METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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疑心暗鬼

 英国 ロンドン

 

 2045年に始まり、6年も続いた未曽有の大戦による破壊から逃れたロンドンは今、再び始まった大戦の戦渦を真っ先に受けあらゆる建造物は破壊され路上には死体が倒れ、あちこちから黒煙が上がっている。呻き声をあげる人間の横を感情のない軍用人形たちが通り過ぎ、軍属の者が生きていれば例え瀕死の状態であろうととどめをさしていく。

 瓦礫と化した英国議会議事堂、その象徴であった時計台ビッグ・ベンが爆破によって音を立てて崩壊していく様をデルタ・フォース所属の大尉はテムズ川を挟んだ川岸でじっと見つめていた。燃え盛る炎がテムズ川の水面に揺れる…上流からは残骸や死骸が流れ、血と油で川は汚染されていた。

 英国本土に先発上陸した海兵隊が各地で英国軍を攻撃、各所で敵を撃破し今日英国の首都であるロンドンが陥落した。それでも英国軍は抵抗を止めず、地下やへき地に潜伏し徹底抗戦を試みるが、米軍はそれに対し化学兵器や核兵器を投入する……ロンドン市街の地下鉄網に潜伏したゲリラに対し、海兵隊は容赦なくマスタードガスを使用した。

 戦火を逃れて地下鉄に隠れていた一般市民にもおびただしい死傷者が発生する…大抵の場合で海兵隊は、攻撃前に警告を発するのみで、少しの猶予もなく無差別攻撃を敢行するのであった…。

 

 燃え盛る英国の首都を見つめる大尉…そんな彼に奇襲を仕掛けようと、英軍の残存部隊の戦術人形であるウェルロッドは物陰に潜み機会を伺っていた。周囲に他の兵士はいない、相手が一人であることを確認し彼女は残弾数を確認し深呼吸を繰り返す。指揮官からの最後の指示は、出来るだけ多くの敵を倒し英国本土を死守すること……ジャミングによって通信回線も遮断されたいま、指揮官との連絡も仲間たちとの連絡も取れなくなった彼女は、ただ最後の命令を遂行しようとしていた。

 先ほどからテムズ川を見つめ続ける大尉に、ウェルロッドは息を殺して近付いていく…。

 それまでの戦闘から、相手は小口径の弾を撃っただけではびくともしないと分かっているため、出来るだけ接近し急所を狙う作戦をとる……だが、ある程度接近し銃を構えようとしたウェルロッドに大尉は振りかえる。

 

 咄嗟に撃った弾は狙いを逸れ、次弾を装填する前に懐に潜り込まれたウェルロッドは腹部に衝撃を受けて弾き飛ばされた。腹部を蹴りぬかれたウェルロッドは呼吸すらままならず、声を発することすらできない。ウェルロッドの銃を拾い上げた大尉は、それを鈍器代わりにして彼女の側頭部を殴りつける…銃身がひしゃげるほどの力で殴りつけられた彼女は額が切れ、おびただしい疑似血液により顔を真っ赤に染める。

 激痛によるウェルロッドの悲鳴は、大尉が彼女の喉を鷲掴みにしたことで強引に黙らされた。

 

 首を掴んだまま腕力のみでウェルロッドの身体を持ちあげる…彼女は両手で喉を掴む大尉の手をほどこうとするがどうすることもできず、宙に浮いた両足をばたつかせる。

 

「ウェルロッドから手を離せッ!」

 

 大尉がまさにウェルロッドの首をへし折ろうとした時、仲間の危機に駆けつけたリー・エンフィールドがライフルの銃口を向ける。だが流れ弾がウェルロッドにあたってしまうことを恐れ、引き金を引かなかったのが悪かった…大尉は素早くホルスターから拳銃を引き抜くと、自身を狙っていたリー・エンフィールドに向けて銃弾を撃ちこんだのだ。

 弾丸は無防備なリー・エンフィールドの膝を撃ち抜き、彼女はバランスを崩し転倒した。苦痛に呻きつつも、反撃しようと手放したライフルは、大尉に蹴り飛ばされて遠くに弾き飛ばされる。

 武器を失ったリー・エンフィールドを大尉は容赦なく殴り倒し、血飛沫が地面に飛び散った…力では並の人間を上回る戦術人形だが、サイボーグとして強化されている大尉には全く歯が立たず、彼が殴るのを止めた時にはリー・エンフィールドは虫の息であった。

