ある晴れた日のこと、MSFで戦車部隊を率いるFALは格納庫前で自分専用となっている戦車をじっと見つめたまま動かないでいる。一台は先日、ロシアの博物館から拝借した豆戦車を無駄に魔改造した通称"ふぁるタンク"…こちらは既にいじりまくったおかげで、これ以上の改良の余地はないため、あとは装甲に迷彩を塗装したり徽章を好みでいれるだけだ。
豆戦車よりも、FALが何かを考えて見つめているのはどちらかというともう一つのFAL専用機こと、"MSF製米軍主力戦車マクスウェル"の方だ。
以前、MSFの人形たちがアメリカ本土へ渡航し持ち帰ってきた技術を再現した強力な戦車である。
米軍の技術を解析した結果開発出来た特殊合金による装甲は鉄壁の防御力を誇り、重装甲ではあるが優れた機動性、レールガンによる強力な火力は並大抵の戦車を凌駕する。正規軍の持つ主力戦車とも張り合える性能であるが、生産コストはメタルギアに匹敵するほどで生産は一台のみである。
一台とはいえ強力な戦車だが、FALには不満があった。
それはこのマクスウェル戦車が本家と比較すると劣化している点があるからだ……米軍が欧州侵攻に投入してきた本家マクスウェル主力戦車は、射程距離こそレールガンには劣るが、爆発的なエネルギーを凝縮させて発射するレーザーキャノンを有していた。
あのレーザーキャノンの一撃は正規軍の装甲戦力を容易く融解させ、一撃で破壊させる恐ろしい威力を持っていた。
おまけに本家のマクスウェル戦車は、特殊な防御シールドを有し特殊合金による防御力の底上げを行っていた。
FALが所有するマクスウェル戦車はあくまで劣化版、それが彼女には我慢ならなかった。
一度、マクスウェル戦車に使われている装甲にレールガンによる射撃を行うテストを行ったが、レールガンの弾は弾かれるという結果になった。つまり、今のMSF版マクスウェル戦車では、本家マクスウェル戦車と対峙した時に不利が予想されるのだった。
「なんとかこいつを完成させたいけど……アーキテクトもあの技術はさっぱりだって言うし……やはり実物が必要よね」
この戦車にさらなる改良を。
それにどれだけの経費がかかるか分からないし、MSFの経営を行うミラーからは反対されるだろうが、南欧戦線で目の当たりにしたマクスウェル戦車本来の性能を諦めきれなかった。
FALは考えをまとめると、マザーベースまでとんでいって情報入手のためオセロットの元を訪れた。
ちょうど、WA2000と話し込んでいたようで、部屋に飛び込んできたFALを怪訝な目で見つめる。
「突然お邪魔してごめんね、ちょっと相談があるんだけれど――――」
早速、FALはマクスウェル戦車の改良プランとそれに必要な実機の鹵獲をしたいのだと伝える。南欧戦線では山岳地ということであまりマクスウェル戦車は投入されていなかったが、米軍と正規軍が激しく激突した中央ヨーロッパ戦線はどうだろうか?
あまりそちらの詳しい情報を知らないため、何か役に立つ情報はないかと尋ねる。
「あそこの戦場跡地はロシア政府が重度の汚染地帯に指定して、立ち入りを制限している。まあ、法的な拘束力はないが…誰も好き好んで汚染地帯に入り込まないと思っているからだろうな」
「そうなんだ……それで、そのエリアについて詳しい情報は持っていないの?」
「ない」
「ほんとに? あなたほどの諜報員が全く情報を持っていないなんてね…」
「崩壊液による汚染、放射能汚染、細菌兵器に汚染された土壌、大量の不発弾や地雷、感染者たちの群れ……これらの危険を顧みずに諜報員を送ったとして、得られるものはなにもないと判断したからな」
「まあ、そんな危険地帯に誰も行きたくないわよね…ちょっとがっかり」
頼みのオセロットも全く情報を握っていないとなると、マクスウェル戦車の性能を向上させる計画はこのまま流れてしまいそうだ…。WA2000に励まされるが、目に見えてがっかりした様子のFALはそのまま帰ろうとすると、オセロットが何か思いだしたように引き止める。
「そう言えば思いだしたが、国家保安局の部隊が汚染地帯で何か調査をしているらしい。地図に記しておいてやる…そのエリアはもしかしたら他より安全かもしれない」
「国家保安局って、あいつらスパイ映画とかに出てくるような奴らでしょ? よくそんな奴らの情報を手に入れたわね?」
