METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

31 / 317
ファントムペイン

 グリフィン司令室の机にて、クルーガーは書類として纏め上げられた資料を固い表情で見つめていた。

 強面の彼が人前で滅多に割ることは無く、普段通りと言えばそれまでなのだが、彼に近い存在の者はクルーガーの今の表情はいつもより強張っていることに気がつくはずだ。

 ふと、司令室のドアがノックされる。

 それからゆっくりと扉が開かれ、ヘリアントスが一度お辞儀をしてから入室する。

 彼女の後ろには一人の戦術人形、先日基地に帰還したばかりのM4の姿もあった。

 

「任務ご苦労、AR-15とSOPMODⅡは無事救出出来たようでなによりだ」

 

「はい、おかげさまで」

 

 クルーガーへの返事と共に敬礼を返す。

 あれからAR-15とSOPMODⅡの二人は負傷のため基地に帰還して直ぐ修復送りにされてしまった。

 命にかかわるような負傷ではないが、受けた傷は深くこれからの任務に支障が出るという判断である。

 ただ同じ他のグリフィンの部隊も似たような損傷を受けているのにも関わらず、AR小隊の修復は他のより重傷な人形を差し置いて優先された。 

 AR小隊はいまだM16を救助できていない、再びAR小隊に何らかの重要な任務が与えられることをM4は察していた。

 

「報告を聞いたが、君らはS09地区で奇妙な部隊に遭遇したそうだな」

 

 かけていたメガネと、分厚い資料をいったん机の上に置きクルーガーはM4に尋ねる。

 

「はい。少ないですが写真を撮れました、ご覧ください」

 

 渡された写真を受け取ると、写真には鉄血工造の一般的な戦術人形の姿がおさめられていた。

 ただ写真で見る限りでは通常の鉄血兵となんら変わりはなく、何も言われなければ特に疑問に思うこともないだろう…ただクルーガーは写真に写る鉄血兵の装備に目をつける。

 

「FN P90短機関銃にPSG1狙撃ライフルか…鉄血兵の通常装備ではないな。鹵獲した兵器か、あるいは生産されたものか」

 

「もしくは鉄血陣営以外の勢力か」

 

「M4、他に何か気付いたことがあるのかね?」

 

「はい、戦場で"SP524 Executioner"処刑人に遭遇しました。AR-15とSOPⅡに重傷を負わせたのは奴です」

 

「処刑人? それは先のMSFとの戦闘で破壊されたのではなかったのか? 再び造られた個体だとしても、早すぎる」

 

 ハイエンドモデルである処刑人がそう短期間で造り直されて出撃してくることはあり得ない、それがクルーガーの考えであった。

 だが実際にM4は処刑人と遭遇した、それも仲間のハンターを殺され怒り狂った処刑人と…。

 

「クルーガーさん、この件にはMSFが関与していると思います」

 

「MSFが…何故そう思うのだ?」

 

「確証はありません。MSFはあの時処刑人を倒しましたが、その後の処遇をわたしは知りません…もしかしたら何らかの方法で処刑人のコントロールに成功したのかもしれません。それに奴らは処刑人が占有していた鉄血の工場を抑えているはず、そこで鉄血兵を生産、配備しているに違いありません…それなら、すべての疑問に辻褄が合うのです!」

 

 珍しく熱のこもった彼女の言葉を、クルーガーは目を閉じ静かに聞いていた。

 

「調査をするべきです。もしまた同じような出来事に遭遇した場合、いつまでもわたしたちも無事帰還できるとも思えません。ただでさえ鉄血の相手で忙しいというのに…クルーガーさん、不安要素は少しでも減らすべきだと思います」

 

「M4、立場をわきまえろ。失礼だぞ」

 

 ヘリアントスの戒めを素直に聞きいれるも、今言った事は本心のようでじっとクルーガーを見つめたままだ。

 

「君の言いたいことはよく分かった。確かにM16が未だ帰還していない現状、MSFという強大な力がすぐそばにあることを看過できない気持ちもよく分かる。だが、我々としてはMSFには今以上に関わりを持つつもりはない」

 

「クルーガーさん、ですが…!」

 

「まあ話しは最後まで聞くんだ。これを見ろ」

 