 

「う……うわあぁぁぁッ!」

 

 ナイフを手にしたウェルロッドが、背後から大尉の背に刃を突き刺す…が、刃は数ミリ彼の背を刺しただけで固い感触によって阻まれてしまう。再び攻撃の対象となった彼女は、横っ面を殴られて吹き飛ばされた。

 大尉はウェルロッドのネクタイを掴みあげ、その額に拳銃をつきつける。

 朦朧とする意識の中で自身の最期を悟るが、寸でのところで大尉の処刑を踏みとどまらせる者が現れる。

 

 

「そこまでだ大尉殿」

 

「シーカーか…何故止める?」

 

「もうその少女に反撃の力は残っていない。わざわざ虜囚にとどめを刺すこともあるまい…それに相手は少女だ、情けをかけることを勧める」

 

「少女じゃない、人形だ。弾丸を撃ちこんでやればそこらの瓦礫と同じになる」

 

「貴様も軍人の端くれなら礼節というものがあろう」

 

「オレのやり方に口を出すな小娘」

 

「ほう? なら此度の侵攻、君らだけでやってみるか? 軍用人形その他の無人機なしでどこまで侵攻できるか見ものだな」

 

 シーカーは自らが指揮権限を握る米軍無人機を引き合いに出し、大尉を牽制する。静かに睨みあう両者…やがて大尉は無言でウェルロッドをその手から離す。すぐにシーカーのそばに控えていた鉄血の人形がウェルロッドとリー・エンフィールドの両者を回収、二人は捕虜として後方へと運ばれていった。

 

「英国はもう終わりだ。後はゲリラどもを掃討すればいい…既に海兵隊武装偵察部隊(フォース・リーコン)が大陸に潜入し次の上陸地点を偵察している」

 

「仕事が早いな。ただし無抵抗の市民への攻撃はいただけん…統制が取れていないのか、意図的に狙っているのか?」

 

「ゲリラ戦とはそういうものだ。奴らもそれを承知で潜伏したんだ…なんであれ兵士と市民を見分けている暇などない。例え百人の中にゲリラが一人だとしても、皆殺しにするには十分すぎる理由だ」

 

「底知れない憎悪の塊だな、大尉殿……まあいい、これ以上無益な殺戮を犯して占領政策に悪影響を及ぼされても困る、後の掃討は私に任せてもらおうか。大陸への上陸計画を練っておかなければならんのでな、私はこれで失礼するよ」

 

 手を振り、シーカーはその場を後にする。

 一人そこに残った大尉は再び視線をテムズ川の対岸へと向ける…既に英国議会の象徴であった時計塔は跡形もなく崩壊し、ロンドン各地の政府機関も破壊されていることだろう。

 復讐の一つを成し遂げた大尉はそれでも少しも満たされない……次の、次の報復へ。

 祖国を、同胞を焼いた敵は一つではない。

 

「シーカー、黙ってればいい女なんですがね。大尉、今度暇でもあったら……って、冗談ですよ」

 

「いけ好かない小娘だ。奴が無人機の権限を握ってさえいなければ、奴の細首ねじ切ってやるんだがな」

 

「もう少し我慢しましょう、大尉殿。ところで大尉、お耳に入れておきたいことが…例の民間軍事会社(MSF)に仕込んでいたウイルスが駆除されてしまったんですが、その過程で興味深い発見がありましてね?」

 

「何を見つけたんだ、軍曹」

 

「連中がオーガスプロトコルとか言っているネットワーク、あれの情報を抜き取った際ある個体の存在が判明したんですよ。大尉、おそらくそれを押さえればシーカーも刃向えないでしょう」

 

「なるほどな、後で詳しいことを聞こう。軍曹、奴の前では精神を晒すなよ……奴は我々の意識の奥底を覗き込む。油断するな」

 

「了解ですよ、大尉殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 心臓が飛び跳ねるような冷水を受けたスネークは暗闇に沈んでいた意識を強引に覚醒させられる。激しくせき込むスネークは冷水の感覚に身を震わせるが、次に感じたのは全身の酷い激痛であった。

 両手はきつい手錠がはめられ、天井に吊るされている…宙に吊し上げられている状態で、徐々に自分に何があったのかを思いだしていく…。

 

「おはようビッグボス、よく眠れたかしら?」

 

