METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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鋼鉄の絆

 日課の甲板掃除をしている最中、404小隊補助要員兼弾避けのジョニーの人工知能は革命的なひらめきをもたらす。

 それはほんの些細な出来事から始まる。

 ヴェルが楽しそうに笑いながらスネークと一緒にお風呂場に行ったのを見た時、ジョニーには天啓が舞い降りた。小さなひらめきは彼の変態的思考能力で一気に巨大化していき、ついにはデッキブラシを放り捨てて走りだす。

 猛ダッシュでジョニーが向かっていったのはマザーベースのお風呂場。

 つい最近女性スタッフ及び戦術人形たちの要望で男女の入浴場がついに区別化されたのだが、あろうことかジョニーは何の躊躇もなく女性の浴場エリアに突撃していった。

 唐突に脱衣所へと現れたジョニーに、当然の如く女性陣たちは悲鳴をあげて物を投げつける。

 だが鋼鉄のボディーを持つジョニーには投げつけられる物は全く効かない。

 

「ジョニー! あんたついに一線を越えたわね、この変態!」

 

「黙れ416、オレはついに気付いたのだよ! そもそも装甲人形のオレに性別は肉体的にも定められていない! つまり、女性エリアを立ち入り禁止されるいわれはないというわけだ!」

 

「いきなり湧いてきてわけの分からないことを…! 肉体的に特徴無くても、あんたのメンタルモデルは男でしょう!?」

 

「ほう、なら今日からオレはジョニ子と名乗ろうだわ。よろしくだわね」

 

 いつものいかつい声で女性口調をしてみせるジョニーに416の怒りが一気に頂点へと達する。

 目まいを催すほどの怒りに一瞬ふらつく416、他の女性陣も援護すればいいというのに、ジョニーのあまりの変態的思考を避けて関わろうとしない。416がただ一人、この場で唯一ジョニーに抗える人物なのだ。

 

「千歩譲ってアンタが女の性格になったとして、女性を性的な目で見るアンタを招き入れるはずないでしょう、気持ち悪いわね!」

 

 ジョニーを指差し怒鳴りつける416であったが、彼女の後ろで成り行きを見守っていたMG5とキャリコが気まずそうに目を逸らす…あえて言えば、別空間にいるはずのストレンジラブも同じタイミングで精神的ダメージを負った。

 だがそんな416の強い口調にも、今日のジョニーはめげない。

 サムズアップして見せるジョニーに彼女は怪訝に思う。

 

「安心しろ416、お前のような巨乳には微塵も興味はないからな」

 

「アンタ、この世で最低のクズだわ」

 

 もはやこれ以上相手するのは疲れる、そう思った矢先のこと、脱衣所へとやって来たのはUMP45である。彼女は脱衣所で高らかに笑うジョニーを視るや否や、その股間を思い切り蹴り上げ、悶絶する彼を蹴飛ばして踏みつけていく。

 そのまま無言でコンセントの位置まで歩いていくとドライヤーのプラグを差し込み、ケーブルを割いてジョニーの身体に押し付けるのだ……剥き出しの電線がジョニーの身体に触れた瞬間電気が短絡し、爆発を起こす。全身のほとんどを機械部品が占めるジョニーにとって電気の攻撃は凄まじく、一撃でノックアウトされる…その後、騒ぎを聞きつけたヘイブン・トルーパー兵によって気絶したジョニーは独房へと運ばれていった。

 

 周囲はUMP45の手際の良さに口を開いたまま唖然としているが、当の本人は何ごともなかったかのように衣服を脱いでさっさと浴場へと向かってしまった。

 

「ねえ416、アンタたちの隊長っておっかないんだね」

 

「そうね……キレた時の45はこの世で最も恐ろしい存在の一つよ」

 

「あいつがナンバーワンだな…」

 

 キャリコとMG5の他、その場にいた全員が、UMP45を怒らせるのはやめようと固く心に誓うのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独房エリア…。

 

 UMP45に突然ボコボコにされ、容赦なく独房へと放り込まれたジョニーはそこで一人哀しみにくれていた。

 涙を流す機能は備わっていないが、わんわんと泣き声をあげる……そんなジョニーの姿を、真向かいの独房に収容されているゲーガーは鬱陶しそうに見つめ、アーキテクトはニヤニヤ笑みを浮かべながら眺めていた。

 

「45姉ったら酷い……オレはただ、貧乳を見たかっただけなのに……!」

 

