METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

230 / 317
平和の日~開幕~

「あー、あー…マイクテストマイクテスト……よし! お集まりの諸君、待ちに待ったMilitaires Sans Frontières(国境なき軍隊)による【平和の日】を開催する!」

 

 壇上に立ったカズヒラ・ミラーの司会により、ついに平和の日…の開催式が始まるのであった。

 拍手と歓声がどっと沸き立ち、前哨基地にこのお祭りを大歓迎する声が響き渡る。前夜祭と称して前の日に羽目を外しすぎた何人かは顔色が悪そうだが、おおむね健康体の者が大多数を占める。

 拍手と歓声をあげるスタッフ及び戦術人形たちを見渡すミラーも笑顔を浮かべていた…そしてミラーが両手をあげて静寂を求めると、群衆は少しずつ静かになっていく。

 

「えー、今回のイベントではMSFのほとんどのスタッフが集まっているのは周知のことだと思うが、開催にあたりいくつか注意事項を伝えておく。一つ、争いごとの禁止。今日は平和の日というイベントだ、そんなイベントを諍いごとで台無しにしないことだ」

 

 MSFのスタッフたちを集めてイベントをするにあたって、ミラーが一番危惧するのはこの事だ。

 ビッグボスのカリスマの下団結しているMSFだが、兵士たちは異なる国や民族の出身であり、言語も異なれば文化も違う。そんな価値観が異なる人が多く集まるため、争いの種はどうしても生まれがち…本人たちはその気がないのは分かるが、ミラーは改めてその事をみんなに周知させる。

 

「一つ、お祭りだからと言って羽目を外しすぎないこと。昨晩ははしゃぎ過ぎた者もいるようだが、決して医療班のお世話になるほどお酒を飲んだり、変なアルコールに手を出さないこと。MSFに所属する者として、風紀を乱すようなことをしてはいけないぞ?」

 

 ミラーの視線は明らかにスペツナズの面子に向けられている。

 全員、昨晩……というより、今日の日付の3時ごろまで飲んでいたということもあってか顔面蒼白、虚ろな目をしている。自業自得なのでしょうがないが、糧食班に酔い覚ましにいいというスープを作って貰ってなんとかこの場に立っている様子だ。まあ、彼女たちは迎え酒で復活するので問題はないだろう。

 

「一つ、これは重要だぞ? みんな分かっていると思うが、うちの構成員の半分近くは女性スタッフ…特に戦術人形たちの比率が多い。人形だからと言って不当に接したり、傲慢な態度で接しないこと。あくまで同じ仲間として接すること。酔ったからと言って、身体を触ったり卑猥な言葉をかけることもしてはいけない、それはセクハラというものになるからな」

 

 ミラーはサングラスの奥で目を光らせ、集まったスタッフたちを見渡していくが…。

 

 

「セクハラって、ミラーさんが一番危ないんじゃないですか!?」

「オレたちは大丈夫っすよ、逆に副司令が手を出さないよう見張っておきますね!」

「うおおぉぉぉ! 我らスプリングフィールド親衛隊、そんな不届きなことは致しません!」

「女の子には手を出さない。当たり前だよなぁ?」

 

 

 返ってきたスタッフたちのヤジに笑い声があちこちからあがる。

 特に古参スタッフと一部の戦術人形は彼の女癖をよく知っているために、慌てるミラーをジト目で見ていた。ミラーは97式に助けを求めようとするも、今にもミラーに向かって跳びかかっていきそうな蘭々を抑えるので精いっぱいの様子で助けられない…いや、蘭々を押さえているだけで十分助けているのだが。

 

「と、とにかく! 今の注意事項を守るんだぞ! それじゃあ、あとは…ボスに最後びしっと決めてもらおう」

 

 逃げるように壇上から飛び降りたミラーは、その後すぐに蘭々に尻を噛まれ退散する。

 代わって、MSF司令官であるスネークが苦笑いを浮かべながら壇上に立つ……先ほどミラーが登壇した時とは正反対に、スタッフたちは皆、組織のカリスマに視線を向けて一言もしゃべらず背筋を伸ばす。実はこの場で初めてビッグボスという人物に会ったというスタッフもいる、噂に聞く伝説の傭兵を目の当たりにした新参のスタッフなどは感動を隠しきれない様子であった。

 壇上に上がったスネークは、マイクの位置を調整する…彼の一挙手一投足に注目するスタッフたち。

 