「今更すぎよFAL。オセロットは国家保安局だけじゃなくて、軍の機密情報にもアクセスできるのよ? これくらい当然よ、なんたってオセロットはMSFが今みたいに有名になる前から――――」
「ワルサー、あまり余計なことは言うな。FAL、汚染地帯に行くならこいつも連れていけ。危険な場所であえて調べはしなかったが、もし行くのなら少しでも情報を手に入れておきたいからな。それとできれば、国家安全局があそこで何を調べているか調査して欲しい」
「まあ、戦車のデータ収集のついでになっちゃうけどかまわない?」
「それで構わん。可能だったらでいい……ボスとミラーにはオレから伝えておく。だが気をつけろよ、何があるか分からん」
「了解。FAL、あんたと組むのは初めてだけど足を引っ張らないでね?」
「ふん、言うじゃない…言っとくけど、私がただの戦車兵だとは思わないことね」
互いに不敵に微笑みあう。
色々と普段の残念な姿が印象的だが、FALはあの精強なジャンクヤード組の戦術人形であり、生身の戦闘力も高い。戦車の操縦ばかりで腕がなまっていないか心配してしまうが、杞憂であって欲しいとワルサーは願う。
中央ヨーロッパ戦線跡地、正規軍と米軍部隊が激突したこの地域一帯はいつからか神に見放された土地と呼ばれるようになった。人間はおろか、野生動物たちもよりつこうとせず、人ならざる魑魅魍魎が棲みつくとされている……実際はE.L.I.Dによって変異した感染者のなれの果てか、暴走した米軍無人兵器のことを言っているのだろうが…。
密かに国境を越え、この地域に入り込んだWA2000とFALは手始めにこの地域の汚染指数を測定する。
「うわ……これ見てよ、放射能汚染の数値がどんどん上昇してくんだけど」
「土壌の汚染も深刻ね……有害な化学兵器の残留物と細菌兵器がうじゃうじゃいるわ。これは帰ったら隔離されてしばらく洗浄されるわね」
各種測定値はどれも危険値を大幅に超えている。
これでは通常の人間が防護服なしで立ち入ろうものなら、たちどころに病原菌に感染し放射能で体組織はボロボロにされてしまうだろう。戦術人形である二人にとっても、あまり居心地の良いものではなかった。
「でも変ね……崩壊液の汚染は思ったほどじゃないわ。まあ、標準的な指定汚染指数に近い数値ではあるけれど」
最も危惧した崩壊液の汚染は今のところそこまで高くはない、測定機材を収納した二人は周囲に目を凝らしつつ汚染地帯を進む。周囲一帯はほとんど荒廃しきっており、炭化した木々が立っていなければそこが以前は森であったと気付くことは出来なかった。
焼けた土に埋もれるように、正規軍の損傷した兵器が出始める。
どうやら最初の戦場跡地のようで、二人は早速このエリアを調査し始める。
「うわぁ、これって正規軍のハイドラよね? あの頑丈な装甲がこんなに融解しちゃってるなんて……やっぱり本家マクスウェル戦車は半端じゃないわ」
「ねえFAL、噂で聞いたんだけどマクスウェル戦車一台に対して正規軍側の戦車三台で互角って本当なの?」
「状況によるとしか言いようがないけれど…あのヤバい火力と装甲、そして機動力は脅威だったみたいね。わたしが聞いた話じゃ、ハイドラを狙ったレーザーキャノンがそのまま貫通して後ろのテュポーン戦車に直撃してぶっ壊したとかなんとか……とにかく、正規軍じゃ恐れられてたみたいね」
「ほんと、私たちは山岳戦で運が良かったのかもね……ねえ見てFAL、あれってマクスウェル戦車の残骸じゃない?」
「当たりね、ラッキーだわ」
遠くに見えたシルエットに向けて歩いていくと、やはりそれはFALが探していた本家のマクスウェル戦車であった。しかし破壊された後で車体はボロボロであり、これでは欲しいデータを入手できそうにはない。
肩を落としたFALであったが、一応の調査を行う……この戦車がいかにして破壊されたのかなどをだ。
車体をくまなく調べていくと気付いたことがある…それはこの戦車が外部からの射撃を受けた痕がないことだ。履帯は切られているため、何らかの理由で破壊されたようだが…。
「見てワルサー…車体下部が激しく損傷している。マクスウェル戦車の数少ない弱点よ……それに、ここにあるのは……人の骨ね。想像だけど、この戦車を止めようとして誰かが地雷を抱えて戦車の下に潜り込んだってところかしらね?」
