METAL GEAR DOLLS   作:いぬもどき

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五感の全てで貴方を感じ取る

 山間部にぽつりと存在する小さな村がある。

 年季の入った古ぼけた木造住宅と牛舎が一棟、大きめの農場と畑があるだけの特に目立つ物もない小さな村であった。

 貧しい農家の住んでいたそこは内戦が始まって以来、戦火を逃れるべく住人が避難しもぬけの殻であったが、ある日そこを見つけた連邦寄りの民兵集団が拠点として住みついていた。

 非正規部隊である彼ら民兵の戦闘力など所詮一般人に毛が生えた程度のもの、中には退役した軍人が混ざっていることもあるだろうが、その村にいた民兵は一般人が銃を手にしただけでロクな訓練も受けていない素人ばかりであった。

 持っている銃も、連邦軍が使うような最新式のものではなく、民間に払い下げられた旧式の銃や猟銃などである。

 自衛のためとは言え、へたに武装をして連邦の旗を掲げていた彼ら民兵はエグゼ率いるMSFの部隊に目をつけられてしまい、ろくな反撃もできず瞬く間に壊滅させられる。

 

 大した装備も持たない民兵に、エグゼ率いる精鋭ヘイブン・トルーパー隊と無人兵器の月光を止めることはできなかった。

 統率の取れたエグゼの部隊によって倒されていく様は、まるで一方的な殺戮であった。

 それ以前に、前衛に立つ月光の恐ろしい姿に恐怖し逃げまどい、反撃できた者自体が少ない有様である。

 

 

 力の差に屈服し、民兵たちは銃を捨てて投降する。

 しかしそれが、彼らにとっての惨劇の始まりであった…。

 

 

「お願いだ、助けてくれ…! 家族がいるんだ!」

 

「今更泣きごと言ってんじゃねえよ、覚悟もねえのに銃を握ったてめえらが悪いんだよ」

 

 命を乞う民兵を蹴倒し、彼ら自身の手によって掘らせた穴へと叩き落していく。

 そこへ農場から集めてきた乾燥した藁を放り込み、その上にガソリンをまき散らしていく…深く掘られた穴から這いだそうとよじ登る民兵を、エグゼ配下の兵士たちは蹴落とす。

 恐怖に怯え、泣きわめく彼らを見下ろし残酷に笑いながら、火のついた松明をちらつかせてさらに恐怖をあおる。

 

「オレが欲しいのは情報だ、てめえらの命なんざどうだっていいのさ。おい、助かりたければここらの仲間の位置を教えろ」

 

 唯一、民兵を率いていた隊長のみを穴に落とさず尋問する。 

 民兵の隊長は既に激しい拷問を受けているようで、身体中があざだらけであり、両足の腱をズタズタに斬り裂かれていた。

 

「お願いだ…助けてくれ…」

 

 救いを求める男を手の甲で殴りつけ、胸倉を掴み引き立たせる。

 

「情けない男だ、もう一度言うぞマヌケ。お前らのお仲間の居場所を言えってんだ」

 

「知らない、本当に知らない!」

 

「ふーん、ほんとに?」

 

「ほ、本当だ…! オレたちは自分の身を守るため銃を取っただけだ! 戦争を望んでるわけじゃない!」

 

「あ、そう」

 

 冷めた目で彼を突き放す。

 脚の腱を切り刻まれた男はその場に踏みとどまることができずにそのまま崩れ落ちる…這いずる彼の足を掴んで引きずり、穴の中へと放り込む。

 

「お前らの戦う理由なんてこれっぽッちも興味はないが、これだけを身に刻んで死にな。銃を手にしたその時から、どんな殺され方をしても文句は言えないんだぜ?」

 

 穴の周囲を取り囲まれ、無数の銃口がつきつけられる中で民兵は震えあがり縮こまることしかできないでいる。

 怯える彼らを笑みを浮かべながら見るエグゼの様子はまるで加虐心を満たしているかのようだ…かつて鉄血にいた頃の処刑人の姿がそこにあった。

 ふと、エグゼの表情から笑みが消えたかと思うと、義手の腕を掴み苛立たしげに声を荒げる。

 

「ちくしょう…また痛みが…! 消えろ、消えやがれ……クッ、M4め!」

 

 疼きだした幻肢痛が彼女に怨敵の姿を思い起こさせる。

 何度も何度も痛む腕を、いや、痛覚の繋がっていない義手を地面に打ちつける。

 だが脳裏に彼女にとって忌まわしいM4の顔が鮮明に浮かぶごとに、そして亡くした友の最後の姿を思いだす度に幻肢痛はますます酷くなっていく。

 その痛みは失くしたはずの指先からどんどん体全体に広がっていく、そんな錯覚にエグゼの怒りと憎しみが際限なく増長していくのだ…。

 