「今日の呼びかけに集まってくれたことを、まずは感謝する。この日を迎えるにあたり、様々な憶測や不安が広がったことは承知している。まずは不要な混乱を招いたことはここで謝罪しよう……今日はMSFが活動を終える日ではない、新たな出発点となる。そして今日という日に、これまでの戦場に散った同志たちに祈りを捧げよう」

 

 壇上のスネークにならうように、スタッフたちは胸に手を当てて黙とうを捧げた。

 今日を迎えられなかった戦友たちを、一人一人が弔う。

 

「さて、さっきミラー副司令が言っていたように、お祭りだからと言って羽目を外しすぎないように、来年もまた同じようにできるかどうかはみんなにかかっている。まあ、ほとんどのことは副司令が言ってくれたが、あと一つ約束してもらいたいことがある……今日という日を楽しめ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遊ぶぞおらーーッ!」

「やっちゃえママー!」

 

 開幕と同時に、MSFのお祭り要員たちが一斉に駆けだしていった。

 この日を楽しみにしていたエグゼは娘のヴェルを肩車すると、早速アルケミストとデストロイヤーを連れてお祭り会場の中へと消えていった。MSFのスタッフたちはヨーロッパから南米、アジア、アフリカなど多種多様な地域の出身者で構成されているために、この日のために彼らスタッフが用意した出店はそれぞれの国柄を出したものが多い。

 星付きレストランのような高級感あるものではないが、祖国の伝統料理を屋台として出したり、様々な民謡を楽器で奏で歌う。

 普段は意識することもないが、戦術人形も生まれ故郷を同じくするスタッフたちと混ざって歌い踊るのだ。

 

「ソビエト・ロシアでは、平和があなたをつくります!」

「Ураааааааа!」

 

 開催式では死体のような顔色であったスペツナズの面子であったが、アルコールを身体に入れたとたん顔色は戻り陽気な気分で高らかに叫ぶ。

 日頃はあまり関わらない、ロシア、ソ連出身の古参スタッフも混じりこのばか騒ぎに興じるのだ。

 開幕早々凄まじい勢いで酒を飲もうとする彼女たちを阻止しようと治安部隊と小競り合いが起きるが、先鋒に立つ9A91の勢いが凄まじすぎるために止められない。

 これはダメだ、もう酔いつぶれるまで放っておこう…そう諦めかけた時、一人の少女がひょっこり顔を出す。

 

 

「9A91、久しぶり! 私も遊びに来たよ!」

 

「あ、え? ス、スオミ…!?」

 

 

 スオミの顔を見た瞬間、9A91は即座に酒瓶を手放してそれまで一緒に暴れていたスペツナズの面子と距離を置く。友だちのスオミの前では絶対に乱れるわけにはいかない、そう9A91は慌てて酒から身を離そうとするが、生憎仲間のグローザたちがそうはさせない。

 

「あら久しぶりねスオミさん、お元気?」

 

「こんにちはグローザさん。あれ? でも9A91の手紙には戦死したって…」

 

「天国と地獄から追い返されて、仕方なくここに戻って来たのよ。それにしても、隊長さんたらスオミさんの前では猫被っちゃってまあ……夜中に戦車を飲酒運転して大変なことしてたくせに」

 

「い、飲酒運転…? そんな悪い子としてたの9A91!?」

 

「それは……記憶にありません、つまりやってないということですね、はい」

 

「隊長さんのせいで私たち隊員はみんなアルコール漬けよ。ねえスオミさん、うちの隊長さんどうにかしてくれない?」

 

「あははは……でも、9A91は今もずっと優しくていい子だよね。涙で濡れた手紙を貰った時、とても心配だったけど、良かった……今も素敵な笑顔を見せてくれるし、こんなにも心強い仲間がいるんだね」

 

「スオミ…」

 

「私が9A91と知り合った時は、こんな日が来るなんて思っても見なかった。あの時ユーゴはバラバラで、もう心の底から笑顔になれる日なんて二度とないんじゃないかって思ってた。でも、今日という日を迎えられた……それも9A91、MSFのみんなのおかげなんだよね、ありがとう!」

 

「あらあら、これは私たち酔っぱらいが付け入る隙はないようね」

 

 クスッと小さく笑い、グローザは二人から一歩退き、酒を口に含みつつ微笑ましく見守る。

 MSFとしては後輩にあたるが、気持ち的には9A91を妹のように見守るグローザ……そんな彼女のところに、スオミの主人であるイリーナが酒を片手にやってくる。彼女はユーゴ連邦幹部会の幹部の一人として、このお祭りに招待された一人だ。

