それは突如として現れた。
未確認の怪物の目撃情報に、正規軍の哨戒部隊が急遽派遣されたところに満たされることのない飢餓を抱えた恐るべき怪物【イビルジョー】が現れ、目に映るものすべてを破壊しつくし生身の人間は一人残らず食い荒らされた。救援を呼ぶ暇もなく壊滅させたイビルジョーであったが、糧として得られたのはわずかな人間の兵士が数人ほど…。
戦術人形や装甲兵器では飢えを満たすことは出来ない。
圧倒的な飢餓感に苛まれるイビルジョーは、獲物の匂いを嗅ぎつけて封鎖されていた感染エリアに入り込む……そこには正規軍が封じ込めていたE.L.I.D感染者の大群がいる。
多くの人間にとって脅威であるはずのE.L.I.Dであるが、飢えたイビルジョーにとっては単なる餌に過ぎなかった。
大群を視認した瞬間に、イビルジョーは襲い掛かる。
大きく裂けたその巨大な口をいっぱいに開き、大群をまとめて食い尽くす。変異によって硬化している感染者の肉体を、圧倒的な咬筋力と牙で粉砕し、のみ込んでいく。襲撃を受けた感染者たちもイビルジョーに攻撃を仕掛けようとするが、力の差はあまりにも大きかった…イビルジョーがただ歩くだけで感染者たちは踏みつぶされ、攻撃も全て鬱陶しそうに跳ね返されるだけだった。
獲物が増えていくごとにイビルジョーは興奮の度合いを増し、それに比例して口内から溢れる強酸性の唾液の分泌も多くなっていく。
やがて感染者たちはイビルジョーに対し本能的な恐怖からか逃げまどうようになるが、イビルジョーはそれを追いかけて食い荒らす。
その結果感染者の大群はいくつかの集団に別れて各地に拡散、一部は隔離エリアから抜けだし社会に悪影響を与えている。
イビルジョーによる二次災害が深刻化する前に、スネークたちはこの強大なモンスターを一刻も早く倒さなければならなかった。
感染エリアをどんどん突き進むイビルジョーを追いかけることは困難であったが、進行方向の感染エリアから抜けた先のエリアにてスネークたちはイビルジョーを待ち伏せる。あらかじめ罠を仕掛けることで戦闘を有利に進める…これにはハンターとフランク・イェーガーが担当し、スネークとエグゼは待ち構えるこのエリアの地形を確認するため散策していた。
モンスター出現以前からこの周囲一帯は人が住まなくなって久しく、朽ち果てた廃墟がいくつも並ぶ。
「あのデカブツ相手にするなら、こういう廃墟の方が都合よさそうだ。建物で遮っちまえばいいし、なんならマンホールから地下に逃げ込んだっていいな」
「イビルジョーっていうのはどんなモンスターなんだ?」
「滅茶苦茶デカくておっかねえやつさ。待ってろ」
イビルジョーを見たことのないスネークのために、エグゼは鉛筆で紙にイビルジョーのイラストを描いてみせる…が、絵心が皆無なせいでゴーヤに足を生やしたへんてこなイラストになってしまっている。
なんとも言えない絵をそのままエグゼに返すと、地の底から聞こえてくるようなおぞましい咆哮が廃墟に響き渡る。いよいよモンスターがやって来たのだと悟り、二人はハンターたちのもとへと向かう。
廃墟の建物に身をひそめていたハンターとフランクに合流し、各々の持ち場につく。
廃墟の通りには罠として動物の死骸が置かれ、死骸の周囲には地雷が仕掛けられている。
数分も待てばイビルジョーは死肉の匂いに誘われて廃墟に姿を現した……イビルジョーを知るエグゼとハンターはその姿を一目見るなり、ただならぬ様子に気付く。
背部を中心に筋肉が隆起し充血のためか赤く染まっている。以前戦った際、イビルジョーが怒りを示した時に見せた凶悪な姿だった。最初からフルパワーの姿を見せるイビルジョーに、二人はごくりと生唾をのみ込んだ。
イビルジョーは死肉に近付くと、迷うことなく喰らい付く。
それなりに大きな牛の死骸を用意したが、イビルジョーの巨大な口はものの数秒で死骸を平らげてしまうだろう。死肉がイビルジョーを引き止めるわずかな間に、ハンターは先端に爆薬を仕込んだ矢をつがえ、仕掛けた地雷の起爆のために発射した。
矢が空を切る音を、なんとイビルジョーは聞きつける。
動き始めたイビルジョーにハンターは焦るが、矢は地雷付近で炸裂し、仕掛けられた地雷が次々に起爆していった。爆音が廃墟に響き渡る……効果のほどは?
