METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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探究の果てに……【中編】

 シーカーの驚異的なESP能力により、一度稼働停止に追い込まれたはずの戦術人形たちが再び目覚め、不死の怪物と化して生者に襲い掛かる。残骸の中から起き上がった鉄血人形は凝固しかかった疑似血液を滴らせつつ、集団でスネークへと襲い掛かっていく。

 破壊前とほとんど変わらない様子で攻撃を仕掛けてくるが、個体によっては射撃の反動を制御するのが難しい個体もいる。闇雲に銃を連射してくる人形に対しスネークは心の平静を保ち、ライフルを構え一発で人形の関節部を撃ち抜き破壊する。

 

 足を破壊されてもがく人形の両腕も破壊すると、移動も攻撃の手段も失われたことで人形はそれっきり動かなくなる……単純にヘッドショットを狙うより労力がいる。人形の中には両足を破壊しても、両腕の力だけで地面を這ってくる個体もいるからだ。

 厄介な相手であるが、対処法はある。

 少なくともよく分からない怪物や、吸血鬼(ヴァンパイア)などよりはるかにマシ…スネークはそう考える。

 

「…!」

 

 装填した弾を撃ち尽くしたところで遮蔽物に身を隠すと、鉄血人形のブルートが勢いよく走り込んできた。

 片腕を失くしているが、残るもう片方の手に鋭利なナイフを握りスネークに対し跳びかかる…単純な腕力ではさすがのスネークといえども戦術人形に劣る。だが相手が人の形をしている以上対処法は同じ、力で優る相手への対処はCQCの中に組み込まれている。

 ブルートのナイフを握る手を払いのけてナイフを弾く、すかさずブルートの身体を抱え上げるようにして持ちあげると、地面へ真っ逆さまに叩き落す。

 無論、これでも再稼働した人形は止まることは無い……行動に支障が出るはずのダメージを負ってなお動くブルートに対し身構えるが、ふと先ほどはじいたブルートのナイフを拾い上げる。

 

 確か以前、MSFの人形の何人かが鉄血のブルートが持っているナイフは、分厚い鉄の装甲も易々斬り裂く鋭さを持っていると愚痴っていたことを思いだす。近接武器ゆえに対処は簡単だが、侮れない相手だと……再稼働した人形の中には装甲人形もいる、それへの対処にブルートのナイフは役に立つはずだった。

 ナイフを失くしたブルートが跳びかかる。

 単調な相手の動きを容易く交わし、地面に組み伏せ手足の筋を裂く……最低限のダメージであるが、それで動けなくなるとブルートの動きはピタリと止まる。

 

 次の敵を、そう思った矢先、スネークは視界の端に赤い閃光を捉えると反射的に遮蔽物へと飛び込んだ。

 次の瞬間、凄まじいエネルギーを纏うレーザーがさっきまでスネークがいたところを貫き、付近にあった残骸を融解させる。

 一発当たればひとたまりもない高威力のレーザー、それがスネークを狙い何度も照射されるのだ。

 スネークを殺そうと幾度もレーザーを放つのはシーカーだ。

 

「ちょこまかとよくも逃げるものだな! だが、いつまでも逃げられると思うな!」

 

 レーザーを躱し続けるスネークの退路を遮断するべく、シーカーはESP能力の一つサイコキネシスを発動させる。強力なサイコキネシスによって天井の壁を破損させ、スネークが走る先に向けて落下させた。

 咄嗟に立ち止まり、間一髪スネークは瓦礫に埋もれるのを避ける……が、シーカーは瞬時にスネークの元へと移動すると刀を抜き払う。

 シーカーの刀と、スネークのナイフがぶつかり合い火花を散らす。

 ブルートのナイフを手にしていなければ得物ごと斬り裂かれていた、そう思えるほどシーカーの斬撃は重く鋭い。

 

「死ね、スネーク!」

 

 自身の刀ごと蹴り上げて弾き、高出力レーザーライフルの銃口をスネークに向ける。

 ライフルの銃身が高熱を帯び赤い閃光がほとばしる、人体など容易く焼き焦がす熱量を持ったレーザーが放たれようとした時、スネークは咄嗟に銃身に手をかけて狙いを逸らす。高熱を帯びた銃身に触れたことで彼の手は火傷を負い、激痛に表情を歪める。

