METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

234 / 317
天国の外側(アウターヘヴン)

 第三次世界大戦という人類史上最大の大戦争を経てもなお、人は争うことを止めはしなかった。

 20世紀、かつてソビエト連邦とアメリカ合衆国という二つの超大国を盟主に世界は東西二つの陣営に別れ、冷戦と呼ばれる時代へと突入した。共産主義陣と資本主義、決して相容れることのなかった思想とイデオロギーは、国家や民族を分断しいくつもの悲劇を生み出した。

 東西ドイツでは冷戦の象徴とされるベルリンの壁が建造され、南北ベトナムと南北朝鮮は思想の違いで祖国が分断され同じ民族が殺しあう悲劇を生み出した。

 新たな戦争の形態として、代理戦争という概念が生まれたのもこの冷戦の時代だ。

 

 やがて冷戦の時代は、東側の盟主ソビエトの崩壊という形で幕を閉じる。

 

 世界を二つに分断していた時代は終わり、新たなる時代の訪れを人々は歓迎した……平和がついに訪れるのだと。

 

 だが世界が目の当たりにしたのは、新たなる戦争の時代であった。

 大国に押さえつけられていた民族主義が活発化し自由と独立を求める、そしてそれを許さない政権との戦いで内戦が起こる。解き放たれた戦争の火種はあっという間に世界に分散する……貧困に苦しむ途上国で産声をあげたのは、民衆をターゲットとするテロリズムだ。

 抗う術を持たない市民を狙ったテロリストの登場によって、これまで安全だと思われていた場所も安全ではなくなった。

 貧富の格差、宗教の違い、民族の違いが人々の憎しみを煽る。

 彼らは決して人を殺したいと思って殺すわけではない、戦いたいと思って戦うわけではない。

 彼らの心の中にあるのは平和への切実な願いである……だが、ただ待つだけでは平和は訪れることは無い、全能な神が降臨し願いを叶えてくれるわけではない。平和とは自らの行いで勝ち取るしかないのだ、そう心に思い込み、彼らは武器を手に取るのだ。

 

 

 そんな新しい戦争の時代の中でこれまでと変わる新たな概念が生み出される、戦争の民営化だ。

 民間企業が戦争を請け負い、ビジネスとしての戦争を行う……国家に帰属しない新たなる軍隊、金で雇われた傭兵たちが果てしない代理戦争を繰り広げる新しいビジネスの形であった。

 第三次世界大戦を経て、この動きはさらに活発化、世界中に広がった民間軍事会社への需要により企業は発展すると同時に、それに繋がる各産業分野も発展していく…。

 

安価で大量に生産が可能な戦術人形の誕生も、この動きに拍車をかける。

 従来の人間の兵士を扱うよりも管理がしやすい戦術人形はPMCにも重宝され、今や戦争に欠かせない存在となっている……地域紛争ひとつで大きな金が動く、戦争なくして経済は回らないと一部の者に言わしめるほど大きくなったこの動きはいつしか【戦争経済】と呼ばれるようになるのであった…。

 

 

 

 

 戦争が日常と化した世界の、どこかのありふれた戦場。

 

 乾いた風が巻き上げる黄色い砂煙に目をこすりつつ、SV-98はスコープを覗く。

 砂漠の向こうより、車列を組むトラックが彼女がいる方向へと向かって来ていた。今だ距離が遠いのと砂煙のせいで顔は見えないが、トラックの荷台上には武装した民兵たちが乗っている。

 迫るトラックに、SV-98はバイポッドを展開し開いた窓から狙撃態勢に移る……彼女の隣には、型落ちとなった第1世代戦術人形が観測手としてつく。敵部隊の接近を同じ陣営に立つ傭兵たちも察し、レンガ造りの家屋から銃を覗かせる。

 すぅっと息を吸い込み呼吸を止めるSV-98。

 一台目の車両が町の入り口に差し掛かったところで引き金を引く…放たれた弾丸は先頭のトラックを操縦する運転席のガラスにひびをつくり、真っ直ぐに進んでいたトラックは唐突にハンドルを切って建物へと正面衝突した。

 トラックの荷台から投げ出された民兵たちが慌ててその場から離れようとするのを、建物に潜む狙撃手たちが仕留めていく。

 

