METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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やさしい世界


夢見た世界

 カーテンの隙間から差し込む光を受けて私は目を覚ます。

 寝たままの姿勢で、薄暗い天井をぼんやりと見つめ続けていると、小鳥たちのさえずりが聞こえてくる。少しひんやりとした朝の空気を肌で感じながら、私は再びまぶたを閉じた。聞こえてくる風のせせらぎと木々のざわめきに混じって、穏やかな寝息が聞こえてきた。

 私は少し寝返りをうち、わたしのすぐ隣で静かに眠る少女を見つめる。

 私のそばで眠りにつく彼女を見ていると、心が安らぎ温かな感情が胸いっぱいに広がっていく…顔にかかる長い黒髪を静かにかき上げて、そっと彼女の頬に触れれば、彼女の温もりが私に伝わってくる。

 

 あぁ、今日も私は生きている…。

 

 ここには私だけでなく、確かに彼女も存在する…私は孤独なんかじゃない。

 

 

「……ん……」

 

 

 私が頬に触れた感触で起きてしまったのだろう、彼女は小さな声を漏らし、ゆっくりとまぶたを開く。もっと寝顔を見ていたかったり、起こしてしまったことを申し訳なく思ったりもするが、一緒に起きて今日という一日を彼女と心ゆくまで過ごしたいという想いもあった。

 まだ眠そうな目で私を見つめてきた彼女は、小さく微笑みかけてくる。

 

 

「おはよう…シーカー」

 

「おはよう、ドリーマー」

 

 

 朝の挨拶を交わしあった後も、私とドリーマーはシングルベッドに横になったままお互いを見つめ合う。私が頬や髪を撫でてやれば、ドリーマーは心地よさそうに目を細めて笑う。そんな彼女の姿がたまらなく愛おしくて、何度も繰り返してしまう…でも、いい加減起きなければならない。

 私の意図を察した彼女もベッドから起き上がると、ふと私たちは手を繋ぎ合っていたことに気付く…昨夜、寝る時に手を繋いだまま朝を迎えたようだ。お互い気恥ずかしそうに笑い、少し名残惜しく手を離す…。

 

「朝ごはんつくるわね」

 

「私も手伝おうか?」

 

「気持ちだけでいいわ、座って待っててね」

 

 ドリーマーは起きるといつも朝食を作るためにキッチンに向かう。

 その間わたしはベッドをたたみ、窓を開けて新鮮な朝の空気を部屋の中にいれる。朝の空気は少し寒いが、起きたばかりの身体を覚醒させるのにはちょうどいい。窓際から見える青い海は、私のお気に入りだ……海岸沿いの森の中にポツンと建てられていたログハウスに私とドリーマーはひっそりと住んでいる。

 元々は誰かの別荘だったここを掃除して、痛んだ箇所を直したものだ。

 人が暮らす町から離れていて、この時代では珍しい豊かな自然に囲まれた場所…私もドリーマーも、この場所を気に入っている。

 

「シーカー、ごめん薪を持ってきてほしいんだけどいいかしら?」

 

「すぐにとってくるよ」

 

 キッチンから聞こえてきた声に返答し、私は家の外の薪置き場に足を運ぶ。

 森の中を歩きまわってかき集めた枝木や玉切りにした木材を割ったもの、比較的乾燥した木材を選んでキッチンへと運ぶ。昔ながらのかまどを用いた調理場があってよかった、ガスを用いるコンロであったなら私たちはここに住むことは出来なかった。

 キッチンに向かうと、香ばしい香りが漂い空腹感を刺激する。

 

「ありがとうシーカー、そこら辺に置いておいて」

 

 料理の腕というより、家事全般が壊滅的な私に代わってそれらを引き受けてくれるドリーマーには感謝の念しかない。長い黒髪を調理の邪魔にならないよう首の辺りで一つに結び、白のエプロンを身に付けるドリーマーにそっと近寄ると、私は後ろから彼女を抱きしめる。

 すると、彼女は少し驚いた様子を見せ、少々困ったように笑う。

 

「もう甘えん坊さんね、朝ごはんが作れないでしょう? リビングで待ってなさい」

 

 鼻先を指で叩かれた。

 彼女の料理も食べたいがこのままでいたい気もする…だがあまりやり過ぎると怒られてしまう。私はそっと手を離し、言われた通りにリビングのテーブルに腰掛けた。朝ごはんができる間、私は適当な本を取り出し読書にふける…以前はよくイントゥルーダーに読み聞かせをお願いしていたが、自分の目で文章を読むことの楽しさを最近感じつつある。

 イントゥルーダーに教わり、すっかり私自身魅了されてしまったシェイクスピアの作品。

 一度読めば再び読み直すことは無いが、彼の作品だけは繰り返し読み、その度に新しい感動を与えてくれる…ドリーマーと一緒にいる時は本を読まないようにしているため、今のような待つ時間に本を読む、私のささやかな楽しみだ。

 

 1ページの文章を読み終えたところでドリーマーが来たため、しおりを挟み本をしまう。

 

「お待たせシーカー、さあ召し上がれ」

 

 焼いたウインナーとベーコン、軽く火で温めてふんわりとさせたロールパンにコンソメスープだ。

 私は彼女と、今日のこの糧に得られたことに感謝の気持ちを示し、料理をいただいた。

 

 

 

 

 朝食後のコーヒーを済ませた後、私たちは町へ出かけることとした。

 外出の目的は買い物だ、日用品や料理に欠かせない調味料、あとは町でしか手に入らない食材などを求める。家出の主導権はドリーマーだが、外出時は私が彼女をエスコートする。

