METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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探究の果てに……【後編】

 地中海 

 

 攻撃を受け、炎上するアメリカ軍の艦隊。

 ほぼ全ての艦艇は攻撃を受けて大破炎上、あるいは船体を傾かせ沈没しかかっている。

 その中で唯一、ほぼ無傷な状態で海上に浮かぶ旗艦の強襲揚陸艦……しかしその揚陸艦からは自爆までの時間を読みあげる音声が鳴り響いている。

 甲板上にはいくつもの無人機の残骸、そして戦死した兵士の死骸が横たわる。

 船内も同様に、あちこちに死体が倒れている……生存者はいないかに思えるその艦艇の通信施設にて、椅子に深々と腰掛ける男が一人。身じろぎ一つせず佇む姿はまるで死人のようであったが、通信装置が作動するとゆっくりと動きだす。

 手を伸ばし、通信を繋げると再び彼は椅子に深々と腰掛ける。

 

 

『――――――アーサー……聞こえるか、アーサー大尉』

 

「………聞こえております、大佐殿」

 

『久しぶりだな』

 

「17年と、120日ぶりです……大佐、データの受信は出来ましたでしょうか?」

 

『ああ、しっかりと受け取った。私も軽くしか見ていないが、十分なデータだ…無人機の戦闘データ、崩壊液を代謝するメタリックアーキア、サイボーグ兵士たちの戦闘記録、これは次世代機の開発と新たなサイボーグ技術に大きく貢献できるだろう。よくやったアーサー大尉、君とその部下たちのおかげで今回の大規模演習(・・・・・)は無事成功をおさめたわけだ』

 

「光栄であります、大佐」

 

『ここからは個人的なやり取りだ、アーサー……帰還は困難かね?』

 

「生命維持装置をやられました…間もなく私は死を迎えるでしょう」

 

『そうか……君にアレを押し付けたばかりにこんな結果になってしまうとは、申し訳ないことをしたな。90wish、あの組織に潜り込ませた工作員がしくじらなければ……おかげでいくらか計画に遅れが出てしまった』

 

「致し方ないことです大佐……大佐、私は任務を全うしました。これで、我々は……アメリカは再び甦る、そうですよね?」

 

『その通りだ。だがそれにはさらに長い年月がかかる……あと数十年、いや、最低でもあと30年はかかる……奴らが我々の祖国を焼いたツケは払わせる。裏切った南極の連中もな……アーサー、長い任務ご苦労だった。後は我々に任せろ、もう休んでいいんだ』

 

「感謝します、大佐……偉大なる星条旗が、再び栄光を取り戻すことを…願っています……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シーカーが鉄血工造でこの世に再び生まれて間もない頃、オーガスプロトコルに囚われない彼女を鉄血という組織で飼いならすためにイントゥルーダーが教え込んだのが騎士道精神であるが、それは結果的に育成成功という形となった。

 好奇心旺盛なシーカーは己の本能とも言うべき探究心で、イントゥルーダーより教わった騎士道を昇華させるべく、古い書物を読み漁り、古の剣術を学び、古き良き騎士の物語に心酔していく。少し大げさであったものの、エルダーブレインを主と称し絶対の忠義を尽くすようになる…が、その後色々あったわけだるがここでは割愛する。

 

 シーカーが古い書物を読み、大きな影響を受けたのは10の美徳…いわゆる騎士の十戒というものだった。

 

 勇気、高潔、忠誠、寛大、信念、礼儀、親切心、崇高な行い、統率力……そして優れた戦闘能力である。

 これは後世の人間が騎士道をまとめるために考えたもので、当時の騎士たちが必ず守っていた者というわけではなかったが、シーカーはこれを自分自身の規範として決めた。

 そして同時にシーカーはこう考えた。

 

 "強き精神は、たくましき肉体にこそ宿る"

 

 意思の強さとは己の肉体の強さに比例する、己の信念を貫き通すのなら道を切り開く力が必要不可欠なのだと。

 それが、シーカーが力を求めた理由でもあり、今日の悲劇を生んだ要因でもあった…。

 

 

 

 そして一度は道を誤ったものの、己の信念を見直したシーカーが今、騎士の誇りを貫き通すべく身に付けた技と力を全力でスネークに対し叩きつける。

 シーカーは拾い上げた刀を鞘に納めると、それを静かに床に置き、代わりにナイフを一本手に取る。

 他に武器を持たずナイフ一本のスネークと同じ条件で、正々堂々と闘う…自身の命をすり減らしてまで手に入れたESP能力すらも封じて、あくまで公平に、フェアな闘争でスネークに挑む。 

 

