MSF、そしてPMC4社の精鋭を集めた部隊がサラエボ近郊の丘陵地帯に集結し、攻略目標である連邦軍の広域破壊兵器"ウラヌス"破壊に向けて動き出す。
相手は少数とはいえ第三次世界大戦を戦い抜き、今なお連邦を世界の脅威から隔絶させている百戦錬磨の軍隊だ。
生半可な戦力では太刀打ちできないだろう。
集められた戦力には、各PMCの精鋭の他、手に入れた鉄血の工場から生み出し続けられたヘイブン・トルーパーの大隊に対戦車兵装及び対空兵装を装備した月光が数十機。
MSFがこの世界に来て大規模な戦力を派遣したことと言えば、エグゼと前哨基地で対峙した時を除いて今回が初めてだ。
メタルギアZEKEは今回の作戦参加を見送っているが、調整は既に済ませ、いつでも出撃可能な状態で待機はさせてある…もっと詳しく説明をするならば、メタルギアZEKEは既に連邦領内に運び込まれ出撃の機会を待っている状態にあると言えよう。
例え一国の軍隊であろうと張り合える戦力を集結させているが、それでもなおオセロットは警鐘を鳴らす。
諜報活動を通し、情報を手に入れれば手に入れるほど彼は連邦が持つ軍事力のすさまじさを思い知らされていたのだ。
『――――スネーク、連邦軍の広域破壊兵器ウラヌスを配備している野戦基地周辺は電波妨害がされているから、今のうちに伝えたいことを言っておこうと思う』
戦闘車両に取り付けられた通信機材より、マザーベースのミラーからの声が届く。
マザーベースまでの距離と、ヘリほどの高性能な通信機材を積んでいないために、通信越しのミラーの声は若干聞き取りにくい。
「連邦軍の対空網を警戒して車で進むのはいいが、こうも車両の列をつくって進むのはなんだか慣れないもんだな」
『ハハハ、今作戦は隠密任務ではないからな、激しい戦闘が予想される。スネーク、ウラヌスのことでオセロットから聞いてはいると思うが…』
「ああ聞いた。15ktもの核出力を持つガンバレル型核分裂弾頭、戦術核兵器ウラヌス…反政府勢力の支配下とはいえ、自国領に核の照準を定めるとはな」
『脅し、だと信じたいところだが…忘れないでくれスネーク、この世界はもう核戦争を経験している。必要があればもう一度核を撃つことも辞さないだろう。俺たちと連邦軍では、物の捉え方が違い過ぎる』
戦術核兵器であるウラヌスは核弾頭を砲身を使って撃ちだすもので、核ミサイルほどの長い射程は持たないが分解する事で容易に発射位置を変えることができるという強みがある。
移動式ということでスネークたちがかつて破壊したピースウォーカーとメタルギアZEKEを連想させるが、あちらはAIによる自動報復システムによるものがあり戦略兵器の一面が強い。
対してウラヌスは、戦場単位で使うことを想定されており、米国が造りだした戦術核兵器"デイビー・クロケット"に近い存在だ。
もっとも、ウラヌスが搭載する核弾頭はデイビー・クロケットの核出力の比ではなく、あのヒロシマ型原爆と同じ15ktだ。
「カズ、おそらくこれは脅しじゃない。連邦軍は核を撃つつもりだろう。なんとしても止めなければならない」
『やはり…連邦軍の全てとは言えないが、狂っているな」
「これでまだ連邦軍の秘密兵器の一つだというんだから、奴らの底が知れない」
『まだ連邦軍には切り札があるのか?』
「オセロットが言うにはな。それが何なのか今も調査中だが、情報によればその兵器を今は連邦軍が使えないらしい」
『どういうことだ?』
「詳しいことは分からん。それも含めてオセロットが調べているところだ」
戦況を左右するような圧倒的破壊力を持つ兵器は現在、連邦軍は使うことができない…それがより大きな核兵器なのか、あるいはまた別なものなのかはオセロットもいまだ分かっていないという。
ただ厳重な情報統制とセキュリティによって秘匿されているらしい。
『何はともあれ、もうすぐ戦場だ。通信も繋がらなくなるだろう…ただ、人形たちが使うような通信回線は使えるようだ。部隊同士の連携はそれでとってくれ。スネーク、気をつけてくれよ』
「ああ、そっちもマザーベースの方を頼んだぞ」
通信を切り、辺りを見回す。
車両の列は森林の道を順調に進み、兵士を乗せたトラックでは荷台に搭載された対空砲が空の脅威を警戒している。
「車両を止めろ」