確かめる間もなく、爆炎の中からイビルジョーが飛び出すとおぞましい咆哮を轟かせながら矢が飛んできた方向めがけ突進していく。
しかし、進路上にフランク・イェーガーが立ちはだかると標的を彼に変え、大きな口をめいいっぱい開きながら喰らい付こうとする。イビルジョーの動きを見切ったフランクは素早い身のこなしで攻撃を躱すと、ブレードを振りぬきイビルジョーの首筋を斬り裂いた。
だが隆起したイビルジョーの筋肉に阻まれて、刃でつけられた傷は浅い。
唸りをあげながら振るわれた尻尾を後方に飛ぶことで回避、跳び退いたフランクを再度追い詰めようとするイビルジョーに、今度はスネークが攻撃を仕掛ける。
「こっちだ!」
肩に担いだ無反動砲を発射し、弾頭はイビルジョーの横腹に命中し爆発を起こす。
さすがのイビルジョーも痛みに声をあげて怯む…しかしそれでもまだ致命傷を与えるには至らない。もっと強力な攻撃を連続して叩き込まなければいけない……それを狙うのはエグゼだ。
建物の屋根上からイビルジョーを見下ろしながらエグゼは不敵に笑う。
そしてブレードを逆手に持つと、屋根から飛び降りてイビルジョーの背に着地した。背中にエグゼが載りかかってきたのを感じ、イビルジョーは振りはらおうと激しく暴れまわる。その間スネークたちは攻撃を控え、距離を置く。
そしてイビルジョーがわずかに動きを止めた時、エグゼは逆手に持っていたブレードの切っ先をイビルジョーの背中めがけ突き刺した。
ブレードの刀身が半分埋まるほど深々と突き刺し、そこから力任せに、強引に振りぬく。
背中の肉を一直線に斬られたことで、イビルジョーは苦しみもがき、傷口からは血が勢いよく吹きだし雨のように地面に降り注ぐ。
「どうだこのやろう! これがオレ様の力だ!」
地面に降り立ったエグゼは獰猛な笑みを浮かべつつ、イビルジョーを挑発した。
起き上がったイビルジョーは振りかえり、そこで初めてエグゼを視認する……剥き出しの頭蓋骨から覗く真っ赤に充血した眼、その眼がエグゼを捉えるとイビルジョーは天に向かって大きく吼えた。鼓膜が破れかねない咆哮に咄嗟に耳を塞ぐ…。
かつて自分に大けがを負わせたエグゼの存在を知ったことで、イビルジョーは限界を超えた怒りを発揮する。
両の眼は妖しく真っ赤に輝き、頭部から背中にかけて赤黒い瘴気が吹きだした。
スネークたちはイビルジョーの身体から噴き出す赤黒く禍々しいオーラを知らないが、これはイビルジョーの力の根幹となる龍属性エネルギーが可視化できるほど高まってしまったものだ。高濃度の龍属性エネルギーは生物に対し極めて破壊的な影響をもたらす、そしてそれはこれだけ膨大な龍属性を抱えるようになったイビルジョー自身にとっても有害なものであった。
内包する圧倒的エネルギーに苛まれ、余計に凶暴性が増している…。
これだけの力を抱えてしまったイビルジョーの寿命は残り少ないが、死に近づくにつれてこの怪物は力を増長させていく。飢えを満たすかどうかなどもはや関係ない、ただ目につくすべてを食いつくすだけの存在と化す。
「へへ、武者震いしてきたぜ……恨みも憎しみも関係ない。純粋な狩るか狩られるかの勝負だ……ハンターが気に入ってる理由がよく分かるぜ!」
戦争で得られる高揚感とはまた違うこの不思議な昂りに、エグゼは笑みを浮かべ始める。
油断すれば一瞬でこちらの命を奪い取る強敵との激闘、何かのためだとか私利私欲のためだとかではない、死ぬか生きるか。原始的な闘争にエグゼの感情は昂っていった。