 次から次へと兵士たちを乗せたトラックが町の中に突入してくる。

 この町に防御陣地を構える部隊よりも多い兵員が投入されるが、襲撃を予測し強固な防御陣地を形成していた部隊の前に、町に侵攻する敵部隊は苦戦を強いられることとなる。しかし兵員の数では勝る敵部隊に油断は禁物、数で押しきられれば堅固な陣地も突破されてしまうだろう。

 町に展開する部隊は連絡を密にとり合い、各々の死角をカバーし合い敵の侵攻を退けていた。

 

「新手デス」

 

 観測手の戦術人形が、抑揚のない音声で警告する。

 警告に従いスコープをそちらの方向へと向けると、数台の車両が町に向かってくるのが見える。ただしその車両は、先陣をきって突入してきた敵部隊のトラックと違い、強力な武装を搭載した装甲戦闘車両であった。味方の傭兵たちもそれに気付き慌しくなる。

 さらに、上空を数機のヘリコプターが飛んでくるのを目撃したSV-98はスコープで様子を伺う…機体側面にペイントされた髑髏を模したエンブレムには見覚えがあり、それが意味するものを理解した彼女は目を見開いた。

 

 次の瞬間、上空を飛ぶ攻撃ヘリより強力な機関砲が斉射され、大口径の弾丸がレンガの壁を吹き飛ばし屋内にいた傭兵たちを文字通り粉砕した。上空からの奇襲攻撃を受けて強固な防御陣地が崩され、先陣を切って突撃してきた敵兵士たちが町の奥へと侵攻する。

 味方の傭兵部隊が携行式地対空ミサイルを用意する頃には、既に戦闘ヘリは戦場を離脱し、代わりに装甲戦闘車両が町へと入り込む。装甲車の後部ハッチから民兵とは異なる装備の兵士たちが降り立ち、素早く戦場に展開する。素人に毛が生えた程度の民兵とは明らかに練度が違う、戦場に展開した新手の兵士は右往左往する民兵たちをまとめ、それまで数の利で攻め立てていた戦術を変えさせた。

 

「よりによってこんな戦場で遭遇するなんて…!」

 

 噂には聞いていたが、こんな日に限って…SV-98は一人愚痴をこぼしつつ、自身の射程範囲に足を踏み入れる民兵を狙撃する。しかし、統制のとれた敵部隊の動きによって徐々に味方部隊は追い込まれ、SV-98が気付く頃には自分の周りには誰もいなかった。

 装甲車両の砲塔が、今まさに自分が隠れている建物を狙っているのを見た時、彼女は反射的にその場から走りだす。

 窓枠に背を向けて間もなく、凄まじい爆音と衝撃が彼女を襲う。

 衝撃で吹き飛ばされた彼女は運よく身体を打っただけで済んだが、観測手の人形は粉々に吹き飛ばされて瓦礫の下敷きとなっていた。

 

 痛みに呻いていると、下階から誰かが入ってきた物音を聞く。

 激痛を我慢して、彼女は窓枠を跳び越え隣の建物に移ると、ひたすら走り後方へと退いていく。だが味方部隊と敵部隊の間に挟まれる位置に立ってしまった彼女は、飛び交う銃弾のせいで思うように下がることが出来ない。

 これが戦術人形の部隊であったのなら、識別信号や通信のやり取りで誤射を免れたのだろうが、生憎味方部隊は人間の兵士であった。

 

「落ち着け、落ち着きなさい私…まだ戦いは終わってません!」

 

 一度深呼吸をし、再び建物の窓から狙撃を試みる。

 通りに面するその建物からは接近してくる敵部隊が一望できる、そこから彼女は狙いを定め引き金を引く。

 負傷した仲間を助けようとする民兵を誘いだし狙撃、卑怯な手段だと思い込むがなりふり構ってはいられない…極限の緊張感が、SV-98の感覚を研ぎ澄ます。敵は狙撃を恐れ遮蔽物に隠れ、闇雲に銃を乱射し始めるのだ。

 こうして狙撃で足止めできれば味方部隊の撤退を援護できる。

 そう思い、戦場を俯瞰していた彼女は流し見た景色の中にゾッとするものを見つけた……燻る車のすぐわきで狙撃銃を構えるワインレッドの髪の戦術人形、その銃口は真っ直ぐにSV-98を捉えていた。危険を認識する瞬間にマズルフラッシュを視認、次の瞬間強烈な衝撃を受けたSV-98の視界が暗転する……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……んん………ん?」