その言葉に運転手がスピードを落とし、後続の車両もならってスピードを落とし停車する。
車両が停止したのを見計らったかのように、両脇の森から黒色の強化服を纏った兵士たちが姿を現す、ヘイブン・トルーパーの偵察部隊だ。
「ビッグボス、この先に連邦側PMCの哨戒拠点があります。あ、失礼…たった今処刑人の部隊がそこを占拠した模様です」
「いいセンスだ。エグゼにそこで待機するよう伝えておいてくれ。お前たちは引き続きウラヌス周辺の偵察任務にあたれ」
「了解」
指示を受けたヘイブン・トルーパーたちは敬礼を返し、静かに森の中へと消えていった。
再び車両を発進させしばらく走らせると、偵察隊の情報通り連邦側のPMCが設けた哨戒拠点が見えた。
既にエグゼ率いる部隊によって占領されているようで、PMCの兵士とその部下である戦術人形が捕縛され基地の真ん中あたりで寝転がされている。
今回エグゼは一人で行動していたため、問題行動を起こしていないかスネークは心配だったが、捕虜の虐殺をしたりなどはしていないようだったが…。
「どうだ悔しいかバーカ。ほれほれ、やり返してみろ」
捕縛した戦術人形の一人を木の枝でつつきまわして苛めているようだ……ため息を一つこぼし、スネークはエグゼに近寄り手に持った木の枝をひったくる。
悪いことをしていたという自覚はあったのか、スネークを見るやバツの悪そうな顔をして引き下がる。
「捕虜の虐待は見過ごせないな」
「虐待じゃねえよ。このチビがムカつくから教育ってもんでだな…」
「ボクはチビじゃない!」
「どう見たってチビだろお前、バーカ」
子どものように目の前の戦術人形ブローニングM1919をからかって見せるエグゼ。
問題行動といえば問題だが、以前のように捕虜を痛めつけたり傷つけたりしない分まだマシかと諦める。
「おい、ボクたちをどうするつもりだ!」
「置いてくわけにも連れてくわけにもいかないからな。少し空の旅を楽しんでくれ」
「ちょっ、なにするの!?待って止めて! うわああああぁぁぁ――――」
彼女の背中にフルトンを取り付け、凄まじい速さで上空の遥か彼方へと打ち上げる。
他のPMCの兵士も同じようにフルトン回収し、哨戒拠点の人材を残らず回収する…連邦政府の通達のせいでビジネスに支障をきたした今、こうして戦地で資源や人材を確保することは非情に重要である。
兵士たちが飛んでいった上空を見上げながらエグゼは腹を抱えて笑う。
何人かの兵士をエグゼもフルトン回収を行ったが、無様に飛んでいく姿が気に入ったらしくほとんどエグゼの手によるものだ。
「さあウラヌスのある基地まではもうすぐそこだ。キッドたちの部隊が攻撃を仕掛けている間にオレたちは迂回し側面をつく、いいな?」
「オッケー、スネーク。ヘヘ、どうやら向こうもドンパチ始まったらしいぜ」
別動隊の通信を受け取ったらしい、
笑みを獰猛なものへと変え、銃声と砲撃音の鳴り響く彼方の戦場を鋭い目で見つめる。
同時進行でパルチザンの部隊もまた、ボスニアの首都サラエボ解放のため戦っている。
彼らの援護のため、ウラヌスを破壊し連邦軍の足止めをしなければならない…MSFに任される責務はとても大きいが、優秀な部下たちをスネークは信じている。
部隊が動き始めた時、待機していた月光たちもまた自らを鼓舞するかのように、牛の鳴き声に似た動作音を鳴り響かせ車両の列を挟み走りだす。
さあ戦いの時だ…。
降り注ぐ砲撃の嵐が、木々を吹き飛ばし土を吹き飛ばし、緑の草原はあっという間にこげ茶色の荒野へと変貌する。
数十キロ離れた位置からも容易に確認できるほどの巨大兵器ウラヌス、それが配備されている基地の前面には地雷原が敷設、塹壕が掘られ雇われたPMCの兵士と戦術人形が迎撃の構えを見せていた。
それに対しMSFの砲撃部隊が猛烈な砲撃を与え、地雷原を塹壕ごと吹き飛ばしていく。
連邦側も負けじと砲撃をし始め、MSF側にも被害が出始める…それでも練度で優るMSFが優勢であり、連邦側の火砲は確実に潰されていった。
「行くぞお前ら、戦車と月光の後をついて行け!」
キッドの声に呼応し、塹壕から兵士たちは這い出て戦車の装甲と月光に隠れ前に進む。
月光が地雷原と有刺鉄線を高い跳躍力で易々と飛び越え、塹壕に身を潜める兵士たちを駆逐する。