「きやがれ怪物!」
エグゼが言うまでも無く、イビルジョーは走りだした。
上体をあげ、口を大きく開き頭部を地面に叩きつける…あまりの破壊力に地面は叩き割られ、大きな振動が起きる。間一髪避けたエグゼは大きな揺れに転倒してしまった……腹下に潜り込んだエグゼに対し、イビルジョーは片足を振り上げ、勢いよく踏みつける。
直接踏みつけられはしなかったが、衝撃で飛ばされてきた岩石が頭に直撃し足下をふらつかせる。
この危機にスネークが走りだし、エグゼを抱きかかえ廃墟の中に飛び込んだ。
「いてぇ……サンキューな、スネーク…」
「まだ動けるか?」
「なんとか……って、やば!」
エグゼが見たのは、廃墟めがけ突っ込んでくるイビルジョーの姿だ。
慌てて回避しようとするも間に合わず、イビルジョーの突進で廃墟が崩壊し瓦礫が二人の頭上に降り注ぐ。のしかかる瓦礫を二人で何とか押しのけると、イビルジョーの凶悪な貌が覗く。バチバチと、口内の赤黒い瘴気が爆ぜ始める……その時、複数の矢がイビルジョーの首筋に突き刺さる。
ハンターが放った矢はわずかに怯ませ、イビルジョーの気を引くが、すぐにその視線はスネークとエグゼに戻される。
目の前の獲物を確実に仕留めようとしている。
スネークは咄嗟に手榴弾を一つ掴み、イビルジョーに投げつけると瓦礫の中にエグゼを引き込んだ。次の瞬間、イビルジョーが纏う赤黒い瘴気がバチバチと爆ぜながら廃墟に吐きつけられた。イビルジョーの尋常ではない龍属性エネルギーを含んだブレスによって手榴弾は消滅し、スネークは微かに瘴気に触れてしまった肌に灼けつく様な痛みを感じた。
さらにその瘴気は滞留し二人を蝕んでいく。
「スネーク!!」
追い詰められる二人を救出せんとフランクが動く。
スピードでイビルジョーを翻弄し、その肉体を斬り裂いていく……だが怒りで隆起する筋肉が傷を塞ぐばかりか、イビルジョーの反応速度が少しずつフランク・イェーガーに追いつこうとしている。徐々に追い詰められていくが、注意を引いている間にエグゼとスネークは難を逃れることが出来た。
二人が退避したことを確認したフランク・イェーガーは一度その場を離脱、イビルジョーを第2の罠へと誘導する。
「スネーク、少し時間をくれ! 罠を増やす!」
「任せろ!」
フランクの要求に即答し、スネークはロケットランチャーを抱え走る。
エリアを走りぬけるスネークの姿を見たイビルジョーはフランク・イェーガーを追うのを止め、スネークを狙い追いかける。廃墟を縫うように走るスネークに対し、イビルジョーは廃墟を豪快に壊しながら追いかけていく。
スネークはアーチ状の門を潜り抜けた際、足を止めて構造物に向けてロケットを撃ちこむ。
支柱を爆破したことでアーチが崩れ、ちょうど追いかけてきたイビルジョーの頭部に命中し崩壊した……仕留めきれはしないが、イビルジョーはその巨体を転倒させていた。
再び走るスネーク……だが後方から唸り声が聞こえたかと思うと、勢いよく瓦礫が飛んできて進路がふさがれる。
振りかえり見た時、イビルジョーは大顎で瓦礫を抉り、それを勢いよく投げ飛ばしてきた。横に跳んでなんとか躱したが、状況はマズい……勢いよく迫るイビルジョーに対しスネークはアサルトライフルを連射するが、小銃程度ではやはりびくともしない。
