METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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お祭り準備

 スネークとミラーより発表された【平和の日】なるお祭りイベントは、瞬く間にMSF中に広まった。

 前線基地では一体なんのイベントなんだと騒ぎになったり、遠い紛争地帯に派遣されているスタッフたちからも驚きの声が寄せられる。というのもMSFは組織のカリスマであるビッグボスに惹かれ集まった兵士たちの集まり、平和な世界には生を見出せない者たちばかりだ……だから、この発表はMSFが解散することを意味しているのではと変に勘ぐるものが後を絶たなかったため、ミラーが慌てて説明にまわることとなる。

 平和の日は、戦いに明け暮れてばかりのMSFが年に一度くらいは平穏な一日を過ごそうという企画によるもので、別に戦うことを止めるわけではない。

 

 そしてこのイベントは特に、キッドやヒューイ、ストレンジラブにエイハヴといったMSF最古参のスタッフらにとってはとても思い入れのあるイベントであった。彼ら最古参のスタッフの相当な意気込みを見て、後輩のスタッフたちや戦術人形たちもこのビッグイベントを必ず成功させようと奮起する覚悟を決めるのであった。

 

 

「――――というわけで、せっかくだからMSF以外の面子も呼ぶことになりました~」

 

「お前はいつも話が唐突過ぎるんだよ」

 

 通信施設から通信線を無理矢理宿舎まで引っ張り、骨董品のような固定電話を用意したスコーピオンは、そこに戦術人形たちを集めるのであった。

 404小隊、鉄血コンビ、ジャンクヤード組とほとんど全員である。

 一応スネークとミラーには許可を取っているという話ではあるが、このスコーピオンと言う戦術人形は面白いことのためなら平気でうそをつくので怪しいものだ。一応、スプリングフィールドとWA2000も認めているので、うそではないらしいが…。

 

「よし、じゃあグリフィンに電話かけたからあとはエグゼよろしく」

 

「あぁ!? なんでオレが電話しなきゃならねえんだよ!」

 

「いやほら、こういうのは一発目が大事でしょ? エグゼみたいに強気なら舐められないっしょ、ほら、MSFの看板背負ったつもりでさ!」

 

「しょうがねえな、ったく……お、繋がった」

 

 あらかじめスコーピオンがグリフィン向けの番号を押していたために、受話器を受け取ってすぐに繋がった。

 つながった相手は女性の声である。

 とりあえず一呼吸を置いて、第一印象が大事だなと心に念じた上で…。

 

「おう、これグリフィンの番号であってるか? ちっと話があんだけどよ」

 

『待て、誰だお前は? いたずら電話か何かか?』

 

「お前こそ誰だよ?」

 

『失礼な奴だな、先にそっちが名乗るのが筋だろう』

 

「うるせえなこのやろう、誰だって聞いてんだそっちがまず名乗りやがれ! あっ……もしもし? もしもーし……切りやがった!」

 

「当たり前でしょ」

 

 実に攻撃的なテレフォントーキングに白々しい目線がいくつも突き刺さる。

 とりあえずこう言った分野でエグゼがなんの役にも立たないことを証明したとこで、スコーピオンが受話器をひったくる。再度番号を押して電話を繋げる…今度は相手が出るまで少々時間がかかった。

 

「もしもーし! あたしみんなのアイドルスコーピオンだよー! グリフィンのお偉いさんかな?」

 

『如何にも。私がベレゾウィッチ・クルーガーだが』

 

 相手の名前を聞いた瞬間、スコーピオンは即座に受話器を置いた。

 

「おい、なにやってんだよ…」

 

「いや、まさかグリフィンの社長に電話が繋がるとは思ってなかったからさ…あははは」

 

「あははじゃねえよこのやろう! というかお前は一体誰に電話かけようとしてんだ!」

 

「いや、かけたい相手がいるんだけど、どれがその番号か分からないから片っ端からかけようと思ってさ」

 

「ちょっと見せろ……お前、グリフィンの支部含めてどれだけ電話番号あると思ってんだ! 片っ端からかけるつもりかよ!」

 