 そう言って渡されたのは、先ほどまでクルーガーが呼んでいた分厚い資料である。

 ぱっと見ただけで目まいがする程上から下までびっしりと文字が羅列している…律儀に全文を読もうとするM4にクルーガーは小さな笑みをこぼす。

 

「長ったらしい文だが、まとめるとこうだ。"連邦政府はMSFを世界秩序を乱す勢力とみなし、これと関わるすべての企業及び団体は脅威を助長する勢力として厳正な処罰を与える"…ついに連邦政府が動きだしたのだ、MSFは我々の任務に関わる暇など無くなるだろう」

 

「クルーガーさんの言う通り、MSFはおそらく連邦政府への対処に追われることになる。連邦も、今まで散々MSFの力を利用してきたというのに、よほどその力を恐れているみたいですね」

 

「うむ。MSFがPMC4社を吸収し拡大して以来、連邦の不安は高まっていたはずだ。いまだバルカン半島の内戦も終わりが見えない…だがあそこで戦っているのは政府に雇われたPMCだ、大戦を戦い抜いた百戦錬磨の連邦軍はいまだ戦力を温存している。ある意味、鉄血よりも強大な相手と戦うことになるだろうな」

 

 

 汚染された地域も含め、バルカン半島の大部分を連邦政府は国土としているが、比較的他の国々と比べ汚染されていない大地は広い。

 それを維持するために強大な軍隊が国土を防衛するために常に正規軍の目を外部に向け、内なる敵には金で雇った傭兵に対処させている…反政府勢力と戦う連邦軍ももちろんいるが、それはごく少数だ。

 連邦軍が本気で動き出せば内戦は直ぐに終結するだろう。

 だが連邦軍の兵士たちも多民族国家の影響をうけて多種多様な人種が含まれており、連邦軍としてどちらか一方に肩入れすることもそれまでは難しかった。

 

「連邦政府の秘密警察の動きも活発になった、既に多くのジャーナリストやNGOが強制退去されかの国の内情はほとんど知ることができなくなった。衝突は近いのかもしれんな。ひとまず君たちはM16の救助に専念するといい、残りの不安要素はできる限り排除するつもりだ」

 

「了解しました」

 

 敬礼を向け、気持ちを切り替えてM4は司令部を去っていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マザーベースの訓練場では、複数人の兵士に戦術人形たちも混じり、オセロット戦術教官指導の下近接格闘術(CQC)の訓練を行っていた。

 

「相手の動きを見極めろ、決して目を逸らすんじゃない!」

 

 オセロットは兵士たちに檄をとばし、一人一人の様子を見ていく。

 MSFの兵士たちは常日頃から訓練に励んでいるほか、憧れのBIGBOSSに少しでも近づこうとCQCに熱心に励んでいるため動きのキレはいい。

 戦術人形たちも負けてはいない、遅れながら学び始めた彼女たちだがオセロットの厳しい指導を受けて並みの兵士は圧倒するほどの格闘術は身に付けている。

 

 特に筋が良いのはWA2000、次いで9A91といったところか。

 二人は与えられた訓練以外にも率先して自己練習と研究をしているため、他の兵士や戦術人形たちと比べ飲み込みはとても早い。

 既に元SAS出身でFOXHOUNDメンバーのマシンガン・キッドにも勝るとも劣らないほどの能力を身に付けつつある…いずれ彼を超えてしまう日も近いだろう、それを刺激にキッドも訓練に励む。

 MSFに良い意味での競争心が生まれているのだ。

 

 

「うりゃーッ!」

 

 

 そんな中、オセロットが望む成長とはまるっきり違う方向に進化している人形が一人いる…スコーピオンである。

 スコーピオンの格闘術は一言で表すなら"力"、CQCの極意などそっちのけで全力で殴り蹴り強引に投げ飛ばす…いつまでも成長しないスコーピオンだが、それでもCQCをある程度身に付けた兵士に勝ってしまうのだからオセロットは頭を抱えるしかない。

 

 その日の訓練でも、跳び蹴りで兵士を怯ませ、素早く背後にまわって背後から腰を掴みおもい切ったバックドロップで訓練場を揺らす。

 悶絶する兵士の前で満面の笑みを浮かべVサインをみせる彼女を、オセロットは静かに近づいてひっぱたく。

 