向かってくるイビルジョーに注意しながら退路を見つけ走りだす…だがイビルジョーの速力は早い。
その時、瓦礫の中から不意にハンターが姿を現す。
「スネーク、しゃがめ!」
矢が放たれた瞬間、スネークがしゃがむ。
スネークがいたことでハンターの姿が見えなかったイビルジョーは、ハンターの矢を避けることは出来ず、その矢はイビルジョーの片目を貫いた。
「こっちだ、スネーク!」
苦しむ呻くイビルジョーだが、片目を失ったとしても止まることは無い。
それを知るハンターはスネークを罠の位置にまで導いていく……想像通り、イビルジョーは二人を追いかけ狙い通り罠の位置にまで誘導されていく。振りかえり際に矢を放ってみるが、もはやイビルジョーは怯みもしない。
ある位置をイビルジョーが駆け抜けようとした時、物陰からエグゼが飛び出し、イビルジョーの脚を斬りつける。脚を斬りつけられたことで脚をもつれさせて前のめりに転倒、その瞬間をフランク・イェーガーは狙っていた。
仕掛けられていた大量の爆薬が起爆し、爆炎がイビルジョーを包み込む。
すぐに立ち上がったイビルジョーだが、爆発によって地面が大きく陥没しイビルジョーの巨体が地下にのみ込まれていく。そこへ第二の爆薬が炸裂し、地下に墜落したイビルジョーに大量の瓦礫を振り注がせ追い打ちをかける。
地下から響くイビルジョーの魔物の如き叫び声は、降り注ぐ瓦礫の中へと消えていった…。
崩壊がおさまった時、廃墟に再び静寂が戻って来た…。
エグゼは疲れたように地面にへたり込み、ハンターはまぶたを閉じて壁に寄りかかる…。
「荒っぽいやり方だが、なんとか倒したな」
「いや、もう倒す方法なんてなんだっていいよ……とにかく疲れた……さすがにもう死んだよな?」
いまだ砂煙が舞い上がっている陥没した地下をエグゼが覗き込む。
「わ!」
「うぎゃあ! って、脅かすなハンター! 心臓止まるかと思ったぞ!?」
「人形に心臓はないだろう?」
「熱いハートはあんだよ」
「うわ、くさ」
「うるせえ」
からかってくるハンターに、エグゼは軽く拳で叩く……狩りを通して育まれる友情、より二人の仲が深まったのは明らかだろう。弟子の青春を、師であるスネークとフランクは温かく見守っていた。
『スネーク、聞こえるかスネーク』
「カズか。こっちは終わったぞ、なんとか倒すことに成功した。まったく手ごわかった、さすがにもうくたくただ。帰ったら少し体を休めたい」
『そんなことをしてる場合じゃないんだスネーク! 緊急事態だ! 超大型のモンスターが猟兵部隊によって発見されたんだ!』
「なんだって!?」
『既に正規軍の装甲部隊が遭遇し壊滅させられた……この大型モンスターは真っ直ぐに都市に向かっている! 情報によれば都市には研究のためのコーラップス液の貯蔵施設があるらしい。もしモンスターが都市に到達してしまったら……スネーク、一刻も早く戻って来てくれ!』
「分かった、すぐに戻る!」
ミラーの声色からただ事ではないことを察し、スネークはすぐさまフランクたちを呼び基地に急いで戻る…。
大いなる破壊の使者が、近付いてきているのだ。
イビルジョーつえぇよ……スネークはもう年なのよ、分かる?(語彙力)
はい、参戦者のみんな狩りは順調ですか?
ワイ?イビルジョーが死ぬビジョンが浮かばないから、埋めました…。
次回、一連の騒動を引き起こした元凶モンスターが出現!
緊急クエスト!
【沈め掻臥せ戦禍の沼に】
お楽しみに!