METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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共同戦線

 北はポーランド、南はブルガリアまで。

 1000km以上にも及ぶ戦線が構築されたのは、先日フランスを陥落させドイツ領内ハンブルクまで軍団を進めたことで、いよいよ欧州の覇権国家が米軍を迎え撃つべく本格的に行動を開始したためだ。欧州最強の軍事力を誇る正規軍を主力に、東欧諸国が共同戦線をはりまるで第一次世界大戦時を彷彿とさせるような長大な防衛拠点が築かれ、それはバルト海から黒海まで続くものであった。

 だが、北蘭島事件と第三次世界大戦によって国力が衰退した欧州諸国には、連合した国家の軍だけではこの長大な戦線を維持することは出来ない。長い戦線に配備された軍隊を養うだけの兵站も重要だ。

 それら兵站とE.L.I.D等への対処の他、カバーしきれない軍事的要衝の防衛にはPMCも駆り出される。

 大小様々なPMCがこの戦いに雇われて、地方都市や山岳地帯、森林地帯などの防衛を任されることになったのだった。

 

 MSFのその中の一つであり、MSFはブルガリアとギリシャが接する山岳地帯の防衛を任されたのであった。

 派遣されたMSFはさっそく山岳地帯に陣地を構成し米軍の攻撃に備えるのだが、腰を落ち着けてその場所に防衛拠点を築き上げるためにはいくつかのトラブルに見舞われていた。現場や指揮命令系統の混乱から、度々正規軍より陣地転換の要請を受け、その度に築きかけの拠点を放棄し移動を余儀なくされた。

 まるでいやがらせとしか思えないような要請だが、これだけの長大な防衛線の構築と、今までにないほどのPMCを雇ったことによるトラブルによるものが大きい。

 

 そんなわけでようやく落ち着いて陣地を構成しているわけであるが、MSFが布陣した場所は米軍が大規模上陸したギリシャと極めて近く、激しい戦闘が予想される。そのため、MSFでは先発隊としてこういった特殊環境での戦闘を想定し訓練されたハンター率いる独立降下猟兵大隊が送り込まれることになる。

 部隊名が示す通り、本職は空挺降下だが森林戦・山岳戦・雪中戦においての戦闘及びゲリラ戦に長けている。ハンター自身、そういった特殊環境での戦闘に長け、なおかつビッグボスとグレイ・フォックスという伝説的な兵士に教えを受けたこともある。

 特にスネークは山岳戦が展開された朝鮮戦争への従軍歴があり、ハンターはこの任務を受ける以前に、十分なアドバイスを受けることが出来たのだった。

 

 

「ねえねえハンター、本当にFALの戦車大隊はいらなかったの? アイツ滅茶苦茶張り切ってたのに断られたもんだから凄いキレてたよ?」

 

 

 そういうのは、手に持つ愛用のスコップで固い岩盤の地面を掘り進めるスコーピオンだ。後に来るであろうエグゼの連隊より先行してやって来た彼女は、意外なことに陣地構成を得意とし、ハンター自身が助力を申し出たのである。すっかり自分の銃よりスコップの方が馴染んでいるスコーピオン…I.O.Pの戦術人形は全員銃と烙印システムで結ばれているはずなのだが…。

 

「いや、いいんだ。山岳戦や森林戦では戦車は機動力を阻害される、この環境下では戦車部隊は本領を発揮できないだろう。貴重なFALの戦力だ、他の戦場で使うべきだろう」

 

「まあ、FALのことはMG5が説得したみたいなんだけどさ。それにしても穴掘りばっかりで、ハンターも嫌になっちゃうんじゃないの?」

 

「そんなことは無い、必要なことなんだよ。大昔には大日本帝国のペリリュー島要塞、北ベトナムのゲリラ戦術、それにソ連軍を退けたアフガンのムジャヒディンの戦術も地形を十分に利用したものだ。今日の戦争の形態は100年以上前に確立されている、学ぶべきことは多いんだ」

 

「あらあら、私たちと共闘しているんだからアフガンのことは触れてほしくはないわね?」

 

 そんな言葉と共に二人のもとへやって来たのは、正規軍側…正式には内務省直轄国内軍の特殊部隊であるAK-12とAN-94である。この防衛陣地ににはMSFの他、国内軍の部隊もあり、双頭の鷲が描かれた旗が風になびいている。彼女たちが果たすべき役割、それはすなわち各PMCの監視に他ならない。