「必死だったのね、正規軍の兵士も……こんな戦力とまともにぶつかり合ったらと思うと、ゾッとするわ」
アーサー大尉は基本的に情報を吐かないが、アイリーンから得た断片的な情報ではあの大侵攻でさえ米軍総戦力の一軍団に過ぎないのだという。おまけに投入された兵器も、大戦勃発以前に生産されていたものばかりだとか…。
再び地下に潜った米軍が、一体何を企んでいるのか…それすらも分かりはしない。
「さて、次を探しましょう。あまり長居もしたくないし」
FALの言葉に従って、WA2000は別なエリアの探索を目指す。
向かったのは汚染地帯に残る廃墟だ。
そこも戦火の影響を受けて建物のほとんどが崩壊していた。
廃墟にたどり着くと、早速マクスウェル戦車を発見する、それも比較的綺麗な状態のものだ。大喜びで戦車を調べるFALにため息をこぼし、WA2000は周囲の警戒を行う。
「これは宝物よ! このままフルトン回収できないのが残念だわ!」
「汚染指数が半端じゃないからね……必要なデータは集められるんでしょう?」
「うん、何とかね。基本的な車体の構造はもうMSFで解析しているから、あとはこのレーザーキャノンに供給するエネルギーの正体と、シールド発生装置の仕組みを知れればね」
戦車内部で作業をし始めるFAL、その間WA2000は暇だった。
廃墟の街に動きはないが、それでも気を緩めずに監視を続ける……そんな時だ、遠くに動く人影を発見したWA2000は咄嗟に物陰に身をひそめるとスコープを覗き込んだ。
「FAL、一旦ストップ。見覚えのあるやつがいるわ」
「なんですって? あとちょっとだけ待っててよ、もうすぐ終わるから」
「なるべく早くして、見失いたくない」
「分かってるわよ!」
WA2000が見つけた人影は直ぐに建物の向こうへと歩き去っていってしまう。
その後少しして、データ収集が終わったFALを戦車から引っ張り出して後を追う……人影がなくなった方向に向けて進んでいくと、すぐに見つけた。相手は二人、物陰に隠れて何かを監視している様子…。
しばらく隠れて監視していたが、隠れる位置からは相手が何を観察しているのかが分からない…そっと背後に音を立てずに忍び寄り、二人が観察しているものを確認する。二人が観察していたのは、ふらふらと歩くE.L.I.D感染者だった。
「ねえ、何してるの?」
WA2000がそう声をかけると、目の前の二人は危うく跳びあがるところであった。声を出さなかったのは流石といったところか……以前少し世話になった二人、AK-12とAN-94にWA2000は無表情で手をひらひらと振る。
「MSFの戦術人形! なんでここにいるのよ!」
「ちょっとたまたまね…何してるの?」
「あなたには関係ないでしょう!? 今大事なところなんだから、黙ってて!」
「AK-12、対象が罠に近付いています」
AN-94の声を聞き、AK-12は再び感染者の動向を観察する。
WA2000とFALも、一緒になって感染者の動きをじっと見つめる……ふらふらと動き回る感染者は廃車の方に向かって歩いていく。その周りをうろついていると、トラップが作動してロープが感染者の足をとらえて逆さづりにした。
「成功だわ、さっさと回収するわよ」
すぐさまAK-12は罠にかけた感染者の元へと近付いていく。
宙づりになった感染者は激しく暴れる…それを棒きれでつつきながら動きを封じ、その隙に背後からまわり込んだAN-94が感染者の腕を拘束する。
「あなたたち何をしているの?」
「感染者の調査よ、ここの個体はちょっと特殊でね……AN-94、しっかり押さえてなさい!」
「す、すみません…力が強くて…!」
「手伝ってあげようか?」
「ええそうね、さっさとして」
WA2000とFALも一緒になって感染者を押さえつける。
その隙にAK-12が感染者の首に発信機を取り付けようとするが、突如、感染者は大声で喚き散らす。急いで発信機を取り付けようとしたところ、感染者は身体を激しく痙攣させた後、血を吐きだして動かなくなってしまった…。
「死んだ…? え、なんでよ…?」
困惑するAK-12とAN-94、何が何だかわけが分からないWA2000もまた途方にくれる。
もはや用済みとなった感染者から離れ、AK-12は大きなため息をこぼす…。
「ようやくチャンスが巡って来たと思ったらこれよ……やってられないわ」
「ねえ、ほんとにアンタたちここで何してるわけ?」