「スコーピオン…誰がそんな技教えた? レスリングじゃないんだぞ」

 

「勝てばいいっしょ!」

 

「全く、お前のFOXHOUND入りは永遠にないな」

 

「えーーッ! いいじゃん別に、剛よく柔を征すってね!」

 

「……9A91、こいつとやってみろ」

 

 

 指名され前に出た9A91に颯爽と飛びかかる。

 9A91は落ち着き、片足を引っかてよろめいたスコーピオンの顔に手を置き、後頭部から床に叩き付ける。

 ゴツンと痛そうな音が響くが、素早くスコーピオンは起き上がる。

 それから何度も投げ飛ばされたり叩きつけられるが、恐るべきタフネスさで立ち上がる……どうも最近頭をぶつけたりぶちのめされ過ぎて、石頭はより硬くなり強靭なタフさを手に入れてしまったようだ。

 そのうちダメージを与えているはずの9A91の方が疲れてしまい、ついにスコーピオンに捕まり、スライディングで転倒されてからのサソリ固め(スコーピオン・デスロック)で抑え込まれてしまう。

 

「どうだまいったか9A91!」

 

「痛い痛い痛いッ! 止めて、やめてください!」

 

 高らかに笑い声をあげて9A91をいじめるスコーピオンを、WA2000が駆けつけざまに顔面を蹴り飛ばす。

 

「コラ毒サソリ! ここはあんたのプロレス会場じゃないんだからね!? まったくもう、9A91大丈夫…?」

 

 いまだ悶絶する9A91に手を貸すが、思い切り顔面を蹴ったにもかかわらずぴんぴんしているスコーピオンを見て驚愕する。

 

「それ以上近付いたらぶっとばすわよ!?」

 

「フッフッフ、あんたを倒せばあたしもFOXHOUND入り間違いなしだもんね!」

 

 助けを求めるようにWA2000はオセロットに目を向けるが、彼は何が何でもぶちのめせと言わんばかりに見てくる。

 彼の前で負けるわけにはいかないが、無尽蔵の体力を持つスコーピオンとやり合えば9A91のようにやられてしまうのではないか…そう思うと恐怖心が彼女の身体を硬直させてしまう。

 

 そんな時、訓練場のドアが勢いよく開かれ一同の視線がそこに注がれる。

 

「よー、みんな調子良さそうだな!」

 

「あ、エグゼ!」

 

 エグゼの姿を見たスコーピオンがそちらに気をとられて駆け寄っていく…泥沼の戦闘を回避できたことにWA2000はほっと一安心するのであった。

 

 

「もー、エグゼさん! あんまりうろうろしないでください、まだ万全じゃないんですから!」

 

「大丈夫だって言ってんだろ、リハビリだよリハビリ」

 

「そんなこと言って、さっきそこでおもいきり転んだじゃないですか。ほら、頬が切れてますよ」

 

 エグゼの後を追ってスプリングフィールドがやってくる。

 負傷したエグゼの身の回りの世話は彼女の役目だが、おせっかいを焼き過ぎるきらいがあってエグゼからは少々煙たがられている。

 今も嫌がるエグゼの頬の擦り傷にばんそうこうをはろうとしている。

 

「すっかり治ったじゃん、調子はどう?」

 

「おう、生体パーツは無理だけど代わりの義手と義足だ。物はとりあえず掴めるようになったぜ」

 

 エグゼは見せびらかすように、機械的な外観の義手と義足を見せる。

 スコーピオンは一瞬複雑な気持ちをその表情に浮かべたが、すぐに笑顔でかき消した。

 

「よーし、エグゼも無事退院したことだし快気祝いといこーじゃない! 思い立ったら吉日、ってことでオセロット、今日の訓練はお終いね!」

 

「おい…!」

 

 オセロットが止める間もなく、スコーピオンはエグゼと他の人形たちを半ば強引に引っ張っていってしまった。

 後に残された兵士たちがなんとも言えない様子で成り行きを見守っていたが、もはや訓練を続けるような空気でもなくなってしまったので解散させる。

 そばにあった椅子に座り、ため息を一つこぼす…そんな彼のもとにスネークが笑みを浮かべやってくる。

 

「ボス、人形たちの訓練はオレだが、教育はアンタのはずだぞ?」

 