 お互いにナイフを逆手に構え、相手の出方を伺うように少しずつ歩み寄る。

 これまでの戦闘、そして仲間たちから寄せられた情報によりスネークのCQCの技術は凄まじいものと認識するシーカーは慎重に、しかし隙あらば即座に攻撃するべく機会を伺う。じりじりと互いに距離を詰め、あと一歩踏み出せば互いに手が触れあうという距離で、シーカーは先に動く。

 逆手に持ったナイフで斬りつけようと伸ばしたシーカーの手首を掴み、狙いを逸らさせると同時に握られたナイフを手放させる。逆にスネークがナイフを向ければ、シーカーはたった今スネークがとった動きを反映するように手首を押さえてナイフを弾き飛ばす。

 お互いに武器を失い徒手となるが、二人の動きは止まらない。

 

 顔を狙ったシーカーのパンチを背後にまわって躱し、伸ばされた腕と肩を掴み前方へと投げ飛ばす。背中から床に叩き付けられながらも、シーカーは即座に立ち上がる。そして素早く後ろ蹴りを放ち一度距離を開けたかと思えば、一気に踏み込む。

 斜め下からの掌底を、身体を逸らして躱すスネーク。

 伸ばした彼女の腕を捉えようとしたスネークだが、シーカーは逆にスネークの腕を掴みとると、身を翻しスネークの身体を背負い込む。一本背負いの要領で投げ飛ばしたスネークの腕を握ったまま、関節技をかけようとするがスネークは即座に彼女を蹴りつけて難を逃れる…。

 

 起き上がったスネークは一度距離を開け、戦闘は振りだしに戻る。

 お互い、さほどダメージはない。

 

「どこで習った?」

 

「戦い方を覚えるのは得意なんだ。それの対価か、戦い以外のことを覚えるのは苦手だがな!」

 

 素早い踏み込みからのストレートパンチ、それはなんとかいなすことができたが反撃に繋げることは出来ず。ジャブのように放たれたパンチを脇腹に受けて、スネークはわずかに呻く。ニヤリと笑みをこぼしたシーカーが同じ横腹を狙って蹴りを放とうとした時、スネークは痛みをこらえあえて詰め寄る。

 そうすることで蹴りの打点をずらし、シーカーの蹴り上げた太ももを腕に抱えながらもう片方の足を刈る。バランスを失ったシーカーの肩に手を当てて、勢いよく彼女を背中から叩きつける……かに見えたが、シーカーは宙に両足が浮いた一瞬の間に両足でスネークの腕、それから首を絞めつけ、自分の身体ごと床に倒れ込む。

 見事なカウンターで返されたシーカーの三角締め、完全に技が決まる前にスネークは床を転げて技を解く。

 

 素早く起き上がり身構えるスネークであったが、シーカーの姿を見失う。

 次の瞬間、スネークは背後から首を絞めつけられる。

 シーカーの腕は華奢だが、ハイエンドモデルとして生み出された彼女は他の多くの戦術人形同様に見た目以上の腕力を持つ。この場合、彼女の華奢な腕は鍛え上げられた太い腕よりも首によく食い込み、スネークの頸動脈を強烈に絞めつける。

 

「蛇のように執拗に、相手に絶えず攻撃を仕掛け続け反撃の機会を与えない。Attack is the best(攻撃は最大) form of defense(の防御なり)、だよスネーク」

 

 スネークの首を強烈に絞めつけながら、シーカーは不敵に笑う。

 シーカーの一連の近接格闘術は、彼女がこれまでに培った経験と知識の集大成のようなもの…ボクシングや柔道といった格闘技の技から、コマンドサンボやフェアバーン・システムといった軍隊式格闘術を独自に組み合わせ一つの格闘術として発展させたいわばシーカー流マーシャルアーツといったところか。

 真似しようと思っても常人には到底出来ず、ある程度格闘術に精通した者ならむちゃくちゃな技の混合を、シーカーの類まれなる才能がそれを可能とする。

 

 背後から首を絞めつけられ、徐々にスネークの意識がもうろうとしていく。

 まるで蛇が獲物を絞めつけて殺すかのようなシーカーの絞め技に対し、スネークは固く拳を握り固めると、勢いよく肘をシーカーの脇腹に叩き込む。ひじ打ちを受けて怯んだわずかな隙に、スネークは首と腕の間に手を挟み込んで拘束を解く。

 そのまま彼女の腕を掴むと、勢いよく前方に投げ飛ばす。

 

 絞首から解放されたスネークは深呼吸を繰り返し、身体に酸素を供給する。

 一方のシーカーも勢いよく叩きつけられた影響か息を乱し、額から少量の血を流す……そして再び対峙しようとした矢先、突然シーカーは激しく咳きこんだ。前かがみとなって咳きこむ口を覆う手からは、ぽたぽたと赤い血が垂れ落ちる…。