 家の近くの厩舎には、一頭の黒い馬がいる。

 アハルテケ種の若く気品ある賢しい馬だ、外出時には彼の背にまたがり出かけるのがいつものことだ。

 彼の背にまたがる前に、彼の顔とたてがみを撫でる…馬との信頼関係はとても大事だ、少なくとも私が志す騎士道において、馬とはパートナーに等しい存在だと認識している。

 

 彼の背にまたがりドリーマーを迎えに行く。

 外出のためにドレスアップをした彼女を馬に乗り迎えに行くのは何よりも気に入っている、玄関の前で佇む彼女に手を差し伸べ愛馬に乗せる。古き良き騎士道物語さながらのようで、ついつい私も嬉しくなってしまう。

 町までの道のりもお気に入りの時間だ、私はドリーマーとの会話を楽しみつつ、若く体力を持て余す馬が勢いよく走ってしまわないよう制御する。

 

 

「到着ね。さて、今日は何があるかしら?」

 

 

 目的地の町は、昔ながらの建物が残るのどかな景観を持つ。

 治安もよく、決して豊かとは言えるわけではないが人々の笑顔が溢れる綺麗な町であった。

 今回の買い物は主に日用品、洗濯用の洗剤やキッチン周りの備品を買い求める。あまり買い過ぎないよう注意しながら買い物を続け、お昼時になった頃に、私たちは町の小さなレストランに入って行った。

 

「ん~、それにしても鬱陶しい連中がいないからのんびりできていいわね」

 

「ふふ、そうだな。強者とのスリリングな戦いも興味はあるのだが」

 

「私はそんなのまっぴらよ。めんどくさいしだるいし、自分のやりたいことやって気ままに生きてた方がいいわ。あんたも本当はそうでしょう?」

 

「ふむ……それもそうだな」

 

 ドリーマーの言う通りかもしれない、ここには私たちの正体を知る者はいないし襲い掛かってくるものもいない。ここで暮らしていけば、私とドリーマーは自分たちが造られた存在であるのを忘れさせてくれる。

 騎士としての強さを求めた時期が今は懐かしい。

 剣も盾も捨てるつもりはないが、身の丈以上のことはもう望まないつもりだ……それに、今は彼女がいるのだから。私だけのお姫さま(プリンセス)が…。

 

 

 

 

 

 買い物を終えて家に帰り、ドリーマーが家の掃除をしている間に私は愛馬を走らせる。

 持て余した力を存分に発揮できて彼も喜んでいる……海岸線沿いの平坦な道を走らせながら、古い灯台跡が残る岬にたどり着く。お互いに時間があればドリーマーとも一緒にこの場所にやってくる、青く美しい海を一望できるお気に入りの場所だ。

 馬をそこではなし、広い野原を自由に走り回る姿を見つめる……変わり映えのしない毎日であるが、平穏で穏やかな日々の暮らし。これこそがきっと、私が夢見た世界なのだろう。だから、この日常が終わってしまうことを想像すると、私はいつも恐怖に怯えてしまう…。

 

 家に帰る頃には辺りはすっかり暗くなっており、玄関を入った先で帰りが遅いとドリーマーに叱られる。

 彼女のご機嫌をなんとかとった後に夕食を済ませ、私はドリーマーと二人でお風呂に入るのだ……お風呂も薪で温めているので温度調節が難しいが、今日のお湯加減はちょうどよかった。前に私がやった時は超高温のお湯と化し、以後私は余計な手を出さないことを誓った。

 

 お風呂を上がり、リビングでのんびりとした時間を過ごす……一日が終わりに向かうこの時間、いつもドリーマーは風呂上がりでのぼせた身体をソファーに投げ出してリラックスしているが、私はこの時間帯が苦手だった…。

 

 ドリーマーが欠伸をし始める頃に、私たちは寝室に向かい一緒のベッドに入って眠りにつく……。

 

 だが私はいつも、一人で眠りにつくことが出来ない……眠ってしまうのが何よりも怖いのだ。

 

 次に目覚めた時、今の平穏な暮らしも、最愛の彼女も存在しない暗く冷たい世界を想像するといつも恐ろしくなるのだ。決して多くを望みはしない、だが……孤独になるのだけは絶対に嫌だった。

 何よりも、ドリーマーがいないことを考えるだけで胸が締め付けられるようだった。

 

 

「眠れないの?」

 

 

 不安に駆られる私の気持ちに気付いたドリーマーが見つめてくる。

 窓から差し込む月明かりが彼女の白磁のような肌を美しく照らし出す……ドリーマーは確かにそこにいる、彼女のぬくもりも、息づかいも感じられる。だがそれらすべてが幻想に過ぎないと考えるだけで、私の心は氷のように冷たくなっていく。

 

「私の手を握って?」

 

 不安で眠れない時、ドリーマーはいつもこうして私の手を握ってくれる。

 そうすると、何故だかわたしの不安が和らいでいく……。

 

「目を閉じて…」

 

 言われた通りに、まぶたを閉じると唇に柔らかなものが触れた…。

 

「私はいなくならないよ、シーカー。ずっとずっと、一緒だから」

 

「ありがとう……ドリーマー、嬉しいよ…」

 

 彼女の温もりが、私の心から不安と恐れを取りはらってくれる…。

 

 彼女と一緒なら、明日に希望を持てる…。

 この夢が永遠であることを願って、私は…。




シークレットシアターのほのぼの平穏な世界が、シーカーが抱いていた理想・夢って考えると切なくなるよ…。


はっ…!
いかんいかん、せっかくのシークレットシアターなのに湿っぽくなったじゃないか!


というわけで、こいつらしれっと復活させますね~。
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