「ハハ、山猫も彼女たちにはお手上げだな」

 

「全く…思春期が終わったと思ったら今度は反抗期だ、やってられん」

 

 珍しく愚痴をこぼすオセロットにねぎらいの缶コーヒーを差しいれる。

 

「それにしても、少し見ない間に成長したじゃないか」

 

「エグゼの事か?」

 

「ああ。前より仲間に気を許しているように見えたぞ」

 

 先ほどみたエグゼは、以前のような周りに壁を作り距離感を置いていた時と違い、仲間を意識しているように見えた。

 だがスネークの表情はあまりよろしくない、そんな彼に疑問を持つオセロットだ。

 

「良い変化であるのは間違いないが、あの笑顔の裏に報復心と憎悪が残っている。親友を失ったことで仲間を意識するようになったようだがな…それに、傷が治った今でも痛みが彼女を苦しめている」

 

幻肢痛(ファントムペイン)…か。友の死による精神的外傷と手足を失ったことによる身体的外傷が繋がっているんだろうな。あれは簡単には治らない」

 

「ストレンジラブも色々と手を尽くしたようだが、無理だったようだ」

 

「ボス、エグゼにとってアンタは最後の心の支柱だ。あいつの痛みを消すことはもしかしたら出来ないかもしれない、だが和らげることは可能かもしれない。ボス、これはアンタにしかできないんだ」

 

「分かってるさ。エグゼも戦士である前に一人の人間だ、聖人君子のような達者な言葉で救済するのは無理だが支えてやることはできるさ」

 

「その意気だよボス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エグゼの快気祝い…それにかこつけて日頃訓練と開発の堅苦しい空気にストレスをためたスタッフたちがどこからか湧き出し、思い思いの持参物をもって駆けつける。

 酒が入ってだれかれ構わず受け入れたスコーピオンも悪いが、騒ぎを聞きつけたミラーが現れてから手がつけられなくなる。

 つまらない話しも真面目な話しも酔っぱらったスコーピオンは大笑いし、時にミラーと一緒に暴れまわり後片付けにスプリングフィールドが躍起になっていたが、そのうち彼女も酒が入って寝てしまう…。

 WA2000"はスコーピオンカクテル"と称したすべての酒をピッチャーにぶち込んだものを飲まされ撃沈、9A91はスプリングフィールドの傍ですやすやと寝息をたてる。

 

 エグゼも病み上がりに関わらずガンガン飲まされているが変化はなかった、曰く飲んでも酔わないから酒は好きじゃない…とのことだ。

 

 そんなこんなで、ミラーとスコーピオンが酔いつぶれたところで宴会は終わり歩けるスタッフたちはそれぞれの部屋へと帰っていった…。

 

 

「ぐへッ…」

 

 

 寝返りをうったスコーピオンはソファーから転げ落ち、意識を覚醒させる。

 寝ぼけ眼で部屋を見て見れば、つまみや酒瓶が転がり、あちこちで死んだようにスタッフたちが雑魚寝している。

 酒で焼きついた喉の渇きを潤すため、スコーピオンはパンツ一丁で寝ころぶミラーの顔を踏みつけながら部屋を出ていく。

 

 

「うー喉が渇いた…麦茶欲しい…」

 

 冷蔵庫を開けて掴んだ瓶の中身を一気に飲むが、間違ってウイスキーを飲んでいることに気付き吹きだす。

 酒でうろ覚えになった記憶で、WA2000の逃げ場を無くすためアルコールの入っていない飲料は全て処分していたことを思い出し後悔する。

 仕方なく、風呂場へとスコーピオンはふらふら歩いていく。

 

「…うー……ん?」

 

 ふと、風呂場の明かりがついていることに気付き、顔だけを覗かせる。

 そこには洗面台の前で椅子に座り、頭をおさえこんでいるエグゼの姿があった…彼女も酔っぱらって頭痛に悩まされているのではと思ったが、そうではないようだ。

 

「エグゼ、どうしたの…?」

 

 スコーピオンの声に反応し振り返った彼女の顔色は酷く悪く、汗を流していた…苦しそうな表情に、すぐに駆け寄る。

 

「大丈夫だ、なんでもねえよ…」

 

「大丈夫じゃないよ! どこか具合がわるいの!?」

 