 

「すまないな、今日はあの子をスオミに貸してやってくれないか? スオミは今日を楽しみにしていてな」

 

「水を差すつもりはないわ。でも退屈は嫌なの、ユーゴ革命の女闘士さんと酒を酌み交わしたいところね」

 

「喜んで、家だとその…スオミが酒を管理してるから好きに飲めないんだよ」

 

「あらあら、革命の英雄も家じゃ肩身が狭いようね。今日はお祭り、羽目を外しすぎないように楽しみましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーて、どこ行こうかしら? Vector、あんたなんか行きたいところあるの?」

 

「いや、特にないよ。FALは?」

 

「とりあえず、適当な屋台でも見てみましょうか」

 

 前夜祭にて、スペツナズのせいで高濃度アルコールを飲まされたFALであったが、早々に宿舎に連れ戻されたおかげで、今日は二日酔いにならずに済んだようだ。前の日に約束していた通り、FALはVectorと一緒に出店を練り歩く。

 多国籍の文化が一同に集う、ちょっとした博覧会状態となっている今日のお祭り。

 日本出身のスタッフたちが、祖国の縁日を参考に出している出店などは好評で、射的やくじ引きといった遊びから、おでんやリンゴ飴や綿菓子といった変わった料理の屋台を出している。

 そんな中、二人はネゲヴと一緒に出店を出すマシンガン・キッドを見つけ声をかける。

 

「やあキッド、それにネゲヴ。売り上げはどう?」

 

「最悪だよ! まったく、どいつもこいつも英国料理をバカにしやがって…!」

 

「だから止めときなって言ったのよキッド兄さん。イギリス料理が不味いってイメージはどうしようもないって」

 

「くっそー……素直に紅茶カフェでもやっとけばよかったぜ。いや、それだとオレの流儀に反するし…」

 

 色々な国籍の料理があるようだが、英国料理…というより出しているのはキッドだけだが、だんとつに人気がない様子。説明するのも面倒だが、色々と癖のある料理スタイルであるためにMSF内でも英国料理は敬遠されているようだ。

 気の毒な二人には悪いが、FALたちはその場を離れ、適当な屋台を練り歩く。

 くじ引きの屋台にふらっと入ってくじを引いてみた結果、FALは見事、ブサイクなブタのぬいぐるみを手に入れる。どこで誰がこんなぬいぐるみを仕入れてきたのか、なんとも言えない表情をFALは浮かべた。

 

「けっこう可愛いじゃない、お似合いだよ」

 

「これのどこが……こんなマヌケな顔のブタがいたら尻を蹴飛ばしてやるわ。まあいいわ、可愛いって思うんならアンタにあげるから」

 

「え…? 貰っていいの?」

 

「ええ、あげるわよ。まあ、こんなブサイクなブタ貰って喜ぶとも思わないけど?」

 

「そんなことないよ、嬉しい」

 

「んん?」

 

「ありがとう、FAL」

 

「なによ…今日はずいぶん素直じゃない。またバグプログラムに侵されてるんじゃないでしょうね?」

 

「うるさい」

 

 憎まれ口を叩くFALを、貰ったばかりのぬいぐるみでぶん殴り黙らせる…まあ、もふもふなぬいぐるみでぶっ叩かれてもさほど痛くはない。

 

「ねえFAL、次どこに連れてってくれるの?」

 

「あんたねえ……まったく、たまには自分で行き先決めてみなさいよ」

 

「道に迷ったら私の背を追いかけて来い、そう言ったのはアンタでしょう?」

 

「なにがこの……分かったわよ、じゃあ今日一日疲れ果てるまで引っ張り回してやるから覚悟しなさい。いいわね?」

 

「ええ、喜んで」

 

 ぶっきらぼうに言って見せる彼女に、Vectorはブタのぬいぐるみを抱きしめ嬉しそうに微笑むのであった。




平和の日、開幕ッッ!
尺の都合で、今までの登場人物全員描写するのは不可能なのであしからず。

MSFは多国籍軍の様相もあるから、出店は色々な料理があったりするのよね。


次回はお客さん招待するぞー!
遠慮なくお邪魔しろおらー!

あ、治安部隊に月光が徘徊してますんで暴れすぎないように…!
手配度☆6になると、サヘラントロプスが出動します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。