 

 目が覚めた時、SV-98は見知らぬ天井を見つめていた。

 簡易ベッドの上で寝かされたまま、彼女はしばらくの間、ひび割れた天井を見つめていた。ふと、視界の端から揺らめく白い煙がふよふよと漂ってくる…煙を辿って視線を動かしていくと、眼帯をつけた知らない男性がいた。

 

「――――部隊が合流するまで待てと言っただろう。強固な防御陣地を構える敵に闇雲に突っ込んでいっても、不要な損害を生むだけだ」

 

「申し訳ない……私も部下たちをおさえきれなかった。折角、あなた方の助力が得られたのに情けない限りだ」

 

 アラブ人の男性が、眼帯をつけた男となにやら会話をしている。

 起きたばかりで会話の全てが頭に入っては来ないが、アラブ人の男性の顔には見覚えがある…敵対する反政府勢力の部隊長の一人だったと記憶していた。

 会話を終えて、アラブ人の男性がその場を去っていく。

 ふと、眼帯の男性とSV-98は目が合った。

 

「起きたか。調子はどうだ?」

 

「調子……?」

 

 言われて、少しづつ自分に何があったのかを思いだしていく。

 同時に、身体の方も痛みを思いだしたのか頭やら腕やらあちこちが疼きだす…痛みを我慢し少しの呻き声も出すまいと唇を噛み締めて踏ん張るが、どうしようもない痛みで涙が滲む。今にも泣きそうな顔で踏ん張っている滑稽な表情を見て、彼は呆気にとられているようだった…。

 

「スネークちょっと……って、ようやくお目覚め?」

 

 女性の声に反応しそちらを見ると、同じく眼帯をした少しアホっぽそうな戦術人形の少女がやって来た。彼女が勢いよくベッドまで走り込んできたので、SV-98は声をあげて驚き、そのはずみでベッドから転落する。

 

「おーい、大丈夫かー?」

 

「うぅ……死んだんじゃないでしょうか…」

 

「えへへへ、まだ生きてるよ。それにしてもわーちゃんに狙撃されてるのに生きてるなんて、結構タフだねアンタ」

 

「狙撃……あなたたちは、もしかしてMSF?」

 

「そうだよ? あんたとは敵だったけど、ボッコボコにしてやったからそこんところよろしくね~」

 

 何がどうよろしくなのだろうか?

 転落してぶつけたおでこをさすりながらベッドに戻ると、眼帯の少女…スコーピオンはふむふむと値踏みするように観察する。

 

「合格」

 

「はい?」

 

「合格だよね、スネーク! わーちゃんも磨けば光るって言ってたし、スペツナズでスナイパーを探してたよね?」

 

「そうだな、一応9A91たちに聞いてみないと分からないが……素質はありそうだ」

 

「だよね~。早速、スペツナズに連絡しよ」

 

「ちょっと待ってください、何の話ですか!?」

 

「あなた捕虜、あたしらMSF。後はわかるでしょう?」

 

「全然分かりません!」

 

 咄嗟に大声をあげるSV-98、だがそのせいで傷が痛んで呻き声を漏らす。

 

「要するにスカウトだ、君の狙撃の腕をオレたちMSFに役立てて欲しいんだ」

 

「そんなこと言われても、私はPMCに雇われていて…」

 

 そう漏らす彼女に対し、スコーピオンは彼女の雇い主であるPMCは彼女を置いて戦場を逃げ去ってしまったと伝える。そんなことを急に言い渡されて混乱するが、雇われて間もなく、特に酷い扱いをされたわけではないが大切に扱われていたわけでもないのでそこまでのショックはなかった。

 むしろ、これから自分はどうすればいいのだろうという不安がよぎるが、それを解決するための提案をスコーピオンはしているのだ。

 

「でも、私はそこまで実戦経験もありませんし大した活躍もしてませんし…」

 

「そんなもの気にしないでさ、気楽に考えてごらんよ。このあたしが見込んでるんだから、間違いない!」

 

「そ、そうでしょうか…?」

 

「もちろん、アンタはきっと磨けば光る素材だよ。ミスコン一位だって狙えるよ!」

 

「なるほど……って、なんですって?」

 