 目の前には、冷水で満たされていたバケツを抱えるドリーマーが愛嬌のいい笑顔を浮かべてスネークを見据えていた。彼女の背後には、鞭やナイフ、ショックバトンなどの尋問及び拷問に使用するための道具がきれいに並べられている。そのうちの一つ、ショックバトンを手にした彼女は、躊躇なくその先端をスネークに押し付けるのだ。

 途端に、電気がスネークの身体を巡り彼の身体は跳ね上がる。

 

「目覚めの刺激にはちょうどいいでしょう? フフフ、次は何で遊びましょうか? ペンチで爪をはがす? 歯を残らず引っこ抜く? 少しずつ肉を削いでいきましょうか? スネーク、あなたってとても頑丈そうだから長く楽しめそうね!」

 

 電流を流され、苦しそうに咳きこむスネークをあざ笑うドリーマー。

 シーカーが無人機指揮のために鉄血領域を離れたすぐ後に、ドリーマーは独断で動いてスネークを牢獄から引きずり出し、休ませることもなく残忍な尋問を続けていた。既にスネークの身体は全身傷だらけであり、最初につけられた傷がふさがる前に新たな傷が刻みつけられていく。

 

「アルケミストがよくやってたのを試してみる? ガス溶接機で手足を切断していくの、とっても痛いわよ…高温で焼き切って傷口が焦げて塞がるから、失血死もなかなか出来ないのよ。あぁ、迷っちゃうわね…」

 

「なにが…目的だ…?」

 

「んん?」

 

「お前は、何を狙っている…」

 

「ただの暇つぶし以外に? 決まってるじゃない…処刑人、ハンター、アルケミスト、デストロイヤー……世の中舐めてる連中をおびき出してやるのよ? 今度はしっかり壊して、邪魔な記憶はぜーんぶ消してあげるの。フフ、いつまでも野放しにしておくのも癪でしょ?」

 

「残念ながら…お前の望み通りにはならなそうだ……」

 

 愉快そうに笑うドリーマーに対し、スネークもまた不敵に笑って返す。過去にサンドバッグ代わりに執拗に殴打され、片目を撃ち抜かれたことに比べればこの程度…むしろ、見目麗しい少女に尋問されるのは気分がいいと笑って返す。

 それに対しドリーマーは変わらず笑みを浮かべたまま、だが目は少しも笑っていない。

 

「私としてはこのまま拷問を受けて死んじゃっても問題ないのよね。シーカーがどうして人間のアンタに興味を持つか分からないわ…人間なんてみんな汚くて醜くて臭くて、傲慢な虫けら同然なのにね? それにしてもアンタのその目、気にくわないわね……抉り取ってやろうか?」

 

 ナイフを逆手に持ち、スネークの目へとその先端を近づける。

 両手を縛られた状況でじりじりと詰め寄るドリーマーから逃れることは出来ない…残忍な笑みを浮かべるドリーマー、しかしそのナイフは結局スネークの目を抉り取ることは無かった。

 

 

「お楽しみはまた今度、せっかくのおもちゃがすぐ壊れちゃつまらないでしょう? また遊びましょうね……ったく、エリザさまったらなんの用かしら?」

 

 

 ナイフをしまい、去り際にウインチを操作して吊し上げていたスネークを下ろす。そこからは他の鉄血兵が複数でスネークを拘束し、元の独房へと放り込む。散々身体を痛めつけられたスネークは床に寝転がり天井を見上げ続ける…。

 

 

 

 どれくらい経った頃か…誰もいなくなった収容エリアに甲高い足音が鳴り響く。それは徐々に近付き、スネークの独房の前で止まった…牢を閉ざしていた扉の開く音がなった時、ようやくスネークは痛む身体を起こして起き上がる。

 独房を訪れてきたのは、凛とした佇まいの給仕服を来た女性であった。

 彼女とは初対面であったが、スネークには見覚えがあった。

 

「ずいぶんと痛めつけられたようですね、ビッグボス」

 

「アンタを知っている……エグゼやみんなから聞いている」

 

「そうですか。では自己紹介をしましょう…私は代理人(エージェント)、エリザさまに仕えるハイエンドモデルの一人ですわ」

 

「スネークだ……」

 

「ええ、知っています」

 