 もはやESP能力の使用を控えても、彼女の肉体の崩壊は止められない。

 

「シーカー、お前は…」

 

「どうしたスネーク、同情しているのか……そんなことは止めろ、この私を侮辱するつもりか…!」

 

  シーカーは咳がおさまると、口内に溜まった血を吐き捨てながらスネークを見据える。

 自身の体調のことなど百も承知でこの場に立っている、この先も生き永らえることなど微塵も考えてなどいない……同情も慰めも必要ない、ただ全力を出しきって闘いに挑みたいだけだ。シーカーのそんな切実な想いが、スネークの心に流れ込む。

 そして、スネークは無意識に彼女に対し憐れみを抱いてしまった自分を恥じる。

 すべてを覚悟しこの場に立つ彼女に対し、それは最大の侮蔑だったからだ。

 

「勝利か敗北か、生か死か……そんな結果など重要ではない。その過程にある、純然たる闘争にこそ意味がある! 本気で来いスネーク、貴様の闘争心を燃やせッ!」

 

 シーカーは声を出し、己を鼓舞する。

 強大なESP能力を操っていたその時よりも、今の方が気迫は上回る……死に近付きながらも、彼女は絶えず成長をし続けている。稀代の才能を持ちながらも、避けられない破滅。だがそれにめげずなお闘おうとする彼女に、スネークは最大の敬意を払い対峙する。

 

「行くぞスネーク!」

 

 素早く踏み込んだシーカーの、しなやかな蹴り。

 軍隊式格闘術には見られない、いわばスポーツ競技としての格闘技の技だ。戦場という環境ではほぼ見ることのできないスネークにしてみれば、経験のない技をシーカーは放つ。

 一発目の蹴りを腕で防ぐ、すぐさま反撃に移ろうとするもシーカーは即座に二発目の蹴りを放つ。それは中段を狙ったミドルキックに見えたが、蹴り上げる途中に軌道を変える。対峙するスネークはシーカーの変則のハイキックを見切ることが出来ず、強烈なハイキックが彼の側頭部を打ち抜いた。

 床に倒れ込んだスネークはあまりの威力にすぐに立ち上がることが出来なかった……ダメージを負いながらも立ち上がったスネークに追い打ちをかけるように、シーカーは詰め寄る。

 

 再び組みつかれる前に蹴り離そうとするがスネークの足はシーカーに受け止められ、脇に挟み込まれる。笑みを浮かべるシーカー…だがスネークもまた笑みを浮かべる。

 スネークは片足を抑え込まれたまま、もう片方の足で跳びあがり、シーカーの側頭部に蹴りを叩き込む。

 

「ちっ…!」

 

 シーカーは怯み手を離す。

 頭部に受けたダメージで足元がふらつくシーカー、そのダメージが回復する前にスネークは彼女の首をおさえて屈ませる。そして腹部に手を当ててそのまま持ちあげ、勢いよく地面へと叩きつける。

 キックによるダメージと、投げ技によるダメージが重なりシーカーに大きな深手を負わせたはずだった。

 だが彼女は血反吐を吐きながらも立ち上がり、笑みをこぼす。

 

「まだまだ…! くらえッ!」

 

 低い姿勢から走りだし、肩口からスネークの腹へぶつかっていく。

 抑え込もうとするスネークの身体を抱え上げ、床に落とすと即座に彼の胸元へと拳を振り下ろす。横に転がることでその拳を避け、即座に水面蹴りを放ちシーカーを転倒させた。

 

「やるな…!」

 

「そっちこそ…!」

 

 互いに起き上がり、口元の血を拭い笑い合う。

 そしてほぼ同時に走りだすと、二人の激しい打撃戦が始まった。

 

 お互い全身あざだらけ、骨のいくつかは折れているはずであるが、痛みを痛みと感じずに拳をぶつけあう。

 互いにこれまで培ってきた技と力を目の前に好敵手に対し、惜しみなく叩き込む。

 スネークの拳を受ければシーカーも即座に拳を返し、シーカーに投げられればスネークも投げ返す。

 

 そして、お互いにほぼ同じタイミングで放ったストレートパンチが交差し互いの顔を撃ち抜いた。

 よろめき、倒れ込む二人。

 息を乱しながらスネークは膝に手を当てて立ち上がる、生身の人間の身体でハイエンドモデルと打撃戦などあり得ないことだが、彼は何度でも立ち上がる。

 それに少し遅れてシーカーが立ち上がろうとするも、彼女は再び吐血する…先ほどの時よりも多い血の量だった。だがそれでも、彼女の闘志は微塵も衰えていない……それを示すかのように、彼女は大きな声で吼える。

