METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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待たせたな!


☆シークレットシアター☆
12月25日は特別な日


 マザーベースの食堂、居住区、倉庫、訓練場などなど…多忙な隊員がその日がなんの日か忘れないようにするのと、以前行われた平和の日や誕生日会など、楽しいイベントを書き込んで周知するためにカレンダーが壁に掛けられている。

 今月は12月。

 居住区のカレンダーの前に立ってニコニコ笑う人形たちと、一部のMSFスタッフたち。

 彼女たちが見つめるカレンダーの日付、すなわち【12月の25日】は赤まるで強調されていた。

 

「今から楽しみですね、スコーピオン」

 

「だね! 前日までにスプリングフィールドにケーキ作ってもらおうかな?」

 

「ええ、もちろんですよ! SAAやMG5、みんなも呼んでパーティーを行いましょう」

 

「うんうん、今からスネークにも言って予定空けておいてもらおうね。もちろん、エイハヴにもさ!」

 

 スネークはMSFという組織の長として、エイハヴは実働部隊の取りまとめ役として多忙な毎日を送っておりなかなか顔を合わせられる時間がなかったりする。スコーピオンの恋敵としてエグゼがおり、貴重なスネークとの触れ合いタイムをよく奪い合う。

 一方のスプリングフィールドも、以前までは恋敵と呼べる存在はいなかったのだが最近はアーキテクトというライバルが誕生した。エグゼ同様、アーキテクトはなかなかに積極的だ…突撃してエイハヴの優しさに触れてしおらしくなるのが定番の流れだが、油断もしていられないのだ。

 

 12月25日……昔のMSFは野郎ばかりでそんな特別な想いを抱く一日にはなり得なかっただろうが、今や女性の比率が増し、女の子のバトルはかつてないほどヒートアップしていた。

 

 カレンダーを見つめ、恋の闘争心を燃やす二人のそばを3人の女性が通りがかる。

 一人はWA2000、外は寒いのだろう、居住区に入って来たばかりの彼女の頬が紅く染まっていた。

 

「こんにちは、スコーピオンさん、スプリングフィールドさん」

 

「およ、SV-98にわーちゃん…それと、アイリーン上等兵曹さんじゃん」

 

「やあ、スコーピオン。もうアイリーンでいいよ、ネイビー所属じゃないしさ」

 

 中東の戦場で戦闘の末に回収、MSFに所属することになったSV-98は今はWA2000に訓練の面倒を見てもらっている模様…と言っても、既に腕は経つとのことで基本的なMSFのルールを教えているに過ぎないのだが。

 もう一人のアイリーンという女性は、未曽有の大混乱を引き起こした欧州の動乱にて、WA2000の対決で敗れMSFに回収された米海軍特殊部隊兵士だ。彼女はと言うと、傷の治療も終わって正式にMSFに所属することを表明し、今はどこの班に配属されるかが検討されているという。まあ、元特殊部隊の経験を活かし戦闘班か訓練教官に任命されるだろうというのが大方の予測である。

 

「アイリーンも【クリスマス】に参加するよね?」

 

「ごめんね、その日はちょうど前哨基地に呼ばれててね。それに私無神論者だし、クリスマスをお祝いする習慣がないんだ」

 

「お父さんかお母さんはそういうことはしなかったの?」

 

「物心着く頃にはもうね。お父さんはイラク戦争で色々見て、お母さんは私を産んで死んじゃったから……あーごめんごめん、暗くさせちゃってさ。とにかく、クリスマス楽しんでね」

 

 そう言って、アイリーンは少し気まずそうにその場を立ち去っていった。

 彼女のことはまだよくわからないことが多い。決して悪い人物ではなく、みんなに優しく美人で人気もあるので今のところ問題はないのだが。

 クリスマスに参加しないと正式に表明しているのは、何もアイリーンだけではない。

 MSF内では他人に強く勧めたり迷惑をかけなければ信仰も自由ということで、クリスチャン以外…具体的にはイスラム教徒の隊員などもいる。そのスタッフたちはクリスマスの誘いをやんわりと断り、その日は是非参加できるものだけで楽しんでくれと笑っていた。