「そのためにみんなを呼んだんじゃないか!」

 

「このやろう…!」

 

 つまり、かけたい相手が分かるまでお前たちも手伝えということらしい。いつの間にか固定電話が複数用意されるが、スコーピオンのこんなお遊びに付き合っていられないと、ほぼ全員が呆れて帰っていってしまった。

 そんな中、スコーピオンは同じく帰ろうとするWA2000の腰にしがみついて引き止めるのであった。

 

「コラ、離しなさい! わたしも暇じゃないの!」

 

「一人くらいあたしの余興に付き合ってくれたっていいじゃん! お友だちでしょう!?」

 

「分かったってば、分かったからストッキングを引っ張らないで!」

 

 しつこくしがみついてくるスコーピオンに観念し、つい協力する羽目になってしまった。

 先ほどまで泣きついていたのが、協力を得られると分かった瞬間ケロッと表情を変えるのでイライラさせられる。

 仕方ないが、一度引き受けてしまった都合上投げ出すわけにもいかず、スコーピオンの果てしない電話番号潰しに駆り出されるのであった…。

 

 

 

 

 

 2時間後、途中何度かお菓子タイムを挟んでようやくリストも三分の一まで減って来た頃のことだ。

 既にWA2000は気力を失い、受話器を握ったままテーブルに突っ伏している…一方のスコーピオン、彼女は好物のドリトスと炭酸飲料を飲みながら元気に受話器を握っていた。

 そしてある一つのグリフィン支部へと繋がる。

 

 

『はいはい、こちらグリフィンD08支部のHK417だよ! ご用件はなにかな?』

 

「あちゃー、また外れか……ごめんね、かけ間違えちゃったよ」

 

『うん? そうなの? なんか社内メールでグリフィンへのいたずら電話が頻繁に来てるから要注意って、もしかしてあなたのこと?』

 

「ありゃ、そんなつもりないんだけどね。まあ、何回も間違え電話してたらいたずらだと思われちゃうよね」

 

 あれだけグリフィンに対し電話をかけまくれば、一応警戒されるのは当たり前である。一度はグリフィンの社長室にまで間違って電話してしまったのだから目も当てられない。

 そこからスコーピオンはほとんど知らない相手【D08地区のHK417】と他愛のないやり取りを行い、グリフィンにかけたいところがあるけど、ただしい電話番号が分からないという悩みを打ち明けるのだ。そんな風にやり取りをしている中で、通話相手のHK417はあることに気付く。

 

『ねえねえ、間違ってたら悪いんだけど、あなた国境なき軍隊(MSF)?』

 

「ん? そうだよ? ありゃ、なんかあたし名乗ったっけ?」

 

『いや、バーガーミラーズって言ってたよね? 実は私そこのハンバーガー食べた事あってさ、なんか、色々すごかったから記憶に残ってたの』

 

「ほほう、バーガーミラーズのお客さんだったの!? こりゃあ失礼しちゃったね、あたしは一応共同出資者兼店長のスコーピオンだよ! いや~、一号店を出したユノっちの基地に電話したいのに番号分からなくてさ」

 

『ユノっちって、もしかしてS09地区のユノ指揮官のこと? それなら私分かるし教えてあげるよ!』

 

「おう、ラッキー! ありがとう、助かるよ!」

 

 これはなんという偶然か、通話相手のHK417はバーガーミラーズにお客さんとして来てくれた相手で、なおかつスコーピオンが電話をかけようと頑張っていた相手である【S09地区P基地のユノ指揮官】と親しい間柄にある人物なのだった。

 彼女のおかげで、無事本当にかけたい相手の電話番号を入手したスコーピオンは感謝の言葉を述べるのであった。

 

『どういたしまして。ところでただの興味なんだけどさ、どうしてユノっちに電話したかったの?』

 

「いや~、うちも色々あってひと段落したからさ。今度MSFで【平和の日】って名目でお祭りをすることになってね、せっかくだからユノっちも招待しようと思ってさ。そうだ、これも何かの縁だし、417もお祭りに参加する!?」

 