「やっぱお前を殺すしか治療法は無いよな、M4……」

 

「処刑人、大丈夫ですか?」

 

 心配し、駆け寄ったヘイブン・トルーパーが肩を貸そうとするが、手を振りはらい突き放す。

 上官のただならぬ様子に部下たちは萎縮し、それ以上の手助けを出せないでいる。

 やがてエグゼは額に手を当てながら何度も深い呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着ける。

 相変わらず解決のしようもない激痛が、彼女の精神を蝕み続けているようだが…。

 

「スコーピオンとの、約束だからな……おい、こいつらの処刑は止めだ。パルチザンの基地に連行しろ」

 

「了解です、処刑人」

 

「ちくしょう、どこまで自制がきくか分からねえな。帰還するぞ」

 

 

 

 いまだに疼く腕をかばいつつ、しゃがみ姿勢を低くした月光の頭部へと駆け上がる。

 恐怖に支配された民兵たちはもう反抗の意思はなく、武装解除をさせられたうえでヘイブン・トルーパーたちに連行されていく。

 連行されていく民兵たちは、エグゼと目を合わせることを恐れ、視線を地面に落とし早足で彼女の傍を通り過ぎていく。

 そんな彼らの様子がエグゼを苛立たせるが、スコーピオン(友人)との約束を守るために沸き立つ破壊と殺戮の衝動を理性で抑え込む。

 果てしない痛みに呻く主人を気遣うように月光は立ち上がり、主人の足となって進みだしていった…。

 

 

 

 

 

 

 キャンプに到着した時、エグゼはスネークの姿を見るなり猛スピードで駆け寄り、まるでアメフトのタックルでもするかのようにその胸に飛び込んでいった。

 予期せぬエグゼの行動にさしものスネークも勢いを止められず、ゆうに数メートルは吹き飛ばされた。

 弾丸のように突っ込んできたために、軽く脳震盪を起こし少しの目まいをスネークは感じていた。

 

「んー…スネーク、スネークのにおいだ…」

 

「おいエグゼ! いきなり突っ込んでくるんじゃない」

 

 スネークを押し倒して背中に回した手でがっしりと掴み、その胸に顔をうずめる。

 押しのけようにも密着し、なおかつ力強く抱き付いているために引き剥がせない。

 

「こら、エグゼ! スネークから離れろ、このこの!」

 

 人の目もはばからず堂々と甘えているエグゼを、その場にいたスコーピオンがげしげしと踏みつけるがそれでも離れない。

 そのうちスネークの危機に9A91も増援として駆けつけ、どうにか引き剥がそうとするがそれでも離れようとしない。

 

「もういい、気が済むまで付き合ってやるさ」

 

「うー…スネーク、後であたしも抱きしめてよね」

 

「し、司令官わたしのことも…!」

 

 せがむ二人をなんとかなだめながら、エグゼに目を向けて見ると、彼女はスネークの服に顔をうずめながら上目遣いでじっと見つめている。

 口元が戦闘服で隠れ分からないが、視線が合ったエグゼは笑顔を浮かべるように目を細めて見せた。

 

「うーん、落ち着く…痛みが引いていく…」

 

 スネークの姿を視界いっぱいにおさめ、抱き付きにおいを嗅ぎ鼓動を感じ取る。

 そっと腕をとると優しく甘噛みし、鋭利な歯で小さくスネークの肌を傷つけ、滲み出た血を舐めとる。

 視覚、触覚、嗅覚、触覚、味覚…エグゼは五感の全てを敬愛するスネークで満たしていく。

 そうして心の中もスネークで満たしていくと、憎しみの炎がだんだんと小さくなっていき、幻肢痛もそれと同時におさまっていく。

 

「エグゼ、血を舐めるのは止さないか…その、嫌な思い出がよみがえる」

 

 歯で肌を傷つけ、血を舐めとるその仕草はスネークがその名を聞いただけでも悪夢にうなされるある伝説上の怪物を彷彿とさせる。

 ここ最近はそのトラウマに悩まされることは無かったが、早くも悪夢を見てしまうような予感を感じてしまっていた。

 そんなスネークの事情などお構いなしに、ぺろぺろと血を舐めとると、恍惚とした表情でスネークの胸を指でなぞっていく。

 上体を起こし、スネークの上に跨りつつ、最後に華奢なその指にスネークの血を絡め自身の口へと運ぶ。

 

