思想もイデオロギーも、人種も、文化も、言語も、生まれも、格差も関係ない」
「またあんたはわけのわからないことをべらべらと…一体何の用なの?」
「文明が生まれる時、それは文字が生まれる時だ。文字とは言葉……人の営みに欠かせないのは言葉なのだよ。ある思想家は言った"人は国に住むのではない、国語に住むのだ"とな。私は音楽という言語をみんなに知って貰いたい……世界は一つになるべきだ」
「あーもう! 意味不明なこと言いたいだけなら帰るからな! こっちはお前みたいに暇じゃねえんだよ!」
「まあ待てドリーマー」
踵を返して立ち去ろうとするドリーマーをの肩を掴んで引き止める。
強引に振りほどいて去りたいところだが、義体スペックは遥かに上であるシーカーの力には反抗することができない。
「本題だが、そろそろアメリカに行こうと思うんだ」
「なに? それって……この間傍受した通信が関係してるの?」
「フフ、どうだろうな……必要なものを取りに行くだけ、すぐに帰ってくるさ。帰ってきたら新しい時代の幕開けだ」
「そう……別にいいんじゃないの?」
「お前も一緒に行くんだぞ?」
「はぁ!? ふざけんじゃねえよ! なんでこの私があんたの道楽に付き合わなきゃならないのよ!」
「エルダーブレインにはお許しを貰ってるから、拒否したら命令違反で処罰だからな、ハハハハハ」
「ちょっとイントゥルーダー!? こいつの騎士道精神って奴はどうなってんのよ!?」
「さあ? 騎士道にも色々あるから」
「このクズ共が……!」
「まあ聞け。遊びに行くわけではないさ……言っただろう、時代が変わるんだ。新しい時代の到来を
「今度その呼び方しやがったら、ダイナゲートにぶち込んで蹴り回してやるからな」
「面白い冗談だ。さて…じゃあ準備をしようじゃないか……楽しみだ」
シーカーは嗤う、いつも通りの表情で…。
うんざりした様子で部屋を出ていったドリーマーを眺めつつ、イントゥルーダーは意味深に笑い目を細めるのであった…。
行くぞ、行くぞとか言ってまだ行かない(困惑)
でもそろそろ行くから!
なんか、デストロイヤー思考が誘導されてなーい?
ウロボロスのポジションで悩み中。
こいつ味方に引き込もうにも、裏切りそうで怖い……味方のままならグレイ・フォックス込みで頼もしいのにね。