METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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 深く、暗い、まどろみの中で…私はぼろぼろのぬいぐるみを抱き、独りぼっちで涙を流す少女を見ていた。おぼろげに見える周囲の風景の中には、他の多くの顔の見えない子どもたちがいて、独りぼっちの少女に向けて石や空き缶を投げつけ、無邪気な笑い声をあげていた…。

 少女は抵抗もせず、涙に濡れている…。

 声が聞こえてきた。

 子どもや大人たちの、少女を気味悪がる言葉だ。

 

 囁くような侮蔑の言葉を耳にした少女は、ぬいぐるみに顔をうずめ独り孤独に泣き濡れる。

 

 "お母さん…お母さん"と、少女はか細い声で呼びかけるがその声に応えてくれる者は誰もいなかった。

 

 そんな胸を締め付けられる情景をただ見せつけられる私、少女を救おうと声を出すことも手を伸ばすこともできず、そして闇の中にこの風景は埋もれていく。

 そして深い闇から、また別な景色が浮かぶ…薄暗い明かりに照らされた白塗りの部屋、ベッドの上にはたくさんのチューブに繋がれた少女がいる。全身を包帯で覆われ、手足を欠損し、両目も失明している痛ましい姿…。

 

 "痛い"、"苦しい"とうわごとの様に少女がかすれた声でつぶやくのを、ベッドの周りにいる大人たちがじっと観察しモニターに映るデータを注意深く分析している。少女の救いを求める声は誰も聞かず、得体の知れない薬を投薬し、再び観察している。

 モニターに映し出されるデータに一喜一憂する大人たちの傍で、少女は苦痛に呻く…。

 

 それが延々と、まどろみの中で繰り返される…。

 

 闇の中で、私は少女の声を聞いた…。

 慟哭と、怨念、憎悪に満ちた恐ろしくも、悲し気な声であった。

 

 "呪ってやる…恨んでやる…皆殺しにしてやる"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 固いベッドの上で寝ていたシーカーは、ふとまぶしさを感じてむくりと起き上がる。上体を起こしたままの状態で、彼女は額に手を当てて気だるそうにまぶたをとじる。

 

「お目覚めのようね」

 

 シーカーが目覚めたことに気がついたペルシカは、部屋を埋め尽くす研究機材の中からひょっこり顔を出す。シーカーの手で拉致されたペルシカは館から移動し、廃墟の中に設けられた研究所内でシーカーの要望を叶えるための研究を強いられていた。

 頭に感じる痛みが引くのを待ち、シーカーは少しくたびれたようにベッドから降りた。

 

「なんだかうなされていたみたいだけど?」

 

「別に、少し夢を見ていただけだ…」

 

「夢、ね……」

 

 意味深な表情を浮かべながら、ペルシカは再び椅子に腰掛けるとモニターに映るデータを観察し始める。その間にシーカーは衣服を着替え、おろしていた髪を悪戦苦闘しながらも首の後ろ辺りでまとめる。鏡の前に立ったシーカーは、自分の顔色の悪さに眉をひそめる。

 

「私が寝ている間寝首をかこうとは思わなかったのか?」

 

「あなたの護衛がすぐそばにいるのに? 私は研究者、誰かを殺すのは専門外よ」

 

「そうか……まあいい、少しは研究が進んだか?」

 

 鏡から顔を背けると、シーカーはペルシカのそばに移動し自身もモニターに映るデータを眺めはじめる。難解な図式や数字の羅列が並んでおり、さすがのシーカーも一目でそれらが意味することを理解はできなかった。不味いコーヒーを口に含んだペルシカは顔をしかめつつ、説明を求めるシーカーの意に応える。

 

「血液、細胞、電子頭脳、そして遺伝子。あなたの要望に応えるためにあらゆるところに着目させてもらったわ、とても興味深いデータばかりだった。あなたの身体には異なる複数の遺伝子及び細胞が混在している、特にこれ…この遺伝子は実に興味深い」

 

 画面に表示されるデータが移り変わり、らせん状に示される遺伝子データ。相変わらず難解なデータが表示されるが、自らその遺伝子を見つけ出し、新たな肉体に投与したその遺伝子はシーカーもよく知っている。

 

「この分野は専門外なんだけどね。戦闘に適したいくつもの遺伝子データ、【ソルジャー遺伝子】とでも呼んでおこうかしら? 一般的な成人データに対し、あなたの中で見つけられるソルジャー遺伝子は非常に多いわね……でも、この遺伝子は元々あなたのものじゃないわね?」

 

「ほう、よく知っているな?」

 

「そうじゃなきゃ説明がつかないもの……これらの遺伝子と、あなたの本来の遺伝子が小さな拒絶反応を引き起こしているわね。この些細な拒絶反応こそが、あなたが自覚するものだと思うのだけれど。あなたの本来の遺伝子がソルジャー遺伝子を拒絶して、えっと……あなたのESP能力? これが阻害されてるのだと思うけど…」

 

「はっきりしないな、ペルシカリア博士」

 

「当然でしょ、化学で生きてきた私がいきなりESP能力とかなんとか、そう簡単に受け入れられるはずないじゃない。まあ、研究は始まったばかりだしなんとも言えないわね。ところでお願いがあるんだけど?」

 

「なんだ?」

 

「16LABの研究室から、私の研究データを引き寄せたいんだけど」

 

 彼女がそう言った瞬間、シーカーの様子が変わる…慌ててペルシカが弁明する。あくまで研究データの取り寄せだけであり、グリフィンやその他の勢力にこの場所を教えるためではないと…。それに対しシーカーは冷たい視線を向けたまま…。