 かつてソビエト赤軍内に存在した政治委員のような役割と言ってもいいだろう。

 

「あんた誰?」

 

「自己紹介が遅れたわね。私はAK-12、こっちは相棒のAN-94よ」

 

「あぁ思いだした! わーちゃんが言ってた、いつもまぶた閉じててどこ見てるか分からない変人ってアンタだったんだね?」

 

「お、おいスコーピオン…」

 

 悪びれもなく暴言ともとれることを言ってのけるスコーピオンをハンターは嗜める。言われた張本人であるAK-12は薄ら笑いを浮かべて変わらない表情をしているが、斜め後ろに立つAN-94がしきりに様子を伺っている辺りイラッとさせたのかもしれない。

 そんなことは一切気にも留めず、スコーピオンは気安くAK-12の手を取ると握手を交わすのだ。

 

「まあなんか事情はあるんだろうけど、ここにいる間は味方なんだし仲良くしようね!」

 

「ええ、よろしくね…サソリちゃん?」

 

 怪しい空気が霧散し、ハンターとAN-94は揃って安堵の息を漏らす。

 さて、そんなところで自己紹介を済ませたAK-12とAN-94は来た道を引き返して帰ろうとするがスコーピオンがそれを阻止する。笑顔でスコップを押し付けてくるスコーピオンに、二人は首をかしげるが…。

 

「穴掘り手伝いに来てくれたんだよね? ありがとう、さすが正規軍の人形だね!」

 

「いや、私たちはそんな仕事しないわよ? それに私たちは国内軍の所属で…」

 

「またまた~。そんな意地悪言ったって無駄だよ!」

 

「だからやらないわよ」

 

「あははは、エイプリルフールにはまだまだ早いよ! ほら、時間がもったいないじゃんさっさと穴を掘ろうよ」

 

「ちょ、ちょっとやめなさい…!」

 

「もううるさいな……フルトンどこにしまったかな?」

 

「分かったわよ、やるからそんなの出さないで! フルトンが何なのかくらい分かるわよ!」

 

「アハハハ、流石だね! うちのぽんこつニートとはえらい違いだよ!」

 

「ちっ……覚えておきなさい」

 

 フルトン回収装置をちらつかせられたAK-12は恐れおののき、しぶしぶ渡されたスコップを受け取る。

 巷で有名なフルトン、曰く1時間以上も空中で吊し上げられたりノーパンで吊し上げられたりと良い評判は聞かない。それをやられた瞬間、後戻りはできないだろうと確信したAK-12は大人しく固い地面にスコップをつき入れ、果てしない重労働に駆り出される。

 しかし二人にとっての受難はまだまだ序の口、MSFと関わってしまったばかりにトラブルに見舞われることになろうとは今は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鉄血領域 セーフハウス

 

 鉄血領内の外れに位置する廃墟の中に設けられたその場所に、ある一人の人物が足を踏み入れる。

 鉄血領を囲む正規軍とそれらの侵入を阻むパルスフィールドを避けて入り込んだその男の肩にある部隊徽章と、星条旗が彼の所属を証明する。ひび割れたコンクリートで造られた建物の扉をそっと開き、中を見回す…明かりはついているが人の気配はないように見える、だが大尉はじっと部屋の奥の扉を見つめたままその場に佇んでいた。

 少しして、彼が見つめる先の扉がゆっくりと開かれる。

 扉の向こうから姿を現したのは、不機嫌そうな表情を隠そうともしない黒髪の戦術人形ドリーマーだ。

 

「シーカーに話がある」

 

 土足で足を踏み入れてきた彼に対しドリーマーはさらに気分を悪くし、目の前までやって来た彼を鋭い目つきで睨みつける。

 

「汚い靴であがってくるんじゃないわよ。ヤンキーのルールがどこでもまかり通るとは思わないで」

 

「どけ、シーカーに用がある」

 

 前を遮るドリーマーを押しのけ、扉に手をかけるがそんな大尉に対しドリーマーは銃を向ける。銃を向けられた彼はそっと扉から手を離すと、ゆっくりとドリーマーに向き直る。ありったけの嫌悪感を向けてくるドリーマーを鼻で笑う…そして次の瞬間、ハイエンドモデルである彼女すらも反応できない速度で銃を掴みあげられ、彼の手がドリーマーの首を絞めあげる。

