METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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南欧戦線 後編

 発達した低気圧の影響で猛吹雪に見舞われ、MSF及び正規軍の連合、及び米軍側も戦闘の続行を不可能と判断し双方とも兵を退いた。激しい戦闘で吹き飛ばされた地面を再び雪が覆いはじめ、極寒の寒さの中、兵士たちは久しぶりに銃声の聞こえてこない夜を過ごすのであった。

 ロシア極東程の凍てつく寒さではないが、寒さから体力を消耗し凍傷に罹る者もいるが、それら兵士たちもその夜は穏やかに過ごすことが出来た。

 

 翌日、発達した低気圧は過ぎ去り、気持ちの良い雲一つない青空が広がる。

 太陽の光が降り積もった雪に反射されてキラキラと光る美しい景色……だがそれは、米軍側から放たれた砲撃によってあっという間にうち破られた。

 

「敵の砲撃が強すぎる、こりゃあ本格的な攻撃だぁ!!」

 

「そんなこと言ってる場合かスコーピオン、こっち来て手伝え!」

 

「分かってるってば…って、エグゼ上から来たー!」

 

 スコーピオンが大声で喚き上空を指差すと、あの可変機能を有した無人航空機ドラゴンフライが3機並んでMSFの陣地に対し急降下してきた。陣地に設置されていた対空機銃と対空ミサイルで迎撃を試みるも敵側の速度は早く、迎撃準備がとられる前に機銃掃射とロケット弾を撃ちこんできた。

 さらにもう一機、大型の無人航空機が空を旋回し巨大な爆弾を投下する……その爆弾は地面に到達する寸前で起爆、凄まじい爆発と炎が周辺一帯を包み込むと同時に、すぐそばにいた兵士を圧死させるほどの衝撃波を放つ。

 数百メートル離れた位置にいたスコーピオンとエグゼでさえも、その衝撃波によって転倒するほどであった。

 慌てて起き上がった二人が見たのは、起爆地点に発生したキノコ雲だった…。

 

「ぎゃあぁぁ!!核兵器だ、エグゼどうしよう!?」

 

「ふざけんなよコラ! 鉛の鎧なんてもってねえぞ!」

 

 喚き散らす二人に対し、後ろから走ってきたAK-12が勢いのまま二人を蹴飛ばして鎮める。

 

「落ち着きなさい、あれは核爆弾じゃない、米軍のM.O.A.B(全ての爆弾の母)よ。軍の部隊もあれで攻撃されたわ、おまけに前線の部隊が奴らの巨大兵器の攻撃を受けて壊滅した……ここが正念場ね」

 

「こっちも精鋭部隊をぶつけるよ! それに、サヘラントロプスがもうすぐ配備されるからね!」

 

「サヘラントロプス? まあよく分からないけど、それよりあいつら誰なの?」

 

「あぁん?」

 

 AK-12が指さした方向には、破壊されて放棄された戦車の上に立ち高々と笑うセーラー服を着るいやに見覚えのある鉄血人形がいるではないか。彼女を見た瞬間エグゼは即座に知らないふりをしようとしたが、見つかってしまい奴は笑顔で手を振ってくる。

 

「おーーい処刑人ー! 助けに来てやったぞー! 1時間につき1000GMPでどうだー!?」

 

「うっせえ、おとといきやがれ蛇女!」

 

 さりげなく金をとろうとするウロボロスに中指を立てて怒鳴り散らす。

 その後彼女はグレイ・フォックスの手で戦車から引きずり下ろされ、再び高笑いをあげたと思えば戦場に向けて突っ込んでいった…よく分からないが、あんなのでも味方になれば心強い存在だ。じっと、様子を伺うAK-12の視線が気になるが、あれはあれで放っておくことを二人は決める。

 

「それで、正規軍はどう動くつもりだ?」

 

「このあいだいくつか部隊が北部に引き抜かれてしまって、単独で奴らを撃退できる戦力はないわ。MSFと足並みを揃える必要があるわね」

 

「そこはエイハヴがやってくれると思うよ。正規軍の司令官と何回か話しあいをしているみたいだし……っと、そう言ってる前に方針が決まったみたいだねエグゼ。正規軍が動くよ、あたしらも攻撃開始だ!」

 

 

 

 

 