「よし、スネーク成分補充完了。続きは宿舎の方で―――」

「させるかオラァッ!」

 

 スネークを宿舎に連れ込もうと手を伸ばした瞬間、いきり立ったスコーピオンがすかさず跳び蹴りを放つ。

 顔面を蹴られ吹きとばされたエグゼだが直ぐにたちあがると、別な遊び相手を見つけ笑顔で襲い掛かる…ここ最近のスコーピオンは打たれ強い、ハイエンドモデルのエグゼの鋭い上段蹴りをまともに受けてもすぐに起き上がる。

 はたから見たら本気のケンカをしているようにも見えるが、二人とも心底楽しそうに拳を交える。

 

 

「ボス、早く止めた方が良いんじゃないですか? どっちか倒れるまでやりますよこりゃ」

 

「やらせておけ、全くエグゼには困ったもんだ」

 

 二人のケンカに呆れつつも、今やお互いに良き理解者となっている二人のケンカは、キッドにとっては微笑ましい光景に見えているようだ。

 反対にこのような場面を初めてみるパルチザンの戦術人形スオミはオロオロとしている。

 

「それで、ボス。そのエグゼのことなんですがね…」

 

 一転し、神妙な面持ちのキッドにスネークは葉巻に火をつけようとしていた手を止める。

 一度ケンカをする二人を流し見てから彼は重い口調で語る。

 

「前線の兵士からエグゼについて相談を受けましてね。どうも、戦闘で残忍な行為をしているらしいんです。今日も連行してきたクロアチア人の民兵たち、酷い拷問を受けたような兵士もいました」

 

「そうか、ヘイブン・トルーパーたちは何か言っていないのか?」

 

「なにも。ボスならともかく、オレから言っても連中は口を開きませんからね。エグゼは大切な仲間ですが、残虐行為は見過ごせません…たぶんここの戦場の空気が、彼女の精神を刺激してるのかもしれません。ボス、このままではバルカン半島での我々の立場が悪くなってしまいますよ?」

 

「分かっている、依頼人(クライアント)であるパルチザンの名前も貶めることにもなるからな。しばらくエグゼの傍にいるようにしよう」

 

「助かります。でもエグゼにばかり気をかけて、他の人形たちの機嫌を損ねないでくださいよ? 全く羨ましいですな」

 

「からかうもんじゃないぞキッド、もうオレも若くはないんだ」

 

 隙あらば宿舎に忍び込もうとするストーカー気質の人形たちばかりで、ここ最近はまともにベッドの上でゆっくり休んでいない。

 毎日寝場所を変えなければ夜な夜な忍び込んでくるのだ。

 以前はオセロットが目を光らせていたおかげで人形たちも大胆な行動はしていなかったが、任務でいないためにだんだんと行為がエスカレートしている、

 

「ミラー司令が聞いたら怒って暴れそうな悩みですね」

 

「この前酔っぱらってスプリングフィールドを口説こうとしてゴミ箱に捨てられていたからな、まあそのうちアイツに魅了される人形も出てくるだろう」

 

「ハハハ、そうなるといいですがね」

 

 

 キッドはそこで部隊の補給等もあることでその場を去っていく。

 二人のケンカは一応決着がついたようだ、どうやらスコーピオンがいいパンチをくらってのびてしまったらしい。

 いくらタフになったとはいえ、エグゼに勝つにはまだまだ修行が必要なようだ。

 水を浴びせられ強引に覚醒され、どこかに連行される…食事場の方へ向かっていった辺り、腹ごしらえでもするのだろう。

 

 

「愉快な仲間たちだな、スネーク」

 

 葉巻を嗜んでいると、パルチザンのリーダーであるイリーナがニヤニヤと笑みを浮かべやって来た。

 どうやら先ほどのエグゼの行為もしっかり見ていたらしい、気まずさを紛らわそうと無心で葉巻をふかす…。

 

「やかましい仲間だが、元気はあるぞ」

 

「そのようだな。うちのスオミも、声が出なくなるまではわたしに毎度説教してきてうるさかったんだぞ?」

 

「ハハ、優しそうに見えるがずいぶんしっかりとしているんだな。ところで、うちのエグゼが捕虜に酷い行為をしてしまったことは謝る」

 

「ん? いや、別にそれは構わん。あいつらはウスタシャに駆り出された民兵だ、どうせろくでもない連中だ。死んでも誰も困らんさ」

 

 