 ドリーマーの小柄な体躯を片手で持ちあげ、宙に浮いた足をばたつかせるドリーマー…掴んでいた武器を手放し、彼の腹部を殴るが彼は微動だにせず、むしろ首の圧迫感にドリーマーの力が徐々に失われていく…。

 

「貴様、何をしている…!」

 

 そこへ現れたのはシーカーだ。

 顔と身体のあちこちを血が滲む包帯で覆われたシーカーが詰め寄ると、大尉は手を離し、ドリーマーの身体は床に崩れ落ちる。何度も咳きこみながら、忌々しそうに見上げるドリーマーを大尉は冷たく見下ろす。

 

「それは脅しのための道具じゃない。今度オレに銃を向けてみろ、お前を殺す」

 

 それだけを言うと、大尉はドリーマーへの興味を失くしシーカーに向き直る。そしてつま先から顔まで、流し見る。血が滲む包帯、青ざめた顔、包帯の隙間から見える焼け爛れた肌…特に顔の右半分を覆う包帯の下ではいまだ出血が止まっていないのか、頬を伝い赤い雫が床に垂れ落ちている。

 

「何の用だ大尉…お前たちにはポーランド国境までの侵攻を指示したはずだぞ! ここでなにをしている!」

 

 珍しく声を荒げているシーカーにドリーマーは目を見開いて驚く。

 

「軍団はミュンヘンに駐留させている、攻勢限界点を迎えた。物資、弾薬、兵員の補充が必要だ」

 

「お前たちには十分すぎる物資を与えていたはずだぞ!」

 

「これまではそれで上手くいっていた、だがここから先は通用しない。相手は正規軍だ、単調な力技では撃退されるだけだ。我々が優勢に立つには、さらなる補充と戦力の増強がいる」

 

「一体何が欲しいというんだ?」

 

「本国の超長距離電磁加速砲(アウトレンジ・レールガン)の起動、自走式強襲破壊兵器の投入、統合作戦指揮権限の譲渡を要求する」

 

「大尉、そんなものをこの私が認めると思うか?」

 

「ならばこれ以上の進撃は不可能だ。陸・海・空の足並みを揃え、強力な火力支援がなければ正規軍に勝つことは出来ん……まあ、それでもやりようがないわけではないが、この戦争を長期的なものにする必要がある。持久戦という形でな」

 

 持久戦という言葉を聞いたシーカーがわずかに表情を曇らせたのを、大尉は見逃さなかった。

 大尉の要求したものを考え、悩んだ末にシーカーは了承する……だが統合作戦指揮権限の譲渡についてはいくらかの制限を課し、それで大尉も納得する。

 

「本国の超長距離電磁加速砲があれば一方的な火力支援を受けられる、フーバーダム以外の発電施設も復旧している、あれを動かすだけの電力は確保できたはずだ。SOCOMを各戦域に投入することも可能になる…Navy SEALs、グリーンベレー、レンジャー連隊」

 

海兵隊武装偵察部隊(フォースリーコン)はどうするつもりだ?」

 

海兵隊(マリンコ)どもは放っておけばいい。奴らはどのみちお前が持っている指揮権限でも制御できん……大統領権限にのみ奴らは従うが、それを下せる政府はもう存在しない」

 

「まあいい、だが少しでもおかしな行動をすれば貴様に与えたものは返してもらうぞ?」

 

「ご自由に。では、話はそれだけだ……簡単にくたばってくれるなよシーカー、少なくともお互い利害の一致があるうちはな」

 

 

 軽く手を振りながら大尉は部屋から出ていった。

 彼が出ていくのを見送った後、シーカーは力なく椅子に腰掛けると頭を押さえてうつむく。前傾になると、流れ出る血が一点に集中し床に垂れていく血の量が多くなる…。

 

「シーカー…」

 

 座り込むシーカーの頬にドリーマーが手を当てると、彼女はゆっくりと顔をあげる。

 血を吸い込み過ぎた包帯が真っ赤に染まっている、それをドリーマーは無言で外していく。包帯をとり濡らしたタオルで、顔を汚す血を拭きとる……目元には目だった傷はないのだが、絶えず流れる血はシーカーの目から溢れているのだ。