 米軍の砲撃と空爆が激しさを増していく。

 負けじとMSF及び正規軍の連合軍も砲弾を撃ち返し、正規軍の航空戦力も投入され熾烈な攻防戦が繰り広げられる。砲撃戦においては連合軍側が優勢だが、空の戦いでは米軍側が有利か……滑走路を必要とせず、短時間で高速飛行を可能とするドラゴンフライの機動力と神出鬼没な攻撃によって戦闘機は撃墜されていく。

 航空優勢下において米軍航空無人機は地上部隊への攻撃を行い、多数の火砲と戦車、移動車両等が撃破される。

 

 もちろん、対空ミサイル等による迎撃もなされるが敵の数が圧倒的に多いのだ。

 さらに空ばかりに目を向けてもいられず、多数の米軍戦術人形が地上から攻撃を仕掛けてくるのだ。山道をつき進むのは強力な武装を持つマクスウェル戦車だ、それが突破口を開き後続の戦術人形たちが突破口を押し広げていく。

 これまでの攻勢と一つ違うのは、米軍部隊の中に現われはじめたシーカー直属のエリート戦術人形オーダーが姿を現し始めたことだ。

 

 

「シーカーの奴の手先か…上等じゃねえか!」

 

 

 戦線に現われたオーダーを見たエグゼは獰猛な笑みを浮かべながら、ブレードを手に構える。

 対峙するオーダーもまた近接武器を構えるエグゼを見てか、銃をしまい腰の剣を抜いた……主人に似て騎士道精神を重んじ正々堂々戦うことを誇りとするオーダーに、エグゼは苛立たし気に眉をひそめる。

 地面を蹴り、突進してくるオーダーをぎりぎりまで見極め、最小限の動作で躱す。そのままオーダーの頭部を掴み、おもいきり地面へと力任せに叩きつける。だがオーダーは即座に起き上がり、まるで痛みを感じていない様子……そもそも痛覚を意図的に鈍くしている可能性もある。

 

 次にオーダーが動きだした時、エグゼは視界の端よりきらりと光る物体を捉え咄嗟にしゃがんで避けた。

 エグゼの頭をかすめたのは地面に転がっていたナイフだ…投擲されたものではない、オーダーが主人であるシーカーより預かり得たESP能力の一つ【サイコキネシス】を応用したもの。オーダーが投げたナイフはサイコキネシスによって軌道を変え、避けるエグゼを追尾する。

 

「くそが…鬱陶しいんだよテメェ!」

 

 執拗な攻撃に怒りを露わにしたエグゼは自分の体が傷つくこともいとわず、オーダーに向けて走りだす。

 サイコキネシスで操られたナイフの切っ先が、エグゼの背中を貫くが彼女は止まらない……強烈な踏み込みからの斬撃、エグゼが得意とする瞬発的な力と早さの重い斬撃を防ごうとしたオーダーは、ブレードを受けた剣ごと真っ二つに斬り裂かれるのであった。

 

「おい、シーカー! テメェ、見てるのか? おい、どうなんだ!」

 

 斬り裂いたオーダーを見下ろし、その背後にいるであろう存在に問いかけるが、オーダーは何も話さずその眼から光が消えた。

 

「エグゼ、おい大丈夫か!?」

 

「ハンターか、シーカーの部下が出てきやがった。他のところはどうだ?」

 

「他も同じだが、そこまで多いわけじゃないようだ。それより敵の巨大兵器だ、あいつらの勢いが止められないんだ!」

 

「オレもすぐ向かう、サヘラントロプスはもうすぐ到着するはずだそれまで持ちこたえるぞ!」

 

 

 今や戦線はどこも苦境に立たされている。

 中でも米軍が巨大兵器を投入してきた戦線は強大な正規軍の部隊が多数展開されているというのに、敵の圧倒的戦力の前に損害が増え続けていた。攻勢を受ける戦線の援護として駆けつけたスプリングフィールドもすぐに戦闘に加わる。

 正規軍の装甲兵器ハイドラがすぐそばを進むのを見つつ、彼女は迫りくる敵の戦術人形を撃破していく。

 マクスウェル戦車や大型戦術人形ジャガーノートといった重装甲の相手では、スプリングフィールドの武器は何の打撃も与えられない…それらの固い相手は正規軍に任せ、スプリングフィールドは比較的装甲の薄い戦術人形やサイボーグ兵士を狙い撃つ。

 

「スプリングフィールド、ここはもう持たない、後退だ!」

 

「待ってください、まだ味方部隊が!」

 