その後を戦車隊が進み、有刺鉄線を薙ぎ倒し歩兵部隊の道を広げる。
「よっしゃー! 突っ込めーッ!」
愛銃とスコップを手に、スコーピオンは突撃する。
塹壕の中へと飛び込み、小柄な体躯を活かし狭い塹壕を縦横無尽に駆けまわり敵を撃ち、時には手にしたスコップでおもいきり殴り倒し塹壕を制圧していく。
「スコーピオン! わたしが相手よ!」
塹壕の中で鉢合わせたのは、相手側の戦術人形
しかし彼女が塹壕から姿を現し銃を構えようとしたその時には、既にスコーピオンのスコップが脳天に振り下ろされていた。
カコーンと、小気味よい金属音が響きウージーは殴り倒され一撃でのびてしまう。
「今のあたしは最強だーーッ!」
ウージーも殴り倒し快進撃を続け調子に乗ったスコーピオン。
塹壕を乗り越えようとしたその時、敵兵に襟を掴まれ地面に引き倒される。
敵兵の銃口が照準を定めようとしたその時、その敵兵は胸を撃ち抜かれ崩れ落ちる。
『サソリ、周囲を見なさい。わたしがいなかったら危なかったわね』
「ありがとワルサー、ちょっと突撃しすぎたかな?」
見ればスコーピオンは一人だけ突出してしまっているようだ。
月光も激しい弾幕に姿勢をかがめそれ以上の進撃を阻まれている…何より敵の攻撃が激しくなってきた、それが意味することは…。
『来たわスコーピオン、連邦正規軍よ! 一度退きなさい!』
ウラヌスが設置された基地よりヘリが飛び立ち、地上からは戦闘車両が出撃するのが見える。
連邦の旗を掲げた正規軍はPMCと合流するなり、それまでとは比べ物にならない動きでMSFの部隊を迎撃する…。
ヘリからのミサイル攻撃により月光の一機が爆散した。
対空兵装の月光が対空ミサイルをヘリに向けて撃ちこみ、被弾したヘリが制御を失い墜落する。
もう一機のヘリも、対空ミサイルを撃ちこむことができた。
大丈夫だ、やれる…そう思ったスコーピオンであったが、制御を失いかけるヘリのドアから見えた異形の兵士の姿を見た時、言いようのない威圧感に戦慄する。
墜落しかけるヘリのドアから身を乗り出し、異形の兵士は躊躇することなく外へと飛び降りる。
ヘイブン・トルーパーですら躊躇するほどの高度、そこから落下してきた兵士は着地と同時に地面を揺らす。
重厚な装甲で身体を隙間なく覆い、人間離れした巨体…無機的で冷酷な赤い眼がスコーピオンを見下ろした。
「お前は…!」
「ずいぶん好き放題やってくれたな。貴様らは自らの相応を弁えぬ行いをしてきたようだが、ついにこのフェリックスの前に立ってしまったな。醜い人形め、死ぬがいい」
彼の拳が振り上げられたとき、まるでスコーピオンの身体は金縛りにあったかのように身動きが取れなかった。
WA2000の声が聞こえた時、金縛りは解け咄嗟にスコーピオンは横に転がった…すぐに立ち上がってみれば、先ほどまで立っていた場所はフェリックスの拳を受けて深々と抉られている。
もしも身体を動かすことができないかあと少し反応が遅れていたら、肉塊にされていた…そう思ったスコーピオンは戦慄する。
「あんたが、アンタがスネークの言っていた強化兵か!」
銃を構え、引き金を引いてありったけの弾をぶつける。
だが彼の身体を包む装甲はスコーピオンの弾をはじき返しまるで効果がない、ならばと焼夷手榴弾を投げつけたが、炎に包まれながらもその身体には一切の傷がついていない。
「スコーピオン!」
そこへキッドが駆けつけ、フェリックスへ向けてRPG-7を撃ちこむ。
戦車の装甲も貫くRPG-7だ、当たればひとたまりもないはず……だが、彼はなんと放たれたRPG-7の弾頭を掴んで受け止めたではないか。
そのまま推進方向を逸らし手を離すと、弾頭は味方の月光へ向けて跳んでいき装甲と生体パーツを繋ぐ関節部に直撃し、月光は大破した。
「化物…! アンタなんなんだよッ!」
人間などではない…E.L.I.Dに感染し異形化した肉体を強固なアーマーで包み込み、機械と電子頭脳で制御された人ならざる者。
冷や汗を流しながら言ったスコーピオンの言葉を、彼は嘲笑する。
「わたしは神の右腕、神に代わり復讐を果たす者なり。さあ、虚しく死んでいけ人形め」
T800ターミネーターの骨格を持ったタイラントにパワードスーツを被せた奴…想像力ないんですけどこんな感じです。