 触れた彼女の肌は特に熱を帯びてもいなかったが、額には玉のような汗が浮かび呼吸もどこか苦しそうだ。

 洗面台の蛇口をひねり義手を濡らしていくエグゼ…その行為に何の意味があるのかスコーピオンは理解できなかったが、腕に何か異常があることだけはなんとなくだが察した。

 

「傷がまだ痛むの?」

 

「違う、指先が痛むんだよ。失くしたはずの手が痛むんだ…」

 

「指先…何か痛み止めをもってくる?」

 

「薬じゃどうにもならないんだ…! この痛みが疼くたびに、オレはあいつらへの憎しみを思いだす…親友(ハンター)を虫けらみたいに殺しやがったAR小隊のツラを思いだすんだ!」

 

 昼間とは打って変わって、憎しみに歪んだエグゼの表情にスコーピオンは呆然としていた。

 生身の腕の方で拳を固く握りしめ手のひらから血がにじむ…。

 憎悪と怒りを表したエグゼにそっと触れたスコーピオンの手を払い、逆に彼女の両肩を掴み叫ぶ。

 

 

「ストレンジラブはこの痛みの治療法はないと言ったが、オレは知っている! AR小隊、奴らを一人残らずぶち殺し復讐を果たしたその時、この痛みからオレは解放されるんだ!」

 

「エグゼ、痛いよ…離してってば」

 

「だがよ、おれ一人の力じゃどうしようもないことがあるって思い知らされた。スコーピオン、お前の力を貸してくれ、あいつらに報復するためには力が必要だ! 仲間の助けがあれば必ずできるんだ、協力してくれスコーピオン、オレはあいつらに復讐したいんだッ!!」

 

「出来ないよエグゼ…無理だよ」

 

「どうしてだ、仲間なんじゃないのかよ! オレはこんな痛みといつまでもつき合っていたくない、乗り越えたいんだよ! 一人の力じゃどうにもならねえ、仲間の力が必要なんだ…奴らを殺すしか、オレが救われる方法はないんだ!」

 

 激しい口調で訴えかけるエグゼに、スコーピオンは何も言うことはできなかった…。

 やがてエグゼは目を伏せ、椅子にゆっくりと腰掛ける。

 落ち着いたのか、協力してくれないことへ失望したのかあるいは両方か…そんなエグゼの前にしゃがみこみ、スコーピオンはそっと手を握る。

 

「なんだよスコーピオン、なに泣いてんだ…オレが、哀れか?」

 

「違うよ…あんたのために何もしてやれない自分が悔しいんだ」

 

「いいさ、これはオレの問題だ。そもそも頼むオレが間違いなんだ…お前は何も悪くない」

 

「エグゼ、アタシはあんたの復讐には手を貸せない……だけど、アンタの傍にずっといてあげる、ずっと傍で支えてあげるから! 親友の代わりにはなれないかもしれないけど、仲間としてアンタの心の隙間を少しでも埋める努力をする…!」

 

「スコーピオン……一応、礼は言っとくぜ」

 

「うぅ……かわいそうなエグゼ、今はとても辛いかもしれないけど…大切な心まで失っちゃダメだ! アンタはアタシたちの家族なんだ、見捨てるもんか!」

 

「おい、なんでお前が号泣してんだよ…おかしいだろ。泣きたいのはオレの方なのによ」

 

「うるしゃい…!」

 

 そのうち勝手に膝の上を借りて泣きわめくスコーピオンに困惑する。

 だがスコーピオンの真心はエグゼの心に、確かに響いていた…苦笑いを浮かべ号泣するスコーピオンの髪をエグゼはそっと撫でる。

 

 

 指先の痛みが、ほんの少し和らいだ気がした…。




一章に比べ早いと思いますが、ここで二章を区切ろうと思います。
ここで区切っとかないと次の区切り目が長いので…。

あと、タグにTPP追加しときました(白目

さて第三章はオリジナルストーリーが増えますね、主にバルカン半島の連邦絡みで(TPPタグはだいたいこいつのせい)

連邦軍、404小隊、そしてCUBE作戦!
作者もうつ病にならないよう頑張りたいと思いますのでよろしくお願いします!

あと、第三章でMGSキャラを一人ぶち込みます、敵側に(ニッコリ)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。