 仲間の兵士が撤退を促すが、敵の砲火に晒されて戦場に孤立した味方部隊が存在する。

 何度か救助を試みようとするも敵の弾幕が激しくなかなか近付くことが出来ない、そんな時敵の弾幕がややおさまったのを見計らい彼女は救出のために飛び出すが、山に響き渡る巨大な咆哮に足をとめる…。

 咄嗟に見上げた先には、4本の巨大な足で重厚な身体を支える巨大兵器の姿があった。

 古代の恐竜をそのまま機械化したような外観の巨大兵器は、大木を薙ぎ倒しながら、無数に取りつけられた機銃や速射砲を地上の部隊へと向け一斉射した。逃げ遅れた兵士も、正規軍の強力な装甲兵器もことごとくを薙ぎ倒し破壊……圧倒的な力を目の当たりにしたスプリングフィールドは完全に足がすくんでいた。

 だが巨大兵器の赤く光る眼光に捉えられたとき、ハッとして急ぎ後方へと退く…。

 

 走りながら後ろを見た彼女の瞳に映ったのは、背部のハッチが開かれ多数のミサイル弾が発射されるところだ。高々と上がったミサイルは弧を描き地上に向けて迫る、一発一発が装甲兵器を粉砕する威力を持つミサイルが地上のありとあらゆる兵器を破壊した。

 そのうちの一発に追尾されていたスプリングフィールドは爆風に吹き飛ばされ、激しく岩場に叩きつけられる…。

 

 銃を支えに立ち上がる彼女に一体の軍用人形が襲いかかる。

 彼女の首を掴みあげた人形はもう片方の腕に装着したブレードを展開、もがく彼女を強烈に絞めつけて無力化し、ブレードの刃を向ける。

 

「させるか!」

 

 今まさにブレードの刃が彼女を貫こうとした時、放たれた対物ライフルの弾丸が彼女を掴む人形の頭部を撃ち抜き破壊した。絶体絶命の危機に駆けつけたのはエイハヴだ、彼は投げ飛ばされたスプリングフィールドを両腕で抱きとめると、彼女の無事にホッとした表情を見せた。

 

「あ、ありがとう…ございます、エイハヴさん…!」

 

「間にあって良かった。怪我はないか?」

 

「えぇ、おかげさまで……もう一度お礼を言わせてください、ありがとうございます…」

 

「どういたしまして」

 

 互いに見つめ合い微笑む、スプリングフィールドはさりげなく腕をエイハヴの首に回そうとしたが、怒り心頭のエグゼとスコーピオンがこの場へやってくるのを見てやめた。

 

「あのクソボケが! よくもやりやがったな!」

 

「絶っっ対ぶっ壊してやるんだから!」

 

 怒れるエグゼとスコーピオンは対戦車ミサイル、ロケットランチャー、りゅう弾砲など多数の重火器を取り揃えてその照準を敵の巨大兵器に向けると、一斉にそれらを撃ちこんだ。そこへ正規軍の部隊も便乗して攻撃を仕掛けるが…放たれる砲弾やミサイルは、巨大兵器へ直撃する前に壁のようなものに阻まれる。

 

「ちくしょう、何なんだよあれ! 全然効いちゃいねえ!」

 

「フォースシールドだよね、あれ! 絶対そうだよね!? またチートかよ、ふざけんな!」

 

「落ち着けお前ら! 捕虜にしたアイリーン上等兵曹によれば、あれは合衆国陸軍の【自走式強襲破壊兵器ベヒモス】だ」

 

 捕虜となったシールズのアイリーンから得た情報によれば、あの巨大兵器ベヒモスは広大な範囲をカバーできるフォースフィールドという特殊なバリアを形成することができ、無数の兵器を搭載している凶悪な兵器だという。

 そんな相手にどう戦えばいいのだと困惑する二人に対し、エイハヴは笑みを浮かべた。

 

「まったく対抗する手段がないわけじゃない、オレたちの最大の抑止力……そのためのサヘラントロプスだ」

 

 エイハヴがそう言ったと同時に、地面が揺れた…咄嗟に振り返り見たのは、ヘリから降ろされたばかりのサヘラントロプスが陣地上で鎮座している姿であった。二足歩行形態のままサヘラントロプスは歩みを進め、味方部隊の前に立ちはだかるように進みでると、そこで折り畳まれた機体を展開させ直立二足歩行形態へと姿を変えた。

 

 

「来た! あたしたちの守護神、メタルギア! やっちゃえ、サヘラントロプス!!」

 

