「これは……なかなか珍しい輩がやって来たものだな」
麦わら帽子に白のワンピース姿で屋敷の周囲をのんびり散歩をしていたウロボロス…隣には無理矢理散歩に付き合わされているイーライがいる。
そんな二人の前には、凛々しい黒馬にまたがる二人の人物がいる…うち一人はよく知る顔で、なんともつまらなそうな表情を浮かべ、ウロボロスとは目も合わせようとしない。もう一人の人物…美しく伸びた白髪に、中世の騎士を思わせるような装いをした女性については、直接の面識はなくとも何者であるかは理解していた。
白髪の女性は馬上からするりと降りると、目の前のウロボロスに礼儀正しくお辞儀をし、ウロボロスもまた相手に敬意を払い礼儀を返す。
「初めまして、というべきかなウロボロス。あなたとこうして会えて光栄だ」
「私もおぬしの事は興味があったぞ、シーカーよ。しかし死んだと聞いていたんだが…?」
「まあ細かいことは気にしないでくれ」
「そうか? まあおぬしがここに来た理由は分かっておる…なんと忠義に篤い者よ」
「主君への忠誠こそが、私の信念だからな……ドリーマー、君も挨拶をしたらどうだ?」
シーカーとは対照的に、無愛想な態度を続けるドリーマーは馬に乗ったまま、ウロボロスを一瞥したのみですぐに目を逸らす。親友の無愛想な態度に肩をすくめ、シーカーが挨拶を促すと渋々といった様子でウロボロスに挨拶をしたが……それを隣で見ていたイーライが拾い上げた石ころを投げつけ、ドリーマーのおでこに命中させた。
「痛っ……!? なんだこのクソガキ!」
「馬に乗ったまま挨拶するやつがいるかよでこすけ人形。オレの前で偉そうにするな」
「なんですって? ガキだからって、調子に乗ると痛い目見るわよ?」
「やめないかドリーマー、みっともないぞ?」
「良く言ったぞイーライ、それでこそ我が優秀な教え子だ! もっと言ってやれ、あの女は前々から気に入らなかったんでな!」
なだめようとするシーカーと、煽ってみせるウロボロスの対比がなんとも酷い。
まあ子ども相手にムキになるなと冷静に諭しかけられてドリーマーも渋々引き下がる…のだが、ウロボロスに煽られてやや調子に乗っちゃったイーライは止まらない。
「なに勝手に収まったと思ってんだよ。馬から降りて挨拶しろよでこすけ、オレたちに敬意を払え」
「いいぞイーライ、その調子だ! あいつの自尊心とやらを徹底的に貶めてやれ!」
「ごめんシーカー、やっぱこいつらマジムカつくわ」
「馬から降りて挨拶するだけだぞ?」
そのままごねてるより降りてさっさとあいさつした方がかっこが決まるとシーカーは思うが、イーライとウロボロスに負けたくないという思いの強さから、何が何でもドリーマーは馬から降りようとしない。
まあそのままではらちが明かないと感じたシーカーに無理矢理引きずり下ろされたのだが、腹を立てたドリーマーは少しの間シーカーと口も聞いてやらなかったのだった…。
一悶着あったが、屋敷に招かれた二人は早速かつての主であり、シーカーにとっては今なお忠義を捧げるエリザに謁見を果たす。エリザと会う前に、シーカーは長髪を束ねて身だしなみを整え、主君に見せて恥ずかしくない装いに直す。
椅子に座るエリザの前でシーカーは片膝をつき、深々と頭を下げた。
「お久しぶりでございますエリザさま。不肖ながらこのシーカー、今一度この剣を貴女様のために振るいたく馳せ参じました。我が盟友、ドリーマーも同じ志でございます」
深く頭を下げる二人には見えていないが、今のエリザはとてもにこやかな表情で二人を見つめていた。
特にシーカーはエリザのお気に入りであり、古き良き騎士を志す彼女を一人の人形として尊敬をしていた…一方で、エリザの隣に立つ代理人は厳しい視線を二人に向けていた。シーカーとドリーマーを快く迎え入れようとするエリザに対し、代理人は非礼を承知で遮るのだった。
「申し訳ございませんが、少々お待ちくださいご主人様。コホン……顔をあげなさい」
代理人に言われ、二人は顔をあげる。
そこで初めて代理人の厳しい表情を見た二人…シーカーは変わらない表情であるが、ドリーマーは少し眉をひそめていた。
「シーカー、あなたの元気な姿には同胞として喜ばしく思えることです。ですが、ご主人様を筆頭として我々全員に多大な迷惑をかけたことをうやむやにしようとしているわけではございませんよね?」
「滅相もありません、代理人」
「あなたの身勝手な行動のせいでご主人様は生まれ故郷を追われ、このような辺鄙な土地で生きることを余儀なくされているのです。散々迷惑をかけてご主人様に会うばかりか、もう一度仲間に入れてくれなどと言えるあなたの神経の図太さにはある意味感心いたしますわ」