『いいの? じゃあお言葉に甘えて、お祭りか……楽しみにしてるね!』

 

「はいはーい、お待ちしてまーす!」

 

 

 HK417とはそこで一旦通話を切ると、スコーピオンは教えてもらった電話番号を素早く入力して電話をかける。

 数回のコールの後、電話が繋がる。

 

 

『はい、こちらS09地区P基地―――』

 

もしも~し!! その声もしかしてナガンばあちゃん!? ナガンばあちゃん!? ナガンおばあちゃんだよね! そうだよね、おばあちゃんに決まってるよね!! おひさ~! あたしは―――

 

 電話が途絶え、プープーという無情な音が鳴る。

 その音を受話器から聞きつつ、再度スコーピオンは電話番号を入力する。

 そして電話がつながると同時にスコーピオンは先ほどと同じように元気いっぱいに挨拶をすると、即座にそれ以上の大声が返ってくる。

 

やかましいわこのたわけが!! 名乗らずとも分かる、おぬしMSFのあのアホサソリじゃな!? おぬしのせいでわしの鼓膜が破れかけたわバカ者! それに、グリフィンに何度も何度もいたずら電話かけてくる輩とはおぬしじゃな!? 一体―――――――

 

 スコーピオンは静かに受話器を戻し電話を切った……するとどうだ、5秒もしないうちに電話の音が鳴り響いたので受話器を取る。

 

『おい……何故電話を切ったのじゃ?』

 

「いや、声がうるさかったからつい」

 

『何がつい、じゃこの大ばか者! いきなり大声出されてびっくりさせられたのはわしも同じじゃぞ!? だいたいいきなりかけてきおって、何の用じゃ!』

 

「まあまあおばあちゃん、そう怒るとしわが増えるよ~?」

 

『誰のせいだと思っておる! それと、おぬしにおばあちゃん呼ばわりされる筋合いはないわ!』

 

 相手の声の大きさにスコーピオンは受話器を少し離すのであった…。

 それから、相手の呼吸が一旦落ち着くのを見計らう。

 

「落ち着いた? 大声出してすっきりしたでしょ?」

 

『おかげさまでな…ここ最近のストレスが一気に吹っ飛んだぞ。それで、一体何の用じゃ?』

 

「実はね、うちでちょっとお祭りをやることになってね。【平和の日】っていう名目でね、それにユノっち招待したいなーなんて。どうよ?」

 

『どうって…そんないきなり言われてすぐに返答出来るわけがなかろう。一体わしをなんだと思っておる、あくまであいつの副官じゃぞ? それにしても平和とは、おぬしららしくもないの』

 

「まあ、うちも色々あったからさ…それで、どうよ?」

 

『だからすぐに返答できんと言っておるだろうが!』

 

「もう、せっかくだから来てちょうだいよ! 歌ったり踊ったり、出店出したり、くじ引きやったり、あたしの握手会やったりするからさ!」

 

『まあ、おぬしとの握手など1ミリも興味はないが…ふむ、お祭りならユノも興味があるか? 一応聞いておくが、危険はないんじゃろうな?』

 

「MSFの看板にかけて、あらゆる危険は寄せ付けないよ」

 

『まあ、伝えるだけは伝えておくが、行けなくなってもぐずぐず言ってくるでないぞ?』

 

「わかったー! とりあえず来てくれるんだね?」

 

『おぬしは少しは人の話を聞けバカ者! まったく、もう切るからな!」

 

「はいは~い!」

 

 

 ひとまず、当初の目的を達成したスコーピオンはウキウキ気分である。

 先にくたばってしまったWA2000を叩き起こし、一仕事やり終えたビールを飲みに二人で向かうのであった…。




一気に二つとコラボって、たまげたなぁ…それも電話越しって、流石スコピッピw

というわけで、現時点で招待確実なのは焔薙さんとこのユノっちと、ムメイさんとこの417さんでした~。



次回予告
最終決戦が山岳雪中戦で、せっかくの新型戦車の見せ場もなく手柄を挙げられなかった独女のFALが大変お怒りのようです。
ジャンクヤード組にスポットを当てましょう!

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