「かわいい顔立ちしてるし」

 

「あのー?」

 

「ふむ…おっぱいのはりもいい」

 

「きゃっ!? なにするんですか!?」

 

「アンタは活躍の場を得て、あたしはかわいい女の子を回収してボーナスを貰う! お互い良いことづくしじゃん!」

 

 そんなことをノリノリで言って見せるスコーピオンだが、真後ろに組織の長であるスネークがいることを失念している様子。スネークがゲスなスコーピオンを懲らしめて仕切り直す。

 

「今言ったことはほとんど忘れてくれ。オレたちは、MSFは大層な信念があるわけじゃないが、国の思惑には振り回されない。国や思想に縛られず、オレたち自身のために戦う……戦術人形としてではない、一人の兵士として、オレたちの仲間になってくれないか?」

 

「一人の兵士として……すみません、よく分かりません。こんなこと、今まで考えたこともなかったんですから……でも…仲間ですか、良い響きですね」

 

 SV-98は少しはにかむと、ベッドの上で姿勢を正してみせる。

 

「分かりました、SV-98これより求めに応じMSFに参加いたします。ふつつかものではありますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします……あっ、でもこのままじゃ私の正当な所有権は元のPMCのままですよ?」

 

「そりゃ心配いらないよ! うちのストレンジラブ博士に任せれば、ちょちょいのちょいさ! それよりもさ、スネークあれ言うんでしょう!?」

 

「あれ? あれってなんだ?」

 

「あれだよあれ! こういう時のお決まりの決め台詞! あたしに言わせてよ!」

 

「あ? あぁ……好きにしろ」

 

「やったーー!」

 

 困惑するSV-98を差し置いて、ピョンピョン跳び回って喜びを表現するスコーピオン。

 ひとしきり喜びの感情を表現した後で、彼女は咳払いを一つしてSV-98の前に立って手を差し伸べた。

 

 

天国の外側(アウターヘヴン)へようこそ!!」

 

 

 




――――完結――――

投稿から467日、ついにこの日を迎えることとなりました。
我ながら、ここまでこの物語が続くとは思ってもいなかったことやで…たぶん、一人でやってるだけじゃ長続きはしなかったと思う。
これも、みんなの応援のおかげやと思っておる、ありがとうやで!

正直、描ききれんかったことの一つや二つはあるし、他の作品と比べて描写不足なところがあるなと思った…せやけど素人やからな、しゃーない。
ほのぼの詐欺してごめんな(笑)
時々ハートフルボッコエピソード挟んで申し訳ないと思ったり…でも、それもやりたかったとなんや。
それひっくるめて今日まで見てくれたみんなに感謝や、圧倒的感謝や!!

というわけで、METAL GEAR DOLLSは今日をもって完結や、満足やで。
最後にちょっとプチ劇場をお送りして、終わろうと思う……ほんじゃあ、またな…。






































※警告
こっから先、色々台無しにしてしまうかもしれません。
ここいらで気持ちよく終わりたい言う方は、引き帰すのだ。








































スコピッピ「わーちゃん、今すぐにゲーム機の電源を切るんだ!」
WA「なんて言ったの?」
スコピッピ「任務は失敗に終わった! 今すぐアプリを落とせ!」
WA「一体どうしたの!?」
スコピッピ「うろたえるな、これはゲームだ!いつものゲームなんだ!」
オセロット「長時間プレイすると目が悪くなるぞ」
WA「オセロットまで! 何を言ってるの!?」









はい。
というわけで始まります。
【METAL GEAR DOLLS~Secret Theater(シークレットシアター)~編】

具体的に何するかって?
世界観無視してはっちゃけたり、ギャグとほのぼのに全振りしたり、モンスターハンティングしたり、真面目なキャラをポンコツ化させたりすんだよオラァ。

まあ、要するに好き勝手やります(迫真)

今まで積極的にはやらんかったが、リクエストとか受け付けたりコラボも狙っていきたいぞー!

ポンコツ化いちじるしいと思われるキャラは、まあ…
代理人、エリザさま、オセロット、シーカー、ドリーマー、デルタの大尉、クルーガーetc...なんかしれっと生き返りそうな奴がいますが、まあええやろ。

というわけで、おまけのシークレットシアター始まりますぜ。

でも充電期間を設けさせてもらうで!

それじゃあ、またな!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。