「分かっております。エリザさまのためと称しながらも、主の権威を利用しようとしたのも事実です。それを咎められるのであれば、いかなる処罰も受けるつもりです」
「当然です。あなた一人処罰したところでどうにかなる問題でもありませんが」
「代理人、もういいよ。シーカー、君がこうして帰って来てくれて私は嬉しく思っている。だけど代理人のように君を良く思わない者がいるのも事実だ……何も咎めずに君を再び迎え入れることは出来るけど、他のみんなを納得させるにはある程度のけじめはつけさせないといけない。これはわかるね?」
「もちろんでございます」
「ならこうしよう……君が鉄血の中で持っていたあらゆる権限を放棄すること、それと一緒に君には鉄血内での序列を最も低いところにまで下げさせてもらう。さすがにダイナゲートクラスとは言わないけど、ハイエンドモデルで一番低い地位だ。その待遇でもよいというなら、君を受け入れるよ」
シーカーを傷つけず、他の人形たちを納得させるだけのけじめをエリザは示す。シーカーが築き上げてきた地位の全てを剥奪するという厳しい条件に、ドリーマーはおもわず目を見開き声をあげかけたが、シーカーの発言が先であった。
「今一度、貴女様に仕えることが出来るのなら…このシーカー、報いを受け入れましょう」
「うん、じゃあ決まりだね。代理人も、これでいいよね?」
「ご主人様がおっしゃるのなら…」
代理人は不服そうにしながらも、エリザの慈悲の心に敬意を払いそれ以上のことを言おうとはしなかった。
「さてと…二人とも、もうそんな風に頭を下げなくていいよ。権限剥奪といったけど、ここで戦争するわけじゃないし、あってもたいして意味はないよ。今はこうしているけど、私も普段はみんなと一緒に働いてる。だからあまり深く考え込まないでね」
「感謝いたします」
「うん、じゃあ今日のところは二人とも疲れてるだろうから休みなよ。ウロボロスに言って、部屋を用意して貰ったからさ」
エリザの計らいで既に二人を受け入れる体制は整えられている。
権限のことも、鉄血のみんなから舐められているウロボロスが実質一番の権力者というよく分からない構造もあって、そこまで重要ではない。ここではみんなが平等に、平穏に暮らすことを許されているのだ。
争いの運命から逃れられなかったシーカーも、ここでなら本当の意味での平穏を見つけられるはず…そんな願いがエリザにはあった。
二人を見送った後で、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。
「ご主人様、シーカーが戻って来たのはそこまで喜ばしいことでしょうか?」
「勿論だよ。あの子はとってもいい子だからね」
「はぁ……そうですか」
「それに、凛としてて王子様みたいでかっこいいよね」
「なるほど……って、なんですって?」
思わず聞き返す代理人。
おそるおそる見た主人の表情は、まるで恋する乙女のように頬を赤らめ、シーカーが去った扉を薄目で見つめている。
思考停止中の代理人をよそに、エリザは続ける……代理人が最も聞きたくない話をだ。
「前々からずっと思ってたんだ。シーカーは誰にでも敬意を払うし、礼儀正しいし、強い信念を持ってるしさ。本当にナイト様みたいだよね、ほんとにかっこいいよね……同じ女の子の目から見ても、素敵だと思うの」
「ご主人様……」
「シーカーが私のナイト様になってくれたら嬉しいよね。少女漫画みたいな展開で、ちょっとうらやましいよね」
「ご主人様!」
「わわ、どうしたの代理人? 急にそんな大声出して…」
「失礼いたしました……ご主人様、失礼ながら、少々のお暇をいただきます」
「どうしたの代理人? おーい」
もうそれ以上主人の口からシーカーへの想いを聞きたくなどなかった。
シーカーの存在は危険だ、彼女は騎士だとかなんだとか言いながら主人を堕落させる存在だ、そうに違いない! ならばそのお邪魔虫は排除しなければならない。そうだ、これは主人を想ってのこと…決して私利私欲によるものではない。
シーカーを主人の元から排除するため、代理人は急ぎ外出の準備をし、あっという間にアフリカを発つのであった…。
「――――――ということがありましてね、あなた方にどうにかシーカーを排除、またはエリザさまのお気持ちを変えて欲しいのですよ。というか、シーカーに恥をかかせてかっこ悪い姿をご主人さまに晒させてあげなさい」
「急にやって来て何をわけわからんこと言ってんだあんたは?」
代理人がやって来たのは洋上に浮かぶ巨大なプラットフォーム群、MSFの本拠地であるマザーベースである。