 まるで血の涙を流しているような、そんな光景にドリーマーはどう対処していいのか分からず戸惑いを見せる。

 

「包帯はもういいよ、ドリーマー」

 

「でも…」

 

「いいんだ、どのみち意味はない。血の量も少し減って来た、そのうち止まる」

 

 シーカーはそう言って微笑みかけるが、どこか身体の苦痛を精一杯こらえているかのようでその表情は痛々しい。鉄血工造の工廠で直すことも普通の鉄血製戦術人形なら可能であっただろう、だが今のシーカーを治療できる施設も道具も、技術もこの場にはない。今のシーカーは人形より、生身の人間の造りに近い…。

 

「さてと、もう十分休んだことだから行くよ…」

 

「どこに行くの?」

 

「戦場へ…待機状態にある無人機部隊が多くいる。それを動かさなければ」

 

「そんなボロボロの身体で何ができるって言うの?」

 

「そう酷いもんじゃない、火傷も些細なものだし出血はこの目から出てるのだけだ。輸血パックをいくつか持ってれば平気だろう」

 

「そういう問題じゃないでしょ! あんた一体何があったのよ、いきなりボロボロになって帰ってきたと思ったら3日間も眠り続けて、起きたら起きたで意味の分からない症状が出て!」

 

「あー、あんまり大きい声を出さないでくれ、頭が割れそうだ」

 

 冗談ではなく、本当にシーカーは痛むようで顔をしかめている。

 そんな彼女を無理矢理部屋に連れ戻そうとするがシーカーは手を払う。

 

「このバカ! テメェ、散々私には鬱陶しいほど絡んできて…いざ自分のことになったらそんな態度すんのかよ! わたしは、お前の都合のいい遊び道具じゃねえんだよ!」

 

「何言ってる、そんな風に思ったことは無い」

 

「ああそうかよ! じゃあ勝手にしろよ、お前なんか知るか!」

 

 手に持っていた包帯を投げ捨て、ドリーマーはソファーに座り込むとそっぽを向いてしまった。それからは何を話しかけても無視される。仕方なくシーカーはそっとドリーマーをソファーの後ろから抱きしめる…そうすると、彼女は背後から回したシーカーの手に自分の手を重ねる。

 

「今のアンタには何を言っても無駄なんだろうね。アンタの教育係を任されたわけだけど、私の手には余るわ」

 

「ドリーマー、私にはお前が必要だ。一度も君を都合のいい存在だなんて思ったことは無い」

 

「分かってるわよ、そんなこと……ごめんね、あんたにそんな顔をさせたいわけじゃないの。だけど、アンタを心配する私の気持ちも分かってよ」

 

「あぁ……分かってる、分かってるつもりだ」

 

「そう、ならいいの。シーカー、こっちにきて」

 

 背後から腕を回すシーカーをソファーの席に誘導し、そっと彼女を寝かせるとその頭を自分の膝の上にのせる。目元から流れ続ける血が垂れてドリーマーの太ももを濡らすが、彼女は気にせず、ただ穏やかな表情でシーカーの白い髪を撫でる。

 

「シーカー……あんたをこのまま見送ったら、もう二度と戻って来ないみたいで不安だわ」

 

「そうはならないよ。ここが、私が帰ってくる場所なんだから。きっと帰ってくる」

 

「そう。でも今日のところはこのまま休みなさい、あなたの一日をわたしにちょうだい?」

 

「あぁ……いいとも」

 

「嬉しいわ、シーカー。ゆっくり、休んでね……今だけは…」

 

 ドリーマーの指が髪を撫でていく優しい感覚を感じるたびに、シーカーの苦痛が和らいでいくようだった。ドリーマーが髪を撫でるのを心地よさそうに受け、やがてシーカーはまぶたを閉じて眠りについていく…。

 静かな寝息を立てた時、ドリーマーは髪を撫でるのを止め、そっと彼女の前髪をかきあげる……穏やかに眠るシーカーに微笑みかけた後、ドリーマーはそっと彼女の額にキスをした。




この二人、順調にフラグ立ててるな……シリアス的な意味で…。

あと大尉、こいつはヤバい。
登場させた当初はこんなヤバい奴になるとは思わなかったんだよ!


そんでAK-12とAN-94はスコピッピのギャグ属性の餌食になった模様()
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