 

 スコーピオンの声に呼応するかのように、サヘラントロプスは大きな咆哮をあげた。 

 鋼鉄の巨人を前にした鋼鉄の巨獣ベヒモスもまた狙いをサヘラントロプスへと変え、巨大な咆哮を返す……それを合図に突進していったサヘラントロプス、ただ歩くだけで足下の米軍戦術人形たちは蹴散らされ、あの凶悪なマクスウェル戦車でさえも一撃に踏みつぶされていく。

 サヘラントロプスの圧倒的質量から放たれる突進は、やはりあのフォースフィールドに阻まれるが…。

 

「す、すげぇ…! あのシールドを強引にこじ開けてやがる!」

 

 サヘラントロプスはベヒモスのシールドに対し肩部のレールガンを零距離で射出し、そこに生じた綻びに打撃を叩き込んで強引に粉砕する。強力な攻撃によってシールドは強制解除され、そのままサヘラントロプスの体当たりを受けたベヒモスは大きくよろめくのであった。

 横たわる巨獣を踏みつける巨人、そんな時、敵の無人航空機が飛来しサヘラントロプスに攻撃を仕掛けてきた。

 多数のミサイルがサヘラントロプスに命中し爆発を起こす、衝撃で揺れるサヘラントロプス……なおも攻撃を仕掛けようとするドラゴンフライの編隊であったが、突如別な航空機が飛来し機銃掃射によって撃墜されていったではないか。

 

 

「Mig戦闘機…? 正規軍か? いや、あれは……」

 

 

 機体は正規軍が運用する兵器とほとんど同じだが、そのカラーリングと機体側面に描かれた赤い星を見たMSFの兵士たちは、心強い助っ人がついに駆けつけてくれたことを察し歓喜した。

 

 

「ユーゴ連邦の航空機! やった、ついに参戦してくれたんだ!」

 

「よっしゃ!! イリーナの奴め、やっと軍部を説得してくれたんだな!」

 

 

 ユーゴスラビア連邦軍参戦、同じ規模の正規軍に匹敵する軍事力を持つバルカン半島の強国が対米戦に加わることになればそれは戦況を大きく変えるだろう。連邦軍が参戦することは正規軍も全く予期していなかったのか、いつも冷静であるAK-12も驚きを隠せない様子だった…。

 

「連邦軍が動くなんて……MSF、あんたら何者なの?」

 

「へへーん、今までの積み重ねだよ! さあ、行くよみんな!」

 

 戦況は大きく連合側に傾いた、今こそ反撃の時だ。

 

 

 無人機の攻撃でサヘラントロプスが怯んでいた間、ベヒモスは起き上がり体勢を整えていた。それからベヒモスは後脚と尻尾を軸にして大きく上体を起こす、立ち上がった姿はまさしく古代の恐竜のようであり、その大きさはサヘラントロプスを凌駕する。

 そのままベヒモスは倒れ込み、サヘラントロプスを押し潰す。

 二つの巨大な身体がぶつかり合うことで生じる衝撃波は凄まじく、運悪くそばにいた者は下敷きにされてしまう。

 

 のしかかるベヒモスは至近距離から砲撃を浴びせ、さらに身体を叩きつける。だがサヘラントロプスも負けていない、のしかかるベヒモスの頭部を握り込んだ拳で撃ち抜くと、腕に取り付けられたパイルバンカーを叩き込む。タングステン合金製の杭を撃ちこまれたベヒモスは大ダメージを受けてのけぞり、そのまま起き上がったサヘラントロプスに弾き飛ばされる。

 まるで異次元の戦いを繰り広げる様を、AK-12は静かに見据えていた……いや、非現実的な戦いに思考停止しているようだった。

 

『高エネルギー探知、総員注意セヨ』

 

 サヘラントロプスより、合成音声で造られた警告が発せられる。破損したベヒモスは頭部を大きく開口し、そこから突き出た砲口をサヘラントロプスに対し向ける。収束したエネルギーによって真っ赤に光る開口部、サヘラントロプスが装着した盾を構えた瞬間、ベヒモスより強力なレーザーが発射された。

 マクスウェル戦車が持つレーザーキャノンとは比べ物にならない威力のレーザーに、サヘラントロプスの盾が融解していき、大爆発を引き起こす。

 

『レールガンチャージ…』

 