「まあまあジョニー君、そう言うこともあるって、元気出しなよ。ほら、ゲーガーもジョニー君励ましてあげなよ」

 

「なんで私が……まあなんだ、気をしっかりもてよ」

 

 しぶしぶ、といった様子だがゲーガーはアーキテクトに言われた通り向かいで泣きわめくジョニーを慰める。

 この間ずっとゲーガーは不機嫌なのだが、実はジョニーにイラついているわけではなく、実はアーキテクトにイライラしていたりする……アーキテクトは独房にいるが、その肝心の独房の扉が開け放たれているのだ。

 警備スタッフとすっかり仲良くなっているアーキテクトは、外で悪さをしてはオセロットなどに捕まって独房に放り込まれて鍵を閉められるのだが、その度に仲の良い警備スタッフに鍵を開けてもらっていた。

 

 二人の励ましでようやくジョニーは落ち着くと、素直な気持ちで二人に謝意を示す。

 

「おまえら、いいやつだよな……本当、巨乳の女も中にはいいやついるよな」

 

「そうかな?」

 

「そうさ……実はオレ、45姉に出会う前までは巨乳の女に取りつかれてたんだ―――――――」

 

 そこから始まるジョニーの本当なのか嘘なのかよく分からない一人語りが始まるが、聞くに堪えないその話にゲーガーは耳を塞いで目を閉じる。アーキテクトの方はというと、自作のスマートフォンをかざして自撮りし始めてしまった……そこから自作アプリを用いて撮った写真を加工して、オーガスネットワーク上にあげるつもりなのだろう。

 

「アーちゃんただいまジョニーくんをなぐさめちぅ♥…っと、ヨシ!」

 

「ヨシじゃねえよバカやろう」

 

「うげっ、エグゼ!? な、なにしにきたの!?」

 

 ネットワーク上に写真をあげたところをしっかりエグゼに見つかったアーキテクトは、スマートフォンをとり上げられてしまう。取り返そうとするも無駄な抵抗に終わる。

 警戒する二人の前でエグゼはゲーガーの独房の鍵を開ける。

 わけが分からない、そんなことを考えていそうな彼女にエグゼは面倒そうに答える。

 

「出て来いよ、エリザさまがお前らのこと呼んでる…さっさとついてこいよ」

 

「ちょっと待て、エリザさまだって? 何故ここにいるんだ!?」

 

「あれ、ゲーガー知らなかったの? 私は知ってたよ?」

 

「お前はいつでも出入りしてたから分かるだろうな! そうか、エリザさまか…」

 

 長いことこの独房に閉じ込められていたゲーガーに、久しぶりに笑顔が戻る。死んだ魚のような目をしていたが、今ではすっかり生気が戻る。敬愛する主人が自分たちを呼んでいるという名誉なことに、忠誠心の高いゲーガーは喜んでいた。

 スマートフォンを取り返そうと躍起になっているアーキテクトの首根っこを掴み、彼女は意気揚々と独房の外へと久しぶりに出るのであった。

 

 

 エグゼに案内されてマザーベースの甲板へと出ると、清々しい潮風を受けてゲーガーは目を閉じて深呼吸を繰り返す。

 

「エグゼー! 私のスマホ返してよ~!」

 

「うっせえな、後で返してやるよ。あんまり喚くと魚の餌にするぞこのやろう」

 

「わ、わかったよ…いじわるエグゼ、あっかんべ~~だ!」

 

「なんだこのやろう?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 それ以上エグゼを刺激すると危険だ、そう判断したアーキテクトはゲーガーを盾にしてエグゼの後をついて行くこととなる。

 さて、ついて行った先には既に二人と同じようにMSFによって捕まえられた多数のハイエンドモデルたちが勢ぞろいしていた。

 ハンターとアルケミストとデストロイヤーの他に、スケアクロウ、イントゥルーダー、ジャッジ、代理人…そしてエリザの姿がある。

 エリザの姿を見たゲーガーは膝をつき、頭を下げる……呑気に突っ立っているアーキテクトに気付いたゲーガーは、彼女の膝にパンチして強引にしゃがませた。

 

「エリザさま、お久しぶりでございます…このゲーガーとアーキテクト、虜囚の辱めを受け、貴女様に尽くせなかったことを深くお詫びいたします」

 

「まあまあ気にしないでよゲーガー、しゃーないじゃん?」

 

「お前な……少しは、誠意を、みせろ!あほんだら!」

 

「ぎゃふん」

 