 

 

「まだだ……! まだ終わっていない!」

 

 

 満身創痍の身体で起き上がったシーカーに、スネークは身構える。

 そして、互いの意地とプライドをかけた最後の殴り合いが始まった……経験や技術はもうそこにはない、どちらが最後まで気力を保てるか意地の張り合いだ。

 二人の我慢比べのような殴り合いもまた、最後となろうとしていた……残る気力を振り絞り、二人は雄たけびをあげる。

 

 拳を握り固め相手を見据える…次がこの対決に終止符を打つ一撃になるかもしれない、そんな確信が二人にはあった。

 互いに相手を見据え、そして動きだす。

 握り固めた拳を振り上げ、残る力の全てを叩き込む……。

 

 渾身の力を込めた拳が互いの頬を打ち抜く。

 

 ふらふらと後ずさり、両者ともに膝をつく……苦悶の表情で息を乱し、相手を睨むように見据える。

 そのまま寝転がってしまえば遥かに楽だったろうが、スネークは意地とプライドで立ち上がろうとする…そしてそれはシーカーも同じ。

 

 

 そして、この最期の意地の張り合いで優ったのはスネークであった。

 

 ふらつきながらも立ち上がったスネークに対し、シーカーは再び立つことは出来ず、床に倒れ込む……。

 この闘いに判定を下す者はいない…だが、シーカーは己が敗けたのだと悟ると同時に、清々しい表情で笑う。

 

 

「ハハ……やっぱり、強いなぁ………ソルジャー遺伝子…オリジナルには勝てないか…」

 

 

 敗北を受け入れたと同時にシーカーの闘志の炎は消える、そしてそれまで気力で抑え込んできたものが再び彼女の身体を蝕んでいく。苦痛を感じ、わずかに表情を歪ませながら、シーカーはそばの壁まで這いもたれかかる。

 

「スネーク、私はお前に嘘をついていた……私は、核を発射体制に移したと言ったな……あれは、嘘だ」

 

「……どういうことだ…?」

 

「アメリカの核を持ちこんだのは本当だ、だがそこまでだった……いざ発射準備をしようとした時、私は躊躇した…」

 

「良心の呵責といったやつか?」

 

「そうかもしれない……だが、一度でも人類の全てを憎み滅ぼしてやろうとしたのも事実だ……私の運命を翻弄し、ドリーマーを殺したこの世界が憎かった……だけど…私とドリーマーを産み、巡り合わせてくれたのはこの世界なんだ……憎み切れなかったんだよ」

 

 彼女が抱く心情の吐露を、スネークは静かに聴いていた。

 赤く濡れたシーカーの頬に、透明な雫が垂れ落ちる…。

 

「今、ようやく気付いたんだ……私が願ったのは、世界を一つにすることじゃない……私はただ、自分の居場所が欲しかっただけなんだ……誰かに、ここにいていいよって言って欲しかったんだ……それなのに私は自分で……もう、終わりか…」

 

 壁に手を当てて、シーカーは立ち上がる。

 そして彼女は壁をつたうように建物の奥へとゆっくりと歩いていく。そんな彼女の後を追うとすると、彼女は手で制するのだった。

 

 

「死に場所はもう決めてある…せめて最期は、彼女と一緒に眠りたい……そして、願わくば、あの日見た夢の続きをドリーマーと見続けられることを……さよならだスネーク、私たちは、夢の中で生きていくよ……」

 

「シーカー……これだけは言わせてくれ。お前は誰よりも高潔で、勇気を持った偉大な騎士だった。お前が歩いてきた道のりは、決して無駄なことなんかじゃない」

 

「………優しいな、スネーク……彼女にも、自慢できるよ…」

 

 

 暗闇の向こうへと消えていくシーカーを静かに見送り、やがてスネークもまた背を向ける。

 シーカーが操っていた不死の人形たちによって正規軍は遠ざけられ、スネークは無事仲間たちと合流する……迎えのヘリに乗り込み、鉄血領を離れていく最中、彼女の命の灯がこの世から消える確かな感覚を感じ取る…。

 

 そして、彼女が眠ると同時に、世界は静かになった。




シーカー戦……決着…。

なんかかつてないほど書くのが辛かったよ…。



色々と謎を残した米帝side、今回の大規模な戦争は実は彼らにとって…な展開でした。
今後、米帝が再び動きだすのは30年後以降……ドルフロ30年後の世界の【パン屋作戦】の時期でしょう。



次回、戦後処理
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