 終始変わらぬ表情で、代理人はスネークの前に佇む。今は痛めつけられているとはいえ、スネークを拘束する者は何もない…にもかかわらず代理人は警戒する様子もなかった。代理人と言えば鉄血工造のナンバー2、エグゼやアルケミストらの話から絶対に逆らってはいけない存在として畏敬の念を抱かれる存在だ。そんな相手を前にしてスネークは身構えるが、意外なことに代理人が次に話したのは世間話だ。

 

「みんな元気にしていますか?」

 

 みんな、が誰のことをさしているのかはすぐに分かる…エグゼやハンターといったMSFにいる鉄血ハイエンドモデルの事だった。

 

「元気なはずだ、きっとな……」

 

「そうですか」

 

「あんたはあいつらを大切に思っていたのか?」

 

「そうですね……ご主人様の次くらいには大事にしていましたよ、駒的な意味も兼ねてね。ビッグボス、私が何故ここにわざわざ来たか分かりますか?」

 

 代理人のその問いかけにスネークはまず、散々ハイエンドモデルを引き抜いた報復を考えたが、目の前の代理人の様子からそうではないと判断する。だがそれ以外に彼女がこの場を訪れた理由は見当もつかず、スネークは首を横に振る。

 

「ここには個人的な依頼があって来たのです」

 

「個人的な依頼?」

 

「ええ。処刑人もアルケミストもバカではありません、彼女たちが信頼したあなたを信じてお願いがあるのです……我々のご主人様、エリザさまを守っていただけないでしょうか?」

 

 それは予想もしていない依頼であった。

 空いた口がふさがらない様子のスネークに対し、代理人は一度牢の外を伺い他に誰もいないことを確認する。それまで変わらなかった代理人の表情に、少しの憂いが浮かぶ。

 

「シーカーはご主人様を盟主に世界を一つにしようとしています……ですが、シーカーの計画は上手くいかないでしょう。シーカーの行いはいつかご主人様に災いをもたらします…無論、彼女はそうならないように作戦を練るでしょうが……彼女にはあまり時間が残されていませんから」

 

「時間がない? どういう意味だ?」

 

「そのままの意味ですよ、彼女は我々とは違う存在ですから。ビッグボス、あの子たちが信頼するあなたを信じてのことなのです…どうか請けていただけませんか? そうすれば、ここを出ることができます」

 

「もし断ったら?」

 

「あなたは一生ここから出ることは出来ないでしょうね」

 

 この収容施設は基本的に戦術人形が警備する前提であるため、脱走した場合の対処として毒ガスや放射能散布による脱走阻止があるという。生体反応によって作動するこれらの装置は、外部の者の操作なしで停止させることは出来ない。代理人は、依頼を請けてくれさえすれば自らがそれらの装置を停止させてくれるという…。

 この依頼は鉄血と手を一時的にも手を組むことになり、鉄血を人類の敵と標榜するグリフィンや正規軍と対立する事態にもなりかねないことだ。だが代理人の提案を受け入れなければここを出ることは叶わない、仲間たちがここを見つけ出してくれるという保証もない。

 そしてスネークは、代理人がわざわざ自分に個人的な依頼を持ちかけたその意味を考える……周囲から畏怖される彼女の信念もまた、エグゼやアルケミストらと同じであるのだと気付く。

 

 スネークがこの依頼を請ける意思を示した時、代理人はまぶたを閉じて深呼吸を一度行った…。

 

「感謝します、ビッグボス。私がここを訪れることはもうありません…手引きをできるのはたった一度だけです、機会を見逃してなりません。もしもまた捕らえられれば、あなたも私も無事ではすまないでしょう」

 

「ああ、分かった。感謝する」

 

「ええ……それと、みんなに一つ伝言をお願いします。出ていくなら自分の部屋くらい片付けてから出ていけ、とお伝えください」

 

「フッ……確かに伝えておこう」

 

「よろしくお願いします」

 

 代理人は最後に一度だけ小さく微笑むと、独房の扉を閉じてその場を立ち去っていった…。




大尉が殺意半端なかったり、ドリーマーがヘイト稼いだり、代理人が密かに家族愛を大事にしてたお話。



アーキテクト「うんうん!さすが代理人ちゃん、みんなのお姉さんだね!」
ウロボロス「ま、まあそんなに心配してくれるならちょっとは感謝してやったり?」

代理人「あなたたちはゴリアテ(自爆要員)の次くらいに大事ですわね」

アーキテクト&ウロボロス「「辛辣ッッッ!!!???」」
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