 身分をわきまえないアーキテクトをひっぱたく、この場にはエリザだけではなく代理人もいる。上司のふがいない姿を無様に晒し慌てるゲーガーであるが、予想に反し目の前にいる二人は微笑みを浮かべていた。

 エリザが笑っているのはもちろんのこと、あの鉄仮面のような代理人が笑っているところなど生まれてこのかた見たことがないゲーガーは唖然としていた。

 

「いいんだよゲーガー、もう堅苦しいのはやめにしよう。もう鉄血工造はなくなっちゃったんだしね」

 

「どういうことでしょうか、エリザさま?」

 

「もうあの場所には戻れないということですよ。正規軍が最後に再び巻き返して、あの場所を奪取したんです。まあ、その頃私たちはここに退避済みでしたがね」

 

「そうですか……では、我々はこれからどうするのですか? どこに行けば?」

 

「その事だけど、私たちはアフリカに行こうと思ってる」

 

「アフリカ……あぁ、もしかしてあいつですか?」

 

「そう、アイツです…」

 

 アイツ、という言葉でお互いに通じる…代理人は少々うんざりした様子でため息を一つこぼす。

 彼女たちが言うアイツとは、アフリカに渡り戦術人形のくせに今ではアフリカ有数の資産家として大成してしまった元鉄血所属のハイエンドモデルことウロボロスのことであった。

 実はエリザと他のハイエンドモデルたちがMSFにいると、どこからか情報を入手したウロボロスが手紙を寄越してみんなを受け入れる用意はあると、不届きにも言ってきたのである。

 

「あのやろう、調子に乗りやがって……あいつアフリカでダイヤモンド鉱山所持して、油田まで掘り当てやがったんだってな? おまけにこれ見ろよ、戦術人形の癖に本まで出版しやがった」

 

「うわぁ…」

 

 イライラした様子のエグゼが見せてくれたのは、サングラスにスーツ姿のウロボロスが表紙に載る"私が現代アフリカで成功した秘訣"などという題名の彼女の著書であった。

 どうせろくなことが書いてないだろうと開いてみれば、案の定彼女の自慢話がつらつらと書かれている。読む価値のない本であるが、ところどころに脈絡もなく載っているウロボロス自身のグラビア写真を目当てにそれなりに売れているのだという。

 

「まあ、アイツに頼るのは不本意ですが…アフリカなら正規軍の目から逃れられますし、ウロボロスの今の財力ならご主人様に不自由な暮らしを強いることもありませんでしょうから」

 

「ほんとうに大丈夫か? みんなでここにいた方がいいんじゃねえのか?」

 

「心配してくれてありがとう処刑人。だけど、ここにいたらたぶん迷惑をかけるからね」

 

「エリザさまがそう言うなら…」

 

 エリザの決意に引き下がるエグゼであったが、彼女はちらちらと代理人や他のハイエンドモデルたちを伺う。

 彼女の本心としては、また昔みたいにみんなでここで暮らしたいという想いがあるのだろう……エグゼの仲間想いなところを知っているみんなはそれに気付いていながらも、救ってくれた恩を仇にしないためにここを去る選択をとるのだった。

 

「ウロボロスの迎えが今日にも来ますから、私たちはそれでここを発ちます。本当にお世話になりましたね」

 

「なんだよ、もうちっとゆっくりしてけばいいのに…」

 

「そうしたいのはやまやまだけどね。さて、みんなそろそろ準備をしよう」

 

 エリザの一声で、他のハイエンドモデルたちも一緒に出立の準備に取り掛かる。

 そんな彼女たちに混じってさりげなくついて行こうとするアーキテクトを、エグゼは即座に捕まえる。

 

「おいおい、お前うちの機密いじっといてすんなり帰れると思うなよ? お前は一生独房暮らしだ」

 

「あんまりだ! うわーん、ゲーガーたすけてー!」

 

「ふん、自業自得だ」

 

「お前も何さりげなく行こうとしてんだ? お前もさっさと独房に戻りやがれ!」

 

「な、なんだって…!?」

 

 釈放されたと思ったがそうではなかったようだ。

 待機していたヘイブン・トルーパー兵によって二人はすぐに拘束されて、無理矢理独房へと引きずられていってしまうのであった。

 二人の悲鳴が聞こえなくなった頃に、成り行きを見守っていたアルケミストとデストロイヤーは互いに頷き合うとエグゼとハンターに声をかける。

 

 

「どうした姉貴?」

 

