METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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たちこめる暗雲

「う~ん、この配線系統は軒並み修復が必要ですね~。でも、この天才技師アーキテクトちゃんにかかればちょちょいのちょいなのさ!」

 

 スパナとラチェットを腰袋に戻しつつ、アーキテクトはペンチに持ち変えて配電盤の痛んだ配線の修復作業に取り掛かる。

 彼女のすぐそばには手押し車に工具箱やその他修理資材の一式が搭載されており、小型のコンプレッサーも備え付ける簡易移動型修復カートとも言うべき存在となっている。

 よく分からない歌を口ずさみながら、フーバーダムが抱えている損傷個所の修復作業に取り掛かるアーキテクト…あの後、わが身可愛さにほいほい白状したアーキテクトをダムの修復作業を任せることとなった。

 アホっぽい彼女だが意外や意外、アーキテクト(建築士)の名は伊達ではなくこういった技術系の作業は得意らしい。

 しかし突然反逆して襲い掛かってくるリスクも捨てきれないため、スネークたちはこのダムに応援を呼ぶこととした。

 

「おら、あんまり遠くに行くんじゃないよ」

 

「ぐえっ」

 

 応援としてやって来たアルケミスト…彼女はアーキテクトの監視役を買って出ると、真っ先に彼女の首に犬用の首輪を取りつけるのであった。

 当初は爆破する仕組みの首輪をとりつけようとしたアルケミストだったが、本人の必死の懇願とスネークら仲間たちの猛反発を受けて渋々引き下がる……たまに脅しでその爆破首輪をちらつかせるたび、アーキテクトは恐怖に駆られて作業に猛烈に取り掛かる。

 

「アルケミスト…ちょっとやりすぎじゃない?」

 

「このくらいがちょうどいいのさ」

 

「もっと言ってやってよデストロイヤーちゃん! おまけにこの首輪きつくて苦しいんだってば!」

 

「なに? 首輪が緩いって? そうかそうか…」

 

「ひぃ!? やります、真面目に作業しますからお助けー!」

 

 脅す度にいい反応を返してくれるものだから、アルケミストのサディスティックな性格を大いに刺激してしまう…笑みを浮かべる彼女の表情は恍惚としていて、そんなゾッとするような彼女を見るたびにアーキテクトは泣きそうにしていた。

 そんな仲間に、デストロイヤーはやれやれと呆れる始末…。

 

「ところでゲーガーの様子は?」

 

「大人しいよ。大人しいって言うより凛としてるって言うか…前々から思ってたけど、ゲーガーみたいなかっこいい人憧れるよね!」

 

 凛とした普段の佇まいと、呆れた上司に振り回されつつも仕事をちゃんとこなすゲーガーの事は、鉄血にいた頃からデストロイヤーの密かな憧れであったりする。

 もちろんアルケミストが一番尊敬してやまない存在であるのは確かだが…。

 ゲーガーの能力についてはアルケミストも理解している。

 だからこそ、腑に落ちないことがある…。

 

「そろそろ休憩しようかアーキテクト?」

 

「え? でもまだ疲れてないから大丈夫だよ?」

 

「人の好意は素直に受けるものだ」

 

「そう、じゃあ遠慮なく」

 

 休憩と言ってもアルケミストは首輪を外してはくれない。

 むしろロープで引っ張り、引かれるがままにアーキテクトはついて行く。

 

「ここらがいいだろう。フフ、ダムの見晴らしってのは結構いいもんだね。そう思わないか?」

 

「うんそうだね。でももっとすごいのはこのダムを放水した時だよ! 一度に何百リットルの水が放出されて、おっきな滝ができるんだよ!」

 

「流水の力を利用して動力を得て、発電機を回す…それによって膨大な電力が生み出される。なあアーキテクト、それで一体どうやって米軍無人機を制御下に置こうとしてるんだ?」

 

「それは私もよく分からないよ、たぶんゲーガーも分かってないんじゃない?」

 

「へえ、じゃあお前ら二人以外に誰か潜伏してるのか?」

 

「いや私たちだけだよ?」

 

「ほんとか? じゃあ簡単に捕まったお前ら二人は底なしのバカだってことか? お笑いだな」

 

 フーバーダムの堤頂にひじをつきつつ、アルケミストは笑みを浮かべたまま200メートル下の箇所を見下ろす。

 フーバーダムはその貯水率に加え、この高さから生まれる流水の勢いで電力を生み出すことが出来るが…。

 

「しかし高いなここは……落ちたら人形といえども死んじまうだろうな。デストロイヤーも見下ろしてみろよ」

 

「うっ…わ、わたしはいいよ…!」

 

「はは、相変わらず怖がりだな。それでアーキテクト、お前何企んでるわけ?」

 

