METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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第318話

 ながく…ずっとながく、眠ってしまっていたようだ。

 

 

 まぶしさの中でぼんやりと意識を取り戻していく中で、無機質な天井が目に映る…。

 

 

 体が重い、首を動かすことも億劫に思えるほど……うっすらと開けた目で周囲を見回すと、白衣姿の看護師がいるのに気づく。

 向こうもどうやら気づいたようだ、こちらに微笑みかけ、部屋を出て行ったが…すぐに眼鏡をかけたスキンヘッドの医師らしき人を連れて戻ってきた。

 

 

 医師らしき男性はこちらをのぞき込み、看護師と同じように微笑みかけてきた。

 

 

 

 

『ああ、落ち着いてください、焦ることはありません。

 

あなたに……お話があります。

 

いいですか?

 

どうか…落ち着いて…。

 

あなたはずっと、昏睡状態だった。

 

ええ、ええ…わかってます。

 

どれくらいの長さか?

 

あなたが眠っていたのは……9日です』

 

 

 

「………は?」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、あたしの意識は一気に覚醒した。

 

 そのあとのことはいまいち覚えていないが、あたしはベッドから飛び起きて引き留めようとするスキンヘッドの医者に頭突きをかまし、ドアを蹴破って出て行ったような気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先日、コーカサス地方から帰還してきたスコーピオンが、マザーベースのヘリポート着陸前にヘリから海に落ちて大けがをしたという報告を聞き、スプリングフィールドとWA2000は驚いたと同時に、またか…とあきれていた。

 詳しく聞いてみれば、帰還のためのヘリの中で久しぶりにマザーベースへ帰れることにウキウキしていたスコーピオンが、テンションを爆上げしすぎてパイロットの静止も聞かずに旋回中にドアを開けてそのまま投げ出されたとのこと。

 しかも海に落ちるまでに、プラットフォームの支柱に身体を勢いよく叩きつけ、落下する過程でいくつかの骨組みに激突しながら海に落ちていった。

 

 すぐさま潜水士に救助され、あれだけの大惨事でありながらも原型をとどめているスコーピオンを戦術人形のための修復施設へ運び入れる。

 一応損傷が大きいということで長い修復期間をとって10日前後を目指してのんびり修復しよう…ということで話は落ち着いたのである。

 というのも、事の詳細を聞いたスネークが、反省の意味もかねて少し眠らせておこうという話になり、それに周囲も納得した形だった。

 

 

 しかし、9日も眠らされていたと知ったスコーピオンは激怒。

 

 治療をしてくれたスタッフを頭突きし、部屋の扉を破壊したばかりか、まるで9日分眠らされた鬱憤を清算するかのように暴飲暴食を繰り広げ…今ようやっと落ち着いてのんびりソファーに座っているところだ。

 

 

「信じられない…冷蔵庫の中身が空っぽじゃない…! わたしのプリンまでなくなってるし…!」

 

 

 イナゴの大群か何かでも通過していったのか?

 そう思えるくらいに、マザーベースの食堂にあった食料品が食い荒らされて今はスコーピオンのお腹の中にすべて入ってしまっている。

 意図的に長期睡眠させられていたと発覚すれば、きっと大変なことをしでかすだろうというのは分かっていたが、ここまでやらかしてくれるとは……MSFの風紀を守ることに心血を注ぐWA2000はご立腹だ、お気に入りのプリンを勝手に食われてしまったのも怒りを増長させる。

 

 

「いくらなんでもやりすぎよ! たった9日眠らされてたくらいで!」

 

「たった9日? たった9日って言ったね、わーちゃん?」

 

「な、なによ…」

 

 

 ソファーに座りながら、どこからか取り出した葉巻を火をつけるスコーピオン…暴飲暴食の罪に加え、スネークの葉巻を盗む窃盗罪も追加だ。

 

 

「9日とは簡単に言うけれど、時間にしてみれば216時間だよわーちゃん…216時間、あたしは無駄にしてしまったというわけだ……わーちゃん、216時間で一体どれだけのことをできるか考えたことはある!?」

 

「は? え? し、知らないわよ!」

 

「あともう少し時間があれば、もう少し時間が欲しかった…そう思ったことはあるはずだよ? 大好きなオセロットと一緒にいられる時間が少しでも多くほしいと願ったはずだよわーちゃん! 216時間もあればどれだけイチャラブできたと思ってるのさ!?」

 

「!?」

 

「わかってくれるね、わーちゃん! あたしはあり得たかもしれないとっても貴重な時間を、若く希望に満ち溢れたこのぴっちぴちのあたしから奪い取ったんだよ!? この怒りを欲望として開放するのに、どうして責められようか!?」