「エグゼの顔にゴミでもついているのか? 許してやってくれ、少し汚いくらいがちょうどいいんだ」

 

「うるせえな、お前こそ服が汚れてるじゃねえか」

 

「これから狩りに行くんだ、少しくらい構わないだろう」

 

 

 いつも通り、仲の良い二人の姿を目の当たりにしたアルケミストは、これから言おうとした言葉がのどの辺りで止まる。それを言ってしまえば、確実に二人は……そんな彼女の心情を察してか、デストロイヤーが手を握る。愛おしい妹の温もりに励まされて、アルケミストは意を決した…。

 

 

「二人とも聞いてくれ……実は、あたしとデストロイヤーもエリザさまと一緒にアフリカに行くことにしたんだ」

 

「……は?」

 

 当然のように、二人はアルケミストの言ったことが理解できず固まる。

 

「ちょっと待ってくれ、一緒に行くって…ここを出ていくということか?」

 

「そういうことになるな」

 

「理由を、聞いても…?」

 

 いち早く平静を取り戻したハンターは、真顔で問い詰める。

 下手な言い訳など通用しない、いや、最初から言い訳などするつもりもないが…。

 

「色々と理由はあるさ。一つはまあ、ウロボロスが信用ならないからみんなが心配だからかな……もう一つは単純に、エリザさまのためにね。そして何よりも一番に…あたしは、【平和】な世界というのを見てみたいんだ」

 

「ごめんね二人とも、本当は二人にも相談しなきゃいけないことだったんだけど……アルケミストと話しあってね。みんなと一緒に暮らして、今回みたいなこともあってさ、考えたの……マスターが私たちに願ってた平和な世界で生きていくっていう夢、それに歩んでいこうって」

 

「本当に急な話になってごめんな」

 

「そうか……まあ、確かにMSFは平和とは対極的な位置に立つ組織だ。そこにいる限り、その願いは叶わないが……おいエグゼ、お前は……おい…」

 

 振り返ったハンターが見たのは、ぼろぼろと涙を流すエグゼの姿であった…最初は涙を流して小さな嗚咽を漏らしていただけなのが、やがて声をあげた大泣きに変わっていく。親友のそんな姿にオロオロしつつも、なんとかハンターはなだめようとするが、エグゼは一向に泣き止まない。

 それどころか余計に泣きわめく。

 

「あ、あんまりじゃねえかよ姉貴…! なんでそんなこと言うんだよぉ…!」

 

「エグゼ……分かってくれ、もう決めたんだよ…」

 

「ずっと一緒にいるって、約束したじゃんかよ……! なんでいっちまうんだよ…!」

 

 泣きわめくエグゼに、二人の涙腺も緩む……離れたいと思っていくわけではない、できれば一緒にいたいと思うのはアルケミストもデストロイヤーも同じであった。だが、これから歩んでいく道はここで分かれているのだ。

 しまいには座り込んで泣くエグゼ…そんな彼女をアルケミストはそっと抱き寄せて背を撫でる。

 

「ごめんなエグゼ、勝手な姉で…だが永遠に会えなくなるわけじゃないから」

 

「あやまるぐらいなら……そんなこと言うな、ばかやろう…!」

 

「うぅ……泣かないでよエグゼ、折角我慢してたのに……私たちも泣いちゃうじゃない…」

 

 エグゼの涙につられて、デストロイヤーもまた涙をこぼす。

 アルケミストも、ハンターも同様に…。

 

「どうしても行っちまうのかよ…」

 

「あぁ、そうだな…」

 

「じゃあ、じゃあせめて……お祭りの日、【平和の日】まで残っててくれよ……! それくらいいいだろ!?」

 

「ああ、分かったよ……それまで残っていよう……」

 

「あたりまえだろ、このばか姉貴…!  うぅ……クソ……!」

 

 泣き止まないエグゼを強く抱きしめる。

 いつもは強気で生意気な彼女も今はとても小さく思える、そんな愛おしい妹分の悲しみを姉としてしっかりと受け止める。もうこんな風にしてやれるのもこれから先ないかもしれない。

 それをエグゼも分かっているのか、精一杯姉貴分の温もりに身を寄せ、精一杯甘えるのであった…。




ギャグとシリアスの混合……内容濃ぃなぁ!

長らくシリアスやり続けた反動なんやなってw

あと、アーキテクトの永久雇用が実現しました。
家族が増えるよ!
やったね!アーちゃん!

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