 

「ところで、わーちゃんはオセロットとどっか行くの?」

 

「行かないわ、しばらく帰ってこなさそうだし」

 

「あはは、相変わらずですねワルサーさんの方は…」

 

「なんかもう、慣れたのは慣れたんだけどさ……少しくらい、連絡してくれてもいいわよね…」

 

 小さなため息をこぼしつつ、WA2000は少し寂しそうにつぶやいた。

 ひとまず、WA2000もその日はやることがないということでクリスマスに参加する模様だ。

 

「ところでSV-98は、スペツナズのみんなと会った?」

 

「いえ、まだ会っていませんが?」

 

「なんですと? これは一体どういうことかな、わーちゃん?」

 

「私に聞かないでよ。まあ、なんかまた隠密任務やってるみたいだし忙しいんじゃないの?」

 

「スペツナズの皆さんも、お酒が関わらなければ真面目で優秀なんですがね」

 

「まあしゃーないじゃん? ところでSV-98はさ、お酒結構飲める口なの?」

 

「いえ、お恥ずかしいことですがあまり得意ではありません。嗜む程度です」

 

 少し恥ずかしそうに言うSV-98にスコーピオンはあからさまに驚いてみせるが、そんな失礼な態度を隣にいたWA2000に戒められる。

 スペツナズを見ていると誤解しがちだが、ロシア出身者全員が飲んだくれというわけではないのだ。SV-98の名誉のためにも言っておくが、MSFのロシア人にも何人か下戸の者はいる。

 

「まあ、グローザ以外は変にお酒勧めてこないしあんたならスペツナズに入っても大丈夫だよ。でもまだスペツナズ入りが決まったわけじゃないし、これからもっと訓練しなきゃだよね。スペツナズはMSFで指折りの特殊部隊だからさ、頑張るんだよSV-98」

 

「了解しました!」

 

 スコーピオンの言葉を聞いて高貴栄えあるスペツナズにいつか配属されることを、改めて目標として決意を固めるのだった。

 

 

 そして、時間はあっという間に流れついに12月25日を迎える。

 クリスマスパーティーは24日の日没から始まっているのだが、参加者の都合と酔ってマザーベースの甲板から海に墜落する危険を減らすということで25日の午前からパーティーは始まるのであった。

 

 クリスマスには、前もって予定を空けてもらっていたおかげでスネークもいるしエイハヴもいる。

 このちょっとしたお祭りに副司令のミラーも97式と蘭々と一緒に参加する、特に蘭々は97式にサンタ帽を頭に乗せられてとてもかわいらしい。

 クリスマス参加者の一人であるWA2000にとって何よりも嬉しい誤算だったのが、ちょうどその日にオセロットがマザーベースに帰ってきたことだろう。まさかのことにWA2000はおもわず涙をこぼして喜んだ…そんな彼女にスネークは微笑みかけ、サムズアップを向けた。どうやらオセロットの件はスネークのはからいによるもののようだった。 

 パーティーが始まると同時にスプリングフィールドが作ってくれたホールケーキが運び込まれ、みんなで小分けにして皿に乗せてその甘美な味わいを堪能するのであった。

 

 シャンパンを空け、クリスマスソングを歌い、手を繋いでダンスを踊る。

 

 平穏で穏やかなクリスマスの時間が流れていき、誰もが笑顔を浮かべていた。

 

 しかし、そんな平穏な時間にスコーピオンはふと疑問符を浮かべる。

 クリスマスは楽しいし、賑わっているし、平穏そのものだ……だが何かが足りないのだ。

 

「どうしたの難しい顔して、スコピッピ?」

 

 頭を悩ませるスコーピオンに近寄ってきたアーキテクトがそんなことを聞いてきた。

 ちなみに今のアーキテクトはサンタ風のコスチュームに身を包み、白いひげメガネをつけた滑稽な姿をしており、相方のゲーガーは無理矢理着させられたのかトナカイの着ぐるみ姿だ。

 

「いやさ、なんか足りないなって…なんかこう、こういうお祭り気分な場に相応しい何かがいないような感覚?」

 

「言われてみればそうだな…なあハンター、どう思う?」

 

「うーん?」

 

 会話を聞いていたエグゼとハンターも、スコーピオンの疑問に共感する。だがその疑問が一体なぜなのか分からず頭を悩ましていた。そんな時、コロコロと甲板を転がってきた空の酒瓶とそこに刻まれたキリル文字を見て一同ハッとする。

 

 

 スペツナズの面子が一人もいない!!