 意外なことに、イリーナは敵へかける容赦というものが存在しない。

 彼女はウスタシャのような民族主義者を何よりも憎み、それに加担する者は例え投降してきた者であろうと躊躇いなく処断する。

 国家の再建を目指す彼女にとって、民族主義というのは害悪そのものであり、抹消するべき課題なのだ。

 

「失望したかスネーク? だが手を汚さずに革命は成し遂げられん、この戦争にかたをつけるには半端な偽善など無意味なのだよ。革命には犠牲がつきものだ、チトーがかつてそうした様にわたしも非情にならねばならん」

 

「これはあんたらの戦争だ、傭兵のオレがアンタらの主義主張に口を挟むつもりはない。だがイリーナ、お前のその覚悟をスオミは知っているのか?」

 

「いや、おそらくは知らんだろう。あの子は、たぶんわたしを革命の理想に燃える清廉潔白な闘士だと思っているだろうな。隠し通すのには無理があるだろうが、できればあの子だけは変わらずにいてもらいたい。だがスネーク、遅かれ早かれいつかはスオミも現実を見なければならない時が来る。清廉なままでは革命は成し遂げられん」

 

「あんたの決意の固さはよく分かった。だがあの子の事を思う気持ちが本当なら、無益な殺戮は止めるんだ。あんたの過去に何があったのかは知らないが、人を殺す度に心は鬼に近付いていく。軍人として生き続けるつもりがないなら、その業を積み重ねていく必要はないはずだ」

 

「無論、わたしもいつかは銃を捨てるだろう。勝利か死か、その両方でしか機会はない。忠告は胸にとどめておこうスネーク」

 

 その言葉がどこまで本気かは分からないが、スオミを想う気持ちは本物だろう。

 

 

「ところでスネーク、アンタに少し知らせておきたい情報がある」

 

 そう言うと、彼女は古ぼけた新聞紙をスネークに差し出した。

 記事は数年前のものであり、最新のニュースが記されているわけではないが、イリーナが見てもらいたいのは新聞に載せられている写真であった。

 モノクロの写真は連邦軍の基地を写したもののようだが、その中にいる一人の兵士にスネークは注目する。

 

「連邦軍が特殊部隊を動かしたという情報を入手した。この兵士の名はフェリックス、第三次世界大戦を戦い抜いた歴戦の兵士であり、最も敵に回してはいけない存在だ」

 

「こいつは人間か? どう見ても普通の人間には見えないが…」

 

 新聞の写真に写るその兵士は、一緒に並び写る兵士と比較して明らかに大柄な体躯をしている。

 その身体を鋼鉄のアーマーで隙間なく覆い、まるで装甲人形のようないでたちだ。

 

「E.L.I.Dって知っているか?」

 

「確か、この世界を覆っている感染症か何かだったな」

 

「そう、それを患えば異形の存在になり替わる。このフェリックスという男はな、ソレに感染し異形化した人間なんだよ。感染して間もなく、研究所に運ばれ、あらゆる研究と手術を施された。彼は最新の電子頭脳を埋め込まれ、身体のパーツを機械にすり替えられ、特殊なアーマーを装着して生まれ変わったんだ。崩壊する理性を電子頭脳と特殊なアーマーで制御し、連邦軍最強の兵士としてその力を振るっている」

 

「ずいぶんと詳しいんだな、君らも独自の諜報網を?」

 

「少しな。スネーク、彼はMSFを壊滅させるために檻から解き放たれた。いずれあんたの前に姿を現すことだろう…頼みがある、彼を殺してくれないか?」

 

「オレたちを狙ってやってくるのならいずれ決着はつけなければならないだろう。だが何故わざわざそんなことを頼むんだ?」

 

「フェリックス、彼はスオミの以前の主人…つまりわたしの兄だ。こんな事を頼むのはおかしいかもしれんが、兄を苦しみから解放してやって欲しいんだ」

 

「さっきも言ったように、向こうから戦いを挑んでくるのなら兵士としてオレは逃げるわけにはいかない。だが苦しみから解放するというのは約束はできない。さらに苦痛を与える結果になるかもしれない」

 

「構わないよスネーク。彼はもうわたしとスオミの知る兄ではない、感染体を電子制御で操られた亡骸でしかない。ただ、彼を眠らせてくれるだけでいい」

 

「わかった、その時が来ればそうしよう」

 

「ありがとう、スネーク」




ちょっとバルカン半島で症状が重くなっているエグゼさん…スネーク成分補充です。

連邦軍側に超人枠がいなかったので、オリキャラぶち込んでおきます。
超人合戦始まるね…。
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