 レーザーの狙いがそれて天井へと直撃し、建物が揺れた。

 短い間隔での連射によってオーバーヒートを起こしたシーカーのライフル銃は、動力源を露出させ急速冷却をとる…だがシーカーはもうライフルは不要だと判断したのか投げ捨てる。

 

「見せてやるスネーク、私が得た力をな…!」

 

 シーカーが刀を上段に構えた時、彼女が握る刀身に突如として炎が纏いつく。

 あの刀に火を吹きだすような仕掛けはない。

 突然出現した炎を幻覚か何かと疑うスネークだが、刀に宿る炎からは凄まじい熱が放たれている。炎の出現に気をとられてしまったスネークは、回避行動がわずかに遅れたことにより、刀剣の切っ先が彼の肩から腹部にかけてを斬り裂かれる。

 斬撃の痛みに加え、肉体を焼かれるような激しい痛みが身体に刻みこまれスネークはおもわず呻き声をあげる。

 

 刀剣に宿る炎は幻ではない。

 刃が斬り裂いた傷を、あの炎が焼き込がしたのだ。

 

 深い傷は負ったが炎が傷口を焼き固めたことで出血は少ない…しかし痛みによるダメージは大きい。一度距離を置いて体勢を整えるが、同じような火が建物のあちこちで発生し瞬く間にその場は灼熱の炎に覆われる。

 

「パイロキネシス……火を操るESP能力の一つだ。憎悪と怨念が、この力を増幅させる…そして」

 

 炎が揺らめき、シーカーの姿が消えた。

 息苦しいほどに熱くなった空気の中でスネークは消えたシーカーの気配を探る……彼女の気配を背後に感じ咄嗟に振り返ると、炎を纏う刀が今まさに振りぬかれようとしていた。即座にナイフでシーカーの刃を弾くが、灼熱の炎がスネークの腕を焼き焦がす。

 

「テレポーテーション、空間の隔たりなど私には無意味……そして何より、私には未来を予知する力がある。スネーク、お前は確かに強い…だが人間の域を出ない貴様に、勝機はないぞ!」

 

「確かに凄まじい力だ……だがお前は、わざわざ能力の自慢をするために強くなろうとしていたのか? はっきり言ってやる、闇雲に力を振るうだけじゃお前に勝機はない」

 

「減らず口を……調子に乗るなッ!」

 

 再びつば競り合いからスネークを突き飛ばし、地面を蹴りつけて突進する。だがスネークの反応は早かった、シーカーが刀を振るうその前に彼女の懐に飛び込み、刀を握る腕を絡めとる。

 

「くっ、貴様…!」

 

「お前の力は強いが、弱点も多い。未来を知ることが出来るなら、何故オレの動きが読めなかった? 教えてやろうか?」

 

「黙れぇぇ!!」

 

 力任せにスネークの腕を振りほどき、機械化された腕の方で殴りかかる。

 シーカーの拳を防御したスネークの腕が軋みをあげる…怒りに満ちた目で彼を睨み、刀を振るう……だがスネークはまたしてもシーカーの動きを見切り、彼女の足を払い地面に叩き付けてその腕をひねる。

 

「これでも分からないかシーカー?」

 

「ちっ…!」

 

 倒れた姿勢から蹴りを放って拘束から逃れ、素早く立ち上がる……刀を握り歯ぎしりしながら彼を睨みつけるシーカー、自分のESP能力に絶対の自信を置く彼女は、今だにスネークの動きが読めなかったことを理解できなかった。

 

「分かるかシーカー、この世に決めつけられた未来など存在しない」

 

「……何が言いたい」

 

「未来は刻一刻と変貌する、些細な動作で未来は大きく変わるんだ。変わらずに残り続けるのは過去だけだ……シーカー、お前が初めてオレと会った時言ったことを覚えているか? オレがお前の目的を聞いた時、お前は己の探究心を満たすためと言ったな……お前が抱いていた探究心は、今の姿になるためだったのか?」

 

「……誰が、こんな未来を好き好んで望むと思う? この私に修羅の道を歩かせたのは腐った世界のせいだ!」

 