 

 

 彼女たちの違和感の原因はそれだった。

 誕生日会も、平和の日も、お酒の香りが少しでもすればどこからか湧いてくるスペツナズのメンバーが今は一人も見当たらないのだ。今だかつてなかった異常事態である。

 すぐさま、スペツナズのことを任務を把握しているミラーに尋ねてみると、彼は首をかしげる。

 

「9A91たちはとっくに帰ってるはずだが? 任務もしばらくないし…どこかで休んでるのか?」

 

「いや、酒がドーピングみたいな人形たちだよ? どこにいるんだろう?」

 

「いるとしたら、彼女たちの部屋じゃないか?」

 

 せっかくのクリスマス、お酒もある楽しい場であの愉快な面子がいないのはなにやら勿体ない。

 ということで、スコーピオンは一旦パーティーを抜けて彼女たちを捜しに出かける。折角だからと、SV-98も挨拶をするためということでスペツナズ捜しを手伝ってくれる。

 

「うーん、こっちかな? 部屋はこっちなんだよね」

 

「おや? 赤い横断幕のようなものが飾られてますね」

 

「あ、ほんとだ。さてはスペツナズだけでささやかにパーティーでもしようとしてるのかな?」

 

 スペツナズの宿舎前には真っ赤な横断幕が飾られていた。

 日頃お酒絡みで迷惑をかけてしまうから自分たちだけでひっそりパーティーをしているのかもしれない、そうスコーピオンは思い込んで部屋の扉を開けてみた。

 

「って、暗っ!? なになに? なんなのこれ!?」

 

 開けてみた部屋はカーテンが閉めきられ、わずかに差し込む光と蝋燭の明かりだけが灯っている。

 よく見ると蝋燭が立てられたテーブルを囲むようにスペツナズの隊員たちが座り、各々に小さなグラスとウォッカの入った瓶が用意されている。

 

「ちょっとちょっと! こんな暗い部屋で何をしているのさ、葬式でもしているの!?」

 

「しーーーっ! 静かに……ある意味お葬式かもしれません。スコーピオン、今日が何の日か分かりますか?」

 

「今日は12月25日、クリスマスでしょう?」

 

「そうかもしれませんね…でも、もう一つあります」

 

 そこでようやく9A91は立ち上がり、閉めきったカーテンを開き太陽の光を部屋に差し込ませる。

 暗い空間に目が慣れていたスコーピオンはまぶしさに思わず目を瞑る……そして徐々に光に目を慣れさせていくと、部屋の装飾がおかしくなっていることに気付く。

 

 壁に飾られたよく分からないおっさんの肖像画、古臭い映画の中でしか見ないようなプロパガンダポスター、そして真っ赤な生地に黄色で描かれた鎌と槌の赤旗。

 

 

「同志スコーピオン!! 本日12月25日はかつてアメリカ合衆国と世界を東西二つに二分し覇権を争い合った偉大なる超大国、【ソビエト連邦崩壊】の日なのです!!」

 

「うぇ? ソビエト、崩壊…はい?」

 

「クリスマスなど、資本主義の権化がお菓子とケーキを売りまくるためだけに創った風習です、すなわちブルジョワ共の道楽なのです! でもサンタは好きです、何故だか分かりますか!?」

 

「し、知らないよ!!」

 

「サンタの赤は共産主義の赤なのですよ!!」

 