「何を企んでるって…米軍の無人機をかっぱらうつもりだったんだよ。まあ私がばかだからうっかり漏らしてばれちゃったけど…」

 

「お前はただのバカじゃないだろう? 根はしっかりしてるんだからよ…で、何企んでるんだ? 素直に言わないとこっから突き落とすぞ?」

 

「も…もう怖いよアルケミスト! 私たち同じ鉄血の仲間でしょ? 冗談きついってば!」

 

「冗談じゃねえよ」

 

「うっ……」

 

 振り返ったアルケミストは一切笑っていなかった。

 長い前髪から見え隠れする片目が鋭くアーキテクトを見据えている…それまで飄々としていたアーキテクトも怯えてみせた。

 ゆっくりと、ロープを引かれ首輪を繋がれたアーキテクトは否応なしにアルケミストに近付いていく。

 すぐ真下には、200メートルもの落差のある断崖が…先ほどのアルケミストの言葉通り、墜落すれば人形といえども無事では済まされない。

 

「よく聞けよお前? ウロボロスはクズだが、マヌケじゃないしバカでもない。そんなあいつが底なしのバカに大事な仕事を託すと思うか?」

 

「いや、世の中にはそう言う人もいるんじゃ…」

 

 アーキテクトが頭をかきながら愛想笑いを浮かべたその瞬間、アルケミストの手がロープの根元を掴みアーキテクトの身体をダムの堤頂より突きだす。

 上半身が堤高より飛び出し、両足は宙に浮く、アルケミストがロープを掴む力を緩めればアーキテクトは下まで真っ逆さまに落ちる…アーキテクトはきつく締められた首輪と、不安定な姿勢のせいで悲鳴もあげられず、冷たく自分を見下ろすアルケミストを目を見開いて見つめることしか出来なかった。

 

「アルケミスト!? なにやってんのよ!?」

 

 突然のことにデストロイヤーが声をかけるが、その声は無視される。

 

「アーキテクト、あたしの忍耐力を試してるのかい? あたしが笑って流してくれるとでも思ったか?」

 

 アルケミストがロープを掴む力を緩めると、重力に従ってアーキテクトの身体がずるずると落ちていく。

 首輪で喉を絞めつけられた彼女は声にならない声をあげ、必死に足をばたつかせるが無情にも滑り落ちていく…ついには手すりに膝から下のみが引っ掛かっている状態までずり落ちたところで止まる。

 

「よく聞きな。お前の行動によって少しでもあたしの仲間が損害を被ったのなら、お前が生まれてきたことを後悔するまで徹底的に嬲ってやる。あたしの良心にや呵責になんて期待するなよ?」

 

「もう十分だよアルケミスト! やりすぎだって!」

 

 このままだと本気で突き落とす、そう感じたデストロイヤーはロープを掴みアーキテクトの身体を引き上げる。

 ようやく安定した足場に引き戻されたアーキテクトは苦しそうに咳きこんだ後、よほど怖かったのだろう…大声をあげて泣きだし始める。

 何度もゲーガーの名を呼んで涙を流す…そんなかわいそうな姿を見せつけられ、さすがのデストロイヤーもアルケミストを咎める。

 

「やりすぎだよ…!」

 

「無意味にやったわけじゃない。こいつらはまだ何か隠してる…ここにはこの二人以外、たぶんウロボロスのアホはいないにしても奴の相棒のグレイ・フォックスはいるはずだよ。何を企んでるのやら…」

 

「アルケミストの考えはわかるけどさ、いくらなんでも……とにかく、もう他の誰かを苛めたりしちゃダメ! もう昔じゃないんだから…」

 

「はいはい分かったよ……だがこいつとゲーガーには監視をつけとかないとね。何か企んでたのは確かだ」

 

 いまだ泣きじゃくるアーキテクトを無理矢理引き立たせようとするが、これ以上やると……デストロイヤーは二人の間に割って入り、そっとアーキテクトに立つよう促す。

 アーキテクトの事はそばにいたヘイブン・トルーパー兵に任せ、一旦彼女は留置所へと送るのであった…。

 

「もう! なんであんなことするの!? もう酷いことはしないって約束したでしょ!?」

 

「落ち着けよデストロイヤー。そうは言うが、ここじゃ手ぬるいことなんてやってられない」

 

「まったく、もう…! このことはみんなに……」

 

 デストロイヤーが新しいボディーを得てから妙に口やかましくなったのにはアルケミストも困っていた。

 身長が伸びてお姉さんに成長したのか何なのか、肝心なところでガキっぽいのだが…また口やかましい説教でも始まるのかと肩をすくめていると、突然デストロイヤーは話すのを止めると頭を押さえて屈み込む…。

 咄嗟にアルケミストが駆け寄ると、彼女は苦悶に満ちた表情を浮かべていた…。

 