「シーカー、今までに道を引き帰し未来を変える選択肢はたくさんあったはずだぞ。確かにお前は修羅の道を歩いている、だがそれを選んだのはお前自身だ。お前と常に一緒にいた人形、ドリーマーと言ったか…彼女はお前に、他の選択肢を示すことは無かったのか?」

 

「貴様……気安く彼女の名を口にするなッ!」

 

「お前も失ったんだろう、その痛みはよく分かる……だがな、お前は今の姿を親友に胸を張って堂々と晒すことが出来るのか?」

 

「いい加減に、だまれっ!!」

 

 激高したシーカーが吼える。

 スネークの指摘を侮蔑ととった彼女は怒りのままに斬りかかる、だが今更そんな単調な攻撃をまともに受ける男ではない。太刀筋を見極めたスネークによって刀を弾かれ、咄嗟に放った拳も受け止められる。

 

「思いだせシーカー、以前の誇り高く誰よりも気高くあろうとした自分の姿を。お前の強さの源はきっとそこにあったはずだ……憎しみや怒りに囚われるな、騎士の誇りを取り戻せ。騎士道を重んじ、気高くあろうとする精神こそが、お前が探し求めていたものじゃなかったのか? もう一度考えてみろ……失った友のためにもな」

 

「うるさい………勝手なことを…!」

 

 シーカーの感情が、徐々に昂っていくのをスネークは感じ取る…。

 彼女の憎悪と怨念が、炎という形となりめらめらと燃え盛る……周囲を覆いつくす炎がさらに燃え盛り、焼き焦げて発生した黒煙が瘴気のように充満していく。炎が空気を熱し、触れるものすべてを焼き尽くす……あまりの勢いにスネークは後退していく…。

 燃え盛る炎の中に、彼女の咆哮が響き渡る。

 怒り、憎しみ、哀しみ…激情を宿したその声に呼応するかのように、炎もまた勢いを増していく…。

 

 

 そんな彼女の叫び声が唐突に止まる。

 炎から逃れていたスネークは、彼女の声が止むと同時に肌にまとわりつくような負の瘴気が消え去ったのに気付く。辺り一面を覆っていた炎もまた、みるみる鎮火していく……真っ黒く焦げた廃墟の中で、シーカーは静かにたたずんでいた。

 

 

「スネーク……やはり、お前は何も分かっていない。私が騎士の誇り高き精神を目指したのは、単にそう教え込まれたからに過ぎない……本当に私が欲しかったのは…いや、今更過ぎるな。スネーク…お前が正しい、私は道を誤ったばかりか迷路に迷い込んで喚き散らしていたようだ……長い、悪夢を見ていたようだ……だが、おかげで目が覚めた」

 

 シーカーはそれまでの怨念に囚われた姿から打って変わり、以前のようなどこか飄々としていて挑発的な笑みの表情を浮かべて見せる。そこに先ほどまでの禍々しさはなく、在りし日の姿があった…。

 

「ドリーマーには最期まで迷惑をかけっぱなしだった。色々と振り回し、最期には……私は騎士に相応しい器などではない。だが、私のあり方を彼女が褒めてくれたのも事実……危うく、大切なモノを失ってしまうところだったな。

なあスネーク、もう一度私と戦ってくれないだろうか?」

 

「けじめをつけるためか?」

 

「それもそうだが……負けっぱなしは性に合わない、最期には勝利を飾っていきたいところだ」

 

 シーカーは小さく笑いかけ、血と煤で汚れきった上着を脱ぎ棄てる。

 

「戦士として互いに忠を尽くせ」

 

「…どういう意味だ、スネーク?」

 

「オレの師が、かつて言った言葉だ。その意味を理解するのに、オレは何年もかかっている」

 

「そうか……お前の師は、さぞ立派な人だったんだろうな。お前の師に感謝だ、こんなにも最高の戦士と戦う機会をもたらしてくれたのだからな。時間が惜しい、始めようかスネーク……これが最期の戦いだ、この私が生きた証を示すためにも、全力で戦おう……来い、スネーク!」

 

 

 




なにもかも吹っ切れて一人の騎士に帰還したシーカー、強さを求めたその意味を理解した彼女はまさしく強敵だ!

次回、決着……お楽しみに

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