いよいよバンドの演奏を目前に控え、各メンバーは最終調整を済ませ各々時間まで待機する。
なかなか現れなかったベース担当のG11が416の手押し車に乗せられてやって来た時は、一同大丈夫かと疑ったが、416が冷水を顔に浴びせると一発で覚醒してくれた。当日参加だったドラム担当のスオミはリラックスした様子であり、ギタリストの一人であるミラーと楽しそうにおしゃべりをしている。
そんな中、メインボーカルを務めるキャリコはそわそわと落ち着かない様子で、何度も深呼吸を繰り返していた。メインボーカルのキャリコは必然的にこのバンドのフロントウーマンということにもなり、一番の注目を集める立場にあるのだ。
会場の外には既に大勢の観客たちが演奏を心待ちにしている。
練習では何の問題もなかったが、いざ本番を迎えようという今、緊張から身体の震えが止まらなかった。
そんなキャリコを見て、同じバンドのギタリストをつとめ、そして恋仲のMG5がそっと近寄りその肩に触れる。
「大丈夫だ、私たちがそばにいる。何度も練習しただろう?」
「そうだけどさ…本番で失敗したらどうしようって…」
「失敗なんて怖くないさ。失敗を恐れて何もできない事の方がずっと怖い…キャリコ、私の手を握ってみろ」
肩から目の前に差し出されたMG5の手をそっと握りしめる……握った彼女の手は微かに震えていた。
咄嗟に見上げたMG5はいつものような自信たっぷりの表情ではなかった…不安に思っているのは自分だけじゃない、そして大切な想い人が自分と同じだと分かった時不思議と心が軽くなったような気がした。
「ありがとう、リーダー…」
「いつだってこうしてきただろう? 今日も同じさ…さあ時間だが、その前に」
開演前のBGMが鳴らされ観客たちの熱狂が舞台裏に届く。
それを聞いていよいよかとステージに向かおうとするバンドメンバーたちを呼び止め、MG5はある提案をすると、全員が笑顔でそれを了承した。メンバーたちは一か所へと集まり、肩を組み合い円陣を組む。
「あーすまん、ミラーさん…後は任せても?」
「よし、引き受けた! コホン……諸君、いよいよ本番だ! オレたちの練習の成果をみんなに見せてやろうじゃないか! G11、もうすっかり起きたな? スオミはあまり一緒に練習できなかったが精一杯やろう! MG5、同じギター担当として頑張ろう! そしてキャリコ、オレたちみんなの想いを歌に込めてくれ! よし行くぞ、オレたちの音楽を見せつけてやろう!!」
「「「「おう!!」」」」
円陣を解き、カズヒラ・ミラーを先頭にステージへと向かっていく。次いでスオミとG11が、そして観衆の目に晒される直前までキャリコとMG5は手を繋ぎ合い舞台へと足を踏みだしていった。
本日のメインイベントとも呼べるバンドの演奏がついに始まった。
この日を迎えるにあたってみんなが暇を見つけては演奏の練習をしていただけあって、プロ顔負けの演奏を見せつける。そして研究開発班がこの日のためにと、開発してくれた音響装置のおかげで前哨基地に大迫力の音楽を響かせてくれる。
演奏の他にも、バンドメンバーの衣装も注目を集める。
飛び入り参加のスオミはいつもの服装だが、ベース担当のG11は恐竜の被り物をしたコミカルで可愛らしい姿をしている。
いつもの眠たそうな顔でベースの弦を引きつつ、時折ガオーと両手をあげて恐竜が威嚇するようなポーズをしてみせる。G11の可愛い動作に、観衆…特に女性スタッフたちが黄色い歓声をあげる。いつも気だるそうにしているG11は母性本能をくすぐられるとして、何気に女性スタッフに人気があるのだ。
そしてミラーはトレードマークのサングラスをそのままに、黒革ジャケットを羽織るロックなスタイル…これを用意してくれた97式の意向で、その背には蘭々をモチーフとした虎の刺繍が施されている。
ギタリストとして舞台の前に出るたびに、男女問わず歓声が上がる。
普段のマヌケっぽい行動で誤解しがちだが、ハンサムで良く鍛えられた肉体を持つ彼は男女問わず人気者だ…そう、男女問わずだ。
スオミの母国、フィンランドではヘヴィメタルが盛んな国として有名だ。
そんな母国の音楽文化に影響されてロックを愛するスオミは、その華奢な身体からは想像もできない力強いドラムの演奏をしてみせる。
『どうした、声が聴こえないぞ!? 腹の底から声を出すんだ!!』
そしてもう一人のギタリストであるMG5がマイクスタンドの前に立ち、さらに観客たちの熱気をあおって見せる。観客たちを煽りながら、彼女はステージ上に黒地に白のペイントでMSFのマークが描かれたフラッグを飾りつける。
ギターソロパートになると、MG5は前に出て速弾きを披露して見せる。
MG5、彼女もまた男女問わず人気者…おっぱいのついたイケメンとも称される彼女のかっこいい姿に観衆たちの熱狂はさらに高まっていく。
そしてメインボーカルのキャリコ。
黒のドレス姿でステージに立つ彼女は、舞台裏での不安な顔は一切見せず、太陽のような笑顔を振りまき美しい歌声を披露する。大迫力の演奏陣に負けない、パワフルな歌声も時折披露して見せ、バンドのフロントウーマンとしての役目を立派に果たすのであった。