 

 大げさな身振り手振りで己の心境を熱く語るスコーピオンに、WA2000は圧倒されて一言も反論できずにいた。

 そのままスコーピオンの勢いは止まらないかに見えたが、この暴走を止められるであろう人物がやってくる…。

 

「ずいぶん、ご機嫌だな」

 

「ああもちろん! あたしはもう止まら……あ、やあ、オセロットさん……今日は、いい天気ですね~」

 

 MSFという生態系において、スコーピオンは間違いなく上位の存在になるほどのクセの強さを持つ。

 しかし頂点捕食者はほかに存在する……さっきまで陽気に笑っていたスコーピオン(サソリ)を一瞬で委縮させるオセロット(山猫)こそがまさにそうだ。

 蛇に睨まれたカエルならぬ、山猫に睨まれたサソリは無駄な抵抗はすべてやめて即座に謝罪しようとするが…。

 

「いつものことだ…あまり騒ぎ立てるな、ワルサー」

 

「ちょ、オセロット!?」

 

「あっははは、さすがオセロット! やっぱ話の分かる人だと思ってたんだよね~! イケメンさんだね~あたし惚れちゃうよ~!」

 

「スコーピオン、あんたねぇ!」

 

「いいんだワルサー。いつものことだ…だから、いつも通りの指導なんてもう無駄だ。こういうのは、問答無用で被害額を給与から引けばいい」

 

「ちょっと待って、それはひどいよ!」

 

 慌ててスコーピオンが異議を申し立てるも、オセロットは聞く耳を持たず…スコーピオンが食い荒らした食料のすべてが給与から差し引かれることが決定する。

 打ちひしがれるスコーピオンであるが、慰めの言葉など欠片もなく、ただWA2000の冷たい視線が突き刺さるのみだった。

 

 

「くぅ……ひどいよ…あたしは失われた216時間を取り戻したかっただけなのに…!」

 

「これに懲りたら、少しはおとなしく生活することね」

 

「……わーちゃん、一生のお願いがあるんだ…」

 

「なによ、オセロットに口をきいてくれって言っても無駄よ。今回は、というか今回もあんたが一方的に悪いんだからね」

 

「そんなんじゃないよ……あたしだって今回の件はやりすぎたと思ってるから。ほかのお願いだよ」

 

「まったく……なによ、聞くだけ聞いてあげるわ」

 

「えっとね…ちょっとお金貸して~」

 

 次の瞬間、WA2000の平手打ちがスコーピオンの頬を張り倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「———————ったく、わーちゃんったら少しの冗談も通じないんだから。あぁやだね、お堅い戦術人形ってのは」

 

「無駄口叩かない、黙って手を動かす」

 

「はいはい」

 

「【はい】は一回」

 

「…ちっ…うるさいなぁ…」

 

「なにか言った?」

 

「わかったよもう! おとなしく作業するから!」

 

 口やかましいWA2000の監視のもと、スコーピオンに任じられたのはMSFで使用される機械や備品等の修理だ。

 壊れたらすぐ買いなおすなどという贅沢は正規軍と違いMSFでは行われていない、使用する銃器や備品等はできる限り修理し使い続けるのだ。

 しかし修理には優先順位があるため、特に重要でないものの場合は後回しにされて積み上げられている場合がある…そこで、WA2000は他の隊員たちに話を通しスコーピオンに修理させる代わりに少しの小遣いを上げることを約束させていた。

 ただでお金は上げないが、こうして小さな仕事を作ってあげてお金稼ぎの機会を作ってあげたのだ、なんだかんだ彼女も面倒見がよい。

 

 作業開始時こそぶーぶー文句を垂れ流していたスコーピオンだが、最終的には文句を言うのを辞めて黙々と作業をこなす。

 

 今は古いAK-74を解体しパーツを一つ一つ整備しているのだが、普段のガサツな様子とは裏腹に一つ一つの作業は実に丁寧だ。

 摩耗した部品を取り換え、注油し磨き砂利などの汚れを取り除く。

 表情こそつまらなそうにしているが、黙っていればちゃんと仕事をこなすスコーピオンの姿にはWA2000も感心するのである。

 

 

 そのうち、隣で見ているだけでは気が済まなくなったのか、WA2000もたまった修理品に手を出してスコーピオンと共に修理作業を行う。

 一度、二人の目があったが特に何も言うことはなく作業を黙々と続けられた…結局、二人がかりで作業したとはいえ、すべてを片付けるころには夕方になってしまっていた。

 

 

 