「い、痛い……な、なに…? これ…?」

 

「デストロイヤー? おい、どうしたんだ!?」

 

「うぅっ……出てけ、出てってよ…! やだ……やめ…!」

 

「しっかりしろ、おい!」

 

 苦痛に呻くデストロイヤーの肩を掴み、必死に呼びかけるがアルケミストの声には一切反応しない。

 どんどん悪化していく症状にパニックに陥る…異変に気付いた南部連合の兵士たちも駆けつけてくれるが、原因不明の症状に対処ができない。

 やがてデストロイヤーは呻くのをピタリと止める……次に彼女が顔をあげた時、先ほどまでの苦しみようが嘘であるかのようにケロッとした表情でアルケミストを見つめる。

 

「あれ? どうしたのアルケミスト?」

 

「デストロイヤーお前…何か、おかしいぞ? 平気なのか?」

 

「んん? 別に平気だよ?」

 

「お前……やっぱりあの時奴らに何かされたんだな? ストレンジラブも見抜けない何か……ここにはいられない、帰ってもっと精密な検査をしないといけない」

 

「帰る? 私、どこにも帰らないよ? だって、ここで仕事をしなきゃいけないんでしょ?」

 

「正気かよデストロイヤー…自分がおかしくなってるって気付かないのか?」

 

「何を言ってるのよ…今日のアルケミスト、ちょっと変だよ? もしかして疲れてるの?」

 

 デストロイヤーはいつものように、笑顔を浮かべると愛らしい仕草でアルケミストにすり寄ってくる。

 しかし先ほどまでの姿を見ていた彼女にとって、今のデストロイヤーの言動には言いようのない不気味さを感じていた。

 

「無理しないでねアルケミスト、あなたが倒れちゃったら私どうしたらいいか分からなくなっちゃうから…そうだ、絵本読んであげる!いつもアルケミストが読んでくれるやつ! そうしたら、きっとぐっすり休めると思うの!」

 

 アルケミストの手を引いて、デストロイヤーはダムの内部へと歩いていく…。

 一部始終を見ていた南部連合の兵士もこの異変を認識し、助力を申し出るがその場では断るアルケミスト……得体の知れない恐怖、大切な仲間を失う恐怖がアルケミストの頭によぎる…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合衆国 西海岸沿岸部

 

 ごつごつとした岩場が並ぶ沿岸…空を飛び交う海鳥が鳴き、穏やかな波が磯部に打ちつける。

 そこから少し内陸部、割れたコンクリート壁の上に半裸の女性が一人…。

 濡れた銀色の髪を口に咥えていたゴムで結い、脱ぎかけのダイバースーツを脱いでいく。

 ラバー生地のダイバースーツの下から露わになった白い肌…すぐそばに立てかけていた防水生地のバッグからタオルをとりだし、身体の水気を拭きとる。

 ここまで終始まぶたを閉じたままの彼女は一度太陽を見上げると、大きく伸びをする……それからバッグの中から自身の戦闘服と自分の銃を取り出し、バッグを脱いだダイバースーツごと焼き払う。

 

 燃える炎の前で衣服に袖を通していると、一人の影が近付いてくる。

 すぐそばまでその影が近付いても、彼女はまぶたを閉じたままだ。

 

「先行上陸した部隊の全滅を確認、生存者は見つけられなかった」

 

「でしょうね…上陸する時間も、場所も、部隊の規模も筒抜けなんだもの当たり前よ。まして相手はアメリカ海兵隊(マリーン)の精鋭武装偵察部隊(フォース・リーコン)だもの……無駄死にに等しいわね。おかげでこっちは安全に上陸できたわけだけど」

 

 物静かな印象を受けるもう一人の女性は、まぶたを閉じたままの女性の背後に立ち次の指示を待つ。

 既に服を着替え終えていた女性は程よく燃えた荷物の火を足でもみ消す。

 

「さて、頼んでおいた仕事は済ませておいたかしら?」

 

「はい。ひとまず一体、無力化してある」

 

「上出来ね、AN-94。米軍戦術人形の解析が済んだら出発しましょう」

 

「フーバーダムへ?」

 

「フーバーダム? まあ、一応あそこが重要になるわね…最重要ではないけれど。さて手に入れた人形のところに案内しなさい」

 

「はい、AK-12」

 

 

 




ついにフライングという禁忌に手を染めてしまった無能犬もどき!
この二人いないと正規軍絡みのエピソードが組み立てられなかったんや…

でも一年後ぐらいのワイに聞いたら、しっかりお二人お迎えしてるって言ってたので登場させたやで!
たぶん魔改造すると思う。



※引き続きアンケート!
今後の創作活動のために協力してくれると嬉しいやで!
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=220777&uid=25692
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