夕暮れ前に始まったバンドの演奏は、日が沈み切った頃に終わりを迎える。
始まりから終わりまで、一瞬も熱狂が冷める様子はなく、演奏が終わってからも観客たちは演奏していた曲のサビを口ずさむ大合唱をしている。いまだ興奮が冷め止まぬ観衆へ、バンドメンバーは手を振り笑顔を向ける。
全員が舞台裏に向かった後、ミラーはすぐに全員外に出るよう伝えるのだ…なんだろうと外に出る。
演奏を聴いていた観衆たちに迎えられながら外に出ると、小気味よい乾いた音が鳴ると、一筋の光が空に上がっていく……そしてそれは夜の空に鮮やかな花を咲かせてみせる。
「わぁ! 花火だ!」
夜空に打ちあがった大きな花火を指差し、UMP9が嬉しそうにはしゃぐ。
花火が上がることは実は伏せられていた、これはミラーとスネークのサプライズ演出である。これも研究開発班がこの日のために寝る間も惜しんで用意したものである。
次々に打ちあげられていく色とりどりの花火に、再び歓声が上がる。
酔っぱらったスタッフが肩を組み歌を歌い、花火が上がるたびに拍手と歓声をあげて踊る。
夜空に咲く花火を嬉しそうに見上げるスタッフたちを、このお祭りを主催したスネークとミラーは温かく見守っていた。
「スネーク、やはり今日のことをやって良かったと思ってるよ」
「ああ、同感だ。今日の思い出はきっと、かけがえのないものになってくれるはずだ。オレたちは今日、一つになれた。それをみんなも分かってくれたはずだ」
「分かってくれたさ、きっとな。スネーク、今日までオレたちは多くのものを失ってきた…だがそれ以上に、素晴らしい出会いがあった。そしてそれは、きっとこれからも続いていくと思うんだ。そんな機会を与えてくれたアンタに、みんな感謝している」
「オレ一人の力で今日があるんじゃない、みんなが集まってくれたからこそ今がある」
「そうだな…ボス?」
「なんだ?」
「これからもよろしくな」
「ああ、こちらこそな」
固く、二人は握手を交わす。
そうしていると、騒がしい者たちが二人めがけて走り込んでくるのだ。
「あーもう、スネークこんなところで何やってんの!? ほら明日になっちゃうでしょ、残り時間も楽しまなきゃ!」
「そうだそうだ! ヴェルもいるんだから、しっかりパパ活してくれよな!」
「ほら、ミラーさんも一緒に行こうよ! 蘭々、今日はミラーさんと一緒に楽しまなきゃダメだよ!!」
迎えに来た人形たちに、スネークとミラーは顔を見合わせ笑い合う。
そしてスネークはスコーピオンとエグゼに手を引かれ、ミラーは97式と手を繋ぎ蘭々にどつかれながらお祭りを楽しむスタッフたちの中に混ざっていくのであった。
前哨基地より遠く離れた洋上のマザーベース、平和の日に参加するためにほとんどの人員が前哨基地に向かった今は、警備に残された無人機たちが闊歩するのみである。
邪魔者がいない中で、自我の芽生えた無人機たちは広い甲板で追いかけっこをしたりただだべっていたりして遊んでいる。普段倉庫で眠るサヘラントロプスも外に出て無人機たちを眺めている…その傍らでぴょんぴょん跳ねまわっているのは、いつぞやのダイナゲートだ。今ではすっかりMSFの無人機たちに溶け込んでいる…。
そんな、無人機の楽園と化しているマザーベースの甲板の端に、二人の影がある。
少し肌寒い夜の下、オセロットとWA2000は静かに無人機たちの奇妙なやり取りを眺めながら酒を口にしていた。
「本当に、行かなくて良かったのか?」
水平線の彼方を眺めながら、オセロットはそうたずねた。
彼の問いかけに、WA2000は小さく微笑む…寒さとお酒、そして彼への想いとで頬を紅く染める。騒がしい場は嫌いだと、平和の日の場に行かなかったオセロットと一緒にマザーベースに残ることとしたのだ。
お祭りに行きたい気持ちもあったが、それよりも好きな人と一緒にいたい……それがWA2000の素直な気持ちであった。
「ねえ、初めて会った時のこと…覚えてる?」
「あぁ、お前は一人で廃墟に隠れていた」
「そう……私はあなたを敵だと思って先手をかけようとしたら、その前に銃口をつきつけられた」
「そして、部屋に飛び込んできた鉄血兵に遭遇しよく分からんうちにオレはお前以外の全員を殺した」
「さっさと立ち去るあなたを慌てて追いかけたら、また銃口を向けられた。一日に二回も銃口を目の前につきつけられて生きてたのは、あの日が初めてだった」
「昔話をしたがるほど酔ってきたのか? そろそろ寝ろ」
「……冷たい人……私はこんなにも素顔を晒してるのに、あなたは少しも自分を見せてくれない……」
少し寂しそうに微笑みながら、オセロットの肩に頭を乗せる。
お酒に酔っている状態がそうさせるのか、それとも周りに誰もいない状況で素直な気持ちをさらけ出しているのか……もたれかかる彼女にオセロットは返事を返しはしなかったが、寄りかかる彼女を拒絶することは無かった。
些細な幸せに、WA2000は至福の表情を浮かべながら目を閉じるのであった…。
ちょっと短かったかな?
これにて、平和の日はお終いおしまい~。
ロックスキンのMG5がかっこいいんじゃ~!!
オセロットとわーちゃんは会場にいなかったけど、平和な一日を過ごしていたのじゃ。
次回、最終回
泣いても笑っても次が最期だ!!