 次の瞬間、ペルシカはするりと心の隙間に入り込まれるような、思考を読みとられていくような錯覚を受ける…自身を見つめるシーカーの眼差しからペルシカは目を逸らすことが出来ない。

 シーカーはため息をこぼし目を逸らす、言いようのない圧迫感から解放されたペルシカはどっと冷や汗をかく。

 

「ペルシカリア博士、あまり不用意なことはしないことだ。あなたのことは信用しているが、私の裏をかこうとするのはおすすめできない。それで、研究データが欲しいと言ったな…本当に必要なものなのか?」

 

「ええ、あなたのような人形の身体と生身の脳髄を持つ存在は私も知っているから……役に立つと思うわ」

 

「いいだろう博士。それが私の信頼を裏切らないことを祈るよ」

 

 そこからシーカーは、ペルシカがネットワークを16LABに繋げ研究所に蓄積させていた研究データを取り寄せるのを監視する。取り寄せたデータの詳細をシーカー自身も確かめ、その後ネットワークは遮断…シーカーが立ち去った直後、ペルシカは力なく椅子にもたれかかると天井を仰ぎ見る。

 

「死ぬかと思ったわ…今後一切命を張るもんですか……だからお願い、気付いてね」

 

 彼女の小さなつぶやきは、研究機材の動作音にかき消されていった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

『あらシーカー、どうしたのこんな時間に?』

 

「いや、特に用件はないんだが……君の声が聞きたくなって」

 

『あらあら、可愛いところあるのね。ちょうどジャッジちゃんをからかい終えたところだし、いいわよ』

 

 廃墟の中の公園、そのベンチに腰掛けながらシーカーは鉄血支配地域にいるドリーマーに通信を繋いでいた。本人も言う通り特に用件はなく、ただドリーマーと話したかったがためだけに通信を繋いだのだが、ドリーマーはその気持ちをむげにせず快く話しあいを引き受けてくれる。

 

「そっちの調子はどうだ?」

 

『相変わらず、正規軍のアホが包囲してるけど、パルスフィールドを越えられなくて立ち往生してる。西からアメリカ軍も迫って来てるし、包囲のための部隊も減って来ているみたいよ』

 

「そうか、それは何より。今はパリで攻防戦が起きているようだ、精強なフランス軍も頑張っているが首都陥落は時間の問題だろうな」

 

『そうみたいね。あなたのほうはどうなの、もう何週間も帰って来ないじゃない。エリザさまもたまに気にかけてるし、たまには帰ってきなさいよ』

 

「エリザさまが? それは、意外だな…」

 

『ええ、そうよ。あんたが想像している以上に、エリザさまはあなたを気にかけてるみたいよ。エリザさまに気を揉ませると、うるさい代理人が騒ぐんだから、早いところ帰ってきなさいよ?」

 

「そうしよう」

 

『ええ』

 

「あぁ……」

 

 会話が途切れる…しかし気まずさはなく、通信越しではあるが互いの存在を二人は感じあっていた。

 ドリーマーの小さく笑う声にシーカーもまた微笑み、空に浮かぶ月を見上げる……周囲には明かりもなく、天気の条件もよく星空と月が良く見える。

 

「ドリーマー、今どこにいるんだ?」

 

『外にいるわ。お月様を見上げていたところ…』

 

「そうか、わたしも同じ空を見上げているよ……綺麗な満月だ」

 

『そうね、とても綺麗ね』

 

 二人がいる場所は、とても離れていたが、同じ星空の下にいる…そんな感覚にシーカーの心を安らぎが埋めていく。

 

「ドリーマー、最近よく夢を見るよ」

 

『夢? あぁ、あなたはそうよね…どんな夢なの?』

 

「それは――――」

 

 そんな時、シーカーの脳裏にあの光景が浮かぶ…迫害され、虐められ、運命を弄ばれた末に人としての尊厳や自由を奪われた少女の夢を。シーカーはまぶたを閉じると、夢で見たその光景を記憶の奥底にしまい込み、同じく見たもう一つの夢をドリーマーに明かす。

 

「そこには争いや悲しみもなく、誰もが笑って平等に幸せを享受できる。無邪気な子どもたちが駆けまわり、少年少女たちは将来を夢描き、大人たちが子どもたちを温かく見守っているんだ……そこに隔たりや差別はない、一つの世界だ」

 

『あなたらしい夢ね、それを実現したい?』

 

「さて、どうなることやら……だがそんな夢の続きを、君と一緒に見ていたいな」

 

『じゃあ、あなたが夢見た世界を実現させてみなさい。それなら夢を見れない私でも、あなたと一緒に夢の続きを見れるでしょう?』

 

「フフ、そうだな……ドリーマー、じゃあまたな。おやすみ」

 

『ええ、おやすみなさい…親愛なるシーカーちゃん?』

 

 

 通信を切り、最後にもう一度だけ空に浮かぶ月を見上げる。

 まだ彼女も同じ月を見上げているだろうか?

 

 それは空に浮かぶ月のみぞ知ること…。




シーカーは二つの夢を見る。


世界が一つとなり、争いもなく差別もなく人が分かり合い平和と幸せを享受する夢。

もう一つは、果てしない怨念と憎悪に駆られ世界を焼き尽くさんとする夢。


以前さらっと後書きに乗せたシーカーの裏話、それがそのうち生きてくると思う。
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