 あまりの勢いに気圧されて、スコーピオンとSV-98は後ずさって転倒する。

 部屋の外に出たところで気付く、先ほど赤い横断幕と思っていたのはなんと鎌と槌が描かれた大きなソ連国旗であった。そして宿舎の部屋番号には、シールが張られそこには【赤色クラブ】と手書きで書かれているではないか。

 

「同志スコーピオン! むむ、あなたはもしかしてSV-98ですか?」

 

「あ、はい…そうです…」

 

「素晴らしい、同志がまた一名増えましたね!!」

 

「あら、かわいらしい子ね。いらっしゃい、SV-98…明日になるまでソビエトを懐かしむ会を楽しみましょ?」

 

 わけが分からないうちにスコーピオンとSV-98は部屋の中に引きずり込まれていく。

 先ほどは気付かなかったが、既に部屋の中はアルコール臭で充満している。

 

「あのー、みなさん?」

 

「待ってください同志スコーピオン、あちらをご覧ください」

 

 9A91に促されて見た先には、禿げ頭のオッサンと口髭のオッサンのの肖像画があるが…もちろんスコーピオンは知らない人だ。

 

「誰このオッサン二人?」

 

「おっさん…!?」

 

「なん、だと…!?」

 

「これはシベリア送りね」

 

「ソビエト建国の父であり偉大なる同志レーニンと大祖国戦争を勝利に導いた同志スターリンを知らない人がこの世にいるなんて!? はっ、これはもしや西側退廃主義者どもの策略によるものなのでは!?」

 

「もうやだこの人たち…!」

 

 酔っぱらった共産趣味者となったスペツナズに捕まってしまった二人は、クリスマスを楽しむという楽しいイベントを潰されてしまうのであった…。

 

 その後、帰りが遅いことを不審に思ったスネークがやって来たことでようやく二人は解放されることとなる。

 

 そして、二人を監禁したことについて厳しく叱咤されるスペツナズ…特に9A91は部隊長という立場もあるため、一層厳しいお叱りを受ける。大好きなスネークにこっぴどく叱られる9A91は今にも泣きそうな表情であった……そんな姿にスネークもつい甘やかしてしまいそうになるが、心を鬼にして、このようなことが起きないよう注意をするのであった。

 

 

 ちなみに、叱られた9A91はその後しばらくお酒の摂取を控えめになったという。

 

 ただし、アルコールの不足を補うかのように、彼女はスネークに終始ついて回る……ヤンデレそう呼ぶにふさわしいストーカーっぷりに、あのエグゼも怖気づく。

 そしてある時、スネークが起床して目の前に9A91の顔があった時は、彼の珍しい悲鳴がマザーベースに響き渡ったという…。




9A91「ソ連が恋しくない者は心がない!ソ連に戻りたい者には脳がないッッ!!」

グローザ「同志PKP、あなたのお母さんは?」
PKP「偉大なる祖国ソビエト連邦だ!」
グローザ「ではヴィーフリあなたのお父さんは?」
ヴィーフリ「偉大なる同志スターリンであります!」
グローザ「よろしい、では二人の将来の夢は?」
PKP&ヴィーフリ「孤児になりたいです」


クリスマスですね~でもただじゃ終わらせないぞ~!
こんなネタやっておきながら、スペツナズの面子って開発期間とかは被っていても、完成はロシア連邦時代なんですよね~。

共産趣味な彼女たちの歴代指導者の評価?

レーニンおじさん→ソビエト建国の父、絶対神
ヨシフおじさん→大祖国戦争を勝利に導いた英雄、粛清おじさん
マレンコフさん→?
フルシチョフおじさん→評価が難しい
ブレジネフおじさん→勲章じゃらじゃらおじさん
アンドロポフさん→??
チェルネンコさん→???
ゴルビー→シベリア送り
エリツィン→アル中おじさん
プーさん→灰色の枢機卿、名前を言ってはいけないあの人、強いロシアの具現者


ウォーミングアップは完了や、伝わる人にしか伝わらんネタですまんなw

これ書いてて、9A91とかエグゼを原点回帰ということでヤンデレ化させるネタも浮かんだりなかったり

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