 膝をついたサヘラントロプスにダメ押しのレーザーを放とうとするが、あれだけの威力のエネルギーを集めるためには時間が必要であった。サヘラントロプスのレールガンのチャージが先か、ベヒモスのエネルギー充填が先か…。

 先に動いたのはサヘラントロプスだった。

 サヘラントロプスは起き上がりざまにベヒモスの頭部を真下から蹴り上げると、ミサイルを撃ちこむ。

 負けじとベヒモスもミサイルを撃つが、ハッチを開いた瞬間をサヘラントロプスの機銃掃射を受けてミサイルが誘爆し背部で爆発を起こす。

 

『チャージ完了』

 

 勝負は一瞬で決まった。

 先にチャージを終えたサヘラントロプスのレールガンより放たれた砲弾が、ベヒモスのエネルギーを収束させる開口部へ命中し、ため込んだエネルギーが暴発し大爆発を起こしたのだ。爆発は連鎖し、巨大兵器ベヒモスは内部から爆発して吹きとばされる…。

 

 

 

 

「よっしゃあ! サヘラントロプスが勝った!」

 

「見てエグゼ、米軍部隊が退いていくよ!!」

 

 ベヒモスが破壊されると同時に米軍部隊は撤退をし始める。サイボーグ兵士も戦術人形も、次々に退却をしていく。正規軍はなんとか残った部隊を再編成し追撃を仕掛けるが、MSFにはさすがに余力は残されていなかった。

 雄たけびをあげるサヘラントロプスにMSFの兵士たちは集い、歓喜の声をあげていた。

 その他、多数のMSF無人機たちも集まりMSF無人機の王サヘラントロプスの勇姿を称えるのだ。

 

 まだ戦いが終わっていないというのに戦勝気分なMSF、だが初めて得られた明確な勝利に誰もが喜びを表現していた。

 

「おいお前たち、大ニュースだぞ!」

 

 そこへやって来たエイハヴに、まさか悪いニュースではと一気に青ざめる。

 エイハブの深刻そうな表情から、何かとんでもないことが起こったのではと予感する。みんなの視線が集まるなか、彼は固い表情で言った…。

 

 

「ワルシャワを攻撃していた米軍部隊が撤退を始めた……東欧戦線で、正規軍が勝利したんだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大尉、お電話ですよ」

 

「あぁ、今行く」

 

 薄暗い室内から窓の外を眺め見ていた大尉は、部下の軍曹から通信端末を受け取ると落ち着いた声で応答する。しかしそんな彼の声とは対照的に、端末の向こうからは怒気を孕んだ声が返ってくる。

 

『大尉、貴様どういうことだ…! 何故部隊を撤退させている!』

 

「これはこれはシーカー嬢、大層ご機嫌斜めな様子で…」

 

『ふざけるな貴様! お前が部隊を後退させたせいで攻勢計画がとん挫した、一体何の真似だ!?』

 

「言っただろう、攻勢限界点を迎えていたとな。我々には十分な物資と時間が必要だった、それを無視して攻撃させたのはお前だろう。ゲリラやパルチザンの活動で補給路は遮断される、一度後退し立て直さなければならない」

 

『撤退は許さない…さもなくば貴様に与えた無人機の指揮権限は全て返してもらうぞ! いいか大尉、これ以上部隊を撤退させることは認めない! 私が向かうまでそこを動くな!』

 

「そうか、ではお待ちしているよ…………ふん、バカな小娘だ」

 

 大尉は通話を終えた通信端末を軍曹へ投げて帰すと、室内の通信機のマイクをとる。

 

「デルタチーム、装備を整え集合せよ。特殊作戦を開始する…」

 

 短く命令を済ませた大尉は通信機の電源を切ると、自らも出撃のための準備を整える。

 

「大尉殿、オレはここに残ってあのお嬢さんを接待する。大尉はあそこにお邪魔して欲しいものをいただく、これでいいですかね?」

 

「そうだな。既に海兵隊武装偵察部隊(フォースリーコン)が現地に向かっている、イラつくが海兵隊と共同作戦だ……48時間だ、それを過ぎたらお前はジブラルタルに向かえ」

 

「了解、あの女はどうします?」

 

「やれるならやれ、もう必要ない……健闘を祈るぞ、軍曹」

 

「ご武運を、大尉殿……」







たぶんこっから先、胸糞&鬱展開注意…かな?

五章ラストで散々ヘイトを集めた彼女が悲惨なことになるなんて……諸行無常、、、


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