「っはぁ~、終わったぁ」

 

「お疲れ様」

 

 

 修理した武器、備品は持ち主のもとに送り届けられ感謝の言葉と共に少しの小遣いが手渡された。

 もらった小遣いも一人一人は少額だが、たくさんの修理を行ったためそれなりのお金にはなった。

 

 

「わーちゃん、ほんとに全部あたしがもらっていいの? わーちゃんにも手伝ってもらったんだしさ…」

 

「ええ。別にお金が欲しくて手を出したわけじゃないし、あんたが泣きそうな顔してたから手伝ってやっただけよ」

 

「えへへへ、ありがとうね」

 

 相変わらずの態度であったが、彼女の優しさにスコーピオンは笑顔を浮かべて見せた。

 素直な感謝は可愛げがあったが、妙な気恥しさを感じたWA2000……うっすら頬に赤みがさしているのは、夕焼けのせいだけではないだろう。

 

 

「さーて、仕事も片付いたしお金も手に入ったことだし…パーッと飲みでも行こうかわーちゃん!」

 

「はぁ? せっかく稼いだお金でしょう? すぐに使うつもりなの? あんたしばらくお金ないんだから…」

 

「まあ、いいじゃんそういうの? 明日のことは、明日のあたしがなんとかしてくれるさ!」

 

「まったく、あきれたわ」

 

 相変わらず、先のことなどあまり考えていないスコーピオンに、WA2000はあきれてしまう…しかし、あきれながらも微笑む表情は、どこか穏やかだ。

 もうずいぶんと長い付き合いだ…スコーピオンと共にいて、退屈など感じたことなど今までになかっただろう。

 

 そんな時、スコーピオンは遠くを歩く人物を見かけ足を止めた。

 隣を歩いていたWA2000はスコーピオンの視線をたどると、少し微笑むと…。

 

「ああ、ごめんねスコーピオン。わたしこれからちょっと用事あったの思い出して…悪いけど今日は付き合えないわ」

 

「ほえ? そうなの…じゃあ、また今度だね」

 

「ええ、その時は一緒にね。じゃあ、また」

 

 WA2000は手のひらをひらひらと降ると、踵を返しその場を立ち去っていく。

 スコーピオンは彼女の後ろ姿を見送り手を振る…それから指に髪の毛を巻き付けて一瞬、何かを思考する素振りを見せたかと思えば次の瞬間には彼女もまた振り返り走り出す。

 遠くに見えていた人物の顔がはっきり見えるころには、スコーピオンは弾けんばかりの笑顔となり、接近に気付いたばかりの彼目掛け勢いよく抱き着いていった。

 

 

 

 

「めっちゃ久しぶりじゃんスネーク! 会いたかったぞこのやろー!」

 

「……スコーピオン……久しぶり会うたびに突っ込んでくるなって言っているだろう。いい加減骨が折れそうだ」

 

「もうスネークったら、こんな小柄なお嫁さん抱きとめられないほどひ弱じゃないでしょ~?」

 

 弾丸のような突撃を受けてとても痛そうにしていたが、そう言われてしまっては強がるしかないだろう。

 スネークは痛みを我慢して笑って見せるが、どこか表情が引きつっていて思わずスコーピオンも笑ってしまった。

 

 

「ねえねえスネーク、ちょっと酔っぱらいたい気分なんだけど一緒にどう?」

 

「酔っぱらいたいだって? ああ、それはそうと聞いたぞ…スコーピオンお前———————」

 

「スネーク! もうさんざん叱られたんだからやめてってば…スネークはあたしを慰めてくれないとやだよ。わかってくれるでしょう?」

 

 もう叱られるのはこりごりだ、そう頬を膨らませて訴えかけるスコーピオン…ついつい許してしまうのが、オセロットに甘やかしすぎるなと釘を刺される理由でもある。

 とはいえ、オセロットがしかるべき指導をしたというのなら、確かにスコーピオンの言う通りスネークがとるべきことはフォローだろう。

 

「オレも少し酔いたくなってきた…」

 

「でしょう? そうだスネーク、なんか面白そうな映画見つけたから一緒に見ながらお酒飲もうよ!」

 

「ああ。で、なんて映画だ…?」

 

「【ハエ男の恐怖】と【大アマゾンの半魚人】だよ、知ってる?」

 

「………知らないが…知ってる…」

 

「知らないのに知ってるの? へんなの…ま、いいか。じゃあ今日のスネークの時間はあたしのものだからね」

 

 

 スネークの右腕をしっかりと抱きしめてスコーピオンは微笑み、そのまま彼を急かすように引っ張っていくのだった。

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