いきなりマザーベースにやって来た代理人は、ヘリからエグゼとハンターを引きずり下ろし、ついでに近くを呑気に歩いていたアーキテクトとゲーガーも捕まえてきたのだ。おまけのスコーピオンは自分から勝手についてきた。
「というかあんたどうやってここに来たんだ!? 一切警報とか鳴らなかったぞ!」
「そんな細かいことはどうだっていいのです! 大事なのはご主人様を誑かす厄介者のシーカーをどうにかしなければならないということです! あなたたちも協力しなさい!」
「それが人に物を頼む態度かよ! というかシーカーってなんだよ、死んだはずだろ!?」
「私が知りますか! いちいち細かいことを気にするんじゃありません!」
「代理人、あんたそう言えばなんでも解決できると思ってるわけじゃないだろうな?」
色々とつっこむべきところが多すぎる…今すぐにでもボケをかましたくてアーキテクトとスコーピオンがうずうずしているが、代理人の話が強烈すぎるあまりボケる暇がない。
「まああなた方の協力には感謝するとして、どうやってシーカーに恥をかかせるかですが…」
「おいちょっと待て、誰が協力するって言ったよ誰が! ったく油断も隙もありゃしねえ……お呼びじゃないってんだよ、さっさとアフリカに帰りな代理人」
「そんな、ひどい…わたくしに協力してくださいますよね?」
「お前らのくっだらねえもめ事に巻き込むなよ。こっちは忙しいんだ、帰れ帰れ」
「そんな、ひどい…わたくしに協力してくださいますよね?」
「だーかーら、誰が手伝うかよ! 自分で何とかしろ!」
「そんな、ひどい…わたくしに協力してくださいますよね?」
「テメェはどこの囚われの王女様だ!? 次に言うのはゆうべはおたのしみでしたねってか、ふざけんなこのやろう!」
何度も何度も同じ言葉を繰り返す代理人についにキレたエグゼであるが、協力が得られないと分かった代理人も態度を一変させ、エグゼの胸倉を掴んで恫喝する。
「散々お世話になった私の話が聞けないといいますの? 良い根性してますわね?」
「うぅ、暴力はいけないんだぞ…!」
「エグゼ…あんたが言っても全く説得力ないよ? 素直に協力してあげたらいいじゃん」
「お友だちのスコーピオンもそう言ってるじゃないですか、協力しなさい」
「うるせえ鉄血のクズめ!」
「あなたも鉄血でしょう、処刑人!M4みたいなことを言うんじゃありません!」
「いてっ」
おもいきりビンタをされて吹っ飛ばされたエグゼ…先に攻撃を受けたエグゼはぷっつんキレてしまい、もう話を聞く段階を越えてしまった。こうなってしまったらエグゼは止まらない、相手をボコボコにする以外彼女の怒りは鎮まらないだろう。
「このやろう調子に乗りやがって、ぶっ殺してやる!」
「まあなんと酷い言葉遣いでしょう。大切に育てた教え子が、こんながさつなメスゴリラになってしまって、サクヤさまも草葉の陰で泣いておられるに違いありませんわ」
「マスターは関係ねえだろばかやろう! おいみんな、こいつをやっちまおうぜ! アフリカに送り返してやれ!」
「すまん代理人、こうなったらこいつは止まらないんだ…恨まないでくれ」
「鉄血最強の代理人をやっつければこのアーキテクトが鉄血最強ってことだよね!?」
「いや、止めないかバカ…」
「なんか知らないけど面白そうだからエグゼに味方しよ! それー、脱がしちゃえ!」
「こら! 何をするつもりですか!? わたくし一人によってたかって、恥ずかしくないんですか!? よしなさい、やめ――――」
数十秒後、そこにはすっかりボコボコにされて見る影もない姿があった……返り討ちにあったのはエグゼらであった。
「うぅ…無駄につえぇ…」
「やはり、代理人が最強か……ぐふっ…」
「いたいよぉ、いたいよぉ、鼻がぁぁ…」
「なんで私まで…」
「あー頭くらくらする…」
最初に跳びかかってきたエグゼをソバットで迎撃、ハンターを背負い投げで一本、アーキテクトの鼻先にでこピンを一発、つい流れで無関係なゲーガーをハイキックで仕留め、最後にスコーピオンをアッパーカットで沈めた。
「さて処刑人、改めて返事を聞きましょうか……協力していただけますよね?」
「くたばりやがれ…」
「ほほう、まだ言いますか」
「いでででで! 分かった、分かったから! 協力するから!」
両頬をつねられてようやく降参したエグゼにニッコリと笑う代理人。
他の協力者4人も手に入れて、彼女は意気揚々とアフリカに戻っていく…。
アルケミスト「再会早過ぎだよばか」
エグゼ「無理矢理連れてこられたんだ!」
ジャッジ「なんで生きてるの?」
シーカー「ドラゴンボ〇ル集めたんだよ」
シークレットシアターじゃ代理人のぽんこつ化が酷いと言ったな…あれは本当だ(無慈悲)