「感染者の調査よ、まあおかげで頓挫したけれど」
「感染者の調査なんて今更ね。わざわざあなたたちがやる必要のある仕事なの?」
「ええ、上の人はそう思ってるみたい。AN-94、とりあえずバックアップデータを取っておきなさい。それが済んだらまたオフラインにして」
「はい」
「わけが分からないわ。ワルサー、こんなまぶたを閉じて話すへんてこ人形はほっといて行きましょう」
「あんたぶっ殺すわよ? そんなこと言うのは鉄血のメスゴリラとふざけたサソリだけって……ちょっと待って、静かに」
AK-12がいきなり人差し指を立ててみんなを黙らせた。
異変を察知したのは彼女だけでなく、WA2000も同じだ……不穏な気配が辺りを包み込む。
ソレは、地下鉄へと続く階段からゆっくりと姿を現した…。
「あれは、米軍の戦術人形……いや、ちょっと待って……何よ、アレ…?」
スコープを覗いてその姿を確認したWA2000は、それが米軍の戦術人形と見抜くが、その異様な姿に戦慄する。
機械の身体に張りついた、または歪に付着した脈動する肉塊のようなもの……機械と生物が融合したようなグロテスクな外観は、彼女たちに生理的な嫌悪感を抱かせた。
「ハイブリッド…」
「なんですって?」
「ハイブリッドよ、私たちはそう呼んでる。米軍が侵攻していった後に、あんなのが現れるようになったの」
「AK-12、コーラップス汚染の指数がどんどん上昇していきます……大群です!」
「分かっているわ…作戦は中止、撤退するわよ! アンタたちも、死にたくなかったら逃げることね!」
最初に現われた異形の化物、【ハイブリッド】の後から同じような化物がぞろぞろと地上に姿を現す。
奴らはAK-12たちを発見すると、おぞましい声をあげると一斉に走りだした。
彼女たちは向かってくる感染者の群れにはほとんど効果が無く、倒れた仲間を踏み越えて押し寄せる。
撃退は不可能と判断し、彼女たちは反対方向に向かって走る……だが廃ビルの内部からも同様の感染者たちがあふれ出るように押し寄せてくる。
「こっちよ!」
「なんなのよあれ!?」
「私だってよく知らないわ! ただ一つ確実に言えることは、絶対に奴らに捕まるな! ただ死ぬよりも恐ろしい目に合うわ!」
「それって一体…!」
「とにかく逃げるわよ! AN-94,早くしなさい!」
「はい!」
感染者の大群に発砲するAN-94を怒鳴りつけると、AK-12が先頭となって廃墟を駆け抜けていく…。
あちこちから這い出る感染者の群れは、あっという間に廃墟の通りを埋め尽くす…。
これはバイオハザード(白目)
例のごとく、本編で大した説明をしないからここで…。
・ハイブリッド(E.L.I.D感染者の亜種)
米軍侵攻後の汚染地帯に姿を現すようになったE.L.I.D感染者の総称。
生物と機械が混じり合ったような外見をしているが、中には通常の感染者もいる…群れを成す習性を持っており、時には数千もの大群となることも。
その正体は、放射能・崩壊液・極限環境微生物(メタリック・アーキア)がばら撒かれたことで偶発的に誕生した、米軍すら予期していなかった偶然の産物。
金属や崩壊液を代謝する極限環境微生物と、E.L.I.Dによって機械と生物の有機体が結合してしまっており、異様な変異を遂げている。
また、戦術人形や無人機を統制するAIは制御不能になった挙句、感染性の高いウイルスプログラムに変化した。
ハイブリッドは直接または間接的に無人機や戦術人形をウイルスに感染させて仲間を増やす、これを本能的に行う。
ベースとなった無人機や戦術人形の武装を使いこなすため、さらに厄介な存在となっている。
メンタルモデルを書き換えられ、なおかつ生体パーツと機械的なパーツを持つ第2世代戦術人形はハイブリッド達にとって格好の苗床であり、積極的に感染させようとする…。
このウイルスプログラムは強力で、仮にAK-12がハッキングを試みれば逆に侵食されてしまう、彼女にとっては天敵の存在。
鉄血いなくなっちゃって、恒久的なエネミーがいないから登場させた。
ほんとはドルフロ本編の話が進んで、パラデウスが出て来たら出すつもりだったのぜ。
負けたら薄い本どころか、R18G間違いなし(リョナ)
ヤバさが伝わらない?
デイズゴーンの製材所の大群をもっとヤバくしたのをイメージしてちょ。